―出版予定書籍の案内と紹介― 東京オリンピックがもたらすこれだけの危険 渡辺悦司

2019年5月

――出版予定書籍の案内と紹介――

東京オリンピックがもたらすこれだけの危険

憂慮する科学者、医師、避難者、市民は警告する(仮題)



緑風出版から近日出版予定


編集:渡辺悦司
執筆者・寄稿者:石津望、大和田幸嗣、大山弘一、岡田俊子、落合栄一郎、桂木忍、川崎陽子、小出裕章、下澤陽子、
鈴木絹江、鈴木優彰、園良太、つばくらなおみ、羽石敦、ノーマ・フィールド、福島敦子、藤岡毅、本行忠志、三田茂、
矢ヶ克馬、柳原敏夫、山田耕作、山田知恵子、渡辺悦司

2019年5月30日



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東京オリンピックがもたらすこれだけの危険 憂慮する科学者、医師、避難者、市民は警告する(pdf,9ページ,266KB)
 


 皆さま、われわれは、以下の内容で東京オリンピックによる被曝の危険に警告し開催に反対する書籍を出版する企画中です。原稿は出版社に発送しました。以下はその出版企画の内容(私の書いた企画の呼びかけ「序文と解題」)です。本企画に対しぜひご支援を頂くようお願い申し上げます。

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   序文と解題  渡辺悦司

 もうおよそ1年後には、東京オリンピック・パラリンピック*が開催されようとしている。本書は、オリンピックによってもたらされようとしている放射線被曝の恐るべき危険を広く日本と世界の人々に警告するための緊急出版である。
  *以下「東京オリンピック」「東京五輪」「東京2020」という用語を東京パラリンピックをも含む広い概念として使用することとする。
 すなわち、①東京オリンピックに参加することを計画しているアスリートと観客・観光客に、福島や東京が全く「安全である」「被曝リスクはない」「被曝しても健康影響はない」という日本政府の宣伝を決して信じないように強く勧告し、②短期間であっても福島や東京圏に滞在することがもつ被曝の危険性とリスクを正しく認識して、オリンピック・パラリンピックへの参加を再考するように呼びかけ、③オリンピックの大宣伝と大建設ブームの対極として進められている、日本政府による避難者や被災者への援助切り捨て、政府基準で年間20mSv(日本政府はこれに該当する空間線量率を3.8µSv/hと規定しており、実際には20mSv/yと偽って33mSv/yを押しつけている注)という高汚染地域への住民帰還、それによる「棄民」と確率的「大量殺人」――この戦争犯罪にも匹敵する「人道に対する罪」――について知るように促し、④現実に現れ広がり深刻化している福島・東京および日本全体における、被曝影響と考えるほかない健康被害を想起するように訴え、⑤日本政府に対してオリンピック開催を返上するように要求し、各国政府・スポーツ団体に対して選手の被曝リスクを真剣に考慮して東京オリンピックに選手団を送らないように勧めるものである。
 本書は、日本政府やマスコミが組織している東京オリンピックに向っての大宣伝の中で、この憂慮を共有する多くの市民・科学者・医師・避難者の人々からの寄稿により構成されている。
 言うまでもなく、本書への寄稿者全員が、本書に記すオリンピック反対の理由や根拠の全てについて意見を共にしているわけではない。各寄稿者の憂慮・反対の論拠や範囲や強調点には当然ながら見解の相違やニュアンスの差がある。だが、いかなる理由や根拠からにせよ、東京オリンピックが「危険である」と声を挙げるべきであるという点では寄稿者は完全に見解を一にしている。
 本書は3つの部分からなっている。
・第1部では、東京オリンピックでの被曝がなぜ危険なのかを科学的医学的に解説する。
・第2部では、東京オリンピックの危険を警告し開催に反対している科学者・医師・市民の発言を紹介する。
・第3部では、福島原発事故の健康影響は本当に現れていないのかを検討する。福島や東京・関東圏からの避難者たちが実際に経験した症状を概括し、その発言を紹介する。
 最も重要な論点は、「短期滞在でも危険である」と考えるべき十分な根拠があるということである。以下、主要な論点を、放射線科学・医学および具体的被曝状況という客観的側面と、道義・人道・人権上の正義に反する側面とに大きく2つに分けて概観してみよう。

  放射線科学・医学および被曝状況の側面から言えること:
 まず第1に、放射線科学と具体的な被曝状況の分析に基づいて以下の諸点を確認できる。
 ●福島原発事故の放出放射能量:福島原発事故による放射能放出量は決して「わずか」ではない。大気中放出量はセシウム137ベースで、日本政府の推計でさえ広島原爆168.5発分である。つまり日本政府の見解は、広島原爆168.5発分の「死の灰」によっても何の健康影響も一切ないという主張なのである。これは虚偽以外の何のものでもない。実際には、日本政府の行っているいろいろな過小評価を補正すると、大気中放出量ベースでも、国際的なINES基準によって比較して、福島事故は大気中放出量でチェルノブイリ原発事故とほぼ同等、海水中・汚染水中放出量を入れるとチェルノブイリ以上の放射能を放出した史上最大の原発事故であった。日本の陸土への放射能沈着量は、放出量の約27%(UNSCEAR)、日本政府発表から計算しても広島原爆のおよそ50発分である。原水爆やチェルノブイリ事故と違い、強力な上昇気流が起きなかった福島事故では、陸土への沈着量がとくに大きい。福島事故では、現存する残留放射能量は極めて大きく、チェルノブイリの汚染地区やネバダ核実験場とその近郊でオリンピックを行うに等しい。(第1部第1章)
 ●放射性微粒子:とくに福島原発事故の固有の特徴であるガラス状不溶性放射性微粒子の危険性は極めて大きい。欧州放射線リスク委員会ECRRの係数で400〜5万倍(中央値で約4500倍)である。しかも鉄分を含むので一度生体膜に付着すると排出されにくい。気象研究所の足立光司氏が発見した粒径2µm程度の微粒子は、現在約1ベクレルBq(1秒間に1回の原子核崩壊が起こる放射能量)程度であろう。それを1個を吸引したとしても、ECRR係数でおよそ4500Bq相当のリスクとなる。政府側専門家のよく言及する「安全レベル」とされる体内のカリウム40(約4000Bq)を超える「危険」水準に達する。さらにNHK番組で紹介されているように粒径1〜数μmの微粒子は東京・関東圏に広く沈着している(後述)。さらに、放射性微粒子は再飛散・再拡散・移動しつつある(土壌との反応による新たな不溶性微粒子再形成、交通機関と物流による拡散と都心集積、ゴミ焼却による微粒子の放出、放射能汚染された除染除去土・ガレキなど[ここでは除染残土と呼ぶ]の再利用による拡散、「黒い物質」の生成と拡散など)。つまり、短期滞在でも、アスリートと観客・観光客は、放射性微粒子を吸引したり食事により摂取する危険性が避けられず、生涯にわたって健康上のリスクを負うことになる。(第1部第2章)
 ●放射線量率は低くない:とくに野球とソフトボールの会場となる福島あずま球場は、セシウム137ベースで最大6176.0Bq/kgの土壌汚染がある(第2部第7章)。この数値は、日本政府の係数(×65)を利用して平方メートル当たりに換算すると40万1440Bq/m2となる。これはチェルノブイリ法での避難権利区域(18万5000〜55万5000Bq/m2、1〜5mSv/y相当[シーベルトSvは放射線被曝量の単位、1Svが放射線致死線量の最下限値])にあたり、しかも強制避難レベルにかなり近い水準である。避難指示が最近解除されたような汚染度の高い地域(政府基準での帰還基準20mSv/yは実質33mSv/y注)に10日あまり滞在すれば、国際的な一般公衆の年間被曝限度1mSvを上回る外部被曝量になる。これにさらに食品の放射能汚染度が加わるので、福島への観光旅行も決してリスクがないとは言えない。
 ●線量表示の操作疑惑:すでに『放射線被曝の争点』緑風出版(2016年)で指摘したように(194〜197ページ)、政府発表の空間線量は、モニタリングポストも放射線測定器も大きく過小に操作されている可能性が高い(ほぼ2分の1)。実際には、福島だけでなく東京の空間線量も公式発表値以上に高い可能性が否定できない(市民による実測値は上同77ページに引用)。
 ●トリチウム汚染水の海洋放出の計画:オリンピックまでに汚染水の海洋放出を開始しようとする日本政府の計画は、反対が圧倒的だった公聴会の結果(後述)にもかかわらず、依然進行中である。福島の事故原発で海洋放出すると、福島沖の南向きの海流に乗って東京方向に流れる。薄められた放出水は海水より比重が軽く海水の表面に広がる。海水中の有機物やプランクトンと反応し有機トリチウムに変化する。台風での塩害が関東平野の広い地域で観測されたように、強い東風あるいは北東風が吹けば、太平洋沿岸地帯だけでなく関東・東北の広範囲な内陸地域でもトリチウムによる被曝影響が考えられる。トリチウムのとくに有機物と結合した化合物には特別の危険性があり、その危険度は外部被曝の50〜600倍である(第1部4章、第2部第10章)。
 ●福島産の食材を選手村に集中的に提供する計画:オリンピック・パラリンピックで提供される食事には福島産の食材が優先的集中的に提供される計画である(「選手へ福島の食材を」読売新聞2018年7月24日付記事)。食品に関する日本政府の基準100Bq/kgは、事故以前は放射性廃棄物の基準であり、基準以下であっても安全とは決して言えない。各地の市民測定所で発見されるように、現在でも低線量の汚染された食品の事例は少なくない。放射能の本質からして、数ベクレル/kgであっても決して安全とは言えない。(第1部第9章)
 ●東京圏の水道水の放射能汚染:水道水についても、放射能汚染が続いている。東京や関東圏の水道水中の放射性セシウムを吸着フィルターを使って測定すると、驚くほど高い値となる(5ヵ月間使用で最高1400Bq/kg)。2018年以降、東京の水道水のセシウム汚染はおよそ2倍に上昇しているという結果が出ている。東京都水道局の浄水場発生土からは、2019年2〜3月にも、依然として最高48Bq/kgの放射性セシウムが観測されている。飲用の場合の内部被曝、シャワーの場合の肺と皮膚よりの被曝、水泳などの場合の内部被曝の危険性について、深刻に考えるべきである。(第1部第8章)
 ●被曝影響の蓄積性:食品の放射能汚染が体内で蓄積されていく傾向については第1部第9章が検討している。それと同様に、がん発症の引き金となるDNA・ゲノムの変異は「蓄積」されて発症に到ることが明らかになっている。これは、最近注目されている慢性炎症からの発がんの場合でも同じである。つまり、少量の追加被曝でも、すでにDNA・ゲノム変異あるいは炎症性病変が「蓄積」されておれば、低線量の被曝でも発症への「最後の引き金」になり得るということである。
 ●放射線感受性(影響の受け易さ)の個人間の相違は非常に大きい:年齢・性・遺伝的特質・アレルギー体質などにより、個人によっては放射線感受性が極めて高い人々が存在する。とくに幼児や成長期の子どもなどはとりわけ感受性が高いと考えられる(過小評価が明らかなICRPでさえも2〜3倍)。内部被曝の場合の個人差は最大で100倍。対数の中央値でとると上下に10倍ということになる。つまり微粒子から同じ線量を浴びても、10倍相当の被曝影響が現れる人々がいるということである。(第1部第3章)
 ●事故原発は今も不安定な状態:事故原発からはいまだに「自発核分裂」(東京電力の表現)による放射能が放出され続けている。政府・東電が現在進めでいる廃炉作業自体が放射能とくに放射性微粒子を放出し続けている。大量放出や再臨界を引き起こす危険が現にある。重大な余震や新たな地震、津波の危険も去っていない。地震で損傷した排気塔(その内部には広島原爆1発分の放射能があるといわれる)が倒壊する危険性がある。その除去作業がオリンピックまでに始まろうとしているが、排気塔を溶断することになっており、その際大量の放射性粉塵を放出し、極めて危険な再飛散の事態が生みだされようとしている。
 ●除染残土(およそ広島原爆5発分の放射能を含む)の再利用による拡散:除染作業で出た残土(2200万トン、日本政府のデータから計算すると広島原爆約5発分が含まれる)が公共事業で再利用されようとしている。日本全土が人為的に再汚染されようとしている。場所や詳細が公表されていない場合が多く、日本政府は文字通り核物質をバラ撒く「核テロリスト」として振る舞っている。福島では、除染残土の「中間貯蔵施設」へのピストン輸送によって、輸送路周辺地域の放射線量が急上昇している。
 ●国連科学委員会UNSCEARの「被害ない」評価の虚偽:政府や専門家たちは、福島原発事故放出放射能による健康被害について、国際的権威としてUNSCEARの評価を持ち出して、影響や被害は「一切ない」と主張している。このような主張は虚偽のものである(第1部第6章)。
 ●現実に健康被害が出ている:福島だけでなく東京や関東からの避難者の実体験で明らかなように(第3部第4章)、また最近の病院統計などが示すように、現実に健康被害は深刻な形で発生している。臨床医学的にも、操作されている疑惑のある厚労省の病院統計でも(がんとくに白血病)、さらには文科省の学校統計(子供の精神発達障害)などにさえも、はっきり現れている(第3部第2章)。また福島と関東の子供たちの尿検査の結果(第3部第3章)にも明確に現れている。人口動態統計の分析からも、事故後の7年間で約28万人という過剰な死亡増が生じており、日本の人口学的に深刻な事態は明らかである(第2部第12章)。福島や東京からの避難者が実際に体験した健康影響についての手記も、現実の被害を示している。
 ●被曝によるアレルギー症状:短期滞在であっても深刻なリスクが考えられる症状の1つは、自己免疫異常・アレルギーである。すでに、避難者などの経験により、福島や東京への訪問や滞在によって、アレルギー体質・症状をもっている場合それが急に重症化したり、今はアレルギー体質・症状をもっていなくても被曝により新たに発症したりする危険性が示されている。(第3部第1章・第4章1)
 ●本来何をなすべきか:帰還政策・復興政策を中止し、反対に大規模な避難、とりわけ幼児や子供たちとその親たち、若者たちを汚染地域から避難させ、それを国家的に組織し支援すべきである(第3部第4章4)。これ以外に道はない。太平洋戦争中の学童の「集団疎開」に学ぶべきなのである。現在すでに避難している避難者たちへの住宅と生活の支援を国家的・行政的に支援すべきである。福島のみならず東京を含む広範な東日本の汚染地域からの「避難の権利」を保障すべきである。オリンピック予算は本来事故による被曝被害の対策、避難者の支援策に使われるべきなのである。

  道義・人道・人権の側面から言えること:
 第2に、東京オリンピックへの反対の根拠として、その道義的・人道的側面、人権と民主主義の観点からの危険性を認識することもまた重要である。
 ●避難者や被害者の犠牲の上に行われている:オリンピックの準備は、避難者や被害者への援助を切り捨てと一体のものとして行われている。東京オリンピックを容認することは、避難者・被害者への「棄民政策」を容認することにつながる(第2部小出論考)。それはまた、20mSv/y(実質33mSv/y注)地域への避難者の帰還を強いることを基礎として行われている。日本政府・放医研の放射線リスク係数に基づいてさえも、帰還によって15%の人が帰還後に早死することが予測されるのである。日本では、福島原発事故放射能への被曝強要による「大量殺人」が現在実行中である(第1部第5章)。オリンピックを無批判に受け入れたり参加したりすることによって、この戦争犯罪にも等しい人道への犯罪を容認してはならない。
 ●除染労働者・建設労働者の犠牲の上に行われている:土木建設独占企業の莫大な利益と対照的に、除染作業は、劣悪な条件の下で除染労働者の「搾取」と被曝を前提として、被曝による疾患や致死の発生という犠牲を払って行われている(国際環境NGO「グリーンピース」の調査報告、国連人権理事会特別報告者による報告などを参照のこと)。オリンピック施設の建設作業現場でも同じである。労働安全衛生法に違反する危険作業や恐るべき過重労働、無休日での長時間労働が常態化している。すでに2人の労災死が報告されている。だが、これは氷山の一角にすぎない。国際建設林業労働組合連盟(BWI、本部・ジュネーブ)は、外国人労働者を含む、「労働者が極めて危機な状況に置かれている」「危険な現場や過重労働の実態」などを指摘し、「惨事にならないようすぐに対策をとるべきだ」とする報告書を大会組織委員会や東京都、日本スポーツ振興センター(JSC)に送った(朝日新聞2019年5月16日)。無批判にオリンピックに参加することは、これら除染労働者・建設労働者の置かれてきた苛酷で違法な半ば奴隷的な労働条件を容認することにつながる。
 ●福島原発事故被害「ゼロ」論に基づき日本と世界の人々への被曝強要政策を正当化する道具としてのオリンピック:オリンピック誘致決定時の安倍首相の声明のとおり、日本政府は、福島事故放出放射能による被曝の健康被害を過去・現在・未来について一切「ない」とする見解である。このようなことはありえない虚言である。被曝のリスクに関して日本政府の言うことを一切信用してはならない。「ゼロ」論の論理には、核事故であろうと核実験であろうと核戦争であろうと、その論理によって支配される民族を、けっきょくは人類全体を、被曝による自滅へと導いていくほかない本質がある(第1部第5章)。被曝被害が「全くない」というウソとデマによる支配が確立した日本では、被曝被害が「ない」ことを宣伝し「証明」するために、可能なかぎり多くの、可能なかぎり著名な(日本と世界の)人々を、可能なかぎり大きな被曝リスクに曝し、結果として可能なかぎり多くの人々の健康を破壊して被曝関連の疾患を発症させ、可能なかぎり多くの人々を被曝関連の疾患による致死に陥れるということが、あたかも「自己目的」であるかのように実行されている。文字通り「知られざる核戦争」が行われているのである(第2部第12章)。
 ●東京オリンピック誘致過程での汚職と腐敗:JOC竹田恒一(前)会長へのフランス検察当局の贈賄容疑での捜査が進行中であることに典型的に現れている(第2部第6章)ように、日本のオリンピック誘致過程自体が汚職にまみれた「道義に反する」「汚れた」行事である。このような腐敗オリンピックを許してはならない。
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 本文と上記の追加の根拠を全て総合すると以下の結論が出てくる。
 ドイツの医師団体(IPPNWドイツ支部)が警告するように、東京2020は「放射能オリンピック」「被曝オリンピック」となることは避けられない。全世界の最高のアスリートと全世界からの観客・訪問者が被曝リスクに曝される重大な危険が迫っている。
 東京オリンピックは、日本政府が行っている原発事故被害者・避難者切り捨て政策、帰還者への「棄民」政策=「大量殺人」政策の一環であり、知らずに参加したり無批判にその観客となることは、日本政府のそのような試みを黙認し容認する共犯につながりかねない。
 東京で開催されようとしているオリンピックは「人間の尊厳」を損なうものである。オリンピック憲章の規定する「オリンピズムの目的」すなわち「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」に真っ向から反している。
 日本政府は東京オリンピックを返上すべきであり、各国のオリンピック委員会は東京オリンピックをボイコットし、国際オリンピック委員会は本書に述べた全根拠により東京オリンピックを中止するべきなのである。

   第1部 東京オリンピック・パラリンピックでの被曝が危険なこれだけの根拠

 ここでは、東京オリンピック・パラリンピックがはらむ世界から参加するアスリートと観客・観光客への被曝のリスクについて、福島原発事故の規模とその深刻性を客観的科学的に分析し、訪れる世界のアスリートと観光客の諸個人にとって、たとえ短期滞在であってもその後の生涯にわたる被曝リスクが「ある」ことを明らかにする。
 福島原発事故による放射能放出量に再び立ちかえる必要があること、福島事故が放出した不溶性放射性微粒子が特別の危険性をもつことを、渡辺悦司論考で指摘する。放射線感受性の個人差が大きいことについて本行忠志(大阪大学医学部教授)論考が論じている。トリチウムが特別の危険性をもつことについて渡辺悦司・山田耕作(京都大学名誉教授)論考が扱っている。福島原発事故健康被害「ゼロ」論の論理とその帰結――可能なかぎり多くの人々・可能なかぎり著名な人々を可能なかぎり大きい被曝のリスクに曝す――について渡辺悦司論考が取り扱う。政府が被害全否定論の論拠としているUNSCEARの虚偽を藤岡毅(大阪経済法科大学客員教授)論考が明らかにしている。微粒子に加えて、生物濃縮によると考えられる「黒い物質」「黒い物体」と汚染の循環について大山弘一(南相馬市議会議員)論考が論じている。ゼオライト・活性炭フィルターを装着した場合に容易に観測される東京圏の水道水の明確な放射能汚染と最近の悪化について鈴木優彰論考が明らかにしている(下澤陽子による補足がある)。食品汚染の現状と福島産食品を集中的に選手たち供給することの危険性と道義的責任について大和田幸嗣(元京都薬科大学教授)論考で扱われている。

   第2部 東京オリンピック・パラリンピックの危険を警告し開催に反対して発言する科学者・医師・市民

 ここでは、すでに東京でのオリンピックの危険を警告し開催に反対して発言してきたさまざまな科学者・医師・市民の活動を紹介する。
 先駆的な意義をもつ雁屋哲(「美味しんぼ」の作者)のIOCへの2013年10月3日付公開書簡を石津望論考が紹介する。核戦争防止国際医師会議IPPNWドイツ支部の声明(梶川ゆう訳)も掲載する。さらに、ドイツにおける反被曝・反東京五輪の運動を桂木忍・川崎陽子論考が、米カリフォルニア州における東京オリンピック反対運動を石津望論考が紹介する。小出裕章(元京都大学原子炉研究所)のオリンピックの危険性を指摘した声明(抄録)を、ノーマ・フィールド(シカゴ大学名誉教授)の序文を付けて掲載する。アーニー・ガンダーセンの「放射能被害への塗り薬」と題する論考を渡辺悦司が紹介する。東京オリンピック・パラリンピック反対と返上の活動を積極的に行われている村田光平(元スイス大使)のインタビュー記事を掲載する。脱被ばくネットとチェルノブイリ法日本版の制定の運動が始めた東京オリンピックでの被曝反対の運動について岡田俊子・山田知恵子・柳原敏夫(弁護士)論考が扱っている。福島事故原発からのトリチウム汚染水の放出反対の運動については、山田耕作論考をお読みいただきたい。落合栄一郎(米ジュニアータ大学名誉教授、カナダ在住)論考は、自らの経験を踏まえて放射線の「見えない脅威」をあらためて強調している。矢ヶ克馬(琉球大学名誉教授)論考は、7年間で28万人の過剰死という健康被害の実情を示し、「一切健康被害は無い」という日本政府のキャンペーンが安倍ファシズムの象徴であり「知られざる核戦争」の一環であることを明らかにする。

   第3部 現実に出ている被曝影響、福島や東京・関東圏からの避難者は事故後体験した健康影響を訴える

 ここでは、福島原発事故による被曝影響や放射能被害と考えるほかない日本における健康状況と、現実に福島事故からの避難者、福島からだけでなく関東や東京圏からの避難者が実際に体験した健康影響についての手記を掲載する。
 避難者に現れている健康影響について臨床医として診療に当たっている三田茂論考がその全体像を概括する。現実に出ている被害について、がん、とくに白血病・血液がん、教育統計に現実に現れている子供の精神発達への影響を渡辺悦司論考で取り扱う。尿検査(放射性セシウム)に見る福島・関東の汚染については、調査を行った斉藤さちこ論考を渡辺悦司が紹介した記事を掲載する。東京・福島からの避難者の人々が実際に体験した被曝影響について、福島敦子(福島から避難)、羽石敦(茨城から避難)、下澤陽子(東京から避難)、園良太(東京から避難)による手記と、鈴木絹江(障がい者の立場から、福島から避難)のインタビュー記事を掲載する。(筆者・寄稿者の敬称はすべて省略させていただいた)。

注記:文科省「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」(2011年4月19日)など。政府発表のあらゆる年間被曝量についても同じ係数操作により過小評価がなされている。日本政府は、IAEAによる放射能放出事故の際の屋内避難時の被曝量を評価する場合の木造家屋の遮蔽効果係数0.4を援用し、屋内に16時間・屋外に8時間生活すると仮定して、空間線量からバックグラウンドを差し引いた値に0.6を掛けるという係数処理を行っている(環境省「追加被曝線量年間1ミリシーベルトの考え方」[2011年10月10日]、IAEAの屋内避難時の係数の引用は、原子力安全委員会(当時)「屋内避難等の有効性について」[1980年6月])。IAEAの係数は遮蔽効果の過大評価であり、正しくない。しかし、日本政府がIAEAに依拠するのであれば、本来放射性プルーム(放射能雲)が来襲した際の「屋内避難」という短期間の対応策にだけ、しかもガンマ線に対してだけ、適用すべき係数であるはずである(正確には遮蔽係数0.4はプルームの「沈着後」のみ、来襲時は0.9で遮蔽効果は限定的とされている)。だが、日本政府はこれを、IAEAの定義にさえ違反して不当に永続化し、空間線量を少なく見せるための恒常的な手段として使っている。