福島原発事故に猛威を振るう「知られざる核戦争」 矢ヶ克馬

2019年7月

日本の市民の方々、全世界から日本へいらっしゃる方々に深刻な事実をお届けいたします


福島原発事故に猛威を振るう「知られざる核戦争」


―「放射線による健康被害は一切無い(安倍首相)」の背後に死亡率大量増加が―

矢ヶ克馬


 
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福島原発事故に猛威を振るう「知られざる核戦争」(pdf,33ページ,1286KB)


§1 概説――「放射線による健康被害は一切無い(安倍首相)」のファシズム――
 核戦争は巨大な破壊力の核兵器を投下するあるいはそれで威嚇することと理解されている。それに対し、「知られざる核戦争」は、ヒロシマナガサキ原爆投下以来、アメリカを中心とした核戦略と原発を推進するためにとられた「放射線被害を市民に認識させない情報操作」の核戦争を指している。この核戦争は著者による造語であるが、一般市民に未だ「知られざる」状態にあるために「知られざる核戦争」と称す。
 ヒロシマナガサキ原爆による放射性降下物放出を隠しその被害を隠し続ける。その後500回以上を記録した大気圏内核実験、採鉱や核兵器核燃料製造、原発運転と再処理工場操業、核・原発事故、劣化ウラン弾使用などによって莫大な量の放射能が放出されて環境中に蓄積した事実を隠し、全世界でその被曝による人的被害が想像を絶する規模(ECRR推計で6000万人以上)で続いていることを隠している。これが「知られざる核戦争」の実態である。
 福島原発事故後は史上最悪の「知られざる核戦争」が展開されている。日本に典型的なファシズムが「知られざる核戦争」を一層激しいものとしているのである。
 政府発表でさえ広島原爆の168発分(実際はその10倍程度とみられる:渡辺悦司ら:放射線被ばくの争点(緑風社)2016)の放射性物質が放出したにも関わらず、「放射線による健康被害は一切無い」の言明(東京オリンピック決定時の安倍首相記者会見)が先行した。
 これは原爆投下直後の「知られざる核戦争」に匹敵する。1945年9月6日、マンハッタン管区調査団の指揮官トーマス・ファーレル准将 が東京で記者会見して言明した「広島・長崎では,死ぬべき者は死んでしまい,9月上旬現在において,原爆放射能で苦しんでいる者は皆無だ」、「残留放射能の危険を取り除くために,相当の高度で爆発させたため,広島には原爆放射能が存在し得ず,もし,いま現に亡くなっている者があるとすれば,それは残留放射能によるものではなく,原爆投下時に受けた被害のため以外あり得ない」(「広島ジャーナリスト」HP)の虚偽宣言に匹敵するものである。東電事故後の放射線被曝対策は、戦後アメリカがファーレル言明に沿って原爆被害を処理した歴史に瓜二つである。
 政府はその虚構をシナリオの芯に据え、全官庁あげて「風評払拭リスクコミュニケーション強化」を大宣伝している。放射線被ばくの現実を「心の持ちよう」にすり替えるのだ。首相の「健康被害は一切無い」という虚言が事実を乗り越えて「現実を見る目」となる。虚偽の基に被曝強要策が進む。指定区域外避難者に対する住宅支援を停止することによって、指定区域外避難者を避難者統計から外し、避難者が減少したことにする。避難指示区域を解除することで、汚染が無くなったことにする。あろうことか被曝被害を拡散拡大することで高汚染地域の被害を見え難くして、「福島の放射線被害は無い」を合理化するという屋上屋を重ねる虚偽の世界が日本の現実である。
 福島原発事故後ほどなくも主として文科省から各大学長と各学会長宛てに「放射能に関するデータは政府が発表するデータである。個別の研究者が調査したり研究したりすることの無いように」という趣旨の通達がなされた。もちろん政府が責任もって諸測定を行ったのではない。「データが無いことは被曝が無いこと」とされた。チェルノブイリ事故後にIAEAウィーン会議(1996)で今後生じ得る原発事故に際して、①避難させるな、②情報を統一せよ、③専門家を自由に動かせるな、との指針をまとめたが、その方針を受けてのことであった。

 IAEA(国際原子力機関), UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会) 等を国際原子力ロビーと規定する。IAEAはチェルノブイリ事故の教訓として「住民が汚染された土地に永住をすることを前提に、心理学的指針も含めて従来の被曝防護を見直す方針を明確にした(1996年、IAEA「チェルノブイリ10年」)。原発事故版の「知られざる核戦争」の基本路線だ。ICRPが住民への被曝強制を指針として打ち出し、IAEAは福島に事務所を出張させ実地指導を行う。この方針に輪をかけて日本政府は虚偽に満ちた情報処理を行う。

 早すぎる「帰還」、「復興」。事故後たった9年目、原子力緊急事態宣言が出されたままで、放射線被曝制限値が20ミリシーベルト/年(日本の法律値は1ミリシーベルト/年)のままで、オリンピックが開催されようとしている。

 指定難病患者の異常増、各地の病院患者の異常増加などが伝えられている。爆発的に大量発生している小児甲状腺がんを原発関連と認めない。それを突破口に、一切の健康被害は認めず、一切の予防医学的な措置は封じられる。原発事故以降に発生した大量死亡率増加は報道さえされてない。

 東日本(東北、関東)の食材汚染は今なお非常に深刻な汚染を示し、メルトダウンした炉心からは空に海に放射性物質が放出し続けている。日本は危険な放射能環境に満ちている。

 周産期死亡率が福島事故9〜10か月後(2012年)から、放射能高汚染県(12%増)、中汚染県(8.4%増)で増加が始まって現在も継続している。死亡率は土壌汚染に相関していた。(ドイツの放射線防護専門誌「放射線テレックス(2017年2月)(Strahlentelex)」No. 722-723 / 02.2017 http://www.strahlentelex.de/ )
 他方、乳児の先天的奇形:複雑心奇形は2011年から、停留精巣の奇形は2012年から増加が確認され、日本全土すなわち土壌汚染の低い地域にも分布し、先天的奇形の原因は土壌汚染の多寡に拠らない食物流通を通じた内部被曝によることが強い蓋然性として推察される。すなわち妊婦の内部被曝の結果であることが推察される。(村瀬ら: 「Journal of the American Heart Association」に 2019年3月13日掲載、村瀬ら: 「Urology」に 2018年5月8日に掲載された「Nationwide increase in cryptorchidism after the Fukushima nuclear accident.」)
 厚労省人口動態調査から全国、福島県、南相馬市の死亡率を検討すると深刻な死亡率の異常増加の事実が認められる(小柴信子及び矢ヶ)。
 その一部を後出の図2(全国、福島県、南相馬市)に示すが、1998年〜2010年の死亡率はほぼ直線的な変化と見做すことができ、その変化を基礎にすると2011年以降の死亡率は全国的に異常に増加する。事故後2011年から2017年の間、予想直線を上回る異常増加死亡数は福島県で11200人(95%信頼区間7710人〜14700人)、全国で276,000人(95% 信頼区間は164,990人〜387,100人)ほどになる。
 なお、2011年の地震津波の関連死は19416人と発表されているが、全国での2011年における死亡者の異常増加分は6万1千人に上り、地震・津波の犠牲者以外に大量の犠牲者が出ている。死因別の死亡率も2011年から急増する。日本全国でお年寄りの老衰死が激増し、アルツハイマー、認知症などの脳神経に関わる死亡率が急増した。異常な死亡率増加は2017年以降さらに上昇する気配を示す。
 危険な放射能環境で開催されることを知らずに日本にやってくる世界の人々は放射線被曝(外部被曝と呼吸と飲食で蒙る内部被曝)に晒される。日本政府と国際原子力ロビーの強行する「知られざる核戦争」の犠牲者を増やしてはならない。世界の市民は日本で進む「知られざる核戦争」:ファシズムの危険を洞察すべきである。

 危険極まりない「復興」「オリンピック」が最大の事故後対策として政治の中心に据えられ、オリンピック競技などが汚染地域で設定される。これが姿を変えた「日本型ファシズム」である。
 このような多数の異常死亡者増が存在することと、東日本における放射能食品汚染が今なお深刻であることと、今なお、メルトダウンした炉心から、空に海に放射能汚染が拡散され続けている事実を正常に受け止めれば、「原子力緊急事態を解くことができない「放射能環境」下で行われるオリンピック日本開催に伴う危険性を世界に警告せざるを得ない。

「日本で生じている健康被害の実態を世界の方々にお知らせしなければならない」と道義的に強く思うのである。


第1部放射能被害の現状

§2 日本の放射能汚染の危険な現状(1)―食糧汚染と死亡率―


図1 日本の食品汚染の現状(厚労省測定:2017年 ホワイトフード地図化)東日本全域が危険域



図2 全国、福島県、南相馬市の死亡率
2011年〜2017年の異常死亡者増は福島県で1万2千人程。全国で29万人程になる。

 図1には2017年上半期の厚労省測定、ホワイトフード地図化による食品放射能汚染地図を示す(https://news.whitefood.co.jp/news/foodmap/8295/)。ホワイトフードHPにはこう書かれている:「検出限界値の平均は22.7Bq/kg。 検出限界値がとても高いにもかかわらず、計2,781検体から放射能が検出され、国の基準値100Bq/kgを超える放射性物質を検出した食品だけでも110検体に及んだ」。より健康を重視した基準1Bq/kg程度を検出目標とするならば(ホワイトフードは最も厳しい基準値として0.5Bq/kgとしている)、夥しい数の食品汚染が報告されるはずだ。この状況は現在も基本的に同じである。

表1 福島県及び全国の2011年以降の異常増加死亡者数


 表1の「実際値」は厚労省人口動態調査の値、「推定値」は1998年〜2010年の直線近似式を2011年以降に外装してそれぞれの年の原発事故等の外因が無いとした場合の予想値である。「異常増加量」は実際量と推定値の差。「95%信頼区間」は標準偏差をσとして±2σの値を用いた。いずれも2011年以降の「異常増加」は有意である。

 食糧制限に関し、政府は「基準値100Bq/kg以下は安全である」と言う。これは明確な虚偽である。食品放射能基準は「社会的・経済的基準」である。汚染された食品を食することによる内部被曝は必ずリスクを伴う。食品放射能基準は「リスクはあるが、流通させざるを得ないので承知してくれ」と言うべきものである。故に、多くの国は異常事態時と通常時の2重の基準を持っている。日本政府は他国の異常事態時の基準と比較して「日本は世界で一番厳しい基準を持つ」などとする(環境庁「放射線のホント」)。ここでも日本政府のファシズムの手口が人々の判断を狂わしている。
 今日本の政府に求められる政策は「汚染地内の農民にも、汚染地外の消費者にもともに危険を知らせ、被曝を避ける最大限の防護柵を講じる」ことである。被災者同士の「汚染地農民」対「全国消費者」の利害相反のたたかいとしてはならない。ともに図2に示す異常(放射能に起因すると考えられる)死亡者多数の現実を率直に認め、共に「命どぅ宝」:人格権に基づくともに手を携えた連帯を示さなければならない。これがファシズムとたたかう民の力となる。
 図2は1998年から2017年まで(20年間)の全国、福島県、南相馬市の総死亡率の年次変化である(南相馬市は2010年以降)。死亡率分析の基礎となるデータは、
日本人口は総務省総計局:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
死亡率は厚労省人口動態調査、総務省統計局:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
政府統計の総合窓口:https://www.e-stat.go.jp/
福島県人口、南相馬市人口死亡数は福島県HP:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11045b/16890.html
に拠った。参考にすべき統計は、小柴信子: https://yahoo.jp/box/aPQLvUhttps://yahoo.jp/box/7aVNQ1
参考にすべき論述は、矢ヶ克馬:「南相馬市の死亡率増加は「帰還」の危険性を物語るのか?」
https://www.sting-wl.com/yagasakikatsuma30.html である。
 このグラフは福島原発事故以後の極めて深刻な異常な死亡率増加を示している。

<福島県と全国の死亡率>
 図2の直線は1998年から2010年までの死亡率年次変化を直線近似したもので、上の直線は福島県、下の直線は全国の死亡率年次変化の近似直線である。近似直線は最小二乗法で求めた。図で分かるように福島県、全国の場合ともに、2010年以前の死亡率は直線により概略近似できる。
 少子高齢化の傾向が2010年以前の直線変化に現れていると仮定すると、福島県の2011年以降の死亡率は少子高齢化傾向を大幅に上回り異常に増加している。異常値の予想からのずれを異常増加死者数とすると、異常増加数を表1に示す。
 2011年〜2017年の7年間の異常増加死亡者数は福島県で11207人(95%信頼区間7714人〜14700人)、全国で276,048人(95% 信頼区間は164,991人〜387,104人)である。
 この異常死亡増加数は2011年以降記録される。周産期死亡、乳児先天的奇形(複雑心奇形、停留精巣)の2011年以降の増加と合わせて考慮すると、これらは強い蓋然性を持って主として「放射能に依存する」と推定される。2012年以降年々の通常死亡率(2010年以前の直線外挿値)からの異常増加はほぼ5%程度である。
 さらに2011年の突出的死亡増を検討すると、福島県では地震津波関連死1607人、行方不明207人 とされている(警視庁資料)ところ、上記異常増加死者数は4016人と計算され、地震津波関連死のおよそ2.5倍の死亡者異常増が浮かび上がる。
 南相馬市立総合病院副院長(元)の及川友好医師が2013年5月8日、衆議院の東日本大震災復興特別委員会に参考人として出席し、原発事故後の患者の健康管理などについての現状報告の中で明らかにしたことは「まだ暫定的ではあるが、恐ろしいデータが出てきています」「われわれの地域での脳卒中発症率が65歳以上で約1.4倍、35歳から64歳までの壮年期では3.4倍に上がっている」と公表した(衆議院インターネット審議中継)。これは氷山の一角とみられるがこのように急増した疾患の死者が上記異常増加死者数の内容となると推察される。放射能の直接害に加えて避難など災害下のストレスが相乗作用する。
 同様に2011年から2017年までの全国の異常増加死亡者数(一番下のプロット)は、上記同様に算出するとおよそ29万人に上り、巨大な異常死者数になる。周産期死亡率や乳児の先天的奇形の発生と全国分布は放射能の関連性を強く示唆するものであるが、同様にこれらの異常増加死亡数も放射能関連死と強く推察される。

<南相馬市死亡率は早すぎる「帰還」・「復興」の危険を物語る>
 南相馬市立総合病院のHPに院長及川友好氏のあいさつがあるが、その中に次のようなくだりがある。
2011年3月11日の東日本大震災、その後の原発事故により、南相馬市の人口は一時7万人から1万人以下に減少しました。平成27年10月現在、6万4千人(うち震災以前からの市民は4万8千人)まで回復していますが・・・。」 南相馬市の実人口は2011年には1万人以下にまで減少し(90%ほどの市民がいったん避難し)、2015年には6万4千人まで回復していると述べている。
 南相馬市は「帰還困難区域」を地域内に抱え多くの市民が避難しその後帰還した自治体である。
 図2の南相馬市の死亡率はあくまで住民票登録数に基づくものであり、市外に避難している人を含む数値なのである。
 図2中の最も上のプロットで示す南相馬市の死亡率は2014年までは福島県の死亡率とほぼ同じであるが、2015年で急増している。放射能の健康被害は直ぐ現れるものとある程度期間が経ってから現れるものがあることはよく知られているところだが、グラフに現れているこの死亡率急増は実人口の変化を考慮すると、いったん避難した人の半数以上の市民が南相馬市に帰還した後で死亡率が急上昇していることを示す。
 2011年から2014年までほぼ福島県のそれと同じ期間は、市のほとんどの人が避難しており、南相馬市より放射能汚染の低い土地(福島県内のより汚染が低い場所、あるいは他府県)で暮らしている条件が反映した低い死亡率として理解できる。細かく見ると、2012年と2013年はむしろ福島県より若干低い値を示しており、2014年は福島県と同率となる。その後、2015年〜2017年の死亡率の急増加が記録された。これは今、国や福島県の進めている「帰還」「復興」の危険性とその犯罪性を表す重大証拠となるのである。南相馬の場合だけでなく、他の市町村でも帰還した方にも同じような危険が迫っているのではないか?命を削って「復興」と「帰還」を迫るのは日本政治のファシズム性を良く表しているのではないか?

§3 日本の放射能汚染の危険な現状(2)―乳児死亡と先天的奇形―
(1)周産期死亡
 Scherbらによる(ドイツの放射線防護専門誌「放射線テレックス(2017年2月)(Strahlentelex)」No. 722-723 / 02.2017 http://www.strahlentelex.de/ ) 日本における死産と周産期死亡、乳児死亡−2001年から2015年までのトレンド解析アップデート

 Scherb, H.H., K. Mori,and K. Hayashi, は「Increases in perinatal mortality in prefectures contaminated by the Fukushima nuclear power plant accident in Japan: A spatially stratified longitudinal study.」:Medicine (Baltimore), 2016. 95(38): p. e4958.において初期のデータに基に新しいデータを加え解析している。

 2011年3月に日本を襲った震災と原発事故の被害を受けた都県においては、日本全体では通常早期死亡が減少傾向を示すのに対して、放射能放出後9か月ないし10か月経った後に当該都県の汚染度に応じて早期死亡と周産期死亡が突然約5%から20%、統計上有意な上昇を示し続けた。汚染されていない他の道府県では、このような影響は見られなかった。

 ドイツの放射線防護専門誌「放射線テレックス(2017年2月)
(Strahlentelex)」No. 722-723 / 02.2017 http://www.strahlentelex.de/



図3 汚染された福島県、群馬県、茨城県、岩手県、宮城県、栃木県(6県)の周産期死亡の年次経緯。
地震・津波直後に一時的に上昇し(21.5%上昇)、10か月過ぎて(2012年1月)からは12.0%の死亡率上昇を示す。



図4 中レベルに汚染された千葉県、埼玉県、東京都(3都県)の周産期死亡の年次経緯。
地震・津波直後に一時的に上昇し、10か月過ぎて(2012年1月)からは8.4%の死亡率上昇を示す。



図5 中レベルに汚染された3つの都県(千葉、埼玉、東京)と高レベルに汚染された6つの県
(福島、群馬、茨城、岩手、宮城、栃木)を除いた38道府県における周産期死亡の年次経緯。
死亡率の上昇は観察できない。



図6 図3,4,5に関する上昇オッズ比の自然対数(プラス/マイナス2標準誤差)。


第一原発事故後にバックグラウンド線量が年間約1mSvから2mSvと倍になる傾向があったと推定すると、図3と図6から年間線量1mSv当たりの死産の相対的リスクが、オッズ比:1.12(12%上昇)、95%信頼区間[1.035, 1.209]となることがわかる。汚染された11の都県では2015年までに自然死産で今までより過剰にナクな多乳児は1140人と彼らは報告している。
自然死産率の上昇はチェルノブイリ事故後のヨーロッパでも観測されている。チェルノブイリ原発事故後、バイエルン州では放射性物質の降下量と、死産および先天奇形の間にはっきりした環境上の量反応関係が観察された。
周産期死亡は土地の放射能汚染と相関して生じていることが解明された

(2)先天的奇形
周産期死亡は地域の放射能汚染と明瞭に関連していたが、先天的奇形は2011年ないしは2012年から発生し、土壌汚染程度に依存せず、全国的に展開していることが特徴である。
①複雑心奇形
名古屋市立大学の村瀬らは 「Journal of the American Heart Association」に 2019年3月13日掲載において、
日本胸部外科学会が福島原発事故前から集計している先天性心疾患に関する手術データに着目し、本研究では2007年から2014年までの手術件数を使用して解析を行いました。このデータには、日本における46種類の先天性心疾患に関する手術件数がほぼ全て含まれています。私たちは、心臓の発生の早期段階の障害に起因する、高度な手術治療を必要とする複雑な先天性心疾患(複雑心奇形・29種類)に着目し、事故前後の手術件数の変化を解析しました。・・・
福島原発事故後に14.2%有意に増加したことを確認しました。

と述べている。


図7 複雑心奇形の経年変化 2011年から増加している。


□複雑心奇形(29種類)のうち有意に増加したものは以下の通りである。

表2 心奇形症状別頻度
付記:複雑心奇形(29種類)の中で手術件数が有意に減少したものは無い。
複雑心奇形は広範囲に認められ、全国的展開があることが認められた。

②停留精巣
停留精巣も同様に手術・退院の統計を取った。
名古屋市立大学の村瀬らは
「Urology」に 2018年5月8日に掲載された「Nationwide increase in cryptorchidism after the Fukushima nuclear accident.」
において、震災前後における手術退院件数の変化 として
停留精巣は生後半年以上経過してから診断されることを踏まえると、震災の影響が手術退院件数に主に反映されるのは2012 年度以降であると考えられました。そこで、2010-2015 年度の6年間を集計したデータ(35 県94 病院)において、2010-2011 年度を震災前、2012-2015 年度を震災後として比較すると、13.4%(95%信頼区間:4.7%-23.0%)の有意な増加が認められました(図9、分布図は図10)。2008-2015 年度の8 年間を集計したデータ(25 県40 病院)においても、12.7%(95%信頼区間:2.1%-24.4%)の有意な増加が認められ、6 年間データと 同様の結果となりました。なお、6 年間データについて3 歳未満の推定手術件数を用いた場合は16.9%(95%信頼区間:2.9%-32.4%)の有意な増加と推定されました。
と述べている。
停留精巣の手術は2012年に増加が始まった。この異常増加の始まりは周産期死亡の異常増加の始まりと同じタイミングである。


図8 停留精巣の手術退院件数の推移 (人口1 千万対)

A. 2010-2015 年度 (6 年データ、35 県94 病院)、B. 2008-2015 年度 (8 年データ、25 県40病院)。いずれの場合でも2011 年度と2012 年度の間で増加が認められる。2010 年度は9 ヶ月分の集計、2008 年度及び2009 年度は6 ヶ月分の集計であったため、それぞれ合計件数を4/3 倍あるいは2 倍したものが示されている。

次図に停留精巣の各県別上昇率を示す。左側は各県の増加数を示し、右側は地図による増加数の展開を示す。福島原発事故現場周辺も多いが、増加率の多い県は遠く九州・沖縄地区にもおよび、全国に展開している。
周産期死亡の場合は強汚染地域、中汚染地域、低汚染地域で明瞭に土壌放射能汚染と相関が示され、低汚染地域では異常死亡率増加が認められなかったが、停留精巣の展開は全国に渡っており、周産期某率の分布とは明瞭に異なる。食物の流通による食べての内部被曝が大きな原因とみられる。後述するが、お年寄りの「老衰」死の激増も全国くまなく展開しており内部被曝によると推察される。


図9 停留精巣の手術退院件数の増加率



図10 停留精巣の手術退院件数の増加率の分布

彼らは「停留精巣のリスクファクターである低出生体重児や早期産の割合は調査期間中においてはほぼ一定であり、原発事故の関与が主要な原因として考えられました。しかしながら、本研究ではそれを証明するには至っていません。」としている。

§4 日本の放射能汚染の危険な現状(3)―精神神経系死亡・障害と老衰等―
 放射能の脳機能への打撃は大きいことが予想される。
 その根拠は
 ①心臓とともに血液が一番集中する臓器であること。内部被曝の場合、水溶性放射性物質と微小な放射性微粒子は血液などに乗って全身を循環することとなるが、血液が集中する心臓や脳に対する被曝が大きい。
 ②脳組織は新陳代謝が非常に少ないと言われているが、脳神経組織に電離・分子切断が生じると蓄積効果となって現れる。
 ③腸内優勢細菌バクテロイデスとアルツハイマーなどの相関が指摘されているが、放射線が活性酸素を生成し、嫌気性菌であるバクトロイズムの活性状態に影響を与えると生命組織の相互依存で脳神経組織の伝達機構などに影響を与え、脳神経系の疾患や死亡率が増大すると予想される。「お年寄りは放射能に影響されない」などの俗論があるが、逆に一番影響される年令帯ではないかと危惧される。免疫力や体力に脆さがあるとされるお年寄りが被曝した場合に、被曝は総合的に体力や免疫力を弱めるので、多大な死亡率増加などが予想される。そこでこれらに関するデータを収集した。


図11 アルツハイマー死亡率―秋田県、福島県、東京都、京都府、鹿児島県及び沖縄県



図12 認知症死亡率 秋田県、福島県、東京都、京都府、鹿児島県及び沖縄県

 図11に見るようにアルツハイマーの死亡率は図2に示した総死亡率と同様に2011年から異常増加を示す。
 直線は2010年以前の変化の近似直線である。2010年以前の死亡率の大きさは北に行く(寒さが厳しい)ほど大きくなる傾向があるが、一意的変化ではない。異常増加の大きさは福島事故原発からの距離には依存していない。被曝では食糧流通による内部被曝が地理的距離に依存しないことと、気候的影響などについて知見を得なければならない。図12は認知症の死亡率である。アルツハイマーと同様な傾向がある。


図13 福島県における特別支援学級児童数と全児童数の変化



図14 特別支援学級児童数の全生徒に対する割合

 図13と図14は福島県における特別支援学級の児童に関するデータである(高崎朋子氏の収集による)。図13からは全児童数は減少傾向が一貫し、特別支援学級児童数は増加傾向が一貫している。特に地震・津波・原発事故の発生した2011年以降の変化が増大している。図4は特別支援学級の知的障害、自閉症・情緒障害及び総数の全児童に対する割合の年変化を示す。いずれも2010年以前は非常に良い直線的変化を示しているが2011年以降急増を示している。


図15 老衰による死亡率変化(秋田県、福島県、東京都、鹿児島県及び沖縄県)



図16 難病登録数の年次変化

 図15は老衰によるお年寄りの死亡率の変化である。前記のいくつかの死亡率と同様、2011年でそれ以前の死亡率変化を大きく上回る増加を示している。2011年を境に急増しているのである。俗論の「お年寄りは放射能に影響されない」は誤りであり、事実はその逆であることを示すのではないか。

 図16は難病の登録された人数の変化である(国立難病情報センター)。2009年以来指定難病数は変わっていない。2011年で急増して変化傾向は2010年以前と別のブランチを形成する。ここでは難病のみを取り扱うが、多くの疾病患者数が2011年以前より異常増加している。


第2部 知られざる核戦争―市民に苦難が押し付けられているー

§5福島被曝――史上初の異常被曝環境
 強調すべきは「高汚染と政治的虚偽に満ちた強制被曝状況」で住民が苦しんでいることだ。
<1>チェルノブイリより深刻な被曝状況
 チェルノブイリでは年間1ミリシーベルト以上では当該政府が「ここは危険です。移住を希望する人が有れば政府が面倒を見ます」、5ミリシーベルト以上では「ここには住んではいけません。生産もしてはなりません」と、文字通りの放射線防護の基本線に沿った住民保護を行った。33年経った今でも子供の保養などを筆頭に市民生活が被曝から保護されている。
 これに反し日本では、チェルノブイリで「チェルノブイリ法」が施行された事故後5年で、「避難指示区域」などの縮小削減が始まり「指示区域外避難者」への住宅供与が停止された。法律で規定されている保護基準の年間1ミリシーベルトは「原子力緊急事態宣言」で無視:捨て去られ、それより20倍も高い20ミリシーベルト基準で規制が行われている。「復興」、「オリンピック」はこの状態:「原子力緊急事態宣言」を発したままの状態で猪突する(猪に申し訳ない表現であるが)。
 チェルノブイリを上回る日本独自の被曝の拡大再生産のしかけ がいくつか生じた。
①その一つはチェルノブイリでは年間5ミリシーベルト以上の汚染地では居住も生産も禁止されたが、日本ではその汚染地域で20ミリシーベルトまでの地域に大量(百万人に達する)の住民が住み、食料を生産し、「売らなければ食っていけない」状況に追い込まれた。そのために、チェルノブイリになかった「汚染地での生産」による被曝の拡大再生産が展開した。食料放射能汚染による内部被曝の全国拡散が日本独特の悲惨な被曝状況を作った。政府は世界の科学的確認事項に反する虚偽「健康被害は無い」を大宣伝し、全住民の被曝強制である「食べて応援」を大キャンペーンし、民間もそれに呼応し「食べて応援」の被曝るつぼが展開した。この際、いわゆる「専門家」、大手マスコミなどの、アベ虚偽政治を拡大する犇力“がなされた。重大な「未必の殺人」への共犯である。
②第2の特徴は、住み続ける条件として行った居住地周辺「除染」の結果集積された大量の「除染廃棄土」が生じてしまった。「除染廃棄土」を政府は公共事業等への再利用で全国に拡散して減少させようとしている。政府はオリンピックのために汚染土入りフレコンバック集積の異常光景を外国客に見せないために強行の度を上げている。放射の汚染処理の原則に違反し汚染土を全国に拡散させようというわけだ。2次被曝を全国に拡散する。
③第三の日本の特徴といえるのは、チェルノブイリでは事故後7か月で石棺により基本的には放射能物質の環境への拡散は極力抑えられが、日本では大量の地下水により汚染水が海に放出し続け、空中への放射能放出も深刻に続いている。メルトダウン炉の封じ込めに成功していず、生活環境と自然環境を汚染し続けている。
④国際原子力ロビーは次の原発事故が生じた場合「住民はリスクを受ける用意があり、汚染地で永住することを望んでいる(1956年IAEA会議)」として「避難や移住を避ける」方針を打ち出したが、その具体策がICRPによっても明確に打ち出された直後に東電事故が生じた。「知られざる核戦争」の実態は、住民を高汚染地域にとどめ置き、健康被害の事実を認めず、したがって住民への健康保護施策を全く欠き、逆に被曝を強制する。これは農民などの「先祖伝来の土地を守りたい」願望に付け込んで適用された。騙しにもちいられた「放射能は健康被害を産まない」キャンペーンは未必の殺人行為である。

<2>日本政府の異常な放射線被ばく対策
――首相の「虚言」が全ての政治・行政の出発点――
 安倍首相は東京オリンピック招致に際し記者会見において、汚染水問題等原発事故の収束状態を聞かれ、「まず、健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くないということははっきりと申し上げておきたいと思います。」と宣言した(2013年9月7日、
https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0907argentine_naigai.html)。
 首相の虚偽に基づく言明の後の施策は、全官庁あげて「風評払拭リスクコミュニケーション強化」運動として現れている。健康被害防止に万全を尽くすのではなく、「健康被害が無いように見せる・思わせる」ことに最大重点を置いて住民の放射線警戒心を解除して強制被曝させているのが実態である。「放射能被害の懸念が全く無い」ことを大キャンペーンして、「知ってもらう、食べてもらう、来てもらう」のスローガンで官民の大運動を展開する。
 政府筋発行の「放射能のホント」(復興庁)、「放射能副読本」(文科省:小・中・高校生対象)には原発事故後の健康被害は全くないという事実無根が述べられ、「放射能に危険はない」ことが強調されている。既に小児甲状腺がんの大量発生があり、「原発事故に関係するとは証明されていない」という体制側からの論が、本来あるべき「予防医学的」な放射線防護政策を妨げている。

(虚言の内容)
(1)放射線による健康被害は一切無い

ICRPでさえ、確率的影響のリスクは低線量まであるとしている:「直線的閾値無しモデル」が国際的に認められている」としているにもかかわらず、日本独特の理論「健康被害は一切無い」虚構を大宣伝する。

(2)100ミリシーベルト以下は安全

これも日本独自に虚構理論である。ICRPは「約100ミリグレイ(低LET放射線または高LET放射線)までの吸収線量域ではどの組織も臨床的には意味のある機能障害を示すとは判断されない」などとしているが、日本では「機能障害を示すとは判断されない」を「機能障害は無い」と言い換え、しかも確率的影響にまで拡大して適用している。日本の虚構理論の根拠としている山下グループの実験はICRPが吸収線量を照射線量で置き換えるという彼らの定義を無視して物理量を扱っていることに根拠を持つ間違いである。彼らの結論「100mGyまでは安全(DNAの損傷は残らない)」は、「吸収線量」と照射線量の区別を明確にし、ICRPの行っている吸収線量定義(ICRP自体が定義を無視しているのだが)に従えば、「2mGyに満たない吸収線量でDNA損傷が残存する」と結論すべきものである。100mSv 以下は安全」など全く科学的根拠は無く、良くぞここまで嘘が吐けたな!という代物である。


<3>コントロールされたマスコミ
 現在の日本のマスコミからは「放射能」の用語はほとんど使用されなくなっている。8周年の報道も大手マスコミは「放射能」の用語を抹殺し、その被害の可能性は毫も語っていない。代って「風評被害」だ。「復興」、「帰還」という言葉で満ちあふれ、あまりにも早すぎる「復興オリンピック」の無謀さに警告することなど、報道機関の客観性人道性の発揮は期待しようが無い。日本型ファシズムの一端である。

<4>「子ども被災者支援法」はまさにアリバイ作り:実効性皆無
 日本では「子ども避難者支援法」と呼ばれている住民保護が謳われた法律が成立した。しかし実態はことごとく政府の「基本方針」で骨抜きにされている。チェルノブイリ法は住民を保護する精神で作られた法律だが、事故後5年目に成立した。同じ事故後5年目で日本は「帰還制限区域」などを縮小し、避難者の住宅支援を停止した。避難者の糧道を絶つことで帰還を促し、早すぎる「復興」を強制する。汚染地域内住民の置かれた悲惨な状況を隠ぺいし、避難者の意志に関わりなく住宅支援を停止し、放射能の危険を隠して「復興オリンピック」が強行されている。ここに巨大な原発事故処理の日本の特殊性が出ている。住民保護ではなく日本市民・世界市民を棄民する壁だ。

§6 知られざる核戦争(1)―歴史―
<1>原爆投下前後
1945年7月17日-8月2日

アメリカはポツダム会談の最中に原子爆弾第 1号(トリニティ)の爆発実験に成功し,この巨大な爆発力と原子力が戦後世界の覇権の決め手になることを確信する。

1945年8月6日 広島にウラン爆弾投下
1945年8月9日 長崎にプルトニウム爆弾投下
1945年9月2日 ミズリー号艦上で日本の降伏文書調印

降伏文書調印式の機会に乗じて数人のジャーナリストが広島と長崎を訪問した。 9月3日にウィルフレッド・バーチェット,ウィリアムス・H・ローレンス記者 広島を取材。
ウィルフレッド・バーチェット 5日付け『ロンドンデイリー・エクスプレス』に,「原爆の災疫――私は,世界への警告として,これを書く――医師たちは働きながら倒れる 毒ガスの恐怖――全員マスクをかぶる」と題した記事には「最初の原爆が都市を破壊し,世界を驚かせた30日後も,広島では人々が,あのような惨禍によって怪我を受けなかった人々でも,『原爆病』としか言いようのない未知の理由によって,いまだに不可解かつ悲惨にも亡くなり続けている」と記す。
ウィリアムス・H・ローレンスは 5日付『ニューヨーク・タイムズ』に,
原爆によって4平方マイルは見る影もなく破壊しつくされていた。人々は1日に100人の割合で死んでいると報告されている」と記す。
このような原爆投下の悲惨な状況が世界に伝わると大きな反響が広がり始めた。

1945年9月6日
 マンハッタン管区調査団の指揮官トーマス・ファーレル准将 が東京で記者会見。

「広島・長崎では,死ぬべき者は死んでしまい,9月上旬現在において,原爆放射能で苦しんでいる者は皆無だ」
「残留放射能の危険を取り除くために,相当の高度で爆発させたため,広島には原爆放射能が存在し得ず,もし,いま現に亡くなっている者があるとすれば,それは残留放射能によるものではなく,原爆投下時に受けた被害のため以外あり得ない」
(広島ジャーナリストHP)

1945年9月8日
 マンハッタン計画最高責任者:グローブス准将,トリニティー核実験現場に記者カメラマンを案内。

グローブス「トリニティーの残留放射能は広島・長崎よりずっと低空で爆発したせいだ。」
「日本の死者の一部は放射能が原因だろうが,その数は相当少ない」

科学者としてマンハッタン計画を主導したオッペンハイマー 「爆発の高度は,地面の放射能汚染により間接的な化学戦争にならないよう,また,通常爆発と同じ被害しか出ないよう念入りに計算してあります」。
「爆発から1時間もすれば救援隊が町に入っても大丈夫です」
。(プルトニウムファイル p117)

1945年9月8日
 計画の医学面を担当したウォーレンら,マンハッタン管区医学調査団が広島入り。

ウォーレンの任務は負傷者の治療ではなかった。原子爆弾が放射能を残したかどうかだ。
調査 団員ドナルド・コリンズ 「自分たちはグローブスの主席補佐 トマス・F ・ファレルから,『原子爆弾の放射能が残っていないと証明するよう』言いつかっていた」と打ち明ける。 (プルトニウムファイル p119)


1945年9月22日

アメリカ軍の合同調査団 (〜1946年頃まで活動)

合同調査団は,連合国軍最高司令官総司令部軍医団(団長アメリカ太平洋軍顧問軍医アシュレー・オーターソン(全代表))・マンハッタン管区調査団(団長アメリカ陸軍大佐トーマス・ファーレル)・日本側研究班(班長都築正男)の3者で構成。

 アメリカ軍の合同調査団は放射線急性障害などを調査した。
 そこで引き出された結論は
   (1)放射線急性死にはしきい値が存在し,その値は1 シーベルト。
   (2)放射線障害にもしきい値が存在し,250 ミリシーベルト。
   (3)それ以下の被爆なら人体には何らの影響も生じない。
 というものであった。

 しかも,これらのしきい値は1945 年の9 月はじめまでの急性死を対象として引き出されたもので,10 月から12 月までの大量な急性死は除外されていた。
 被爆者が示した急性症状は脱毛,皮膚出血班(紫斑),口内炎,歯茎からの出血,下痢,食欲不振,悪心,嘔吐,倦怠感,発熱,出血等である。しかし米軍合同調査団は脱毛,紫斑,口内炎のみを放射線急性障害と定義した。
 脱毛,紫斑,口内炎が2km を過ぎたあたりから急減するという結果を,「放射線急性障害は,2km 以内に見られる特有のもの」とした。米軍は核戦略上の必要性のために,放射性降下物による被害を世界に知らせない目的で好都合な事実だけを集めた。


1945年9月27日 ファーレル グローブスに宛て覚書

「原子爆弾の報告」 (『米軍資料原爆投下の経緯』東方出版 1996奥住喜重・工藤洋三訳 資料 E,ファーレル准将の覚書,p.141〜)。

この「覚書』の注目点は,主たる死傷の原因は爆風,飛散物,および火による直接の ものであること,残留放射能がないことの2つを強調している「われわれの科学上の要員によって,何らかの放射能が存在するかどうか,詳しい測定が行われた。地上,街路,灰その他の資料にも,何も検出されなかった」。 (米軍資料原爆投下の経緯 p149)


 ウォーレン

 上院特別委員会で証言したときは,放射能による死者 は全体のわずか 5-7%だと見積り,「放射能は誇張されすぎ」と述べている(プルトニウムファイル p120)。
 原子爆弾の被害を,巨大な爆発力と熱線による火災と火傷による被害と説明し,原子爆弾を「通常爆弾」の大規模なものと規定した。
まず広島について。
 日本とアメリカで報道された話に,疎開を応援するために地域に入った 人々が死傷したというのがある。真相は,爆撃以前に発せられていた疎 開命令を実行するために広島に入っていた疎開要員が爆弾の爆発に巻きこまれて多くの死傷者がでたということである。 (米軍資料原爆投下の経緯 p148)
ついで長崎について。
 日本の公式報告は,爆発後に外部から爆心地に入った者で発病した者 はいないと述べている。 (米軍資料原爆投下の経緯p150)


1945年 11月 28日

マンハッタン計画の総責任者であったグローブスが,上院原子力特別委員会でまず最初に受けた質問は,原子爆弾が日本に放射能を残したかどうかである。グローブスは断固として答えた。
ありません。きっぱり「ゼロ」でした」。 ( プルトニウム・ファイル』上 p124)


1945年までの 総括

 アメリカの政府一軍部の核兵器に関する公式見解
原子爆弾の放射能の影響 をできるだけ過小評価するもの,ことに放射能の持続的影響を無視できるとするものであった。

1.原爆のTNT火薬何万トン相当の爆発力というような,従来型爆薬か ら類推できる兵器性能を強調する。
2. 熱線・光線による高温は,“地上に出現する太陽"といわれすべてのものを蒸発させ焼きつくす。火災・火傷による被害が甚大である。これ は爆発の瞬間に現れるが,物陰に隠れていれば避けられる,というような面を強調する。
3. 爆発当初の強いガンマ線の威力は強調するが,中性子による環境の放射能化は言わない。“死の灰"はまき散らされて薄まり,残留放射能はないとする。

TNT火薬何トン分という爆発力をできるだけ強調すること,
ついで原爆の熱線や光線は物陰に隠れたり,伏せていれば避けられるという 宣伝を盛んにした。放射能の影響は直ぐ消滅することを強調し原爆投下まもなくでも,爆心地へ入ることができるということを公式見解として盛んに宣伝した。
(「内部被ばく」について(その4):
http://www.ne.jp/asahi/kibono/sumika/kibo/note/naibuhibaku/naibuhibaku1.htm


<2>戦後の展開
1946年 被爆者をモルモットにしたABCC 設立
1947年3月 原爆傷害調査委員会(ABCC)開設
 ABCC は「調査はすれども治療せず」という被害者をモルモットにする残虐な対応をしたことで知られているが,彼らは原爆被害をありのままに調査する視点は持っていなかった。ABCC は学術組織である全米科学アカデミー・学術会議を形の上では母体としながら,米軍合同調査団の調査目的とメンバーをそのまま受け継ぎ,「合衆国にとって最も重要である,放射線の医学的・生物学的影響についての研究にかけがえのない機会を提供する機関」として発足したのである。
 もし軍事目的でなく,ありのままに原爆放射線被害を調査するのならば,科学研究にふさわしく,客観的外界を忠実に調査し,誠実に結果をまとめなければならない。急性症状には,脱毛,皮膚出血班(紫斑),口内炎,歯茎からの出血,下痢,食欲不振,悪心,嘔吐,倦怠感,発熱,出血等があった。それらの分布を正直に調査しなければいけない。なぜ,2km 以内は急性症状が放射線と関わりを持つとしながら,「それ以遠の症状は放射線との関わりがない」ものとしてはじめから断定しなければならなかったのか?科学的見地からは回答が出るはずがない。ABCC は「有意な線量」(初期放射線による被ばく)を浴びた被爆者と比較対照するべきものとして,2km 以遠で被ばくした「被爆者」を「非被爆者」として選んだのである。この際,原爆以前の広島市民の白血病死亡率が全国平均の約半分の低さであることなど,巧みに隠して,白血病死亡率が全国的レベルになるという増加を隠ぺいしているのである。ABCC は事実を見ないで核戦略にそう評価をした。ABCC が真摯に科学的な姿勢をとるならば,被ばく影響領域を自ら調査して決めるべきなのに,核戦略上に必要性から名目的に調査」し,ファーレル言明を事実をゆがめることによりフォローした米軍合同調査団の結論に従ったのは,はじめから軍事機関であり,専門的技術はそのための手段にすぎなかったからなのだ。ファーレルの9 月6 日に「言明」した「広島・長崎では,死ぬべきものは死んでしまい,原爆放射能のために苦しんでいるものは皆無だ」という枠内にデータを強制的に整える軍事に依る「科学」支配が行われたのである。

1957年 「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」を制定。
 この法律において,内部被曝は無視できるとするアメリカの基準をそのまま採用。
 法律で定められた被爆者の定義は第一条に定められているが,その精神は,3 号に記述される。
「原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」とみなされる。
 具体的条件は「政令で定める」とされているが,この内容は,基本的に1945 年に米軍合同調査団が定めた「2km 以内」,「2 週間以内」というものである。この根拠は科学的な被ばく線量評価から帰結したものでは無い。
さらに,
 第七条 「原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。」とする規定から内部被曝を除外した。

1986年になってようやくDS86 第6章として残留放射線の評価が公表されるのだが,放射性降下物の評価に関連して記述されているデータは全て巨大台風の枕崎台風の襲来した後の調査によるものである。特記すべきは残留放射能の評価は唯一DS86でなされただけである。
 枕崎台風は大洪水がもたらされた広島だけ襲ったのではなく長崎をも襲い大量で強烈な雨風を伴っている。いずれも土壌に残留していた放射性物質を洗い流し,海に運んだ。他方,放射性降下物の線量評価に関わる測定は,一番早い測定で長崎は被爆後48日,広島は49 日で,いずれも台風襲来後なのである。台風襲来後の測定では原爆によりもたらされた残留放射能の現場保存がなされていず,線量評価に不適なデータを米軍は収集させた。この現場保存がなされていないことはDS86 第6章では「風の影響あり」と,台風の影響を認めているのであるが,全体の結論を記述するDS86「総括」の項では,決定的に「雨風の影響はない」と結論を押しつけている。これは明白に科学の倫理違反である。当然この文書による残留放射能評価は現実を反映していない。

1968年,日米両国政府が国連に共同提出した「廣島・長埼原爆の医学的被害報告」においては,「原爆被害者は死ぬべきものはすべて死亡し,現在,病人は一人もいない」としている。

<3>国際原子力ロビーの歴史的動き
 国際原子力ロビー:IAEA, UNSCEAR、ICRP の前2者は全て核推進の立場にある国の政府により推薦される者を委員とし、最後のICRPは原子力推進を立場とする各国の政府資金と原子力産業の資金により運営される民間団であり、共通して特徴とすべきは、これら委員会はいずれも放射線被曝被害を客観的に論じたり住民のそれからの保護を名目とする活動をしているが、全ての委員は利益相反の関係にある。ベイヴァースロックは「密猟者と猟場管理人と同一人物である」と表現する(福島原発事故に関する「UNSCEAR2013年報告書」に対する批判的検証、科学1175(2014)
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/Kagaku_201411_Baverstock_r.pdf))。
 例えばICRPは「放射線防護」をタイトルとしているが、常に核推進の立場と時代時代の反核運動・放射線防護の国際的見識の間を揺れ動き、科学的・人道的基準ではなく、「社会的・経済的基準」に堕さざるを得なかった。ここに「社会的・経済的」とは国際原子力ロビーの特殊用語であり、「核推進の政府の都合の良いように」、「政府と核産業に過大な負担を掛けないように」という内容の粉飾表現である。
 IAEAは1996年の「チェルノブイリ10年‐事故結果をまとめる」(ONE DECADE AFTER CHERNOBYL Summing up the Consequences of the Accident, Proceedings of an International Conference Vienna, 8-12 April 1996)、においてチェルノブイリの次のアクシデントが生じた場合の新方針を打ち出した。住民は毎日の放射線リスクを受け入れる用意がある」、「介入という範疇で規制される古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには不十分である。住民が汚染された地域に永住することを前提に心理学的な状況にも責任を持つために、新しい枠組みを作り上げねばならないとして、チェルノブイリの次のアクシデントが生じた場合の新方針が打ち出された。その内容は、住民保護の観点から施行されたチェルノブイリ法に基づく「避難・移住」を否定し、情報統制と専門家・医師らの統制が必要なことだった。
 それを受けてICRPは2007年勧告において、新線量区分体系を具体化し、緊急時において年間20ミリシーベルトから100ミリシリーベルトに及ぶ大量被ばくを住民に及ぼし得る具体策を提案した。
 それは「住民を保護する立場」ではなく国際原子力ロビーの都合から見た棄民策適用である。「事故はつきものだから住民は被曝を受け入れよ」という原発産業の開き直りである。
 その直後に東電福島事故が生じた。悲しいかな、IAEA、ICRPに具体化された国際原子力ロビーの通りの方針が日本の事故に適用された。
 それに日本政府独特の住民「愚民視」と虚偽による「住民の洗脳」が加わる過酷な政治である「知られざる核戦争:日本ファシズム版」が展開した。

 下記にICRPの歴史的重要ポイントをピックアップしたが、ICRPは時には国際的な核兵器廃絶運動に押されて防護基準を厳しくするようなこともあったが、委員会が核戦略「知られざる核戦争」遂行上の任務を明確に帯びていたことを歴史は示している。すでに1977年のICRP勧告は「防護の3原則」――①行為の正当化、②防護の最適化、③個人の線量限度設定――を導入し、功利主義を剥き出しにしていた。防護の第1原則ではリスクより「公益」(核・原発関連企業や軍閥の利益)が多ければ、リスク:被ばく者に死をもたらす営業活動が「正当化」できると主張する。第2・第3原則は防護も国と産業の経済的負担を考慮して「ほどほどに」という住民の被曝防護も安くつく枠内に留めよという主張である。
(若干のICRP歴史)
1950年  ICRP発足 米国内放射線防護委員をほぼそっくりICRP委員とした。
1951年  内部被曝委員会封鎖 内部被曝を科学的・道義的に探究したのでは「社会的・経済的」基準には達し
       えないことを認知し、委員会を封鎖した。
1954年  ICRP勧告「被曝を可能な最低レベルまで引き下げるあらゆる努力を払うべき」
       As Low As Possible ここではまだ人道的立場を表す表現をしている。
1959年  リスクベネフィット論(人権を経済活動の下位に置く)ICRP勧告「実際的に可能な限り低く維持する」
1966年  容易に達成可能な限り低く維持する(ALARA:As Low As Readily Achievable)
1970年  原子力委員会 コストベネフィット論(命の金勘定)
1973年  ICRP勧告 経済的及び社会的な考慮を行った上で合理的に達成可能な限り低く維持する
       (ALARA:As Low As Reasonably Achievable)
1977年  ICRP勧告 防護の3原則導入 【1】行為の正当化、【2】防護の最適化、【3】個人の線量限度設定
       功利主義を剥き出しにし、第1原則ではリスクより公益が多ければ、被ばく者にリスク:死をもたらす
       営業活動が「正当化」できると主張する。
       第2、第3原則は防護も国と産業の経済的負担を考慮してほどほどに、という住民の被曝防護も
       安くつくうちに留めよ 、という主張である。
2007年  ALARAを原発事故の時にまで適用
       住民が強制される年間被曝線量を20〜100ミリシーベルトにまで公然と拡大する道を明示した。

特にIAEAは1996年に行ったチェルノブイリ会議のまとめで「住民は毎日の放射線リスクを受け入れる用意がある」、「介入という範疇で規制される古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには不十分である。住民が汚染された地域に永住することを前提に心理学的な環境にも責任を持つために、新しい枠組みを作り上げねばならない」としている。
その開き直った「社会的・経済的」原則に基づいて事故を起こした際の被曝防護量(本質は被曝を強制できる限度)をそれ以前の公衆に対する年間1ミリシーベルトを大幅に引き上げる「国際的お墨付き」をICRP2007年勧告で行ったのである。
このように国際原子力ロビーが、次の原発事故に際しては、チェルノブイリで住民保護法である「チェルノブイリ法」を施行させた二の轍を踏ませないように、準備万端整えたところに、東電福島事故が生じたのである。


§7 知られざる核戦争(2)−国際原子力ロビーの役割―
 国際原子力ロビー:IAEA, UNSCEAR、ICRP の前2者は全て核推進の立場にある国の政府により推薦される者を委員とし、最後のICRPは原子力推進を立場とする各国の政府資金と原子力産業の資金により運営される民間団であり、共通して特徴とすべきは、これら委員会はいずれも放射線被曝被害を客観的に論じたり住民のそれからの保護を名目とする活動をしているが、全ての委員は利益相反の関係にある。ベイヴァースロックは「密猟者と猟場管理人と同一人物である」と表現する(福島原発事故に関する「UNSCEAR2013年報告書」に対する批判的検証、科学1175(2014)
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/Kagaku_201411_Baverstock_r.pdf)。
 例えばICRPは「放射線防護」をタイトルとしているが、常に核推進の立場と時代時代の反核運動・放射線防護の国際的見識の間を揺れ動き、科学的・人道的基準ではなく、「社会的・経済的基準」に堕さざるを得なかった。ここに「社会的・経済的」とは国際原子力ロビーの特殊用語であり、「核推進の政府の都合の良いように」、「政府と核産業に過大な負担を掛けないように」という内容の粉飾表現である。
 IAEAは1996年の「チェルノブイリ10年‐事故結果をまとめる」(ONE DECADE AFTER CHERNOBYL Summing up the Consequences of the Accident, Proceedings of an International Conference Vienna, 8-12 April 1996)、においてチェルノブイリの次のアクシデントが生じた場合の新方針を打ち出した。住民は毎日の放射線リスクを受け入れる用意がある」、「介入という範疇で規制される古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには不十分である。住民が汚染された地域に永住することを前提に心理学的な状況にも責任を持つために、新しい枠組みを作り上げねばならないとして、チェルノブイリの次のアクシデントが生じた場合の新方針が打ち出された。その内容は、住民保護の観点から施行されたチェルノブイリ法に基づく「避難・移住」を否定し、情報統制と専門家・医師らの統制が必要なことだった。
 それを受けてICRPは2007年勧告において、新線量区分体系を具体化し、緊急時において年間20ミリシーベルトから100ミリシリーベルトに及ぶ大量被ばくを住民に及ぼし得る具体策を提案した。
 それは「住民を保護する立場」ではなく国際原子力ロビーの都合から見た棄民策適用である。「事故はつきものだから住民は被曝を受け入れよ」という原発産業の開き直りである。
 その直後に東電福島事故が生じた。悲しいかな、IAEA、ICRPに具体化された国際原子力ロビーの通りの方針が日本の事故に適用された。
 それに日本政府独特の住民「愚民視」と虚偽による「住民の洗脳」が加わる過酷な政治である「知られざる核戦争:日本ファシズム版」が展開した。

 事故直後「原子力緊急事態宣言」が発せられ、法律では公衆(一般市民)は年間1ミリシーベルト以下で守られなければならないことになっているところ、あろうことか、年間20ミリシーベルトまで被曝を強要されることとなった。
 これと同様な事態が、放射性廃棄物の制限にも出現した。法律では100Bq/kgであったものが8000Bq/kgまでとされたのである。
 「原子力災害対策指針」は避難住民に対してスクリーニングの基準をOIL4(Operational Intervention Level4)(事故直後の40,000cpm(120Bq/cm2)と1か月後の13,000cpm(40Bq/cm2))と指定されているところ、福島県は事故直後に100,000cpmを基準とした。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-iryou-screening.html

 このように国際原子力ロビーが、次の原発事故に際しては、チェルノブイリで住民保護法である「チェルノブイリ法」を施行させた「失敗」の二の轍を踏ませないように、準備万端整えたところに、東電福島事故が生じたのである。
 
§8 科学を踏まえた放射線防護の考え方

 内部被曝を外部被ばくと同じ尺度で取り扱ってはならない,局所的危険度が見えなくされている。臓器単位での吸収線量評価では内部被曝の危険度が数値的に隠されてしまっている,などなど。そもそも電離の実態を科学的に評価するために吸収線量を「どんな領域に着目して測るか」などは科学的な見地からは「今まさに問題となっている部分について計量する」のが妥当な方法である。ところがICRPは科学的な必要性とは無関係に「臓器単位」と一方的に宣言し,その宣言に従わせるという支配体制を作ってしまった。そのような無理な支配体制を施行したがためにその無理が通らない点に新たな「創作的」物理量を作って,辻褄を合わせざるを得なくなった。放射線加重係数(生物学的等価線量),組織加重係数(実効線量)等がそれである。これらはICRPを科学体系としてみるためには科学を破壊する創作物である。結果的にICRP体制は複雑極まりないものとなった。事実としての被曝評価をすることに関しては,このような大きなハンディキャップを抱えているが,原告の被曝評価を正確にするためにはこれらの確認は避けて通れない。ここに解説して原告の被曝評価を正しく評価したい。

<1> 科学の体を成さないICRP
 今までICRPは放射線による健康被害を,入力としての放射線に対し出力の健康被害を直結し,放射線の物理的作用,それに対する生物体の応答などをブラックボックスに入れたまま論じてきた。ブラックボックスに閉じ込める手法は,電離の現実の具体性を捨象し,単純化と平均化を行うことによる。ブラックボックスは被曝とその健康被害の関係を科学的に把握する手段を奪う。その方法の一つは例えば,組織加重係数と実効線量である。
 出力としての被害をICRPの認知したものに限定し,被害を極めて限定的に「認知」し健康被害を極端に過小評価してきた。
 そのために使われてきた手段が,放射線加重係数,生物学的等価線量,組織加重係数,実行線量,吸収線量と照射線量の混同等々である。これらは全てICRPが定めた基本量(吸収線量)の定義を便宜的にゆがめて用いることと,因果律関係を記述する科学の基本を無視(破壊)することであった。ICRPは因果関係として放射線と健康被害の関係を探求することをシステムとして阻害している。
 ICRPを科学の目で見た場合,科学の原理に悖る諸システムを導入する。
 ①「物理量を定義通り使用しない」(吸収線量を照射線量で置き換える)方法であり,
 ②科学としての背骨を抜いた因果律の破壊(生物学的等価線量:健康被害の多い放射線に対して被害の多い分だけ入力としての放射線エネルギーが大きいことにしようと約束して真の吸収エネルギーを放射線加重係数倍する。出力が大きいことを入力が大きいことにしましょうと約束する。科学の因果律に反する取り扱いをICRP配下に強制する。)であり,
 ③科学の基本精神の合理性を破壊した「実効線量」(吸収線量を組織加重係数により臓器に分割する:そもそも臓器ごとの吸収線量は足し合わせたりできる物理量ではない)を設定する。ICRPは科学以前の体系となる。これにより健康被害を事実上がんだけに限定するという被害の過小評価を体系化する。
(1) 定義通り使っていない物理量:吸収線量
ICRPは吸収線量を定義したにもかかわらず,定義通りに運用していない。
吸収線量は注目する領域内に放射線がもたらしたエネルギー(その領域に吸収されたという意味で吸収エネルギーと言う)とその領域の質量の比率として与えられる(定義)。放射線のもたらしたエネルギー(吸収エネルギー)とは放射線が領域内に電離を行いその電離に費やされたエネルギーを指す。
① 吸収エネルギーは注目する領域内でおこなわれた電離に要したエネルギーの総和である。他方,照射線量は注目する領域に入射する放射線量である。
その領域に電離作用を行ってさらにエネルギーが余れば背後に透過する。照射された全エネルギーが領域内ですべて電離に費やされる場合もあろうが,そのエネルギーの一部分だけが電離に費やされる場合もある。測定的に照射線量を計測するにはその領域の前面に第1の測定器を置き,その領域の背後に第2の測定器を置き,それらの計測した線量の差が吸収線量となる。
ところがICRPは第1の測定機しか用いない;すなわち第1の測定器の計測量を持って吸収線量としている。この典型的な誤りがモデルファントムに基づき臓器の実効線量を求めさせるICRPの方法に現れている。表面からの一定の深さに仮想的な測定器を置くことによって線量当量とさせているのである。
② ICRPは吸収線量の代わりに照射線量を使っている。吸収線量と照射線量を同等に扱い,吸収線量を語らねばならないほとんどの場合に,照射線量を吸収線量としている。そのため,急性症状などの現れる閾値などを巨大化させ,あるいはDNAの非修復限度線量(閾値)を極端に過大評価する。
結果として被害程度を過小評価し健康被害を無いものと見せる。
同じ照射線量を人間,マウス,薄く塗布した培養膜に照射する場合のそれぞれの吸収線量は明瞭に異なる。
被照射体が同じ媒質であると仮定すれば,半価層が同じであるとすることができ,単純化して計算できる。照射体の実効的厚さで吸収線量が近似計算できる。真の吸収線量がそれぞれの健康被害に関係があり,吸収線量すなわち電離された数が組織的影響の閾値などに意味がある。被照射体を透過して背後に抜けた放射線量は被照射体の電離とは何のかかわりを持たない。にも拘らず,照射線量を用いて閾値などを取り扱う場合は,明らかな誤謬を招く。上記例の中ではたとえば培養膜に吸収されるエネルギーすなわち吸収線量は照射線量の極々一部である。この場合に吸収線量の代わりに照射線量を使うならば,数桁違いの過大な閾値などを計算上得ることとなる。例えば後述の山下俊一グループの誤りのように,実際の異常DNAの残存は1.7mGyで生じているのに,照射線量で置き換えられた線量は250mGyという巨大値で「異常DNAが残存した」とする。これを人間が照射されたとして人間に当てはめるならば「本当は1.7mGyで危険なのに,100mGyまで大丈夫」という論理となる。自ら決めた定義通りに吸収線量を持ちない,まさにペテン的線量操作である。実際に放射線により引き起こされている健康被害を無視する論理的根拠とされる。
③ 吸収線量まがいの物理量として生物学的等価線量(放射線加重係数),実効線量(組織加重係数)を科学の原則を踏み外して採用した。これらは「線量」と定義されているが,物理的実体のないものである。

<2> 因果律の無視:似非科学に転落させる道
 刺激を受けた体(物体)は刺激による反応を生じ,刺激の結果となる現象を生む。
 ここで刺激とは,結果として生じる現象の原因をなす作用である。
 情報処理プロセスの用語でいえば入力である。 また,刺激の結果としての現象は,刺激(作用)を受けて生じる結果であり,情報プロセスに例えるならば出力である。
 反応および結果を刺激とのかかわりで論ずるのが科学であり,科学は因果律を表す。ICRP体系はこの肝心な論理が適用されない。

(1)生物学的等価線量
 「放射線加重係数」はアルファ線の健康被害が大きいことを理由に,放射線加重係数を20として,アルファ線のエネルギーが実際のエネルギーの20倍あるとして扱う。これは出力を入力に落とし込んでいる操作である。そこから導出される「吸収線量」が「生物学的等価線量」なる仮想的物理量である。
 ICRPは臓器ごとという計測単位を固執する。そして全世界的にこの方法を制度化している。これがICRPの支配力である。「臓器ごと」に固執するあまり,臓器単位の計測では表しえない現象と直面し,その矛盾を解決するために科学を破壊する。その場逃れのために因果関係を破壊する「放射線加重係数」なるものを導入した背景である。
 前述のごとくアルファ線の電離密度が高く危険であることはこの臓器ごとの評価方法では決して評価できない。大多数の電離を受けない細胞を,電離を受けたとする母数に組み込んでしまうからである。この現実の電離状況を把握できない方法に辻褄を合わせるために便宜的に放射線加重係数なる量を導入し因果律の記述を破壊する。作り出した架空な物理量である「生物学的等価線量」を吸収線量に置き換えてさらに混迷を深めたのである。
 入力すなわち刺激量が現実の事実より大きいものとして「入力を出力倍する」という数値操作は因果律を破壊する。取り扱われる放射線加重係数なるものがいかに機械的なものであるか現実の諸現象に合わないものであるかは,真摯に放射線学を行っているものにとっては明瞭である。一定の数値を持った係数という機械的に固定される量であるからそこで科学は停止される。
 便宜的に導入した「人為的操作」は科学的思考を破壊する。
 因果律を破壊する操作は当然ながら科学をも破壊するのである。
 そのことは出力を生み出す原因である入力を記述する方法が現象を記述することに対して不十分であることの証左である。ICRPは入力の評価基準を「臓器ごと」としているが,この着目点が不合理で出力としての現象を記述するに事欠く有様であり,これを糊塗するのにさまざまな恣意的操作を誘引しているのである。臓器ごとの記述が「全面的でなく,事実に基づかない」ことを意味する。
 係数という特定の数値倍することは,出力自体を「科学抜き」で形而上学的に概念化する。 これらは加害因子(入力:放射線量)の見方と,被害(健康影響)を見る観点の両者が狂っていることを示す。
 ここで導入原理としている生物学的等価線量はがん発生率,死亡率,線エネルギー付与,等々のさまざまな現れ方をする諸現象を一律に係数倍して処理することを強要し,まさに具体科学の破棄を招いていることを確認する。

(2)組織荷重係数・実効線量
同様に実効線量を導入する組織加重係数は被害の大きさに合わせて実効線量(吸収線量が土台にある)を配分する。吸収線量は加算すべき物理量ではない。そのような物理量を合算させることは科学論の基本原則に合わない。結局,組織加重係数および実効線量は,まさに恣意的な架空の物理量であり,実効線量は合理的科学則に従わない蜃気楼的「線量」である。がんなどの被害(出力)の大きさを入力としての「吸収線量まがい」に倒しこむ。さらに本来組織ごとに配分するような性質を持たない吸収線量を意味不明な算数を用いて組織ごとに分割する。実効線量は「吸収線量まがい」としか言いようがない。非科学の上に建てられた「約束ごと」であり,ICRPが政治的支配力に任せて恣意的にゆがめてきた似非科学がここに象徴される。

 以下にICRPの体系において①入力の記述,②放射線被ばくした身体の放射線を受けて生ずる対応,③出力の誤り,について具体的に記述する。

<3>「100mSv以下の被ばくは安全である」の虚構
「100mSv以下の被ばくは安全である」は「1.7mSv以上では遺伝子の損傷は修復できない」の誤りである(山下グループ実験)
 ICRPは組織的影響は100mSv 以下では臨床症状が見られず,影響が出ることが確認されていない。確率的影響では低線量領域で閾値なし直線モデルが世界的研究の合意点であり,リスクはごく低線量でもあるとしている。しかし,日本の政府及び「専門家グループ(原子力ムラと称される)」は確率的影響も組織的影響も100mSv 以下の臨床的証拠はないとしている。WHOが国際的に確認した「公衆の被曝限度は年間1mSv 」という国際基準をも無視している。あの保守的なICRP基準さえも無視して予防医学的精神を真っ向から否定し国の義務である住民保護を放棄している。
 これは指摘されているように10mSv 以下の被曝でも大きなリスクがれっきとした疫学調査により証明されているという科学的知見にも反しており,かつICRP特有の誤った防護体系から派生する深刻な誤りでもある。

(1)吸収線量について(照射線量を「吸収線量」とする基本的誤り)
 ICRPは照射線量と吸収線量の分別を単位系の上で無くした。それをてこに事実上照射線量と吸収線量を混用し,動物実験やバイオ実験を含め,ほぼすべての場合において吸収線量の代わりに照射線量が使われている。照射線量=吸収線量の取扱いをしているのである。
 照射線量は客体に対して外から照射する線量である。吸収線量は客体に吸収された線量である。照射線量は吸収線量を与え,さらに背後に透過する。透過した線量は吸収線量とは無関係である。
 吸収線量は昔はレントゲン(R)で表された,レントゲンは空気単位体積当たりに生じたイオンの電荷量で定義された。放射線は電離作用でプラスマイナスの電荷を生じさせるので,照射線量は被照射体直前の空気に電離を与えた放射線の電離能力として定義されたのである。これを,空気の標準状態を基本状態として,空気の体積を空気の質量に換算し,1電離の平均エネルギーを34電子ボルトとして電荷量をエネルギーに変えた。照射線量の単位自体を吸収線量と同じ量に変換することで,莫大な恣意的操作に道を開いた。もはや照射線量の基準が電離の数を表す電荷で測るのではなく,被照射体直前の電離の能力の代わりに入射するガンマ線のエネルギーに置き換えられた。その挙句,被照射体への吸収線量が照射線量で置き換えられた。
 放射線は被照射体内部で電離しただけエネルギーを失い,被照射体は電離されただけエネルギーを与えられる。電離された量をエネルギーで表し,単位質量あたりの電離に要したエネルギーを表したものが,吸収線量である。吸収されたエネルギーで吸収線量が定義されているにもかかわらず公然と「吸収線量」の名前で照射線量が用いられた。
 確認すべきは,①放射線被ばくは生命体に対する入力:健康被害を生じるもとになる刺激である。②健康被害はその出力である。③生命体に与えられた過剰な電離:活性酸素を処理する諸能力の活性度が,出力を入力に関係づける反応係数である。
 上記①〜③が放射線被ばくによる健康被害を科学として把握する必要要素である。この必要要素とそれらを科学的に把握することがICRPではいかに破壊されているかという概要を上述した。
 因果関係を科学として刺激の量を表す物理量(応答論では入力)が被照射体の中に与えられた電離の総量の持つエネルギーを被照射体の質量で除した吸収線量である。この定義に違反して物量が語られるのは科学のかの字に抵触する。ICRP自体が科学になることができないのである。
 照射線量は全てが吸収線量になるわけではない。一部吸収され吸収線量とカウントされたあとの残りは物体(生命体)背後に透過する。透過した放射線は生命体の変化に何の関わりも持たない。この何のかかわりも持たない物量を加算して導いた放射防護学にどれほどの信ぴょう性があるというのだろう?
 生命体の放射線影響は吸収線量で引き起こされ,決して照射線量によるのではない。図17に示すように,吸収線量は照射線量マイナスの透過線量である。吸収線量を計測するには青色物体の前後に計測器を置いて測定し,その両者の差を吸収線量とすべきである。しかし現行では,臓器あたりの線量を求めるためにモデルファントムの表面から臓器までの深さに相当する場所に測定器を置いたとして,その測定器の線量を臓器の実効線量とする。まさに臓器に対する照射線量である。照射線量を測らせて「実効線量(吸収線量)」としているのだ。臓器の厚さなどは問題にされずすべて照射線量を持って吸収線量とするのである。ここでモデルファントムとは放射線の人体影響を見積もるための人体模型である。


図17 照射線量・吸収線量・透過線量。青色部分が今注目する生命体を表す。透過線量は生命体に何の電離も与えない。吸収線量を計測するには青色物体の前後に計測器を置いて測定し,その両者の差を吸収線量とすべきである。

 正確な吸収線量は照射線量の何%かに過ぎない。しかし,原爆被爆者の線量評価についても,核分裂連鎖が生じた場所からの初期被ばくは一切が,爆心地からの距離により到達線量が計算され,到達線量がそのまま吸収線量とされた。
 建物などの影にいた人は遮蔽が考慮されたが,すべて,外部被ばくについては照射線量が吸収線量として用いられた。
 内部被ばくについては後述のごとく「内部被ばくは無かったとして隠ぺいされてきたのが歴史である(「知られざる核戦争」)。
 そこでは,外部被ばく(ガンマ線と中性子線)と内部被ばく(アルファ線,ベータ線,ガンマ線)の放射線による効果の違いがまったく無視され,外部被ばくと同じ尺度で計算対象とされた。内部被曝の元となる放射性降下物は測定の名において(大洪水に洗われたことを無視して)「健康被害を与えるに値しない少量である」とされた。
 放射線被害を知る上での動物実験や細胞実験・培養実験等においてもすべて照射線量で結果が論じられている。
 照射線量と吸収線量無分別の典型的な例として,山下俊一氏グループによる研究:鈴木正敏ら:『低線量放射線被ばくによるDNA損傷の誘導と排除』(長崎医学会雑誌 87 239(2012))がある。
 実験方法は滅菌カバーガラス上に細胞を播種し,X線200mGy/分線量率照射などと記述している。
 彼らは考察で,

「放射線被ばくによるDNA損傷の誘発を調べると,100mGyという低線量放射線でも明らかにDNA損傷の誘発があることが確認できた。」「100mGyでは照射6時間後までに大半のDNA損傷が除去され。 さらに,照射24時間後までには照射前の状態にまで戻ることが確認できた。 もちろん, 照射前からフォーカスが存在していることから, 放射線被ばくによって誘発されたDNA損傷が全て排除されたかどうか判断するのは困難であるが,フォーカス陽性細胞の割合や細胞核あたりのフォーカス数も照射前の状態に戻っていることから, 単に数的な解析だけでなく, 質的な解析の結果も, 放射線により誘発されたDNA損傷が全て修復され排除されたと考えることが妥当であることを示している。
以上の結果から, lOOmGyの低線量放射線被ばくによってできるDNA損傷は,細胞が対応できるレベルの範囲内であると結論づけた。
それでは, 細胞が対応できないレベルの放射線線量はどの程度なのであろうか。 今回の結果では, 250mGy以上の放射線照射では,照射24時間後でも残存するDNA損傷が存在することが明らかになった。 DNA損傷修復の動態を見ると, 照射24時間後以降でも若干のDNA損傷数の減少が見られるが, それを考慮しでも,250mGyによって誘発されたDNA損傷は全て修復できないことが明らかである
 したがって, 細胞が対応できる放射線のレベルの下限は, lOOmGyよりも大きく, 250mGyよりも小(である)」

 と述べている。ここの考察で「照射線量」との明記はなく,「100mGyという低線量放射線」という表現しかない。この表現はICRPの線量評価の実態をよく反映している。半価層が100个箸掲殕椡佞慮さを1个伐渉蠅靴毒殕椡佞傍杣される線量を求める。その結果はほぼ完全に「DNA損傷修復」がなされた「吸収線量」は100mGyではなく0.69mGy,損傷の全ては修復できないとする線量は250mGyではなく1.73mGyということになる。

 吸収線量に焦点を絞って表記すると「100mGyではすべて修復し」ではなく「0.69mGyではすべて修復し」,「250mGyでは損傷は修復できない」のではなく,「1.73mGyでは損傷が修復できない」とすべきなのである。
       ↓
 問題はDNAの損傷を実験したとする「カバーグラス上の播種された細胞」に照射した線量を「吸収線量」としていることである。極めて薄い層である細胞に照射した放射線は大部分が突き抜けて背後に出る。細胞組織を電離して細胞にエネルギーを与える量(吸収線量に数えられるエネルギー)は極めて小さいのであるが,彼らが用いているICRP的方法の誤りは,背後に通り抜けた放射線の持つエネルギーをも「吸収された」仲間に入れられてしまっているのである。
 彼らは100mSvの照射では24時間後にはすべての細胞に与えられた損傷が修復されたが,250mSvでは損傷の修復が完璧ではなく,修復されない細胞が残ったと実験結果を整理している。しかし彼らが100mSvおよび250mSvと言っている実効線量は大変な過大評価をしている。実効線量として位置付けるのは飛んでもない過誤であるが、この過誤がICRPの「約束ごと」でありICRP体系から強制される必然的な過誤なのである。
 きちんと計算してみると0,69mSvおよび1.73mSvの吸収線量となる。彼らが言う「100mSv以下ではすべての損傷は修復された」のではなく,実は。「0.69mSvの吸収線量ではすべて修復された」とすべきである。「250mSvではDNA損傷が修復しきれなかった」のではなく,「1.73mSvの吸収線量では修復されないDNAが残存した」というのが彼らの実験の真相なのだ。

 スイスにおける200万人以上の16歳未満の小児を対象とした自然放射線と小児がんの関連研究では全がんのハザード比は外部被ばく蓄積線量について1mSvあたり1.04と報告(Spycher BD et al.Environ. Health Perspectives, 123, 622-628 (2015))されているが,鈴木正敏らの研究はこの研究結果の必然性をよく裏付けるものだ。

 被告ら原子力推進グループは鈴木らの研究を「100mSv以下は安全」の口実に使っているが,正しい科学的処理の結果は1mSvですでに修復されない異常遺伝子が残留して発がんに結びつくということの科学的証拠になっているのである。
 彼らはこのように自ら定義した「吸収線量」の物理的適用を系統的に一貫して誤って使用し,ために上記の例では2mSvに満たない吸収線量でDNA損傷が残存する事実を,「100mSvまでは安全(DNAの損傷は残らない)」と大きな虚偽を導いている。
 「100mSv 以下は安全」など全く科学的根拠は無く,とんでもないことである。
 山下グループだけでなく,およそあらゆる動物実験,培養実験で同様の手法が行われており,「有害な組織反応」の誘発及び「確率的影響」が現れ始める被ばく線量や「閾値」のレベルが過大に結論される。上記培養試験で閾値などはおよそ150倍も極端に高く評価され,結果,低線量被ばくが安全,無害とキャンペーンが張られているのである。


図18 半減期(時間)と半価層(距離)
          L:半価層の長さ(半価層は放射線の強さが半分になる長さ)
          この関係は長さを時間に置き換え,半価層を半減期に置き換えると全く同じ関係が成り立つ
    ちなみに半価層の概念は次のようなものである。
        物質中でのγ腺減衰の関係式
           関係式 N(l)=Ne-(log2/L)l
        N(l):距離lを通過するときの放射線強度,
        N:物質層に突入するときの放射線強度,

 照射線量を吸収線量の代わりに使うという操作により、現実に被害として生じてきた低線量におけるどれほどの「有害な組織反応」の誘発及び「確率的影響」が無視され,過小評価され,被害者が切り捨てられてきたか計り知れない。

<2>組織加重係数および実効線量の誤り
<1 組織加重係数設定と実効線量について>
 実効線量を導入する基礎となった組織加重係数は,被害の大きさに合わせて合計「1」となるように線量を配分する。実効線量は照射線量を組織加重係数に合わせて各臓器に配分し,各臓器の線量が合計で照射線量となるようにしたものである。この実効線量は物理的に意味をなさない。
 ICRPは1977年勧告以来被ばく量の実効線量(Sv:シーベルト)を導入した。簡略して説明すると以下のようになる。

 人体コンピューターファントム(各臓器に相当する場所の内部被ばく,外部被ばく等価線量を計算)により各臓器のSvを求め,これにその臓器の確率的影響(がん発生率)に対応した組織荷重係数(tissue weighting factor)を掛け合わせて,すべての臓器について足し合わせたもの(臓器ごとに違う発がん放射線感受性を合算して一つにまとめた量)を実効線量(effective dose)と名付けた。なお,ガンマ線,ベータ線の場合は照射線量がそのまま等価線量Svとし(放射線荷重係数=1),アルファ線の場合は放射線荷重係数=20を掛けて等価線量Svとした。

 生命体の反応を考慮した放射線の実効的強さと説明されているが,科学原則の放棄と放射線被害をICRPが設定したがんなどの被害に限定し真の放射線被害を封印するという2点についての誤りがある。
 ①放射線加重係数同様,被害(出力)の大きさに応じて生物に対する被害の誘因力である「吸収線量」(入力)を加重配分するものであり,科学の基本:因果律の法則的考え方,哲学に反する。科学的思考とは,現象には現象を誘引する原因(刺激)があって物体ごとに刺激に対する特有の反応メカニズムがあり,それぞれの反応の結果それぞれの現象が生ずる,という考え方である。ICRP的方法論はこの科学の基本を根本において覆す方法論である。吸収線量と被害に関係の便宜的な方法であるという反論が予想されるが,この便宜的方法に陥る限りその後の科学が停止されるのであり,科学の自殺行為なのである。
 すでに述べたように,因果律の破壊であり,科学的ものの見方に反するものである。便宜的に「思いついた」程度の用い方であり,放射線の作用を本質的に科学として探究するうえで科学的思考停止を招く決定的な科学上の禁則違反である。
 ②仮に身体全体に関する被害の全容が分かったとして,被害を数量化して比較できる基準が作成できたとする。その場合,個々の臓器の被害は全体に対する部分であり,100分率で表すことができる(組織加重係数)。組織加重係数を,被害を表す数値として捉えるときには,示量変数(大きさを表す変数)なのである。
 ところがこれに反して吸収線量(臓器の質量に対するその臓器に吸収されたエネルギーの比率)は質量で基準化された示強変数である(臓器ごとに吸収されたエネルギー自体は示量変数である)。
 このICRPの恣意的方法論での第2の誤りは,足し合わせることなどできない物理量(示強変数)を足し合わせるという形式科学のイロハを踏み外している。組織加重係数を加味した実効線量は「足して1になる」のだという。およそ科学以前のおとぎ話のほら吹き物語の世界である。

<2 放射線の生み出す被害について>
 組織加重係数・実効線量の「体系」においては放射線の健康被害はがんなどに限定されている。その限定だけで科学違反である。
 放射線の電離=分子切断の結果,生命体が修復力(免疫力)を発揮し電離被害の処理を行った結果,すべてが修復できた時は健康でいられるが,修復できないものが健康被害の原因となる。
 その健康被害は「フリーラジカル症候群」として知られる(吉川敏一 京府医大誌 120(6), 381~391, (2011))。あるいは「酸化ストレス障害群」(酸化ストレスの医学、診断と治療社(2014))である。
 放射線に打たれ電離を受けて応答する生物体の被照射体:電離=分子切断を受けるターゲット:は,細胞核DNA,ミトコンドリアDNA,体内に多数ある水分子,体組織の化学分子等がある。電離の時間的(単数回被曝か継続的被曝か)空間的(局所的か体全体に分散する分散タイプか)特徴に対応して貪食細胞(マクロファージ)等の働き方,働きやすさ,働きにくさが問題になり,それに応じて修復能力の発揮され方が異なる。結果として修復されなかった電離がどのようメカニズムを通じて健康被害として現れるかが分析対象である。このことの探究が本来の放射線防護学であり,本来の科学である。
 修復できないものが健康被害の原因となるのは周知の事実である。
 その健康被害は「フリーラジカル症候群」として知られる(上記:吉川敏一 京府医大誌 120(6), 381~391, (2011))。
 電離作用の結果としての健康被害は,脳こうそく,アルツハイマー,パーキンソン病,エイジング,白内障,ドライアイ,花粉症,口内炎,心筋梗塞,心不全,肺気腫,気管支ぜんそく,腎不全,糸球体腎炎,逆流性食道炎,炎症性腸疾患,アルコール性肝疾患,非アルコール性脂肪性肝炎,肝切除,閉そく性動脈硬化症,動脈硬化症,関節リュウマチ,膠原病,放射性倦怠症,がん,等々である。
 およそあらゆる体調不良が電離すなわち分子切断の修復失敗で生じるのである。
 驚くべきは,ICRPの組織加重係数・実効線量システムにおいて健康被害が発がんのみに限定されそれ以外は排除されていることである。ICRPはがんなどほんの少数の疾病を認めるにすぎない。加えて免疫力の低下という放射線の直接的健康被害は,他の疾病などで体力の弱っている者に対しては今まで発病していない者を発病させる,疾病を重くする,死に至らしめることが知られている。放射線の被害は他の要因と加算的に健康被害をもたらす。電離が分子切断を帰結する以上,修復できないものは免疫力の低下を誘い,諸症状を誘起する。放射線被害は他の体調不良要因と相乗的に作用し,被害を拡大するのである。しかし,ICRPは放射線被害を他の要因と対立的に取り扱うのである。
 以上のように,組織加重係数・実効線量なるものも設定の土台から科学を逸脱したものである。
 誠実な,科学の原理に基づいた科学的考察可能な放射線防護学を世界の人々は望んでいる。放射線防護学が歪んでいるだけ,犠牲者の数と苦痛が大きくなっているのである。その最たる人々が原爆被爆者であり,被爆体験者であり、福島放射能公害被災者なのである。

§8のまとめ

  • 1.ICRPは物理量を定義通り使用しない。吸収線量を照射線量で置き換えている。似非科学に陥落する第1の問題点である。
  • 2.科学体系としての背骨を抜くに値する「因果律の破壊」をシステムとしている。生物学的等価線量:健康被害の多い放射線に対して被害の多い分だけ入力(としての放射線エネルギー)が大きいことにしようと約束して真の吸収エネルギーを放射線加重係数倍する。出力が大きいことを照射された物体の反応の機構として捉えず,入力が大きいことにする。これが第2の問題点である。科学の因果律に反する取り扱いを配下に強制することは放射線防護学に支配機構として君臨しようというものである。
  • 3.科学の基本精神の合理性を破壊した「実効線量」を導入した。吸収線量を組織加重係数により臓器に分割する:そもそも臓器ごとの吸収線量は足し合わせたりできる物理量ではない。ICRPは科学以前の体系となる。これにより健康被害を事実上がんだけに限定するという被害の過小評価を体系化する。
  • 4.「100mSv以下の被ばくは安全である」の虚構は吸収線量と照射線量を混用することから始まった。山下俊一グループは正確には「0.7mGyまでは放射線によるDNA損傷は快復した」と言うべきところを100mGyまでと言い,「1.7mGyではDNA損傷は快復しなかった」と言うべきところを250mGyと言い換えた。
  • 5.放射線による健康被害は活性酸素症候群と呼ぶべき大量の症候群を成す。しかしICRPは上述の手段で事実上がんと少数の臓器の健康不良にとどめている。科学をする手段を放棄して生命体の反応をブラックボックスに閉じ込めた方法ゆえに出力として被害を限定できた所以である。