書籍紹介 荻野晃也著「身の回りの電磁波被曝−その危険性と対策」

2020年04月

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紹介者 山田耕作



荻野晃也著 「身の回りの電磁波被曝−その危険性と対策」

緑風出版
2019年4月

http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-1907-2n.html



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書籍紹介 荻野晃也著「身の回りの電磁波被曝−その危険性と対策」(pdf,3ページ,230KB)

 一貫して住民とともに歩む科学者
 著者の荻野晃也氏は1963年に京都大学理学研究科修士課程を修了し、京大工学部原子核工学教室教員を定年まで務めた。1973年から開始された伊方原発の認可取り消し住民訴訟の住民側の特別弁護補佐人として、1976年からは「地震の危険性」に関する住民側証人としても奮闘した。原子核物理学の実験が専門であったがほとんど独学で、当時進展中の活断層説に基づく地震学を駆使して原子力推進側の専門家・地震学者の古い地震学を論破した。例えば伊方原発近くに存在する世界最大の活断層である「中央構造線」の危険性を指摘して「地震大国の日本に原発は建設すべきではない」と主張した。残念ながら1992年に原発の危険性を主張する伊方住民の訴えが最高裁で敗訴確定した。その判決の誤りの結果は2011年の福島原発事故として大被害をもたらしたのである。
 伊方判決後、荻野氏は電磁波問題を中心に放射線被曝の危険性を研究し、住民たちの電磁波に対する反被曝の闘争を支持し、理論面での中心として活動してきた。今日の日本では電磁波問題に関する貴重な科学者である。

 電磁波の多様な被曝被害とその科学の進展
 本書の副題に「その危険性と対策」とあるように34章にわたって身の回りの被曝の個々の現場を著者の体験を交えて紹介し、電磁波の科学に基づいてその対策を提案している。この本が多様な被害にわたって議論しているのはそれだけ電磁波が多様な被害を人類に及ぼしているからである。広範な被害に対する最新の科学的な理解が紹介される。p42に次のように書かれている。「いずれにしろ、電磁波の悪影響は遺伝子やタンパク質やホルモンなどが僅かに影響を受け、それが回りまわって色々な影響となって現われるのではないでしょうか。その背景には複雑な過程が存在しているわけですが、放射線被曝でも注目されている『イオン・チャンネル』や『フリーラジカル』『活性酸素』『酸化ストレス』などの効果が電磁波でも重要なキーワードであり、免疫に関係していることは間違いないとわたしは考えています」。電磁波でカルシウムチャンネルなどが損傷されると神経系・認知機能が損傷されるなどイオンチャンネルと電磁波問題も重要である。電磁波過敏症は化学物質過敏症を併発することも多く、患者が急増している。携帯電話、スマホ、携帯電話塔、変圧器、送電線、家電などによる被曝の危険性と対策を解説している。さらに電磁波過敏症やリニア中央新幹線の電磁波問題、軍事用レーダーの危険性まで幅広く議論された実用的な書である。とりわけ最新の電磁波被曝に関する世界の論文まで詳細に検討評価して簡潔に紹介している。荻野氏のたゆまぬ努力と科学者としての卓越した能力を示すものである。

 兜論文をめぐって
 本書を通じて荻野氏は日本における電磁波被曝研究の困難な実状を報告している。その一つの例が国立環境研究所の主任研究員であった兜真徳・博士を責任者とする「兜・研究」をめぐる問題である。(p94)「日本の『兜・報告』は2003年6月に発表されたのですが、わたしの知る限りでは、その内容をメディアとしては週刊誌『サンデー毎日』の2003年7月20日号のみが紹介したのではないでしょうか。表5にあるように、小児急性リンパ性白血病で4.71倍、小児脳腫瘍で10.6倍の増加率でした。『兜・報告』では、送電線から50m以内での小児白血病は『3.08倍に増加』との結果も得られていますが、学術論文になっていなくて、多分、残念なことですが学会発表だけだったはずです。表5にある2006年の兜論文は、小児白血病が2.6倍、小児急性リンパ性白血病(ALL)は4.7倍にもなっています」。「2010年には「兜報告」の小児脳腫瘍の増加論文(斉藤論文で10.9倍に変更されている)も英文誌で発表されています。なぜ日本のメディアはそのような日本の研究を無視するのでしょうか.表5でもわかりますが兜論文以降に発表された小児がんに関する疫学研究の多くが増加を示しています」。
 「この『兜報告』に関しては科学技術庁内の評価委員会が『最低の評価』を下して、その後の研究費の支給を停止し研究の継続を認めなかったのですが、三段階評価(A:良い、B:普通、C:良くない)でなんと全体の評価項目の12項目全てに『C評価』という、今までにも行われたことのないような『酷評』だったことに、わたしは怒りを感じたことでした。『欧米の研究結果と同じような結果だったのに、何故、こんな扱いを受けるのか』と兜博士が嘆いておられたことを小生は思い出します」。
 これは以下のように『疫学結果を採用しない』という国際的な動きの反映でもあったのである。荻野氏は、兜博士の死後に出された国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の『新ガイドライン』においても、電磁波被曝の危険性の評価に際して、「疫学研究を考慮せず」熱効果のみしか考慮していないことを強く批判している。当然の批判である。一方、真面目な科学者達の粘り強い研究によって、放射線被曝と電磁波被曝の相乗効果を観測した実験など研究が進展していることが詳しく紹介されており、大変参考になる。。
 このような点で重要な本ではあるが、さらにそれに加えて全体を通じて流れる基本的な考え方、荻野氏の一貫した科学思想がわたしにとっては非常に参考になった。

 ユッカ・マウンテン問題
 例えばP296に「特に、核兵器製造や原発などからでる「放射性物質」を人類から隔離して処分するということは,とても困難な問題でした。人類が今後どれだけの間、被曝し続けても良いのかという生存と関連する大問題であるからです。その典型例が米国の放射性物質の永久処分をめぐる「ユッカ・マウンテン問題」でした。・・・中略。最近になって2008年の米国の環境保護庁(EPA)の法律(40CFR197)で、「1万年後までは年間0.15mSv」で「それ以降は年間1mSv」の規制になっていることがわかりました。いわば1万年後までは自然放射線被曝量の約10分の1に相当する被曝量に規制しているのです。福島原発事故でも同じような「土壌汚染」などの処分が問題になっているのですが、この米国の法律のことはあまり知られていないのではないでしょうか。」と記されている。
 これは私達にとって大変参考になる重要な指摘であると思う。なぜなら、最近反被曝の運動の中で次の議論があったからである。
 昨年2019年ICRPのPublication 109およびPublication 111の改定案のドラフト「大規模核事故における人と環境の放射線防護」が提出され、長期汚染地域で年間10mSvの被曝を参考レベルとして容認することに強い批判があった。その対案として年間1mSv以下という共同パブコメ案の基準を巡って議論が展開された。1mSvという基準値にも子どもや妊婦の感受性の違いを考慮すると高すぎるという批判があった。その意味でユッカ・マウンテンの0.15mSv以下など1桁小さい値がより適切と考えられる。

 第32章 予防原則思想の重要性
 本書32,33章において荻野氏は予防原則の重要性を指摘している。p298に「21世紀のみならず今後1000年間を考えた時のキーワードとして最も重要なのが『予防原則Precaution』思想です。『科学的に不確実性が大きな場合のリスクに対応するため』の原則であり、『危険性が十分に証明されていなくても引き起こされる結果が取り返しがつかなくなるような場合に,予防的処置として対応する』考え方です。・・・中略『危険な可能性がある限り、安全性が確認されるまでは排除しよう』の流れが世界中で広がっています。その典型例が『地球温暖化問題』なのです」。p305「『温暖化理論が100%確立している』わけではありませんが、もし将来本当に直面すれば『地球上に住む人類に危機』が訪れることは明らかです。その時になって『温暖化否定論者』はどのように言い訳するつもりなのでしょうか。『危険性が確定するまでは安全だ』と言い続けるつもりなのでしょうか。その点が原発問題や電磁波問題とも良く似ているようにわたしには思われます。」
 まさに原発問題にも深く関わってきた荻野氏の貴重な言葉である。

 なお、荻野晃也氏は2019年11月に前田哲男、纐纈厚、横田一、櫻田憂子、森上雅昭の方達と「イージス・アショアの争点−隠された真相を探る−」を緑風出版から出版し、イージス・アショア導入問題を詳細に分析し、レーダーから出る電磁波による住民の被曝の危険性などを指摘してその設置を批判している。
http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-1920-1n.html