福島原発事故について思うこと −放射線被曝の危険性と科学者の責任− 山田耕作

2016年12月

福島原発事故について思うこと
−放射線被曝の危険性と科学者の責任−

山田耕作 kosakuyamadaアットマークyahoo.co.jp
2016年12月



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福島原発事故について思うこと−放射線被曝の危険性と科学者の責任−(pdf,8ページ,481KB)


今年は初めて反戦老人クラブ・京都の主催で原発問題についてのお話しをさせていただきました。それをきっかけに次のようなことを考えました。簡単なまとめです。

1.人類の歴史と平等の原則
 人間は社会的な動物であり、集団で協力することによって、過酷な生存競争に生き残り、厳しい自然に適応して、進化してきた。社会的な集団として有機的に活動するために、言葉や文字を持ち、相互に意志を通わせる通信手段を発展させてきた。このことを考えると、人間の本質は個々の人間としてではなく、集団としての生活や労働にその本質が存在すると考えられる。人類の歴史としての進歩は集団としての人類の進歩である。
 そのような社会における構成員個々人の間の関係はどうあるべきであろうか。その根本的な基礎は各構成員間の平等の原則である。世界の子供一人一人はそれぞれ異なる環境の下で生まれるが、お互いに人間としての本質的な違いはない。平等以外に公平な原則はありえない。この平等で、対等な個人個人の自発的な協力こそ社会を発展させる基礎であり、原動力である。

2.民主主義は「平等」を意味する
 世界中の全ての人間は平等であり、生まれながらにして、尊敬され、人間らしく生きる権利を有する。思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由、居住・移動の自由、働く権利、健康で文化的に生きる権利。これらは基本的人権(人格権)と呼ばれ、他の全ての権利に優先して尊重されるべき権利である。この原則を世界の全ての人々がお互いに尊重することは、人類全体の利益となり、人類の発展につながるのである。しかし、富の蓄積とともに、社会は階級に分裂し、支配階級の権力機関として国家が誕生した。奴隷制社会や封建制社会では人間は神の前でのみ平等であった。更に近代の資本主義社会では法の前では平等とされた。しかし、現実には経済的格差が存在し、社会的に生産された富を私有化し、富を独占するものが絶大な権力を持っている。民主主義は経済的平等にまで拡大されなければならない。
 一方、そのような進化の歴史の中で、人類は火を使い、手を発達させ、脳の発達を通じて、科学と技術を発達させることによって、生産力を発展させてきた。このような科学と技術の進歩は、人類の長い歴史の中で様々な迷信、偏見に対する必死の戦いの中で獲得され、先人から受け継がれ発展させられてきたものである。

3.人間の使命と道徳(倫理)の基礎
 人類の進歩は科学と民主主義の発展によって担われる。個人の喜びや幸せはこの人類の進歩を担う事業に参加・協力することによって得られる。人間の倫理の基礎は、科学と民主主義(人権)の拡大・発展を求める公的な感情や憤りにある。これは類的存在としての人間の本性に基づくものである。
 科学者の使命も同様に科学の進歩と民主主義の拡大にある。そこにおいても、民主主義・人権はあらゆる権利に優先して尊重されるべき原則である。それ故、科学者は何よりも科学の進歩が人権を擁護し、人類に幸福をもたらすように厳しく監視する責任がある。まして軍事研究に協力することは一切許されない。福島原発事故に際しての科学者の現実はどうか。

4.原発の運転は被曝を避けられず、緊急避難を要する原発は社会的弱者の敵
 先に述べたように、平和に安心して健康に生きることは世界の全ての人に平等に保障された基本的な権利である。その権利を現在および未来の人類に保障するために現在生きている全ての人は核兵器と原発の廃止に努める責任がある。生命・健康を犠牲にし、緊急避難を必要とする原発は子ども・老人・障がい者などの弱者を含む現実の社会では存在を許されないものである。
 特に科学者は人権を護るため、自らの知識と能力を用いて原発の危険性を警告し、原発を廃棄する義務がある。それは原発が次のような解決できない危険性を持つからである。

5.原子力発電の地震に対する安全性を保証することができない
 100万キロワット級の原発1基で、広島型原発千発分の死の灰を内蔵する原発事故は核爆弾以上の放射性物質による汚染をもたらす恐れがある。これを厳密に閉じ込め、長期に事故もなく運転することは技術的に不可能である。特に、我が国は地殻のプレート境界上にあり、大地震や火山爆発が避けられない。地震は複雑な破壊現象であり、原発の耐震設計は信頼できない。更に核廃棄物を幾十万年にもわたって後世に押し付けることになる。

6.福島原発事故による健康被害は無いのか
 環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の「中間とりまとめ」(2014年12月22日)において「今般の事故による住民の被曝の線量に鑑みると」「福島県及び福島近隣県において」①「がん罹患率に統計的有意差をもって変化が検出できる可能性は低い」②「放射線被曝により遺伝的影響の増加が識別されるとは予想されない」③「不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響が今後増加することは予想されない」として、政府・東電は一切の人的被害を頭から否定している。これは政府・東電の犯罪を隠蔽し、賠償責任を免れるためである。

7. しかし、現実は違う
①福島県民健康調査で子どもの甲状腺がん及びその疑いが現在174名発見されている。これは津田敏秀氏らによって著しい多発であることが科学的に証明されている1)。先行検査(1巡目)が約9年間(0から18歳までの子供の平均観察期間)で115名、調査途中の本格検査(2巡目)が約3年で59名である。宗川吉汪氏らによれば2巡目の本格検査の方が先行検査より、1年当たりの発症率が高く(約3倍)、さらなる甲状腺がんの増加が危惧される2)。図1はロシアの甲状腺がんの毎年の罹患数であるが、20年以上経っても毎年約600人で、増加し続けている。


図1.1986年のチェルノブイリ事故から20年以上経った今も甲状腺がんは増加を続けている。
(濃色:男性、淡色:女性)


②また、2011年12月には、自然死産率が福島近隣4県で12.9%、その周辺11県で5.2%増加した。更に、福島県などにおける心臓病(特に急性心筋梗塞)の多発、心疾患、悪性リンパ腫・白血病、白内障の増加、鼻血、免疫機能の低下が見られる。
 周産期死亡率の増加が最近、H. シュアブ氏達によって発表された3)。2012年1月の震災10か月後において、周産期死亡率が岩手・宮城で15.6%、福島・茨城・栃木・群馬で17.5%,中程度の汚染地域の千葉・埼玉・東京で6.8%増加した。それ以外の汚染の低い地域では増加は観測されなかった。これは被曝被害の広がりと深刻さを示すものである。
 次の図2は福島原発からの距離と先行検査の小児がん発生率の関係を示す4)。小児甲状腺がんの原因が福島原発事故にあることを明確に示している。山本英彦医師による(危険率p=0.002)。


図2.福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)
医療問題研究会の山本英彦医師によると小児甲状腺がんの発生率(悪性率)は福島原発からの距離とともに減少する。これは甲状腺がんの原因が福島原発であることを明確に示す4)

8.福島原発から大量に放出された放射性微粒子は一層危険である
 福島原発事故によって、ナノ(10-9m)からミクロン(10-6m)の大きさで様々な放射性微粒子が放出されていることが明らかになった4)。ミクロン程度の微粒子は肺胞などに取り込まれ、より微小なナノ粒子は血液を通じて体内を移動する。そして臓器内に偏在し、その放射性微粒子の発する放射線によって直接、遺伝子や細胞を損傷する。それのみならず、間接的に放射線の電離作用によって生じた反応性に富む不対イオンである活性酸素やフリー・ラディカルを通じて細胞を破壊し、臓器を損傷する5−7)。心筋梗塞や腎臓や肝臓の病気を引き起こす。さらに生じた活性酸素やフリー・ラディカルは、エネルギー生産に重要なミトコンドリアや細胞膜を破壊し、体力や免疫力を弱める。このように放射性微粒子による被曝は重大な健康破壊をもたらすのである。この活性酸素を介しての間接的な効果はペトカウ効果と呼ばれ、直接放射線が与える被害に比べ3から4倍大きく、ほとんどの病気に関与するといわれる。
 2014年までの我が国の死亡統計の矢ヶ克馬氏による分析によると、福島原発事故以後、死亡率が急上昇している8)。それを年齢別に見ると75歳以上の老人層のみの死亡率が急上昇している。このことから、矢ヶ氏は放射線の作用は主として75歳以上の老人の死亡を年13万人ほど誘発させていると推計している。このように放射線被曝は体力の弱い人たちの死亡を早めるのである。

9.人工の放射性元素は天然のカリウム40に比べ体内被曝の危険性が高い
 カリウム40はカリウムチャンネルを通じてすばやく移動し、偏在することはない。しかし、カリウム以外のセシウム137などの人工の放射性核種は臓器に取り込まれ偏在し、局所的、集中的、継続的被曝を与える9)。その結果、バンダジェフスキーが発見した「長寿命放射性元素の体内取り込み症候群」を引き起こし、格段に危険である5)。例えばチェルノブイリの膀胱がんは尿中50 Bq/kgのカリウム40でなく数Bq/kgのセシウム137で起こる(Bqはベクレル)10)

10.内部被曝は遺伝子を破壊するだけでなく、ホルモン作用を攪乱する
 体内に取り込まれた放射線の影響の中でも、ホルモン作用の攪乱は環境ホルモンと同様に遺伝子の発現を攪乱し、胎児の発達にとって重大な障害をもたらす。ダイオキシンなどの環境ホルモンに代わって放射線が「胎児―母親系」のホルモン作用を攪乱し、正常な発達を妨害する。結果として子供たちは病弱になったり、生殖系に損傷を受け、それが次世代以降に引き継がれる。チェルノブイリ事故により汚染されたベラルーシ、ウクライナ、ロシアでは「胎児期起源」の健康破壊は成長後の健康破壊の原因として重大な問題となっている7,11,12)
 チェルノブイリ事故の被害を報告したヤブロコフたちの「チェルノブイリ事故の全貌」によると「重要な知見の1つは、甲状腺がんの症例が1例あれば、他の種類の甲状腺疾患が約1000例存在することである」という(p81)。福島では子どもの甲状腺がんが174人であるから、他の甲状腺疾患が17万例があることになる。
 2016年9月14日の第24回福島県「県民健康調査」検討委員会におけるアンケート調査(2010年8月1日から2012年4月8日に生まれたこども)の報告によると、「こどもがこれまでに入院を要した病気にかかったことがある」割合は24.7%で4人に1人の割合だった。入院時の疾患は多様だが肺炎が162人、RSウイルス感染症101人、気管支炎60人、ロタウイルス感染症44人、胃腸炎41人、気管支喘息41人、川崎病32人等であった13)。免疫力がなく感染症にかかるなど病弱の子供が多数見られる。放射性微粒子の活性酸素を通じての健康破壊とともに、それらがホルモン作用を攪乱することによる生殖系を通じた長期的な健康破壊が危惧される。

11.福島原発事故に対する科学者の責任
 今回の福島原発事故は現在および未来の多くの人命、健康を破壊する結果となった。日本の科学者は原子力平和利用三原則「自主・民主・公開」の基に原発を容認してきた。日本の科学者たちは、地球規模の破壊力を持つ原発の危険性を正しく認識せず、原発の推進に協力し、あるいは黙認してきたのである。このような原子力の推進や黙認の結果として、福島原発事故を招来することになった。科学者は全体としても個人としても現在・未来の人類に対して重大な責任がある。
 にもかかわらず、福島原発事故の責任をとらないだけでなく、被害を最小に留め、被災者を救済することにも消極的である。日本物理学会誌編集委員会は放射性微粒子による内部被曝を心配する私の投稿にも、「風評被害を煽る」として事実の公表さえ妨害する。更に、事故原因も究明されていないのに、日本物理学会として、実質的に原発推進のシンポジウムを開いたり、被曝の被害を過小に評価して被災地への帰還を強制する政府に加担する科学者もいる。この帰還の強制に対しても大多数の科学者は黙認する。これは大量の放射線被曝による直接的・間接的殺人に加担する行為にも等しい犯罪である。先に述べたように生存権という最も大切な人権を侵害する人間として許すことのできない犯罪である。

12.世界はエネルギー大転換の時代に入った
 一方、資源の枯渇として強調されてきたエネルギーの問題に関して、歴史的な大転換が起こっている。風力、ソーラーなどの再生可能エネルギーの方が化石燃料より安くなる時代に入った。朝日新聞なども家庭の電気料金に比べて、太陽光発電単価の方が安くなったと報道している。我が国政府の発表でも、世界の再生可能エネルギーの成長は加速度的である。世界は枯渇の心配のない究極のエネルギーへの歴史的転換期を迎えている。危険を覚悟して原発を推進する理由は完全になくなった。これは素晴らしい科学の進歩である。にもかかわらず、原発の必要性を主張する科学者がいるのはこの科学の進歩を知らず、被曝の危険性を軽視し、人権を無視し、研究者の利己的利害に固執している結果である。


図3

 特に注目されるのは2005年頃、原発と同じ程度であった自然エネルギーによる発電量が2014年には原発の2倍になって、さらに急速な上昇を続けていることである。自然エネルギーの現実の急速な発展は私達の科学進歩に対する信頼と希望をもたらすものである。低周波公害など問題がないわけではないが、自然エネルギーは多様であり、民主的な議論を通じて解決不可能ではない。自然エネルギーは省エネ技術と合わせて未来のエネルギーを担うことができるであろう。我々は究極のエネルギーに手が届く時代にいるのであり、原発は不要である。

13.福島原発事故以来5年半が過ぎた今、何をなすべきか
 現在、甲状腺がんをはじめ多くの被曝被害が劇的に増加し、顕在化している。にもかかわらず、政府・東電は被曝の被害を隠蔽し、危険を顧みず、年20ミリシーベルトの汚染地への帰還を避難者に強制し、従わないものには住宅の援助や賠償を打ち切ろうとしている。この原発事故の加害者たる政府・東電による人権を無視した政策を撤回させ、避難の権利を確立する運動をいっそう強化しなければならない。

謝辞 渡辺悦司、遠藤順子、小柴信子、落合祥堯、片岡光男、稲垣睿、高木伸、の方々はじめ多くの方に議論していただきました。内容は著者の責任ですが大変参考になりました。

参考文献
1.Thyroid Cancer Detection by Ultrasound among Residents Aged 18 Years and Younger in Fukushima, Japan:2011 to 2014. Tsuda T.Tokinobu A. Suzuki A., Yamamoto E.: Epidemiology:May 2016 - Volume 27 - Issue 3 - p 316–322
2.福島原発事故と小児甲状腺がん 宗川吉汪、大倉弘之、尾崎望著、本の泉社 2015年、日本科学者会議京都支部HP http://web.kyoto-inet.or.jp/people/jsa-k/
3.Increases in Perinatal Mortality in Prefectures Contaminated by the Fukushima Nuclear Power Plant Acciddent in Japan; Hagen Heinrich Scherb, Kuniyoshi Mori, Keiji Hayashi ;Medicine 2016; 95: e4958
4. 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)
 http://ebm-jp.com/2016/04/news-485-2016-01-p03/
5.放射線被曝の争点−福島原発事故の被害は無いのか― 渡辺悦司、遠藤順子、山田耕作著 緑風出版 2016年 
6.放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響−チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ− ユーリ・I・バンダジェフスキー著 久保田護訳 合同出版2011年
7.放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響―チェルノブイリ原発事故その人口「損失」の現実― ユーリ・I・バンダジェフスキー/N・F・ドウボバヤ著 久保田護訳 合同出版 2013年
8.原子力緊急事態宣言下の人権と健康被害;矢ヶ克馬著 季論21 2016年秋号p100
9.新・環境学III −有害人工化合物/原子力−市川定夫著 藤原書店2008年
10.原発問題の争点−内部被曝・地震・東電− 大和田幸嗣、橋本眞佐男、山田耕作、渡辺悦司著 緑風出版 2012年
11.未来世代への「戦争」が始まっている−ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ― 綿貫礼子、吉田由布子著 岩波書店 2005年
12.放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 綿貫礼子編、吉田由布子、二神淑子、リュドミラ・サアキャン著 新評論 2012年
13.県民調査 妊婦の不安 子供の入院 Days Japan2016年11月号p53
 http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/182584.pdf  も参照



 
 
 
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