原発再稼働時のトラブルに現れた恐るべき危険性――電力会社の安全意識と安全規律の劣化と退廃、規制当局によるその容認 渡辺悦司

2016年3月

原発再稼働時のトラブルに現れた恐るべき危険性
── 電力会社の安全意識と安全規律の劣化と退廃、規制当局によるその容認


2016年3月15日
渡辺悦司


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原発再稼働時のトラブルに現れた恐るべき危険性──電力会社の安全意識と安全規律の劣化と退廃、規制当局によるその容認(pdf,11ページ,673KB)


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  目 次

1.九州電力川内原発再起動時の細管破断トラブル
2.原子力規制委員会の容認姿勢
3.関西電力高浜原発4号機再稼働時の一次冷却水漏れ
4.高浜4号機の送電線接続トラブルと原子炉緊急停止
5.たるみきった電力会社の安全規律
6.まとめ


 政府の福島への帰還政策は、全国的規模での大々的な原発再稼働と不可分の一体をなしている。福島第一原発のように大規模な放射能放出事故を起こしても、放射能による人的被害や健康影響がまったく出ない(鼻血さえも出ない!)ことにすれば、原発事故は「起きてもよい」「起こしてもよい」ということになり、原発事故が確率的に生じることを前提に原発を再稼働していくことになるのは、自然な流れである。「安全」は国民向けの宣伝文句だけになり、実際には事故を「起こしてもよい」ことが前提となり、電力会社も原子力規制当局も安全意識が退廃し、安全をめぐる現場の規律がたるみきっている。恐るべき「モラルハザード」が生じ、それが自己実現的に福島事故の再発に向かって突き進んでいる。われわれはこう警告するほかない。
 この危険性は、川内原発や高浜原発の再稼働時のトラブルの中に、現実にはっきりと現れている。

  1.九州電力川内原発再起動時の細管破断トラブル

 九州電力川内原発1号機再起動時には、再稼働の日程が2015年8月20日から26日まで6日間遅れるトラブルがあった。復水器という発電に使った水蒸気を水に戻す装置にある冷却用の海水が通るチタン製細管5本に穴があいて、海水が2次冷却水側に漏れていたのである。
 このトラブルは深刻な性格のものだった。川内1号機はすでに設備年齢が31年に達している。老朽化の進む原発を再稼働することそのことが、重大事故に繋がる著しい危険性をはらんでいることが如実に示された。
 九州電力は、これら5本の細管がすべて、他の装置(高圧給水加熱器)から流れ込む排水の入口の近傍にあったため、起動時に排水が細管あるいは管板に「衝突し」配管が破損したのが原因であろうと推定した。そのため九電は、穴のあいた5本とその周囲の配管64本、計69本をゴムで施栓したと発表した。
 そうであるなら、今回のトラブルの基礎には、細管が、起動手順どおりの排水が当たった程度で穴が開くほど設計時の強度以下に劣化・ぜい弱化しているという事実がある。つまり九電の推論からは、最低でも、すべての復水器(九電資料によると3基6室ある)について、ドレン入り口に近い配管をすべて施栓する必要がある(加えて最低でも69本×5室=345本)という結論が出てくる。また、当然すべての復水器配管(8万本ある)について、その健全性を詳しくチェックしなければ安全性は確保されない、ということになる。
 九電は、復水器の冷却用配管を全数検査したとは発表しておらず、細管の減肉や腐食や損傷の全数点検は行われていないと判断される。
 しかも配管損傷の原因は九電の推定以外にも多く考えられる。たとえば、①復水器ドレンが繋がっている「高圧給水加熱器」でのトラブル(配管損傷)、②タービン翼の破損による金属片の混入、③海洋生物のフジツボの付着など配管の生物学的腐食、④振動などによる摩擦損傷、⑤海水中の化学成分による配管腐食、などである。しかし、これらについて検査が行われたとは九電の報告書には何の記載もなく、行われなかったと判断される。
 それにもかかわらず、九電は応急的措置だけで、その他原因による可能性も明らかなのに、稼働を強行した。最低でも、川内原発の稼働を止めて、8万本の復水器全配管を点検しなければならなかった。また、復水器細管の劣化が見られるということは、蒸気発生器の細管についても劣化の危険性があり、これも再点検するのが当然だった。


 

九州電力の報告書に見るトラブルのあった箇所


  2.原子力規制委員会の容認姿勢

 さらに問題なのは、原子力規制委員会がこのような場当たり的対応を容認していることだ。原子力規制庁の担当者は、稼働を止めて徹底した検査を行うように要求した市民団体に対して、「復水器は、発電上重要な施設だが、安全上重要な施設ではない」と言って拒否したと伝えられている。
 これは、原子炉の「安全」というものを「正常運転」時の状態としてしか考えない、まったくの倒錯した思考である。
 誰が考えてもわかるとおり、①停電や津波などにより海水ポンプが停止してしまう事態が生じれば、冷却・復水が行われなくなる。原子炉冷却の最終段が停止してしまう。②そうすると、復水器内の圧力は、タービンから流れて来る蒸気によって一気に上昇する。復水器内の圧力は、海水による冷却が行われるという条件の下で、またその条件下でだけ、非常に低く保たれている。③その条件がなくなれば、復水器内の圧力は、加圧ポンプの圧力である最大およそ58気圧に向かって、急速に上昇していく。④九電の説明どおり、ドレン口からの排水によって穴があく程度に細管が劣化し脆弱化しているとすれば、この復水器内の圧力上昇の結果、海水の通る細管が破断するであろうことは容易に想像できる。そうすれば、2次冷却水が破断部を通って海水へと大量に漏れ出す事態が生じるであろう。⑤最悪の場合、これによって2次系の圧力が低下し、1次系の加圧154気圧程度が、厚さわずか1ミリ余程度しかない蒸気発生器細管にかかることになる。細管は破断し、高い放射能を含む1次冷却水が2次系に漏れ出す事態が引き起こされるであろう。⑥これにより1次冷却水による原子炉の冷却が不備あるいは不能になり、メルトダウンという重大な事態に陥りかねないことは、誰が見ても明らかだ。付言すれば、2号機はこの蒸気発生器細管の劣化が明らかであり、取り換えが予定されていたものを先伸ばしにして再稼働しており、危険性はさらに高い。

  3.関西電力高浜原発4号機再稼働時の一次冷却水漏れ

 関西電力の高浜原発4号機のトラブルは、さらに深刻である。関電の報告書によると、2016年2月20日、「1次冷却材系統の昇温に向け化学体積制御系統の水をホウ素熱再生系統に通水したところ、『1次系床ドレン注意』警報が発信した」という。3分後に通水を停止したが、その間に34リットルの一次冷却水が漏れ出したとされている。原因について関電は、弁の一つで「一部のボルトの締め付け圧が低い状態であったため」と推定し、「当該弁のダイヤフラムシートを新品に取替えるとともに、当該弁をはじめ、1次系冷却水が流れる系統の同種の弁(弁駆動軸が水平方向の弁)について、適正に締め付けられていることを確認」したとして、予定通り再稼働を強行した。


    水漏れのあったところ(関西電力の報告書より)
 

ボルトが規定トルクで締め付けられていなかったことを示す関西電力の報告書

 ここで重要な点は、漏れ出したのが炉心のメルトダウンにもつながりかねない一次冷却水である点である。しかも漏水の速度も、3分間で34リットルとされており、日量にすると16.3トンで決して僅少とはいえない。関電の報告書では、そのような重要な配管であるにもかかわらす、2008年8月の定期検査以降、すなわち8年間近くも、弁のボルトの点検や増し締めが行われていなかったとなっている。しかもその理由として「現場が狭隘な場所で一部のボルトに適正なトルクがかからなかった」としているが、言い訳にすぎない。
 報告書には、水漏れの後「系統を隔離して加圧したところ」「弁(CS-043B)の弁箱とダイヤフラムシートの間から漏えいが認められた」と書かれており、加圧検査が可能であり、再起動前に検査を行おうと思えばできたことを示している。すなわち、4年以上稼働していなかった原子炉を今回再起動する際に、きわめて「常識的」な手順である基本的な安全確認、すなわちボルトが規定のトルクで締め付けられていることの確認(増し締め)がなされていなかったという事実を示している。
 念のため、機械メーカーで高圧ポンプの製造に従事していたこともある技術スタッフの一人にこの件を確認したところ、やはり、次のような回答であった。
①高圧の弁のボルトの点検(増し締め)や配管の点検は、毎年実施するのが普通である(たとえば「高圧ガス保安法」では1年に1回以上の定期検査が義務づけられ、弁については、内部の腐食状況の確認・整備、グランドパッキン[軸封部]の状況の検査など点検事項が決められている)。
②4年以上動いていなかった装置を動かす際には、高圧部のバルブのボルトの点検(増し締め)するのが常識的だと思う。
③8年も点検やグランドパッキンおよびシールなどの交換をしないままに稼働するというのは(コスト削減のためであろうが)、自分の経験からは考えられない。
 このことからも、関電の対応は、現場からは「安全無視」「常識はずれ」というほかないであろう。付言すれば、水漏れのようなトラブルは、原発以外のいろいろな他のプラントでもよく起こるが、このような何でもないように見えるトラブルが、炉心溶融を含む重大事故に導く危険を内包していることが原発の避けがたい特質なのである。
 さらに私の経験から付言すると、高浜原発は稼働から30年以上を経過した古いプラントであるので、装置の制御盤、制御器、分電盤に付いている、いろいろな配線を接続している端子台のネジも、接触不良になって誤動作などのトラブルが生じるのを避けるため、定期的に増し締めする手順になっているはずである。推測の域を出ないが、高浜原発で高圧弁のボルトの点検と増し締めがなされていなかったという関電の報告書からは、関電ではこの基本的な手順も遵守されていなかった可能性も出てくる。制御系全体のデジタル化は行われていないようなので、端子台の接点数はきわめて多く、原発全体ではおそらく数十万もしかしたら数百万点にもなるであろうから、増し締めのためには大きな労力を要する。これはまったく「原始的なこと」と思われるかもしれないが、非常に重要な基本手順である。これが遵守されないと(たとえばコスト削減などのために)、端子台の接続部での電気的な接触不良の恐れがあり、完全に電気的に切れてしまえばまだしも分かりやすいので傷が浅いのだが、つながっていて時たま切れたり、信号にノイズが乗ったり、信号が化けたりすると とんでもない誤動作やトラブルになる可能性がある。高浜原発の場合、高圧配管のボルトの増し締めがされていなかったことからして、もしもこの配線の増し締めもきちんと実施されていないとすると、同原発は制御信号やデータの通信系統が非常に不安定な状態になっている可能性がある。
 漏水して溜まっていた水(8リットル)からは、約1万4000ベクレルの放射能が検出された(漏水の総量34リットルでは約48万ベクレル)。関電は、これが「国のトラブル事象の基準値(3.7×10Bq)に比べ、200分の1以下の値」であるとして、問題がないと示唆しているが、原子炉が稼働中であれば、今回のような、一次冷却水からリチウムやセシウムなどを取り除く装置での漏水は、深刻な汚染をもたらしたであろう。もちろん、稼働中の原発ではこの程度の汚染水漏れはしばしば生じており、取り立てて問題にするには当たらないという見解もありうるが、それが人々の注目が集まる原発起動時に起こり、しかももみ消したり隠蔽したりできなかったという事実こそ、現在進行中の再稼働の危険性を如実に示している。

  4.高浜4号機の送電線接続トラブルと原子炉緊急停止

 同4号機は、2月29日、送電線に接続するスイッチを入れるとすぐ、警報が鳴り、原子炉が自動的に緊急停止した。このトラブルについて関電は、3月9日に、原子力規制委員会に報告を送り、「発電機と変圧器の故障検出を受けて発電機を送電系統から切り離す信号を出す継電器(リレー)」の設定値が、同継電器の「運用の変更」を「考慮した設定値としていなかった」ため、継電器が作動して送電線への接続を切断し、「発電機が自動停止するとともに、タービンおよび原子炉が自動停止した」とした。また同報告書は、同継電器について「プラント状況を踏まえた影響評価」も「過渡的変化に伴う電流値の評価」も行われていなかったことを認めた。


今回のトラブルについての関電の説明の図

 対策として関電は、設定値を現行の主変圧器の定格電流の30%から90%に上げ、このリレーが作動する領域を大きく減らしたとした。要するにブレーカーが働かないようにブレーカーの容量を高めたというわけだ。
 ただ、報告書によれば「過去に他のプラントで当該リレーに該当するリレーを発電機内部故障の検出の代替として(今回と同じように)運用し、並列操作(送電網への接続)を行った実績があること、発電機の出力に対して設定値に余裕があることから、設定値の変更は必要ないと判断していた」とされており、なぜ今回リレーが作動したかは明らかになっていない。
 この点について、工場の電力部門で長年働いてこられた電力技術者に確認したが、安全リレーの作動した根本原因を明らかにすることなく、設定値だけを変更してそれで問題が解決したかのように評価するのは、安全上重大な問題をはらんでいるという見解であった。また、設定値を定格電流の90%にまで高めた場合、保護リレーが作動する際に、発電機を含めて他の機器にも何らかの悪影響が及ぶ可能性も完全には否定できないという。また同氏によれば、いずれにしろ、ここでも最大の問題は、保護リレーという安全上重要な機器の一つが、まったくチェックされることなく原発の再起動が行われた事実にあるということであった。
 関電の「杜撰さ」の程度は法外なレベルにあるというほかない。関電報告書は「対策」という項目に、これから行う措置を列挙しているが、裏返せば、これらは今まで実行されてこなかったのである。列挙してみよう。「過渡変化(送電網への接続)時を含めた定量的な電流評価」「過渡電流検討のチェックシートの活用」「過渡変化時の潮流(逆電流)に関する社員教育」「メーカーで実施する対策の実施状況の確認」「設備の追加・取替・撤去を行った工事での保護リレー、水位計、警報等の設定値等の変更の妥当性の確認」――これらがすべて行われることなく原発の再稼働が進められてきたということは、恐るべき事実である。驚くべきことに関電の規制委員会への報告書自身がそれを認めているのである。規制委員会もまた、そのような関電側の杜撰な安全管理体制をチェックしないまま再稼働を承認してきたのである。
 NHKニュースによると、原子力規制委員会の田中俊一委員長は3月2日の記者会見で、「電力会社にはトラブルのないように再稼働を進めることが社会の信頼につながると言ってきたが、信頼を裏切るようなことが起き、うまくいっていないことについて極めて遺憾に思う。詳しい中身が分からないので、今後報告を受けて対応を判断したい」と述べたという。まるで他人事のような見解であり、安全上のトラブルに対しまったく責任を負わない規制委員会の本質をよく表している。
 幸い、高浜原発は、稼働していた3号機も、大津地裁の運転差し止めの仮処分によって停止された。だが、上記のような原発の現場における安全規律の、文字通り恐るべき状況は何ら変わっていない。

  5.たるみきった電力会社の安全規律

 確かに、プラント保守の専門家によれば、3件のトラブルはどれも一般的な化学プラントではよくあることである。もちろん現場ではこれをなくすために様々な努力をしているが、ゼロにすることはできない。設備故障の分析では一般的に「保全計画漏れ」「保全工事ミス」「施工不良」「設計ミス」などがあるが、一番多いのは最初の2つである。これをゼロにする方策など存在しない。泥臭い保全管理しかない。本質的問題は、こうしたトラブルが一歩間違えば、放射能放出というシビアアクシデントにつながるという原発の本質的危険性にあるという。
 原発がこのような危険性をはらんでいることは、福島原発の苛酷事故を経験した今となっては、原発を再稼働した電力会社も分かっているはずである。上記の起動時のトラブルとそれへの電力会社の対応の仕方という事実だけからも明らかなのは、このような重大な危険性をはらむ原発の再稼働に当たって、原発を再稼働した電力会社が再稼働の作業過程において、原発のもつこの固有の危険性に対応する特別の配慮や慎重さを示しているとは考えられず、反対に原発の安全に対して無頓着や軽視・無視を表していると評価されても仕方のないやり方をしているということである。
 端的に言えば、必要不可欠な「泥臭い保全管理」がないがしろにされ安全規律が「たるみきっている」ということである。また、原子力規制委員会や規制当局が電力会社のこのような安全確認上の規律違反をチェックせず、それどころか川内原発のようにそれが明らかになった場合でも強くとがめることなく、それらを容認して、安全よりもともかく急いで再稼働するという電力会社の姿勢を追認していることである。他の電力会社でも事情は同じであろうと考えるのが当然である。
 もちろん、電力会社が「たるみきっていない」場合でも、原発は危険であり、重大事故は不可避である。だが稼働する電力会社が「たるみきって」いれば、重大事故の危険性は、倍加し桁違いに大きいものになる。今進んでいる再稼働の過程は、まさにこの倍加し桁違いに高まった事故の危険性である。
 上に挙げた事実からだけでも、再稼働したあるいは再稼働しようとしている原発が重大事故がさし迫った危険きわまりない状態にあること、さらに電力会社の安全意識や安全管理体制が劣化し、退廃し、たるみきっている九電や関電などには(「もんじゅ」についての規制委員会の判断と同様に)原発を再稼働する資格などないこと――これらは誰の目にも明らかである。にもかかわらず、政府も規制当局は容認的態度をとって、安全よりもともかく再稼働する方針を進めているのである。現在の再稼働政策は、原発の持つ本質的危険性一般を桁違いに上回る「恐るべき」危険性を抱えたまま強行的に進められようとしているといわざるをえない。
 日本経済新聞は、大津地裁の高浜原発差し止め決定について、「疑問」としながらも、「関電や国が重く受け止めるべき点も多い。高浜4号機は2月末に再稼働したが、直後に緊急停止した。大津地裁が指摘したように、関電は安全確保に厳しく向き合っているのか、心配だ」(2016年3月13日付)と書かざるをえなかった。十分な根拠と裏付けがなければ、財界中枢の利害を代表すると考えられる日経新聞が、日本有数の巨大電力企業の一角を占める関電について、原発の「安全確保に厳しく向き合っていない」とはっきり示唆するようなことを書くはずがない。その程度に電力会社の安全規律の劣化・退廃は深刻なのであると考えなければならない。
 上記のトラブルがあった原発はすべて、原子力規制委員会の安全審査に合格して、再稼働の許可が出たものである。安倍首相が「世界一厳しい安全基準」と自画自賛する基準は、日本財界を代表する新聞にさえ「心配だ」と感じさせるほど危険なものというほかない。
 日本の原発規制当局の杜撰さは、原発内の電気ケーブルの不正敷設に対する対応の中にも端的に表れている。防火対策上、非常系配線と一般配線を分けて配置すべきなのは当然であるが、多くの原発においてこの基準が遵守されていない。ジャーナリストの守田敏也氏によれば、「これは1975年に決められた基準への違反であり、新規制基準どころか、旧規制基準をも通らない不正である。40年間まかり通っていた不正である。このため原子力規制庁は、日本中の全原発の再点検を電力会社に要望したが、なんと新規制基準に合格した川内原発と高浜原発だけはこの点検から除外し、そのまま再稼働を強行させてしまった。この点も重大な懸念事項だ」という。
 原発の安全や事故に対する政府・電力会社の基本的な考え方そのものが変化している。「事故は起こらない」から「事故は起きてもよい」へと、「安全神話」から「確率論的事故容認論」へとシフトしている。たとえば経産省の「2030年度電源構成」では事実上22年程度に1度福島クラス事故が想定されている。これに対応して、原発をもつ電力会社の再稼働の現場で何が起こっているかに、われわれは注目しなければならない。

  6.まとめ

 問題は福島だけではない。政府は、福島クラスの事故が再発し繰り返されることをいわば前提にして、全国で原発の再稼働を進めている。老朽原発を耐用年数とされる40年を超えて60年、さらは80年まで使い続けようとしている。福島原発のように事故が起こって使えなくなるまで残存する原発を動かそうとしている。つまり、これまた10年から数10年で「確率的に」繰り返される原発事故によって、日本全土が放射能で汚染されるまで、使い続けようとしている。もはやこれは自滅的な原発特攻・玉砕政策である。そして事故が起これば、福島で実施されている住民被曝強要政策、したがってその結果としての確率的大量殺戮もまた各地で繰り返され積み上がっていくことになる。核収容所列島における自国民に対する隠された静かな放射線ジェノサイド以外の何ものでもない。われわれはこのことを心しておかなければならない。