「中学生・高校生のための放射線副読本」の問題点 山田耕作・渡辺悦司

2018年12月


「中学生・高校生のための放射線副読本」の問題点

2018年12月1日
山田耕作、渡辺悦司




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「中学生・高校生のための放射線副読本」の問題点(pdf,35ページ,1525KB)


 文部科学省は小学生用と中学生・高校生用の2種類の「放射線副読本」を出版し、毎年新入生に配布し、その内容を教育する予定である。これまでから批判があるたびに少しずつ書きかえられてきたものであるが、私たちは依然としてその基本的な内容に誤りや不備があり、教材として重大な問題点があると考える。
 文部科学省は、新学習指導要領において、「放射線に関する科学的な理解や、科学的に思考し、情報を正しく理解する力を、教科等横断的に育成する」ことを目的としている。この総合的な理解力を養成する観点からしても、私たちは「放射線副読本」は一面的で被曝に関する科学としては重大な欠陥があると考える。
 私たちは具体的には少なくとも次の4点が問題点であると考える。第1に福島原発事故による被曝被害の現実が無視されていることである。存在する被害が正しく記述されていない。第2にチェルノブイリ原発事故も含めて明らかになった放射線被曝の科学、とりわけ内部被曝の危険性とその科学が欠落していることである。 第3に放射性微粒子の危険性、とりわけ不溶性の微粒子の危険性が無視されていることである。第4にこれまでほとんど無害のごとく扱われてきたトリチウムが多くの被害をもたらしており、その危険性を警告すべきである。
 以下、上記の4点を4章に分けて議論する。まず、現実を正しく認識することが教育の基礎である。はじめに福島原発事故による健康被害の実態を見ておこう。以下枠内の太字は「放射線副読本」からの引用である。「放射線副読本」は以下で読むことができる
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/10/04/1409771_2_1_1.pdf

 1章 被曝被害の現実
「放射線副読本」はいう。
はじめに
特に風に乗って飛んできた放射性物質が多量に降った地域では、多くの住民が自宅からの避難を強いられました。避難した人たちは、慣れない環境の中での生活を余儀なくされました。それにも関わらず、東日本大震災により被災したり、原子力発電所事故により避難したりしている児童生徒がいわれのないいじめを受けるといった問題も起きてしまいました。(p2)
 避難といじめの話は記述されているが、それらの原因である肝心の小児甲状腺がんなど子どもや住民の健康破壊についての記述が一切ない。ここで健康破壊と言うのは、体がだるくなったり、思考力が低下したり、免疫力が低下したりから始まり、がんや心疾患やその他いろいろな病気によりして死亡してしまうことまでを含む、放射線被曝との関連が考えられる極めて広範囲の健康影響や遺伝的影響のことである(付表を参照のこと)。放射線被曝による健康破壊こそ被害の最重要事項である。現在の子供たちの健康や未来世代の健康は避難や復興の基礎・根拠となる問題である。放射線被曝の科学こそ放射線教育の基礎である。現実の被曝被害の実態と科学的評価が正しく記述されなければならない。1−5放射線による健康への影響で一般論が議論されているが、後述のように内部被曝が軽視されるなど極めて不十分である。まず、福島原発事故の健康被害の実態を見ておこう。

1.「放射線副読本」は現実に存在する被曝被害を無視して、健康被害がないとしている
 福島原発事故で放出された放射性物質はチェルノブイリ原発事故の放出量に匹敵し、「放射線副読本」のいうように1/7の比率とされるほど少ないわけではない。総放出量については、基本的に政府側に立っていると考えられる中島映至氏ほか編『原発事故環境汚染―福島原発事故の地球科学的側面』東京大学出版会(2014年)が、チェルノブイリと福島についてほとんど変わらないというデータを引用していることをまず指摘しておきたい(チェルノブイリ1万3200ペタベクレル、福島1万1300ペタベクレル[ペタベクレルPBqは10の15乗ベクレル]、表1.3、29ページ)
 総放出量については、基本的に政府側に立っていると考えられる中島映至氏ほか編『原発事故環境汚染―福島原発事故の地球科学的側面』東京大学出版会(2014年)が、チェルノブイリと福島についてほとんど変わらないというデータを引用していることをまず指摘しておきたい(チェルノブイリ1万3200ペタベクレル、福島1万1300ペタベクレル[ペタベクレルPBqは10の15乗ベクレル]、表1.3、29ページ)
 セシウム137の大気中放出量は日本政府によると15PBqだが、放出量の評価に関しては国際的に信頼性の高いノルウェー気象研究所のストール氏らは、福島からのセシウム137の大氣放出量は20.1〜53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。
 ヨウ素131の放出量は、通常はセシウムの10倍とされていたが、最近のNHKの放送(サイエンスゼロ2018年10月28日)では、10倍ではなく、30倍だったと報道している。さらに、当事者東電からは、50倍という数値があげられている。東電からの数値50倍を採用するとヨウ素131は日本政府で750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これはチェルノブイリのヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。あるいはストールの上限をとって(比較の対象とされる国連科学委員会UNSCEARのチェルノブイリの値が上限をとっているから)2655PBqとすると、福島のヨウ素131の放出量がチェルノブイリの1.5倍と推計できる。それ故、INES(国際原子力事象評価尺度)で計算しても大気中放出量でほぼ同等であり、チェルノブイリではなかったとされる海中への直接放出量と汚染水中への放出量を加えると福島原発事故の放射能放出量はチェルノブイリの約4倍と考えるべきで、「放射線副読本」の言うチェルノブイリの1/7というのは明らかに過小評価と考えられる。
 たとえもしこの「放射線副読本」の通りの比率と仮定しても、政府は、チェルノブイリの7分の1の健康被害が出ることは当然予測されると認めなければならないことになる。学術会議報告書は、チェルノブイリでの子どもの甲状腺がんの発症による手術数を6000人、うち死亡数を15と明記している。それなら、福島や周辺諸県でも、大まかに言って、その7分の1の860人の手術を要する甲状腺がん患者、うち2人程度の死者が、十分に予測されると言わなければならない。
 現実に子どもの甲状腺がんなど被害が出ている。米軍兵士の「トモダチ作戦」による死者は9人になり、400人が被曝の被害を訴えている。また、厚労省の人口動態調査を解析すれば、事故発生以前に比較して事故後の各種死因による死亡率が増大している。「風評」という説明は根拠がない。
 福島事故の間に放出された放射能の量については、広島原爆との比較で考えれば、被害が「ない」あるいは被害は「風評」であるという主張がまったくの嘘でありデマであることは明らかである。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的な健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量である。
 日本政府は、福島事故で、広島原爆のおよそ168発分のCs137が放出されたことを認めている(原子力安全・保安院の2011年8月26日の発表)。もちろんこれは過小評価で、実際には400〜600発分だがこの点は今は議論しないでおこう。事故で放出されたCs137のおよそ27%(UNSCEAR2013年報告)、すなわちおよそ広島原爆45発分が、日本の国土に降下・沈着した。そのうち、除染作業により回収できたのは、政府発表データで計算すると、広島原爆のおよそ5発分である。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっている。言い換えれば、広島原爆およそ40発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、拡散して残っていることを意味する。
 広島原爆40発分の「死の灰」が何の健康被害も及ぼさ「ない」という政府見解は、広島・長崎の被爆者の健康調査からだけ見てもありえない。そのような見解は、広島・長崎の原爆被爆者の悲劇を、被爆者調査の結果を全否定するものであり、被爆者とその悲劇を愚弄するものであるというほかない。以上、政府の言う、「チェルノブイリの7分の1」と「広島の原爆の168発分」にもとづいて、それによる健康被害を考察してきた。
 実際の放出量は政府の言う量をはるかに上回るものになり、それによる被害もこれまでのべたものをうわまわるものになる恐れがおおきい。しかし、現実には東北・関東に被曝被害が広範囲に存在するにもかかわらず、政府・東電は被曝被害がないとしている。小児甲状腺がんを含めて、放射線量、被曝線量、被曝被害等について必要な科学調査と分析が積極的に組織されず、それが故に存在する被害が隠されていることこそが問題である。明らかに放射線被曝によって生じたと考えるほかない子供の甲状腺がんでさえ、政府・東電はかたくなに被曝による発症を認めていない。事故直後政府から大学長や学会長を通じて「データ発表は国が行う。個々の研究者は控えるように」と伝達がなされた。まさに科学的調査の封じ込めである。ストロンチウム、ウラニウム、プルトニウム等のアクチナイド、甲状腺被曝量を科学的に測定せず、明らかにしていない。「データがない」、「関係ない」が「虚構の安全な世界」を作り出している手段の一つとなっている。とりわけ弘前大学の研究者グループが甲状腺被曝量をちゃんとした測定調査により明らかにしようとしたとき、福島県が「住民の不安を増長する」という理由で調査を終結させた。科学的検討を感情・精神的事由で阻止したのである。もちろんサーベイメーターで甲状腺被曝線量を計測したとされる測定は、感度の面と高い空間線量を遮蔽せずに行われた等の理由で科学的測定には該当しない。このような科学的データを積極的に取得しないことが被害の隠蔽に深く関与している。そこでまず、明確になっている被曝被害の実態を挙げよう。
 福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」のあり方を議論している検討委員会の第32回目会合が2018年9月5日、福島市内で開催された。甲状腺検査は、穿刺細胞診を行って悪性あるいは悪性疑いがあると診断された患者は3人増えて202人(うち一人は良性結節)。手術を受けて、甲状腺がんと確定した患者は2人増えて164人となった。また7月の甲状腺評価部会で公表された、検討委員会で報告されていない患者を含めると、事故当時18才以下だった子どもで、2011年秋以降に甲状腺がんと診断された患者は211人、手術をして甲状腺がんと確定した患者は175人となった。


1-1 小児甲状腺がんの被ばくによる発症
 ①福島県の調査で2018年3月5日の発表で196人ががん及びその疑いとされている。地域分布を見ると福島第一原発に近いほど甲状腺がんの罹患率(発症率)が高い。このことは原発が甲状腺がんの原因であることを示している(図1参照)。

図1 原発に近づくほど罹患率が上がる


 ②福島県内の罹患率の地域分布を見ると放射性物質による土壌の汚染度の高い地域ほど罹患率が高い。このことは放射線被曝が甲状腺がん発症の原因であることを示している。図2は山本英彦医師たちによる土壌のセシウム汚染度と罹患率比である。汚染度が高いと罹患率も高く、子どもの甲状腺がんが放射性物質によって発症していることを示している。

図2 子供の甲状腺がん罹患率比と土壌の汚染度との関連 汚染度が高いと多く発症


 ③汚染度の高い地域の罹患率が高いことは宗川吉汪氏や2017年末の福島県立医大の発表にも見られる。子どもの甲状腺がんの罹患率の地域差は最初に津田敏秀氏達によって示されている(Tsuda T. et al. ;Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima Japan 2011 to 2014,Epidemiology 2016 May, 27(3)316-22.)。
 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な解析を行い、「3地域の罹患率の比較」を行った(表1参照。宗川吉汪;『福島甲状腺がんの被ばく発症』文理閣 2017年)。「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。

表1 3地域の罹患率 10万人・年当たり ( )内は95%信頼区間の下限値と上限値 


 ④放射線被曝による大人の甲状腺がんの急増
 明石昇二郎氏によって全年齢の甲状腺がんの罹患数が日本のがん統計を用いて分析された。残念ながら、2013年までのデータまでしか発表されていないのであるが、2013年には福島県の女性で2010年に比べ90%(100人から190人)の増加である。同県の男性では60%(43人から69人)増加した。大人の場合は超音波検査を行っていないのでスクリーニング効果による増加は考えられないので文字通り罹患率が増加したことを示している。
 
1−2 周産期死亡率が福島原発事故後10ケ月後から急増したことが証明されている。
 「「被曝安全論」者は信頼性の高い周産期死亡率(妊娠後22週から生後1週までの死亡)や自然死産率(妊娠後満12週以降の1000出産当たりの人工死産を除く死産数)のデータを無視して、不十分な調査で、人的被害がないとしている。しかし、すでに、周産期死亡率の増加は疫学を用いてハーゲン・シェアブ氏達によって証明されている。周産期死亡率が、放射線被曝量が高い福島とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(3年間で165人)も増加し、被曝が中間的な高さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった。Hagen Heinrich Scherb, Kuniyoshi Mori, Keiji Hayashi.
"Increases in perinatal mortality in prefectures contaminated by the Fukushima nuclear power plant accident in Japan - A spatially stratified longitudinal study."
(Medicine 2016; 95: e4958)
 福島原発事故から10か月後に生じた周産期死亡率の急上昇は、事故による母親の卵胞・卵子や父親の精巣・精子、胚細胞・胎児の被曝による損傷の結果と考えられ、胎児の発育にとって重大な危険があったことを示している。この周産期死亡率の増加は、東北・関東に被曝被害が広がっていることを示すものである。同様に自然死産率が事故後9か月後から増加したことが統計学を用いて証明されている。さらに山田國廣氏は外部被曝積算線量等を評価し、それらの線量と周産期死亡率及び自然死産率との間に明確な関係があることを示している。(山田國廣著『初期被曝の衝撃』風媒社、2017年、146ページ)。

図3 周産期死亡率


1-3 心筋梗塞による急死

図4 急性心筋梗塞による地域別死亡率(10万人当たり)


避難の有効性
 体内に取り込まれたセシウム137や134など人工の放射性元素は心臓や肝臓、腎臓に蓄積する。蓄積した放射性元素が放出する放射線によって、活性酸素(強い酸化作用を持つ酸素)やフリーラジカル(対をなしていない電子を持つ反応性に富む分子や原子)が発生する。これらが血管壁内への脂肪の取り込みを促進して冠状動脈の硬化、狭窄をまねく。同時に活性酸素は心臓や血管の細胞に慢性炎症を引き起こし、狭心症や心筋梗塞をおこす。心筋梗塞による死亡は全国に比べ福島県で増加しているが、避難した7町村では全国と同様2012,2013年に減少を示している。避難は心筋梗塞による死亡を減少させ、人命を救ったことが分かる。

1-4 全身に見られる被曝による健康破壊
 安倍首相をはじめとする政治家や野口邦和氏などの専門家は漫画『美味しんぼ』を取り上げ、鼻血などの健康被害は被曝線量が少なく起こりえないとして批判する。
 しかし、このような議論は、放射性微粒子による微小環境での局所的・集中的被曝(アルファ線、ベータ線、ガンマ線による被曝。アルファ線、ベータ線は短い飛程により、ガンマ線に比較にならないほど密度の高い被曝を呈する)の場合の確定的影響を、全身への外部被曝の場合(ガンマ線による被曝)と意図的に混同させるものである。放射線医学総合研究所『低線量放射線と健康影響』医療科学社(2012年)によれば(110ページ)、前者は後者の1000倍とされており、放射線感受性の個人差を考慮すれば、鼻血を確定的影響として生じうるような被曝量(政府や野口氏らの言う2Sv)を局所的に受けた(ICRPの吸収線量の計測単位は「臓器ごと」とされる。この方法は被曝を受けない多量の細胞により平均化されるので低線量の計算値となる。0.2〜2mSvの被曝)可能性は否定できない。また、鼻血出血以前の外部被曝・内部被曝両方による活性酸素・フリーラジカルの産生、その結果としての酸化ストレスが、全身の血管壁を傷害し、鼻の毛細血管自体を脆弱化させていた可能性も考えられる。放射線起因の鼻血である放射線医学的機序も十分に考えられるのである。
 現実に、「グーグルトレンド」を見ても東京では事故後、鼻血の検索が急増している。これは多数の関東の人に鼻血が出たことを示している。
 例えば、放射線による健康被害に関しては2012年11月に3市町村の実態調査が実施された。滋賀県木之本町を対照として福島県双葉町と宮城県丸森町の罹患率を比較したものである。その調査結果によれば、双葉町や丸森町の住民は鼻血をはじめとして様々な病状を訴えている。注目すべきはこれらの病気はヤブロコフ氏たちによってまとめられた『チェルノブイリの被害の全貌』に記された病気に共通することである。
 以下の津田敏秀氏ら岡山大、熊本学園大、広島大による調査報告を参照していただきたい。図5〜7はその例である。

『低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査』
―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―

http://www.saflan.jp/wp-content/uploads/47617c7eef782d8bf8b74f48f6c53acb.pdf

図5.滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比
病名は左から表題の順、図は児玉順一氏作成



図6



図7


 野口氏ら専門家は「放射線に対する不安に起因する健康への悪影響」と根拠のない不安のように言うが、逆に「放射線被曝の健康への悪影響」が現実に存在し、体験を通じて住民が健康に対する不安におびえているのである。例えば、被曝は脳にも影響し、福島原発事故後アルツハイマー病や認知症による死亡が急増している。さらに抵抗力、免疫力がもろくて弱くなっているお年寄りの「老衰」による死亡率が急上昇している。他に胃がんの増加、白血病の増加、悪性リンパ腫の増加等が報告されている。
 このような被曝被害の現状を調査・公開し、予防医学的に被害の防止、即ち一人一人を大切にすること、人格権の保護が教育の中心でなければならない。真実を明らかにしないで正しい教育はできない。

事故後、建物や地面などの表面に付着した放射性物質をできる限り取り除いて、放射線の影響を減らすための「除染」という作業が進められたことなどによって、立ち入りが制限されていた場所にも人が住めるようになるなど、復興に向けた取組は着実に進展していますが、私たちみんなで二度とこのようないじめが起こらないようにしていくことが大切です。(p2.はじめに)
 必ずしも除染によって被曝の心配なしに住めるわけではない。周囲の山林・森林は除染されておらず、風雨に依って山間の放射性物質が拡散される。また除染によって生じてフレコンバッグに詰められた放射性廃棄物も多くは放置されたままである。また、除染作業そのものが最悪の被曝労働の一形態である。とくに放射性微粒子を吸い込むことによって、極めて多数の作業員の深刻な二次的被曝被害を引き起こそうとしている。さらにメルトダウンした炉心は環境から隔離することができず、今なお毎日600万ベクレルほどが空中へ、相当量が水中に放出されている。住民の被曝を加重し地球の環境汚染をし続けている。福島原発事故は完全には収束しておらず、依然として炉心の冷却が必要である。溶融燃料デブリや廃炉処理を含め様々な問題が残っており、見通しを立てることさえ困難な状態である。放射能汚染と健康被害が長期的なスパンを持つことに逆らって早すぎる復興を強調することは逆に人々を命の危険にさらすことにつながる。二度と原発事故を起こさないためにも、原発事故処理の困難な現実こそ伝えるべきではないのか。

2章 内部被曝の科学
1−5 放射線による健康への影響
(1)内部被ばくと外部被ばく
 放射線を体に受けることを「放射線被ばく」といいます。放射性物質が体の外部にあり、体外から放射線を受けることを「外部被ばく」、放射性物質が体の内部にあり、体内から放射線を受けることを「内部被ばく」といいます。放射線を受けると人体を形作っている細胞に影響を与えますが、どのような影響が現れるかは、外部被ばく、内部被ばくといった被ばくの態様の違いや放射線の種類の違い等によって異なります。放射線による人の健康への影響の大きさは、人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位であるシーベルトで表すことで比較ができるようになります。例えば、1ミリシーベルトの外部被ばくと1ミリシーベルトの内部被ばくでは、人の健康への影響の大きさは、同等と見なせます。(p10)
 この「内部被曝と外部被曝」ではもっとも重要な体内に取りこまれた元素の臓器への取り込み(親和性)と蓄積の問題が一切無視されている。シーベルトが同じなら「健康への影響も同じ」というのがICRPや日本政府の主張である。この考えによれば古くから存在したカリウム40と原発事故で生じたセシウム137のシーベルトが同じなら健康への影響は同じとみなされている。現実に食品基準の説明においてセシウム137とカリウム40とをシーベルトに換算して比較している。しかし、これは正しくない。カリウム40は細胞膜にあるカリウムチャンネルを通じて自由に体内を移動するが人工のセシウムなどの放射性元素は血液やリンパ液に乗って体中を回り(水溶性と不溶性の微小粒子)、被曝を与え、さらに特定の臓器に取り込まれ、蓄積し、継続的に集中的・局所的な被曝を与えるのである。吸収した放射線のエネルギーを臓器全体の質量で平均したシーベルトはカリウムの場合やガンマ線の場合を除き、放射線の影響を正しく反映しない。アルファ(α)線やベータ(β)線はそれぞれ40ミクロンや数ミリの短い射程距離を持ち、狭い領域を集中的に被曝させるからである。さらに、次の3章で述べるように、人工の放射性原子の多くは不溶性の微粒子となっていることが報告されている。これはいっそう集中的・局所的な被曝を与えることになる。
 前述したように、政府の放医研文書でさえ、細胞レベルでの局所的微視的な被曝線量(マイクロドシメトリ)では「低線量」の境界を0.2mSvとしている。これは、一般的な巨視的な環境での100〜200mSvのおよそ1000分の1である。つまり、放射性微粒子による細胞レベルでの内部被曝の線量は、ベータ線・ガンマ線の場合、全身への外部被曝を問題としている場合のおよそ1000倍と評価しなければならないことを、政府の研究機関自体が認めているのである。
 それ故、「放射線副読本」にある以下の表にあるICRPが評価した換算係数は放射線の影響を著しく過小に評価していることになる。さらにこの表によるとトリチウムはほとんど無害に見えるが、後に4章で見るように、この過小評価が世界のトリチウムによる被曝被害を拡大させたともいえる重大な誤りである。

食品中の放射性物質から受ける放射線の量の計算の例
係数(飲食物からの摂取 18歳以上の場合)[mSv/Bq]


内部被ばくと活性酸素の脅威
 「放射線副読本」は内部被曝も外部被曝もシーベルトが同じなら同等としている。しかし、これはICRPが自ら定義した吸収線量を照射線量で置き換えるという物理量を取り違えていることを基礎として、本来異なる被曝応答をシーベルトという非科学的な量で表すというICRPの間違った手法の結果なのである。被曝実態を空間的・時間的に具体的に見ていくと、何事も質と量の「両方」が問題なのである。質的な違いを無視し、「量だけ」を比較することは科学に反しており、この記述は教育の根本を歪めるものである。つまり、内部被曝と外部被曝の被曝実態の質的な違いを無視しているため、「放射線副読本」は外部被曝に比べて内部被曝が桁違いに危険であることが理解できないのである。
 質的な違いを無視した結果の一つとして、「放射線副読本」はがんのみを被曝による病気としている。しかし、これはチェルノブイリ原発事故で明らかにされた「長寿命放射性核種体内取り込み症候群」という全身に及ぶ多様な疾患を考慮していないことになる。それらの疾患は、放射性微粒子からの内部被曝によって発生した、反応性の高い活性酸素やフリーラジカルによって、脂肪膜である細胞膜や核膜、さらに、ミトコンドリアの膜などが破壊されることを通じて発生する(付表参照)。活性酸素による細胞膜の障害をはじめて明らかにした実験は、ペトカウ効果と呼ばれている。そのような病気が世代を超えて継続することがわかってきたのである。

放射線感受性
 また、「放射線副読本」は、個人個人の放射線に対する影響の受けやすさ(放射線感受性)の大きな違いを無視している。同じ線量で被曝しても、胎児や乳幼児、子どもや青年、女性、がん年齢に達した中高年、DNA修復に関連する遺伝子変異をもつ人々(ICRPでは1%未満、ECRRでは人口のおよそ6%)などは、平均値に対して被曝リスクが何倍何十倍も高いことがわかっている。また、これらの性質が諸個人で重複する場合(たとえば遺伝子変異を持つ女児など)、さらに感受性の相違の幅は大きくなる。「放射線副読本」は、これらの人々を同じ被曝「量」によって扱うことによって、このような放射線高感受性の人々の生きる権利、基本的人権を奪おうとしている。




3章 低線量被曝と放射性微粒子の危険性
 人工の放射性物質はカリウム40などの自然に存在する放射性物質に比べ、一層危険である。放射性微粒子を含む内部被曝はとりわけ危険である。しかも福島原発事故が放出した放射性微粒子には、水や酸や脂肪に溶けないガラス状の「不溶性放射性微粒子」が多く含まれ、このような特殊な性質の放射性微粒子が大量に環境中に放出されたのは歴史的に初めての事態である。欧州放射線リスク委員会(ECRR)の2010年勧告によれば、このような形態のセシウム137が体内に取り込まれた場合、外部被曝やカリウム40による内部被曝に比較して400倍〜5万倍も危険であると推定されている。この点で人工の放射性物質による内部被曝を特に回避しなければならない。
 以上のように、国際放射線防護委員会(ICRP)や国連科学委員会(UNSCEAR)などは内部被曝の人体影響を、一様分布を仮定して臓器全体で平均し、体重1kg当たりの吸収エネルギーとしているが、現実の内部被曝は局所的・集中的であり、著しい過小評価をもたらしていることが理解される。

100 ミリシーベルト以上の放射線を人体が受けた場合には、がんになるリスクが上昇するということが科学的に明らかになっています。しかし、その程度について、国立がん研究センターの公表している資料 によれば、100 〜 200 ミリシーベルトの放射線を受けたときのがん(固形がん)のリスクは1.08 倍であり、これは1日に110g しか野菜を食べなかったときのリスク(1. 06 倍) や高塩分の食品を食べ続けたときのリスク(1. 11 〜1.15 倍) と同じ程度となっています。(p10)
 「「放射線副読本」は発がんのリスクを広島・長崎の原爆の被曝調査に基づき、1.08(被曝による発がんリスクが8%増)にしているが、次の問題点がある。
(1)被曝リスクは広島・長崎の調査よりもっと高いことが明らかになってきた。例えば、医療被曝で被曝リスクは、10mSvごとにがんが3%増えた。100mSvだと30%、200mSvで60%の増加となる。間をとって45%増としても、8%の増加分が5.6倍になる。オーストラリアのCTによる小児がんでは4.5 mSvの被曝でリスクが24%増えた。
(2)対照とするリスクの期間が相違している。リスクの比較で「野菜不足や塩分の取り過ぎ」は10年間継続した場合であるが、被曝の影響は生涯にわたるとして、50年や70年間のがんの発生やがん死をとっており、観察期間が異なる。それ故、それらの比較は本来信頼できない。そもそも野菜不足や塩分の取り過ぎの定量的な定義を厳密に指定しなければ科学ではない。それもせずに比較することは教育用の教材として不適切である。
(3)「野菜不足や塩分の取り過ぎ」のリスクを放射線被曝リスクと同じ50年に換算した場合、その比較リスクは1度の被曝での放射線「致死量」に到達する(1Svで数ヵ月以内での10%未満致死量の下限値、3Svで60日以内での半数致死量の下限値)。つまり、「野菜不足や塩分の取り過ぎ」で数ヶ月以内に死んでしまうことになる。このように質的に異なるものの間での比較そのものが無意味でありナンセンスなのである。
(4)そもそもこのような発がん要因を個々に切り離すことは複合的に起こるがんの発生と死を正しく解析していない。子どもたちに誤った理解をさせる。ネオニコチノイドなどの農薬との複合汚染も危険である。

原爆被爆生存者や小児がん治療生存者から生まれた子供たちを対象とした調査においては、人が放射線を受けた影響が、その人の子供に伝わるという遺伝性影響を示す根拠はこれまで報告されていません。(p10)
 「遺伝し、後の世代に継承されることが多い」が正しい。「放射線副読本」は科学的真実に反する宣言である。国連科学委員会は、2001年報告書において、「被ばく後第1世代」の「全遺伝リスク」を1万人・Svあたり30〜47例としている。つまり、被曝すれば遺伝的影響が「ある」ことを公式に認めているのである。国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告も同じく遺伝的影響をリスクとして認めている(1万人・Svあたり4例)。これらは、もちろん著しい過小評価であるが、国連科学委員会もICRPもはっきり遺伝的影響は「ある」と判断しているわけである。
 さらに言えば、遺伝的影響のような、数世代を経なければ明らかにならない事項を、最初から「ない」と断言することはデマに等しい。事故後32年を経たチェルノブイリでは被曝した親から生まれた子供に著しい健康被害が確認され、また先天異常も大量に確認され、慢性的な病気が幾世代にもわたって継続することが重大な社会問題となっている。



 この点で Inge Schmitz-Feuerhake 氏らの論文が注目される。彼らは低線量放射線被曝の遺伝的影響の文献をしらべた。広島・長崎の原爆被爆者を調べた ABCC の遺伝的影響の調査は信頼性がないと結論している。その理由は線量応答が線形であるという仮定の間違いや、内部被曝の取り扱いの誤りなど 4 点を指摘している。そしてチェルノブイリの被曝データから新しい先天性奇形に対する相対過剰リスク ERR はギリシャなど積算1mSv の低被曝地においては 1mSv あ たり 0.5 で、10mSv の高い被曝地では 1mSv あたり ERR が 0.1 に下がるという 結果である。おおまかには全ての先天異常を含めて積算線量 10mSv につき相対過剰リスクが 1 という結論である。積算 10mSv で先天異常が 2 倍になるという のは大変なことである。
Inge Schmitz-Feuerhake, Christopher Busby, Sebastian Pflugbeil,
Genetic radiation risks:a neglected topic in the low dose debate. Environmental Health and Toxiology,vol.31,Article ID e2016001
http://dx.doi.org/10.5620/eht.e2016001

この事故で放出された放射性物質の量は、昭和61年(1986年)にソビエト連邦(現在のウクライナ)で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故の約7分の1であり、福島県が平成30 年4月までに県民等に対して実施した内部被ばくによる放射線の量を測定する検査の結果によれば、検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされています。(p12)
 政府の公式推計によっても福島原発事故の大気中への放出放射能量はセシウム137ベースで広島原爆の168発分である。これは大きな過小評価である(実際にはこの3倍以上)、そのうち、日本の陸土に沈着したのは、これまた公式推計でおよそ27%、45発分である。このような大量の放射能が「全く健康影響をもたらさない」という主張は、最初から嘘でありデマであるというほかない。
 「100mSv以下は影響がない」という論議も同じである。もし政府がそれを真剣に主張するのであれば、政府が現在住民を帰還させようとしている年間20mSv/yの地域には、5年以上居住すると「影響がある」と主張しなければならないであろう。だが政府も政府側専門家もそれについては何も言わない。つまり、不誠実なのである。
 健康に影響が出ていないことを証明することは、時間的・空間的に膨大な調査を要することである。調査が不十分な段階で、このような教育を政府が行うことは、結論を誤る可能性が高い。また事実、誤っている。しかも、国際的な合意である予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがある時には、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置(precautionary measures)がとられなくてはならない」(予防原則に関するウィングスプレッド合意声明より引用、同原則は、環境と開発に関する国連会議、EUマーストリヒト条約、オゾン層に関するモントリオール議定書などにおいて何度も確認されている)に反することである。この原則が一言も触れられないのは被災者の人権を無視するものである。
 しかも、現実に健康に影響が出ているのである。住民・市民の健康を守る立場からは被曝被害を警告し、チェルノブイリのように1mSv/yから避難の権利を認めなければならない。被害が出てからでは遅いのである。
 現実には被害が出ていること、被曝調査の検出精度は悪く信頼性に乏しいことは証明済みのことである。
 実際には、東電事故の大気中放出量はチェルノブイリ事故と比較して、少なくとも同等程度である。また、早野龍五氏などのホールボディカウンターを用いた内部被曝の測定も検出限界が300Bqであり、精度が悪い。しかもチェルノブイリでは汚染されている着衣ごと計測されたにもかかわらず、福島では汚染されていないガウンを着せて測定し、両者を比較して「福島が低い」としている。福島の子どもの70%に検出されているという報告のある精度の高い尿中のセシウム137を測定すべきである。

福島県内の空間線量率は事故後7 年で大幅に低下しており、今では福島第一原子力発電所の直近以外は国内や海外の主要都市とほぼ同水準になっています。(p13)
 福島市の公式発表値0.15マイクロシーベルト/hは依然として高いことを示している。事故前は0.04マイクロシーベルト/hであった。しかも、モニタリングポストの数値が周辺の線量の約5割と低い値であることが報告されている。都市から離れた山間部は除染されていない。通過道路から1m以内しか除染していない。山林から風や雨で拡散する。人々は主要都市のみで過ごすわけではない。山間部や農地でも過ごす。県北農民連の皆さんが2016年に測定した果樹園の放射能測定は10万ベクレル/m2以下が3%しかなく、最高は80万ベクレル/m2であった。
 国際環境団体グリーンピースは、2018年2月に調査結果を発表し、「避難解除地域の放射能は深刻、住民の帰還誘導は人権侵害」と批判した。国連人権理事会も「20mSv/年は高すぎる」として日本政府に低減を勧告している。福島原発から西北西方向に20キロメートル離れた浪江地域の大堀村では、時間当たり11.6マイクロシーベルトに達する放射線量率が測定されもした。これは年間被曝量101ミリシーベルトに該当する。

その後、セシウム134 やセシウム137 などの放射性物質を取り除く作業(除染)などにより、放射線量が下がってきた地域では、避難指示の解除が進められました。現在では、医療機関や商業施設などの日常生活を送るための環境整備や学校の再開等復興に向けた取組が着実に進められています。(p14)
 しかし、住民は安全性に不安があり、特に若い世代や子どもたちが帰還しない。チェルノブイリ事故に比較してあまりにも早い避難指示区域解消などの措置は上記のごとく国際的に批判されている。

福島県が行った平成30 年3 月までの調査の結果によれば、県民等に、今回の事故後4か月間において体の外から受けた放射線による健康影響があるとは考えにくいとされています。また、12 ページで紹介したとおり、福島県が実施した内部被ばく検査の結果によれば、検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされています。さらに、福島県が実施した妊産婦に関する調査によれば、震災後、福島県内における先天異常の発生率等は、全国的な統計や一般的に報告されているデータと差がないことが確認されています。(p14)
 これらは測定の正確さが疑問視されている。現実に影響があり、被害が報告されていることは最初に述べた通りである。1章で述べたような被曝被害がすでに、周産期死亡率や自然死産率の増加や小児甲状腺がんの増加が統計的に確認されている。老衰、アルツハイマー病、急性心不全等の死亡率増加が報告されている。それ故、この健康に影響する被曝はなかったという記述は事実でもって否定されているのである。被害がないという証明は大量の人数の調査を長年に渉って行わないと証明できないのである。少数のデータで「放射線副読本」のいう「差がない」ことは証明できない。それ故、上の記述は科学の教育としても問題のある誤りである。

日本の基準値は、 他国に比べ厳しい条件の下設定されており、世界で最も厳しいレベルです。そして、厚生労働省は、基準値を超える放射性物質を含む食品が市場に出回ることのないように厳しく見守っています。(p17)
 これも安全性を示す根拠ではない。最も厳しいというがコメは100ベクレル/kgであるがウクライナのパンは20ベクレル/kgである。基準を超えなくても安全でないのは基準が緩すぎるのである。放射性微粒子を考慮すると、少なくとも検出限界の1ベクレル/kg以下でなければならない。日本は飲料水が10ベクレル/kgであるが、ウクライナは2ベクレル/kg、WHOは1ベクレル/kg、アメリカの法令基準は0.111ベクレル/kg、ドイツガス水道協会は0.5ベクレル/kgである。

  本表に示した数値は、食品から受ける線量を一定レベル以下に管理するためのものであり、安全と危険の境目ではありません。また、各国で食品の摂取量や放射性物質を含む食品の割合の仮定値等の影響を考慮してありますので、単に数値だけを比べることはできません。(p17)
 この注記の通りであり、日本は福島原発事故の当事国であり、その食品を主に食するのであるから他国に比べ基準が厳しくて当然である。にもかかわらず、飲料水、米等においては規制が緩すぎる。ウクライナでは飲料水は2Bq/kgであるが日本は10Bq/kgである。

4章 トリチウムの危険性

トリチウムの危険性
 この「放射線副読本」の係数の表(「放射線副読本」では10ページ、本論考では12ページ)では、トリチウムはセシウムに比べ3ケタ係数が小さく、危険でないように評価している。このICRPによる評価が間違っているのである。トリチウムの危険性を軽視した結果、世界各地でトリチウムによる被曝被害がみられる。
 日常の定常運転で日本で最も大量にトリチウムを放出した玄海原発周辺では原発稼働後に白血病などが多発している。森永徹氏の研究を紹介する。
http://nukecheck.namaste.jp/ronbun/180513morinaga.html


玄海原発の稼働前(1969〜76年)の白血病による死亡率



玄海原発の稼働後(2001〜11年)の白血病による死亡率


 以下の表も玄海原発に近づくと白血病死亡率が高くなることをしめしている。

表 1998年〜2007年までの10年間の人口10万人あたりの白血病による死者数

出典:厚生労働省人口動態統計より
(参照「広島市民の生存権を守るために伊方原発再稼動に反対する1万人委員会」
http://hiroshima-net.org/yui/1man/

 危険なトリチウムを含む福島原発の汚染水の海洋放出
 福島原発事故によるトリチウム総量は約3400兆ベクレル、2014年3月でタンク貯留水中に830兆ベクレルのトリチウムがあると発表されている。この膨大な放射性廃液はその後も増加する一方である。そのため、漁連などの反対運動の隙があれば、政府・東電はトリチウムを含む福島原発事故廃液の処理・処分として、それを希釈して海洋に投棄しようとしてきた。現在、ここに至っていよいよ政府は海洋投棄の実施に踏み切ろうとしている。原子力規制委員会の更田豊志委員長は規制するどころか海洋投棄を提唱し、先導している。
 私たちは以下の理由で放射性廃液を海洋に投棄すべきでないと考える。
 1. トリチウムは生命・健康への危険性が少ないと誤解されているが非常に危険な放射性物質である。なぜなら、人体の大部分を占める通常の水と化学的に区別がつかず、生体のあらゆる場所に取り込まれ、内部から被曝させ、活性酸素等を介して間接的に細胞膜やミトコンドリアを破壊する。また、直接的に遺伝子、DNAの化学結合を切断する。トリチウム特有の危険性として遺伝子の水素原子とトリチウムが入れ替わるとベータ(β)崩壊でトリチウムがヘリウムに変わることによって遺伝子の化学結合が切断される。
 植物は炭酸同化作用によって水と炭酸ガスからでんぷんを作る。このでんぷんの水素原子がトリチウムに変わることによって有機トリチウムが形成され、動植物や人間が体の一部としてその有機トリチウムを長期間取り込み、内部被曝する。
 2. このようにして、原発から放出されたトリチウムによって玄海原発周辺の住民の白血病の増加、世界各国の再処理工場周辺の小児白血病の増加、原発周辺の小児がんの増加等が報告されている。現実に被害が発生しているのである。
 3. たとえ、希釈して海洋投棄されたとしても食物連鎖などの生態系を通じて濃縮される。さらに気化してトリチウムを含む水蒸気や水素ガスなどとなって陸地に戻り、環境中を循環する可能性がある。希釈すれば安全というのは過去に多くの公害問題でくりかえされた誤りであり、環境に放出される総量こそ問題である。それ故、放射性物質や有害物質は徹底的に閉じ込め生態系から隔離することが公害問題では唯一正しい原則的な対応である。このような内容が教育されなければならない。
 トリチウムの海洋投棄の危険性に関してはイギリスのTim Deere-Jones ティム・ディアジョーンズ(Marine Radioactivity Research & Consultancy: Wales: UK)が詳しく次の警告は重要である。
 ①トリチウム水HTOのみを考え危険性を軽視してきたが、生物学的半減期の長い有機結合型トリチウムOBTとしてトリチウムが生体の有機化合物に取り込まれ、長期の内部被曝をあたえる。光合成でHTOとCO2から生成したでんぷんにトリチウムが取り込まれ、食物連鎖で濃縮される。
 2000年以降の研究は、海洋食物連鎖のなかで、極めて高いレベルでの有機結合型トリチウムの生物濃縮が起きていることを示している(ムラサキイガイで26,000Bq/kg、タラで33,000Bq/kg、海ガモで61,000Bq/kg以上)。潮間帯堆積物や潮を浴びる牧草でも、周辺海水の濃度が極めて低いにもかかわらず、高レベルの有機結合型トリチウムが見られる。
 トリチウムの生態系での濃縮について次の点が重要である。電子軌道のみを考えると通常の陽子(プロトン)一個の水素とトリチウム原子は化学的に区別ができないように見えるが、原子核の質量の違いが化学的結合力の違いを生じる。また、プロトン移動を伴うような反応ではプロトンとトリチウムの重さの違いによりトリチウム移動反応が遅くなる(C-H結合切断の場合水素の場合のおよそ20分の1の反応速度になる)。同位体効果と呼ばれる。
 このようにして原子核の重さの違いによって有機化合物(とトリチウムの結合が強くなり、トリチウムがプロトンに置き換わり元素として濃縮される。有機結合型トリチウムが増加してゆく。

まとめ
 「放射線副読本」は次の4つの致命的な欠陥を持つ.
1.福島原発事故の存在する被曝被害を無視し、真実を記述していない。
2.被曝として本質的に重要な内部被曝を無視している。
3.とりわけ被曝の危険性が高い放射性微粒子について警告していない。
4.国際的に危険性が明らかになったトリチウムを依然として軽視するという誤りを続けており、時代遅れである。
 私たちは以上の理由から「放射線副読本」は教材として不適切であり、配布されるべきではないと結論する。

謝辞
 この論考を仕上げる上で矢ヶ崎克馬氏、児玉順一氏に大変お世話になりました。適切で丁寧なコメントに深く感謝します。

 
 
付録

 福島事故による放射線被曝に関連すると考え得る疾患・健康障害のリストを以下に、表として掲載する。
1.福島原発事故
    1)トモダチ作戦従軍兵士・士官に現れた疾患・健康障害の一覧
    2)三田茂医師による福島事故による被曝者に現れた「能力減退症」
    3)避難者の手記に記載された健康障害
    4)避難者の証言による被曝の健康影響と感じられた症状や事例
2.チェルノブイリ原発事故
3.日本酸化ストレス学会の著作に見る酸化ストレス関連の疾患の一覧



付表1-1 アメリカで訴訟中のトモダチ作戦被曝米軍・士官兵士に現れた主な症状

出典:原告の訴える症状(一部)、原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会 作成2014年11月3日
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-4009.html
エイミ・ツジモト・田井中雅人『漂流するトモダチ―アメリカの被ばく裁判』朝日新聞出版(2018年)より追加した。



付表1-2 三田茂医師(東京から岡山に避難)が提起する福島原発事故で被曝した住民に現れた「能力減退症」

出典:三田医院・三田茂「『新ヒバクシャ』に『能力減退症』が始まっている」(2018年2月28日)
http://mitaiin.com/?page_id=10
注記:三田氏の論文には「分類」の項目はなく、ここでの分類は、内容を考慮して渡辺が行ったものである。分類・編集とも文責は本表の作成者である渡辺にあることを特記しておきたい。


1-3.福島からの避難者の手記に現れた症状

 『3.11避難者の声―当事者自身がアーカイブ』東日本大震災避難者の会(2017年)、原発賠償京都訴訟原告団『私たちの決断 あの日を境に』耕文社(2017年)が挙げている原発事故後の避難前の健康状態悪化の症状は、以下のとおりである。
 
・毎日鼻血を出す
・いろいろと体に不調
・首が腫れて毎日頭痛
・体調不良
・全身の脱毛、アトピーの悪化
・被曝という恐怖
・子供の体調不良、頭痛、風邪をひきやすくなる
・子供の鼻血、尿検査で高い値、甲状腺エコーでA2判定()
・甲状腺の病気
・月に1回は吐く(子供)
・子供が鼻血が止まらなくなった
・眼の周りの湿疹、慢性扁桃炎、逆流性食道炎
・子供の体調不良
・子供のアレルギー、鼻血、口内炎、下痢、咳が止まらない、リンパの腫れ、肌の露出している部分の赤い湿疹が出てその後化膿する
・子供がやたらと咳をして痰を吐く、呼吸不全により緊急入院、頻繁に風邪、気持ちが悪い、寒気がする、力が出ない、腹痛、頭痛、体中痛い
・眼の症状、だるさ、頭の回らなくなる感じ、心臓の痛み
・子供の体調の悪化、頭痛・腹痛・喉の痛み
・認知症
・子供の体調不良、蕁麻疹、関節の痛み、原因不明
・子供が毎月1〜2回嘔吐、吐瀉物の中に血が混じる、頭痛、血便、膀胱炎、気分が悪い
・腸が弱くなった、頭痛持ちになった
・子供が鼻血、血尿、体の一部が痛い
・白内障
・もとよりあった化学物質過敏症・電磁波過敏症の悪化、不正出血、貧血、体の硬直、喉がペタペタくっつく異常感、甲状腺に嚢胞、耳下腺に腫瘍、しんどい状態、気力低下、歯の食いしばり、顎関節炎
・原因不明の発熱、精神の不調、傷の治りにくさ
・子供の鼻血、体調不良(クラスの半分以上)
・リンパの腫れ、甲状腺がん、甲状腺結節
・若者の突然死
・子どもたちの急激な体調変化
・子供が毎日大量の鼻血

1-4.関東・東北からの避難者およびその周囲の人々が経験した症状

 Go West Come West!!!「3.11から7年――原発避難者と仲間たち全員集合」のプログラムで報告された、避難者が経験した原発事故放射能による健康被害と思われる疾患のリストは以下のとおりである。
http://www.gowest-comewest.net/event/20180310shuugou/
■東京からの避難者からの報告
・友人:39歳/末期大腸がんで死去/2017年
■福島からの避難者からの報告
・40代男性悪性リンパ腫、死亡
・原発事故前からの病気で原発作業経験者(当時30代の男性)多血症
・女性が60代後半でくも膜下出血で死亡。
・男性71歳が大腸がん、胃がん2回、
・2歳子供、アトピー。
・30代女性突発性難聴
・30代女性皮膚疾患治らない
■東京の居住者からの報告
・2016年春、1〜2ヶ月の間で40代がん死、60代男性急死、40代男性急死、40代女性急死、50代男性急死。
・そのしばらく後に知人の酒場で60代男性急死2名。友人の母60代がん死
■東京の居住者からの報告
・脳出血(30代男性、死亡)
・突然死(50代女性、前のバイト先の女性)
・心臓の疾患(50代男性、30代男性)
・がん(30代男性大腸・死亡、50代男性・死亡、40代男性膵臓・死亡)
・40代がん死
・60代男性急死
・40代男性急死
・40代女性急死
・50代男性急死
・60代男性急死2名
■埼玉からの避難者よりの報告
・さいたま市50代 男性 2012年以前白血病そして間質性肺炎と診断。その、3年後に大腸がんで亡くなる。
・埼玉50代、アレルギー体質を持つ男性。2012年消化器系の難病を発症 手術するも2年の闘病の後亡くなる
■匿名の方からの報告
・2018年1月 盛岡 69歳マクロビ(マクロバイオティック・玄米菜食健康法)の先生 男性 突然死
■群馬県からの避難者からの報告
・地元市内の産婦人科院長50代の突然死
・お花屋さんのご主人40代の突然死
・先日久しぶりに集まったサークル仲間、男女合わせて7人なんですが、私以外すべての仲間の実家の父母、そして嫁ぎ先の義父母の半分が亡くなっていて、半分が病気や看病が必要になっている状態でした。
・先輩のお母さん70代、友人のお母さん70代、友人のご主人50代、生徒のお母さん40代の突然死。
・子どもがお世話になった保育園の先生のお母様とお姉様が、がん発症2週間で死亡。
・姪っ子の親友16歳、後輩15歳の相次ぐ2人の突然死が3ヶ月のうちに起こりました。


付表2 ヤブロコフら『チェルノブイリ被害の全貌』に指摘された放射線被曝によると考えられる主な健康影響の一覧

出典:ヤブロコフほか『チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店(2013年)


付表3 吉川敏一監修『酸化ストレスの医学』において指摘がある酸化ストレス起因あるいは関連の疾患・障害の一覧(すなわち放射線が生みだす活性酸素・フリーラジカルによる酸化ストレスを介して放射線影響の可能性のある疾患・障害)

出典:吉川敏一監修『酸化ストレスの医学 改訂第2版』診断と治療社(2014年)、吉川敏一ほか『活性酸素・フリーラジカルのすべて――健康から環境汚染まで――』より筆者作成。糖尿病に関連する部分は、山岸昌一編『糖尿病と酸化ストレス』メディカルレビュー社(2011年)、吉村耕一ほか「大動脈疾患―大動脈解離と胸腹部大動脈瘤:診断と治療の進歩」日本内科学会誌(2010年)*により補足した。
* https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/2/99_237/_pdf



 
 
 
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