「放射線と暮らしのリスク比較論」の落とし穴 渡辺悦司

2016年11月

「放射線と暮らしのリスク比較論」の落とし穴
中川恵一氏の日経紙上での発言――20mSvの放射線被曝は「1日3食毎日コメを1年食べた場合のヒ素による発がんリスク」程度という見解を検証する

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
2016年11月26日



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「放射線と暮らしのリスク比較論」の落とし穴(pdf,23ページ,992KB)



  本稿をお読みになる皆さまへ

 中川恵一東京大学病院准教授の発言、「1日3食、毎日コメを1年食べた場合の(ヒ素による)発がんリスクを放射線被曝に換算すると、20ミリシーベルト程度に相当する」(2016年11月10日夕刊)は法外な誤報です。「1年」という期間にご注目ください。通常は生涯期間(50年)です。詳細は以下に譲りますが、もしこの通りだと仮定し、日本の米食人口を1億人すると、日本の全てのがん発症のおよそ4割がコメを食べることに起因するということになります。現実にありえない主張です。私は抗議の質問状を送りましたが、日経新聞は、回答も、撤回・訂正もしていません。
 もちろん、これは一コラムの一部分の間違いであって、小さな問題に過ぎないと感じられるかもしれません。しかし、このような全く非常識な虚偽の主張によって「年間20ミリシーベルト程度」の放射線被曝があたかも大した危険ではなく安全で安心であるかのように宣伝するというキャンペーンが、日本の代表的な新聞の一つである日本経済新聞の有名な連載コラムの一つでさりげなくしかも公然と行われた事実こそ、一つの典型的な事例であり、そこに日本ジャーナリズム全体の危機を感じるのは私だけではないと思います。
 中川恵一氏は、今回のコラムとは別な論文では、喫煙が「1000〜2000ミリシーベルト」、3合以上の大量飲酒も同じく「1000〜2000ミリシーベルト」の被曝に相当すると主張しています。これだと喫煙者で大量飲酒する人は、「2〜4シーベルト」の被曝に相当することになり、放射線の半数致死量とされる3〜5シーベルトに達してしまいます。つまり、致死量の放射線を浴びても喫煙者が大量飲酒する程度だという主張が、東京大学病院准教授の権威をかさに、平然と行われているのです。中川恵一氏のような、「暮らしのリスク」を放射線リスクに比較し換算して、「被曝しても大丈夫」であるかの印象や雰囲気を人々の間に醸成するという手法は、最近強まってきていると感じます。
 安倍政権と原発推進勢力は、今やはっきり出ている福島原発事故の健康影響を一切無いことにし、原発再稼働を進めようとしています。そのために、報道機関が、現に進む健康被害の報道を自粛し、放射線の危険性とりわけ放射性微粒子による内部被曝の危険性には触れないようにし、全世界で進む自然エネルギーによる電力技術革命までも報道を控え、他方、放射線被曝しても安全安心であるかに宣伝するためにはどんな虚偽主張も許されるという社会的雰囲気をつくり出そうとしているように見えます。このような事態を決して許してはなりません。それは、真実の報道を旨とするジャーナリズムの死となるでしょう。
 何としても真実を追求し真実を広く人々に伝えるという勇気を持った皆さまが、必ずやこのような事態に真正面から立ち向かわれると確信いたしております。微力ながらそのような皆さまの活動に全面的に協力して参りたいと存じます。




  目 次

1.中川東大病院准教授の発言要旨とその意図       ・・・・・・・・・・・・  4
   「放射線と暮らしのリスク比較論」の等式

2.中川氏の通りだと仮定すると何が起こるか       ・・・・・・・・・・・・  5
   ICRPのリスク係数
   日本のがん発症の全てが無機ヒ素起因に!?
   中川氏の要求する「バランス」した「広い視野」とは何を意味するか?

3.「放射線と暮らしのリスク比較論」の系譜の中で見た中川見解    ・・・・・・  7
   畝山智香子氏の見解がベースに
   畝山氏の誤り、放射線リスクについて「発がん」と「がん死」を混同

4.ICRPモデルで実際に計算してみると     ・・・・・・・・・・・・・・・  9
   米食によるリスクはICRPリスク係数で約0.16mSv、0.004mSv(4μSv)程度
   中川氏、「生涯」と「年間」を取り違えか?

5.「暮らしのリスクと放射線リスク比較論」の方法論上のトリック     ・・・・  10
   がんリスクだけで比較、放射線の広範な非がんリスクを無視
   現存リスクと追加リスク(将来リスク)の混同
   放射線リスクと暮らしのリスクとの相乗効果の可能性を無視
   放射線換算リスクが高線量化し致死量付近に
   「100mSvまでは影響ない」から「1〜2Svまでは暮らしのリスク程度」へ

6.総括――中川氏の4段階の誤り      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  16
   結論――中川氏の虚偽主張と日経新聞の責任

  謝辞    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  17

  注記    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  18




  1.中川東大病院准教授の発言要旨とその意図

 中川恵一東京大学医学部附属病院准教授は、11月10日(2016年)日本経済新聞紙上にて、次のように述べた注1(ナンバーリングは引用者による)。
 ①「1日3食、毎日コメを1年食べた場合の(無機ヒ素による)発がんリスクを放射線被曝に換算すると、20ミリシーベルト(今後mSvと表記)程度に相当する」、②「内閣府食品安全委員会は、『ヒ素について食品からの摂取の現状に問題があるとは考えていない』としている」、③「(脱原発派が)『放射能は1ベクレルも許さない』と言いつつ、コメのヒ素は意に介さないとしたらバランスを欠く。リスクの比較をしながら全体を見る広い視野が大切だ」と。
 中川氏が主張し示唆するところは、明らかである――①政府の放射線被曝基準は年間1mSvではあるが、福島の避難区域において政府が帰還を目指している年間20mSvの被曝線量でも、そのリスクは「米を毎日3食1年間食べた」場合のヒ素による発がんリスク程度である、②政府の食品安全委員会がその量の米の摂取を「問題がない」としているのであるから、年間20mSv程度の放射線被曝もまた「問題がない」のは当然であり、③放射線被曝の危険性を主張し帰還政策に反対する人々は、放射線リスクだけを見て「暮らしのリスク」を見ておらず「バランスを欠き」「視野が狭い」、つまり人々が「暮らしのリスク」を認めて受け入れているように、「バランスを取って」「広い視野で」「暮らしのリスク程度の」放射線被曝リスクも受忍するべきだ、というのである。
 ちなみに、中川氏は、11月18日、六ヶ所再処理工場本格稼働や東通原発再稼働、さらには大間原発建設が県民レベルでの争点となろうとしている青森県で「放射線と暮らしを考える」をテーマに講演した注2

  「放射線と暮らしのリスク比較論」の等式

 上記①の部分から検討しよう。日経新聞の中川氏のコラムには、この点について、何の典拠も計算の根拠も記載されていない。明らかに不誠実である。
 だが、それにしても、「1年間米を1日3食食べる」と「20mSvの放射線被曝に相当する」リスクがあるという中川氏の見解はかなり極端であり、はたして本当なのだろうかという疑問がわく。
 いま中川氏の言う通りだと仮定しよう。「3食」かどうかは明らかに中川氏の主な論点ではない(2食あるいは1食ならよいとは主張していない)ので、氏の見解を「1年間の米食による無機ヒ素摂取のリスクが20mSvの放射線被曝のリスクに相当する」と解釈しよう。また、概念上の混乱を避けるため、中川氏の言う放射線被曝に換算して相対的に表現された「暮らしのリスク」を、ここでは「放射線換算リスク」と表記することにする。つまり中川氏の主張は、「暮らしのリスク」の「放射線換算リスク」イコール「放射線被曝リスクでXSv相当分」という等式である。いま「暮らしのリスク」をA(単位1万人当たり人)、放射線被曝一般のリスクをR(単位1万人・Svあたり人)と表記するとこの等式は以下のように表現できる。

     A=R×X

 したがって、この等式を「暮らしのリスクA」側からと、放射線被曝リスクR側からとの両面から検討する必要がある(以下、両面からの評価を並べて記すことにするが、多少表現がくどくなる点をお許しいただきたい)。
 中川氏の見解は明らかに「1年間分」の米食の発がんリスクについての話であるので、生涯期間については、中川氏のいう年間被曝量20mSvの50年分、すなわち20mSv×50=1000mSv(すなわち1Sv)の放射線被曝リスク相当分である(「生涯期間」は一般に成人50年・子供70年とされるが、ここでは簡略化のため50年を取る)。以下、中川氏の問題としている「年間リスク」と、一般に議論される場合普通に使われる「生涯リスク」の違いにご注目いただきたい。


  2.中川氏の通りだと仮定すると何が起こるか

  ICRPモデルで生涯期間に約1700〜2000万人の発がん、約400〜500万人のがん死

 いま中川氏の言う通りだと仮定し、日本政府が準拠している国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告のリスクモデル(表1)に基づいて計算すれば、およそ1億人が生涯コメを食べると仮定すると、それによる集団線量相当量は1億人・Svとなり、次世代へのリスクである「生殖腺(遺伝性)」を除くと、これに対する発がんリスクは1695〜1956万人、がん死リスクは398〜500万人ということになる。いずれも生涯期間50年間についての数字である。



 もちろん、このようなリスク係数は、本来不確実で大雑把な概数であり、ここでは同勧告に記載されているままに全桁を表記するが、決してすべての桁の数字について有効という意味ではない点にご注意いただきたい。

  ありえない中川氏の想定、日本のがん発症の全てがヒ素起因に!?

 中川氏の言う「1年間」に対しては、上記数字を50で除して、中川見解での米食にともなう無機ヒ素による発がんは年間で34〜40万人、がん死では年間で8〜10万人ということになる。これは、政府のがん登録統計での年間がん罹患者数推計86.5万人(最新統計はまだ2012年)の約4割、人口動態調査での年間がん死者数推計36.1万人(2012年に合わせた)のおよそ4分の1となる注3
中川氏は、本当に、コメに含まれる無機ヒ素がこれほど超巨大ながんリスクをもたらしていると本気で考えているのであろうか? もしそうなら当然証拠を示すべきであるが、それはできないであろう。ありえないからだ。
 例えば、中川氏が問題としている白米の摂取は、日本人の無機ヒ素の摂取量全体のおよそ3分の1を占めるにすぎない(表2)。だから中川氏の言うとおりだと仮定すると、無機ヒ素全体のがんリスクは上記数字の約3倍となり、日本で生じている発がんの全部、がん死の大部分が、無機ヒ素起因という評価になってしまう。



 再確認するが、中川氏は、無機ヒ素による発がんリスクを、現実にはありえない程にまで膨らませているとしか言いようがない。

  中川氏の要求する「バランス」した「広い視野」とは何を意味するか?

 他方、放射線被曝リスクの側から中川氏の議論を見てみよう。冒頭の要約③で中川氏が要求している放射線被曝リスクに対する「バランス」した「広い視野」とは何だろうか? それは、中川氏が米食に伴うと主張するリスク――年間で約40万人のがん発症と約10万人のがん死、生涯期間では約2000万人の発がんと約500万人のがん死(言っておくがこれは現実にはありえないほどに歪曲して膨らまされている数字である)――を人々は暮らしの中で当然のこととして受け入れているのだから、同じように、これと「バランス」した「広い視野」でもって、放射線被曝による年間および生涯期間で同程度のがん発症とがん死も当然容認すべきであるという主張を意味するのではないだろうか。つまり、中川氏の議論は、生涯期間で取れば、ナチスのユダヤ人虐殺とも比較可能な規模での放射線によるいわば「確率的大量殺人」の正当化論に等しいというほかないのではないか、という疑問がわくであろう。以下、この点を検証しよう。


  3.「放射線と暮らしのリスク比較論」の系譜の中で見た中川見解

  畝山智香子氏の見解がベースに

 実は、このような「食品摂取によるがんリスク」を「放射線被曝によるがんリスク」に換算し両者を比較する議論は、2011年10月発行の畝山智香子氏の著作、『安全な食べものって何だろう、放射線と食品のリスクを考える』(日本評論社刊)を一つの端緒として、原発推進派によって繰り返し展開されてきた(畝山氏は国立医薬品食品衛生研究所安全情報第三室長)。今回の中川氏の見解もこの議論をベースにしたものであると推測される。
 畝山氏は、3食米を食べることによる無機ヒ素起因の発がんリスクを「1.5×10のマイナス3乗」(同書75ページ)すなわち1万人当たり15人と推定している。だが、これは前後関係から明らかなように「生涯」リスクである。
 この数値は、この分野の専門家の一人である小栗朋子氏(現在国立環境研究所特別研究員)の論文注4に掲載されている、「生涯発がんリスク」の数値(表3)および日本人の無機ヒ素摂取量への白米の寄与度(同氏によれば全体の34%)から計算できる数字(1万人当たり4.4〜15.1人)の上限値である。ほぼ一般に想定されている数値と考えてよいであろう。




  畝山氏の誤り、放射線リスクについて「発がん」と「がん死」を混同

 他方、畝山氏は、「放射線リスク」について、「5.5×10のマイナス2乗/Sv」(72ページ)すなわち1万人・Sv当たり550人としている。そこから20mSvの被曝リスクをその50分の1の「1.1×10のマイナス3乗」(77ページ)すなわち1万人当たり11人としている。典拠は示されていない。
だが、この数字は、ICRPによる過剰がん「死」リスクを取っていると考えるほかない注5。つまり、食品はがん「発症」の数字を、放射線はがん「死」の数字を取っていることになる。がん発症数はがん死数よりも多いことは自明であるので、これは、明らかに放射線被曝リスクを過小評価(無機ヒ素の放射線換算リスクを過大評価)するものである。日本では、政府のがん登録統計は登録率が低いなど大きな不備があり、がん罹患者推計がかなりの程度過小評価されている可能性があることを考慮すると、がん発症数をがん死数のおよそ3倍程度であると考えてよいであろう(上記の政府統計からは2.4倍程度となるが、ICRP2007年勧告のリスク係数は4倍程度と想定している)。食品のリスクをがん「発症」で取るなら、明らかに放射線被曝リスクもがん「発症」で取るべきであり、放射線被曝リスクは畝山氏の計算の約3倍(無機ヒ素の放射線換算リスクは約3分の1)となるはずである。
 この畝山氏の過ちは中川氏にも受け継がれている可能性が高い。


  4.ICRPモデルで計算してみると

 では、ICRPのリスクモデルを使って、実際に、1年間の米の摂食がもたらす無機ヒ素による発がんリスク(Aと表記、単位1万人当たり人)と放射線被曝による発がんリスク(Rと表記、単位1万人・Sv当たり人)との比較を試みよう。発がんリスク量Aを与える放射線被曝線量をX(単位Sv)とすると、前述の等式の通りA=R×Xであるから、Xは、

    X=A÷R

によって求められる。
 いま、Aについては、畝山氏の推計を採用し、生涯期間で1万人当たり15人とする。Rについては、ICRP2007年勧告(上記表1)に従うこととし注6、1万人・Sv当たりの生涯期間でのがん発症リスクは1695〜1956人、がん死リスクは398〜500人である(前述表1の通り)とする。

  米食によるリスクはICRPリスク係数で約0.16mSv、実際には0.004mSv(4μSv)Sv程度

 そうすると、生涯期間で、米食からの無機ヒ素摂取による発がんリスクAは、放射線被曝リスクRに換算して、15÷(1695〜1956)= 0.0077〜0.0089Svである。中川氏の言う「1年間」の米食が生みだすリスクに換算すると、これを50で割って0.00015〜0.00018Sv、すなわち0.15〜0.18mSvである。中川氏の言う20mSvなどでは決してない。中川見解は、放射線被曝リスクRについて111〜133分の1への過小評価(無機ヒ素の放射線換算リスクAについて111〜133倍程度の過大評価)となっている。
 すでにわれわれが別稿において検討したように注7、ICRPの放射線被曝リスクには大きな過小評価がある。欧州放射線リスク委員会(ECRR)に依拠すれば、チェルノブイリ事故において、ICRPモデルにより計算される子供の甲状腺がん発症予測値と現実の発症数の比率からは40分の1の過小評価であるという。この補正を行うと、放射線被曝リスクを40倍に計算して、無機ヒ素の放射線換算リスクを上記の40分の1にしなければならない注8。そうすると、リスクAは年間0.004mSv程度すなわち4μSv程度となり、このレベルが現実に近いであろう。

  中川氏、「生涯」と「年間」を取り違えか?

 付言すれば、畝山氏は専門家として、生涯リスクと年間リスクを混同しないように注意喚起している。「おコメの方はこれからもずっと食べ続けるという条件ですし、被曝量(20mSvのこと)は緊急時の一時的な時期での1年あたりの値で」あると(前掲書77ページ、これら2つを混同させるかのようなミスリーディングな表現もある)。
 中川氏が、畝山氏の見解に依拠しながら、畝山氏の生涯リスクを、年間リスクと取り違え、放射線被曝リスクを50分の1から70分の1に過小評価(無機ヒ素の放射線換算リスクを50〜70倍に過大評価)しているのではないかという疑惑が生じるのは避けられない注9。もちろん、意図的に行われた操作なのか、単なるうっかりミスかはわからないが。


  5.「放射線と暮らしのリスク比較論」の方法論上のトリック

 本稿の冒頭にまとめた中川氏による示唆的な主張点②(米食の無機ヒ素摂取によるリスクは「問題ない」ので放射線リスクの方も「問題ない」)と、主張点③(無機ヒ素リスクと「バランス」させるために「広い視野」から放射線被ばくリスクを見ていかなければならない)については、最低でも次のことを指摘しなければならない。

  がんリスクだけで比較、放射線の広範な非がんリスクを無視

 第1は、「放射線と暮らしのリスク比較論」が、がんのリスクだけしか問題にしていないことである。これはICRPも同じである。しかし放射線の人体影響は決してがんだけではない。がんだけを見て、がんだけをベースにリスクを比較すると、放射線被曝のもつ広範囲でさらに深刻なリスクを大きく過小評価することになる。放射線のもたらす遺伝的影響についてはいうまでもない。周産期死亡率(妊娠終期の死産から新生児の死亡)が福島と周辺諸県で増えている注10が、この事実は、新生児死亡の約3割を占めるとされる先天奇形注11を含めて、福島原発事故の放射線影響がすでに出ていることを示唆している。われわれが『放射線被曝の争点』緑風出版(2016年)において指摘したように、放射線は、その直接的および間接的作用とくに後者(活性酸素・フリーラジカルの作用)によって、とくに放射性微粒子による内部被曝によって、がんだけでなく、心臓疾患、神経疾患、運動障害、アレルギーなど免疫系疾患、造血系疾患、代謝系疾患、精神疾患など、ほとんどあらゆる疾患や障害を引き起こす注12
 M. V. マルコ氏によれば、チェルノブイリ事故でのがん以外の病気(非がん疾患)による死亡(非がん死)予測数は、がん死予測数はとほぼ同じであるという注13。つまり、中川見解の上記の放射線リスク予測は、非がん疾患を含めると2倍にされなければならないわけである。

  現存リスクと追加リスク(将来リスク)の混同

 第2は、現存リスクと追加リスク(将来リスク)の混同である。「暮らしのリスク」たとえばコメを食べることによる無機ヒ素の発がんリスクは、すでに「現存する」リスクである。他方、中川氏が正当化しようとしている年間20mSvの放射線被曝のリスクは、今後追加される「将来リスク」あるいは「追加リスク」である。仮に中川氏の主張通り、両者を「比較」し現存リスクによって将来への追加リスクが正当化できると仮定したとしても、当然今後は、放射線被曝リスクが加わって現実のリスクは2倍となる、さらに死亡リスクについては非がん死リスクを加えて3倍になることを指摘する必要がある。だが、中川氏の議論では、この点は全く看過されている。
 中川氏のリスク評価に基づき、中川氏の主張通りに、追加的な放射線被曝を国民が受忍するという事態が仮に実現した場合に何が起こるかを、現存リスクと追加リスク、その合計としての総リスクとして、表4に示している。前述した畝山氏の主張通りの場合の想定も、比較のために掲げている。中川氏がいかに度外れのリスクを想定し、その法外な規模のリスクを「暮らしのリスク」として容認し受忍するように、読者に対して要求しているかは一見して明らかである。



 中川氏が正当化しようとしている事態がもし仮に言う通りに生じることになれば、これだけのリスクが、無機ヒ素によってすでに現存するとされる同量のリスクの上に、新たに付け加わることになるのである。中川氏はなぜこのことを指摘しないのだろうか。

  放射線リスクと暮らしのリスクとの相乗効果の可能性を無視

 第3は、無機ヒ素による発がんと放射線被曝による発がんとのメカニズムの類似性であり、そこから両者が相乗的に作用する危険性があることである(詳しい説明は注記にあるのでそちらを参照されたい)注14。放射線被曝による発がんが無機ヒ素による発がんに追加された場合、たんに上記のように相互に付け加わる「相加」効果のみならず、すでに疫学調査によって報告されている、喫煙と放射線(とくにラドン)との場合のように、また喫煙とヒ素摂取との場合のように、相互に作用し合って何倍にもなる「相乗」効果を持つ可能性が否定できない。その場合には、さらに深刻なリスクが予想されることになる。

  放射線感受性の高い人々(乳幼児や子供、女性、遺伝子欠損)の存在を無視

 第4は、「放射線と暮らしのリスク」論が、放射線感受性の高い人々の存在を無視していることである。放射線リスクは人口のいろいろな集団に均一ではない。乳幼児・子供・若年層では平均の3倍以上(乳幼児ではさらに高い)、女性では男性と比べておよそ2倍、放射線に対する感受性が高く、同じ被曝をしてもリスクが大きい。このことはすでにICRPやBEIRなどの報告書に記載された既知の事実である。さらに、最近の研究では、細胞分裂の周期、アポトーシス(異常な細胞を死滅させる機構)、DNA修復機構などを記述した遺伝子に生まれつき欠損や異常があるなど、遺伝子異常により放射線感受性が著しく高い人々が、人口の1%程度(日本では約120万人)存在することが明らかになっている注15。また、セシウム137が体外に排出される速度を示す「生物学的半減期」をとっても、個人差は非常に大きく、同じ年齢でも10〜100倍も違いがあるとされている注16。つまり、住民の中には、平均の何倍何十倍もセシウム137が蓄積しやすい人々がいるということである。これらの放射線高感受性の人口集団にとっては、中川氏や「放射線と暮らしのリスク」論者たちの主張は、生存の権利そのものの否定につながりかねない。彼らの主張は、このような放射線感受性の高い人々の基本的人権を踏みにじるものであると言わざるをえない。

  放射線換算リスクが積み上がって高線量化し致死量に到る

 第5は、中川氏の方法論に致命的な欠陥があることである。いろいろな「暮らしのリスク」を「放射線リスク」と「比較」し、「放射線リスク」を、各線量に相当する「暮らしのリスク」程度としてその都度「安全」「問題ない」として正当化していく方法論によれば、放射線被曝リスクは次々膨れ上がって行く。
 中川氏は、日本経済新聞のコラムとは別な論文注17で、毎日(清酒換算)3合以上の飲酒は「1000〜2000mSvの被曝」に、喫煙も「1000〜2000mSvの被曝」に相当するとしている。だが、このような1〜2Svの被曝は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が1988年報告において、急性被曝の場合数ヵ月後に被曝者の10%までが死亡する危険性のある被曝量(0〜10%致死量)と規定したレベルである注18。長期間にわたって累積的に被曝した場合でも結果は同じである。さらに中川氏の言う通りだとすると、大量飲酒プラス喫煙する人のリスクは2〜4Svになり、急性放射線被曝の場合の半数致死量(3〜5Sv[ICRP2007年勧告])に達してしまうことになる。要するに中川氏は「致死量の放射線を浴びても大量飲酒プラス喫煙程度だ」というナンセンスなデマを主張しているに等しい。

  「100mSvまでは影響ない」から「1〜2Svまでは暮らしのリスク程度」へ

 いろいろな「暮らしのリスク」は生涯期間で全て総計しないと「致死」に到らないことは自明である。だから、いろいろな「暮らしのリスク」を、放射線リスクに換算して表現すれば、それによって放射線致死量(半数致死量で3〜5Sv、90〜100%[2週間後]致死量で10〜15Sv[UNSCEAR1988])に到るまでのどのような放射線被曝量も正当化できるように見えるのは、いわば当たり前である。
 これは、「致死量」までは「致死性ではない」を、「暮らしのリスク」程度だから「問題はない」「危険はない」と言い換えただけの、最初から結論が決まったトリックである。当然の前提から「科学的」装いをまとったもっともらしい結論が導かれるだけである。この「致死量未満」イコール「非致死性」イコール「暮らしのリスク」という同義反復によって、致死的影響以外のすべての放射線の健康影響を、高線量放射線の「確定的影響」(1〜2Svも被曝すれば当然生じる不妊、脱毛、胃腸管障害、神経障害、脳波異常、骨髄損傷、造血能低下、出血、染色体異常と精子数減少、着床胚の致死、胎児の奇形誘発や精神遅滞、白内障など、表5を参照のこと)注19についても、低線量で生じる「確率的影響」(がんや心臓疾患など非がん疾患、遺伝的影響など)についても、ことごとく人々の視野から消し去ることができる。被曝しても「暮らしのリスク程度」という正当化論は、かつてよく行われた、被曝しても「直ちに影響はない」という評価と同様のペテン師的な論理と言っても過言ではない。



 だが、問題の根はもっと深いところにある。政府や原発推進勢力は今まで、「100mSv」以下では放射線の「健康影響はない」と宣伝してきた。だが、政府が年間20〜50mSv の汚染地域への住民の帰還を強行しようとしている中で、帰還した住民が2〜5年も居住すれば、累積被曝量で、政府自身が「影響がある」と認める被曝量「100mSv」に到達してしまう状況になりつつある。そのような背景から見るとき、政府・支配層が、「安全安心」とする被曝量を今までの「100mSv」から、今後「1〜2Sv」程度に高めようと策動しており、中川氏らの主張はその線に沿ったものではないかという疑惑が生じるのは当然である。
 中川氏が正当化しようとしている生涯被曝で1Sv以上という被曝量は、国際原子力推進勢力の中核機関の1つとされるICRPによってさえ「移住」が勧告されている被曝線量である(表5)。そのレベルの被曝量を「暮らしのリスク」として正当化することは、(チェルノブイリでは年間5mSv[生涯期間で250mSv]で移住とされていることと比較して不当に高い水準につり上げられている)ICRPの勧告にさえ公然と違反する行為であり、決して許されるものではない。それは、国際的な放射線防護原則を公然と踏みにじるだけでなく、現に進んでいる放射線被曝による広範な住民の人権侵害、端的に言えば「確率的な大量殺人」の正当化論であると言うほかない。
 「大量殺人」などというと目をむく人もいるだろうが、現在の避難者10万人を年間20〜50mSv地域への帰還させた場合の人的被害を、上記ICRPのリスク係数(大雑把にがん発症で2000人・がん死で500人としよう)で予測してみればよい。追加のがんは、年間の被曝に対して、発症400〜1000人、致死100〜250人である。50年間で計算すれば、発症2〜5万人、致死5000〜1万2500人である。非がん死を加えれば、およそこの2倍と予測され、年間200〜500人、生涯期間1万〜2万5000人の追加の死者である。これだけの死者が十分に予想される中で、このような帰還政策をあえて強行するならば、この国家的犯罪を、広瀬隆氏が名付けた「大量殺人」以外のどんな名前で呼べばよいのであろうか。


  6.総括――中川氏の4段階の誤り

 総括しよう。「放射線と暮らしのリスク」比較論の問題点は4つの段階にまたがっている。
 (1) ICRPによる放射線リスク係数には、発がんとがん死の両方について、大きな過小評価(例えばECRRによれば子供の甲状腺がん発症で40分の1程度)があり、それによって、「暮らしのリスク」を放射線被曝リスクと比較した場合、放射線被曝に換算された「暮らしのリスク」は極めて大きく過大評価されること――これが比較リスク論の全議論の基礎にある誤謬の元凶である。
 (2) 畝山氏や中川氏による、「暮らしのリスク」と放射線被曝リスクを「比較」し「暮らしのリスク」程度だからという理由で放射線被曝リスクを正当化する「同義反復」のトリック――実際には、放射線被曝リスクは「追加される」のであり、それによって最低でリスクは2倍に(非がん死を入れれば3倍に)なるのだが、この点には沈黙し、さらに放射線に固有の具体的な健康被害を、確定的影響および確率的影響の両方について、すべて隠してしまう。
 (3) 畝山氏による、無機ヒ素リスクにはがん「発症」数を、放射線被曝リスクにはがん「死亡」数(がん発症のおよそ3分の1)を取るという誤り――これにより、放射線被曝リスクをおよそ3分の1に過小評価(無機ヒ素の放射線換算リスクを3倍に過大評価)している。
 (4) 中川氏による、上記(1)〜(3) において「生涯」期間のリスクであった数値を、「年間」のリスクに取り違え、あるいは意図的にすりかえ、それによる放射線被曝リスクを50〜70分の1に過小評価(無機ヒ素の放射線換算リスクを50〜70倍に過大評価)していること――これは (1)〜(3) にはなかったもので、中川氏による独自の主張であり、仮に故意だとすると欺瞞というほかない犯罪的な行為である。
 これらが合わさって、中川論文では、放射線被曝リスクが1万2000分の1以下に過小評価され(コメの無機ヒ素の放射線換算リスクが1万2000倍以上に過大評価され)ていると判断するほかない(上記の40×2×3×[50〜70]=12,000〜16,800)。もちろん、(1)のICRPによる放射線被曝リスクの過小評価については認めない人もいるであろうが、仮にそれを差し引いたとしても、中川見解には3桁の、すなわち放射線被曝リスクで300分の1以下の過小評価(無機ヒ素の放射線換算リスクで300倍以上の過大評価)という誤謬が残るのである。
 (1)〜(4) は、放射線被曝リスクを過小評価する点ですべて同じ性格の過ちであるが、とくに(3)と(4) の間(畝山氏と中川氏の間)には、誤りの性格上、質的な飛躍と断絶があると考えるほかない。

  結論――中川氏の虚偽主張と日本経済新聞の責任

 上記 (1)〜(4) の段階の誤りの全てによって、とくに (4) の誤りによって、中川恵一氏の日本経済新聞紙上での発言の本稿冒頭で要約した主張(①〜③)は、全く虚偽であることは明らかである。その責任は厳しく追及されなければならない。たとえ①が年間と生涯期間を取り違えるというプリミティブな計算違いであったとしても、許容される性格の過ちではない。
また、これを事前にチェックせず、このような欺瞞的なコラムを、紙面とインターネット版に掲載し、広範な読者に誤った情報を配信した日本経済新聞の責任もまた、厳しく問われなければならない。


  謝 辞

 この論文を書くにあたって、落合栄一郎氏、大隈貞嗣氏、遠藤順子氏、山田耕作氏、田中一郎氏、松崎道幸氏、小森己知子氏、すどうゆりこ氏、内田明子氏ほか多くの皆さまにご協力いただきました。深く感謝申し上げます。もちろん全ての文責は渡辺にあります。
 
 
  注 記

注1 中川恵一「がん社会を診る 同じ食品続けて食べない」日本経済新聞2016年11月10日夕刊コラム。現在は以下のサイトで読むことができる。
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO09380200Q6A111C1NZBP00/
 付言すると、中川氏による虚偽主張は今回が初めてではない。市民と科学者の内部被曝問題研究会会員のジャーナリストの田代真人氏は回想する。「2014年の8月17日、安倍政権の復興庁、内閣官房、外務省、環境省が、『放射能についての正しい知識を』と題する『政府広報』を読売、朝日、毎日、産経、日経など各大手紙朝刊と、地方紙、福島民友、福島民報、18日付は夕刊フジに全面広告として出した。そのメインの論者が、例の中川恵一氏であった。各紙発行部数から推測するとおよそ2400万人の読者に届いたことが予想され、看過できない事態であった。」
 市民と科学者の内部被曝問題研究会は、9月15日、「異議あり! 8.17政府広報」という緊急会見・シンポジウムを開き、声明「政府は、被ばく被害を過小評価せず被曝回避に努めよ 2014年8月17日付『政府広報』に対する批判」を学者、研究者、医師、ジャーナリストらの連名で発表した。
 この点に関しては、市民と科学者の内部被曝問題研究会ホームページを参照のこと。同文書は、以下のサイトに掲載されている。
http://acsir.org/data/20140915_acsir_symposiumstatement.pdf

注2 青森県・環境科学技術研究所 平成28年度環境科学セミナー「知って納得 放射線!!」。詳細は以下を参照のこと。
http://www.ies.or.jp/publicity_j/publicity10120161118.html
青森県の医師で『放射線被曝の争点』(緑風出版、後述)の共著者の一人、遠藤順子氏によれば、中川恵一氏は、青森県内に配布される日本原燃の広告に、福島原発事故後に少なくとも二度登場しているという。また、青森県内で開催される「放射線を正しく知ろう」的な推進側の講演会でも何度も講演し「がんの原因は放射線より生活習慣」という言説を繰り返している。
青森での彼の言説の要点を箇条書き的に記すと以下の通りである。
(1)一度に大量の放射線を受ければ影響を受けるが、低い線量を毎日少しずつ受ける分には心配ない。
(2)100mSv未満の被曝ではがんの増加は確認てきないほど低い。チェルノブイリでも100mSv以下ではがんの増加は確認されていない。
(3)生活習慣を放射線被曝のリスクに換算すると、野菜不足が100〜200mSv、大量飲酒が500〜1000mSv、喫煙が1000〜2000mSv、受動喫煙が50〜100mSvなど。
上記の換算にはどのような根拠があるのだろうか。野菜不足というのは、どのような野菜をどのくらい不足するのかも全く示さず、あまりにも非科学的といわざるをえない。さらに飲酒と喫煙は、大人が自分で選択して摂取するものであり、自分で選択もせず、乳幼児や子供、妊婦にまで強要されている放射線被曝と同等に議論することは、絶対にやってはいけないことである。また、チェルノブイリでは、少なくとも小児甲状腺がんは原発事故の影響であると認められており、その半数は100mSv以下の被曝によるものであることもわかっている。中川恵一氏は嘘を言って歩き回っているというほかない。

注3 日本におけるがん罹患数は、国立がん研究機構「がん情報サービス」による。以下のサイトを参照のこと。2012年が最新の統計である。
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
がん死者数は政府の「人口動態調査」による。統計は罹患数のものと同じ年(2012年)とした。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai12/dl/h6.pdf
最新の2015年のがん死死者概数は、同じく政府の人口動態調査概要によって知ることができるが、多少増加しているが、概ね同数と考えてよい(37.0万人)。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/h6.pdf

注4 この点、三重大学助教大隈貞嗣氏にご教示いただいた。
小栗朋子「日本人の無機ヒ素摂取量とその健康リスク」東京大学論文リポジトリー
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/57539/2/A29939_abstract.pdf
また同じく小栗朋子「日本の無機ヒ素暴露と健康リスク」同
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/43039/1/K-02497-a.pdf
小栗氏の挙げている3種のがんリスクを合計すると、無機ヒ素による生涯発がんリスクは
――50%値で計算して1.30×10−3(0.00130) → 1万人当たり13人
――95%値で計算して4.43×10−3(0.00443) → 1万人当たり44.3人
無機ヒ素摂取量のうち、白米の寄与度は34%(上記第2論文)なので、「コメを食べる」ことによるリスクは、上の数値の34%で4.4〜15.1人ということになる。

注5 この数字は、おそらくICRP2007年勧告の日本語版19ページの表1から採られたものと推測されるが、もしそうだとすると、これは被曝による平均余命の短縮などの「損害調整済み」の「死亡リスク」である。「罹患リスク」「発がんリスク」「発症リスク」ではない。ただ畝山氏は典拠を示していないので、ここでは断定は避け、以下に、放射線医学総合研究所(以下放医研と表記)『低線量放射線と健康影響』医療科学社(2012年)がまとめた放射線による過剰がんの致死性リスクについての主要機関のリストを掲げる(同書162ページにある)。どの機関の数字を見ても、畝山氏の数字が、明らかに致死リスク(白血病と白血病以外のがんの合計)を取っていることが分かる。付言すれば、Gy=Svと考えてよいので、表は1万人・Sv当たりの過剰がん死リスクである。




注6 ICRP2007年勧告には5種類のリスク係数が掲載されている。ここではその中から最小値と最大値をとり、幅のある数字として計算した。詳しくは本文表1の注記を参照のこと。

注7 渡辺悦司「福島原発事故・健康被害ゼロ論の欺瞞――子供の甲状腺がん発生は本当に放射線影響とは『考えにくい』のか? ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測してみる」
ブログは以下に掲載されている。
http://blog.torikaesu.net/?eid=55
PDFファイルは以下に格納されている。
http://www.torikaesu.net/data/20161106_watanabe.pdf

注8 以下、松崎道幸氏(道北勤医協 旭川北医院)にご教示いただいた。2016年11月に発表されたグレッグ・ドロプキン氏の論文によれば、被ばく量とがんリスクが線形でなく、低線量領域では、ICRPのベースとなっている原爆被爆者寿命調査(LSS)のモデルよりも10〜45倍のがんリスクがあることが論証されたという。ドロプキン氏は、「一般化加法モデル」という手法でLSSデータを再解析したところ、100mSv以下の線量域では、従来のLSSデータを2桁上回る発がんリスクとなることが明らかになったという。
Greg Dropkin, "Low dose radiation risks for women surviving the a-bombs in Japan: generalized additive model," Environmental Health 2016 15:112 DOI: 10.1186/s12940-016-
0191-3
https://ehjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12940-016-0191-3
 この通りだとすると、ICRPは低線量において線量・線量率係数DDREF=2を採用して、100mSv以下のリスクを人為的に2分の1としており、ICRPのリスク係数は90分の1から20分の1に過小評価されていることを意味する。したがって、このドロプキン氏の研究もまた、われわれが使ったECRRの過小評価補正係数40をほぼ現実的だと評価できるさらなる論拠の一つとなるであろう。

注9 牧野淳一郎氏は、すでに2012年3月、このような中川氏の年間被曝量と生涯被曝量とを混同する見解を批判的に検討している(大隈氏にご教示いただいた)。このときは、「生涯」被曝量で1000mSvを「年間」被曝量で1000mSvと書き間違えていたという。これだと生涯期間で50Svという1〜48時間後致死量となる。
http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/811/note013.html
これに関連して以下のサイトも参照のこと。
http://researchmap.jp/jo44fzbjv-111/?block_id=111&active_action=journal_view_main_detail&post_id=14629&comment_flag=1

注10 医療問題研究会「原発事故と汚染があった地域で、周産期死亡が増加している、とのH. シュアブらの論文の紹介」(共著者 林敬次)
http://ebm-jp.com/2016/11/media2016004/
Medicine誌に掲載の論文は以下で読むことができる。
http://ebm-jp.com/wp-content/uploads/media-2016002-medicine.pdf

注11 T. W. サドラー『ラングマン人体発生学 第11版』メディカル・サイエンス・インターナショナル(2016年)133ページ

注12 渡辺悦司・遠藤順子・山田耕作『放射線被曝の争点――福島原発事故の健康被害は無いのか』緑風出版(2016年)の52〜66ページ、140〜157ページ、191〜219ページを参照いただきたい。

注13 アレクセイ・ヤブロコフ『チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店(2013年)178ページの表7.10に引用されている。

注14 落合栄一郎氏にご教示いただいたところによれば、無機ヒ素の発がん性の機序は、主に、以下の通りであると考えられるという。①ヒ素元素はリン元素と性質上類似している、そのためDNAにおけるリン酸がヒ酸によって取って代わられる現象が生じるが、ヒ酸は亜ヒ酸化する強い傾向を持つため、亜ヒ酸化が起こると遺伝情報が破壊される、②亜ヒ酸の分解に、本来体内で活性酸素を分解する抗酸化物質や酵素が使われ、生体の活性酸素に対する抵抗力の低下(酸化ストレスの増大)がもたらされることなどによるという(落合栄一郎『Bioinorganic Chemistry, A Survey(生物無機化学概論)』Elsevier/ Academic Pressの11.3.2項および11.4.4項を参照のこと)。
 他方、放射線は、①DNA鎖を直接的に切断する、および、②放射線が活性酸素・フリーラジカルを発生させそれらによる酸化ストレスが間接的にDNAを損傷させ発がんを促すという発がんメカニズムをもつが、この機序はヒ素による作用と類似している。ここから、放射線被曝による発がんと無機ヒ素による発がんが、たんに相加効果のみならず相乗効果を持つ可能性が考えられる。
 喫煙と放射線(とくにラドン)の影響との相乗効果については、放医研前掲書『低線量放射線と健康影響』144〜145ページを参照した。喫煙と無機ヒ素摂取との相乗効果については、インターネットの「Web医事新報」に掲載されている澤田典絵氏 (国立がん研究センター がん予防・検診研究センター疫学研究部室長)の「食事に含まれる砒素と肺癌に関係があると聞いたのですが…喫煙との相乗効果でリスク上昇の可能性」を参照した。澤田氏は、国立がん研究センターでの研究(Sawada N, et al: Cancer Causes Control. 2013;24(7):1403-15.)を挙げて「喫煙と砒素摂取の相乗効果が報告されている」と述べている。
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=3849

注15 放医研前掲書『低線量放射線と健康影響』153ページ。

注16 本行忠志(大阪大学医学部教授)「放射線の人体影響――低線量被ばくは大丈夫か」『生産と技術』2014年第66巻第4号所収を参照した。ちなみに、同論文は、放射線医学の専門家による低線量被ばくの危険性を真正面から全面的に分析しようとした労作として極めて重要な文献であり、本行氏の真摯な姿勢に強く印象づけられる。
http://seisan.server-shared.com/664/664-68.pdf

注17 中川恵一「放射線の人体への影響を正しく知ろう」日本原燃ホームページ
http://www.jnfl.co.jp/ja/pr/brochure/file/cycleinfo-201303-2.pdf
 中川氏が本当にそのような内容を主張しているのだろうかと疑う人もいると思うので、該当する表を以下に掲げておく。詳細は上記ホームページを確認のこと。




 なお付言すれば、喫煙と大量飲酒が1000〜2000mSv(1〜2Sv)の放射線被曝リスクに相当するという主張は、元々は、畝山智香子前掲書203ページの参考表13に含まれていたものである。

注18 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)著 放射線医学総合研究所監訳『放射線の線源、影響及びリスク 総会への1988年報告書、付属文書』実業広報社(1990年)「科学的付属書G」663ページ。

注19 これらの確定的影響については、放医研前掲書『低線量放射線と健康影響』30〜31ページ、とくに179ページにある別表1および2を参照した。


 
 
 
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