記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関して 山田耕作

2017年7月


記事の紹介
A.週刊金曜日6月30日号で「福島・放射能汚染で早野論文に重大な疑義」
B.ガラスバッジに関してに関してはこれまでも以下の批判があった

山田耕作
2017年7月5日
(改定2017年7月16日)



〖ここからダウンロードできます〗
記事の紹介[A.週刊金曜日6月30日号][B.ガラスバッジに関して](pdf,4ページ,145KB)

記事の紹介
    
A.週刊金曜日6月30日号で
「福島・放射能汚染で早野論文に重大な疑義」


ということで黒川眞一氏に対するインタビューがp31に出ています。
黒川氏は高エネルギー加速器研究機構名誉教授で早野龍五東大名誉教授の先輩だそうです。早野氏は東大物理学教室で宮下精二氏とも親しく、私が日本物理学会誌の「会員の声」欄に福島原発による放射線被曝について投稿した時は、早野氏達の論文を参照するよう当時の宮下物理学会誌編集長からコメントがありました。
 早野氏の福島事故関連の放射線測定に関しては以前から矢ケ崎克馬氏が批判されていました。
 今回問題になっている論文は以下です。
 Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5-51 months after the Fukushima NPP Accident (series): I Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys
 (2016 J. Radiat. Prot. 37 1)
 Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1/pdf

週刊金曜日では黒川氏は早野氏に関して次の点を批判しています。
1.気象研究所の敷地内の1957年から2011年までの(原発事故までの)セシウム137の降下量は全部合わせても7000ベクレル/平方メートル(m2)ほどで事故直前は2000ベクレル/m2まで減衰した。福島原発事故が起きた2011年3月には一気に2万3000ベクレル/m2に増えた。それなのに早野氏は「心配するレベルではない」といっている。
 (この点に関して、以下の「環境における人工放射能の研究」を参照していただきたい。
http://www.mri-jma.go.jp/Dep/ap/ap4lab/recent/ge_report/2015Artifi_Radio_report/2015Artifi_Radio_report.pdf
特に表紙の図を見れば黒川氏の批判が当然であると理解されよう。)

2.福島原発事故後の2011年の福島県産のコメの放射能汚染度について土の汚染度と比例関係がないといっているが、対数表示のグラフにすると土の汚染度が高いとコメの汚染度も高い関係がはっきり見られる。

3.宮崎・早野論文は伊達市の市民に持たせたガラスバッジで測定した外部被ばく線量と、航空機モニタリング調査で測定した空間線量は比例関係にあり、その係数は0.15倍で国が示していた0.6倍よりも住民の被曝量は4倍少ないと主張している。しかし、黒川氏は「論文中に書かれている『この研究は個人の線量は周辺の線量に0.15±0.03をかけ合わせたものであることを示す』という宮崎・早野氏の主張は明白な誤りです。私が検証したところ、70%の住民の被曝線量はこの範囲外にあります。分析が十分に行われていない論文の結論として出された0.15倍という数字が独り歩きし、大きな被曝をしている人が切り捨てられることを憂慮しています」と述べている。
 ガラスバッジを公衆に持たせるという無理な測定による信頼性のないものである。本来、ガラスバッジは放射線管理区域で使用するものでバックグラウンドの値をコントロールバッジで測っている。しかし、伊達市の測定は根拠もなく、平均でバックグラウンドとして年間0.54ミリシーベルト(mSv)をひくことになっており、被曝ゼロの人が多く出ている地域もあり、バックグラウンドの引きすぎを強く示唆する。(山田の意見として、空間線量はバックグラウンドとして0.04マイクロシーベルト(μSv)/h=0.35mSv/yを引いているようである。これは0.06μSv/h=0.53 mSv/yより低い。 この操作は空間線量より住民の被曝線量が低くなるように作用する。)

4.線源が決まっている管理区域は「前方照射条件」が該当するが、汚染地での一般での測定は照射の方向が決まらず「回転照射条件」となる。しかし、個人線量計の校正は「前方照射条件」でなされる。

5.例えば、論文では空間線量が毎時0.45マイクロシーベルトの区間では、その区間に属する1700人の99%以上の人が被曝線量ゼロとなっている。この点に考察を加えていないのは科学論文としてずさんと言わざるを得ない。

6.安全のためには平均で議論するのではなく、もっとも多く被曝する人を守らなければならない。

7.国は遮蔽を考慮したとして、住民の被曝線量は空間線量の0.6倍としているが、本来、安全性の点からも外部空間線量そのままを取り1とすべきものである。

以上のように宮崎・早野論文は残念ながら科学的でない。

 それ以前の2017年5月29日に黒川眞一氏は朝日新聞のWeb Ronza
http://webronza.asahi.com/science/articles/2017051000005.html)にも
「被災地の被曝線量を過小評価してはならない」を寄稿して、早野氏達を批判している。

 
 
B.ガラスバッジに関してはこれまでも以下の批判があった

1.『福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り』(旬報社2014年)の第1章で松崎道幸氏が個人線量計:内部被曝測れず、外部被曝も大幅割引
P32 「ガラスバッジでは、体が受けている放射線量のおそらく10%程度しか測れないと考えられます」と警告している。まさに宮崎・早野論文は過小評価になる値を15%であることを示した例に相当すると思われる。つまり、明らかに機器の欠陥から過小に測定されたガラスバッジの値をあたかも住民の現実の外部被曝量として、被曝被害が少ないことを証明した科学論文とするところが問題である。

2.『放射線被ばくの争点』(緑風出版、2016年)渡辺・遠藤・山田著
P195 「福島で個人線量を測定するために広く使われているガラスバッジが、前方からの照射を前提としているため、福島におけるような全方向照射という条件下では線量を3〜4割低めに検出する。この事実はガラスバッジの製造業者である(株)千代田テクノルが伊達市議会の議員研修会で公式に説明した」。
宮崎・早野両氏も同社のガラスバッジを使用し、同社のある茨城県の大洗町で測った値0.54mSvを一律にバックグラウンドとしているのである。本当のバックグラウンドの値はそれぞれの位置・時期で異なる。

3.福島市に住む長沢卓氏からの報告
「ガラスバッジによる被曝線量の評価については、2通りの立場がある。(A)ガラスバッジによる測定値は「実測値」、これが正しい・実際の値である。避難場所からの帰還にあたっては、この値を参考にすべきである。(B)ガラスバッジは、放射線(ガンマ線)の感知にあたって指向性があり、必ずしも全方向からのそれを受け取っているのではない。従って、被曝線量を小さく測定してしまう」。この問題意識で、屋外で携帯したガラスバッジと屋内で定置したそれとで線量を測定した。
「結果は予想に反して、「携帯の測定値」<「屋内の測定値」だった。何故?
一般的に屋外の空間線量は、屋内のそれに比べ、高い。だから屋外に持ち出す「携帯」の測定値の方が大きくなると思った。しかし、結果は逆。その理由は、携帯の場合は測定器を首から胸前に下げるので、身体による遮蔽のため測定器が受ける放射線が小さくなるためだろう(B見解)。屋内外の空間線量の差と遮蔽量の大小を定量的に確かめてはいないが」。
この証言はガラスバッジによる測定の指向性と信頼できる測定の困難さをよく示している。

4.山田の批判
 先ず第一の問題点は、宮崎・早野論文の(1)式は統計学ではよく知られた誤りであるということである。率を平均しているからである。それぞれの個人のバッジの線量の空間線量に対する比は和をとって平均することができない量だからである。バッジの平均値を空間線量の平均値で割ったものが正しいバッジの線量と空間線量の平均値の比である。それを宮崎・早野論文では個々のガラスバッジの数値の個々の空間線量に対する比率ciを平均している。この時、ciの和は意味を持たない。正しくは個々人のバッジの線量の和を個々人の空間線量の和で割らなければならない。
誤りをわかりやすくするために次の例で示す。

空間線量0.001mSvが999人、その個々人のガラスバッジが全て0とする。(ガラスバッジの測定下限は0.1mSv)
空間線量1mSvが1人、そのバッジが1mSvとする。
宮崎・早野ではciが0が999人、1が1人,平均は1÷1000でcの平均は0.001
 一方、空間線量による集団被曝線量は0.001mSvが999人で0.999mSv・人、これに1mSv・人を足して空間線量による集団線量の合計は1.999mSv・人、ガラスバッジの集団線量の合計は1mSv・人なので1÷1.999=0.5となる。平均の、「ガラスバッジ線量の空間線量に対する比」cは0.5となる。
 この極端な例では0.5÷0.001=500。つまり、宮崎・早野論文の(1)式で計算すると ガラスバッジは正しい平均に比べ500倍過小評価になる。


謝辞
多くの方々に議論していただきました。感謝します。特に高木伸、荻野晃也、片岡光男、長沢卓、小柴信子、渡辺悦司の各氏にお世話になりました。

| 1/1PAGES |

 
 
 
※本ブログではコメントの
 受付はしておりません。
 

本サイト内検索

新着記事

記事分類

過去記事

リンク

profile

others

mobile

qrcode