福島県立医大および東大による宮崎早野論文調査報告について 山田耕作

2019年8月



福島県立医大および東大による宮崎早野論文調査報告について

山田耕作
2019年8月2日


2019年8月15日 島明美氏、黒川眞一氏、石田祐三氏のコメント追加


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福島県立医大および東大による宮崎早野論文調査報告について(pdf,22ページ,2065KB)


1.はじめに

 科学者は科学性と人権に基づいて行動しなければならないという観点から、以前から宮崎・早野論文に対する問題点を指摘してきた。第一に論文の結論「ガラスバッジで測定された個人線量が航空機で測定された住居近くの空間線量に比例する。その比例係数が0.15である」という結論が統計的に証明されておらず、科学的根拠がない。さらに2論文中の多くのデータの数字の間に整合性がない。また、図中のある空間線量値に対して箱ひげがない箇所があり、その空間線量値に対応する大部分の個人線量がゼロであるという明らかなデータの間違いがある。また航空機により測定された空間線量とガラスバッジの測定値がともに信頼できないことなど、科学性を著しく損なった論文であることが明らかにされている。例えば、ガラスバッジは全方向から来る放射線を部分的にしか測定できないし、航空機は上空のため住宅街より広い除染されていない場所からの放射線をも加えて測定してしまう。研究倫理の上からも、調査対象者のデータを研究や論文で使用することの同意を得ておらず、宮崎・早野論文は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に違反する人権無視の論文であるとして批判されてきた。
 2019年1月8日には文科省の掲示において、早野龍五氏が同論文で被ばく線量を3分の1に過小評価していた間違いを報告し、謝罪をすると言うことがなされた。
 2019年7月19日、福島県立医大と東大から宮崎・早野論文に関する研究不正事件の調査報告が出された。ともに瑕疵や研究計画書違反はあったが、故意による重大な不正や倫理指針違反はなかったという報告である。意外な結果であるのでその報告の正当性を検討する。最初に福島県立医大報告を検討するが同報告の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に対する無理解に驚かされる。


2.福島県立医大報告の検討

6.調査結果
 (1) 医学系研究の倫理指針に対する違反について
ア データの提供に同意していない市民のデータを使用していることについて
 個人被ばく線量把握事業実施時に、伊達市において同意・不同意の確認をとっている状況、および当時の倫理指針を踏まえると、研究者が提供されたデータの同意状況を確認することまでを求めることはできない。

 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省平成26年12月22日決定)はその目的および基本方針で「⑤ 事前の十分な説明及び研究対象者の自由意思による同意」を上げている。同意を得ることは伊達市の問題ではなく、研究者の責任を伴う研究者の倫理の問題である。なぜならデータの必要性・使用目的を正しく説明できるのは研究者だけである。研究とその公表の結果に対する責任も研究者だけが負えることである。医学系研究の研究倫理指針を調査委員は無視ないしは誤解している。いかなる困難があろうと研究の対象者への事前の説明と同意は倫理指針にあるように研究に不可欠の前提である。事前の同意を得ない調査・研究は人権の侵害に当たるからである。

結果として、当該研究にデータの提供に同意していない市民のデータが含まれていることは非常に問題であると考えるが、これは伊達市による同意情報の管理が不十分であったことに起因するものであり、被告発者側に倫理指針に対する重大な違反や過失があったとは認定できない。

 倫理指針にあるように研究を実施する研究者が責任を持って研究の開始以前に研究対象者の同意を得るべきものである。論文を書くことは伊達市とは直接関係がない。論文に責任を持つことができるのは論文著者のみである。その研究者としての責任を自覚していないことが著者と監督機関福島県立医大に見られ、倫理指針に違反している。伊達市が市民の同意を得たというが研究者に代わって論文執筆の承認を得ることはできない。同意情報の管理が不十分であったとすれば研究の実行者である研究者の責任である。政府や軍の指示で人体実験をした過去の過ちを考えると、説明と同意は直接研究者が責任を持って行うべきことである。それにしても監督すべき福島県立医大の調査委員会が、大学の責任を伊達市の責任に転嫁している無責任な姿勢からは,同大学が医学系研究における倫理指針を理解しているとは考えられない。驚くべき事態である。倫理指針は言う。「研究者等、研究機関の長及び倫理審査委員会をはじめとする全ての関係者は高い倫理観を保持し、人を対象とする医学系研究が社会の理解及び信頼を得て社会的に有益なものとなるよう、これらの原則を踏まえつつ、適切に対応することが求められる」。福島県立医大の調査委員会が自らの責任を自覚していないのである。

研究対象者に研究が行われていることと研究内容が公知されておらず、同意撤回の機会が与えられていないことについて
研究計画書通りの研究告知が実施されていなかったことについては、当該研究の依頼者 である伊達市の判断で決定すべきものであり被告発者の裁量の範囲を超えていること、並び に、研究者及び研究機関としては必要な研究告知の手続きを行っていることを考慮すると、被告発者側に倫理指針に対する重大な違反や過失があったとは認定できない。

 論文に対して責任があるのは論文著者であり、伊達市ではない。伊達市の依頼によって研究をしたとしても市民に説明し,実施に責任を持てるのは研究者のみである。研究への個人データの使用の同意確認は研究者が責任を持って実施すべきものである。伊達市に作業への協力を依頼するとしても研究者自ら確認もしないのは明らかな研究不正である。市民の多くが知らなかったのであるから必要な告知がなされなかったことは明らかである。この不備は研究者の責任である。 過去の戦争中の人体実験も軍の依頼であったということで 研究者の責任は逃れられないのと同じである。「研究告知が・・・伊達市の判断で決定すべきものであり被告発者の裁量の範囲を超える」とは研究者の責任逃れのみならず、県立医大が研究対象者の同意を必要と考えていないことを示している。

ウ 研究計画書が承認される前にデータ提供を受け研究を開始していることについて告発者は以下の2点を根拠にして、当該研究が2015年12月の倫理審査委員会承認前に 開始されていると主張している。 ① 当該研究に使用された伊達市民の個人被ばく線量のデータが、伊達市から研究者に対し2015年8月に提供されていること。 ② 2015年9月13日に伊達市で開催された「第12回ICRPダイアログセミナー」 において、当該研究の共同研究者である早野龍五氏が伊達市民の個人被ばく線量のデ ータを解析したグラフを用いて解説しているが、このグラフは第2論文中に登場するものと実質的に同じものであること。
 上記①について、被告発者は当該研究の主任研究者であるとともに、2015年1月に伊達市の市政アドバイザーの委嘱を受け、事業をサポートする立場でもあった。当該研究に使用したデータは、研究承認前の2015年8月に伊達市から受領したものであることは被告発者も認めているところである。当該研究は、被告発者が市政アドバイザーとして事業をサポ ートした延長線上に企画・実施されたものであると考えられる。

 伊達市の依頼であれ、学術会議や原子力規制委員会の依頼であれ、倫理指針によれば研究者自身が研究を開始する前に研究計画書を公表し、対象者から承認を得なければならない。市政アドバイザーの地位を利用してその延長線上でずるずると人権を侵害することが危惧されるから倫理指針があるのである。研究計画書が承認される前にデータを入手し,研究を実施し、結果を発表しているとするなら何のために「人を対象とする医学系研究の倫理指針」があるのか。市政アドバイザーならいっそう厳密に研究に関する倫理規定を遵守し、市民の人権に配慮しなければならない。宮崎氏はガラスバッジを配布する前に伊達市に倫理規定について当然アドバイスすべきであった。それどころか研究対象者の同意を得る前に研究を実施しているのであるから、地位を利用して市民のデータを研究論文に利用したととられても仕方がない。この研究の目的も社会的に見て、被ばくから市民を守るためなのか、被ばくを強要するための調査なのか明確に判断できない。倫理指針は「研究が社会の理解及び信頼を得て社会的に有益なものとなる」ことを求めている。このように計画を公表して同意を得ていないことは伊達市も認めているのである。倫理指針違反は明白である。

 本来であれば、当該研究承認後に改めて研究用データの提供を受けるべきであったと考えるが、当該データが提供元である伊達市の了解のもとで、個人情報を含まない状態に匿名加工されていたものであることを考えると、被告発者側に倫理指針に対する重大な違反や過失があったとは認定できない。

 伊達市がガラスバッジによる被ばくデータを集めるには、当然研究対象者の事前の同意が必要である。宮崎真氏や田中俊一氏は市政アドバイザーとして研究者として倫理指針を守るよう伊達市にアドバイスすべき立場であった。さらに匿名であれ個人データの使用に当たっては対象者の承認が必要である。「研究承認後に改めて研究用データの提供を受けるべき」と言って承認前にデータの提供を受けて良いとしているが、これではすでにデータが使用されているのだから研究承認の意味がない。伊達市が自由にデータを使用できると考えているようであるが、伊達市の了解の問題ではなく、市民の人権の問題、市民の同意の問題である。マンハッタン計画などでは現実にフィルムバッジを用いて原爆の人体実験が行われたのである。福島県立医大の調査委員会は 市民の了解を得ることなく伊達市の了解で良いとする姿勢であるが 市民の人権を無視した権力的・高圧的な態度である。

 上記②の第12回ICRPダイアログセミナーにおける早野氏のプレゼンテーションが研究成果の公表に該当するか否かについては、本セミナーが過去の開催分も含め、原発事故被災地域における課題を住民が共有する場であり、学術成果を公表する場ではなかったこと、早野氏のプレゼンテーションも当該セミナーの趣旨に沿って実施されたものであることを考えると、当該発表が研究成果の公表に該当するとは言えない。
 よって、被告発者及び共同研究者である早野氏に倫理指針に対する重大な違反や過失があったとは認定できない。

 学術発表のみが問題ではない。承認なしに研究をしてはならない。対象者の承認を得る前にデータを入手し研究を開始してはならない。まして同意なしの個人データを用いた結果をいかなる形であれ発表してはならない。何処で発表しても、研究計画書に対する研究対象者による同意なしに研究を開始することは医学系研究に対する倫理指針違反である。

 エ 発表すべき研究成果を発表せず、研究計画書に定められている研究の成果でない論文を研究成果として報告していることについて
 告発者は以下の2点を根拠にして、当該研究の研究成果に疑問を呈している。 ① 研究等終了報告書において、当該研究により得られた主要な知見などとして2018 年2月の査読付き論文(38-310、2018、Journal of Radiological Protection)が 報告されているが、これは倫理審査員会の承認を得た研究計画書に基づく研究成果とはいえない。 ② 第1論文において、今後、外部被ばく線量と内部被ばく線量の相関を示すことが 示唆されているが、それに該当する研究成果が発表されていない。
上記①について、委員会として精査した結果、研究等終了報告書に記載のとおり「派生的 な成果」であり、研究計画書からの逸脱には該当しないと判断した。 これを踏まえると、被告発者に倫理指針に対する重大な違反や過失があったとは認定できない。 上記②については、被告発者より、解析の過程で内部被ばく線量の有意検出者数が極めて少ないことがわかり、依頼者である伊達市と協議した結果、個々の被験者の特定につながる 恐れがあることから研究成果として公表しないこととした旨の説明があった。 この点については、被験者保護の観点からも適切な措置であったと考えられ、被告発者に 倫理指針に対する重大な違反や過失があったとは認定できない。

 依頼者である伊達市と協議して決めれば正当化されると考えているようであるが,問題は研究者と調査対象の市民の人権の問題である。調査委員会は基本的なことを理解していない。内部被ばくの調査結果を、人権を配慮して公表しなかったとしているが,データの使用の同意を得ないで無断使用という基本的な人権侵害をしておきながら,人権を理由に倫理規定違反を正当化するのは一貫性がない。人権を侵害しない形で調査対象者の同意を得て発表することは可能であり、勝手に報告を中止することは公平性と公明性の原則に反し、それを公表しないことは研究倫理違反である。公表しないことは著者達の予想に反し、内部被ばくと線量の本来あるべき強い相関が見られたのかもしれない。
[ヘルシンキ宣言36「否定的結果および結論に達しない結果も肯定的結果と同様に、刊行または他の方法で公表されなければならない。」]。

 (2) 研究不正について
 ア 研究の全データをすでに破棄していることについて
 当該研究において、研究者が研究終了時に破棄したのは「伊達市から提供された個人線量データや国が公開している航空機による空間線量モニタリングの数値などの既存情報」であり、解析に用いた数式(Mathematica 言語で書いたプログラム)や図表等は研究終了後も保存されていることは確認できた。研究者が研究終了後時に破棄した既存情報は、長期間に渡って研究者が保存すべきデータには該当しないと考えられ、研究計画書に記載のとおり研究終了時に既存情報を破棄していたことは不適切な対応であったとは言えない。 よって、研究不正に該当するとは認定できない。

 データを残すのは論文発表後の疑問や批判に答える責任があるからである。疑問や批判に適切に回答できず、混乱し、訂正発表の撤回もなされた。もしもデータが残っているなら、1月8日の早野氏の文科省掲示もそれらを用いて確実に確かめられたはずである。このときは生涯線量も「3分の1に過小評価されていた」はずである。 なぜ同じデータを用いているにもかかわらず、今回撤回し、生涯線量の3分の1の過小評価が消えたのか。理解できないことである。

 イ 第2論文に捏造と疑われるグラフが存在することについて
 告発者及び被告発者側の主張と照らし合わせた結果、以下のとおりであると判断した。
① 第2論文を精査したところ、告発者が指摘した図の誤りについて、図7が該当する。
② 図7を作成する際に、図6において個人線量計のデータを3ヵ月の積算線量から 1時間当たりの線量率に変換するために行った処理(/3/24/30.5*1000(= 0.455))が不要であったにも拘らず同様に行われた。
③ 第2論文の結論に示された生涯線量の数値は妥当であり、告発者側が主張する個人線量の過小評価はない。

 0.455が不要であれば生涯個人線量は1/0.455倍になるはずである。それ故、生涯線量は過小評価されていると考えられる。これは論文の重要な目的であり根幹をなす数値であるからこの過ちは許されないものである。生涯線量が正しく計算されて図7だけが間違っていたとすれば図7の数値が結論である生涯線量と不整合であることがわかるはずである。2人の著者が結論に相当する図の間違いに気づかないのは不自然である。まして図と数式が保存され、それに基づくはずの1月8日の文科省掲示では図6を3ヶ月の線量と間違え、生涯線量も3分の1に過小評価したと説明していた。今度は異なる原因で2.2分の1に過小評価しているとしている。疑問はいっそう深くなったにもかかわらず、調査委員会は生涯線量の数値は妥当としている。不思議なことである。

以上のことから、第2論文中に誤りがあると認められたものの、総合的かつ客観的にみ て、意図的な捏造であったとは考えられない。 よって、研究不正に該当するとは認定できない。

 意図的でないことはどうしてわかるのか。生涯線量が妥当であることは如何に証明されたのか。どうして妥当とわかったのか。いずれにせよ意図的であれ、非意図的であれ大きな間違いは研究不正と考えるのである(以下の定義を参照)。

[定義 「研究不正」
ランセット誌の "Handling of Scientific Misconduct in Scandinavian countries" では以下のように簡単に定義している。
デンマークの定義:科学者の故意もしくは重大な過失による、虚偽の科学的メッセージ、偽の評判、強調。
スウェーデンの定義:虚偽のデータ、文章、仮説、他の研究者による原稿や論文により、研究過程を故意にゆがめること。もしくは、他の方法で、研究過程を故意にゆがめること。]

7.結論 当該研究においては、研究計画書からの逸脱等は散見されるものの、倫理指針に対する重大な不適合に該当するものではなかった。 また、第2論文中に故意ではない誤りは認められたものの、捏造・改ざん・盗用に該当する研究 不正については認定できない。

 研究計画書からの逸脱は一切あってはならず、散見されてはならないのである。研究計画書からの逸脱は研究不正である。故意ではないから不正ではないというが一般的な定義は「科学者の故意もしくは重大な過失による、虚偽の科学的メッセージ、偽の評判、強調」となっており、故意でなくとも重大な過失による虚偽も研究不正なのである。研究の最終的な結論が2から3倍変わって、2転、3転するのはたとえ故意でないとしても研究不正である可能性は極めて高い。「研究計画書からの逸脱」を認識していながら「研究不正」ではないとい県立医大調査報告は倫理指針に違反している。

8.付記 当該研究の依頼者である伊達市から提供を受けた既存情報のなかに包括同意時に不同意の意思表示をした市民のデータが含まれていたことは被告発者の瑕疵(かし)とは言えないものの問題である。 また、解析過程の計算誤りが見過ごされていたことも杜撰(ずさん)であった。 本来であれば、伊達市から同意者のみのデータの再提供を受けて、正しい計算式で再解析し、第1 論文及び第2論文を再投稿すべきである。伊達市からは「データの再提供については、調査委員会 (伊達市が設置した第三者委員会)の報告書が出てから判断したい。」旨の回答があり、現時点では それが実現可能かどうか不透明な状況である。 該当論文2編は速やかに是正されるべき状況にあり、本学としては伊達市が研究依頼者としての 責務を果たすことを強く希望するものである。

 依然として伊達市からデータの提供が正当化されているが,その前に「論文を作成し,広く公表する」ことに対する同意を研究対象者から得るべきである。論文の形式で公表されることは市民に周知徹底されておらず、対象者が調査に同意していたとしても、論文作成許可まで同意されていないから、研究依頼者の伊達市が決めることができない。研究者が対象者である市民から、論文発表の同意を直接得るべきである。伊達市から特定の研究者への個人データの漏洩とその論文への利用は人権侵害である。福島県立医大が許可をした研究で人権侵害や瑕疵があったのに県立医大の責任が一切問われておらず,自らの監督責任を不問にして、伊達市の依頼責任のみを追及しているのは公平性の原理に違反している。しかも宮崎氏は市政アドバイザーであり、ガラスバッジの利用では市側の重要な地位にあったのである。


3.東京大学宮崎・早野論文の調査について

 東大名誉教授早野龍五氏はこの論文以前から福島原発被曝の安全論で知られている。例えば2014年糸井重里氏と出版した『知ろうとすること』(新潮文庫)では食品摂取の安全について「年間5万Bq(ベクレル)までというのは、ある意味安全なレベルなんですよ」(p81)と書いている。ICRPによると毎日100Bqのセシウム137を1年間摂取する(年間3万6500Bq)と約1万2000Bqのセシウム137が体内に蓄積する。体重60kgの人なら体重1kg当たり200Bq/kgが蓄積する。これはベラルーシやロシア、ウクライナで「長寿命放射性核種取り込み症候群」として多臓器不全で死亡した大人や子供のセシウム137の体内蓄積量に近い(ユーリ・バンダジェフスキー著『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響』合同出版2011.12。アレクセイ・ヤブロコフ他著『チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店2013年)。さらに1桁少ない20Bq/kgの蓄積でも子どもたちの心電図に異常が出ることが知られている。日本では100Bq/kgをコメなどの食品の安全基準としている。しかし、これは内部被曝を評価する際ICRPの経口摂取のベクレルからシーベルトへの過小評価された換算係数に基づく誤りである。なぜなら、がんと遺伝的影響のみを考えるICRPの換算係数ではセシウム137の経口摂取の場合、7万5千Bqが1mSvに相当するとしているが、これが桁違いの過小評価であるからである。この科学者早野氏の被曝容認の言葉は単なる誤りではすまず、現実に子どもや妊婦、未来の世代に対して極めて危険で、重大な責任を伴う。
 今回のガラスバッジを用いた被曝安全論は宮崎・早野両著者だけではなく、前原子力規制委員会委員長田中俊一氏や産業総合研究所フェローの中西準子氏、伊達市の当時の仁志田市長、半澤隆宏政策監の支持と協力のもとに行われている社会的なものである。仁志田市長はIAEAにまで行って報告し、除染の被曝の基準を5mSvに緩和するよう要請している。被曝した住民に対する責任が問われる。

東京大学報告
東京大学科学研究行動規範委員会(以下、規範委員会という)は、本学大学院理学系研究科元教授による研究活動について、倫理指針違反と研究不正の疑いがあるとの申立てを受け、 東京大学科学研究行動規範委員会規則(以下、規範規則という)第 10 条に基づき調査を行いました。
 申立ての内容は、別紙に示す研究内容について、
1)データ提供に同意していない市民のデータの使用(倫理指針違反)
2)福島県立医科大学の倫理委員会への研究計画書提出前の研究発表(倫理指針違反)
3)論文(別紙記載②,③)発表後1年経過した時点で資料・情報が全て破棄されている (研究不正)
4)セミナー発表(別紙記載①)のスライドと論文のグラフの値に齟齬がある(研究不正)
というものです。調査を行った結果は以下の通りです。 なお、調査では、規範規則及び文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成 26 年 8 月 26 日文部科学大臣決定)に定める不正行為の定義を踏まえつつ、不正行為の有無を判断しました。

別紙記載①のセミナーに用いられたスライドと別紙記載③の論文間の齟齬については、スライドの縦軸の数値が Individual Dose(個人線量率。単位:?Sv/h)を示すことを想定してい たため、生データ(3 ケ月毎の積算線量、単位:mSv)を読み込んで得た数値に 0.455 倍( /3(ヶ 月)/30.5(日) /24(時間)*1000(倍))されるべきところであったが、これが行われていないこと、さらに、別紙記載③の論文内の図6縦軸の数字はこの変換が行われていることを確認しました。 別紙記載③の論文内のデータ間の齟齬については、同論文図7縦軸の数値が Cumulative Dose (積算線量。単位:mSv)であり、本来 2.2 倍(上記 0.455 倍の逆数)されるべきところ、対象研究者が同論文図6からの計算時に失念していたことによることを確認しました。

いずれも論文著者の精査不足に起因するものであり、軽率なものであったと考えますが、規範規則第 2 条に定める「故意」によるものとは認められず、また、 「研究者としてわきまえるべき注意義務を著しく怠ったことによるもの」とまではいえないと判断しました。
データ破棄については、論文の元となる研究データが伊達市において保管されていることを前提に、解析後に研究データを破棄する旨を記載した研究計画を福島県立医科大学倫理委員会に予め提出し、承認を得ていたことから、対象研究者による研究データの破棄は不正行為に該当しないと判断しました。
なお、倫理指針違反については研究不正に関する調査を任務とする、規範委員会及び調査 委員会の調査範囲外の事項であり、この点については判断しないこととしました。

 東大規範委員会は「故意」によると認められないので研究不正ではないとしている。しかし、ガイドライン(研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン 平成26年8月26日 文部科学大臣決定)のページ8には次のように書かれている。
「(2)研究機関における一定期間の研究データの保存と開示:故意による研究データの破棄や不適切な管理による紛失は、責任ある研究行為とは言えず、決して許されない。
 (3)研究データは一定期間保存する。第三者からの批判への自己防衛のためにデータの保存は不正防止のためにも必要である」。
 それ故、実験ノートとともに生データを保存しておくのが原則中の原則である。
 ガイドライン第3節 1の(3):対象とする不正行為(不特定行為)では、
 「故意または研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる投稿論文などの発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造、改ざんおよび盗用である」と書かれている。
 宮崎・早野論文はこの改竄に当たると思われる。東大規範委員会の言うような単純なミスであればなぜ早野氏は1月8日に異なる説明を文科省に張り出したのだろうか。数式と図は保存されていたとのことなら,生涯線量値が変わるはずがない。そしておよそ半年後になぜそれを撤回したのだろうか。上記のガイドラインのように生データが保管されていればこのような混乱は起こらなかったであろう。
 他にも多くの間違いが存在する。99%タイルが90%タイルと考えられること、中央値と平均値が混同されていること。
 しかも第1論文第1式でガラスバッジの個人線量と航空機による空間線量の比率を平均している。数学では比率は平均できない量である。低線量域と高線量域で比率の数値の精度が異なり,平均はできず、誤差の計算もできない。両論文の重要な結論である個人のガラスバッジと空間線量の比率が一定で0.15±0.03であること、つまり、ガラスバッジの個人線量が住居近くの空間線量に比例することが統計的に証明されていない。単に平均できないものを平均して0.15±0.03 (真実は平均ではなく中央値であると思われる)としただけである。
 一読すれば宮崎・早野の2論文には多くの理解できない混乱・不一致・矛盾がある。それらは岩波の科学で2019年2月号から7月号に詳しく黒川眞一氏達によって紹介されている。誰でも気がつくのは箱ひげがなくはずれ点のみが存在するグラフの空間線量値の箇所(ビン)である。上に上げた平均値と中央地の混同も1例である。黒川氏をはじめ多くの学者が指摘している問題点は論文中に多く「散見」(福島県立医大報告書)される。そのことに東大の規範委員会も気がつかないはずがない。それをわざと無視しなければこのような図7だけを取り上げた調査報告は書けないであろう。本来、総合的で科学的な研究と教育の中心である大学による調査である。誠実な調査報告は人権の擁護はもちろん日本の科学と未来の研究者のためにも不可欠である。
 このような不誠実な調査報告は研究不正につながる倫理指針違反ではないだろうか。調査報告は故意でないから研究不正でないとしているが,研究不正の定義は「科学者の故意もしくは重大な過失による、虚偽の科学的メッセージ、偽の評判、強調」となっており、故意でなくとも重大な過失による,虚偽の科学的メッセージ(例えばガラスバッジを用いて得られた個人線量は政府の0.6に比べ4分の1にすぎない)は研究不正である。この「宮崎・早野論文が研究不正に当たらない」という東大の報告は日本の科学の将来をゆがめる重大な虚偽であると思う。


別 紙
 対象研究者及び対象の研究活動
  ※上記②の論文の「論文タイトル」については、掲載雑誌上の表記を記述する。
 対象研究者 早野 龍五
 対象の研究活動
 ① セミナー発表:セッション「測って伝える」におけるスライド 発表 (第十二回福島原発事故による長期影響地域の生活回復のための ダイアログセミナー「Experience we have gained together(これ までの歩み、そしてこれから)」)

 ② 掲載雑誌名等 : Journal of Radiological Protection, 37(2017),1 - 12 論文タイトル:Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1.Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys

 ③ 掲載雑誌名等 : Journal of Radio logical Protection, 37(2017),623 - 634 論文タイトル:Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose


 
【研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン】

 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
 人を対象とする医学系研究は、研究対象者の身体及び精神又は社会に対して大きな影響を与える場合もあり、様々な倫理的、法的又は社会的問題を招く可能性がある。研究対象者の福利は、科学的及び社会的な成果よりも優先されなければならず、また、人間の尊厳及び人権が守られなければならない。

 第1 目的及び基本方針
 この指針は、人を対象とする医学系研究に携わる全ての関係者が遵守すべき事項を定めることにより、人間の尊厳及び人権が守られ、研究の適正な推進が図られるようにすることを目的とする。全ての関係者は、次に掲げる事項を基本方針としてこの指針を遵守し、研究を進めなければならない。
 ① 社会的及び学術的な意義を有する研究の実施
 ② 研究分野の特性に応じた科学的合理性の確保
 ③ 研究対象者への負担並びに予測されるリスク及び利益の総合的評価
 ④ 独立かつ公正な立場に立った倫理審査委員会による審査
 ⑤ 事前の十分な説明及び研究対象者の自由意思による同意
 ⑥ 社会的に弱い立場にある者への特別な配慮
 ⑦ 個人情報等の保護
 ⑧ 研究の質及び透明性の確保



【島明美氏、黒川眞一氏、石田祐三氏のコメント】

島明美氏のコメント
申 立 人 の コ メ ン ト

 今回の調査結果を読み、心から驚きました。そして、被ばくデータを含む個人情報が軽視されていると強く感じました。
 私を含む家族全員、そして伊達市民の大半が、宮崎真氏と早野龍五氏に研究対象とされていました。研究を開始したことも知らされず、同意書も無視され、同意撤回の機会もないままに、「被ばく線量」という極めてデリケートな情報と住所と突合し、解析されました。その研究に至る過程は極めて不透明で、現在も伊達市と伊達市議会が調査を続けています。
 このような不透明かつ非科学的な研究を、倫理違反も、研究不正もないとする今回の判断は到底、理解できませんし、許すことも出来ません。研究の基本をないがしろにしていると思いますし、科学への不信感がますます募ります。これが許されるのであれば、「人を対象とした医学系研究に関する倫理指針」や「研究不正ガイドライン」の存在意義はないと思います。
 今回の調査結果は、「研究計画書からの逸脱等は散見される」「誤りが認められた」と、私の申し立て内容を認めています。
 「人を対象とした医学系研究に関する倫理指針」*1では、研究計画書に従って研究が適正に実施することを規定しています。調査結果は、「倫理指針に対する重大な不適合に該当するものではなかった」と結論づけていますが、同意が取れていないデータを使用していることは「重大な不適合」ではないのでしょうか。伊達市民の前で納得のいく説明をしていただきたいです。
 また文部科学省が定めている「研究不正に関するガイドライン」では現在、「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる不正」も不正行為と規定しています。計算結果が数倍も異なる「誤り」は、これに該当します。
 私は2年前、黒川眞一高エネルギー加速器研究機構名誉教授とともに、宮崎氏と面会しました。この論文に関するごく基本的なことを確認するためです。しかし、宮崎氏は筆頭著者でありながら2、3 を除いて、ほとんどの質問に答えられませんでした。筆頭著者であり、この論文で博士の学位をとっているにも関わらずです。共著者の早野氏に確認するということで、その日は終了しましたが、その後回答は一切、ありません。
 今回の論文は、伊達住民を置き去りにしたまま、きわめて不透明な経過を経てかかれました。伊達市前市長の要望による論文であったことや、市の文書に改ざんがあったことが明らかになるなど、政治的な背景があることが浮き彫りになっています。にもかかわらず、本調査の過程も結果も、非常に不透明かつ不誠実であったことを、非常に残念に思います。
 現在、多くの研究者がこの論文に関する検証作業を行なっています。今や大きな研究不正が指摘されるに至っており、今後、新たな申し立ても行われる予定です。そこで、さらに踏み込んだ科学的な検証がなされ、不透明な研究経緯と研究不正が明らかになることを期待しています。
2019年7月19日
申立人:島明美(個人被ばく線量データ利用の検証と市民生活環境を考える協議会代表)

*1 倫理指針 第 2 章 研究者等の責務等 第 4 研究者の基本的責務 2 研究の倫理的妥当性及び科学的合理性の確保等 (1) 研究者等は、法令、指針等を遵守し、倫理審査委員会の審査及び研究機関の長の許可を受けた研究計画書に従って、適正に研究を実施しなければならない。

これまでの経過
2015年
1月     宮崎氏が伊達市の市政アドバイザーに就任
2月20日  千代田テクノルの個人線量データを宮崎・早野氏に提供
7月30日  宮崎氏が伊達市に解析データを提示
8月12日  伊達市が宮崎氏・早野氏にさらなるデータを提供
9月12日  ICRP ダイアログで早野氏が伊達市データを発表
10月    伊達市が宮崎氏あての研究依頼書を作成(日付は8月1日付けに改ざん)
12月1日  宮崎氏が福島県立医大倫理委員会に研究計画を申請
12月17日 福島医大倫理員会が宮崎市の研究計画を承認
2016年
8月18日  第1論文を JRP に投稿
12月6日  第1論文が JRP に掲載
2017年
1月8日   第2論文を JRP に投稿
4月12日  申立人が「宮崎・早野論文」の使用データについて初の情報開示請求
4月24日  情報公開を受け、伊達市と宮崎氏が緊急会議
6月27日  申立人と黒川氏が宮崎氏と面談
7月6日   第2論文が JRP に掲載
2018年
11月    黒川氏が JRP に論文の誤りを指摘
12月12日 伊達市議会で論文におけるデータの不正使用が表面化
12月19日 申立人が東京大学に倫理違反・研究不正申し立て
2019年
1月8日   申立人が福島県立医科大学に倫理違反・研究不正申し立て
1月8日   早野氏が同論文に見解発表
1月25日  放射線審議会の報告書から同論文データ削除
2月4日   伊達市に「被ばくデータ提供等に関する委員会」発足
2月22日  伊達市議会で黒川眞一氏を招聘して勉強会開催
5月30日  個人被ばく線量データ利用の検証と市民生活環境を考える協議会発足
6月26日  伊達市議会に「被ばくデータ提供等に関する調査特別委員会」設置


黒川眞一氏のコメント
2019年7月
宮崎早野論文における研究不正および倫理違反の疑いについて

1.研究不正

解析方法やグラフにおいて、不整合で不可解な内容が複数あり、意図的なデータ改ざんや捏造が行われている可能性が高い。


データおよびグラフの改ざんの疑い
  • 99 パーセンタイルとされる記載とグラフは実は90 パーセンタイルである。(第1論文・第2 論文ともに)
  • 1 パーセンタイルとされる記載とグラフは10 パーセンタイルである。(第2 論文)
  • 第2論文におけるA 地区の平均周辺線量はおよそ2.7μSv/h であり、係数はおよそ0.15 であることが第1論文および第2論文を見比べることで推定できる。第2論文では、この値をそれぞれ2.1 μSv/h と0.10 としている。恣意的なデータ改竄の疑いが濃い。
    →このため、生涯線量の平均はほぼ半分に過小評価されている。さらに論文で99パーセンタイルの生涯線量とされているものは正しくは90 パーセンタイルでの生涯線量である。生涯線量の99 パーセンタイル値は100mSv を超える。
  • 上で示したデータの改竄につじつまがあうように、生涯線量を示すグラフ図7 は縦が47%に縮められている。また累積線量の推移を示すグラフ(図5A)の縦が55%に縮められている。(第2 論文)
  • 上の二つの項で示した矛盾は、第2論文図6に集中的に表れている。論文本文中では、図6中の曲線は平均周辺線量2.1 μSv/h と係数0.10 を用いて描かれているとされているが、図6のキャプションでは、平均周辺線量とされたものが、周辺線量の中央値と係数を用いて描かれたされている。いずれにしても図6の曲線は、t=0.65y において、周辺線量と係数の積である0.21 μSv/h の点を通らなければならないのに、0.33 μSv/h の点を通過するように描かれている。


  • (『科学』2019年7月号より)

  • 第2論文の図7のビンの多くで外れ値の個数が異様に少なく、99 パーセンタイルに整合するように外れ値の一部を恣意的に削除した疑いが強い。
  • 90 パーセンタイルを99 パーセンタイルといつわることにより、被曝線量の高い市民のデータを示さないように図の縦軸の最大値を恣意的に低くしている(第1 論文図4、第2 論文図6)。図6の最初のビンについては、論文のデータから本来の図を復元できる。復元した図を添付する。


  • (『科学』2019年6月号より)

恣意的解釈と結論
  • 第1論文において「個々の市民が受けた外部被曝線量は航空機モニタリングデータから推定することが可能であると結論する」と書かれているが、方法論的にもデータの取り扱いにおいても、これは不可能である。
    →著者の宮崎氏も2017 年6 月28 日の伊達市との打合せの中で、「航空機もモニタリングでの空間線量から個人の線量を導くことはできない。」と述べている。
  • 公衆に対する被曝防護において拘束値あるいは参考レベルとされる値は、95 パーセンタイル値である。第1論文では係数の平均値を政府が定めた基準と比較しているが、比較すべきは係数の95 パーセンタイル値である。
  • 第2論文の冒頭に記述されている第1論文の要約は、第1論文の内容と異なる。
  • 航空機による線量測定が地上における線量測定値と比べると1.7 倍程度の過大評価となることを考慮していない。第1論文が書かれる以前に行われた、論文と同一のガラスバッジ測定値を用いて伊達市が独自に行った地上における線量測定値を用いた調査は、航空機による測定値が、1.4〜1.7 倍ほどの過大評価となることを示している。
  • 第2論文における対象者が特殊な集団であることが記述されていない。A 地域の対象者の半数ほどは特定避難勧奨地点の市民であり、多くの市民が実際に避難している。B およびC 地域の対象者はほとんどが15 歳以下の子供である。
  • 第2論文の結論、「除染は被曝線量を低減する効果がない」について、論文中に根拠が示されていない。

2.倫理違反と虚偽説明

  • 第1論文の図3に示されている点の最小間隔は50m である。航空機による線量測定のグリッドの間隔はほぼ250m である。このことは、著者たちが加工されていない生の住所データを知っていたことを意味する。これは、研究計画書の記述とことなり、また第1論文の記述である、「市民の住所は伊達市によってGIS 化され、解析前に1/100 度に丸められた」という記述ともことなる。論文の記述は虚偽である。
  • 「科学」2019 年2月号に次のような7つの倫理指針違反を指摘している。
    (1) データ提供に同意していない伊達市民のデータを使用した。
    (2)伊達市民に研究に内容を公知せず、オプトアウトの機会を与えなかった。
    (3)伊達市長から論文作成を依頼されたことを隠蔽した。
    (4)研究が福島県立医科大学の学長によって承認される前に伊達市民のデータを使った研究を開始した。
    (5)研究計画書に書かれている内部被曝線量と外部被曝線量の相関を調べる研究をどこにも発表していない。
    (6)研究終了報告書に(5)の研究の発表をしなかったことを記さず、研究計画書に書かれていない、「人を対象とする医学的研究」ではない研究を成果として報告している。
    (7)倫理指針がデータをできるだけ長期間保管するように定めているのにかかわらず、全データを研究終了予定日の1 か月前に廃棄している。
    以上


石田祐三氏のコメント
両大学調査委員会の調査報告の疑問点
石田祐三
2019年8月13日

 多くの疑惑を持たれたM・H論文の調査報告(福島県立医大調査委、東大・規範委員会)に対し、明快な批判・見解と関連資料(黒川氏・島氏論文等)を提供して頂き大変有り難うございます。大変参考になりました。小生の気掛かりな点は、ほとんど山田さんの批判で代弁されています。重複になりますが、あえて幾つか小生なりに意見を述べさせて頂きます。

1)倫理規定違反について、
 同意のない個人データが研究名目で勝手に利用されているので、明らかに「倫理規定違反」。何のために研究計画書を作成し、倫理審査委員会の承認を受けたのか。医学系分野の当事者なら一番よくご存じのはず。調査委は「非常に問題」といいつつ、重大な違反・過失はないともいう。依頼した市側の情報管理の不適切さにあると責任転嫁している。公平・公正であるべき調査委が、被告発者擁護のための苦し紛れの便法が使われている。これでは調査委の使命が果たされているとはいえない。
 最近の「改正個人情報保護法」において、オプトアウトの方法(あらかじめ本人に通知し、又は本人が容易に知りえる状態に置く)による個人データの第三者提供手続きが厳格化(本人が要求すれば、個人データ利用は停止)されています。

2)研究不正について、
 解析過程の計算間違い等のために最終結論(影響力大)が2転、3転するという事実は、データの不正操作が行われていたのではないかと疑われる。単純なミスとはいいがたい。
 更に、研究終了と同時に元データが消去されているならばかなり悪質である。これでは、図は残っていたとしても、お互いに検証不可能になる。昨今いたる所で証拠隠滅・改竄等が横行している。研究者なら、全てのデータや実験記録は何年も保存する習慣があるはず。
 論文としての信頼性が著しく損なわれており、「研究不正」の典型例といえる。また、研究計画書で予告しておきながら、第3論文の発表を中止したことへの説明に一貫性がない。同意なく個人情報を勝手に使用しておきながら、別の研究項目では有意検出者数が少ないため特定個人につながる恐れがあり、被験者保護の観点から公表は止めるとは一見もっともらしいが、行動が矛盾している。急遽打ち切らざるを得なかった背景には、データの早期廃棄、不都合な結果によるこれまでの主張に矛盾発生、あるいは批判に晒されることへの懸念等あったのではないかと色々疑念が湧いてくる。
 両調査委員会とも、何の根拠も示さず一般論で「故意ではない誤り」であるから、倫理的に重大な違反は認められない、研究不正に該当するとも認められないと理解不能な主張を繰り返す。逆に言えば、最初から研究不正はないという前提で調査しているから、論理的に一貫性がなくなり、矛盾が出てきて苦し紛れの説明になる。これでは調査委自らが不正をやっていると誤解されても仕方ない。本来、故意かどうかなど人の心の作用を他者がどうやって的確に判断できるのか疑問です(本人がそう言っているので信じます(性善説)?)。その曖昧さを逆に悪用しているのではないか。

3)福島県立医大報告の「付記」について、
 結論では「倫理規定」違反はない、「研究不正」はないと認めていながら、あえて「付記」の項目まで付け加えているのは何故なのか、結論だけでは後味が悪かったか?
 伊達市から同意者のみのデータの再提供を受け、杜撰な解析・計算誤りの所は正した後、是正した第1・第2論文を再投稿すべきと提案している。これは、実質倫理規定違反、研究不正ともに認めているのではないか。それでも、なお研究依頼者である伊達市に責任転嫁しなければならない苦しさが滲み出ている。市側にも個人情保護違反の疑いがあるが、これは市議会・住民達で問いただすことである。
 個人的意見としては、数多くの疑惑が露呈し信頼を損ねた投稿論文(2件)は取り下げる、そのことで責任を果たしてもらいたい。

4)東大調査委員会について、
 わざわざ行動規範委員会と銘打って、研究不正のみを調査し、倫理指針違反に関しては調査範囲外の事項なので判断しないと避けている。研究不正は研究者として守るべき規範やルールを犯しているから発生するのであり、それを敢えて分離して考える手法は根本的に疑念を生じさせる。倫理指針違反は誰が見ても認めざるを得ないから、調査を避けたと捉えられても仕方がない。また、疑惑だらけの論文内容について、軽率であったが「故意」とは認められない、それ故不正行為でないと結論付ける。
 多数の軽率さが積み重なれば、実質故意に等しい。また、日頃の発言・行動(その人固有の心的反映)を見れば、ある程度推測はつく。また、本当に故意でなく単純ミスなら、他者から間違いを指摘されれば素直にそれを認めて直ぐに訂正するはずである。捏造・改ざん・盗用等なら、そう簡単には認められないであろう。一方、内部調査委の指摘に対しては、いとも簡単に主張を撤回するとは何とも軽率な行動であり、何が本当か分からなくなり更に混乱を起こしてしまう。

 本調査委員会(規範委)の調査内容と結論は、福島県立医大調査委よりもっと事態を矮小化し、杜撰、無責任態勢の調査としか思われない。本M・H論文は早い段階から多くの良識ある研究者や市民レベルの人達の間で疑惑を持たれ、多数の誤りがあることを指摘されてきた。既に、マスメディアを通して不正論文が報道されてきた。こうした研究者達から指摘された問題点にはほとんど答えられていない。公正・公平であるべき調査委員会が機能不全を起こしている。これほど疑惑を持たれた研究者を匿う理由は何処にあるのか。不正を不正と認めず一個人を擁護することになれば、この研究分野だけでなく大学自体の社会的信頼を失墜させてしまう。改めて倫理規定違反も含めて検討する調査委員会を発足させ、疑惑に応えるべく再調査し納得いく報告してもらいたい。

 注)福島県の発表では、毎回検査のたびに当時18歳以下の甲状腺がん、他のがん・もしくはがんの疑いがある人が増え続けています。しかし、検査を検証している検討委員会は「これまでのところ被曝の影響は考えにくい」と毎回枕詞のように同じことを繰り返している。しかし、多くの国民は疑問を抱いているだろう。誰がどういう科学的根拠で判断を下しているのか明らかにしてほしい。最近、被曝線量(低線量レベル)と小児甲状腺がん発症率の間に比例関係があるという研究結果が報告されている(加藤聡子氏等)。
 もし、上記のような研究者・関係者がその中に含まれているとしたら信頼性を損ねる。誤った発言・論文等で多くの市民を惑わせるのではなく、その時点で明らかになった正確な情報を提供し、十分な説明・理解を深めながら信頼関係を築いて行く。個々人の立場の違いは尊重する。そうしたほうがずっと安心感が生まれ、適切なケア(予防・治療)を受けることが出来るであろう。



文献
 岩波の特設サイトがある。
 https://www.iwanami.co.jp/kagaku/hibakuhyoka.html
1.黒川眞一、島明美、「科学」岩波書店,2019年2月号
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/201902-kurokawa-shima.html
2.黒川眞一、「科学」 岩波書店、2019年3月号
3.黒川眞一、谷本 溶 「科学」 岩波書店 2019年4月号
4.記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関して
http://blog.torikaesu.net/?eid=63
ファイルは以下に格納
http://www.torikaesu.net/data/20170716_yamada.pdf
5.宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している
http://blog.torikaesu.net/?eid=65
ファイルは以下に格納
http://www.torikaesu.net/data/20170813_yamada.pdf