環境省、除染除去土壌の公共事業への再利用を決定 ―広島原爆5発分の「死の灰」を全国に拡散する恐怖の計画  渡辺悦司

2016年9月

環境省、除染除去土壌の公共事業への再利用を決定
――広島原爆5発分の「死の灰」を全国に拡散する恐怖の計画


渡辺悦司
2016年9月15日


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環境省、除染除去土壌の公共事業への再利用を決定──広島原爆5発分の「死の灰」を全国に拡散する恐怖の計画(pdf,8ページ,773KB)

 放射性物質は決して拡散してはならず、閉じ込め、管理しなければならない。だが、政府はこの原理を公然と大々的に踏みにじる一歩を踏み出した。環境省は、2016年6月30日、除染作業によって生じた大量の残土のうち、放射線量が1キログラム当たり8000ベクレルの基準を下回るものについて、全国の公共事業で広く再利用する方針を決定した
 注:環境省「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について」
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_160630.pdf
 ここで「ベクレル」とは放射能量の単位で、1秒間に1回の崩壊を起こす放射能量が1ベクレル(Bq)である(セシウム137では約14億個の原子が存在する状態)。また、福島原発事故以前の基準は100Bq/kgであったことも付け加えておく。
 再利用が予定されている用途は、道路・鉄道の盛り土、海岸防災林の盛り土、防潮堤の盛り土、廃棄物処分場土堰堤、土地造成、水面埋め立てなど(図)。これらは住民の生活圏であるだけでなく、台風などによる洪水や高波、地震や津波による浸食・破損・流失によって、住民を直接に被曝させる危険があることは明らかである。



「8,000Bq/kg以下の除染土壌を再生利用すべきではない」『原子力資料情報室通信』第505号より引用。
http://www.cnic.jp/7075
原資料は環境省の以下のサイトにある。
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/

 こうして人々が知らないままに、生活圏が放射能汚染されてしまう危険性が高い。子供の遊び場や、通学路、学校、スポーツ施設なども危険にさらされ、しかもどこが汚染されているのかが分からない状態になる。また、除染残土の再利用は、土木・建設部門や運輸・交通部門を原発や医療部門と同様の被曝労働に変えてしまう。

  すでに23万トンが海岸防災林の盛り土に

 これに先立つ6月8日、環境省指定廃棄物対策担当参事官室は、「地球の友」「原子力資料情報室」など市民団体との交渉の中で、すでに再利用が行われていることを認めた(『原子力資料情報室通信』第505号2016年7月1日号)。
 同室担当者は「(環境省)『福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方』に基づき、福島県の避難指示区域内で発生した3000Bq/kg以下の災害がれき(コンクリートがら)23万トンを避難指示区域の沿岸部で、海岸防災林の盛土材に使用したと回答した。環境省は放射性物質濃度測定を行い、セシウムが3000Bq/kg以下であることを確認した上で業者に引き渡したというが、『業者がどの場所でどのくらいの量を使用したかは業者に任せているためわからない、全量を完全に使い切ったかどうかわからない』と説明。業者に対しては30cm以上の覆土を行うように求めているが、『実際に確認したわけではないため、業者が本当にその施工を守っているかどうかわからない』というずさんな管理の実態が明らかになった」という。
 また、同担当者は、地元自治体が風評被害を懸念していることを理由にして、再使用された場所も明らかにしなかった。きちんと管理もされないまま、旧基準の30倍、さらには80倍の放射性物質が、住民や労働者の目から隠された形で、ばらまかれようとしているのだ。

  放射能汚染除染土の総量は?

 危険はそれだけではない。政府の基準では、汚染の少ない土と混ぜて見かけの放射能濃度を下げれば、総量としてはいくらでも再生利用ができる。汚染残土の量はきわめて大量である。それに含まれる放射能量もまた超巨大であり、広島原爆が爆発した際に生じた「死の灰」(とくにセシウム137)の量と十分に比較可能である。
 除染土の総量とその放射能汚染度の公式推計は、環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略の取組状況(2016年6月7日)」に掲載されている。同資料によれば、除染土の総量は、福島県だけで、最大約2200万立方メートルと推計され、含まれる放射能の濃度は、放射性セシウム(大部分は137)ベースで表1の通り推計されている。このデータから除染残土に含まれる放射能量は容易に計算することができる。



 追記:原表には題名が付いていないが、同文書では土壌の放射線サンプリングは放射性セシウム(134および137)について行うことが明記されており、「放射能濃度」とは放射性セシウムの濃度であろうと推測。
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_160607_02.pdf

  除染土に広島原爆5発分の「死の灰」

 詳しい計算過程は付表に譲って結果だけを述べよう(表2)。政府がまず最初に再資材化して公共事業などで利用しようとしている8000Bq/kg以下の除染土約1000万m3だけで、53兆ベクレル(広島原爆の約6割の「死の灰」)が含まれる。除染土の合計では446兆Bq(広島原爆の約5発分)、「減容化」によって濃度が高まった焼却灰では2213兆Bq(広島原爆の約25発分)となる。
 このような戦慄すべき規模の放射能を、政府・環境省は福島県内と全国にばらまこうとしているわけだ。


データの詳細は付表を参照のこと


  住民の追加被曝量「年間1mSvまで安全」と環境省

 前述の環境省文書には、簡単に計算できるにもかかわらず、除染土に含まれる放射能の総量をどこにも記載していない。それどころか、国際放射線防護委員会(ICRP)を引用して、再資材化措置による作業員および住民の追加的被曝量は、年間1mSv以下であれば「放射線影響に係わる安全性」が確認されているとしている。
 それに基づき、住民に対して「安心・安全」の「理解・信頼醸成」に取り組んで行くとしている文書もある
  注:「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 平成28年(2016年)4月」。
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_text.pdf

 つまり、残土だけで広島原爆の5発分、焼却灰を含めれば30発分の量の「死の灰」を全国にばらまくとしても「何の健康影響も生じない」とし、国民はこのことを「理解・信頼」しなければならないと言っているわけだ。
 福島原発事故は、日本政府の推計でも広島原発168発分の「死の灰」を放出した(実際には大気中で約600発分、汚染水・海水中を含めれば約4200発分)。だが、政府見解では、福島原発事故で何の健康影響も「予想されない」という。だから、5発分や30発分の除染残土程度の放射能量では頭から問題にもならないというわけだ。
 環境省文書がICRPに言及しているので、ICRPには被曝リスクモデルがある事実を指摘しなければならない。それを使って、例えば(控えめの想定だが)1000万人の住民が再資材化措置によって追加的に年間1mSv被曝することになった場合(集団線量1万人・Sv)の健康被害を簡単に予測できる。ICRP2007年勧告のモデルによれば、この場合、1年間の被曝に対応して、生涯期間で1715人の追加のがんが発症し、414人のがん死者が出ることになる。これが毎年続く。さらにこれはがんだけである。しかもこのICRPのリスク係数は、ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)によって40分の1から1000分の1の過小評価であると批判されている
  注:ICRP2007年勧告は日本語版139ページ
  ECRR2010年勧告第11章 日本語訳は以下のサイトにある。
  http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_chap11.pdf 
 このように、放射性物質を住民の生活圏にばらまくことは、目に見えない形での大量殺人に等しい。政府は、ことあるごとに、テロリストが放射性物質をばらまく「核テロリズム」への警告を発してきた。だが、いまや政府・環境省自身が、国家的に組織された核テロリズムを実行しようとしている――そう批判されても仕方のない行動を取っているのである。

 追記:杉本裕明「ルポ・原発事故汚染土:リサイクル事業進める規制官庁、環境省の危ない役回り」『世界』2016年10月号(岩波書店)は、この問題に関する非常に優れたルポであり必読文献であるが、汚染土に含まれる総放射能量の規模についての指摘はない。


(参考資料)付表 除染土に含まれる放射能量(Cs137)の試算


注記:四捨五入の煩雑さを避けるため、有効数字はおよそ3桁だが、無視して多くの桁を記載してある。
砂質土と粘性土の比重については、日本道路協会の基準に従い、砂質土、粘性土をそれぞれ「ゆるいもの」と仮定し、それらの比重をそれぞれ1.7および1.4とする(トン/立方メートル)
  注:日本道路協会「土の単位重量推定に関する資料」
  http://www.unions.co.jp/dqs/dynamic/files/03.pdf
これから重量を推定でき、それにそれぞれの放射能濃度の中央値を掛けて、含有放射能量を計算できる。
焼却灰中の放射能濃度は、日立造船が自社の焼却装置のテストの際に使った数値27〜238万Bq/kg(中央値132.5万Bq/kg)を使うことにする
  注:日立造船環境・エネルギー・プラント本部「除染除去物の焼却減容化処理」
  http://www.jefma.or.jp/jefma/61/pdf/jefma61-20.pdf
焼却灰の比重は、日本産業廃棄物処理振興センターのホームページにある1.14とする。
  注:公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター 情報処理センター「産業廃棄物の種類ごとの集計単位と重量換算係数」
  http://www.jwnet.or.jp/jwnet/pdf/gyouseihoukoku_jyuuryoukanzankeisuu.pdf
除染土中の残存放射能は今では大部分がセシウム137によるものであろうから、いまこれをすべてセシウム137によるものと仮定し、広島原爆のセシウム137放出量の推計は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)2008年報告書付属書D」に従って89兆Bqを採る
  注:以下のサイトからダウンロードできる
  http://www.unscear.org/unscear/en/publications/2008_2.html