宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している 山田耕作

2017年8月


宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している

2017年8月13日改定
山田耕作



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宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している>(pdf,5ページ,136KB)

1.はじめに
 2016年末から宮崎真・早野龍五両氏による3編の論文が投稿され話題になっている。ガラスバッジを用いての線量測定によると市民は空間線量の15%しか被曝していないという。政府は遮蔽が効いて60%という説であるが4倍低いという結果であるという。
 すでに第一論文に関しては黒川眞一氏より疑義が提出され、6月30日の週刊金曜日に発表された。この黒川氏の早野氏達の論文に対する批判や意見は以下のブログで紹介した。
 記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関して
http://blog.torikaesu.net/?eid=63
 ファイルは以下
http://www.torikaesu.net/data/20170716_yamada.pdf
 われわれは黒川氏の批判を確認し支持するとともに第一論文を検討した。その結果、第一論文の第一式に数学的に単純な誤りがあると判断した。著者の一人の早野氏にも率のみを平均する誤りについても連絡したが、集団線量への影響と重要性など相互理解が十分深まらなかった。そこで、私は2人で論争を続けるよりも広く内容を知らせ、みなさまの検討をお願いすることにした。もちろん、早野氏を含め皆さんから反論、批判等意見が寄せられることを期待する。とりわけ物理学会誌での議論に苦労した私にとっては、公開で議論がなされ正しい理解が広まることは喜ばしいことである。

2.比率の平均を取る誤り
 問題になっているのは次の論文である。
 Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5-51 months after the Fukushima NPP Accident (series): I Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys
 (2016 J. Radiat. Prot. 37 1)
 Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano
 http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1/pdf

 その第一式が次の式である。
The mean coefficient c , the average ratio of the individual dose rate to the grid dose rate was
<c>=<individual dose rate/ grid dose rate> =<ci> … (1)
ここで最後の等式は山田の理解に基づくもので
ci = individual dose rate/grid dose rate for the i-th person and the i-th grid.
これが論文の中心となる式である。つまり、個々のガラスバッジの被曝量のその地域の空間線量に対する比が ci である。(1)式はその ci の平均を取ることを表している。そして論文の結論は <c>=0.15±0.03 であったというのである。
 なぜ、個人のバッジの線量のそれぞれの住む地域の空閑線量に対する割合、ci の平均をとることが問題なのか。
 比率はそのままでは加えることができない量だからである。本来、平均はガラスバッジ線量の全員の和(またはその平均)を空間線量の個々人の位置の線量の値の和(またはその平均)で割らなければならない。つまり、ガラスバッジ線量の平均値と空間線量の平均値との比は、全員のバッジで求めた集団線量の、個々人の位置における空間線量から求めた集団線量に対する比である。この2つの集団線量は2つの測定方法による被害の推定の割合に直結する。
 後述するように、単純に比率を加えるのが誤りであるのは線量に応じた重みを無視して、比率の和をとっているからである。各人の ci のデータだけでは、集団線量の比は求まらないのである。こうして(1)式の値 <c>=0.15±0.03, (1)は意味のない量であることが分かった。
 あえて意味づけると線量に応じた重みが一様(均質)の仮想的な場合にだけ意味のある平均値である。論文にもあるように空間線量は地域によって異なり、一様な空間線量分布は現実の分布ではない。

3.一般論  率を平均すること
例1 食塩水の混合
 異なる濃度の食塩水を混ぜ、その食塩水の食塩濃度を求める問題を考えよう。この時それぞれの食塩水の濃度だけでは混ぜた後の濃度はわからない。それぞれの濃度の食塩水の量が問題である。等量の食塩水同士を混ぜれば濃度の平均も可能である。一般に食塩水の総量で食塩の総量を割って混合した食塩水の食塩の濃度を求める。食塩水の容器 1〜n があり、その溶液の塩の量を Bi、食塩水の量を Ai としよう。混ぜたのちの濃度 c は
 c= ΣBi/ΣAi = B/A
である。ただし、Σ は i に関して総和をとることを意味する。
ただし、
A=ΣAi、B=ΣBi, ci = Bi/Ai
と置く。
c= B/A =Σ{ (Ai/A)・(Bi/Ai)} =Σ{ (Ai/A)・ci } … (2)
である。この様に混合液の正しい濃度を得るにはそれぞれの濃度の溶液の量が必要である。単に濃度を加えて平均を取ることができない。各容器の重み Ai/A をかけて加える必要がある。 

4.主題 MH論文
 宮崎・早野論文(MH論文)の場合の c の平均は番号 1,2…i,…n の n個 のガラスバッジに対して 
c=<ci> =Σci/n と単純平均していると考えよう。複雑なc の分布を他の方法で平均する場合も議論の本質は変わらない。この時、ci はi番目のガラスバッジの線量 Bi のその場所の空間線量 Ai に対する割合である。ci を足し合わせバッジの総数 n で割ると ci の平均値が出る。
 上記、(2)式における食塩水の重み Aj/A が 1/n になっている。それ故、食塩水の例を考えても間違いであることは明らかである。主題の論文の場合を説明しよう。
 ガラスバッジとグリッド空間線量の場合は Ai/A は全空間線量 A に対して i の人が住む区域(グリッド)の空間線量 Ai の割合である。これを一律に 1/n とすることは低線量の Ai/A <1/n に対しては過大に、Ai/A >1/n に対しては過小に ci の重みを評価することになる。それ故、正しい集団線量の比 B/A を与えない。
 こうして率だけを平均した式(1)の結果は重みを無視した平均値で意味の不明な平均値である。ただし、伊達市が一様な汚染度の場合のみ平均値は意味がある。

5.まとめと議論
 問題点は、宮崎・早野論文の(1)式は数学ではよく知られた誤りであるということである。その率の全体に占める重みを無視して、率を平均しているからである。それぞれの個人のバッジの線量の空間線量に対する比は和をとって平均することができない量だからである。バッジの線量の市民にわたる平均値を空間線量の市民にわたる平均値で割ったものが正しいバッジの線量と空間線量の平均値の比である。それを宮崎・早野論文では個々のガラスバッジの数値の個々の空間線量に対する比率 ci の和を平均している。この時、ci の和は意味を持たない。正しくは個々人のバッジの線量の和を個々人の空間線量の和で割らなければならない。
 正しい結果はガラスバッジでえられた集団線量を空間線量から得られた集団線量で割っていることになる。これは集団線量の比であるから、線形の被害リスクを仮定する限り、がん死なり、がん罹患率など発生する現実の被害の比率を表しており、実体を伴うものである。
 一方、宮崎・早野論文の(1)式が与える平均値は個々人のガラスバッジの空間線量に対する比率 ci の平均であるが実体がなく意味のない比率 である。特にガラスバッジの下限が報告されているように、0.1mSv であるとすると低い空間線量のところではガラスバッジではゼロが多くなり、平均値を小さくする可能性がある。本当は線量の小さいところの集団線量への寄与はもともと小さく、測定手段によるずれがあっても大きく影響しないはずである。ところが(1)式によると比率の和をとるので線量の高い所と低いところが同等に寄与してしまう。これが宮崎・早野論文が小さい平均値、0.15 を与える原因のひとつかもしれない。
 
 
付録
わかりやすく説明すると、率を足してはいけない例は次のように理解できる。

例2
 野球のチーム打率を求める時、各選手の打率を平均するのは誤りである。各選手の打数が異なるので打率の和は意味がない。正しくはチームの全安打数をチームの全打数で割らなければならない。ガラスバッジが空間線量の中で、検知する割合を打率と考えればガラスバッジによる集団線量(安打数)を空間線量による集団線量(打数)で割って全体の比率(チーム打率)を求めるべきことが理解できる。

比率の和の精度について
 出された比率 ci の精度を考えよう。 ci の値を決める時の線量が不明なのでこの比の精度も不明である。そして精度の異なる比率を加えることになる。比率の精度は一般的には低い線量の方が良くないので精度は結局、最も線量の低い時の比率が決める。打者なら打数の少ない人になる。
 
 
誤りをわかりやすくするために次の例で示す。
例3 極端な場合 ホット・スポット

モデル 低線量地にホット・スポットがある
空間線量 0.001mSv が 999人、その個々人のガラスバッジが全て 0mSv とする。(ガラスバッジの測定下限値は
0.1mSv )。
空間線量 2mSv が1人、そのバッジが 1mSv とする。

 宮崎・早野では ci=0 が999人 ci=1/2 が1人, 平均は 1/2÷1000 で c の平均は0.0005
 一方、空間線量による集団被曝線量は 0.001mSvが999人で 0.999mSv・人、これに2mSv・人を足して空間線量による集団線量の合計は 2.999mSv・人、ガラスバッジの集団線量の合計は 1mSv・人なので、ガラスバッジの集団線量の空間集団線量に対する比 c は 1÷2.999=0.333 となる。
 この極端な例では 0.333÷0.0005=666.., つまり、早野論文の(1)式で単純に平均すると ガラスバッジは正しい平均に比べ 1/666 に過小な値になる。
もし、MH論文の方法で c の小さい値から順に50%、つまり500番目を見ると 0 である。


謝辞
 多くの方々に議論していただきました。感謝します。ただし、内容に関しては山田の責任です。特に高木伸、荻野晃也、片岡光男、長沢卓、小柴信子、渡辺悦司、遠藤順子、児玉順一、吉田敬一の各氏にお世話になりました。


 
 
 
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