福島原発事故・健康被害ゼロ論の欺瞞  渡辺悦司

2016年11月


福島原発事故・健康被害ゼロ論の欺瞞

子供の甲状腺がん発生は本当に放射線影響とは「考えにくい」のか?
ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測してみる

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
2016年11月6日  
2016年12月6日改訂



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福島原発事故・健康被害ゼロ論の欺瞞(pdf,52ページ,1762KB)


 政府と福島県当局、それに連なる多くの「専門家」たちは、福島の子供の甲状腺がんが放射線の影響とは「考えにくい」という見解に固執している。だがこのような主張は、国際的に確立された放射線防護原則に基づいて考察した場合本当に成り立つのだろうか?― ―これに答えるため、われわれは、以下のデータに基づいて、福島における子供の過剰甲状腺がんの発生数の推計を試みた。その手順は次の三段階である(A〜Eは筆者の付けた数値を表す記号)。用いたのは単純な四則計算だけである。
 1.集団線量の推計:世界保健機関(WHO)による福島の甲状腺被曝量推計値[A]および福島県県民健康調査検討委員会の調査人数[B]から集団線量(集団積算線量、集団実効線量ともいう)を推計する。
 2.リスク係数と子供の感受性係数とによる発症予測数の計算:国際放射線防護委員会(ICRP)の甲状腺がんの名目リスク係数[C]、米国電離放射線の生物学的影響に関する委員会(BEIR)のリスクモデルから子供の甲状腺被曝感受性係数[D]を推計し、A×B×C×Dにより生涯期間(70年)の発症予測値を計算する。
 3.ICRPモデルの過小評価の補正:A〜Dの数値を、欧州放射線リスク委員会(ECRR)のICRP過小評価係数で補正する(補正倍率を[E]とする)。
 それによって、福島県における現在までの子供の甲状腺がん観察数175人は、ECRRによる補正前(生涯期間の絶対数で54〜1111人)でも、その補正後(最短潜伏期間1年を除き4年間で計算して123〜2956人)でも、十分に予測される範囲内であることがわかった。
 このように、①甲状腺被曝の事実があり、②ICRP勧告により子供の過剰甲状腺がん発症のリスクが予測され、③現実に子供の甲状腺がんの多発があるならば、それを放射線影響とは「考えにくい」というような主張は成り立ち得ない。そのような、甲状腺被曝があっても甲状腺がんの過剰発症が「考えにくい」という見解は、ICRP勧告への違反であり、放射線防護原則の放棄に等しい。
 なお読みやすくするため、計算やデータの詳細や説明は本文中ではできるだけ省き、注記や付論に譲った。各注記と付論を参照されたい。



             目  次

1.はじめに、政府の福島原発事故健康被害ゼロ論  ・・・・・・・・・・・・・・・  4
  政府見解――原発事故の健康被害は「全くない」(安倍首相)
  健康被害ゼロ論はICRP勧告への明確な違反
  子供の甲状腺がんの放射線影響の全否定論もまたICRP違反である

2.子供の甲状腺がんの過剰発症数の予測  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  7
  甲状腺がん過剰発症予測の基礎となる諸数値
   [A]福島事故による甲状腺被曝量
   [B]福島県の甲状腺検査を受けた子供の人数
   [C]甲状腺がんの過剰発症リスク
   [D]子供の甲状腺の放射線感受性係数
  計算結果:54〜278人(朝日新聞による補正後216〜1111人)の過剰発症

3.計算結果の検討   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  12
  自然発症やスクリーニング効果部分を含めて放射線影響を否定できない
  日常的ヨウ素摂取は甲状腺がんの発症を抑制するか?
  ECRRによるICRPの過小評価を補正する努力
  ECRR補正後の発症予測数:生涯期間2160〜4万4440人、5年間で123〜2539人
  米国防総省推計による東京と関東・東北・東海での子供の甲状腺がん過剰発症予測
  致死性の甲状腺がんも592〜2956人の予測――重大な警告
  全がんの発症予測――最大で発症1万3280人、致死2800人の可能性
  質的な過小評価――175人のがんの背後には17万5千人の甲状腺疾患がある

4.今後への課題   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  17
  粉飾と二重帳簿の体系としてのICRP・UNSCEARとその論理的破綻
  UNSCEAR、自分のリスクモデルを事故被害に適用することを拒否
  結語

謝 辞  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  19

注 記  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  19

付論1 UNSCEAR2013報告に掲載されている福島県の甲状腺被曝量推計値
     による集団線量の試算  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  37
付論2 アメリカ国防総省の日本各地での甲状腺被曝量推計とそれによる子供
     の甲状腺がん過剰発症数の試算  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  38
付論3 UNSCEARによる第二次大戦後の人為的放射線源由来の集団線量を
     歴史的に集計する試みについて  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  48



     1.はじめに――政府の福島原発事故・健康被害ゼロ論

  政府見解――原発事故の健康被害は「全くない」(安倍首相)

 安倍首相は、2013年9月7日の記者会見で、福島原発事故について「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くない」と表明した注1。さらに政府は、2014年12月22日、環境省専門家会議「福島原発事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する中間取りまとめ」を決定し、公式に福島原発事故による健康被害は一切ないと宣言した注2。この健康被害ゼロ論が政府の基本路線となった。2015年5月には、漫画「美味しんぼ」が放射線により「鼻血が出る」シーンを描いただけで、安倍首相自身までが参加した「風評被害だ」という大バッシングが起こり、政治的圧力により漫画の連載が停止させられた。放射線によって「鼻血さえも出ないのだから、ましてやがんや健康被害はあるはずがない」という大々的な政治キャンペーンであった。
 福島では子供(事故当時0〜18歳)の甲状腺がんが、現在までの約5年間に、175例(うち良性が1例)生じている注3。だが、福島県の県民健康調査検討委員会は、2016年3月30日、チェルノブイリ事故で被曝との関連が国際的に認められているこのがんについても、「総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくいと評価する」と断定した注4。最近では、検査自体が「過剰診断」であるとして、検査の縮小・廃止に動いている注5。また実際、2016年3月以降、甲状腺検査の進捗が顕著に遅延しており、「結果確定数」や「細胞診受診者数」の伸びが著しく低下している注6。検査そのものへの県当局によるサボタージュが疑われる事態となっている。

  健康被害ゼロ論はICRP勧告への明確な違反

 このような政府見解は、政府が放射線被曝に関する政策の基礎としている国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告への明確な違反である。この点ははっきりしておかなければならない。ICRP勧告は、放射線被曝について、LNT(しきい値なし直線モデル)に基づくリスクモデルを掲げており、特定の人口集団が一定量の被曝した場合、その健康影響は決してゼロとはならない(表1)。遺伝性の影響についてさえも、決してゼロではない注7
 たしかに、ICRPのリスク係数は、主に原爆被爆者寿命調査(LSS)のデータを基礎にしており、LSSの過小評価をそのまま受け継いでいる。さらに、線量・線量率係数(DDREF)によって低線量域でのリスクを1/2と算定し、人為的に過小評価となる操作している。だが、ICRPのリスクモデルは、決してリスクが「全くない」とか、ゼロを前提に「確認できない」「予想できない」「検出できない」「識別できない」「考えにくい」というような見解を採ってはいない。リスクは「ある」のである。

表1 ICRPによる集団線量1万人・Svに対するがん致死/発症リスク

注記:分分母が発症数、分子が致死数である。ICRPは、いずれも2007年現在の致死率と発症率で補正した「現行」の数字である。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)1994年報告は、原爆被爆者寿命調査のデータ(1950〜1987年)。致死リスクが発症リスクより高い数字があるが、原表のまま記載している。
出典:『国際放射線防護委員会の2007年勧告』日本アイソトープ協会(2009年)138〜139ページ
   『放射線の線源と影響 国連科学委員会1994年報告書』実業広報社(1996年)124ページ

  子供の甲状腺がんの放射線影響の全否定論もまたICRP違反である

 子供の甲状腺がんについても同じである。子供の甲状腺がんは、きわめて稀な疾患であり(表2)、放射線感受性が非常に高い(後述)。岡山大学の津田敏秀教授が指摘するように、放射線の影響以外では、約20〜50倍もの多発はありえない注8。福島原発事故による放射線被曝の事実があり、被曝の結果としてしか生じない疾患の多発がある場合、放射線の影響と考えるのが当然である。

表2 がん登録統計による事故以前の自然発生甲状腺がん罹患率(10万人当り年間)
注記:福島原発事故直前の2010年の統計。0〜18歳の平均は筆者の計算である。福島の0〜18歳30万人については、罹患数は年間0.801人、5年間で4.01人である。
出典:http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/gdb1?showData

 放射線被曝の結果として甲状腺がんの過剰発症が生じることは、いまでは長期にわたる研究によってすでに科学的に証明済みである。日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版』金原出版(2010年)は、「放射線被曝が甲状腺がん発生を増加させることは科学的によく立証されている」(10ページ)とした上で、「若年者に対する放射線被曝」を「甲状腺の悪性腫瘍の可能性を考慮すべき有意な因子」として「推奨グレードA」すなわち「質の高いエビデンスがあり診療で利用・実践することを強く勧める」(30ページ)と評価している。本稿もまたこの前提に立って議論を進める。
 被曝の影響ではないことを証明するためには、被曝の事実を否定するしかない。そのために「100mSv以下で健康影響は確認されていない」という主張がなされるのだが、これは露骨な嘘、虚偽でしかない。ウクライナ内分泌研究所所長のミコラ・トロンコ氏によれば、ウクライナで子供の甲状腺がんの半数(51.3%)は、100mSv未満の被曝により生じている注9。またICRPの集団線量によるリスクモデルにも違反する。それによれば、3万人が100mSV被曝する事態は、30万人が10mSv被曝する事態と同じリスクをもたらすからである。
 ここでは、福島における子供の甲状腺がんについて、ICRPリスクモデルを使った発症予測とその過小評価の補正を試みる(福島の子供の甲状腺がん発症の全体的評価についてはわれわれの『放射線被曝の争点――福島原発事故の健康被害は無いのか』緑風出版第3章第3節を参照いただきたい)。ICRPモデルの利用によって、子供の甲状腺がん発生が「放射線の影響」以外であることを調査委員会が科学的に立証できない限り、放射線の影響であることは「自明の前提」であり、必然的に放射線の影響と「考えるべき」であり、それを「考えにくい」とすることはICRP勧告違反であることを証明する。
 検討に入る前に確認しておく。ICRPは、その本質において、核利用の推進を目的とし、科学的外観を取り繕って人々に放射線被曝の受忍を強要するための国際原子力複合体の中核機関の一つである注10。当然ICRPのリスクモデルには、量的にも質的にも、以下に検討するような大きな過小評価がある。だが、ここで重要な点は、その大きく過小評価されたICRPの被曝リスクモデルに基づいたとしても、政府・福島県当局のいう被害ゼロという主張は決して正当化されないことである。


    2.子供の甲状腺がん過剰発症数の予測

 まず最初に注意していただきたいのは、本稿での数字がすべて、不確実性の大きい大雑把な概数である点である。ここでは、各機関の公表しているデータも、計算結果として出てきた数字もそのまま記しているが、これはすべての桁が有効で意味のあるということではない。すべて概数と理解していただきたい。また四捨五入により、必ずしも合計が一致しないことも注記しておきたい。また、ここでは吸収線量Gyは等価線量Svと同じであると仮定する。

  甲状腺がん過剰発症予測の基礎となる諸数値

 ICRPモデルでは、被曝による過剰がん発症数は、被曝量A×被曝人数B×発症リスク係数C×子供の放射線感受性係数D、として計算できる注11

  [集団線量の計算] 
 A.福島事故による甲状腺被曝量:このデータについては、日本政府・放射線医学総合研究所、原子放射線に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、世界保健機関(WHO)などの推計がある注12。ここではWHOの2013年報告にある推計を採ることとする。最大値は122mSvである。日本政府の甲状腺被曝量は「100mSvに達しない」という評価は、国際機関によって公式に否定されている(表3-1)。UNSCEARの推計については付論1で検討するが、最大値の違いを除いてほぼ同じレベルである。ただ、福島事故では、事故直後に系統的な甲状腺被曝量測定がなされておらず注13、SPEEDIのデータなどからして注14、上記の諸推計すべてについて過小評価があり、被曝量はさらに大きかった可能性が高いと考えるべきであろう。

表3-1 WHO2013報告による福島県における事故後1年間の子供の甲状腺被曝量の推計
注記:各市町村の調査人数は福島県県民健康調査委員会の発表より引用した。WHOの推計には事故原発から20km圏内の市町村やその部分は含まれておらず、ここでは上記3町についてだけ、被曝量を浪江町と同等と(控えめだが)仮定して、部分的だが補正した。1〜18歳平均は1歳・10歳・20歳の各データを直線補間して筆者が計算したもの。集団線量は、調査人数と甲状腺被曝量の1〜18歳平均値を掛けた数字である。
出典:WHO, Health Risk Assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami, 2013, 43ページ
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/78218/1/9789241505130_eng.pdf
調査人数は「県民健康調査『甲状腺検査(先行検査)』結果概要(確定版)」(2015年8月31日)より
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129302.pdf

 実際、朝日新聞GLOBE(2014年12月7日付)は、上記WHOの甲状腺被曝量推計が、報告書の草案の段階では、浪江町の乳児(1歳児であろう)で300〜1000mSvであったものが、日本政府の圧力により、発表文では100〜200mSvに(すなわち1/5〜1/3に)引き下げられた、と報じている注15。東京や大阪などについても、草案で10〜100mSvであったものが、1〜10mSvに引き下げられたという(最終的にWHO2013年報告ではさらに引き下げられて1mSv未満になっている)。
 甲状腺被曝量については、在日米軍・トモダチ作戦従軍兵士の実測に基づくと思われるアメリカ国防総省の推計が公表されている(付論2参照のこと)。それによれば、WHOで1mSv未満であった東京の1歳児の被曝量について、東京都心で14mSv、横田基地(東京都)で14mSvとなっている。さらに、厚木基地(神奈川)12mSv、横須賀海軍施設(神奈川)で12mSv、百里基地(茨城)では27mSvとなっている。このことからも、WHO草案では東京1歳児で10mSv以上であったという朝日新聞の報道は信頼できると考えられる。

 B.福島県の甲状腺検査を受けた子供の人数:福島県の甲状腺検査を受けた子供約30万人(事故時0〜18歳)の市町村ごとの人数は、県民調査検討委員会の報告にある注16

 AとBにより、0〜18歳の子供30万人の集団線量(被曝量と人数を掛けた数値で単位は万人・Sv)を計算できる(同じく表3-1)。導かれる数字、約0.73万人・Svは決して僅少といえる数値ではない。なお、このWHOベースの集団線量の数値は、UNSCEAR2013年報告の推計値から計算できる幅のある数字(0.4〜1.7万人・Sv)の範囲の中に入る(詳細は本稿の付論1を参照のこと)。
 いま、WHOの福島の被曝量の数字について、上記朝日新聞の記事通りに、すべて1/4(中央値)に操作された数字だと仮定して上記の表を補正すると、表3-2の通りとなる。集団線量は2.92万人・Svであり、深刻な事態を示唆している。

表3-2 朝日新聞報道によるWHO2013報告での甲状腺被曝量推計の過小評価の補正値

注記:表3-2の被曝量・集団線量の数字をそれぞれ4倍したもの
資料:Asahi Shimbun GLOBE / 2014年12月7日
http://globe.asahi.com/feature/article/2014120400006.html?page=2
上記は有料サイトである。英語版は無料で読むことができる。
Asahi Shimbun GLOBE: The Japanese Government Demanded Revisions of the 2012 WHO Report on Fukushima Radiation Exposure / 修正を迫られた福島被曝報告書
http://csrp.jp/posts/2234

  [過剰発症予測数の計算]
 C.甲状腺がんの過剰発症リスク:ICRP2007年勧告では、甲状腺がん過剰発症リスクとして、集団線量1万人・Sv当たり最小23.3人から最大120.3人までの5種の係数が掲げられている(表4)。勧告では、この5倍超の差は、ヨウ素131の内部被曝量から外部被曝量への換算や、罹患率と致死率およびこれらの経年変化の換算など、計算法上の相違によると示唆されている注17。ここでは23.3〜120.3人という幅のある数字を取る(致死性は1.6〜8.0人)。生涯期間(成人50年・子供70年)についての数字であるが、子供の場合は一般には発症時期が早いとされる注18

表4 ICRP2007勧告が掲げる放射線被曝による甲状腺がんリスク

注記:矢印部分は、ICRP60(すなわち1990年勧告)の時点から2007年勧告の時点までの罹患率・死亡率の変化を考慮に入れて、1990年勧告のリスク係数を補正したものとされている。2007年勧告は、罹患率をベースに採用しており(1990年勧告は死亡率ベース)、1990年の現行の数値を3.7分の1にしていることが分かる。この1/3.7という数字は、1990年勧告にあった、ヨウ素131による内部被曝を外部照射に換算する係数1/4〜1/3に相当し、この補正が行なわれたものと推測される。実際、2007年勧告には1990年勧告にはあった同補正係数についての言及がなくなっている。BEIR擦凌字についても、ICRPによって補正された数値であろうと思われる(原数字は筆者の計算では62.6)。
出典:前掲ICRP2007勧告139ページ

 D.子供の甲状腺の放射線感受性係数:子供は、放射線感受性が平均より高く、同じ線量を浴びても影響が大きい。ICRPの姉妹機関とも言える米国科学アカデミー電離放射線の生物学的影響に関する委員会BEIR司鷙霆颪砲蓮甲状腺がんについて年齢別リスクの表が記載されている(表5)。そこから計算すると子供の感受性の係数は、0〜18歳について、平均の約3.16倍である注19。このBEIR擦離螢好推計は、子供の甲状腺がんが放射線との関連性の極めて高いがんであることを如実に示している。

表5 BEIR擦砲茲10万人が0.1Gyを被曝した場合の年齢別甲状腺がん発症リスク

1万人・Gy当たりの発症リスク(10万人に対する)である。
BEIRの線量・線量率係数DDREF=1.5が適用されており、1/1.5にされた数字である点に注意。
年齢平均は引用者による計算。リスクが上記の年齢間を直線で変化すると仮定しての単純平均である
出典:http://www.nap.edu/read/11340/chapter/14#311

  計算結果:54〜278人(朝日新聞が示唆する操作補正後216〜1111人)の過剰発症

 A×B×C×Dにより、子供の甲状腺がんの過剰発症数は、生涯期間について54〜278人(中央値166人)、朝日新聞が示唆するWHOの人為的操作を補正(×4)した後では216〜1111人(中央値664人)である。もちろんこれらは不確実性の高い数字である。だが、決してゼロやその近傍ではないことは、はっきりと示されている。
 すなわち、①ICRPのリスクモデルに基づけば、放射線の影響は「予想されない」「考えにくい」などとは決して言うことはできない、②福島での現在まで約5年間の観測数175人(うち良性が1人)は、絶対数でICRPモデルでの予測範囲に完全に入っている、③甲状腺がんがどのような発症パターンを取ろうとも、米国疾病管理センター(CDC)が規定した子供の甲状腺がんの最短潜伏期間である1年注20を考慮して、少なくとも被曝後1年以降(すなわち2012年3月以降)に発見された甲状腺がんは、基本的に放射線の影響によるものと判断されなければならない――これらの評価は明らかである。


    3.計算結果の検討

  自然発症やスクリーニング効果の部分を含めて放射線影響を否定できない

 もちろん、この175人の中には、自然発生のがんや「スクリーニング効果」(全員を調査することによる発見数の増加)の部分が含まれると考えられる。ただし、前者(自然発生)は、表2のデータによれば5年間で4人程であり注21、後者(スクリーニング効果)も、チェルノブイリの経験では、自然発生の「2倍あるいは2.5〜3倍」、最大でも「10倍」とされる注22ので8〜40人程であり、上の評価に何の変更も与えない。
 しかも、このように自然発生やスクリーニング効果によって甲状腺がんが発見された場合でさえも、事故による放射線被曝を受けた後に一定期間(最短で7ヵ月)を経過して発見されたがんであり、被曝の影響が「ない」とは決して言えない。
 ICRPも認めている通り、がん発症は「多段階過程」であり、放射線への被曝は、がんの発生(イニシエーション)だけを促すだけではない。放射線被曝は、すべての段階(プロモーション、悪性転換、プログレッション)に影響し、がんの成長に寄与すると考えなければならない注23。すなわち、自然発生やスクリーニング効果の場合も含めて、福島で発見された甲状腺がんの「すべて」が、福島事故の放出放射能による放射線被曝の影響を何らかの形で受けており、放射線に特殊な悪性化作用を受けていると考えなければならない。
 もしも、「過剰診断」論者が主張するように、スクリーニングによって「潜在がん」を見つけているだけであれば、せいぜい微小の悪性度の低いがんや前がん状態の腫瘍のはずである。だが実際に発見されるのは、診察ガイドラインの手術適応注24に該当する悪性度をもち、多くはリンパ節転移やさらに一部は肺転移を伴うような成熟したがんである。現在までに発見され手術されているがんが全体としてスクリーニング効果や過剰診断によるものであるというようなことは考えられない。

  日常的ヨウ素摂取は甲状腺がんの発症を抑制するか?

 日本人には昆布を食べる習慣がありヨウ素摂取量が多いので甲状腺がんの発症が抑えられるはずであるという主張が広くある。しかし、前掲の『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』は「ヨード摂取の不足により甲状腺がん発生頻度が増加するか否かについては、種々の報告の結論が一致せず、はっきりしない」「ヨード摂取過剰により甲状腺がん発生頻度が増加するという可能性も指摘されているが、これについても種々の報告の結論は一致していない」(12ページ)と述べて、保留の立場を取っている。われわれもこの評価を踏襲することとし、ここではヨウ素摂取による甲状腺がんの発症抑制の可能性については考慮しないこととする。また仮に、習慣的ヨウ素摂取による甲状腺がんの発症抑制がある程度「ある」と仮定しても、そのために被曝による過剰発症がゼロあるいはゼロ近傍になることはありえない。このこともまた明らかである。

  ECRRによるICRPの過小評価を補正する努力

 ICRPのリスクモデルには大きな過小評価があるが、補正する方法もある。ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)は、ICRPリスクモデルの過小評価を系統的に検証してきた注25。ECRRの2010年勧告によれば、チェルノブイリ事故後18年間のベラルーシにおける子供の甲状腺がんの実際の観察数は、ICRPリスクモデルに基づく予測値の41.3倍だった(表6)。


表6 ECRRによるベラルーシ各地域の子供の甲状腺がん発生数とICRPモデルに基づく予測数の比較(1986〜2004年)

出典:ECRR2010年勧告第11章にある表11-4より一部省略
http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_chap11.pdf

 この数字は、ICRPリスクモデルのベースとなってきた原爆被爆者寿命調査(LSS)の再検証(ICRPの過小評価率8〜90分の1)注26、チェルノブイリやその他における原発・核施設の事故、原爆実験、原発や核施設の周辺住民、医療被曝、核施設従業員、高自然放射線地域住民などについて積み重ねられてきた疫学調査の各種実測値によるICRPリスク係数の検証(過小評価率20〜1000分の1)注27、さらにはICRPモデルにおける「組織加重係数」や「実効線量」概念の再検討(過小評価率15〜30分の1)注28などの結果と概ね一致する。

  ECRR補正後の発症予測数:生涯期間2160〜4万4440人、5年間で123〜2539人

 ここでは、ICRPリスクモデルをベースとしてA〜Dで得られる数値を、ECRRによる過小評価補正係数[E]により40倍する(つまりICRPの過小評価率を1/40とする)ことによって、その過小評価の補正を試みる。すると、補正後の過剰発症数は2160〜1万1110人(中央値6635人)となる。朝日新聞の記事が指摘したWHOによる人為的過小評価(約1/4)を考慮すると8640〜4万4440人(中央値2万6540人)である。
 さらに、支配層側の「専門家」たちによって都合の悪い推計結果をいわゆる「統計的ノイズ」の中に埋もれさせて「検出できない」ものに見せかけるためによく使われる操作手法を採用して、この過剰発症が生涯期間70年間に平均して生じると仮定しよう。米国疾病管理センター(CDC)による子供の甲状腺がんの最短潜伏期間1年をとり、事故後5年間を4年間として予測値を計算する(70で割って4を掛ける)と123〜635人(中央値379人)となる。すなわち福島での今までの現実の観察数175人は、完全にこの予測範囲内となる。朝日新聞の記事に準拠すれば、494〜2539人となり、現実には検査で発見されたよりもさらに多くの症例が出ている可能性が示唆される。
 まとめてみると、事故時に0歳から18歳であった福島県の子供30万人について、甲状腺がんの過剰発生数の予測値は、次のとおりである。最大値には朝日新聞に基づく補正値を採用している。
(1)ICRPリスクモデルで54〜1111人(生涯期間)
(2)ECRR補正後で2160〜4万4440人(生涯期間)
(3)現在までの5年間で123〜2539人

  米国防総省推計による東京と関東・東北・東海での子供の甲状腺がん過剰発症予測

 前述のように、アメリカ国防総省は、在日米軍関係者やトモダチ作戦従軍兵士が受けた甲状腺被曝量の推計を発表している(詳細は付論2を参照のこと)。それによって計算すれば、東京を含む関東圏7都県の0〜19歳人口合計約733万3000人(2010年国勢調査)のうち、被曝による甲状腺がんの過剰発症数は、それぞれ以下の通り予測できる(0〜19歳の感受性係数は3.06とした)。
(1)ICRPリスクモデルでの合計473〜2440人(生涯期間)
(2)ECRR補正後では合計1万8912〜9万7627人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では合計1081〜5579人
(4)福島の現在までの観察数175人から集団線量比によって推計すれば、関東圏の集団線量6.631万人・Svに対して、①WHOの甲状腺被曝量をベース(福島集団線量0.73万人・Sv)にすると1590人、②朝日新聞記事を前提(同2.92万人・Sv)すると397人となる。
 関東圏だけではない。米軍のデータのある宮城・山形両県合計で、過剰発症予測値は、上記の(3)について、現在までで136〜702人となる。また同じく米軍のデータのある静岡県では37〜192人となる。
 福島だけでなく関東地方でも、さらには東北地方、東海地方でも、すでに子供の甲状腺がんの多発が、福島県以上の規模で現実に出ている可能性が高い。早急に調査を行わなければならない。

  致死性の甲状腺がんも福島で592〜2956人の予測――重大な警告

 甲状腺がんは一般に「予後の良いがん」とされる。だが、ICRPモデル(致死性が1万人・Sv当たり1.6〜8.0人)とECRR補正(×40)に基づいて、福島県の子供の放射線による追加の甲状腺がん死を生涯期間で推計すると148〜739人、朝日新聞記事による補正後は592〜2956人となる。甲状腺がん死だけで最大約3000人の可能性があるという予測は、深刻な結果を示唆しており、早期診断・早期治療を促さなければならないことへの重大な警告である注29。多発を前に、検査態勢を縮小するなどは、多数の被曝した子供や若者を見殺しにし、進行し重篤化していくがんを故意に見逃し、結果として殺人幇助になりかねない犯罪行為である。断じて許してはならない。

  全がんの発症予測――最大で発症1万3280人、致死2800人の可能性

 ICRPのリスクモデルでは「組織加重係数」を使って、甲状腺の被曝量が遺伝性疾患も含めてどの程度の全身のがん(甲状腺がんも含めて)を生じさせるかを予測できる(組織加重係数については正当にも多くの批判があるが、ここでは取り上げない。注28参照)。
 いま朝日新聞報道による補正後の、30万人の子供の甲状腺被曝集団線量2.92万人・Svを採り、甲状腺の組織加重係数をICRP2007勧告の0.04と仮定しよう。それにより、甲状腺被曝量を全身被曝量(実効線量)に換算すると(2.92×0.04)、甲状腺の被曝だけで全身では0.1168万人・Svである。他方、ICRP2007の全がん(遺伝性疾患を含む)の発症リスクは1万人・Sv当たり、1715.4〜1976.3人(致死性414〜600人)である。
 ここからは、甲状腺の被曝量だけで、他の外部被曝および内部被曝が仮になかったとしても、がん発症で200〜332人、がん死で48〜70人と予測される。これだけで大変深刻な数字であるが、いまECRRによるICRP過小評価補正係数40倍を採ると、甲状腺がんを含む全がん・遺伝性疾患の発症数は8000〜1万3280人、うち致死性が1920〜2800人と予測される。言っておくが、これは福島県で被曝した子供と若者30万人についてだけの数字である。

  質的な過小評価――175人のがんの背後には17万5千人の甲状腺疾患がある

 ICRPによる過小評価には質的な面がある。ICRPは「がん」しか見ていない。
 チェルノブイリでの健康被害を総括したヤブロコフ氏は、「甲状腺がんの症例が1例あれば、他の種類の甲状腺疾患が約1000例存在する」と指摘している注30。30万人中の175人を「大した数字ではない」と感じる向きもあるかもしれない。だがそれは、現在の福島でその1000倍、17万5000人の子供や若者が、甲状腺のいろいろの病変や機能障害やアレルギー、それによるホルモン異常や身体的・精神的成長の不調や障害に苦しんでいるということなのだ。
 また、がん以外の疾患とくに心臓疾患などへの罹患数も、入っていない。ヤブロコフ氏の引用しているマリコ氏の推計では、チェルノブイリにおける非がん死数は、がん死数とほぼ同数であるとされている注30


    4.今後への課題

  粉飾と二重帳簿の体系としてのICRPやUNSCEARとその論理的破綻

 ICRPやUNSCEARは、いわば二枚舌の、粉飾と二重帳簿の体系である。それら機関は、決して真実を知らないのではなく、真実を知って、原発推進と核軍拡という政治的・経済的・戦略的利益のために、操作し隠蔽していると考えるべきである。たとえば、歴史的に蓄積されてきた、核実験、原発・核施設の事故、原発の日常的稼働、核燃料製造・再処理・核燃料サイクル、核爆弾製造などにより放出された人工放射線源によって、全世界で言うならば「確率的な大量殺戮」が、UNSCEARの推計でも数百万人規模で、ECRRの過小評価補正後では数億人規模で、進んでいる。また実際、これまで積み重ねられてきたUNSCEARの集団線量の分析は、切り縮められ過小評価された形であれ、この現実をある程度反映してきた(付論3を参照のこと)。だが、いまや、UNSCEARは、チェルノブイリや福島の事故の健康被害を何としても隠し住民の被曝を正当化しようとして被曝健康被害ゼロ論を採用し、自分の開発してきた集団線量・被曝リスクモデルとの完全な矛盾に陥り、どうしようもない論理的破綻に導かれている。

  UNSCEAR、自分のリスクモデルを事故被害に適用することを拒否

 とくにUNSCEARの2008年報告や2013年報告では破綻は顕著である。いままでUNSCEARは、集団線量1万人・Svがもたらす各種がん発症数とがん死者数について、被曝の被害が「ある」ことを前提に、リスクモデルの改良を何度となく行ってきた(上で引用した1993年報告など)。UNSCEARの推計によれば、集団線量は、チェルノブイリが全世界で38万人・Sv(2008年報告)、福島が4.8万人・Sv(2013年報告)である。UNSCEARのリスク係数はおよそ1000人/万人・Svのがん死であるので、ここからは、それぞれ、約4万人と約5千人の人的被害が予測されると言うべきはずである。ところが、同2008年報告は、実際に原発事故の被曝被害が問題になるや否や、突然次のように言う。「予測上の容認できない不確かさのため、本委員会(UNSCEARのこと)は、チェルノブイリ事故による低線量放射線に被曝した集団における影響の絶対数を予測するモデルを使用しないことを決定した」と(日本語版第2巻64ページ)。数値の「不確かさ」とリスクモデルを「使用する」かどうかは、全く別問題であるはずである。だが、UNSCEARは自分の放射線被曝リスクモデルを自分で否定することによって、放射線被曝のリスクそのものの存在もまた否定しようとする。チェルノブイリでは134人の作業員の被害以外には人的被害は取り扱われず、甲状腺がんなど一部のがん・疾病以外は事実上「ない」ことにされている。同2013年報告での福島原発事故の場合、最初から人的被害はゼロ、すべてのがん・疾患についても全く「ない」ことにされている。
 UNSCEARは、日本政府や国際原子力ロビーが求める露骨な被曝被害ゼロ論と、放射線被曝リスクの現実や放射線防護の基本原則との間で、いわば完全な股裂き状態、完全な腐敗と破綻に直面して、その中で「被曝安全安心」を喧伝する国際的デマ宣伝機関に転化する道を進んでいるように見える。これに対し、日本政府や原発再稼働推進派は、さらには脱原発運動の内部でも『放射線被曝の理科・社会』(かもがわ出版)に結集した人々などが、喝采を送っている。だが、放射線被曝の問題に真剣に誠実に取り組んでいる多くの科学者や医者たちは強い危惧や反発を感じないではおれないであろうし、現にそれを表明している注31

  結 語

 いままで反原発運動は、ICRP、UNSCEAR、BEIRなどの諸機関が国際原子力ロビーの手先であり、原発推進と核開発・核軍拡の道具であり、人々に被曝を受忍させるための科学の仮面を被った似非科学だと批判してきた注10。それは、まったく正当で正しかったし、今も正しい。しかし、今やそれだけでは、任務の半分しか果たされていないのではないかと感じられる。彼らが知って隠している真実を、その文書やデータから、とくにそのリスクモデルの中に、読み解き、本当の真実を、歪められ過小評価された中からでさえ、明らかにし、暴露していかなければならないのではないか、と問題提起したい。
 反被曝の運動は、疫学、生理学、医学、遺伝学、生物学、化学など最新の科学の発展に基づいて、さらに上記の諸機関のデータも利用しながら、被曝の健康被害ゼロ論に対して公然と異議を唱え科学的に批判する能力を獲得することが必要である。それによってのみ、すなわち、日本の市民放射能測定所運動を分析したアヤ・ヒラタ・キムラ氏が問題提起するように注32、多くの市民が、政府と専門家の言うことを信じなくなるだけでなく、たとえ少数でも反被曝の立場に立つ科学者や専門家とともに、自ら「市民科学者」をめざして成長し、市民の科学力を発展させることによってのみ、本当の前進を勝ち取れるのではないだろうか。

 

  謝 辞

 この論文を書くに当たって、われわれの本『放射線被曝の争点』の共著者である山田耕作氏と遠藤順子氏に、市民と科学者の内部被曝問題研究会の皆さまとりわけ田中一郎氏、松崎道幸氏、矢ヶ崎克馬氏、すどうゆりこ氏に、いつも議論いただいている京都市民放射能測定所の皆さまに、医療問題研究会の高松勇氏に、小森己智子氏はじめ多くの友人・知人の方々に、いろいろな重要データや適切なご指摘やアドバイス、示唆などをいただきました。深く感謝いたします。もちろん一切の文責は著者にあることは言うまでもありません。
 
 
 
  注  記

注1 [首相発言の評価]次期オリンピックの開催地が東京に決定された直後の安倍首相のアルゼンチンにおける記者会見での発言。安倍首相は、汚染水問題に関する外国人記者の質問に対し、「汚染水問題でありますが、まず、健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くないということははっきりと申し上げておきたいと思います」と答えた。ここで「健康に対する問題」は、特殊に汚染水による健康影響とも、一般的に福島原発事故による健康影響とも解される。だが、この問題をめぐるその後の事態の展開からして、首相の本意が後者であったことは、今では明らかである。
首相官邸「平成25年9月7日内外記者会見
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0907argentine_naigai.html

注2 [政府専門家会議「中間とりまとめ」の要点とその意味]この「中間取りまとめ」のポイントは三点にまとめられる。①「がん罹患率に統計的有意差をもって変化が検出できる可能性は低い」②「放射線被曝により遺伝的影響の増加が識別できるとは予想されない」③「不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することは予想されない」というのである。要するに、がん、遺伝的影響、不妊、胎児への影響、心血管疾患、白内障などすべての影響が否定されているのである。
環境省「福島原発事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議中間取りまとめ」22ページ
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/tyuukanntorimatomeseigohyouhannei.pdf
 福島原発事故では、政府発表でも、セシウム137ベースで、「広島原爆の168倍分」という大量の放射能が放出されていると認められている。だが、政府の見解は、これだけ超巨大な福島事故由来の放射能によってさえ健康被害は「まったく生じない」というものだ。広島原爆との比較では、政府推計は大きな過小評価であり、実際には大気中放出で約600発、直接海水中・汚染水中を含めれば4200発程度と推計されるが、ここではその点を検討する必要はない。
 もしも、原爆168発分の「死の灰」が何の健康影響ももたらさないとするなら、そもそも放射線防護は必要がなくなってしまう。もはや、放射線被曝の科学は根本から成り立たなくなってしまう。それにもかかわらず、政府とその立場に立つ専門家たちは、このような健康被害ゼロ論こそが「科学」であるという見解を、科学界全体に、それを通じて国民全体に、権力主義的に押しつけようとしている。大多数の専門家たち、医師たち、科学者たちは、露骨な権力と人事と研究費などカネの力の前に、政府の見解に迎合するか、屈服して沈黙させられてしまっているように見える。全くの嘘とデマゴギーが「科学」としてまかり通ろうとしている。
 政府の論理では、「何の被害もない」のだから、①政府・東電は健康被害に対する補償は一切行わない、②福島県の年間20〜50mSv汚染地域に10万人の避難者を、住宅補助切り捨てなど経済的強制により帰還させても(ICRPモデルでも今後10年間に1000〜2500人のがん死者が予測されるとしても)問題ない、③放射能汚染された除染残土を全国に拡散するとしても(ICRPモデルでも2000万人が年間1mSv追加被曝すれば10年間で1万人のがん死者が予測されるとしても)「住民被曝に関する安全性が確保されている」、④まともに安全保守されていない原発の再稼働を大規模に行って、福島クラスの事故が「確率的」に(政府計画確率では20数年ごとの頻度で)起こっても(ICRPモデルによっても数十万人の過剰がん死が予測)「何の住民被害も問題もない」というわけだ。裁判所に対しては、原発事故被害ゼロが「科学的」「専門的」に「立証」されていると主張し、住民敗訴の判決を出すよう裁判官人事などで裁判所に圧力をかけている(最近この問題を扱ったフィクション『黒い巨塔 最高裁判所』講談社現代新書が発行された)。

注3 [出典]毎日新聞インターネット版2016年9月14日
http://mainichi.jp/articles/20160915/k00/00m/040/090000c

注4 [出典]福島県県民健康調査検討委員会「県民健康調査における中間取りまとめ」2ページ
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/158522.pdf

注5 [出典]「福島県立医大『甲状腺一斉検査は過剰診断につながる』に異論が続々」『週刊朝日』2016年10月21日号 インターネット版
https://dot.asahi.com/wa/2016101200264.html
「子どもの甲状腺がんが福島で多発!それなのに検査縮小の動きが出てくる『謎』」『週刊女性』10月25日号 インターネット版
http://www.jprime.jp/articles/-/8302


注6 [出典と調査遅延を表す数字]津田敏秀「甲状腺がんデータの分析結果――2016年9月14日第23回福島県『県民健康調査』検討委員会発表より」『科学』岩波書店2016年11月号での重要な指摘。2016年3月からの3ヵ月間に、細胞診受診者は7名、結果確定数は137名の増加に留まっており、「あまり進んでいない」と評価している。

注7 [遺伝性影響についてのICRPの自己批判]『『国際放射線防護委員会ICRPの2007年勧告』日本アイソトープ協会(2009年)138〜139ページ。遺伝性影響については、ICRP2007年勧告で、同1990年勧告が採用した、すべての遺伝性疾患は死産となるので遺伝的疾患のリスクは事実上ゼロであるという見解は撤回された。「Publication 60(ICRP1990勧告)はすべての遺伝性疾患は致死的として扱うべきであると暗黙裡に仮定した。様々なタイプの遺伝的疾患の重篤性と致死性の範囲を考慮して、今回、遺伝的疾患の致死割合は明確に80%とされた」(143ページ)と書いている。つまり20%は遺伝的疾患をもった子供の出産がありうることを認めたわけである。そこから同勧告は、遺伝性疾患のリスク係数として、1万人・Sv当たり20、そのうち4を非致死性すなわち何らかの遺伝性疾患をもつ新生児の出産の可能性があるとしている(139ページ)。これは全集団に対しての数字であり、生殖年齢集団に対しては0.4で除して(188ページ)、それぞれ50および10となる。
 もちろん大きな過小評価は以前と変わらない。1万人・Svに対して4人は、後述のECRRの過小評価補正係数40を適用すれば、およそ160人となる。UNSCEARの推計によって福島事故による集団線量を4.8万人・Svとしても、福島事故による遺伝的疾患をもった子供の出産は768人、チェルノブイリとほぼ同等(60万人・Sv)とすれば、9600人と、かなりな数になり、深刻な事態が予測される。

注8 [甲状腺がんの多発と放射線影響の関連の証明]津田敏秀「甲状腺がんデータの分析結果――2016年6月6日第23回福島県『県民健康調査』検討委員会発表より」『科学』岩波書店2016年8月号は次のように述べている。「現在、福島県内では、18歳未満の住民において甲状腺がんが、20〜50倍の桁違いのレベルで多発している。その多発は、事故による影響以外の原因は考えられず、利用できるあらゆる根拠は、現在これをまったく反駁できない」と。
 福島における子供の甲状腺がんの多発と放射線影響の連関については、津田敏秀氏を始め、高松勇氏ら医療問題研究会(『甲状腺がん異常多発とこれからの広範な障害の増加を考える』耕文社)、松崎道幸氏(「放射線の健康影響 小児甲状腺がんと低線量被曝について」市民と科学者の内部被曝問題研究会での配付資料)、増田善信氏(「福島原発事故による放射性ヨウ素の拡散と小児甲状腺がんとの関連性、およびその危険性」(日本科学者会議『日本の科学者』2015年10月号)、宗川吉汪氏ら(『福島原発事故と小児甲状腺がん』本の泉社)、牧野淳一郎氏(一連の岩波『科学』論文とりわけ「3.11 以後の科学リテラシー(36)」同誌2015年10月号)、郷地秀夫氏(「福島県の小児甲状腺がんが放射線起因性である可能性の検証」第57回日本社会医学会での発表)ら、多くの人々によってすでに疫学的・統計学的・病理学的に証明されている。

注9 [チェルノブイリにおける100mSv以下での子供の甲状腺がん]松崎道幸「放射線被ばく問題Q&A 放射線被ばくの影響を一ケタ過小評価していませんか?――放影研原爆データ(LSSデータ)を検証する――」市民と科学者の内部被曝問題研究会での配付資料(2015年5月)より。




注10 [出典]中川保雄『〈増補〉放射線被曝の歴史 アメリカ原爆開発から福島原発事故まで』明石書店(2011年)を参照のこと。

注11 [甲状腺がん発症リスクの計算式]UNSCEAR1988年報告508〜509ページを参照した。そこでは、米国放射線防護測定審議会NCRP1987報告を引用する形で、甲状腺がん発症リスクとして次の式が挙がっている。リスク=R×F×S×A×Y×L(ただしR:外部照射に対する最小誘発期間後の1万人・Gy・年当たりの「絶対リスク」[同書によれば2.5、すなわち50年間をとって1万人・Gyの被曝当たり125]、F:「線量効果係数」で、X線・γ線=1、ヨウ素131で3分の1など、S:「性修正係数」で、女性は男性よりも2倍感受性が高い、A:「年齢感受性修正係数」で、18歳以下はそれ以上の年齢の2倍である、Y:被曝後の平均年数、L:致死率で、0.1とされている[致死性リスクを計算する場合のみ使用、発症リスクの場合は不用])。
 ここでは、RはICRPの名目リスク係数を採り、FはすでにICRPの係数に含まれているものと解釈し、Sは男女平均として考慮せず、AはBEIR擦茲蠏彁擦掘Yは子供の生涯期間70および福島事故から5年間の4/70(子供の甲状腺がんの最短潜伏期間を1年として)で計算し、Lは発症数を問題にする場合は慮外に、致死数を問題にする場合はICRPの致死性リスク係数を用いた。

注12 [WHO2013報告書の原表]WHO2013年報告書による福島事故での甲状腺被曝量による集団線量の推計の原表は以下の通りである。WHO, Health Risk Assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami, 2013, 43ページ
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/78218/1/9789241505130_eng.pdf




注13 [日本政府は子供の甲状腺被曝検査を組織するのをおそらくは意図的に怠った]政府の行った子供の甲状腺被曝量の調査は1080人分しかなく、弘前大学と長崎大学の行った調査、それぞれ62人分と173人分を加えても、1315人分しかない。しかもその検査もきわめて杜撰な、疑惑の残るものである。この点を追及した論考としては、「SPEEDI甲状腺被曝調査の致命的ミスを今、暴露する!実測結果まとめ」『福島原発事故の真実と放射能健康被害』ホームページ所収がある。
http://www.sting-wl.com/speedi100msv.html

 以下、環境省の事業として行われた放射線医学総合研究所(放医研)の初期被曝量のデータを付けておく。WHOの推計に比較しても大きな過小評価があることが分かる。しかしこれから計算しても決してゼロとはならないことは明らかである。


放医研は90パーセンタイル値を採っている。最低値から数えて全体の90%の人が含まれる上限値である。
出典:福島県の県民健康管理調査第10回検討委員会資料2「甲状腺検査実施状況及び検査結果について」の中に、放射線医学総合研究所「東京電力福島第一原子力発電所事故における初期内部被ばく量の推計結果」が含まれている。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-10.html


注14 [SPEEDIのデータに基づく甲状腺被曝推定]朝日新聞2011年3月23日によれば、SPEEDIによる原子力安全委員会の試算は以下の通り、100mSvを超えるエリアが10市町村に広がっている。


http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103230465.html


注15 [朝日新聞のWHO過小評価報道の出典]朝日新聞GLOBE / 2014年12月7日付
http://globe.asahi.com/feature/article/2014120400006.html?page=2
上記は有料サイトである。ただし英語版は無料で読むことができる。
Asahi Shimbun GLOBE: The Japanese Government Demanded Revisions of the 2012 WHO Report on Fukushima Radiation Exposure / 修正を迫られた福島被曝報告書
http://csrp.jp/posts/2234

注16 [各市町村ごとの甲状腺がん調査人数]「県民健康調査『甲状腺検査(先行検査)』結果概要(確定版)」(2015年8月31日)よれば、先行検査における各市町村における調査人数は以下の通りである。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129302.pdf








注17 [ICRPリスク係数の検討]「ICRP60現行」の数字120.3は、ICRP1990年勧告の時から2007年勧告の時までの罹患率・死亡率の変化(後者については0.1から0.07に変更したという記載が見られる)を考慮に入れて、1990年勧告のリスク係数を補正したとされている。2007年勧告ではリスク係数の数値を3.7分の1あるいは5.2分の1にしていることが分かる。その理由は明記されてはいないようである。ただ、2007年勧告では、1990年勧告にはあった「ヨウ素131の発がん効果は、外部照射の1/4から1/3と推定された」という留保が削除されており、2007勧告では、ヨウ素131による内部被曝から外部照射に換算する際の係数を、リスク係数の中に取り込んだ可能性を示唆している。われわれは、このような、リスクの人為的な引き下げが、放射線リスクを何としても過小評価しようとするICRPの社会階級的本質を明らかにする証拠の一つであると考えるが、ここでは本論考の目的により、これ以上詳論しないこととする。また、このような内部被曝の影響を外部照射に還元し、その数分の1とする係数操作は、内部被曝の危険性を一貫して過小評価するICRPの基本的見解を表現したものであり、したがって根本的な欠陥を示すものであるが、この点も詳しい批判は別項に譲りたい。

注18 [出典]放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響』医療科学社(2012年)73ページ。白血病の例を挙げて、「小児や青年期で被ばくした場合、白血病は6〜8年をピークとして一過性に現れるが、中高年以降に被ばくした場合に、経過年数とともにリスクが高くなる」としている。

注19 [子供の甲状腺放射線感受性係数の計算]BEIR擦稜齢別甲状腺リスク係数からの0〜18歳の平均の計算は、下表を参照されたい。これから、18歳以下の子供の甲状腺がん発症リスクは、10万人が0.1Gyを被曝した場合(つまり1万人・Sv当たり)で計算して、以下の通りとなる。
(60.98+334.84)÷2=197.91 
甲状腺がんにおける0〜18歳の子供の放射線感受性係数は、これを年齢平均値62.6で除して求められる。
197.91÷62.6=3.16倍
追記:アメリカ国防総省のデータからのリスク推計に使った0〜19歳の感受性係数は、同様に以下の通り計算できる。
(59.1+324.4)÷2=191.75
191.75÷62.6=3.06倍

表 BEIR擦亡陲鼎0〜18歳までの甲状腺がんの発症リスクの計算

上記表より年齢間を直線で変化するとして筆者計算。
太字はBEIRによる数字。


注20 [子供のがん(甲状腺がんを含む)の潜伏期間]米国疾病予防管理センター(CDC)は、子供の甲状腺がんの最短潜伏期間を1年と評価している(表)。

表 米国疾病予防管理センター(CDC)による主要ながんの最短潜伏期間

出典:John Howard; Minimum Latency & Types or Categories of Cancer; World Trade Center Health Program; Revision May 1, 2013 7ページ
http://www.cdc.gov/wtc/pdfs/wtchpminlatcancer2013-05-01.pdf

注21 [自然発生数の計算]2010年のがん登録統計から計算できる自然発生数は、表2の10万人当たり0.267例×3(調査数30万人にするため)×5年=4.005であり約4人となる。

注22 [スクリーニング効果の規模についてのトロンコ氏の証言]ウクライナ内分泌研究所所長ミトラ・トロンコ氏の証言では、「スクリーニング効果は、(自然発生の)2倍もしくは、2.5から3倍だった」(『DAYS・JAPAN』2016年10月号41ページ)とされる。さらにトロンコ氏は、スクリーニング効果を被曝の影響から切り離し、甲状腺がんの増加をスクリーニング効果によるものとするような考え方そのものを、根底から批判している。「私たちは新しい超音波検査機を用いて、もっとも放射性ヨウ素の影響の大きかった地域の統計を取り、それを影響が少なかったウクライナの21の地域と比較しました。」「スクリーニング効果による検出率の増加は、被曝の少ない地方では2〜2.5倍で、大きく汚染された地域では、その6、7倍から最大10倍まで上昇しました。だから増加はスクリーニング効果のせいではなく、甲状腺への放射線の影響であることが明らかになったのです」(同42ページ)。ただ、いま仮に、ここでトロンコ氏が指摘している「最大10倍」を採ったとしても、福島では自然発生の4×10=40人程度であり、175人中の135人は放射線影響による発生となる。だから、この点からもスクリーニング効果説は、事実を追求するというよりは、「ためにする議論」であり、「最初に結論ありき」の駄論にすぎない。

注23 [がんの多段階発症に関するICRPの評価]ICRP2007勧告は、がん発症が多段階を経過する過程であることを認めている。そして「複雑な多段階過程」の「区分」として「a)腫瘍のイニシエーション――がんにつながりうる異常な細胞の経路への正常細胞の侵入(前腫瘍状態);b)腫瘍のプロモーション――イニシエーションした前腫瘍状態のクローン細胞の増殖と発達;c)悪性転換――前腫瘍状態からがんが進行しそうな状態への変化;及びd)腫瘍のプログレッション――細胞がより速い進行や浸潤性の特徴の獲得を可能にする特性を得る腫瘍形成の後期」を挙げている。同勧告は、「原理上」「多段階腫瘍発生の過程を通じて放射線が寄与すること」は「可能」としている。つまりICRPは、放射線がa)だけでなくb)からd)の過程に影響を及ぼすことを認めているのである。そのうちd)については「後期の過程」は放射線に「あまり依存しない」と留保しているが、影響自体を否定はしていない。
 福島においては、たとえスクリーニング効果があったとしても、2011年3月の事故からの被曝により、検査が始まった2011年10月までの間の7ヵ月の間に、たんにa)だけでなく、b)からc)までの、おそらくはd)までも、放射線の影響を受け、発症が加速化されたと考えなければならない。その意味では、スクリーニング効果によって見付かった部分もまた放射線影響を受けている。要するにすべての子供の甲状腺がんが放射線の影響を受けていると考えるべきなのである。
 本格検査については、もはやスクリーニング効果は、基本的には、考えられない。二巡目の「本格検査」において、一巡目の「先行検査」よりも発生率が大幅に高い(宗川氏ら前掲書10ページによれば4.6〜6.9倍)こともまた、放射線の影響以外は考えられないことを証明している。

注24 [手術適応の例]日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版』金原出版(2010年)68ページによる手術適応は以下の通りである。
  「   1.大きな腫瘤を形成している
      2.増大傾向あり
      3.圧迫またはその他の症状
      4.整容性に問題がある
      5.超音波検査でがんが否定しきれない
      6.細胞診断でがんが否定しきれない
      7.縦隔内へ結節が進展している
      8.機能性結節である
      9.サイログブロブリン(Tg)値が異常高値である   」

注25 [ECRR2010年勧告の公開サイト]欧州放射線リスク委員会(ECRR)編集・山内知也監訳 『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価 ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告』明石書店(2011年)
インターネット上では、美浜・大飯・高浜の原子力発電に反対する会のサイトに公開されている。
http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_dl.htm

注26 [原爆被爆者寿命調査によるリスクの過小評価の検証]
 沢田昭二氏は、「原爆被爆者に対する放射性降下物による被曝影響の真実」市民と科学者の内部被曝問題研究会での配付資料(2015年12月)において、爆心地から2.5km以内の被爆者を、2.5km以遠の被爆者と比較するという方法によって、「放影研の原爆被爆者のがん死亡の1Gy当たりの過剰相対リスクは、チェルノブイリ原発事故後のベラルーシの評価に比べて4分の1ないし11分の1の過小評価になっている」と書いている。これは、ICRP勧告がさらにDDREF=2として低線量でのリスク係数を半分に操作していることを考慮すると、ICRPでは1/8〜1/22の過小評価であるということを示している。
 松崎道幸氏は、「「放射線被ばく問題Q&A 放射線被ばくの影響を一ケタ過小評価していませんか?――放影研原爆データ(LSSデータ)を検証する――」市民と科学者の内部被曝問題研究会での配付資料(2015年5月)において、LSSデータを、日本の原発従業員追跡調査(調査機関約11年間)に依拠して、がん死リスクで約1/6の過小評価であるとしている。この数字は、ICRPの採っている生涯期間50年間では1/27と予測され、さらにDDREF=2を考えると過小評価率は1/54ということになる。
 さらに松崎道幸氏は、2016年11月に発表されたグレッグ・ドロプキン氏の論文に注目している。ドロプキン氏によれば、被ばく量とがんリスクが線形でなく、低線量領域では、ICRPのベースとなっている原爆被爆者寿命調査(LSS)のモデルよりも10〜45倍のがんリスクがあることが論証されたという。ドロプキン氏は、「一般化加法モデル」という手法でLSSデータを再解析したところ、100mSv以下の線量域では、従来のLSSデータを2桁上回る発がんリスクとなることが明らかになったという(市民と科学者の内部被曝問題研究会会員へのメール)。
Greg Dropkin, "Low dose radiation risks for women surviving the a-bombs in Japan: generalized additive model," Environmental Health 2016 15:112 DOI: 10.1186/s12940-016-0191-3
https://ehjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12940-016-0191-3
この通りだとすると、DDREF=2を考慮して、ICRPのリスク係数は1/90〜1/20に過小評価されていることを意味する。
 ECRR2010勧告には次の評価が引用されている。
この場合もICRPモデルではDDREF=2とされていることを考慮すると過小評価率は1/40である。

注27 [チェルノブイリ被害による過小評価率の推計]この点に関しては、筆者自身の過小評価率の試算とECRRの行った推計を以下に指摘しておく。
 筆者によるICRPリスク係数の過小評価率の推計:UNSCEAR報告では、チェルノブイリ事故の集団線量は全世界で60万人・Sv(1988年報告付属書D表24)あるいは38万人・Sv(2008年報告付属書B表B-19)と推計されている。ICRPのリスク係数を、1万人・Sv当たり約500人の過剰がん死とすると、この結果全世界での生涯期間についての過剰がん死者数は約3万あるいは1.9万人と予測される。
 他方、チェルノブイリ事故の健康被害についての包括的な調査報告、アレクセイ・ヤブロコフほか著・星川淳監訳『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店(2013年)によれば、被害者は事故後18年間に105万人である(180ページ)。これは50年間に換算すると293万人、半分ががん死として146万人となる。この数字は、ロザリー・バーテル氏のがん死の推計90〜179万人の中央値135万人にほぼ等しい(同178ページ)。
 これらから、ICRP・UNSCEARモデルの過小評価率は、約1/49(1988年報告)あるいは1/77(2008年報告)となる。

 ECRRによるICRPモデルの過小評価率の推計:ECRR2010年勧告には、ICRPモデルの過小評価率について、以下のデータが掲載されている。
  A.大気圏原爆実験に関して
 ECRR2010勧告は、核実験の放出した放射性核種による世界の集団線量をUNSCEARがおよそ3000万人・Svと推計していることを引用した後に、次のように書いている。

[出典:ECRR2010勧告第10章 http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_chap10.pdf ]
 つまり[6000万人÷300万人]〜[1億3000万人÷160万人]、つまり20〜81分の1の過小評価がある、中央値では9500万人÷230万人=41.3分の1の過小評価があるわけである。なお、ここでECRRは集団線量から被害を計算するに当たって、1万人・Sv当たり1000人としているようで、DDREFを考慮していない。DDREF=2とした場合には、過小評価率は1/82.6である。
  B.その他の核施設からの放出の事例での過小評価率の検証
 核施設近傍での過剰ながん発症リスクについては、以下の表が掲載されている。ほぼ100〜1000分の1の過小評価があると考えてよさそうである。

(訳注1:COMARE:Committee on Medical Aspects of Radiation in the Environmentの略称、ホームページは http://www.comare.org.uk/)
出典:ECRR2010勧告第11章 http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_chap11.pdf
 
注28 [ICRP体系の批判的からの過小評価操作の推計]矢ヶ崎克馬氏は、「組織加重係数」と「実効線量」が「被爆被害の過小評価をもたらす仕組み」であると指摘している(長崎被爆体験者訴訟書証番号甲A158−1『放射線被曝の健康被害』)。すなわち、14の組織と「その他」を加えた身体の15の部分が各々1Svを被曝した場合を、身体全体の「実効線量」では1Svとすることによって、15分の1の過小評価となる操作をしている疑惑を提起している。筆者としては、これにDDREF=2を掛けて、この面からのICRPのリスク係数の過小評価率をおよそ30倍とするべきではないかと、考えている。

注29 [甲状腺がんの予後に関する米国国立がん統計のデータ]松崎道幸氏は、市民と科学者の内部被曝問題研究会会員へのメールで以下の点を指摘している。「米国のSEERデータベース(米国のがんの発生と予後を集計する国立がん統計)で、1800名近くの小児甲状腺がん(診断時0〜19歳)の転移ありなし別の15年生存率データが発表されました。15年生存率は、診断時転移なし例で99%、診断時転移あり例で92%でした。いずれも必要と思われる外科治療、放射性ヨード投与が行われています。このデータは、診断時に転移があると、100人中8人が15年後に亡くなりますが、診断時に転移がなければ15年後に100人中1人の死亡にとどまるということです。このデータを見ると、(例え自然発生であっても)甲状腺がんでも、早期発見、早期治療が必要であると考えられます。」と述べている。この指摘の通りであると考える。

注30 [出典]アレクセイ・ヤブロコフほか著・星川淳監訳『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店(2013年)81ページ、178ページ

注31 [UNSCEAR報告の被曝リスクをめぐる二律背反と自己瞞着]毎年発行されるUNSCEAR報告書は莫大なページ数に上り、その全巻・全文を丹念に検討することは、一個人では不可能に近いと感じられる。ただ、筆者が、集団線量やそれによるリスク係数、チェルノブイリと福島の事故被害に関連する何冊かを見る限り、UNSCEAR報告書の退廃は極限に達していると評価してよいだろう。
 同書は、集団線量とそれによる放射線被曝のリスクモデルを一般的に取り扱う際には、被曝線量に対する各種がんの発症数・致死数との比例関係が「ある」ということを前提に、その量的な大きさを論じている。ところが、チェルノブイリや福島の原発事故を人的被害・健康被害を取り扱うとなると、途端に、影響が「ない」ことを前提に議論する方向に180度転換する。チェルノブイリについては甲状腺がんだけは認めているが、福島についてはすべてのがんについて「識別できない」と決めつけている。集団線量で見れば、UNSCEARは、チェルノブイリ事故について60万・Sv(1988年報告)あるいは38万人・Sv(2008年報告)、福島事故について4.8万人・Sv(2013年報告)と推計している。ここからUNSCEARのリスクモデルでは、チェルノブイリについて6万人あるいは3.8万人、福島について4800人の過剰がん死が生じる危険性(これは明らかな過小評価であるが)を当然指摘し、日本と世界の諸国民に警告しなければならないはずである。ところがUNSCEAR2013報告は、次のように述べる。「福島原発事故の結果として生じた放射線被ばくにより、今後がんや遺伝性疾患の発生率に識別できるような変化はなく、出生時異常の増加もない」と。
 「識別できる」かどうかが問題になっているのではない。少なくとも致死性では数千人規模の、発症では万人規模の被害が「ある」と予測されること、それを「識別できる」ように調査を尽くし、ありうべき健康被害に備え、可能なかぎり被害を少なくするように全力を尽くすべきであると訴えること、被曝した住民・作業員を網羅的に登録し、継続的に検査と健康調査を行い、早期発見・早期治療を目指すという系統的な予防的措置を日本政府に勧告すること――これがUNSCEARが果たすべき本来の任務であったはずである。
 UNSCEARのような国際機関が事故後2年ですでに「識別できない」という結論を下すことは、あたかも国連として「識別する努力をするな」「健康被害を隠蔽せよ」と日本の政府や保健当局に指示するようなものである。それは、国連憲章に真っ向から違反し、公然と事故によって被曝を受けた人々の人権を踏みにじる犯罪行為であるだけでなく「人道に対する罪」といっても差し支えない。
 UNSCEARに批判的な米国社会的責任を果たすための医師団(PSR)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部をはじめ世界の13の放射線医学専門家団体は、UNSCEAR2013年報告の福島事故報告書について批判する文書を公表している。同文書は、正当にも、「科学文献や現在の研究からは(UNSCEARの)そのような楽観的な仮定は正当化されない」「大惨事(福島事故のこと)の真の影響を隠蔽することを助長している」「健康と健康な環境への人権を懸念する医師や科学者として、われわれは謹んで(「心底から」の意であろう)反対の意を表明する」と述べ、さらにこのようなゼロ被害論が「原子力事業者や原子力規制当局が将来の事故やメルトダウンを心配しなくて良いというシグナルとして理解されるのではないかと懸念する」と書いてモラルハザードを警告している。(「原子放射線についての国連科学委員会(UNSCEAR)の国連総会へのフクシマ報告書についての註釈的論評」)。
http://www.fukushima-disaster.de/fileadmin/user_upload/pdf/japanisch/Ausfuehrlicher_Kommentar_zum_UNSCEAR_Fukushima_Bericht_2013__Japanisch_.pdf
 だが、日本の医師・専門家の団体は、IPPNW日本支部、核戦争に反対する医師の会(反核医師の会)も含めて、そこに1団体も入っていない。UNSCEARのこのような恐るべき放射線被害ゼロ論への後退を何とも思わないで、批判の声を上げることもしない、日本の多くの放射線専門家たちや医師たちをどう評価したらよいのだろうか。
 問われているのは、放射線被曝による健康被害が「ある」か「ない」かであり、専門的見解ではない。問われているのは、専門家としての「良心」である。安倍的なデマによる原発推進・被曝強要勢力の強権的支配に対して、放射線による住民の確率的大量殺人(ICRP・UNSCEARのリスクモデルがはっきりと予測する)に対して、除染残土の再利用による日本の国土全体の放射能再汚染に対して、福島級事故の反復を確率的前提として進む原発の再稼働に対して、妥協・荷担して協力するか、反対して闘うかという二者択一である。今日行われている、福島原発事故がばらまいた莫大な放射能(政府が認めるところでも広島原爆168発分)による被曝が「健康に全く影響がない」という宣伝は、明日は、核戦争で広島原爆168発分の「死の灰」を浴びても「健康に全く影響がない」、だから「核武装し核戦争を戦うべきだ」という宣伝に容易に転化するだろう。事態は、第2第3の福島級原発事故に向かって進んでいるだけでない。核戦争とそれによる核破局に向かってもまた「滑る道」を進んでいると言っても過言ではない。

注32 [参考文献]Aya Hirata Kimura, Radiation Brain Moms and Citizen Scientists―The Gender Politics of Food Contamination after Fukushima, Duke University Press, 2016  
 
 
 

付論1 UNSCEAR2013報告に掲載されている福島県の甲状腺被曝量推計値による集団線量の試算

UNSCEARによる集団線量の推計も、以下の通り、WHO2013とほぼ同じ数値を与える。

付表1-1 UNSCEARによる福島の小児の事故後1年間の甲状腺吸収線量の推計

出典:福島県ホームページ 床次真司「福島原発事故における甲状腺被曝推定」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/151309.pdf

付表1-2 福島県の市町村別の甲状腺検査を受けた子供(事故時0〜18歳)の数
出典:「県民健康調査『甲状腺検査(先行検査)』結果概要(確定版)」(2015年8月31日)より
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129302.pdf

①避難者と非避難者について、甲状腺の集団線量を計算すると、中央値では、
[避難者]    0.0475Sv×4万2000人=0.1995万人・Sv
[非避難者]   0.0335Sv×25万8666人=0.8643万人・Sv
[合計]     30万人に対して    1.0638万人・Sv
②最大〜最小値では、
[避難者]  4万2000人が    最小 12mSv   → 0.0504万人・Sv
                最大 83mSv   → 0.3486万人・Sv
[非避難者]25万8000人が    最小 15mSv   → 0.3870万人・Sv
                最大 52mSv   → 1.3416万人・Sv
[合計]     30万人に対して         0.4374〜1.6902万人・Sv



付論2 アメリカ国防総省による日本各地での甲状腺被曝量の推計とそれに基づく子供の甲状腺がん発症数の試算

 Our Planet−TVのサイトに、在日アメリカ軍が日本各地の基地とトモダチ作戦従軍兵士で測定した甲状腺被曝線量に基づく甲状腺被曝量の推計が掲載されている(2012年12月5日付)。投稿者はOur Planetとなっており、内部の記事のようである。データは下記に全文引用した。この数字は、日本政府の発表とは異なって、1歳児で最大27mSv、10mSvを超えるかなりの量の甲状腺被曝が、東北から東京・関東・東海で生じた事実を示している。
 このデータにより、東京と関東・東北・東海地方における子供の甲状腺がんの発症を、ICRPのリスク係数に基づいて以下のように計算し、さらにECRRによるICRP過小評価係数での補正も試みた。
 同サイトによると、この数字は24時間戸外でいた場合の推計であり、屋内でいた場合は低減係数を掛けるように指示されているとのことである。他方、米国防総省の発表では、推計にはICRPモデルが使われたと記されており、ということはこの数値もまた過小評価されている可能性がある。これらを勘案して、ここではこの数字を低減係数の操作せずにそのまま使うこととする。
 アメリカ国防総省の甲状腺被曝量の推計値は、「大人(17歳以上)」と「12歳以上17歳未満」との間の差が少なく、前者の方が高い値のものもあり、若い兵士が多いので「大人」はかなり17歳に近い年齢で推計していると思われる。日本の国勢調査のデータが0〜19歳という分類なので、平均値としては「大人(17歳以上)」も含めて6つの年齢別データの平均を取ることとした。
 各県の人口については2010年国勢調査統計の値を採ることとする。同統計では、人口は5歳ごとの間隔で分類され子供としては0〜19歳となり、福島でのデータ0〜18歳とは1歳の差が出るが、ここではやむを得ず0〜19歳を採ることにする。発症予測は福島の場合と同じように以下の通り計算できる。
(1)ICRPリスク係数による推計:集団線量(甲状腺被曝量×被曝した人口)×子供の放射線感受性係数(0〜19歳は3.06)×ICRPリスク係数(23.3〜120.3)=ICRPによる甲状腺がん発症予測数(生涯期間70年)
(2)ECRR過小評価係数によるその補正:ICRPによる甲状腺がん発症予測数×ECRRの過小評価補正係数(×40)=われわれの甲状腺がん発症予測数(生涯期間70年)
(3)年間平均発生数からの事故後5年間の発生数の推計:ECRR補正後の甲状腺がん発症予測数(生涯期間)÷生涯期間(70年)×(経過期間[5年]−最短潜伏期[1年])=現在までの期間における発生数予測値
(4)同期間に福島での発生数(175人)と集団線量の比による推計:当該県・地域の子供の集団線量÷福島の子供の集団線量(①WHO2013による0.73万人・Svおよび②朝日新聞報道による補正値2.92万人/Svの両方で計算)×現在までの福島での発生数(175人)=現在までの当該県・地域における子供の甲状腺がんの発症数予測値(5年間)

1.東京都(東京と横田基地の平均値8.39mSvで計算)
(1)0.00839Sv×203.8万人×3.06×(23.3〜120.3)=122〜629人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、4880〜2万5178人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、279〜1439人
(4)①1.71万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=410人
   ②1.71万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=102人

2.神奈川県(厚木基地と横須賀海軍施設の平均値7.01mSvで計算)
(1)0.00701Sv×161.1万人×3.06×(23.3〜120.3)=81〜416人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、3221〜1万6629人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、184〜950人
(4)①1.13万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=271人
   ②1.13万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=68人

3.茨城県(百里基地の平均値16.1mSvで計算)
(1)0.0161Sv×54.4万人×3.06×(23.3〜120.3)=62〜322人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、2498〜1万2896人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、143〜737人
(4)①0.876万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=210人
   ②0.876万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=52人

4.栃木、群馬、埼玉、千葉各県(栃木[小山の大人のデータ11mSvがある]については茨城と同等、埼玉・千葉・群馬については東京[平均8.39mSv]と同等と仮定して計算)
[栃木]
(1)0.0161Sv×36.4万人×3.06×(23.3〜120.3)=42〜216人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、1671〜8629人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、96〜493人
(4)①0.586万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=140人
   ②0.586万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=35人

[群馬・埼玉・千葉]
(1)0.00839Sv×(131.2+109.2+37.2=277.6万人)×3.06×(23.3〜120.3)=166〜857人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、6642〜3万4295人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、380〜1960人
(4)①2.329万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=558人
   ②2.329万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=140人

5.関東圏の合計
関東7都県の0〜19歳人口合計733万3000人のうち、甲状腺がんの発症は、概数であるが、それぞれ以下の通り予測される。
(1)ICRPリスクモデルで上記の合計473〜2440人(生涯期間)
(2)ECRR補正後では合計1万8912〜9万7627人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では合計1081〜5579人
(4)福島の現在までの発生数からの推計では関東圏の集団線量6.631万人・Svに対して
   ①1590人
   ②397人

6.静岡県(キャンプ富士の平均値3.35mSvで計算)
(1)0.00335Sv×68.2万人×3.06×(23.3〜120.3)=16〜84人(生涯期間)
(2)ECRR補正×40を行うと、652〜3364人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、37〜192人
(4)①0.229万人・Sv÷0.73×175=55人
   ②0.229万人・Sv÷2.92万人・Sv×175=14人

7.宮城県(仙台と石巻は17歳以上の大人の推計しかない[12.0と5.0mSv]が、仙台地域の人口の多さを考慮して、ほぼ茨城県[大人で10mSv]と同等と仮定して計算)
(1)0.0161Sv×42.9万人×3.06×(23.3〜120.3)=49〜254人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、1970〜1万170人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、113〜581人
(4)①0.691万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=166人
   ②0.691万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=41人

8.山形県(17歳以上の大人の推計しかないが、ほぼ神奈川県と同等と仮定して計算)
(1)0.00701Sv×20.5万人×3.06×(23.3〜120.3)=10〜53人(生涯期間)
(2)ECRR補正(×40)を行うと、410〜2116人(生涯期間)
(3)現在までの5年間では、23〜121人
(4)①0.144万人・Sv÷0.73万人・Sv×175人=34人
   ②0.144万人・Sv÷2.92万人・Sv×175人=9人

 これらを概観すれば、福島のみならず関東地方でも、もうすでに数百から数千人規模の子供の甲状腺がんが多発している可能性が十分にあるという結論が出てくる。

  注 現実に関東地方の甲状腺がん患者数の増加については、
    以下のnoimmediatedangerのウェッブサイトを参照のこと。
    ◆関東地方の甲状腺がん罹患数
     http://noimmediatedanger.net/contents/551
    ◆茨城県の甲状腺がん罹患数
     http://noimmediatedanger.net/contents/562
    ◆山形県の甲状腺がん件数
     http://noimmediatedanger.net/contents/567
    ◆東京都の甲状腺がん罹患数
     http://noimmediatedanger.net/contents/574

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以下はOur Planet - TVのサイトにある米国防総省の発表文の同TVによる翻訳である。

    米国防省発表 地域別放射線積算量(米国防省の原文)
 
 このデータは2011年3月12日から2011年5月11日までの60日間、大人、子どもの放射線積算量を地域別に表している。
 積算量は外部被曝と、呼吸や食事などから放射線物質を体内に取り込んだ場合の内部被曝の両面で計算を行なっている。このデータは米国防省、米国エネルギー省、日本政府、民間組織によって集められた。算定は米国防省の放射線に関する保健専門家が、ICRP ( 国際放射線防護委員会 ) の手法を用いて行なった。積算量の計算は、科学を専門とする信頼ある独立機関NCRP ( 米国放射線防護審議会 )の審査を経て行なった。
 米国防省は、米国防省に関連ある13の海岸基地を対象に、2011年3月12日から2011年5月11日の期間における全身と甲状腺の放射線を積算した。甲状腺はヨウ素を吸収、蓄積し特に影響をうけやすいため、甲状腺の放射線積算量の推計を行なった。
 これらの積算量は、24時間外で過ごし、定期的に運動し(呼吸数に関係)、放射線が計測された水、土壌などにさらされて60日間ずっと生活したものとする最大被曝推計値。実際それぞれの放射線積算量は、その期間中、室内で過ごしたり、運動量が少なかったりすることで、この数値よりも低い可能性がある。

三沢飛行場 ( 青森県 )
計測地:八戸貯油施設、三沢飛行場、三沢対地射爆撃場、車力通信所  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.007 rem(0.07mSv) 甲状腺:0.014 rem(0.14mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.007 rem(0.07mSv) 甲状腺:0.015 rem(0.15mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.006 rem(0.06 mSv) 甲状腺:0.011 rem(0.11mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.006 rem(0.06 mSv) 甲状腺:0.009 rem(0.09mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.006 rem(0.06mSv) 甲状腺:0.008 rem(0.08mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.006 rem(0.06mSv) 甲状腺:0.0068 rem(0.068mSv)
  
山形 ( 山形県 )
計測地:山形市 ※大人のみ
  大人(17歳以上)  
    全身:0.036 rem (0.36 mSv) 甲状腺:0.44 rem(4.4 mSv)
 
石巻 ( 宮城県 )
計測地:石巻市、松島基地(航空自衛隊)※大人のみ
  大人(17歳以上) 
    全身:0.079 rem(0.79 mSv) 甲状腺:0.50 rem(5.0 mSv)
   
仙台 ( 宮城県 )
計測地:キャンプ仙台、大船渡市、仙台空港 ※大人のみ
  大人(17歳以上)  
    全身:0.12 rem (1.2 mSv) 甲状腺:1.20 rem(12.0mSv)
  
小山 ( 栃木県 )
計測地:小山 ※大人のみ
 大人(17歳以上)  
   全身:0.087 rem(0.87mSv) 甲状腺:1.10 rem(11.0mSv)
 
百里基地 ( 茨城県 )
計測地:銚子港、石岡市、水戸市、つくば市、百里基地、成田
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.14 rem (1.4 mSv)  甲状腺:2.30 rem(23.0 mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.16 rem (1.6 mSv)  甲状腺:2.70 rem(27.0 mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.104 rem(1.04mSv) 甲状腺:1.70 rem(17.0mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.074 rem(0.74 mSv) 甲状腺:1.00 rem(10.0mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.071 rem (0.71 mSv) 甲状腺:0.96 rem(9.6 mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.075 rem(0.75mSv) 甲状腺:1.00 rem(10.0mSv)
  [甲状腺平均 16.1mSv]

東京 ( 東京都 )
計測地:赤坂プレスセンター、ニュー山王ホテル米軍センター、米国大使館  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.079 rem(0.79mSv) 甲状腺:1.20 rem(12.0mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.09 rem(0.9mSv)  甲状腺:1.40 rem(14.0mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.061 rem(0.61mSv) 甲状腺:0.86 rem(8.6mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.046 rem(0.46mSv) 甲状腺:0.53 rem(5.3mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.044 rem(0.44mSv) 甲状腺:0.50 rem(5.0 mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.046 rem(0.46mSv) 甲状腺:0.52 rem(5.2mSv)
  [甲状腺平均 8.35mSv]
 
横田基地 ( 東京 )
計測地:キャンプ朝霞、府中通信施設、米軍深谷通信所、大和田通信所、多摩サービス補助施設、所沢通信所基地、横田飛行場、由木通信所  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.088 rem(0.88 mSv) 甲状腺:1.20 rem(12.0 mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.099 rem(0.99mSv) 甲状腺:1.40 rem(14.0mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.071 rem(0.71mSv) 甲状腺:0.88 rem(8.8 mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.055 rem (0.55mSv) 甲状腺:0.54 rem(5.4mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.053 rem (0.53mSv) 甲状腺:0.51 rem(5.1 mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.055 rem(0.55mSv) 甲状腺:0.53 rem(5.3mSv)
  [甲状腺平均 8.43mSv]
 
キャンプ座間/厚木基地 ( 神奈川県 )
計測地:キャンプ座間、厚木海軍飛行場、上瀬谷通信施設、相模総合補給廠、相模原住宅地区  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.069 rem (0.69 mSv) 甲状腺:0.99 rem(9.9 mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.082 rem(0.82 mSv) 甲状腺:1.20 rem(12.0 mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.056 rem(0.56 mSv) 甲状腺:0.77 rem(7.7 mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.041 rem(0.41mSv) 甲状腺:0.40 rem(4.0 mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.039 rem (0.39 mSv) 甲状腺:0.41 rem(4.1 mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.039 rem(0.39 mSv) 甲状腺:0.41 rem(4.1 mSv)
  [甲状腺平均 6.97mSv]
 
横須賀海軍施設 ( 神奈川県 )
計測地:吾妻倉庫地区、在日米軍池子住宅地区及び海軍補助施設、木更津飛行場、滑走路、米海軍戸塚無線所、根岸米軍住宅地区、富岡倉庫地区、鶴見貯油施設、米軍横須賀艦隊基地、浦郷倉庫地区、横浜ノースドック 
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.063 rem (0.63mSv) 甲状腺:0.99 rem(9.9 mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.077 rem (0.77mSv) 甲状腺:1.20 rem(12.0mSv)
  1歳以上7歳未満   
    全身:0.051 rem (0.51mSv) 甲状腺:0.77 rem(7.7mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.036 rem(0.36mSv) 甲状腺:0.46 rem(4.6mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.033 rem (0.33mSv) 甲状腺:0.41 rem(4.1mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.033 rem (0.33mSv) 甲状腺:0.40 rem(4.0mSv)
 [甲状腺平均 7.05mSv]
 
米軍海兵隊基地キャンプ富士 ( 静岡県 )
計測地:キャンプ富士、沼津海浜訓練場  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.028 rem(0.28mSv) 甲状腺:0.46 rem(4.6mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.035 rem(0.35mSv) 甲状腺:0.60 rem(6.0mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.024 rem(0.24mSv)     甲状腺:0.36 rem(3.6 mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.017 rem(0.17 mSv)   甲状腺:0.22 rem(2.2 mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.015 rem(0.15 mSv)   甲状腺:0.19 rem(1.9 mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.015 rem(0.15 mSv)   甲状腺:0.18 rem(1.8 mSv)
  [甲状腺平均 3.35mSv]

米海兵隊岩国航空基地 ( 山口県 )
計測地:米軍秋月弾薬庫、灰ヶ峰通信施設、米陸軍広弾薬庫、米軍川上弾薬庫、米陸軍呉第6埠頭、岩国航空基地、祖生通信施設  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.004 rem (0.04 mSv) 甲状腺:0.067 rem(0.67mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.005 rem(0.05 mSv) 甲状腺:0.087 rem(0.87mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.003 rem (0.03mSv) 甲状腺:0.053 rem(0.53 mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.002 rem (0.02mSv) 甲状腺:0.032 rem(0.32mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.002 rem (0.02 mSv) 甲状腺:0.028 rem(0.28mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.002 rem (0.02mSv) 甲状腺:0.027 rem(0.27mSv)

佐世保基地 ( 長崎県 )
計測地:赤崎貯油所、針尾米軍住宅、針尾島弾薬集積所、庵崎貯油所、崎辺海軍補助施設、佐世保弾薬補給所、佐世保ドライ・ドック地区、立神港区、米軍佐世保艦隊基地、横瀬貯油所  
  新生児〜1歳未満   
    全身:0.005 rem(0.05mSv)    甲状腺:0.085 rem(0.85 mSv)
  1歳以上2歳未満   
    全身:0.007 rem(0.07mSv)    甲状腺:0.11 rem(1.1mSv)
  2歳以上7歳未満   
    全身:0.004 rem(0.04 mSv)   甲状腺:0.067 rem(0.67 mSv)
  7歳以上12歳未満  
    全身:0.003 rem(0.03mSv)    甲状腺:0.042 rem(0.42mSv)
  12歳以上17歳未満 
    全身:0.003 rem(0.03mSv)    甲状腺:0.035 rem(0.35mSv)
  大人(17歳以上)  
    全身:0.003 rem(0.03mSv)    甲状腺:0.034 rem(0.34mSv)

出典:http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1475
翻訳元ソース : アメリカ国防総省 Operation Tomodachi Registry
https://registry.csd.disa.mil/registryWeb/Registry/OperationTomodachi/DisplayEstimatedAreaDoses.do;jsessionid=a13932a1a2985e37ec83efaa57cb3b8d66ebe9008da5b13a292a6d5b3a1e1019.e3yLbh8Nch0Ke3iPc3ePbh8Se0


 
付論3 UNSCEARによる第二次大戦後の人為的放射線源由来の集団線量を歴史的に集計する試みについて

 すべての人工放射線源による集団線量(集団実効線量とも言われる)を、従ってその被曝被害の全体像を、歴史的に、世界全体として評価しようと試みたことは、UNSCEARの大きな成果と言える(付表3-1)。それが極めて大きな過小評価や限界を伴っていたとしても、この基本的評価は変わらない。それが忘れ去られ、闇に葬り去られようとしているいま、このことを再び想起することが重要であろう。われわれが受けている放射線被曝被害は、福島原発事故だけによるものではないのである。福島事故の放出放射能は、歴史的に積み重なってきた放射線源に、さらに大きく付け加わったのである。
 UNSCEAR1993年報告は、歴史的に放出された人工放射線源による総集団線量推計(2350万人・Sv)を公表している。それによれば、全世界で、歴史的および今後において235万人の過剰死という莫大な放射線被害が推計されている。(付言すると、UNSCEARはこのような場合のリスク係数を1万人・Sv当たり約1000人にしており、人為的に低線量で被害を2分の1にするDDREFの操作を行っていない)。
 下表のように、UNSCEARの集団線量をECRRの係数で補正(付表3-2)すれば、およそ1億1500万人の追加のがん死が想定される。うち9200万人は大気圏核実験によるものと推定され、核実験の法外で致命的な危険性は明らかである。
 がん発症数は、ICRPリスク係数によると、このおよそ4倍、約4億6000万人ほどであろう。福島原発事故の放出放射能の被害は、これらの上に付け加わる。
 ただし、これはがんについてだけである。心臓疾患などによる非がん死を含めるならば、上記の約2倍、2億3000万人程度になる可能性が推測される。
 人口放射線源による住民全体の免疫力の低下などによる流行病を原因とする病死や、免疫異常によるアレルギー性の疾患による死亡は、これに含まれていない。
 非致死性の疾患や障害による被害については入っていない。歴史的には存在しなかったようないろいろな難病が次々に出現してきているが、そのような新しい病気の発生や多発の危険性も入ってはいない。
 いずれにしろ、歴史的に放出された人工放射能によって、世界中で幾億の膨大な数の人々が、放射線影響によって病気となり、苦しい闘病を余儀なくされ、早すぎる死に追いやられているのである。原発の事故や原発・再処理工場の運転による放出放射能は、それらすべての上に加わり、さらに重くのしかかる。ICRP、UNSCEARの放射線リスクモデルは、その事実を、歪められ切り縮められた形ではあっても、反映していると評価すべきである。
 最後に、政府や政府側専門家たちの、さらには残念ながら脱原発運動の内部にも根強く残る「福島原発事故の健康被害ゼロ論」を、大気圏核実験との関連で検討することが重要である。
 UNSCEAR2008報告によれば、大気圏核実験は502回行われ、総出力は440メガトンであったとされる(日本語版上261ページ)。広島原爆16キロトンと比較すると、その2万7500発分である。福島原発事故は、政府の過小評価された発表でも、セシウム137換算で広島原爆の168発分、2.7メガトン分に相当する。国際的に信頼度の高いノルウェーやフランスの推計によると、実際の放出量は、大気中で約600発分、海洋中放出と合わせるとほほ1100発分、汚染水中放出量まで含めると4200発分である(詳しくはわれわれの『放射線被曝の争点――福島原発事故の健康被害は無いのか』第3章第2節4項を参照のこと)。
 われわれの本では、ネバダ核実験場で実施された大気中核実験の総出力と比較し、政府推計でもそれを上回ること、実際には大気中放出量だけで約4倍、放出総量ではその27倍に及ぶことを明らかにした。いま、すべての大気圏核実験の「死の灰」と比較しても、福島事故はセシウム換算で大気中放出量で約2%、放出総量で約15%の放射能を放出した可能性が高いのである。つまり、日本と世界で、福島事故と同じ規模の事故が、不幸にもあと6回くり返されるならば、大気圏核実験によって歴史的に世界にばらまかれた「死の灰」とほぼ同じ量の放射能が環境中に放出されることになる。
 健康被害ゼロ論とは、このような超大量の放射能放出の健康被害・人的被害が「全くない」(安倍首相)とする全くの虚偽主張あるいはデマ宣伝の体系である。それは特定の見解や考え方だけではない。一つの政策体系である。それによって、健康被害を指摘したり調査したり回避する方策はことごとに否定され、反対に健康被害が「ある」という人々を「風評被害」と決めつけて攻撃し、すべての科学者と専門家とマスコミと国民に強権的に被害ゼロ論のイデオロギーを押しつけ、高汚染地域に住民を帰還するよう誘導して人為的に被曝させ、いわば「確率的」な「大量殺人」に曝し、同じく「確率的に」(政府報告によっても20数年に1度)事故を起こすことを前提にまともな保守も行わないまま原発を次々再稼働し、再処理工場も動かし、もんじゅさえも「廃炉前に試験運転」し、日本全国を放射能汚染された「除染残土」で再汚染し、それらによって全国民を強権的に被曝させ、国民の健康と生命を意図的に放射線リスクにさらす政策の体系こそが、健康被害ゼロ論の本質である。日本国民が安倍政権と放射線被害ゼロ論を葬り去るか、安倍政権の放射線被害ゼロ論が日本国民を文字通り葬り去るかの決定的な危機にある。
 このような時期に、政府が都合のよい箇所だけを引用し被害ゼロ論のために利用しているUNACEAR報告の成果を再び想起することは、決して無駄には終わらないであろう。


付表3-1 UNSCEAR1993報告による歴史的に放出された放射性核種と人為的環境放射線源からの集団実効線量推定

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010507/01.gif
原著203ページ。原注のaは右上部「集団実効線量」に付いており、この表のeは誤植と思われる。

付表3-2 UNSCEARの歴史的集団線量の推計とECRR係数によるその補正値

注記:単位はそれぞれ、集団線量は万人・Sv、ECRR補正係数は倍、過剰がん死数は人。福島事故以外は、1993年までの放出量による推計であることに注意。過剰がん死数の計算に当たっては、ECRRに従ってDDREFは考慮しないこととし、リスク係数はICRP1990の1万人・Svあたり500人の2倍の1000人の過剰がん死と仮定した。UNSCEAR集団線量は、局地と世界の合計である。ECRRの補正係数は、倍率の中央値は対数を採った。
 福島事故はUNSCEAR2013から筆者により追加した。チェルノブイリの集団線量は2008報告で48万人・Svに引き下げられたが、ここでは元の60万人・Sv(原典は1988報告)のままにしている。福島原発事故については、われわれの推計した放出量比(INESで0.93倍)からの推計も並べてある。この点に関しては、渡辺・山田による「福島原発事故によるヨウ素131放出量の推計について――チェルノブイリの1.5倍に上る可能性」を参照のこと。http://blog.acsir.org/?eid=35




 
 
 
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