復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判   山田耕作、渡辺悦司

2018年02月


復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判
――こんな安全宣伝を政府がやって生命の危険にさらしてよいのか

山田耕作、渡辺悦司 2018年2月12日




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復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判(pdf,44ページ,1466KB)


 はじめに

 復興庁「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」による「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」とそれに基づく「復興大臣からの指示事項」が、昨年末(2017年12月12日)に公表された。主な内容は、①福島原発事故の放射線量では外部被曝・内部被曝とも「健康に影響の及ぶ数値ではない」、②放射線被曝により「遺伝性影響が出ることはない」、③100〜200mSvの被曝は「野菜不足や高塩分食品摂取」程度のリスクにすぎない、④福島県内の放射線量(空間線量率)は「大幅に低下」して「全国の主要都市とほぼ同水準」であるので、福島への修学旅行・教育旅行を広く実施するよう文科省・教師・旅行業者に要請、⑤福島県産の食品は「安全性が確保」されており、学校給食で使うよう要請する方針を示唆、⑥空間線量に乗算している現行の家屋遮蔽係数0.6は「3倍過大」であり0.2に引き下げるべき、⑦「健康影響は未だ結論が出ていない」というような「曖昧な表現」は「いたずらに不安を煽る」ので「シンプルに発信する」(要するに影響は「ない」とだけたたき込む放射線教育を実施する)、等々である。
 われわれは、かねてより、福島原発事故をめぐって放射能による健康被害が「ある」か「ない」かが、政府・専門家との論争の基本的な対決点であるという点を強調してきた(『放射線被曝の争点』緑風出版[2016年])。また、時間の経過と共に放射線による広範な健康被害が表面化し、避難者や被害者の闘争が進むにつれて、ますますこの根本問題が前面に出てくるであろうと主張してきた。
 2013年9月7日の安倍首相の発言(「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くない」)から始まり、2014年12月22日の「中間取りまとめ」によって公式に政府方針として決定された福島原発事故による健康被害の全否定論あるいは被曝ゼロリスク論は、最近、一段の露骨化と暴論化を遂げている。
 昨年2017年9月1日に発表された日本学術会議の『子ども放射線被ばくの影響と今後の課題』報告書は、子どもの放射線感受性が2〜3倍高いことを認めた上で、それでもなお、子どもも含めて健康影響は一切「ない」と強弁し、さらには、年間20mSvの基準を、全国に拡大して子どもや妊婦を含めて適用しても何の問題もないという方向性を提起した。
 昨年12月12日、ここで検討する復興庁の「風評払拭」文書が出され、政府のやり方はさらに露骨になった。「確認されていない」「結論が出ていない」というような「曖昧な表現」はかえって「不安を煽る」、だからはっきりと「ない」と断言し、影響が「ある」という見解は全て「風評」であると決めつけるようにという方針が、政府文書および大臣指示として、すべての関係省庁に対して指示された。
 健康被害ゼロ論には、元々、2つの要素――①安倍首相のような確信犯的断定論と②「分からない」「確認できない」「証明できない」という不可知論――が混在していたが、今や②を排して①で徹底しようというわけである。②については、国連決議やEU条約など国際的に、「予防原則」によって「防護」の方向で対処するべきであると方向付けられているからである。
 しかも、政府は、その際、福島への修学旅行・教育旅行を全国的規模で組織することや、全国の学校給食に福島県産農林水産物・食品を広範囲に利用することなど、子どもを利用して、つまり子どもを被曝の犠牲にして、放射能「安全・安心」宣伝を行おうとしている。
 では、なぜ政府はこのような正気とも思われない主張をするのであろうか?それは単純である。政府が窮地に立たされているということである。
 まず、表向きには、東京オリンピックを前にして、日本政府には、国内的にも国際的にも、福島事故放射能の影響は何の問題も「ない」ように取り繕わなければならない事情がある。オリンピックまでに避難区域を全て解消して、復興を演出しなければならない。
 経済財政的には、健康被害が「ある」ということになると、政府と事故を起こした東電は、巨額の(100兆円ともいわれる)賠償を長期にわたって負担しなければならなくなる。
 それだけではない。仮に放射能による健康被害が「ある」ということになれば、被害の程度や範囲や規模が問題になり、チェルノブイリ事故や核実験の人的被害との比較において、それが極めて大きく数十から数百万人規模ということにならざるをえない(付論参照)。福島級事故の再発をいわば前提とした原発の大規模再稼働やましてや原発輸出などは、極めて困難か不可能に近くなるであろう。詰まるところ政府は、原発を止めないために、国民と子どもたちを被曝の犠牲に供さなければならなくなっているわけである。
 さらに、アメリカは朝鮮半島やその他の諸地域において核戦争を準備しているが、そのような計画への日本の協力にも障害となるであろう。日本の独自核武装の野望にも影響が出ることも避けられない。
 だが、最大の要因は、健康危機が現実に顕在化する中で、政府自体が陥っている深刻な動揺と考えるべきであろう。復興庁文書の一種の異常性が示すのは、政府・政府側専門家・原発推進勢力の自信ではなく危機感・焦燥感である。同文書自体が「国民一般に対して放射線に関する正しい知識」が「十分に周知されていなかった」と「反省」しているように、国民の多くは政府や専門家の唱える放射線被害ゼロ論を信じてはいない。近年になって、多くの人々が、福島だけでなく東京・関東圏から、自分や子どもや家族に現実に生じている健康被害に直面して、放射線影響を疑い、それを避けるために関西圏や中国地方・九州・北海道などに、さらには台湾やオーストラリア・ニュージーランドなど海外に、新たに避難している。放射線影響は、多くの被支配・被搾取人民だけではなく、支配し搾取しそれらの成果を日々享受し満たされた生活をしている支配階級もまた無差別に襲っている。多くの有名人たちの早死が目立っているだけではない。元の復興副大臣や環境政務官など福島事故・復興関連の政府高官の立て続けの早死は、あまりにも示唆的である。
 これらの事情から、露骨な虚偽であろうが嘘であろうが、何としても健康被害の「一切」を「ない」ことにし、影響が「ある」という見解に主要な攻撃の矛先を向け、多くの場合「確率的」に生じるであろう被害者には、放射線影響では「ない」と信じさせて静かに従容として病気と死へと導くという政府の対応が出て来ているのである。
 われわれのささやかな論考が、国民を欺し愚弄し、結果として次々と高い線量を被曝させ、人々にそれによる体調不良や病気や死を強要していくという「集団自殺的」な政府の政策方針について警告し批判し反対していく上で、一助となればと考える。


復興大臣からの指示事項(要旨)
平成29年(2017年)12月12日
復興庁

http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/fuhyou/20171212_03_daijin-siji.pdf

これまで国民一般に対して、放射線に関する正しい知識や食品中の放射性物質に関する検査結果等が必ずしも十分に周知されていなかったとの反省に立ち、「知ってもらう」、「食べてもらう」、「来てもらう」の観点から、伝えるべき対象、伝えるべき内容、発信の工夫について、具体的に示した「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を取りまとめた。(中略)
以下、主な施策について、指示する。
1.知ってもらう
(1)放射線の基本的事項や健康影響、食品及び飲料水の安全性等について、本戦略に基づいて、パンフレット、放射線副読本等の見直しを行う(中略)
(2)特に放射線教育については、副読本の作成にとどまらず、実際に児童生徒や教師、保護者等にも伝わる「仕組み」作りを併せて行うこと。
2.食べてもらう(中略)
3.来てもらう(以下省略)。


1.要旨批判
 上の指示要旨を見ると「国民一般に対して、放射線に関する正しい知識や食品中の放射性物質に関する検査結果等が必ずしも十分に周知されていなかったとの反省に立ち、知ってもらう、食べてもらう、来てもらう」ための戦略であることが分かる。つまり、放射線に関する「正しい」知識と検査結果を周知させるための戦略であるという。ところがここで根本問題は「正しい」知識と検査結果の内容である。安倍首相をはじめ政府は被曝による一切の人的被害を認めていない。人的被害が「ある」という見解は全て「風評」であるという立場である。それに対して、被害の訴えや様々な疑問や批判が現実にあるのだから、政府はそれらを「風評」とする科学的根拠を明確にする責任がある。
 しかし、この「強化戦略」は科学的判断を註に回して、恣意的な引用が多く、小児甲状腺がんの発症率や周産期死亡率の増加など明らかな事実さえ否定している。福島原発事故から7年近く経った現在、依然として事故は収束せず、放射性物質の大気と海中への放出が続いている。政府は国民を被曝の危険から守らなければならない。にもかかわらず、福島原発事故による放射線被曝の危険性を警告もせず、隠蔽し、安全を口先で説くことによって解決しようとしている。そのため、政府が先頭に立ってデマ宣伝をしていることになっている。このことによって政府は国民を被曝による健康破壊と生命の危機にさらしている。絶対に考慮すべきことは放射線に対する感受性の個人差である。人権に基づいて放射線感受性の高いすなわち放射線に弱い人々(胎児・乳幼児・子ども、若者、女性、DNA修復遺伝子変異を持つ人々など)を含めて全ての人の生命と健康を放射線被曝から守らなければならない。
 「強化戦略」のもう一つの特徴は、子どもを使った卑劣とも言わざるを得ないやり方である。①児童生徒に対する、被曝被害は一切「ない」とする放射線教育、②福島県への修学旅行の奨励、③福島県産の農水産物や食品の給食での利用などが目玉である。こうして、2017年9月の日本学術会議の子ども被ばく報告書の示す路線――子どもは放射線感受性が平均の2〜3倍は高いが、それでも年間20ミリシーベルトの基準を適用しても何の問題も被害もない――を行政的に実行に移し、児童生徒の広範囲の放射線被曝を進めていこうとしている。しかも、政府のいう被曝量は、家屋遮蔽係数の0.6が掛けられた数値なので、年間20ミリシーベルトは事実上はおよそ年間33ミリシーベルトである。国民の将来を担う子どもたちを被曝から護るのではなく、被曝しても安全というマインドコントロールを行い、「復興」という名目で被曝を推奨し、児童生徒に対する被曝行為を行政的に組織することは、この点だけから言っても、極めて危険な、いわば日本国民全体を放射線で衰微させ民族滅亡に向かって進めるに等しい自滅的な政策である。
 以上が要旨の批判であるが次に本文を検討する。

2.復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判
 本文は以下にある1)
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/fuhyou/20171212_01_kyoukasenryaku.pdf

はじめに

 復興庁が中心になって2017年12月12日に「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を発表した(「強化戦略」と略記)。この「強化戦略」は、科学的粉飾による嘘とごまかしと歪曲で持って、100~200ミリシーベルトの被曝の発がんリスクの増加は、野菜不足や高塩分摂取による発がんリスクの増加に相当するものとして、再度安全神話を作り上げ強制帰還政策を正当化しようとするものである。これを国内外に向けて発信し、2020年東京オリンピックは安全であるとする意図が隠されているようである。日本国民のみならず世界を騙そうとする戦略である。参考文献なども自分に都合のいいものだけを引用し、科学的根拠を示そうとしている。結論が誤っているのであるから、根拠という文献も信頼性のないものである。「強化戦略」とは、被曝の危険性の指摘を風評と決めつけ、コミュニケーションという情報操作で科学的に安全でないものを「安全」と偽るための戦略である。
 原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォースによる文書を太字として枠内に引用する。以下、本文を検討する(括弧内は「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」本文ページ)。

風評の払拭については、これまでの取組により一定の成果を上げているものの、福島県産農林水産物の全国平均価格との乖離や教育旅行をはじめとした観光業の不振など、今もなお風評被害が根強く残っている。(1ページ)

 「農林産物の価格が全国平均より低いこと」「観光の不振」を全て風評被害としているが、これらは科学的根拠のない風評の結果なのか。この文書の異様なところは科学的結論が註で述べられ、コミュニケーションの戦略技術のみを論じるところにある。本質的な問題は註にある科学的結論が信頼できないことであり、それが間違っていることである。そのため、よく知らない人には危険性の指摘が「風評」に見えるかもしれない。しかし、「風評」は、政府が現実の被害や被曝に関する科学的な結論を否定するために恣意的に用いる言葉であり、明確な根拠がない。現実に被害のリスクがあるのであるから、全てを根拠のない「風評」とするのが間違いである。それ故、原因である事実に反する結論を訂正することなしには、いくら宣伝費を使っても解決できない。さらに教育にまで広めようというのであるから、子どもたちにも誤った放射線の知識を教えることになる。そもそも根本的な科学的な問題を註で述べることも政府が科学的検討を軽視し、頭から被害がないと決めつけている結果の反映と思われる。
 例えば、日本政府は通常の食品を1kg当たり100ベクレル(100Bq/kg)の基準で安全とし、この基準が満たされていることを強調すべきであるという。しかし、この基準そのものが問題である。この基準100Bq/kgは、福島原発事故前の放射性廃棄物の処分の基準値であった。いくら非常時といっても高すぎる。この基準以下でも被曝被害の危険があるなら、価値が低下し「平均価格との乖離」があってもやむを得ない。むしろ、被曝の危険のある汚染した農産物・海産物等の食品は日本政府が買い取り、市場から排除することが必要である。政府は食品基準を定めただけでその基準以下であれば安全であることを科学的に証明していない。
 ICRP(国際放射線防護委員会)に基づく内部被曝の評価はファントムというモデルで死んだ抽象的物体として生体の被曝を計算するもので、信頼できない。最近の科学は内部被曝の危険性を明確に示しており、1Bq/kg以下の食品でも体内に放射性セシウムなどが蓄積するので危険であることを証明している2,3)。例えば、チェルノブイリ事故によって広く見られる「長寿命放射性核種取り込み症候群」は内部被曝の危険性として重要である。福島県はじめ東北・関東の汚染地にはホットスポットがあり、空中に放射性微粒子が飛散・浮遊していることが報告されている。肺から放射性微粒子を吸引したり、食品から取り込む危険性がある。それ故、汚染地への旅行・訪問をできれば避けようとするのは賢明な判断である。復興庁の「強化戦略」は科学的な根拠もなく、全てを「風評」と決めつけ、「言われのない偏見や差別」というのである。
 汚染した住宅・農地での被ばくに対する避難者や被災者の苦しみの叫びがある4,5)。また、トモダチ作戦による米兵の被曝など単なる風評とは言えない明白な事実の証言がある。
 さらに『子ども脱被ばく裁判意見陳述集I』(子ども脱被ばく裁判の会編、ママレポ出版局、2017年)にも「国や県の不作為により子供の被ばくを回避してやれなかった親たちの後悔の念と、憤り、そして、子の将来を案ずる愛情が詰まっている」。




このような科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、福島県の現状についての認識が不足してきていることに加え、放射線に関する正しい知識や福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことに主たる原因があると考えられる。このことを国は真摯に反省し、関係府省庁が連携して統一的に周知する必要がある。その際、被災者とのリスクコミュニケーションに加え、この経験を活かしながら、国民一般を対象としたリスクコミュニケーションにも重点を置くこととする。(1ページ)

 「 強化戦略」は放射線被曝の危険性を全て「風評」と決めつけているが、その現状認識が科学的に間違っており、正しく被曝を評価すれば健康破壊の危険があり、現実に人々は被曝被害を訴えているのである4,5)。小児甲状腺がんの罹患率や周産期死亡率は統計的に有意で増加している6,7)。その現実を無視して風評と言い切ることはできない。これではリスクコミュニケーションはリスクではなくデマを伝えることになってしまう。真実は「放射線被曝は危険で被害が出ており、汚染地から避難する」ことが健康被害を防ぐ正しい道なのである。政府は「トモダチ作戦」による米兵の9人の死と延べ400人の被害の訴えも風評と考えるのだろうか。

 国は被災者の思いや置かれた状況を忘れず、「知ってもらい」、「食べてもらい」、「来てもらう」ことによって、国民一人ひとりにその思いを共感してもらうべく、全力を尽くすことが必要である。(1ページ)

 「強化戦略」は汚染した被曝地を「訪問する」、そこで「食べる」ことを奨励する。しかし、それが危険で無謀な行為であることは明らかである。そのことで病気や遺伝的障害が出たとき、復興庁や政府は責任が取れるだろうか。「思いを共感する」だけではなく、「避難を勧め、避難を支援する」ことで人命と健康を守ることこそ政府がなすべき緊急の課題なのである。政府の不当な指示や勧告、援助・賠償の削減という圧力・強制によって、汚染地に帰還させられたり、被災地にとどまり被曝被害を受けた人が現実に多数健康破壊を訴えている4、5)。ぜひ避難者の声を聞いていただきたい。

この際、健康影響への評価については、①放射線はその有無ではなく、量的に考える必要があること、②現在、福島県では放射線の安全性が確保されていること、③世界で最も厳しい水準の放射性物質に関する基準の設定や検査の徹底により、福島県産食品及び飲料水の安全は確保されていること等を発信し、個々人の安心感の醸成にしっかりとつなげていくことに留意する必要がある。(1ページ)

 ①の主張は、放射線に被曝しても量が少なければよい。福島では被曝量が少ないといいたいのである。物事を評価するとき「量と質」を対立させて上記①の主張がされている。正しい思考方法は質的にも量的にも安全でなければならないということである。いくら全量検査といっても設定した基準値の安全性が質・量的に示されなければ意味がない。政府は放射性微粒子を含む内部被曝の定量的な危険性を明示していない。それ故、100Bq /kgの食品基準がどんなに危険かを理解することも、説明することもできないのである。
 「世界で最も厳しい」という主張も嘘だとしか言いようがない。もちろん、食生活が異なるので摂取量を考慮しないと比較できない。だが、例えば「飲料水の安全は確保されている」というが日本の基準は10Bq/kgだが, ウクライナは2Bq/kgである。ウクライナではチェルノブイリ事故以後出生率の低下が止まらず、やっとこのレベルまで水の基準値を下げて止まった。人は2リットルの水を1日に飲むということだが水だけで日本の基準は20Bq/dayのセシウム137の摂取を容認していることになる。これは1年位の長期間ではICRPの計算でも3000Bqが蓄積し、60kgの体重の人なら、体重1kgあたりのセシウム137の蓄積量が50Bq/kgとなり、これは小児の90%に心電図の異常が出る量である。決して安全とは言えない2)。
 ②の「福島県では放射線の安全が確保されている」とはどのような根拠で何を言っているのだろうか。溶融燃料の処理もできず、絶えず放射性物質が大気中や海水中に放出されている。山林は除染されていない。汚染した土壌から放射性微粒子が舞い上がる。小児甲状腺がんは増加しているが原因と対策は明らかになったのか。疑問に答えることをせず、「放射線の安全性が確保されている」と宣言するだけでは住民が納得できないのは当然である。小児甲状腺がんの増加が放射線被曝によるものであることは、発症率に汚染度によって地域差があることからも明確である。やっと福島県県民調査検討委員会も発症率の地域差を報告した7,8)
 質的な面で重要なことは、年齢・性・遺伝子変異などにより、体質的に放射線に弱い人がいることである。復興庁文書はこの事実を全く無視している。
 子どもについては、ICRPでさえも平均の3倍の感受性があること、つまり放射線影響を3倍受けやすく、同一の被曝量でも3倍のリスクとなることを認めている。
 放射線の影響を受けやすい遺伝子変異を持つ人々についていえば、ICRP(国際放射線防護委員会)は人口の1%、ECRR(欧州放射線リスク委員会)は6%の割合と言う。それ故、弱者への配慮もなく、一律に防護基準を決め、「安全」と断定し、「風評」と決めつけることは放射線に過敏な人たちの人権を無視することになる。
 この個人間の放射性感受性の相違は、決してわずかな幅ではない。たとえば、よく使われているエリック・ホール氏らの放射線生物学教科書によれば、ATM遺伝子に変異がある人の放射線感受性は通常の場合の2〜3倍とされている9)。大阪大学医学部の本行忠志氏によれば、個人間の放射線感受性の差は極めて大きく、セシウム137の生物学的半減期で見ると、個人間の差は最大で100倍あるとされている10)

このような問題意識を踏まえ、復興大臣のリーダーシップの下、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」が設置した「風評払拭・リスコミ強化戦略策定プロジェクトチーム」を構成する関係府省庁が、これまでのリスクコミュニケーション対策の総点検を行った上で、有識者の意見を聴取し、専門家の間で共通している最新の科学的知見等を踏まえ、「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を以下のとおりとりまとめた。(2ページ)

 「専門家の間で共通している最新の科学的知見」というが、先の「学術会議2017年9月1日報告:子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」のような間違った報告を利用し、政府は最近の正しい科学的知見を引用していない11,12)。このように「風評払拭強化戦略」は科学的な考察を抜きにして、被害の一切を無視し、政府主導によるリスクコミュ二ケーションという名のデマ的宣伝によって福島原発事故の被害を切り捨て、事故の収束を宣言しようという戦略なのである。これは核武装のためには原発を廃棄できず、危険でも原発を維持し、再稼動をあきらめない原発政策と一体のものである。

供ザ化内容
1.知ってもらう(放射線に関する正しい知識の理解と誤解の払拭)
(2)伝えるべき内容
①放射線の基本的事項及び健康影響
(a)人の身の回りには日常的に放射線が存在し、日常生活において放射線被ばくをゼロにすることはできない。
※人工の放射線と自然の放射線とでは、人体への影響に違いはない。(3ページ)

 人工の放射線と自然の放射線では、放射線としては、違いはないかもしれないが、放射性物質が体に取り込まれたときの危険性が全く異なる。セシウム137など人工の放射性元素は体内に取り込まれると臓器に蓄積する。一方、自然の放射性元素カリウム40はカリウムチャネルを通じて全身を容易に移動し、臓器に蓄積しない。特に人工の元素セシウム137などは放射性微粒子として体内に蓄積し、偏在し、集中的に継続的に放射線を照射し、人体にとって格段に危険である。
 復興庁は1kg当たり、100ベクレルを食品の安全基準としているが臓器への蓄積、放射線に対する感受性の個人差を考慮し、さらに毎日摂取することを考えるとこの基準がとても高いことが分かる。「世界一厳しい」基準というが虚偽の主張である。すでに述べたように、ウクライナでは飲料水は1リットル当たり2ベクレル以下である。日本は10ベクレルである。ウクライナでは主食のパンはキログラム当たり20ベクレルで、日本では主食のコメは100ベクレルである。体重60kgの人が毎日1kgの食品を食べ、100ベクレルを取り込んだとしよう。ICRPの計算に従うと1年位で1万5000ベクレルが蓄積する。これは体重1kg当たり、250ベクレルとなり、バンダジェフスキー博士の研究ではセシウムを臓器に取り込み死亡したベラルーシの人の汚染レベルである2,3)。だから100Bq/kgで安全とは決して言えないのである。
 「日常生活において放射線被ばくをゼロにすることはできない」というのは被曝してもやむを得ないと住民が諦めるようにするためとしか考えられない。人道的で子どもの未来を考える正常な考えなら、日常的に被曝の危険があるのだからいっそう被曝しないよう、汚染の少ない場所や食品による生活を薦めるはずである。 住民や子供の健康を守るべき日本政府が「ゼロにはできない」ことをことさら強調して「被曝やむなし」の世論を広めることは国民の健康を損なう自殺行為ではないのか。避けられない被曝もあるからいっそう人為的事故による被曝を避けるべきなのである。

(c)放射線被ばくをした場合、子供への遺伝性影響が出ることはない。
※原爆での事例を含め多くの調査においても、放射線被ばくに起因するヒトへの遺伝性影響を示す根拠は報告されていない。(3ページ)

 ここでも放射線被ばくの「ヒト」への遺伝的影響を示す根拠はないとしている。しかし、国連科学委員会の2001年報告は、上の文章の後に結論として次のように結んでいる13)。「しかし、植物や動物での実証研究で、放射線は遺伝性影響を誘発することが明確に示されている。ヒトがこの点で例外であることはなさそうである」(『放射線の遺伝的影響』)
http://www.unscear.org/docs/publications/2001/UNSCEAR_2001_Report.pdf#search=%27UNSCARE+2001%27
 「強化戦略」は上記の「しかし(However)」以下を無視して誤解させる結論を導いている。国連科学委員会は人間だけが遺伝的影響を受けないということは非現実的であるといっているのである。
 この点でInge Schmitz-Feuerhake氏らの論文が注目される14)。彼らは低線量放射線被曝の遺伝的影響の文献をしらべた。広島・長崎の原爆被爆者を調べたABCCの遺伝的影響の調査は信頼性がないと結論している。その理由として、線量応答が線形であるという仮定の間違いや、内部被曝の取り扱いの誤りなど4点を指摘している。そしてチェルノブイリの被曝データから新しい先天性奇形に対する相対過剰リスクERRはギリシャなど積算1mSvの低被曝地においては1mSvあたり0.5で、10mSvの高い被曝地では 1mSvあたりERRが0.1に下がるという結果である。おおまかには全ての先天異常を含めて積算線量10mSvにつき相対過剰リスクが1という結論である。積算10mSvで先天異常が2倍になるというのは大変なことである14)。ちなみに、ICRPやUNSCEARなどは、この先天異常が2倍となる線量(「倍加線量」)を1Gy(ほぼ1Sv=1000mSv)としてきた。放射線が先天異常を生じさせるリスクは旧来考えられてきたよりも100倍も高い可能性が出てきたのである。このことだけから言っても、日本政府が年間20mSv地域への避難住民の帰還を進めていることがいかに危険で非人道的な行為であるかは明かである。
 復興庁文書の「放射線被ばくに起因するヒトへの遺伝性影響を示す根拠は報告されていない」というのは虚偽の主張である。前述の学術会議報告自体が、遺伝性影響が「ない」と断言したすぐ後に、それに全く反する形で「臓器の奇形発生」「生後の精神発達遅滞」「小頭症」を遺伝性影響の具体的形態として挙げている(3ページ)。
 欧米で一般的に使われている大学の教科書、リッピンコット『放射線医のための放射線生物学』(英文)を見てみよう。それによれば、広島・長崎の原爆投下の際に母胎内で被爆して出生した被爆者の調査は、小頭症と知的障害(精神発達遅滞)について、放射線影響を明確に認めている。それだけでなく、小頭症についてはしきい値がない(低線量でも発症が被曝量に比例する)可能性が高いことを指摘している(179〜182ページ)。
 同書は、医療被曝した患者の事後研究によって、上の2例に加えて、さらに二分脊椎、両側内反足(足の奇形)、頭蓋骨の形成異常、上肢(腕)奇形、水頭症、頭皮脱毛症、斜視、先天性失明など、放射線影響による多くの先天性異常が報告されていると明確に記載している。

(d)放射線による健康影響は、放射線の「有無」ではなく「量」が問題となる。
※放射線は五感で感じられないが、容易に測定することができる。(3ページ)

 内部被曝を無視しているので「容易に測定できる」と誤解しているのである。先述のように福島原発事故のヨウ素131による被曝もほとんど測定されていない。「容易に測定できる」というがα線やβ線は測定が困難でほとんど測定されていない。

(e)放射線による発がんリスクの増加は、100〜200ミリシーベルトの被ばくをした場合であっても、野菜不足や高塩分食品摂取による発がんリスクの増加に相当する程度である。(4ページ)

 国立がんセンターの報告を引用している。冒頭で質より量が大切といいながら、野菜不足や高塩分というが定量的な議論がなされていない。また、がんセンターの表はおおざっぱで、放射線による発がん率が最近の報告よりかなり低く設定されている。100から200mSvの被曝で 全がんの発症率が8%増であるという。文部科学省による日本の原子力施設の労働者20万人の調査ではがん死が平均13.3mSv の被曝で、全がんで4%増(10mSvで3%増)、肝がん13%増、肺がん8%増である。比率の低い全がん死で見ても100〜200mSvでは30%から60%増である15)。がんセンターの発がんリスクは広島・長崎の瞬間的な被曝によるというが8%の増加であり、かなり低いようである。このようなものと野菜や塩分の過不足を同等に扱うのは乱暴である。
 もし仮に内部被曝と外部被曝が同じとして、ICRPに従って、食品による内部被曝を計算して100mSvになったとして、逆にベクレルに戻してみる。口からの摂取として実効線量係数を用いて計算すると、セシウム137であれば770万ベクレルの被曝になる。後に述べるようにこれは死に至るとんでもない値である。「強化戦略」はこのような致死量と野菜不足や塩分の取り過ぎは同じリスクというのである。
 さらに野菜不足や塩分の取り過ぎは放射線被曝と合わさって複合的に、おそらくは相乗的に発がんリスクを高める。政府の「強化戦略」のように相対比較して、どちらも軽視するのではなく、複合的にがんの発生を高めることを警告し、ともに避けるべきなのである。
 さらに問題がある。この比較は、生活習慣については10年間に対するリスクであり、放射線リスクは生涯期間(成人50年、子ども70年)に対するリスクである。そのまま比較すれば、放射線リスクの大きな過小評価(5分の1以上の過小評価)となるのは、自ずと明らかである。今回の文書では、註で、リスク期間がすぐには分からない文献を挙げるという手の込んだ操作がなされている。だが、政府が関係各省庁共同で発行している『放射線リスクに関する基礎的情報』では、同じリスク比較の表(2017年版14ページ)の下に記されている注意書きに、はっきりと生活習慣の方は「10年間」に対するリスクであることが明記されている16)。重要な点であるので、下に引用しておく。



 10年間の生活習慣リスクを50年間の放射線リスクと比較しても、喫煙や大量飲酒は、放射線の致死量(1〜2Svで10%未満致死量:放医研・UNSCEAR)に達しており、大量飲酒する喫煙者なら半数致死量(3〜5Sv:ICRP)に達し、比較自体が意味をなさなくなっている。
 仮にこのようなリスク比較がありうるとしても、比較のためには、食品や喫煙・飲酒などのリスクもまた、放射線リスクと同様に50年間に換算して、5倍しなければならないはずである。そうすると、野菜不足や塩分の取り過ぎという相対的に控えめなリスクでも、野菜不足でおよそ1.3となり放射線リスクでおよそ500〜1000mSv、高塩分食で1.6〜1.8となりおよそ1〜2Svの被曝に相当することになる。つまり、10%未満致死量とされている被曝量に達し、比較自体が成り立たなくなる。
 放射線の主要なリスクをがん「だけ」だと考えて比較しているのでこのような「不条理」が生じるのである。放射線は、とくに高線量では、骨髄(造血系)損傷、胃腸管損傷、肺炎、腎臓炎、その他の多臓器の炎症を引き起こし、さらには中枢神経を含む神経系や心臓血管系を損傷して、がん発症に到る以前に、人の致死を引き起こす。数百mSv/年では数年〜10年も経てば、数十mSv/年でも数十年も経てば、積算で、このような致死量とされる被曝に相当するレベルに等しくなる。日本政府は、屋内遮蔽係数0.6を掛けた状態で20mSv/年の(すなわち事実上33mSv/yの)汚染地域に、ICRPでさえも放射線感受性が3倍高いと認める(実際には10倍以上の)子どもやさらには妊婦をも含めて長期に居住させようとする「帰還政策」を進めている。だが、事実上33mSv/年の汚染地帯では、子どもの場合、3倍の感受性を考慮に入れてリスク比較をすれば、10年住めば、10%未満致死量相当量に到達する。大人の場合でさえ、30年も住めば、10%未満致死量相当量に到達する。
 生活習慣因子の放射線リスク比較論は、他面では、高線量放射線のもつ深刻な致死リスクを隠し、人々が忘れるようにする「印象操作」というほかない。

※ヒトの集団を対象としたこれまでの種々の調査では、100ミリシーベルトを超える線量の被ばくで、がんによって死亡するリスクが上昇することがわかっている。(4ページ)

 100ミリシーベルト以下ではがん死のリスクが上昇することが示されていないかのような誤解を与える記述である。最近、J・H・Lubinほかの論文で子どもの甲状腺がんに関する解析で閾値がほぼゼロであることが示された17)
 「結論:今回の解析により、小児における低線量放射線被ばくと甲状腺がんリスクについては、閾値のない線形関係であることが最も妥当な推定であり、『可能な限り低い線量の被ばく』を追求する必要がある事が再確認された」。
 また、政府の主張する上記のような100mSvしきい値論は、信義誠実の原則に反する欺瞞である。もしこの見解が信義に基づき誠実に提起されているのであれば、復興庁は、20mSv/年の汚染地域に帰還して5年以上の長期に居住するのは、被曝により「がんによって死亡するリスクが上昇」するので「避けるように」と警告しなければならないはずである。同じように、10mSv/年の地域では10年以上の、5mSv/年の地域でも20年以上の長期居住は、被曝によるがん死リスク上昇が「ある」、だから「推奨されない」と然るべきリスクコミュニケーションを行わなければならないはずである。帰還政策は即時取りやめなければならないはずである。だが現実には政府は正反対の行動を取っている。
 復興庁文書は、政府が、福島の汚染地域に住民を帰還させる政策を、「がんによって死亡するリスクが上昇する」と「わかって」行っていること、「故意に」がん死リスクの上昇を帰還住民に押しつけていることを自己暴露しているのである。
 政府は、100mSv云々の議論で人々を煙に巻こうとしているが、被曝によるがん死リスクの上昇が「ある」ということをはっきり認識しているのである。この事実は、政府傘下の放射線医学総合研究所が発行している文書の中で、それが明記されていることからも明らかである。以下に、証拠として引用しておこう(放医研編『低線量放射線と健康影響 改訂版』162ページ)。



 ここでは、10万人が0.1Gy(すなわち100mSv)被曝した場合、どの機関の推計によっても増加すること、その推計値は白血病とそれ以外のがんの合計で426〜1460人の幅の中に入ることが確認されている。被曝した場合のリスクは決してゼロでは「ない」のである。

※日本人が自然放射線により日常的に受ける年間の被ばく線量は、平均2.1ミリシーベルトである。(4ページ)
※日本人が医療行為(レントゲンやCTスキャン等)で受ける年間の被ばく線量は、平均3.9ミリシーベルトである。(4ページ)

 CTなどによる医療被曝もできるだけ低くする必要がある。「強化戦略」は医療被曝や自然放射線を無害と考えていないのであるから、それに加えて福島原発事故による被曝量を増やさないよう、警告すべきであるにもかかわらず、全ての被曝が無視してよいかのような誤解を与える記述である。イギリスでは自然放射線による被曝で小児白血病が5mGy(=5mSv)以下の低線量まで増加していることがG. M. Kendall たちによって報告されている18)。1ミリシーベルト当たりの相対過剰リスクは12%であった。日本人の受ける自然放射線が決して安全とは言えないのである。


図 ケンダル氏らによる小児白血病の相対リスク

出典:Kendal, GM et al., A record-based case-control study of natural background radiation and the incidence of childhood leukaemia and other cancers in Great Britain during 1980-2006.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784

※1圓△燭100ベクレルのセシウム137を含んだ食品を食べて1ミリシーベルトの被ばくをするためには、約770圓凌品を食べなければならない(成人の場合)。(4ページ)

 この記述は内部被曝による線量当量の計算が正しくなく、著しく内部被ばくを過小評価しているので、770kgも食べなければならない計算になった。不適切な計算を根拠にしており、自らの無知を証明している。これは政府文書としてとんでもない記述である。たとえ、1日1kgの食量でも100ベクレルのセシウム137を毎日1年間とり続ければICRPによれば15000ベクレルが臓器など体内に蓄積し、体重60kgの人で体重1kg当たり、250ベクレルになる。チェルノブイリで見られた「長寿命放射性核種取り込み症候群」で死に至る量にもなる2,3)
 電離放射線によって発生する活性酸素・フリーラジカルは大変危険で内部被曝によるほとんどすべての病気をもたらすのである19)。活性酸素・フリーラジカルとそれによって生じる酸化ストレスがいかに広範囲の健康影響をもたらすかは、酸化ストレスが及ぼす医学的影響に関する専門書『酸化ストレスの医学』の目次を見ただけで明らかである。



 このような効果を考慮しないでDNAへの直接被曝のみを議論することは科学的ではない。これはチェルノブイリ事故でえられた重要な医学的結論である。つまり、1mSvの被曝のためには770kgも食べなければならないのはICRP の内部被曝の計算が科学的でないためであり、真実は100ベクレル/kgを770kgも食べると1mSvの被曝どころか死に至るのである。計算方法が悪いのに、被曝被害が少ない証明であると政府が誤解しているのである。官庁の誰も誤りに気が付かなかったのであろうか。

※現在、国際放射線防護委員会(ICRP)は、平時における公衆の追加被ばく線量を年間1ミリシーベルトを超えないことを勧告しているが、ヒトの集団を対象とした研究では、1ミリシーベルトを少しでも超える線量の被ばくが、がんのリスクを増加させるという知見はない。(4ページ)

 オーストラリアの小児がんのCTによる増加の疫学調査では1回のCTで平均4.5ミリシーベルトの被曝があり、がんが1.24倍に増加した。



 出典:John D Mathews, et. al.;Cancer risk in 680?000 people exposed to computed tomography scans in childhood or adolescence:data linkage study of 11 million Australians;BMJ 2013; 346
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360

 先に述べたように日本の原子力施設の労働者の被曝調査では10mSvの被曝で3%がん死が増加した15)
 知見はある。閾値がないというのが国際的にも認められているのに「強化戦略」はなぜリスクの増加の知見がないというのか。

※空間線量率から推定される被ばく線量は、住民の行動様式や家屋の遮へい率を一律に仮定(365日毎日、屋外に8時間、屋内に16時間滞在し、家屋による放射線の遮へい率を60%と仮定)していることなどの要因により、個人線量計等を用いて直接実測された個々人の被ばく線量(個人線量)の測定結果とは異なることが知られている。この仮定では、例えば空間線量率が毎時0.23マイクロシーベルトであった場合に、年間の追加被ばく線量は1ミリシーベルトに相当することになる。しかしながら、平成24年の南相馬市での調査では、個人線量計を用いた個人被ばく線量の実測値は、空間線量率から推定される計算値と比べて平均で3分の1に留まったことが報告されている。(4ページ)

 ガラスバッジを用いた個人測定は信頼できない。ガラスバッジは前面からのガンマ線のみしか計測しない。また、自然放射線の寄与などを差し引くコントロールの値が信頼できない。以上の測定の不備から空間線量より小さい値となることを否定できない20)。ガラスバッジのメーカー自身の担当者をはじめ多くの証言がある。
 宮崎・早野論文は伊達市の市民に持たせたガラスバッジで測定した外部被ばく線量と、航空機モニタリング調査で測定した空間線量は比例関係にあり、その係数は0.15倍で国が示していた0.6倍よりも住民の被曝量は4倍少ないと主張している。しかし、黒川氏は「論文中に書かれている『この研究は個人の線量は周辺の線量に0.15±0.03をかけ合わせたものであることを示す』という宮崎・早野氏の主張は明白な誤りです。私が検証したところ、70%の住民の被曝線量はこの範囲外にあります。分析が十分に行われていない論文の結論として出された0.15倍という数字が独り歩きし、大きな被曝をしている人が切り捨てられることを憂慮しています」と述べている。ガラスバッジを公衆に持たせるという無理な測定による信頼性のないものである。本来、 ガラスバッジは放射線管理区域で使用するものでバックグラウンドの値をコントロールバ ッジで測っている。しかし、伊達市の測定は根拠もなく、平均でバックグラウンドとして 年間 0.54 ミリシーベルト(mSv)をひくことになっており、被曝ゼロの人が多く出ている 地域もあり、バックグラウンドの引きすぎを強く示唆する。また、宮崎・早野論文は個人個人のガラスバッジの示す線量とその居住地域の空間線量との比を住民について平均している。数学では重みを無視して比率を平均することは基本的な誤りであり、平均値0.15は意味がない量である。引用のブログを参照のこと20)。家屋による遮蔽について言えば、実際には木造家屋では放射線の遮蔽効果はほとんどない。事故前は遮蔽率はせいぜい1割程度と考えられていた。コンクリートの建物でさえも、時間経過と共に、放射性微粒子の壁面・床面・天井などへの付着により汚染されて、空間線量とそれほど変わらなくなるか、かえって高くなる場合さえもある。
 事故後、政府は突然、家屋による6割の遮蔽率(屋内では屋外の4割となる)、8時間の戸外活動と16時間の屋内生活で、合計の屋内遮蔽係数を空間線量×0.6と規定した。復興庁文書のような空間線量に0.6を掛けるという係数操作は、個人の被曝量を人為的に低く操作するというもの以外の何物でもない。復興庁は、このすでに人為的に引き下げた数値でさえ、被曝線量の実測値が「3分の1に留まった」とする。現行の数値が「3倍の過大評価」であるという復興庁の主張は、すなわちこの係数0.6を今後さらに0.2に引き下げるという措置を示唆するものである。
 現行の帰還居住基準20mSv/年(事実上は33mSv/年)は、事実上100mSv/年(実際には133mSv/年)にまで引き上げられることになる。その場合に、どのような事態が予想されるかは後に検討する。

※1ミリシーベルトの外部被ばくと、1ミリシーベルトの内部被ばくは、健康への影響の大きさは同等とみなせる。(4ページ)

 ICRPに基づく「内部被曝の1ミリシーベルト」という評価が不正確なのである。内部被曝の評価においてベクレルから実効線量係数を用いて求めた1ミリシーベルトが過小な値になっている。体内の放射線の被曝被害は体内の臓器や諸器官の構造や機能によるのであり、簡単に外部被曝と同等として評価できない。内部被曝の被害は単純に外部被曝線量に換算して議論することができない多様な健康破壊の効果がある。外部被曝と内部被曝を同等とするところに食品基準など全ての誤りが生じているのである。放射線は体内の放射性原子や微粒子から放射され、活性酸素やフリーラジカルを発生する。この活性酸素やフリーラジカルが様々な病気を引き起こす。それゆえ、単純に外部被曝とみなし遺伝子DNAの損傷のみの被害とみなすことは大きな間違いである。ヤブロコフ氏達の報告では1人の甲状腺がんが見つかると約1000件の甲状腺疾患が見つかるという19)
 外部被曝と内部被ばくとの比較では、放射性物質たとえば放射性セシウムが、不溶性の放射性微粒子(福島事故では炉心のメルトダウンと爆発により大量に生じた)として体内に侵入してきた場合、危険性は外部被曝に比して極めて高いと考えなければならない。福島原発事故による放出放射能では、セシウム137の約半分はこのような不溶性の微粒子、残り半分は可溶性あるいはイオンと考えられる23)
 このような不溶性微粒子は、周辺の細胞に放射線を長期にわたり集中的に照射するので、被曝量は桁違いに大きくなる。しかも排出されにくく、生物学的半減期に従って減少することはなく、長期にわたり体内に留まる。欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、このような不溶性微粒子による内部被曝の危険性(生物物理学的損害係数)を、外部被曝およびカリウム40による内部被曝の20〜1000倍と評価している(ECRR2010勧告日本語版95ページ)。さらにECRRは、セシウム137が2段階壊変しベータ線とガンマ線を照射するので、危険度をさらに20〜50倍と評価している。つまり、危険度は400〜5万倍と考えるべきだとしている。


出典:ECRR2010勧告日本語版95ページ


 セシウム137は、可溶性微粒子あるいは直接イオンとして体内に侵入し、体液に溶解した場合でも、カリウムよりイオン径が少し大きく、カリウム・チャンネルを通過するが、その通過速度が極めて遅く、それによって濃縮され、心臓や腎臓その他の特定の臓器に蓄積され、集中的に細胞を被曝させる。
 さらに、セシウム137は、放射線を出してバリウムに変わるが、バリウムには細胞のカリウム・チャンネルの機能を阻害する働きがあり、毒性がある。とくに、カリウム・チャンネルが重要な役割を果たしている心臓や神経系などの情報伝達に、機能障害を生じさせる可能性がある。
 これらから明らかなように「1mSvの外部被ばくと、1mSvの内部被ばくは、健康への影響の大きさは同等とみなせる」というのは虚偽の見解であり、実際には1mSvの内部被曝は、セシウム137が不溶性粒子形態を取っているような場合、400mSvから50Svに相当する可能性があるのである。

)福島県は、内部被ばく検査を行った結果、健康に影響が及ぶ数値ではないと評価している。
※福島県が平成23年6月から平成29年9月までに実施したホールボディ・カウンタ(WBC)を用いた内部被ばく検査での預託実効線量は、99.99%が1ミリシーベルト未満と推計している。(5ページ)

 ホールボディカウンターの測定は引用文献によると2011年6月27日から2017年9月30日までであり、ヨウ素131の半減期が約8日だということを考えると6月末の測定ではヨウ素131は減衰しており、意味がない。WBCの検出下限が300ベクレルであり、測定値も信頼できない。内部被曝の解析の方法も信頼性がない。その例を示そう。実効線量係数(mSv/Bq)を用いると1ミリシーベルトはCs134で5万2000ベクレル、Cs137で7万7000ベクレルとなる。福島県の文書も、WBCの測定値について、Cs134とCs137の合計で5万1000ベクレルを1mSvと換算している21)
 ベクレルで見るとこんな高い値まで1mSv未満であるのは当然であり、被曝量が少ないように言うのは誤魔化しである。それでも1mSvを超えた人がいる。ベラルーシで死亡した人のセシウム137の蓄積量は臓器1kg当たり200〜1200ベクレルであった2)。体重60kgとして計算すると全身で1万2000から7万2000ベクレルほどである。つまりWBCで1mSvというレベルは致死量相当なのである。
 これまで政府は学術会議の2017年9月1日の「報告」と同様UNSCEARの報告を根拠にしてきたが、この測定も大部分(1080/1088)がホールボディカウンターを用いたものでなく、空間線量測定用の簡易サーベイメーターを用いた不正確なものであった。チェルノブイリの方がヴァシリー・B・ネステレンコ氏達による精密なWBCを用いて測定している。
 ユーリー・バンダジェフスキー氏のラットを使った実験では、1kgあたり991Bq程度のセシウム137の濃度を与えると、多臓器不全により40%が死んでしまったことが報告されている22)。半数致死量の比(ラット6.75Gy/ヒト4Gy)から人間のリスクに換算してみると、およそ590Bq/kg程度である。人間の標準体重60kgで3万5000Bq程度である。したがって、この実験結果からも、政府・福島県の言う「内部被曝1mSv」は、人間の場合、半数致死量となる可能性がある。すなわち、復興庁文書が引用している福島県のWBCのデータそのものが、復興庁文書の評価とは正反対に、恐るべき致死的な被曝事実を示しているといわなければならない。

)事故当時胎児であった子供において、先天異常の発生率の上昇は認められていない。
)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、
・事故による被ばくによる死亡や身体的機能への重大な影響等(急性放射線症候群、脱毛等)は確認されていない、
・今後、がんの発生率に識別できるような変化はなく、被ばくによるがんが増加することも予想されない(5ページ)

 統計的に信頼性の高い周産期死亡率や自然死産率のデータを無視して不十分な調査で、人的被害がないとしている。その点で、周産期死産率の増加は統計的に有意を持って証明されている。周産期死亡(妊娠22週から生後1週までの死亡)率が、放射線被曝量が高い福島とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(3年間で165人)も増加し、被曝が中間的な高さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった6)
 福島原発事故後10か月後に急増した周産期死亡率の増加は事故による母親の卵胞・卵子の被曝による結果が考えられ、胎児の発育にとって重大な危険があったことを示している。この周産期死亡率の増加は東北、関東に被曝被害が広まっていることを示すものである。




・福島県でチェルノブイリ原発事故の時のように放射線による多数の甲状腺がんの発生を考える必要はない、と結論付けている。
※福島県以外の3県(青森県、山梨県、長崎県)における甲状腺結節性疾患有所見率等調査(平成24年度環境省実施)と、福島県による甲状腺検査は、ほぼ同様の結果と評価されている。(5ページ)

 3県で4365人を調査して1人が甲状腺がんであった。詳細は公表されていない。確かに同様の発見率であるが一人では統計的に信頼性がない。一方、ベラルーシではチェルノブイリ事故16年後の2002年にゴメリでは14歳以下の約2.5万人を調査しても甲状腺がんはゼロであった。他の地域を合わせ約7万人の調査で甲状腺がんは1人であった。このことは、事故後、ヨウ素131を吸引しなかった世代には甲状腺がんは極めてまれでスクリーニング効果は小さいことを示している。福島県県民健康検討委員会はやっと本格検査の地域差を認め報告した8)
 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い、「3地域の罹患率の比較」を行った。「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。特に本格検査を見ると汚染の高い地域において罹患率も高くなっている。

表1 3地域の罹患率 10万人・年当たり ( )内は95%信頼区間の下限値と上限値


表2 3地域の罹患率の比較( )内は95%信頼区間の下限値と上限値

 最近、県民健康調査検討委員会も小児甲状腺がんの罹患率の地域差を報告した。表3上段が発見率、下段が比率である。この違いは汚染度の違いに対応している。

表3 悪性ないし悪性疑い発見率:10万人年対及びその比 福島県立医大による

地域分割は表1とは異なる。

 これと同様であるが汚染度の代わりに原発からの距離と罹患率の関係が山本英彦医師らによって導かれた。原発に近い地点ほど罹患率が高いことが分かる。これも原発が原因であることを示すものである。




※東日本大震災における震災関連死のうち、福島県における避難所等への移動やそこでの生活に係る肉体・精神的疲労が原因と考えられる死者数は約4割となっており、事故に伴う避難等による影響が大きいと考えられる。(5ページ)

 このことは原発事故の際の社会的弱者の緊急避難の困難さを示すものである。原発は再稼動してはならないし、新たに作ってはならない。また、この震災関連死の中に放射線被曝による影響が含まれている可能性について、当然考えられるにもかかわらず、全く考察されていない。「肉体・精神的疲労が原因」とされる4割以外の6割の死者について、原因を明確にし、公開して分析する必要がある。

(g)事故とチェルノブイリ原子力発電所事故とは異なる。
)チェルノブイリに比べ放出された放射性物質の量は7分の1である。(5ページ)

 復興庁文書は、明らかに、福島原発事故による放射能放出の「総量」に関して論じていると思われる。放射能放出総量については、基本的に政府側に立っていると考えられる中島映至ほか編『原発事故環境汚染―福島原発事故の地球科学的側面』東京大学出版会(2014年)が、チェルノブイリと福島についてほとんど変わらないというデータを引用していることをまず指摘しておきたい(チェルノブイリ1万3200ペタベクレル、福島1万1300ペタベクレル[ペタベクレルPBqは10の15乗ベクレル]、表1.3、29ページ)
 放出量に関しては国際的に信頼性の高いノルウエー気象研究所のストール氏らは福島原発事故によるセシウム137の大気中放出量は20.1〜53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。一方、日本政府のセシウム137放出量は15PBqと小さい。
 ヨウ素131の放出量はセシウム137の50倍(東京電力の値)を採用するとチェルノブイリでヨウ素131は日本政府で750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これはチェルノブイリのヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。あるいはストールの上限をとって(チェルノブイリの値が上限をとっているから)2655PBqとすると、福島のヨウ素131の放出量がチェルノブイリの1.5倍と推計できる。それ故、INES(国際原子力事象評価尺度)で計算しても大気中放出量でほぼ同等であり、チェルノブイリではなかったとされる海中への直接放出量と汚染水中への放出量を加えると福島原発事故の放射能放出量はチェルノブイリの約4倍と考えるべきである。「強化戦略」の1/7は明確な過小評価と考えられる。
 たとえもしこの復興庁文書の通りの比率と仮定しても、政府は、チェルノブイリの7分の1の健康被害が出ることは当然予測されると認めなければならないことになる。学術会議報告書は、チェルノブイリでの子どもの甲状腺がんの発症による手術数を6000人、うち死亡数を15と明記している。それなら、福島や周辺諸県でも、大まかに言って、その7分の1の860人の手術を要する甲状腺がん患者、うち2人程度の死者が、十分に予測されると言わなければならない。
 現実に子どもの甲状腺がんなど被害が出ている7)。米軍兵士の「トモダチ作戦」による死者は9人になり、400人が被曝の被害を訴えている。「風評」という説明は根拠がない。
 福島事故の間に放出された放射能の量については、広島原爆との比較で考えれば、被害が「ない」あるいは被害は「風評」であるという主張がまったくの嘘でありデマであることは明らかである。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的な健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量である。
 日本政府は、福島事故で、広島原爆のおよそ168発分のCs137が放出されたことを認めている(原子力安全・保安院の2011年8月26日の発表)。もちろんこれは過小評価で、実際には400〜600発分だがこの点は今は置いておこう。事故で放出されたCs137のおよそ20%、すなわち広島原爆34発分が、日本の国土に降下・沈着した。そのうち、除染作業により回収できたのは、政府発表データで計算すると、広島原爆のおよそ5発分である。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっている。言い換えれば、広島原爆およそ30発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、拡散して残っていることを意味する。
 広島原爆30発分の「死の灰」が何の健康被害も及ぼさ「ない」という政府見解は、広島・長崎の被爆者の健康調査からだけ見てもありえない。そのような見解は、広島・長崎の原爆被爆者の悲劇を、被爆者調査の結果を全否定するものであり、被爆者とその悲劇を愚弄するものであるというほかない。さらには、政府の主張では、北朝鮮が日本近海で広島原爆168発分の核実験を実施しても「何の健康被害も生じない」ということになる。さらには、アメリカが第二次朝鮮戦争を引き起こし、そこで核爆弾か多数使用され、そのうち放射性セシウム137換算でおよそ30発分程度の「死の灰」が日本に降下しても「何の健康被害も生じない」ということになる。露骨な核実験・核戦争容認論に等しい。
 復興庁・政府は、住民の被曝を正当化しているだけではない。現在、この回収された広島原爆5発分について、日本中の公共事業で8,000Bq/kg未満の除染残土を再利用する計画を立てている。これは、自国民を滅ぼすような自滅的計画であるというほかない。それは、現在、「風評損害を避ける」という口実の下で、再利用される場所などを住民に知らせることなく、なし崩しに始まっている。このプロジェクトは、およそセシウム137換算で広島原爆5発分の「死の灰」に相当する放射性物質を、日本全国に拡散することに等しい。日本政府は、危険な核物質を住民に対してバラ撒くという文字通りの核テロリストとして行動していると言われても仕方ない。

)避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、放射性物質が住民の体内に取り込まれた量は非常に少ない。(5ページ)

 福島原発事故では極めて大量の放射性微粒子が放出されており、呼吸や飲食によって体内に取り込まれる可能性が高い。現実に小児甲状腺がん、周産期死亡率の増加や心筋梗塞による死亡者の増加は内部被曝の寄与が大きいこと、つまり、放射性物質が体内に取り込まれたことを示している。「放射性物質が住民の体内に取り込まれた量は非常に少ない」とする政府の推測は誤りである。実際の病気の増加がこの記述を否定している。また、放射性微粒子はたとえ少量でも集中的局所的継続的被曝となるので被害を放射性物質の量のみで考えてはならない。

(h)福島県内の空間線量率は事故後6年で大幅に低下しており、全国や海外主要都市とほぼ同水準となっている。(5ページ)

 これは、政府・行政側の測定値(過小評価が疑われる)に基づいたとしても、はっきり嘘あるいはデマである。例えば、県庁所在地である福島市の数値(福島県『ふくしま復興の歩み』最新版では0.15?Sv/h程度)で見ても、他県や世界の主要都市と比較して明らかに高いことは誰が見ても分かる。これを「全国の主要都市とほぼ同水準」だと強弁して権力主義的に「放射線教育」し「リスクコミュニケーション」して、国民とくに児童生徒をマインドコントロールするというのが今回の文書の主眼である。
 しかも、各都市ごとに自然放射能によるバックグラウンドの線量には本来的な相違があり、比較は福島原発事故前の平均空間線量(福島県は0.038?Sv/h)との間で行なうべきである。事故前のレベルを基準としなければ比較は無意味である。
 事故以前の放射線量と事故後の放射線量を比較してみよう。文部科学省は、福島原発事故以前の全国の空間線量(地上1メートル)の数値を、ホームページから注意深く削除しているが、それは以下のサイトで見ることができる。
http://www.las.u-toyama.ac.jp/physics/gendai/t.pdf)。
 それを現在の数値と比較すれば、全国の主要都市について以下の通りである。あわせて集団線量も計算しておこう。


事故前・事故後の空間線量の上昇      単位:μSv/h(地上1メートル)/人・Sv

事故前は1990年〜1998年の平均値、現線量は2016年3月1日時点の数値(日本経済新聞2016年3月2日より)。ただ、大阪、愛知、福岡などとの比較で明らかなように、関東の数字には明かな過小評価があると思われる。家屋による遮蔽係数は使っていない。各都道府県の人口は2015年の国勢調査による数字。

 だがこのような方法で比較可能なデータも2016年度までである。政府は、空間線量の発表値自体を露骨に操作する方策を取り始めていることが疑われるからである。東京の線量の2017年間の大幅な低下を見ていただきたい。これは他の諸都市と比較して異常に大きく明らかに不自然である。これにより、東京の空間線量の数値は、他の諸都市がすべて事故前よりも高いにもかかわらず、事故前の水準に戻ってしまっている。


数値の操作が疑われる東京の空間線量の急速な減衰   単位:μSv/h(地上1メートル)

出典:原子力規制委員会「放射線モニタリング情報」


 もう1点付け加えると、空間線量の低下は、現時点での被曝の主要な危険の一つである、再飛散し空中を浮遊している放射性微粒子の危険を十分には表していない。復興庁文書は、内部被曝を食品についてだけ取り扱い、微粒子とくに不溶性微粒子が呼吸の際、吸入によって侵入し沈着することによる内部被曝の危険性を無視している。
 市民が運営する放射能測定所による多くの計測結果はこの危険を証明している。たとえば、いわき市(福島県)において2015年10月〜12月に電気掃除機の使用済み紙パックの放射線量の測定で、4,800〜5万3,900Bq/kgの放射性セシウムが観測されている。最大で5万4,000Bq/kgが吸引される室内を、行政の権力をバックに「放射線の安全性が確保されている」と断定することは、デマゴギー以外の何物でもない。下記のウェブサイトを参照のこと。
http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf
 チェルノブイリでは 1ミリシーベルト以上は避難の権利があり、5ミリシーベルト以上の地点は移住義務地域であり住むことができない。日本では20ミリ以下の地域にも帰還を認めている。これでは世界と同水準とは言えない。しかも、チェルノブイリでは内部被曝の寄与を外部被曝の2/3としてそれを加えて避難・移住の基準としている。日本の基準で言えばチェルノブイリの5ミリシーベルトは日本では3ミリシーベルトの外部被曝に相当する。この地域での居住を禁止しているのである。日本ではその6倍以上の汚染地にまで帰還させている。

※東京電力福島第一原子力発電所から半径80匏内の航空機モニタリングによる地表面から1mの高さの空間線量率は、約71%の減少となっている(平成23年11月と平成28年10月で比較)。(5ページ)

 政府・文科省のモニタリングポストの値は実際の周辺の線量の5から6割しか表示せず、過小な値を表示していることが示されている24)(矢ケ崎克馬『日本の科学者』2018年2月号)。



 アニー・ガンダーセン氏も同様の指摘をしている。

※日々の生活の場における面的除染はほぼ完了(平成29年3月末時点)。また、除染が実施された地域では、空間線量率が大幅に低減している。(5ページ)

 まわりの山林の除染がなされていないので風雨で除染した土地も汚染される。
 復興庁文書は空間線量が経過したことを強調しているが、いったん被曝した線量はいわゆる「レガシー」として、細胞炎症や長寿命有機ラジカルなどのいろいろな形態で、数年から10年、数十年という極めて長期間、結局のところ一生涯、住民の健康リスクとして体内に留まり続けることも指摘しておかなければならない。

※世界では、自然放射線による被ばく線量が年間5ミリシーベルトを超える地域に1000万人以上が居住している。(6ページ)

 このことは安全性を証明しない。復興庁は5ミリシーベルトを超える放射性管理区域相当の汚染地に住んでも被曝影響はないといいたいのかも知れないが自然放射線によって被害が生じている。15)。 5.2ミリシーベルトの被曝労働で発生した白血病が労働災害として認められている。
 ECRRは、世界の自然バックグラウンド放射線の高い諸地域において、がんや染色体欠損の割合が明らかに高くなっているというデータを引用している(2010年報告180ページ)。


出典:ECRR2010勧告日本語版180ページ

 自然放射線の高さが健康に影響を及ぼさないという見解は、根本的な間違いであるといわざるをえない。

②食品及び飲料水の安全を守る仕組みと放射性物質の基準
(a)福島県産の食品及び飲料水は、放射性物質に関する検査の徹底により、安全が確保されている。
(b)日本の食品及び飲料水の放射性物質の基準は、世界で最も厳しい水準となっている。
※安全側の仮定に立って、一般食品では100ベクレル/kg、飲料水では10ベクレル/kgなどの非常に厳しい基準を設定している。
(c)福島県において、現在、基準値を超える食品及び飲料水はほとんどない。特に、福島県産米については、平成27年産米以降、基準値を超過したものはなく、畜産物は平成24年12月以降、海産魚介類は平成27年4月以降、基準値以内である。なお、検査により基準値超過が確認された場合は、市場に流通しないよう必要な措置がとられている。
※福島県内で生産管理された農林水産物においては、平成27、28年度で基準値を超過するものはなかった(検査年度ではなく生産年度の場合)。
※野生のきのこ・山菜類、野生鳥獣肉、河川・湖沼の魚類では基準値を超過したものも見られるが、検査により基準値超過が確認された場合は、市場に流通しないよう必要な措置がとられている。
※飲料水については、平成24年4月以降、基準値を超過したものはない。(6ページ)

 以上のように「強化戦略」は基準値を満たしていることを強調するが、肝心の基準値の高さを議論していない。日本の食品基準が高すぎ、摂取者の健康を守る値ではないことが問題である2,3)。内部被曝の危険性や放射性微粒子の危険性を考慮すると1Bq/kgの食品でも安全でない。基準値100Bq/kgが内部被曝を正しく評価すると、高すぎるのでいくら基準値以下を確認しても安全とはいえない。しかも高い基準でさえ超過することがあり、土地が汚染していることを示している。超過した食品が混ぜて基準以下にされる危険性もある。汚染食品は政府が買いとり、完全に市場から排除する必要がある。

④東京電力福島第一原子力発電所等に関する情報
東京電力福島第一原子力発電所の現状について正確な情報が伝わっていないことによって、福島県の現状等に対する不安が拭えない場合もある。そのため、廃炉・汚染水対策については、世界の叡智・技術を結集しつつ、国が前面に立って安全かつ着実に進めていることについて、関係府省庁における発信媒体の性質などを踏まえ、必要に応じて簡潔に分かりやすい情報発信を行う。(6ページ)

 廃炉・汚染水対策については、世界の叡智・技術を結集しつつ、国が前面に立って安全かつ着実に進めている」ということであるが 凍土壁によって地下水の流入を制御できずいっそう見通しが暗くなった。この失敗を見ても着実に廃炉・汚染水対策が進んでいるとは言えない。また、トリチウムを含む汚染水の海洋への投棄が原子力規制委員会で検討されている。トリチウムの投棄は大変危険である。

台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて 日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している  渡辺悦司

2018年1月


台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて
日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している――福島と周辺地域の放射能汚染は決して安全・安心な状況にはない

著者:香港核能輻射研究會(質問)・渡辺悦司(回答)
連絡調整:福島からの避難者K


 
〖ここからダウンロードできます〗
台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて 日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している(pdf,12ページ,270KB)
 
 
 以下は、福島からの避難者K氏に対する香港核能輻射研究會(Hong Kong Society for the Study of Nuclear Radiation、HKSSNR)と台湾のフリージャーナリスト宋瑞文氏の質問に、K氏に代わり渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会会員)が回答したものである。発表にあたり多少加筆訂正を行った(2018年1月18日)。その内容は、台湾の媽媽監督核電聯盟(原発監視母親連盟)などの以下のサイトに中国語(繁体字)で掲載されている。
  https://tinyurl.com/yc2glrk5
  https://tinyurl.com/y82dkelp
  http://e-info.org.tw/node/208883


香港核能輻射研究會・宋瑞文[香港・台湾]質問1:
 福島県は、中国語での観光紹介ホームページを作成し、放射能についての説明も掲載しています。
  http://www.tif.ne.jp/lang/tc/data/fukushima_tc.pdf
 そこでは、人工放射線と自然放射線があるということを説明し、私達は元々放射線に囲まれた中で生活していたとでも思わせるような説明があります。また、国際基準では1ミリシーベルトであるが、それは一回のCT検査で直ぐに超えてしまう数値である等の説明もあり、放射線をそんなに心配する必要がないように思わせるような記載です。ホームページには「現在福島県の居住スペースにおける放射線量は相当限られており、空気中には放射性物質セシウムは存在しない。だから、呼吸して放射性物質を吸い込むことはない」ともあります。これは、福島はもう安全であるということでしょうか?


渡辺悦司[日本]回答:
 福島および周辺諸地域における放射線被曝状況に関して、福島からの避難者であるK氏あてにご質問いただき感謝いたします。お返事を代筆させていただいておりますのは、日本の放射線被曝に反対する市民・科学者グループ、市民と科学者の内部被曝問題研究会(ACSIR)の会員であります、渡辺悦司です。どうかよろしくお願いいたします。
 まず第一に、日本の多くの反核活動家と、福島や関東などの汚染地域からの避難者たちは、世界中の人々に、日本政府が、放射線一般について、また2011年3月11日の東日本大震災・津波に引き続いた福島第一原子力発電所の核災害(以下福島事故と表記)が引き起こした放射線の健康影響について、述べている言説を決して「信用しない」よう警告してきました。
 安倍晋三首相を先頭に日本政府と福島県などは一体となって、はっきりと何度もくり返し断言し強調してきました――「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くない」(安倍首相の記者会見での外国人記者への発言)と。この発言、下記の日本の政府ウェブサイトにありますのでご参照ください。
  http://japan.kantei.go.jp/96_abe/statement/201309/07argentine_naigai_e.html
 このような主張は完全な嘘でありデマです。日本政府のこれらの主張は、歴史的に蓄積されてきた数多くの放射線科学と疫学の研究成果を公然と否定し踏みにじるものです。このような行動によって、日本政府は国内的にも国際的にも世論を組織的に欺瞞しているのです。
 福島事故の間に放出された放射能の量について考えれば、これが嘘であることはおのずと明らかです。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量です。日本政府は、福島事故が、広島原爆が放出したCs137の168発分を放出したというデータを公表しています(これは過小評価ですが)。これが何の健康影響をもたらさないというのが日本政府の見解です。
 この福島事故による放出量は、アメリカがネバダ核実験場で行った全大気中核爆発による放出量とほとんど同じ規模です。核実験が行われたネバダ砂漠は、居住が推奨される住宅地域に指定されてはいません。日本政府はこれと正反対の立場をとっています。事故原発周辺から避難した住民に対して、最高20mSv/年の放射線レベルの地域に帰還して住むことを勧めています。勧めるだけではありません。日本政府は、今まで行われてきた避難者への経済的な援助を切り捨てることによって、これらの地域から避難した多くの人々が、ネバダ核実験場同様の汚染地域に帰還して居住するほかないようにしています。
 われわれの推計によれば、福島事故では、広島原爆のおよそ400〜600倍のCs137が放出されました。事故で放出されたCs137のおよそ20%、すなわち広島原爆80〜120発分が、日本に降下・沈着しました。そのうち、除染作業により回収できたのは、広島原爆のおよそ5発分だけです。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっています。言い換えれば、広島原爆75-115発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、残っていることを意味します。
 そのうえ、日本政府は、現在、この広島原爆5発分についても、日本中の公共事業で8,000Bq/kg未満の除染残土を再利用する計画を立てています。これは、自国民を滅ぼすような集団自殺的計画ですが、現在、「風評損害を避ける」という口実の下で、再利用される場所を住民に知らせることなく、なし崩しに始まっています。このプロジェクトは、およそ広島原爆5発分の「死の灰」に相当するCs137を、日本全国に拡散することに等しいのです。日本政府は、危険な核物質を住民に対してバラ撒くという文字通りの核テロリストとして行動していると言われても仕方ありません。これが日本政府のやり方なのです。
 そもそも、ネバダ核実験場のように汚染された福島県と周囲地域が、本当に、住民が永久に居住・生活し外国人観光客が観光に訪れるのに安全な場所であると考えられますか?たとえば、日本政府の帰還の基準は年間20mSv(以下20mSv/年と表記)ですが、全住民が毎年4-5回もCTスキャンを受けることなど考えられますか?しかも、最近の疫学調査では、CTスキャン1回(およそ4.5mSv照射)ごとに、子供たちのガンの危険性が24%増すこと明らかに示されています。以下のウェブサイトを参照してください。
  http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360 
 また日本政府が無視しているのは、「ホット・パーティクル」の特別な危険性です。すなわち粒径がミクロン・サイズあるいはナノ・サイズの放射性微粒子が吸入され人体に吸収される場合、がんや心不全を含む多くの種類の病気をもたらす長期におよぶ危険性です。放射性微粒子とくに不溶性微粒子による内部被曝は、外部被曝よりもおよそ20〜1,000倍も危険であると考えなければなりません。それは、放射性微粒子は、極めて近傍から、あるいは細胞そのものの内部で、放射線を照射することによって、DNAその他ミトコンドリアのような細胞器官に集中的な損傷を引き起こすからです。
 日本政府がしばしば、「低線量被曝の安全」を宣伝するために使う主要な方法の1つは、人工放射能を自然放射能と比較することです。しかし、この論理は、人々をだますトリックです。
 明かなことは、自然放射能による被曝も固有の健康リスクがあるということです。がんは、人工放射能が使われるずっと前から人間の死因の一つでした。自然放射能にも放射能に固有の健康リスクがあるのです。人工放射能に起因するリスクは、自然放射能のリスクに対比・比較されて終わりにはなりません。それは、自然放射能によるリスクの上に付け加えられなければなりません。それらの両方が被曝リスクの蓄積につながるからです。
 たとえば、カリウム40(K40)は、典型的な自然に存在する放射性核種です。日本政府によると、K40からの成人の平均の内部被曝量は、およそ4,000Bqまたは0.17mSv/年です。下記の日本政府のウェブサイトを参照してください。
  http://www.kantei.go.jp/saigai/pdf/g31_siryou5.pdf
 国際放射線防護委員会(ICRP)リスク・モデル(2007年勧告)を使えば、K40によってもたらされるリスクを大まかにですが推定することができます。計算すれば、K40が日本で毎年およそ4,000例のがんの発症と1,000人のがん死をもたらしていることが示されます。人工放射線源によって、これと同一の放射線量が人体で加えられるならば、がんの発症とがん死は2倍になり、1年につき8,000例と2,000人となるでしょう。欧州放射線リスク委員会ECRR(2010年勧告)のモデルは、ICRPモデルを40分の1という大きな過小評価であるとして批判しています。ECRRに依拠すれば、これらの予測は、それぞれ40を掛けて、32万例と8万人に達することになります。
 引用されておられる福島県ウェブサイトは「福島では、屋内の放射線量は現在非常に低くなっており、放射性セシウムは空気中には存在せず、放射性微粒子は呼吸によっては体内に侵入することはない」と述べています。完全なフェイク・ニュースです。
 市民が運営する放射能測定所の多くの測定結果はこの主張を論駁しています。たとえば、いわき市(福島県)において2015年10月〜12月に電気掃除機の使用済み紙パックの放射線量の測定で、4,800〜5万3,900Bq/kgの放射性セシウムが観測されています。最大で5万4,000Bq/kgが吸引される室内を、行政の権力をバックに「放射性セシウムは空気中には存在せず」「放射性微粒子が呼吸によって体内に侵入することはない」と表現することは、デマゴギー以外の何物でもありません。下記のウェブサイトを参照してください。
  http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf
 遺憾ながら、居住者と観光客にとって、福島の状況は決して安全では「ない」と結論しなければなりません。

質問2:
 引き続きこの福島県のホームページと記載内容に関連することです。「日本は事故発生後、放射性物質ヨウ素とセシウムの暫定基準値を定めました。更に福島県は、基準値を超えた商品に対して厳しく流通と摂取の制限をしています。現在、新しく設定された基準は暫定基準値に比べて更に厳しい基準値となっています。この新基準値を超えた食品は、引き続き流通と摂取の制限を受けているため、市場に出回っている食品はすべて安心して食すことができます。実際に、福島県では今まで約17万人の市民に対し内部被曝の検査を行ってきたのですが、セシウムが検出された人はほとんどおりません。」と記載されています。これは、私たちは安心して福島の食べ物を味わっていいということでしょうか?福島の方々は、内部被曝していないのでしょうか?

回答:
 これは、日本政府によるデマ宣伝の典型的事例の一つです。曖昧な表現で、具体的なデータなしに、明確な説明もせず、「安全で安心だ」と決めつけるのです。実際、日本政府は、住民の重大な被曝を示しているデータは一切公表していません。たとえば、指摘されておられる、福島の住民17万人のホール・ボディー・カウンター(WBC)検査によって放射性Csが検出されたケースが極めて少ないとされている福島県のウェブサイトの内容ですが、日本語版で調べてみました。
  http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-wbc-kensa-kekka.html
 2017年11月までに約33万人がWBC検査を受けています。ところが、福島県による検査結果は、ベクレル(Bq)ではなくミリシーベルト(mSv)の単位で公表されており、しかも最低が1mSvで切られています。1mSvを超えたのはわずか26人とされていますので、これが「セシウムが検出された人はほとんどいない」という評価になっていると考えられます。
 では、WBCの測定値1mSvはBqに換算するとどうなるかというと、福島県の文書(下記7ページ)でこっそりと触れられており、セシウム137・134合計で5万1,000Bqです。
  http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/6497.pdf
 ですから、何と5万Bq超のセシウムが体内に検出されなければ、すべて1mSv未満として、事実上不検出扱いとなる公表形式に最初からなっているのです。
 福島県のデータで3mSv以上被曝した人が2人いますが、これは15万Bq超の被曝量です。2〜3mSvすなわち平均およそ13万Bqの被曝量の人は10人、1〜2mSvすなわち平均およそ8万Bqの被曝量の人は14人いるということです。
 ユーリー・バンダジェフスキー氏のラットを使った実験では、1kgあたり991Bq程度のセシウム137の濃度を与えると、多臓器不全により40%が死んでしまいます(『放射性セシウムが人口学的病理学的影響』合同出版72ページ)。人間のリスクに換算してみますとおよそ600Bq/kg程度です。ですから、人間の標準体重60kgで3万6000Bq程度です。ですから、政府・福島県の言う「内部被曝1mSv」は、半数致死量となる可能性があるのです。
 ですから、福島県のホームページのデータそのものが、県当局の評価とは正反対に、恐るべき被曝事実を示しているといわなければなりません。
 日本政府は、食品の放射能汚染に関して真実を隠蔽しようとしてきました。なによりもまず、日本政府が定めている現行の食品の放射線基準(100Bq/kg)は高すぎ(つまり緩すぎ)、人間の健康にとって、とくに胎児、幼児、子供たちと妊婦にとって、危険なものです。事故から6年半が経って頻度は下がっていますが、日本中の多くの市民放射能測定所だけでなく、日本の農林水産省でさえ、多くの食品の放射能汚染の事例を報告しています。以下のウェブサイトを参照してください。
  http://en.minnanods.net/
 日本政府は、内部被曝の危険性を一貫して過小評価しています。この場合、われわれは2つの重要な要因を考慮しなければなりません。
 第1に、個人の放射線感受性の違いが極めて大きいことです。本行忠志教授(大阪大学医学部)によると、Cs137の生物学的半減期をベースに評価した場合の放射線感受性の個人差は100倍にもなります。
 第2に、体内に入った放射性物質は、いわゆる生物学的半減期による指数関数カーブに従って減少するとされてきましたが、実際にはこれを否定する新しい研究が存在することです。新しく提起されているモデルによると、汚染した食品を日々摂取すると、放射能濃度が時間経過と共に蓄積していく可能性が示唆されています。食物の摂取によって1日1Bqの内部被曝が毎日積み重なっていけば、人間の健康にとって決して安全ではありえません(詳細は以下に述べます)。
 われわれは、海外の皆さまが、福島および周囲地域産の食品・農産物に対して、たとえ汚染レベルが今は一般的に減少したと言われているとしても、細心の注意を払われ、性急にもそれらの食品全体が完全に安全で安心して食べられるというような結論を導くことのないようにお勧めいたしたいと存じます。

質問3:
 福島県以外に、近隣県について伺いたいです。台湾の公共テレビは、以前「近隣県である栃木は、原子力発電所から遠く離れているだけでなく、5年間様々な関連対策がなされてきたため、栃木県の安全性に対して、日本国内における疑心は既に存在しない。栃木、群馬において、放射能の影響を心配する声は殆ど無い。」と報道しました。福島第一原子力発電所から距離がある都道府県は、安全であり、リスクは無いということでしょうか?

回答:
 福島周辺諸県の放射能汚染に関しては、以下のウェブサイトをご参照ください。
  http://www.gowest-comewest.net/statement/20170825english.html
 この記事は、首都東京圏の汚染を検討したものです。しかし、栃木または東京以北の県でも、状況はほぼ同じであるか、事故を起こした福島第1原発に近いのでより深刻であるかです。
 
質問4:
 台湾の公共テレビをはじめ、一部の香港・台湾メディアは、福島県と近隣県の農家の放射能除去の取組を紹介しました。
  http://ourisland.pts.org.tw/content/%E6%A0%B8%E9%A3%9F%E8%83%BD%E5%AE%89ii#sthash.JmkvSxYu.dpbs
 「土壌表面の放射線量を測定し、農園の放射線地図を作成する。高圧洗浄機で樹木表面を一本一本洗浄し、放射性物質を流す」というものでした。また、これらの農家の努力は、科学的にも成果を得ているが、消費者が不安と感じる為に、売れないという話しをしていました。日本の放射能汚染された食べ物につきまして、これは消費者が信じるか信じないかだけの問題なのでしょうか?


回答:
 政府による除染作業にもかかわらず、山岳や山林や山間地に降下・沈着した大量の放射性物質が手つかずのままであるという問題があります。事故原発からの放出も止まっていません。現在、それらの放射性物質は、風、自動車、列車、川水、花粉、胞子、焼却炉排出物を通じて、とりわけ放射性の塵や微粒子の形態で、福島や周辺諸県の広い範囲の地域に、再飛散・再降下しています。例えば、以下のウェブサイトを参照してください。
  http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/M-AG38_all_e.pdf
 したがって、言及されておられるこれらの農家の努力は非常に貴重で立派なものではありますが、食品からの放射線被曝の危険性を完全に取り除くことはできません。問題は、土壌、藻類、植物、家屋、建物、森林、動物と人体の中に沈着した核物質として客観的に存在します。消費者の感情や心理や考え方の中に主観的な形で存在しているのではありません。

質問5:
 質問4と関連してですが、一部の台湾メディアでは、カリウムを含む肥料を用いてセシウムを除去する栽培方法を紹介しました。石井秀樹、五十嵐泰正という日本の学者が推薦していました。聞いたことありますでしょうか?それは、効果があるものなのでしょうか?どこか疑わしい部分は無いでしょうか?カリウムの肥料を使いセシウムを除去したとしても(研究によると、減少させることのみ可能で、完全に除去は不可能となっている。)、ストロンチウムの汚染があるはずです。日本政府が台湾に対して行ってきた福島原発関連の宣伝において、私たちはストロンチウムについての情報を聞いたことがありません。ストロンチウムの汚染に関連する情報をお持ちでしたら、ご教示いただけないでしょうか?

回答:
 言及されておられる日本の専門家たちの名前は知りませんでした。おそらく一般公衆のなかにある「ゼロ被曝リスク」志向こそが福島復興に対する障害であると批判してきた専門家たちのグループに属する人たちだと思われます。
 ご承知の通り、セシウム(Cs)は化学的にカリウム(K)に似た特質があります。ですから、カリウム肥料の使用量を増やせば、それに応じて植物が放射性セシウムを吸収するのを抑えることができます。耕作地の汚染度を大きく下げることができなくても、農産物中のセシウム濃度を減らすことができます。こうして、カリウム肥料の通例を超える多用によって農産物の放射能汚染度を100Bq/kgという政府の基準値未満に引き下げることが可能です。
 しかし、問題は残ります。つまり、この方法では:
 ①土壌セシウムの植物への移行を完全に防止することはできず、部分的に妨げることができるだけです。
 ②農産物中のカリウム濃度を上昇させますので、人間がそれを摂取すると、体内のカリウム濃度の維持とホメオタシス(恒常性)に貢献している腎臓や心臓や神経系のような一連の臓器の負担を高めます。すなわち、高カリウムという新たな健康リスクを引き起こす可能性があります。
 ③体内のカリウム濃度が高くなれば、放射性のK40の濃度も比例して高まります。ですから、放射性セシウムの危険性は減少しますが、K40による内部被曝の危険性は、リスクの相違(セシウムより小さい)はありますが、その結果として増加します。
 残念ながら、お求めのストロンチウムに関する情報は非常に限られています。それを探し出すことはわれわれにとっても困難な課題です。日本政府と政府傘下の研究機関は、ストロンチウム汚染について、非常に限られたデータしか報告していません。しかし、日本政府が福島事故原発から80km以内のストロンチウム汚染の事実を認めていることは、重要です。以下のウェブサイトを参照してください。
  http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5048/24/5600_110930_rev130701.pdf
日本の土壌のストロンチウム汚染に関しては米国エネルギー省のデータがあるのをご存知でしたでしょうか?これにはデータを可視化したウェブサイトもあります。以下をご覧下さい。
  https://energy.gov/downloads/us-doennsa-response-2011-fukushima-incident-data-and-documentation
https://news.whitefood.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%81%A8%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%86%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/1861/


質問6:
 放射線量についての質問です。日本の学者五十嵐泰正は、「日本政府は、100ミリシーベルト(mSv/年)以下の放射線が体に与える影響は確認されていない。」と話し、彼が協力している農家では、日本政府が定めた100ベクレル/キロ基準よりも遥かに低い20ベクレル/キロ基準を設定しているそうです。
  http://e-info.org.tw/node/205442
 これは、100ミリシーベルト以下及び20ベクレル/キロ以下は、安心できる数値であるということでしょうか?


回答:
 ご指摘のように、日本政府は、100mSv以下の被曝が人間への健康影響を及ぼすことは、いかなる科学的研究によっても確認されていないと主張しており、100mSv未満の被曝は危険がないと示唆しています。
 しかし、これは虚偽の主張です。政府当局は情報をねつ造していると言うほかありません。
 実際には、すでに非常に多くの科学的研究が、100mSv未満の被曝によって生じる健康影響を確認し証明しています。たとえば、以下のウェブサイトを参照してください。
   https://ehp.niehs.nih.gov/1408548/
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24198200
   http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3050947/
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2696975/
 しかも日本政府は、「100mSv」という語を、意図的にあいまいな形で、人々を混乱させる仕方で用いています。100mSvという表現には3つの意味を持たせることが可能です:①一回の被曝量、②累積被曝量、③年間被曝量です。ご指摘の「100mSv」は、括弧内で言及しておられる「100mSv/年」とは同一物ではありませんし、等しくもありません。100mSv/年は、累積被曝量では、10年間で1Sv(人間の10%未満致死量相当)に、40年間で4Sv(同50%致死量相当)に達します。
 現在政府が避難者を帰還させる基準としている20mSv/年は、△領濱冏鑁量で言えば、そこに5年間居住すれば日本政府がはっきり健康リスクがあると認めている100mSvに達することになります。日本政府は、この点に沈黙しています。
 一部の農家の個人的な食品基準としての20Bq/kgに関して言えば、体組織からのセシウムの排出過程に注意を払うことが決定的に重要です。体内に入ったセシウムの濃度の減少は、一般に想定されている生物学的半減期による指数関数カーブに従わない可能性があるのです。カナダ在住の著名な無機生物化学者落合栄一郎氏は、何度も来日して講演されていますが、自著Hiroshima to Fukushima, Biohazards of Radiation (2014)の中で、前述のレゲット・モデルに基づいて、一度に体組織の中に入ったセシウムの濃度が、大部分の組織について、およそ10日間は比較的速く減少するが、その後、減少過程は減速し、停滞する傾向があると指摘しています(83ページ)。これは、Csの連続的な摂取が、たとえ非常に低い量でさえ、体内でCsの持続的蓄積という結果になることを意味しています。(ちなみに、落合氏の本は、無料で以下のウェブサイトからダウンロードすることができます。)
  https://archive.org/details/HiroshimaToFukushima
 レゲット・モデルに関しては下記のウェブサイトを参照してください。
  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14630424
 チェルノブイリ事故による健康影響を詳細に分析したユーリー・バンダジェフスキー氏は、体内での放射性セシウム濃度が10Bq/kg以上になると安全ではないとしています。この低いレベルさえ、乳幼児に心電図異常を引き起こし、代謝性障害や高血圧や白内障その他を引き起こすことがありうるからです(同氏による2012年3月18日の日本での医師向けセミナーの資料による。大和田幸嗣「内部被曝の危険性」『原発問題の争点』緑風出版)。
 したがって、われわれは、政府の言う100mSv未満の被曝も、農家が独自に設定した20Bq/kgの食品基準も、安全・安心では「ない」と明解に結論することができます。
 ご質問と台湾・香港の状況をお知らせいただき、本当にありがとうございます。核のない世界を実現するための皆さまのご尽力・闘争に連帯の挨拶を捧げたいと存じます。


追加質問1:
 カリウム40やセシウム137は、異なる放射性物質ですが、人への影響に関しまして、同じリスクモデル計算を使用することができるのでしょうか?

回答:
 基本的にはできません。ですが、実際には、つまり実務的には、同じモデルを使って、その後、セシウム137の場合のリスクの大きな過小評価を補正するほかありません。
 ご指摘の通り、ICRPリスクモデルを使う場合には、カリウム40もセシウム137も、線量に応じて同じリスクとして評価されます。しかし実際には、同じように内部被曝であっても、リスクは同じではありません。
 カリウム40は、水溶性で、体内にかなり一様に拡散しますので、被曝もかなり均一になり、外部被曝に近くなります。他方、セシウム137は、とくに不溶性の放射性微粒子(炉心のメルトダウンと爆発により大量に生じました)として体内に侵入してきた場合、危険性は極めて高いと考えなければなりません。福島原発事故では、セシウム137の放射能量の約半分は、このような不溶性の微粒子、残り半分はイオンと考えてよいでしょう(佐藤志彦氏ら、地球惑星科学連合大会2016での報告)。
  https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2016/subject/MAG24-P01/detail
 このような不溶性微粒子は、周辺の細胞に放射線を長期にわたり集中的に照射するので、被曝量は桁違いに大きくなります。しかも排出されにくく、長期に体内に留まります。ECRRは、このような不溶性微粒子による内部被曝の危険性(生物物理学的損害係数)を、カリウム40による内部被曝の20〜1000倍と評価しています(ECRR勧告日本語版95ページ)。さらにECRRは、セシウム137が2段階壊変しベータ線とガンマ線を照射するので、危険度をさらに20〜50倍としています。つまり400〜5万倍と考えるべきでしょう。
 セシウム137は、体液に溶解した場合でも、カリウムよりイオン径が少し大きく、カリウム・チャンネルを通過するのですが、その通過速度が極めて遅く、それによって濃縮され、心臓や腎臓その他の特定の臓器に蓄積されます。
 もう一つは、壊変後の毒性の違いです。カリウム40もセシウム137も、放射線を放出して他の元素に変わりますが、その壊変後の元素の毒性の違いも、リスクの大きさに加わります。
 つまり、カリウム40は、ほとんどが体内に多くあるカルシウムに、1割程度が不活性なアルゴンに変わりますが、両方とも毒性はほとんどありません。
 他方、セシウム137は、放射線を出してバリウムに変わりますが、バリウムには細胞のカリウム・チャンネルの機能を阻害する働きがあり、毒性があります。とくに、カリウム・チャンネルが重要な役割を果たしている心臓や神経系などの情報伝達に、機能障害を生じさせる可能性があります。
 このように、化学的には性質の似ているカリウム40とセシウム137は、その放射線学的危険性において大きく異なり、セシウムの方が桁違いにリスクが大きいのです。


追加質問2:
 私達は、ICRPは広島の原爆の数値を元に定められ、人工放射線のみに限るものと存じております。カリウム40は自然放射性核種です。
 しかし、カリウム40は体内に存在するカリウムチャネルによって処理され、一定の濃度以下に保たれます。人工放射性核種セシウム137の体内での状況とは異なります。この2つの異なる核種を、同じ放射線リスクモデルで換算し、語ることは可能なのでしょうか。
 香港と台灣では、天然放射線は大した問題ではないという宣伝が満ち溢れています。そのうえ、カリウムは人類にとって必要なものであり、多く摂取しても問題ないという見解が存在します。カリウム40のリスクに関する研究をご存じでしたら、ご教示いただければと存じます。


回答:
 ご質問の点、以下のように考えております。
 (1)ご指摘の「K40は、体内に存在するカリウムチャネルによって処理され、一定の濃度以下に保たれます」という点、その通りです。ですから、K40による被曝は、体内でほぼ一様になり、外部被曝の場合に近くなります(同じではありませんが)。つまり、ICRPがリスクモデルの前提としている外部被曝と同一のモデルを適用しても、それほど現実とかけ離れないと考えられます。以上が、私が自然放射線のリスクを推計するために、ICRPモデルを適用可能と考え、その補正によって現実の被曝リスクに接近できると判断した理由です。
 (2)もちろん、K40には、体内で、(a)がんをもたらす遺伝子変異の蓄積や細胞老化の促進などネガティブな作用と共に、(b)一様に活性酸素を産生し、体内の異物や毒素の分解を促すというようなポジティブな作用も、同時に果たしている可能性も否定できません。
 生物進化の結果、このようなK40をめぐるプラスとマイナスの微妙なバランスが、生体内で成立している可能性は、否定できません。ただ、この場合でも、K40のネガティブな(a)の作用は必然的に生じるので、K40が「心配ない」「問題ない」ということにはなりません。まして、K40と同程度(4000Bq、年間0.17mSv)までのCs137/134の体内への摂取は「安全」「心配ない」というようなことには、決してなりません。
 Csの場合には、被曝の様式が異なりますので、前に書きましたように桁違いのリスク(ECRRによればK40の20〜1000倍)になります。
 (3)「カリウム40のリスクに関する研究」はないかとのご質問ですが、私のK40や自然放射線についての議論は、ジョン・W・ゴフマン氏の『人間と放射能』(日本語版)、原著John W Gofman; Radiation and Human Health 1981に基づいています。その第18章第1節が、自然放射能によるがん死数推計に充てられています(日本語版)。K40のリスクについても含まれています(481〜483ページ)。
 ゴフマン氏は、自然放射線それ自体の危険性をはっきりと指摘し、自分のリスクモデルを自然放射線にも適用し、「地球起源の放射線による被曝とがん死数」を、全米で年間4万7500件ほどと推計しています。うち、K40は、地球起源の放射線による被曝量全体の33.7%を占めているとしています。
 ここからは、私の計算ですが、K40による被曝がもたらしているがん死数は、全米で年間約1万6000件程度になります。現在の日本の人口を当時のアメリカの半分くらいとすると、日本についてはおよそ年間8000件ほどとなります。ですから、ICRPリスクモデルが自然放射能にも適用できると「仮定」(もちろん私が行った仮定ですが)して計算した、年間約1000件というリスクは、過小評価ではあっても、決して法外な推計やリスクの過大評価ではありません。
 (4)これには、他のやり方もあります。ここでは詳論できませんが、日本における住民の平均被曝量5.97mSv/年(政府が発表している自然放射線プラス医療用など人工放射線)と、年間のがん死総数(事故直前年)35万3500人から、仮にがん死がすべて放射線によるものであったと仮定した場合のリスク係数が計算できます(約4700/1万人・Sv)。
 ICRPのがん死のリスク係数(450/1万人・Sv)は、ちょうど10分の1程度です。ですから、現に起こっているがん死の1割程度が放射線関連、さらにその3分の1(3%程度)が自然放射線関連だということになります。
 これによっても、ICRPモデルを使用することに、不自然さはありません。もちろん、ICRPのやり方で計算すると、どうしても放射線によるがん死者数などは過小評価になってしまいますが。台湾の統計に基づいてもやってみてください。

謝辞:この文章を作成するにあたってご協力いただいた、台湾のフリージャーナリスト宋瑞文氏、GoWest-
ComeWestの会の皆さま、とりわけK氏と石津望氏に、また事前に内容をチェックいただいた山田耕作・遠藤順子両氏に、深く感謝いたします。

The Japanese Government Is Lying to the International Community: the Radiological Situation in and around Fukushima is NOT Safe Etsuji WATANABE

Nov. 2017
 

The Japanese Government Is Lying to the International Community: the Radiological Situation in and around Fukushima is NOT Safe

Appeal from a Japanese Anti-nuclear Activist
Etsuji Watanabe
Nov.29 2017 Revised (Oct.12 2017)


 
〖Please download the following link.〗
The Japanese Government Is Lying to the International Community: the Radiological Situation in and around Fukushima is NOT Safe(pdf,15pages,2250KB)
 

Etsuji Watanabe: Member of the Japanese anti-radiation citizen-scientist group ACSIR (Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures)
Special thanks to Mrs Yuko Kato, Mr Ruiwen Song, Ms Nozomi Ishizu, Mrs Kurly Burch, Ms Jennifer Alpern, and Mark Bennett
Yuko Kato: Evacuee from Fukushima, member of the Kansai plaintiff group for compensation against TEPCO and government
Ruiwen Song: Taiwanese freelance journalist


The Japanese government has created foreign language websites which provide the information about radiology in general and the radiological situation in Fukushima. Journalists around the world, our friends and acquaintances living abroad are continually asking us whether the information that these Japanese central and local government websites present to the international community is correct or not. The following is our answer.

[Question 1]
The stories uploaded on these websites give people the impression that worrying about radiation is unnecessary. As for this impression, has Fukushima now really become a safe place to live or visit?


[Answer]
First of all, Japanese anti-nuclear activists and evacuees from contaminated areas in Fukushima and Kanto, have been warning people all over the world NEVER to trust what the Japanese government is saying about both radiology in general and the specific radiological health effects caused by the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant disaster (hereafter Fukushima accident) following the Great East Japan Earthquake and Tsunami on March 11th, 2011.

Prime-minister Shinzo Abe and the Japanese government as a whole including Fukushima prefectural government have repeatedly declared that "with regard to health-related problems (of the Fukushima accident), I (Abe) will state in the most emphatic and unequivocal terms that there have been no problems until now, nor are there any at present, nor will there be in the future." (Abe's statement at a news conference). See the Japanese government website below.
http://japan.kantei.go.jp/96_abe/statement/201309/07argentine_naigai_e.html

This claim is completely fabricated and false. In making these claims, the Japanese government is blatantly ignoring the vast number of studies in radiological sciences and epidemiology that have been accumulating historically. By engaging in this behavior, the Japanese government has been systematically deceiving the public, both nationally and internationally.

Just think of the amount of radioactivity released during the Fukushima accident. As you know, one of the standards used to assess the extent of radioactive releases and longtime human health effects is the levels of cesium 137 (Cs137) released into the environment. Based on the Japanese government data (which is an underestimate), the Fukushima accident released 168 times the Cs137 discharged by the atomic bomb dropped on Hiroshima. This amount is almost the equivalent to the total atmospheric nuclear explosions conducted by the United States on the Nevada test ground. The Nevada desert is not designated as a residential area, but the Japanese government has recommended evacuated residents return to live in areas with radiation levels of up to 20 mSv/year. By removing economic support for evacuees, the Japanese government has forced many people who had evacuated from these areas to return.

We estimate that in the Fukushima accident approximately 400-600 times the Cs137 were released into the atmosphere by the atomic bomb blast in Hiroshima. Roughly 20% of the Cs137, or 80-120 Hiroshima-equivalents, were deposited on Japan. Of this, the decontamination efforts have only been able to retrieve five Hiroshima-equivalents. The waste from decontamination efforts is typically stored all over Fukushima mostly in mountainous heaps of large plastic bags. This means that 75-115 Hiroshima-equivalents of Cs137 still remain in Fukushima, surrounding prefectures, and all over Japan.









In addition, the Japanese government is now planning to reuse the retrieved contaminated soil under 8000Bq/kg in public works projects all over Japan. This self-destructive program has now been partially started without any announcements as to where the contaminated soil are and will be reused, under the pretext of "avoiding damage caused by harmful rumors". This project is tantamount to scattering lethal fallout of Cs137 equivalent to about 5 times that of Hiroshima bomb all over Japan. The Japanese government is literally behaving like a nuclear terrorist.

Do you really imagine that Fukushima prefecture and surrounding areas, contaminated as they are to levels similar to the Nevada test site, is really a safe place for people to permanently live, or for foreign tourists to visit and go sightseeing?

Regrettably, we must conclude that it is not, for either residents or tourists the situation in Fukushima is not safe.


[Question 2]
These websites also point out that the international annual dose limit for the public is at 1mSv, but this level is easily exceeded by only one CT-scan, insinuating that this 1mSv standard is set too low and thus not a useful indicator.


[Answer]
CT-Scans are often cited as if they had no radiation risks, But this is not true. A recent study clearly shows that every CT-scan (about 4.5mSv irradiation) increases the risk of cancers in children by 24%. See the website below.
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
In Fukushima the allowable level of radiation per year for residents is now 20mSv. Can you imagine having 4-5 CT-scans every year?


[Question 3]
One of the websites states: "In Fukushima, the indoor radiation doses are now so reduced that no radioactive cesium can be found in the air. Therefore, no radioactive particles can invade the human body during breathing." What do you think of this statement?


[Answer]
The Japanese government also ignores the long term peril caused by "hot particles" ――micron-and- nano-sized radioactive particulates――which, if inhaled or absorbed into the human body, may lead to many kinds of cancers and other diseases including cardiac failure. We should consider internal irradiation to the cells near the radiation sources to be 500 times more dangerous than external irradiation because particles inside the body radiates very near or even inside cells, causing intensive damage to DNAs and other cell organs such as mitochondria.


[Question 4]
These websites explain that there exists not only artificial but also natural radioactivity, thus people are living in an environment surrounded by radiation all the time in everyday life.


[Answer]
One of the main tactics that the Japanese government often uses to propagate the "safety of low level irradiation" is to compare artificial radioactivity with natural radioactivity. But this logic is a methodological sleight of hand. It is crystal-clear that even exposure to natural radioactivity has its own health risks. Cancers sickened and killed people long before artificial radioactivity was used. For example, Seishu Hanaoka, one of the founders of Japan's medicine, carried out 152 breast cancer surgeries from 1804 to 1836.

Both kinds of radioactivity have their own health risks. Risks caused by artificial radioactivity should not be compared but be added to the natural radioactivity risks as they both lead to the accumulation of exposure.

For example, potassium 40 (K40) is a typical natural radioactive nuclide. According to the Japanese government, the average internal exposure dose for adults from K40 is about 4,000Bq/year or 0.17mSv/year. See the website below (in Japanese).
http://www.kantei.go.jp/saigai/pdf/g31_siryou5.pdf

The ICRP risk model (2007) allows us to estimate the approximate risk posed by K40. The calculation shows that K40 is responsible for approximately 4,000 cancer cases and 1,000 deaths every year. If the same amount of radiation was added to that of K40 in the human body by artificial sources, the cancers and mortalities would be doubled to 8,000 and 2,000 a year, respectively. Based on the ECRR (2010) model, which criticizes the ICRP risk model as a severe underestimate, these figures should be multiplied by 40, reaching 320,000 and 80,000, respectively.

The extract you cite from the Fukushima government website is completely fake: "In Fukushima, the indoor radiation doses are now so reduced that no radioactive cesium can be found in the air. Therefore, no radioactive particles can invade the human body during respiration". Reports from civic radiation measurement stations refute this claim. For example, dust collecting paper packs of vacuum cleaners used in Iwaki City, Fukushima prefecture, are radiologically measured and 4,800-53,900Bq/kg radioactive cesium was detected in Oct-Dec 2015. See the website below (in Japanese).
http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf


[Question 5]
One of the websites says that the Fukushima prefecture has conducted whole-body counter screenings of the 170,000 local population so far but cesium was rarely detected." Does this mean that we can safely consume food from Fukushima, and Fukushima residents are no longer being exposed internally to radiation?

[Answer]
This is a typical example of demagogy by the Japanese government: vague expressions lacking specific data, using the words "safe and secure" without clear explanation. In reality, the government has not publicized any data indicating serious irradiation of the population. For example, you mentioned the Fukushima prefectural government website saying that whole-body counter screenings of 170,000 members of the local population have found radioactive Cs only in very few cases. However, the fact that no specific number is given makes the statement suspicious.

These statistics, more than likely, exclude many firefighters or other municipal employees who, at the time of accident, helped local residents evacuate from a lot of contaminated areas surrounding the defunct Fukushima plant. These people were subjected to serious radiation doses.

Civic groups' efforts for the disclosure of information has recently prompted city officials near the defunct plant to disclose the fact that it conducted whole-body counter check-ups on about 180 firefighters, nurses and municipal employees. According to Koichi Ohyama, a member of the municipal assembly of Minami Soma, the screening conducted in July, 2011, showed almost all of these people tested positive in Cs. The maximum Cs137 dose among the firefighters was as high as 140,000 Bq. This data reveals a part of the reality of irradiation but it is only a tiny part.


[Question 6]
The government websites suggest that no health effects from irradiation have been reported in Fukushima. Is this true? Or have any symptoms appeared that indicate an increase in radiation-induced diseases in Fukushima?


[Answer]
One example is the outbreak of child thyroid cancer, but the Japanese government has been denying the relationship with irradiation from radioactive iodine released from the Fukushima disaster.

Japan's population statistics reflect the health effects from the Fukushima disaster radioactivity. The following data clearly show that diseases increasing in Fukushima are highly likely to have been radiation-induced.













[Question 7]
The Fukushima prefecture website says, "After the Fukushima accident, the Japanese government has introduced the provisional standards for radioactive iodine and cesium. The Fukushima prefectural government subsequently strictly regulated distribution and consumption of food with levels of radioactivity exceeding the provisional standards. Now we have had this new much stricter standard. The distribution and consumption of food exceeding this new standard has been continuously regulated; therefore any food on the market is safe to consume." Is it true?


[Answer]
As for food contamination, the Japanese government has also tried to cover up the real picture. First, the current government standard for radioactivity in food, 100Bq/kg, is dangerously high for human health, especially for fetuses, infants, children and pregnant women. Even six and a half years after the accident, the Agriculture Ministry of Japan as well as many civic radioactivity measurement stations all over the country have reported many food contamination cases, although the frequency is evidently reduced. See the website below.
http://en.minnanods.net/

The Japanese government has underestimated the danger presented by internal irradiation. But, we must consider two important factors. (1) The wide range of difference in personal radio-sensitivity. According to Professor Tadashi Hongyo (Osaka University Medical Faculty), the maximum difference is as wide as 100 times in terms of biological half-life of Cs137. (2) Recent studies denying that the so-called biological half-life decrease curve actually exists. According to the new model, daily food contamination can cause concentrations to accumulate as time passes. Even a daily 1Bq internal radiation dose from food cannot be safe for human health (details below).

Our recommendation is to be cautious of food or produce from Fukushima and the surrounding areas, and, even if contamination levels are said to have now generally decreased, to avoid jumping to the conclusion that all the food is fit to eat.


[Question 8]
We would like to ask about the situations in prefectures surrounding Fukushima. A television program once reported, "As for the safety of Tochigi and Gunma prefectures, few people are raising concern about health effects of radiation." Is it true that the prefectures somewhat distant from the Fukushima Daiichi plant are now safe with no human risk?


[Answer]
Regarding the radioactive contamination in prefectures surrounding Fukushima, you can refer to the following website.
http://www.gowest-comewest.net/statement/20170825english.html
This article examines the contamination in the Tokyo metropolitan area, but conditions are the same or more serious in Tochigi or other prefectures north of Tokyo, nearer to the defunct Fukushima Daiichi plant.

Another example is the statistics of stillbirth and neonatal mortality in Fukushima and the surrounding five prefectures (Tochigi, Gunma, Ibaragi, Miyagi, Iwate) shown below.


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5044925/

Perinatal mortality in not only Fukushima prefecture but also neighboring prefectures rose 15.6% just 10 months after the accidents. This clearly indicates the existence of some kind of human health damage from radiation.


[Question 9]
We would like to ask about the decontamination efforts by famers living in Fukushima and neighboring prefectures. Should we think highly of the farmers measuring the amount of radiation deposited on the surface of soil to create radiation maps for farms, or washing the radiation from the surface of every single tree off the radiation with high-pressure washers? The farmers said that while these methods have been shown to be radiologically effective, their produce did not sell well, because consumers are still feeling anxious about health risks. Does the problem of radioactive food contamination in Japan just end up in whether each consumer personally believes it safe or not?


[Answer]
We must raise a question that, despite the government's decontamination efforts, a huge amount of radioactive materials deposited in mountainous areas remain untouched. Now they are re-dispersing and re-depositing over wide areas of Fukushima and surrounding prefectures via winds, cars, trains, river water, pollen, spores, emissions from incinerators, in the form of radioactive dusts and particulates, among many others. For an example, see the following website.
http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/M-AG38_all_e.pdf

So I regret to say that, although these farmers' endeavors you mentioned are very precious and respectable, they are not sufficient to completely eliminate the risk of radiation exposure from food. The problem exists objectively in the nuclear materials deposited on and in soil, algae, plants, houses, buildings, forests, animal and human bodies, not subjectively in the consumers' sentiment or psychology.


[Question 10]
Japanese experts have recently pitched a cultivation method that can remove cesium by intensive use of potassium fertilizer. Is this method effective at all? Do you have any doubt about their claims?


[Answer]
They seem to be among those experts who have been criticizing the general public's tendency to demand "zero irradiation risk" as an obstacle to Fukushima reconstruction.

As you know, cesium (Cs) has chemically similar characteristics to potassium (K). So it is true that higher levels of application of potassium fertilizer lowers the plant's absorption, and therefore concentration, of radioactive Cs, decreasing Cs137/134 concentrations in produce, often to below the government standard of 100Bq/kg. But the following problems remain: (1) This procedure can prevent Cs transfer from the soil to produce only partly, not completely; (2) This process raises the potassium concentration in the produce and therefore heightens the burdens on certain human organs such as kidneys, the heart and the nervous system, causing new health risks; (3) Heightened concentration of potassium also leads to the heightened concentration of radioactive K40, so the reduced risk of radioactive Cs lead to an increased risk of internal irradiation by K40.


[Question 11]
Even if cesium concentration was reduced by applying more potassium fertilizer than usual, strontium contamination would remain. In Japanese government's international press campaign as to the Fukushima accident, almost nothing has been said about strontium. If you have any information on strontium contamination, let us know.


[Answer]
We regret that the information about strontium that you are asking for is very limited and searching for it is also a challenge for us. The Japanese government and research institutes under the government have reported very limited data regarding strontium contamination. But it is important that the Japanese government admits the fact of strontium contamination within 80km from the defunct Fukushima plant. See the website below.
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5048/24/5600_110930_rev130701.pdf

Did you know that the US Department of Energy data on the strontium contamination of soil in Japan and its visualization (in Japanese) can be seen on the websites below?
https://energy.gov/downloads/us-doennsa-response-2011-fukushima-incident-data-and-documentation
https://news.whitefood.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%81%A8%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%86%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/1861/


[Question 12]
Some Japanese experts say, "the Japanese government has declared that no health effects from irradiation below 100mSv (or 100mSv/year) have been confirmed." Some farmers have established a private food standard of 20Bq/kg, much lower than the Japanese government standard of 100Bq/kg. Do you think that doses under 100mSv or under 20Bq/kg are safe and secure?


[Answer]
As you mentioned, the Japanese government claims that no scientific studies verify that irradiation of 100mSv or less poses a threat to human health, suggesting that irradiation under 100mSv has no risk. This, however, is false. The government is fabricating this information. In fact, very many scientific studies have already confirmed and proven health effects induced by irradiation under 100mSv. For example, see the websites below.
https://ehp.niehs.nih.gov/1408548/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24198200
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3050947/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2696975/

The Japanese government is using the term "100mSv" in a deliberately ambiguous and confusing manner. The expression 100mSv can have three meanings: (1) a one-time irradiation dose, (2) cumulative irradiation doses, or (3) annual irradiation doses. So 100mSv is not the same as, nor equal to the 100mSv/year that you mentioned in parenthesis. The latter amounts to a 1Sv in cumulative dose over 10 years (which is an up to 10% lethal dose), and 5Sv over 50 years (which is a 50% lethal dose). The present government standard for evacuees to return, 20mSv/year, means that living there for 5 years leads to a cumulative dose of 100mSv, at which the Japanese government admits clear health risks.

Regarding 20Bq/kg as some farmers' private food standard, it is critical to pay serious attention to the extraction process of Cs from tissues. Japanese-Canadian non-organic biochemist Eiichiro Ochiai points out in his book "Hiroshima to Fukushima, Biohazards of Radiation" (2014) that, based on the Leggett model, the Cs concentration injected in tissues at one time diminishes relatively quickly for about 10 days in most tissues. After that, processes slow down, tending to become steady. He writes: the decrease of the overall Cs level in the body does not follow an exponential decay curve (p.83). This means that consecutive intake of Cs, even in very low levels, results in the accumulation of Cs in the body. (Incidentally, Ochiai's book can be downloaded for free from the website below.)
https://archive.org/details/HiroshimaToFukushima
Regarding the Leggett model, see the website below.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14630424

Yuri Bandazhevsky considers over 10Bq/kg of radioactive Cs concentrations in the body to be unsafe because even this low level can possibly cause abnormal electrocardiographic pattern in babies, metabolic disorders, high blood pressure, cataracts, and so on.

Therefore, we can conclude unequivocally that neither the irradiation under 100mSv nor the privately set 20Bq/kg food standard are safe and secure.

日本学術会議「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」報告書 全体の欺瞞的性格と現存被曝状況に対する科学者の責任について 渡辺悦司

2017年10月


日本学術会議「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」報告書
全体の欺瞞的性格と現存被曝状況に対する科学者の責任について

――批判シリーズ その1――


市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
2017年10月9日改訂



 
〖ここからダウンロードできます〗
日本学術会議「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」報告書全体の欺瞞的性格と現存被曝状況に対する科学者の責任について(pdf,13ページ,550KB)
 
 
 はじめに:現存の被曝状況に対する科学者と学術会議の責任について

 9月1日、「日本の科学者コミュニティの代表機関」を憲章に掲げる日本学術会議が、「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題―現在の科学的知見を福島で生かすために―」と題する報告書を発表した。それは読むものを唖然とさせる。
 そもそも、学術会議報告が問題にしている「放射線被ばく」とは何だろうか。学術会議は、1949年の発足以来一貫して原発推進政策を先頭に立って進めてきた。その原発推進の結果が、福島第一原発での重大事故と放射能汚染であり、福島とその周辺諸県の住民、東京・関東圏の住民ひいては日本国民全体を覆っている現在の被曝状況である。その放射線源は、過小評価された日本政府の発表でも、長期的影響を評価する際の指標とされるセシウム137ベースで、広島原爆168発分、そのうち日本の国土に降下したそのおよそ2割、広島原発約34発分である。つまり、学術会議報告が問題にしている「放射線被ばく」とは、いわば、学術会議自身が、原発推進に協力することによって、自分でつくりだした結果なのである。
 注:これは明かな過小評価であり、実際には大気中放出で400〜600発分程度、海水中・汚染水中への放出を入れれば4000発程度であろうが、今はこれらの点は置いておく。
 学術会議報告は、「健康影響に関する科学的根拠」として「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」「国際放射線防護委員会(ICRP)」などの国際機関の見解に依拠するとしている。だが、これら国際機関のリスクモデルが示しているのは、極めて多数の成人と子どもの病気と死が現在までおよび今後の被曝により生じるという予測である(後述)。いわば「静かに進む住民のとくに子どもの大量健康破壊と大量死」というのが現在の被曝状況なのである。
 本来、原発推進に一貫して協力してきた学術会議は、事故を引き起こし国土を放射能で汚染し人々に莫大な損害と健康被害を与えたことに対して有責であり、主犯である東電・日本政府と共に、共犯者として責任を問われ、また然るべき罰を受け、償いをしなければならない。つまり、学術会議報告が扱っている「被ばく」とは、学術会議自身の過ちが引き起こした、それに対し本来ならば訴追を受けるべき学術会議自身の犯罪のことなのである。
 ところが、驚くべきことに、学術会議報告には、この、原発事故とその結果生じた「被ばく」状況に対する科学者の責任、その「代表」としての学術会議の責任について、何の言及も、何の反省の弁も、被害者への何のお詫びの言葉もない。何もない。正反対である。
 学術会議報告は、事実上、自分が重要な役割を果たした重大過誤の結果として生じている「子ども」の放射線被曝による健康被害の全てを、「科学」の名において「予測されない」と全否定する。事故による被曝のリスクは、100mSv以下の健康影響のない「わずかなリスク」だからは「社会的に受忍しなければならない」と主張する。「ゼロリスク」を求める住民に対して矛先を向け、「科学的知見」と称するもの(福島事故健康被害ゼロ論)を伝達する「放射線リスク教育」の実施を求めている。自分の犯罪の結果として生じている被曝状況と、それによる子どもと住民の大量健康破壊と大量死とを、恥知らずにも、「科学」の名の下に全否定し、国民に「受容」を要求し、「教育」という名の洗脳を実施し、自己の犯罪を正当化しようと試みているのである。
 犯罪者が、自分の犯した過ちの重大な結果について、何の反省もなく、責任も取らず、「科学によれば何の被害も予測されない」と主張したとしても、誰がその言説を真摯なものと受け取るであろうか。本来なら責任追及と訴追を受けるべき日本の科学者の「代表」が、破廉恥にも居直って、広島原爆168発分の放射能が日本と世界に降り注いでも「何の健康被害ももたらさない」と公然かつ堂々と主張するのであれば、それは「科学」の仮面をかぶったデマ以外の何物でもない。
 日本の科学者の「代表」たる学術会議は、単なるデマ集団に堕してしまったのだろうか。子供たちが、住民が、放射線影響による「確率的」な死に瀕しているだけではない。日本の科学の基本精神が、科学者の良心が、死に瀕している。今回の学術会議報告は、いわば、「死臭ふんぷんたる」最悪の文書なのである。

 学術会議報告の主要な論点

 学術会議報告は、日本政府がこれまでから主張してきた、事故放出放射能による健康被害全否定論(ゼロリスク論)を、「子ども」の被曝と健康影響に押し広げ、さらには「子ども」への放射線診断・治療の被曝影響にまで拡大することを主眼としている。同報告の主要な論点は以下のように要約できる。

①子ども(学術会議は0〜18歳を子どもと定義)の放射線感受性は成人の2〜3倍、甲状腺の場合乳児で8〜9倍(最大29倍)であることを認めた上で(2、4ページ)、「標準人の実効線量の推定値として求められた実用量」(被曝基準のこと)が「子どもにとっても十分安全側の推定値となっている」(つまり「年20mSvで帰還」というような基準をそのまま子どもに適用すればよいという主張)(5ページ)。
②子どもについて、生涯のがん発症リスクは成人の「3倍」であるが、それでも「事故による放射線被ばくに起因し得るがん」が被曝した子どもの間で「増加するとは予測されない」(ii、2、3ページ)。
③事故による死産、早産、低出生時体重、先天性異常、遺伝性影響は「みられないことが証明された」(9ページ、14ページ)。
④福島の子どもの甲状腺がんが、放射線関連である「理論上のリスクはある」が、実際には「放射線誘発がん発生の可能性は考慮しなくてもよい」(ii)。
⑤しきい値なし直線モデル(LNT、低線量でも被曝量に比例してリスクがあるというモデル、UNSCEAR、ICRPなどの国際機関のリスクモデルの基礎となっている)は「科学的妥当性の検証」を行わなければならない(つまり、低線量ではリスクがゼロとなる「100mSv しきい値」モデルを採用すべきだと示唆)(iiiページ、16ページ)。
⑥放射性セシウムについて「内部被ばくに比べ外部被曝の方が(被曝量が)はるかに大きい」(内部被曝とくに放射性微粒子の危険性の無視・軽視)(12ページ)。「食品中の放射性セシウムから人が受ける放射線量」は「極めて低い」、「学校給食の検査には被曝低減の効果はほとんどない」(廃止を示唆)(13ページ)。
⑦福島県県民健康調査の検査結果は、子どもの「心に傷を負わせる」ので、「知らない権利」を尊重し、公表のあり方について「議論を深める」べきである(非公開の方向で検討すべきと示唆)(iii、18ページ)。
⑧いろいろな「動植物の奇形」の報告は「流言飛語レベルの情報」である(10ページ)。
⑨「子どもへの放射線診断・治療の(高線量を含めての)適用が広がる傾向」があるが、これを推進するように、規制上も検討すべきである(放射線防護原則を1950年代のアリス・スチュアートの調査以前に戻すことを示唆)(7〜9ページ)。
⑩「科学的知見を一般社会に正しく伝達するリスクコミュニケーションと放射線リスク教育」を行う方向で検討すべき(12ページ)、等々。

 これに対して、私の知っているだけでも、すでに科学者や医師の中から、「学術会議の権威のもとウソを国民に信じ込ませるもの」「憤りを通り越して笑えてしまう」「インチキなだけでなく日本民族の滅亡に導く」という鋭い批判が上がり始めている。それは当然である。日本のすべての科学者と医師・医療従事者、さらには国民全体に、この報告を認めるか拒否するか、歓迎・推進・迎合・屈服するのか批判・闘争するのかが、文字通り「迫られている」のである。

 「予防原則」が欠落した極めて危険な文書

 最大の問題は、学術会議報告には、放射線防護における「予防原則」の基本精神が全く欠如していることである。つまり、子どもを「放射線被曝から防護する」という基本的観点に欠け、子どもを「被曝させても影響がない」という方向性を、「科学」的外観の下に、欺瞞的にしかし露骨に、主張していることである。
 被曝の健康被害についての学術会議報告のキーワードは、「因果関係は判断できない」「確認されていない」「証明されていない」「証拠がない」「検証できない」「有意でない」等である。いま、仮にそうだと仮定しよう。その場合でも2つの選択が可能である。①予防原則に従って、「確認されていない」が「ある」可能性のあるリスクを回避し、被害を「予防」する方向で判断し、防護策を講じるか、②「確認されていない」リスクは「ない」ものと判断し、「被曝しても影響はない」と評価して、リスクの回避も防護手段も採る必要はないという方向をとるかである。これはまさに決定的な分岐点である。
 学術会議報告では、放射線防護研究者の多数の見解として以下の主張がなされている。「被ばく線量が少ない場合(チェルノブイリと比較しての福島原発事故の場合が示唆されている)、わずかなリスクの増加があったとしても、日常生活における被ばく量や他のリスクに比べて十分小さいのであれば、社会的に容認できる=これ以上の防護方策を講じる緊急性は乏しい、と考える」(15ページ)と。
 学術会議報告は、2つの選択の中で、「未確認」リスクを無視する方向を選択し、子供たちの生命と健康を被曝リスクに曝し、子どもの基本的人権を踏みにじり、さらには科学者としての最低の良心、社会生活において最低限守られるべき信義・誠実の原則にさえ悖(もと)る主張を展開する道に進んだ。

 不誠実で欺瞞的な文書

 同じく深刻な問題は、文書が極めて不誠実で欺瞞的である点である。その例は多数挙げることができる。
 学術会議報告は、端的に言って「国際権威主義」である。UNSCEARやICRPなどの報告書が「健康影響に関する科学的根拠」である(iiページ、2ページ)として、真理の基準を、科学や科学研究それ自体ではなく、外的な権威に求めている。これは、科学のもつ客観性を頭からの否定するものだが、この点の検討の前に、学術会議報告が、UNSCEARなどの報告書でさえ、不正確どころか極めて不誠実に引用している事実を指摘しなければならない。
 例を挙げよう。放射線の遺伝性影響が人間について「ある」か「ない」かという根本問題において、学術会議報告は、UNSCEAR 2001年報告に依拠して次のように述べている。「原爆被爆者二世をはじめとして、多くの調査があるが、放射線被ばくに起因するヒトの遺伝性影響を示す証拠は報告されていない」(3ページ)と。これだけ見ると、UNSCEARは遺伝性影響が「ない」かのように示唆していると思われても仕方がない。
 ところが、元のUNSCEARの報告書の方は、たしかに学術会議報告が引用した内容を述べているが、それにすぐ続けて、結論として次のように結んでいる。「しかし、植物や動物での実証研究で、放射線は遺伝性影響を誘発することが明確に示されている。ヒトがこの点で例外であることはなさそうである」(『放射線の遺伝的影響』9ページ、100ページ)と。つまり、UNSCEAR報告は、放射線の遺伝性影響は、動植物の場合と同様に、人間についても「証拠は報告されてない」が「ある」可能性が高いというのである。人間の遺伝性影響は「ない」を強く示唆する学術会議報告は、UNSCEARと全く反対の評価をしているのである。

 遺伝性影響の存在は実証されている

 しかも、この「放射線被ばくに起因するヒトの遺伝性影響を示す証拠は報告されていない」という評価は、明らかに誤りである。
 学術会議報告自体が、この評価を述べたすぐ後に、それに全く反する形で「臓器の奇形発生」「生後の精神発達遅滞」「小頭症」を遺伝性影響の具体的形態として挙げている(3ページ)。
 欧米で一般的に使われている大学の教科書、リッピンコット『放射線医・技師のための放射線生物学』(英文)を見てみよう。それによれば、母胎内で被爆して出生した被爆者の調査は、小頭症と知的障害(精神発達遅滞)について、放射線影響を明確に認めているだけでなく、小頭症についてはしきい値がない(低線量でも発症が被曝量に比例する)可能性が高いことを指摘している(179〜182ページ)。
 同書は、医療被曝した患者の事後研究によって、上の2例に加えて、さらに二分脊椎、両側内反足(足の奇形)、頭蓋骨の形成異常、上肢(腕)奇形、水頭症、頭皮脱毛症、斜視、先天性失明など、多くの先天性異常が報告されていると明確に記載している。

 UNSCEAR、ICRPは人間の遺伝性影響を認めている

 国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告は、放射線の遺伝性影響の存在を「明確に」(これは同勧告自体の言葉)認めている。同勧告は、遺伝性のリスクを1万人・Svあたり20例、うち致死性を16例、非致死性(つまり生児出産)を4例と推計し明記している(143ページ、表としては139ページなど、またこれは線量線量率係数DDREF=2の下でのことなので、低線量に関する評価である)。だが、学術会議報告はこの点を無視している。
 さらに、UNSCEARやICRPは、遺伝性影響について、倍加線量(DD)という基本概念を提起しているが、学術会議報告はこれも無視している。これら国際機関によれば、倍加線量は1Gyと推計され(UNSCEAR推計の中央値は0.82Gy)、この量の被曝により、自然的に発生する突然変異発生数と同数の突然変異が誘発されると考えられている(UNSCEAR前掲書101ページ、ICRP175ページ)。
 現在の日本の年間出生数はおよそ100万人なので、UNSCEARの先天異常の自然発生確率6%(前掲書100ページ)を採用すると、自然発生的な「先天異常」の生産児は年間約6万人となる。DD=1Svを用いると、政府がそれ以下では放射線影響が「ない」と言う100mSvを被曝したと仮定とすると、上の10分の1の約6000人に先天異常の過剰発生が予想される。政府の帰還基準の年間20mSvとして年1200人、公衆の被曝基準の年間1mSvとしても年60人に先天異常の過剰発生が想定される。国際機関によれば、先天性異常の発生が「ない」とは決してならないのである。
 UNSCEARは、いろいろな遺伝性の「慢性疾患」を持つ自然発生の生児出産数を、生児出生全体の65%と推計している。日本での年間出生数100万人あたりおよそ65万人である。したがってこの場合も、LNTを前提すれば、100mSv被曝で約6.5万人(合計で72.5万人)、年間20mSvで年約1.3万人、年間1mSvでさえ年650人の過剰発生となる。
 もちろん、UNSCEARは、この場合にも、この予測される数値に、さらに「突然変異成分」と「潜在的改修能補正係数」を掛けて係数操作し、先天異常について上記の4.5〜9%に、慢性疾患については0.04〜0.18%にしている。しかし、それでも、親の被曝1Gyに対して100万人あたり合計で3000〜4700人の遺伝性影響が「ある」と推計している(94〜95ページ)。被曝量100mSvではこの10分の1であるので、300〜470人、年間20mSvの場合はこの50分の1であるので、年間の被曝に対して60〜94人である。
 このように、国際機関の評価によれば、遺伝性影響のリスクは決して「ゼロではない」。かなりの数である。学術会議報告が試みている「ヒトでは遺伝性影響がない」「胎児影響はないことが証明されている」という議論の方向付けは、明らかに、学術会議報告が「科学的根拠」と称する国際機関の見解にさえ真っ向から反する、明確な嘘であるといわざるをえない。
 もちろん、これら国際機関のリスクモデルには大きな過小評価がある。欧州放射線リスク委員会(ECRR)によれば、遺伝性影響の分野ではとくに大きく、2000分の1から700分の1程度の過小評価があるとされる(『2010年勧告』221ページ)。また、学術会議報告が無視している問題として、放射線被曝による精子・卵子への影響とくに精子数の低下、受胎数・妊娠数の減少、流産・死産の増加、それらの結果としての出生数の低下などの被曝影響がある。だが、今は遺伝性影響が「ある」か「ない」かが問題であり、これらの点の検討は置いておく。

 現実に「ある」周産期死亡率の上昇を「ない」と決めつける

 文書の不誠実さと欺瞞性を表すもうひとつの事例を見てみよう。
 厚労省が毎月発表している人口動態統計にある「周産期死亡」(妊娠満 22週[154日]以後の死産と,生後 1週未満の早期新生児死亡を合わせたもの)の動向において、汚染度が高い福島と周辺諸県の周産期死亡率が、事故10ヵ月後から15.6%上昇したことが、ドイツのハーゲン・シェルブ氏や日本の森国悦・林敬次医師らによって報告され、ドイツやアメリカの複数の国際的医学雑誌に掲載されている。周産期死亡率にはっきりと事故の影響が見られることは、いまや証明された科学的事実である。
   注:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5044925/
 だが、学術会議報告は、「死産、早産、低出生時体重および先天性異常の発生率に事故の影響が見られないことが証明された」(9ページ)と一方的に決めつけている。しかもこの結論は、上記の国際機関以外のわずか2本の論文を参照して導き出されており、異論の存在さえ指摘されていない。

 LNT(しきい値なし直線モデル)否定の方向を示唆

 学術会議報告が、「科学的根拠」とするという国際機関の見解に真っ向から反しているもう1つの事例は、LNT(しきい値なし直線モデル)の評価である。
 学術会議報告は、LNTについて「LNTモデルが科学的に実証された根拠として認めるかどうかには、専門家の間で見解の相違がある」「LNTモデルの科学的妥当性の検証は極めて重要な論点になる」として、LNT見直しの方向を示唆している。だが、この場合には、なぜか「科学的根拠」としてのUNSCEAR報告は引用していない。
 しきい値(閾値、しきい線量ともいう)が存在するかどうかに関する議論について、UNSCEAR2006年報告書は、たしかに「疫学だけでは放射線リスクにしきい線量が存在するかどうかについての問題を解決することはできないだろう」と書いている。だが、それを述べた後、UNSCEARは「生物学的機構のより良い理解が不可欠である。とくに、極めて低い線量におけるリスク上昇を疫学的方法によって検出できないことは、がんリスクが上昇していないことを意味しているのではない」とわざわざ警告している(2006年報告5ページ)。UNSCEARは、学術会議報告の示唆する方向を、リスク軽視として批判しているのである。UNSCEARはまた「DNA修復の研究および放射線腫瘍形成の細胞・分子的過程は、腫瘍の誘発一般に対して低線量しきい値があるであろうと仮定する良い(有効な)理由を提供しない」(2000年報告[原書]10ページ、訳文はICRP211ページより)とも指摘している。
 ICRPも同じである。「約100mSvを下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん・遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうと仮定する」のが「科学的にもっともらしい」としている(17ページ)。さらに、「直線しきい値なし(LNT)モデルが、放射線被ばくのリスクを管理する最も良い実用的なアプローチであり、『予防原則』(UNESCO、2005)にふさわしい」としている(9ページ)。
 学術会議報告が「科学的妥当性の検証を行わなければならない」としているLNTは、それが「科学的基準」とする国際機関においては「科学的に妥当」であると認められているのである。この点でも、学術会議報告は、自分にとって都合の悪い国際機関の見解には沈黙し、それに真っ向から違反する見解を、あたかもUNSCEARが主張しているかのような書き方をしている。その文書の不誠実で欺瞞的な本質は明らかである。
 現実には、このLNTモデルでさえも、極低線量の放射線リスクの大きな過小評価なのであり、直線ではなく上方に膨れたカーブ、あるいは2回上昇型のカーブとなる可能性が高いのだが、この点もここでは置いておこう。

 集団線量とICRPリスクモデルを無視

 LNTの問題にはもう一つの側面がある。LNTに従って、特定の人々が集団として被曝した場合のリスクが、「集団線量」あるいは「集団実効線量」としてモデル化されている。これら国際機関の被曝リスクモデルは、広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査に基づいて推計され、その後の各種の疫学研究に従って補正されている。これらは、大雑把で、不確実性が大きいが、しかし被曝リスクが「ゼロではない」ことを示している。学術会議報告が「科学的根拠」とするUNSCEARもICRPもすべて、このリスクモデルを提起している。学術会議報告の著者集団に2名を送り込んでいる放射線医学総合研究所も、同研究所編の著作『低線量放射線と健康影響』(最新版は2012年刊)において、このモデルを認めている(162〜163ページ、下表)。


出所:放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響』医療科学社(2012年)162ページ

 同書によれば、UNSCEARの2つの報告書が推計している10万人が100mGy(100mSvとほぼ同じ)被曝した場合のがん死リスク(白血病および固形がん)の最小・最大値は、462〜1460人(生涯期間すなわち成人50年間、子ども70年間に生じる過剰死)である。つまり、特定の人口集団が放射線に被曝した場合、どの国際機関のモデルによっても、決して被害ゼロとはならないことを放医研は自著において公然と認めているのである。
 学術会議報告は、この集団線量と被曝リスクモデルを無視することによって、自分が「科学的根拠」とするUNSCEARやICRPだけでなく放医研の著作さえも裏切っているのである。

 年間20mSv地域への住民帰還で何が起こるか

 たとえ政府の言う「100mSvしきい値論」に立つとしても、避難者10万人が年間20mSv地域に帰還して5年間居住すれば、放医研作成の表の「10万人が100mGy(mSv)被曝した場合」に相当することになる。上記のUNSCEARのモデルによれば、その場合、5年間の被曝により、帰還者のうちがんで亡くなる人が(生涯期間で)およそ460〜1500人増えるということになる。20年経てばその4倍の1800〜5800人、50年で10倍の4600〜1万5000人が過剰死する想定になる。
 子どもの放射線感受性は、学術会議報告自身が最大で3倍と認めている(これも過小評価であり10〜15倍と考えるべきだが、今はこの点も置いておこう)。そうだとすればリスクも上記の3倍と考えなければならない。大まかな計算だが、帰還する子どもの数を(福島県の平均と同じとして)約1.9万人とすると、5年間の被曝で約260〜830人、20年間で約1000〜3300人、70年で約3600〜1万2000人ほどの子供たちが(生涯期間に)過剰に亡くなるという想定になる。
 これらは、UNSCEARやICRPモデルを熟知している学術会議の「専門家」には周知のことであろう。すなわち、彼らが行っていることは、知ってやっているのであり、意図的であり、その結果に対する責任関係では「傷害致死」ではなく「殺人」である。現に生じている事態は、放射線被曝による住民の「大量殺人」を、とくに子供たちの集中的な「大量殺人」を、意味していないだろうか。
 もちろん、ICRPが認めるように、これは「不確実性の大きな」推計であろう。だが、国際機関の見解を「科学的根拠」とするのなら、この集団線量リスクについて、はっきりと指摘するのは、学術会議の最低限の義務である。リスクモデルを批判するのであれば、引用し紹介してから、行えばよいだけである。それを怠れば、国際機関が指摘している集団に対する被曝リスクを、意図的に見過ごし、こっそりと国民の目から隠蔽しようとするものであると批判されても当然である。
 この点でも指摘しておかなければならないのは、これらのリスクが、大きな過小評価である点である。ECRRによれば、上記の数字は20倍されなければならない(179ページ)。またUNSCEARやICRPなどが無視している、がん以外の疾患による被害も加えなければならない。つまり年間20mSvという高汚染地域に住民を帰還させて長期に居住させれば、全員が早死するという、「皆殺し(ジェノサイド)」に等しい状況が生じると示唆されているのである。だがこの点の検討もまたここでは置いておこう。

 国連科学委員会(UNSCEAR)の本質

 ここまで、学術会議報告が、被曝リスクを評価する上で、自分の「科学的根拠」とするUNSCEAR報告やICRP勧告を不正確どころか不誠実に引用し内容を著しく歪めて再現していること、学術会議報告がこれら国際機関の報告「以下」であることを述べてきた。だが、このことは、決して、UNSCEAR報告が科学的に正しく、放射線被曝の危険性を正確に記述していることを意味するのではない。
 UNSCEARは、公式ホームページで書かれているように、核実験による放射能の健康被害に対する世界世論の懸念の高まりに対応して、「放射性降下物(死の灰)などによる被曝の懸念から核爆発の即時停止を求める提案をそらす(deflect)目的で」「放射線の程度(levels)と影響(effects)に関する情報の収集と評価を行うための委員会」として、1955年に当時の核保有国4ヵ国や日本を含む15ヵ国を構成員として設立された。このことからも分かるとおり、UNSCEARは、歴史的に、核兵器保有国の影響力が強く、核保有国の核軍拡の利害、さらには日本など原発を推進する諸国の核開発の利害を強く反映してきた。だが、この利害は、UNSCEARの規定された目的と業務に全く矛盾する。つまり、UNSCEARはどうしようもない二面性と自家撞着を内部に抱えているのである。

 UNSCEARの集団線量リスクモデルの意義と限界

 いままでUNSCEARは、集団線量1万人・Svがもたらす各種がん発症数とがん死者数について、被曝被害が「ある」ことを前提に、リスクモデルの改良を何度となく行ない、世界のいろいろな被曝事象について集団線量を推計してきた。たとえばUNSCEAR1993報告は、その当時までの、核兵器開発、ウラン採掘、原発運転、再処理と核燃料サイクルなどすべての人工放射線源による集団線量を、従ってその被曝被害を、歴史的に、世界の全体像として評価しようと試みた(210ページ、この努力に敬意を表し付表に掲げることとする)。それによれば、総計の集団線量は2350万人・Svとされ、放医研の挙げているUNSCEARのリスク係数462〜1460人/万人・Svのがん死で計算すると、被害想定は約109〜343万人となる。
 原発事故について、UNSCEARの推計によれば、集団線量は、チェルノブイリ事故が全世界で38万人・Sv(2008年報告)、福島事故が4.8万人・Sv(2013年報告)である(これらもまた著しい過小評価であるが、その点の検討も置いておく)。UNSCEARのリスク係数は、前述の通りであるので、ここからは、チェルノブイリ事故で約1.8〜5.5万人、福島事故で約2200〜7000人の人的被害が予測されると言うべきはずである。UNSCEARの集団線量推計では、福島原発事故についても被害は「ある」ことになっている。
 ついでに言えば、学術会議報告は、チェルノブイリで子どもとして被曝した人々の中から6000人が甲状腺がんを発症して手術を受け、うち15人が死亡したと書いている(4ページ)。UNSCEARに従うのであれば、集団線量に比例して、日本では約760人の甲状腺がんの手術例と、うち約2人の死亡が予測されることを当然想定しなければならない。だが、学術会議報告はこの点にも全く沈黙している。

 UNSCEARの方向転換(リスク過小評価からリスクゼロへ)とその矛盾

 UNSCEARは、実際に原発重大事故の被曝被害が問題になるや否や、大きく方向転換を行った。「予測上の容認できない不確かさのため、本委員会は、チェルノブイリ事故による低線量放射線に被曝した集団における影響の絶対数を予測するモデルを使用しないことを決定した」と(2008年報告日本語版第2巻64ページ)。
 だが、リスク係数の数値の「不確かさ」とリスクモデルを「使用する」かどうかは、全く関係のない別次元の問題であるはずである。だが、UNSCEARは、自分の放射線被曝リスクモデルを自分で否定することによって、放射線被曝があり集団線量は推計されてもリスクは「不確か」という論理から、集団線量があっても被曝被害が「ない」を示唆するという、リスクの存在そのものの否定につながる道に進んだ。
 2008年報告では、チェルノブイリでは134人の作業員の被害以外には人的被害は取り扱われず、白血病、甲状腺がん、白内障など一部のがん・疾病以外は事実上「ない」ことにされている。同2013年報告での福島原発事故の場合、最初から人的被害はゼロ、すべてのがん・疾患について全く「ない」ことにされている。
 UNSCEARは、放射線被曝の程度と健康影響を「収集し評価」するという本来的立場と、核保有国、国際原子力複合体、日本など原発推進国が求める、露骨な被曝被害ゼロ論との間で、いわば完全な股裂き状態、完全な腐敗と破綻に陥っている。その中で、UNSCEARは、「被曝安全安心論」を声高に叫ぶ国際的デマ宣伝機関に転化する道を進んでいる。つまり、今までは、リスクが「ある」ことを前提にリスクを「過小評価」するのが役割であったとすれば、チェルノブイリ以後とりわけ福島以後は、原発事故に際してリスクを「ゼロ」と評価し住民の放射線被害をもみ消す役割を国際的担おうとしている。
 学術会議報告を書いたいわゆる専門家たちがUNSCEARのこの転落を内外から促進しているのは疑いの余地がない。また彼らが被害ゼロ論の「科学的根拠」としてUNSCEARの「権威」を利用しようとしていることも間違いない。だが、UNSCEAR報告の内容は決して被害ゼロ論を展開しているわけではない。だから、学術会議報告はUNSCEAR報告を「科学的根拠」としていると称して、内容的には反対に自分の被害ゼロ論をUNSCEAR報告全体に押しつけようと試みているのである。

 子どもへの被曝影響の集中、「民族の死」をも導きかねない亡国の報告書

 ある文書がどのような危険性をはらんでいるかを判断する最良の方法の一つは、その文書が主張する内容が全て実現したと仮定した場合何が生じるかを考えてみることである。学術会議報告の主旨は、福島原発事故級の苛酷事故が起こっても、子どもも含めて何の健康被害もない、診断・治療において胎児や子どもを被曝させても「問題ない」と主張することである。それを「日本の科学者の代表」としての学術会議の権威を借り、全ての科学者に、さらには広範な国民に信じ込ませ「洗脳」することである。いまそれが実現したと仮定しよう。何が起こるだろうか?
 福島原発級の重大事故が起こっても「何も健康被害がない」ことにされれば、当然、政府にとっても電力会社にとっても「事故を起こしてもよい」と科学者がお墨付きを与えたことになり、重大事故再発に向かってのモラルハザードとなる。再稼働される原発で、第二第三第四の福島級事故が起こる危険性は著しく高まるであろう。また、来たるべき事故の際、「知らない権利」に基づいて、甲状腺も含めて何の調査も行われないであろう。つまり、全国の原発は、福島と「平等に」、重大事故を起こして使えなくなるまで60年、次は80年と稼働され、事故による一切の健康被害は、隠蔽され、何の補償もなされないであろう。
 国民全体が被曝するだけではない。子どもの放射線高感受性を「無視してよい」ということになれば、未来を担う子供たちこそが被曝影響に「集中的に」曝されることになる。そうなれば、事態は、決して誇張ではなく「日本民族の滅亡」の危機に向かって進んで行くことになるであろう。
 ジェイ・マーティン・グールド氏が自著のタイトルを『エネミー・インサイド(体内の敵・国内の敵)』(邦題『低線量内部被曝の脅威』)としたことは、意味深長である。つまり、日本国民、日本民族を滅ぼそうとしているのは、トランプや安倍政権の喧伝するような「北朝鮮」ではなく、日本が事実上の仮想敵国としている中国やロシアでもなく、民族の未来を担う子どもたちに集中的に放射線被曝を強要しようとする、学術会議報告を書いた「似非」専門家たちの集団であり、それを裏で操っている安倍政権と原発推進勢力、ABCCから脈々と続くUNSCEARやIAEA、ICRPなど国際原子力マフィアなのである。彼らこそ、また彼らに支配された日本学術会議こそ、日本の、実際には世界の、「子どもの敵」である。犯罪者には、誰の目にも分かるように「子どもの大量虐殺者」という囚人票を貼り付けなければならない。
 


付表 UNSCEARによる歴史的に放出された人為的環境放射線源からの集団実効線量推定 http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010507/01.gif

原著203ページ。原注のaは右上部「集団実効線量」に付いており、この表のeは誤植と思われる。
注記:ECRRによればこの数字には全体で50分の1程の大きな過小評価がある。だがここではそのことが問題ではない。UNSCEARが全種類の線源についてリスクが「ある」と認めている点こそ重要である。

学術会議報告(2017年9月1日)「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点 山田耕作

2017年10月


学術会議報告(2017年9月1日)
「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点

山田耕作 (2017年10月4日)



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学術会議報告(2017年9月1日)「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点(pdf,32ページ,3575KB)


要約
 日本学術会議は2017年7月28日の学術会議幹事会で、臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会による上記の報告(以下「報告」と呼ぶ)を承認し、9月1日に発表した[1]。その内容は福島原発事故に対して、国連科学委員会に従い「将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない、また先天性異常や遺伝性影響はみられない」。そして「甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上そのリスクが増加する可能性があるが、チェルノブイリ事故後のような放射線誘発甲状腺がん発生の可能性を考慮しなくともよい」というものである。
 このように「報告」は子どもの甲状腺がんの多発や福島近県における周産期死亡率の増加、心臓突然死の増加等現実に確認されている被害を全て無視するものである。
 放射性微粒子による内部被曝の現実的危険性が警告されている現在なお、「報告」はファントムという模型に基づく内部被曝の実効線量の議論を展開している。人体は、細胞からなり、細胞膜やエネルギーを司るミトコンドリアなどが有機的に活動している生きた活動体である。特に胎児を含む子どもは生殖系、ホルモン系、免疫系など放射線に脆弱な機構が存在し、被曝は、遺伝子の損傷のみならず、遺伝子の発現機構を攪乱し、細胞や臓器を損傷し、それらの損傷を蓄積する。それが後に、子どもの成長期・思春期や未来の世代に様々な健康破壊をもたらす。子どもたちは明るく駆け回らず、暗い顔で座り込む。これらはチェルノブイリ事故を経て認識された厳しい科学的な結論である。
 学術会議報告は科学者の総意を正しく反映し、人類に正しい選択をもたらすものでなければならない。今回の「報告」は福島の汚染の現実と被曝の危険性を全く無視するものである。これは単なる過ちではなく、被災者を切り捨て、未来を担う子どもたちの健康と命を奪うことになる。科学者の理性を代表する学術会議はこの「報告」を直ちに撤回し、避難の権利の保障、汚染した関東・東北一体の健康調査と医療援助の拡大を主張するべきである。さらに被曝に感受性の高い人など被災者により沿い、被災者との協議に基づいて被災者支援の具体策を誠実に実行するよう政府に強く勧告するべきである。


1.科学者の社会的責任―私の基本的立場


 最初に「科学者の社会における責任」について私の基本的な考えを述べます。

人類の歴史と平等の原則
 人間は社会的な動物であり、他人と比較することによってはじめて自己を認識できます。人間は集団で協力することによって、過酷な生存競争に生き残り、厳しい自然に適応して、進化してきました。社会的な集団として有機的に活動するために、言葉や文字を持ち、相互に意志を通わせる通信手段を発展させてきました。このことを考えますと、人間の本質は個々の人間としてではなく、集団としての生活や労働にその本質が存在すると考えられます。人間の歴史としての進歩は集団としての人類の進歩です。
 そのような社会における構成員個々人の間の関係はどうあるべきでしようか。その根本的な基礎は各構成員間の平等の原則です。世界の子供一人一人はそれぞれ異なる環境の下で生まれますが、お互いに人間としての本質的な違いはありません。平等以外に公平な原則はありえません。この平等で、対等な個人個人の自発的な協力こそ社会を発展させる基礎であり、原動力です。

民主主義は「平等」を意味する
 世界中の全ての人間は平等であり、生まれながらにして、尊敬され、人間らしく生きる権利を持っています。思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由、居住・移動の自由、働く権利、健康で文化的に生きる権利。これらは基本的人権(人格権)と呼ばれ、他の全ての権利に優先して尊重されるべき権利です。この原則を世界の全ての人々がお互いに尊重することは、人類全体の利益となり、人類の発展につながるのです。
 しかし、現実の歴史は富の蓄積とともに、社会は階級に分裂し、支配階級の権力機関として国家が誕生しました。奴隷制社会や封建制社会では人間は神の前でのみ平等でした。更に近代の資本主義社会では法の前では平等とされました。しかし、経済的格差が存在し、社会的に生産された富を私有化し、富を独占するものが絶大な権力を持っています。民主主義は経済的平等にまで拡大されなければなりません。
 一方、そのような進化の歴史の中で、人類は火を使い、手を発達させ、脳の発達を通じて、科学と技術を発達させることによって、生産力を発展させてきました。このような科学と技術の進歩は、人類の長い歴史の中で様々な迷信、偏見に対する必死の戦いの中で獲得され、先人から受け継がれ発展させられてきたものです。今日、科学は地球環境を変える巨大な力を持ち、地球の温暖化や生物多様性の破壊などの環境危機が進行しています。人類は科学的な認識に基づいて、自然との一体性を回復し、豊かな緑の地球を回復・発展させなければなりません。

人間の使命と道徳(倫理)の基礎
 人類の進歩は科学と民主主義の発展によって担われます。個人の喜びや幸せはこの人類の進歩を担う事業に参加・協力することによって得られます。人間の倫理の基礎は、科学と民主主義の拡大・発展を求める公的な感情や憤りにあります。これは類的存在としての人間の本性に基づくものです。
 科学者の使命も同様に科学の進歩と民主主義の拡大にあります。そこにおいても、民主主義・人権はあらゆる権利に優先して尊重されるべき原則です。それ故、科学者は何よりも科学の進歩が人権を擁護し、人類に幸福をもたらすように厳しく監視する責任があります。まして軍事研究に協力することは一切許されません。福島原発事故に際しての科学者の現実はどうでしょうか。

原発の運転は被曝を避けられず、緊急避難を要する原発は社会的弱者の敵
 先に述べたように、平和に安心して健康に生きることは世界の全ての人に平等に保障された基本的な権利です。その権利を現在および未来の人類に保障するために現在生きている全ての人は核兵器と原発の廃止に努める責任があります。生命・健康を犠牲にし、緊急避難を必要とする原発は子ども・老人・障がい者などの弱者を含む現実の社会では存在を許されないものです。
 特に科学者は人権を護るため、自らの知識と能力を用いて原発の危険性を警告し、人々の協力を得て、原発を廃棄する義務があります。それは原発が次のような解決できない危険性を持つからです。

原子力発電の地震に対する安全性を保証することができない
 100万キロワット級の原発1基で、広島型原発千発分の死の灰を内蔵する原発事故は核爆弾以上の放射性物質による汚染をもたらす恐れがあります。これを厳密に閉じ込め、長期に事故もなく運転することは技術的に不可能です。特に、日本は地殻のプレート境界上にあり、大地震や火山爆発が避けられません。地震は複雑な破壊現象であり、原発の耐震設計は信頼性がありません。更に核廃棄物の管理を幾十万年にもわたって後世に押し付けることになります。

原子力の平和利用を推進した科学者の責任
 日本学術会議は創設以来、核の平和利用と称して、「平和利用三原則、自主・民主・公開」のもとに、原子力発電の推進に協力してきました。安全性を保障できないものを推進した誤りの結果が福島原発事故でした。私達科学者の事故被害者に対する加害者としての責任は重いと思います。学術会議をはじめとする科学者が原発を提案し、それに協力していなければ福島原発事故はなかったのです。私達は責任を自覚し、人的被害が顕在化しているいまこそ、被害者の健康と生活をまもり、子どもたちを含む未来の世代の健康と幸福を守る責任を果たさなければなりません。


2.学術会議報告の問題点


 以下学術会議報告に沿って議論する。太字が「報告」の引用文である。

要 旨
1.作成の背景
2.報告の内容
「(1)子供の放射線被曝による健康影響に関する科学的根拠
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: 以下、UNSCEAR)は、福島原発事故を受けて、放射線の人体影響の科学的知見や事故後の被ばく線量の推定値から、『将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない、また先天性異常や遺伝性影響はみられない』と言う見解を発表している。一方、甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上そのリスクが増加する可能性があるが、チェルノブイリ事故後のような放射線誘発甲状腺がん発生の可能性を考慮しなくともよい、と指摘している」。(pii)

 学術会議もまたUNSCEARに従って福島原発事故に於ける被害は「将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因しうる有意な変化が見られるとは予測されない」としている。これは現実に存在する子どもの甲状がんの増加や周産期死産率の上昇、心筋梗塞による死亡の増加という事実に明かに矛盾している。このように被害の議論の最初から、統計的に有意であると示された疫学的な事実の否定から始まるのである。これは科学的態度とは無縁の虚偽に等しいことである。その矛盾の原因は「報告」が科学的根拠としてあげている被曝線量が科学的真実に基づいていないことにある。

「(3) 福島原発事故による子どもの健康影響に関する社会の認識
福島原発事故による公衆への健康リスクは極めて小さいといった予測結果や、影響が見られなかったことの実証例(胎児や妊娠への影響)について、国や地方自治体、国内外の専門家は積極的に情報発信している。しかし、子どもの健康影響に関する不安は根強い。これは線量推定やリスク予測の不確かさから専門家間の見解に相違があることにも関係している。事故後の数年間で、影響の有無に関する実証データや個人ベースの線量データが蓄積されるとともに、リスクベースの考え方が浸透し、不安解消に向けて進んでいる事例もある。しかし小児甲状腺がんについては、福島県「県民健康調査」の集計結果の解釈の違いとともに、検査の在り方などが問題となっている」。(piii)

 自然死産率の上昇、周産期死亡率の上昇、急性心筋梗塞の増加が実証されている。「報告」は、健康リスクは極めて小さいという「予測」や「影響が見られなかった実証例」を挙げている。しかし、実証例は被害がないことを証明しない。観測は有限だから、ないことを証明するには長期にわたる広範囲の観測による高い精度が必要である。その点で、周産期死産率の増加は統計的に有意を持って証明されている。周産期死亡(妊娠22週から生後1週までの死亡)率が、放射線被曝が強い福島とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(3年間で165人)も増加し、被曝が中間的な強さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった[2]。
 小児甲状腺がんについても同様で、先行検査(1巡目)より、約2年後の本格検査(2巡目)の方が、発症率が高くスクリーニング効果は否定される[3]。「4年の潜伏期間」も福島県の検査自体が否定している。一巡目で異常なしのA判定の人に約2年後の本格検査でがんが発見されているからである。「報告」は都合のよい実証例を挙げるだけで、論理的で科学的な議論をしていない。そして、市民の疑問に正面から答えていないのである。これでは積極的に情報を発信しても「不安が根強い」のは当然である。「報告」は自分の結論が間違っているという科学上の問題を「専門家の間の意見の違い」の問題にすり替えている。専門家間の意見の違いは結果であって、根本原因は「報告」と真実との不一致なのである。

1.はじめに
「避難した住民の帰還を妨げている大きな原因の一つは、子どもへの影響に対する不安と怖れなど、放射線リスクの理解の難しさである。未来社会の発展を支える子どもの健康を守ることは、親は勿論、社会の重要な任務である。そのためには放射線リスクの阻止・低減のみならず、放射線に対する不安に起因する健康への悪影響を防ぐ視点も重要である」。(p1)

 「報告」は不安の除去の重要性を強調している。しかし、現実に放射線被ばくの危険性があるので避難すべきなのである。ところが、加害者である国と東電が責任ある対応をしないために、その避難が困難であることが人々を不安にしているのである。国や東電の非人道的な事故被害の救済策に不安の原因がある。不安を除去するには事故の責任者がその責任を率直に認め、被害者に言葉だけでなく本当の意味で「被害者に寄り添った」すなわち被害者の健康被害を認め、被害者の生命と健康、生活再建の利益に立った救済を約束し、実行することが不可欠である。そして加害者は誠意を持って、被害者の不安の原因である汚染と被曝をなくさなければならない。被曝が避けられないときは避難のための物質的保障、生活の保障をしなければならない。これは事故の加害者として当然のことである。
 「放射線に対する不安に起因する健康への悪影響」と「報告」は根拠のない不安のように言うが、逆に「放射線被ばくの健康への悪影響」が現実に存在し、体験を通じて住民が健康に対する不安におびえているのである[4]。以下の津田敏秀氏ら岡山大、熊本学園大、広島大による調査報告を参照。
 『低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査』
  ―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―
 http://www.saflan.jp/wp-content/uploads/47617c7eef782d8bf8b74f48f6c53acb.pdf



図1.滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比、病名は左から表題の順、図は児玉順一氏作成

2.子どもの放射線被ばくによる影響
(1) 子どもの放射線被ばくによる健康影響に関する科学的根拠
 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: 以下、UNSCEAR)は2013年報告書の中で福島原発事故の線量の推定値を提示するとともに、UNSCEARが収集したデータ及び情報を使用し、健康との関連を含めて議論している。被ばく線量推定は年齢別に行っており、例えば計画避難区域住民の事故後最初の1年間の実効線量(外部被ばくと内部被ばく)については、成人4.8-9.3ミリシーベルト(mSv)、10歳児5.4-10mSv、一歳児7.1-13mSv、同集団の甲状腺の等価線量については、成人16-35mSv、10歳児27-58mSv、一歳児47-83mSvと推定している。こうした線量推定結果を基に、UNSCEARは、将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない、また先天性異常や遺伝性影響はみられない、としている。一方、甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上ではあるが、そのリスクが増加する可能性があるとしている」。(p2)

 放射線被ばくによる被害が予測されないという根拠は「事故後の被ばく線量の推定値」ということであるが、「報告」も認めるように事故直後の放射性ヨウ素の被曝量の推定値などが正確には求められないのである。例えば放射性ヨウ素の放出量に関しては国の発表より、東京電力発表の方が3倍大きい(ヨウ素131は東電500PBq=500x1015Bq、国は160PBqで約1/3である[5])。それ故、「放射線の影響によるがんや先天性異常や遺伝的影響は見られない」というがその根拠がない。逆にこの推定が事実に反することは子供の甲状腺がんの増加や自然死産率の増加、周産期死亡率の増加が示していることである。それ故、UNSCEARの推測は間違っている可能性が高い。それを学術会議はなぜ間違ったUNSCEARの報告を「科学的根拠」とするのか。学術会議は自分で当否を判断したのだろうか。
 放射性物質の放出量を過小に評価したのだから、当然被曝線量に関しても「報告」は正しくない。大阪大学の本行忠志教授は次の問題点を指摘している[6]。

表1 甲状腺等価線量の分布

東京電力福島第一原子力発電所事故後2週間の時点で行われたスクリーニング調査の結果から推定された甲状腺等価線量(左カラム)、チェルノブイリ原発事故での避難者の甲状腺等価線量(右カラム)を示す。集団の99%が分布する線量域を太字で示す。(「報告」は間違っていてチェルノブイリは正しくは93%)




 「報告」の21ページの表3「甲状腺等価線量の分布」(上の表1)は福島の1080人の子供とチェルノブイリの2.5万人の子供を比較したものであるが、福島では99%以上が0〜30mSv に、チェルノブイリでは99%以上が100〜上限5000mSv以上の範囲に入るという。この表を見ると被曝量が桁違いに見える。しかし、これは以下のトリックによるものである。
【甲状腺被ばく計測について】
 ウクライナでは約13万人の子供が甲状腺の直接測定を受けているのに対して[7]、福島で実際に子供の甲状腺被ばく線量測定が行われたのは、1080人(飯館村、川俣町、いわき市、(放射線医学総合研究所))と8人(浪江町、津島地区、南相馬市、(弘前大学))の計1088人のみであった。しかも、放医研が行った1080人に対する検査は空間線量率測定用の簡易サーベイメータ(ウクライナや弘前大学の8人の測定には核種分析できるスペクトロメータが使用された)であり、バックグランドの方が甲状腺の実測値より高いところで計測している例もあるので正確とは程遠いと考えられる。
【平均値のトリックについて】
 チェルノブイリの同程度の汚染地域であっても甲状腺の内部被ばくの蓄積線量は都会と郊外で大きく異なる。郊外では家庭菜園が一般的で原発事故後もその収穫物を食べ続けたため、桁違いの被ばくをしている例があり、この場合、平均値がかなり上がるため、福島の平均値と大差があるように見えるかもしれない。
 実際、Tronko MD氏らの論文では、ウクライナの小児甲状腺がん患者(手術時14歳以下)345例の甲状腺被ばく線量の分布をみると、100mGy以下が51.3%と半分以上を占めており、低線量被ばくでがんが発生していることがわかる[8]。もう一つ、Cardis 氏らの論文では、ロシアの子供(がん患者+非がん者)の被ばく線量は92.3%が200mGy未満で、桁違いに多い被ばくでないことが示されている[9]。従って、「福島での被ばく量はチェルノブイリに比べはるかに低いので甲状腺がんの発生は考えられない」という論法は成り立たないと考えられる。
【放射線感受性の個人差について】
 この「報告」では、個人差について全く触れていない。ICRPでも確定的影響のしきい値に関しては、すでに1%の人が発生している値を取っており、これは、放射線感受性が非常に高い人が少数存在することを示しており、わずかな放射線でも影響を受ける人がいることをこの報告書は完全に無視していることになる(1%は、30万人だと3,000人となる)。
以上が本行教授による批判である。
 被曝線量に関する批判は医療問題研究会の山本英彦氏によってもおこなわれている[10]。UNSCEARが引用する放射線医学研究所が調査し、広島大学の田代教授らが簡易線量計を用いて測定したデータの問題点が詳しく述べられている。例えば0.02μSv未満が検出限界とみられるが1080人の中、1033人が検出限界以下となり、ほとんど信頼できないデータになってしまう。さらに弘前大学床波教授のデータも批判されている。上記弘前大学の8名であるが19歳以下は6名しかないが内部被曝だけで最大40〜50mSv となっている。小児は大人の2倍の吸収率なので実際は最大80〜100mSv になるという。また、WHOの2012年の被曝線量評価によると女性の甲状腺被曝線量は浪江町、飯館村、福島市の場合、1歳で被曝した場合、それぞれ122,74,46mSvと推定している。学術会議「報告」はなぜかこのような都合の悪いデータは無視している。
 低線量の被曝が危険であることは以下のウクライナの報告からも見ることができる。「報告」の福島の計画避難区域住民の1年間の実効線量値約5から10mSvに対して、年平均0.25mSvでもウクライナでは後述の様々な健康破壊が発生している。
 『低線量汚染地域からの報告−チェルノブイリ26年後の健康被害−』 (馬場朝子、山内太郎著 NHK出版 2012年 )[11]を引用する。
 ウクライナでは年間5ミリシーベルトを基準として、それ以上の線量の地域を住んではいけない場所(移住勧告地域)、それ以下の地域を住んでよい場所としている。コロステンがあるジトミール州の住民は、事故が起きた1986年から2011年までの25年間に、平均で、移住勧告地域では25.8ミリシーベルト、放射線管理区域では14.9ミリシーベルトの低線量被曝をしている。コロステンのあるジトミール州全体の被曝等価線量について、ウクライナ政府報告書に詳しいデータがある。子どもの被曝が等価線量にすると大きくなるなどの年齢ごとの重みづけを行った被曝等価線量のデータだ。事故の年の1986年には1.96ミリシーベルト、その後の10年間に2.91ミリシーベルト、さらにその後1997年から2011年までの間に1.32ミリシーベルト。事故発生以後、25年間の全ての積算で6.19ミリシーベルトとなっている。年平均にすれば0.25ミリシーベルト。福島県浜通りの汚染と比べれば、かなり低い数値だと思われる。

「イ 発がん(確率的影響):100ミリグレイ(mGy)以下の低線量あるいは低線量率被ばくでは有害な組織反応が発生するほどの細胞死・変性は起こらないが、発がんの原因となる突然変異は起こりうる。UNSCEAR2006年報告書では、幼少期に放射線被ばくした人々の生涯発がんリスク推定は不確かであるが、あらゆる年齢で被ばくした人々の発がんリスクに比べて2〜3倍高いかもしれないと記述している」。(p3)

「報告」は子どもの発がんリスクが全年齢にわたるそのリスクよりも2〜3倍大きいことを認めている。『低線量放射線と健康影響』放医研、医療科学社、2012年によると「妊娠中に医療被曝した子どもの小児白血病リスクの調査では、過剰相対リスクが1Sv当たり50と極めて高い」という(p152)[12]。さらに重要な指摘をしている。「近年、放射線による発がんに関し、感受性の高い個人や家系の存在と、その原因遺伝子が明らかにされてきた。そのような高発がん原因遺伝子は、DNA情報の安定性を維持する機構や細胞周期やアポトーシスに関連している。最も有名なのはATMである。ATM遺伝子欠損をホモに持つヒト(血管拡張性運動失調症)は、放射線に極めて感受性で、白血病になりやすい」。その他にも放射性発がん原因遺伝子は多くある。ICRPは1%と言うが欧州放射線リスク委員会ECRRは6%放射線高感受性の人が存在するという。
 「報告」はがんについては一定の子どもの感受性の高さを認めているが、放射線によって生じた活性酸素を介する被曝の間接的効果による病気が無視されている。この問題は被曝の被害としては決定的に重要である。この効果を無視している結果として、学術会議報告は内部被曝が外部被曝に比べ無視できるほど小さいという根本的な過ちを犯している。後に議論する。
 大阪大学本行忠志教授は子どもの感受性について次のように述べている。
「甲状腺の子供と大人の放射線感受性の違いに関しては、よく引用されるグラフがRadiology for the Radiologistのp140に載っています。頭頸部の疾患に対して行われたX線治療によって発生した甲状腺がんの過剰相対リスクを15歳未満と15歳以上に分けており、グラフの傾きからリスクは15歳未満の方が10倍以上高いことがわかります。平均で10倍以上ですから、非常に若い人では何10倍にもなることが容易に予想されます。これは甲状腺の外部被ばくの例ですが、内部被ばくでも同程度子供の方が起こりやすいと考えて良いのではないでしょうか」。

「ウ 遺伝性影響:UNSCEARは平成13(2001)年に放射線の遺伝性影響についての報告書を発表している。原爆被爆者二世をはじめとして、多くの調査があるが、放射線被ばくに起因するヒトの遺伝性影響を示す証拠は報告されていない」。(p3)

 国連科学委員会UNSCEARの2001年報告書は、このことを述べた後、すぐに次のように結んでいる。「しかし、植物や動物での実証研究で、放射線は遺伝性影響を誘発することが明確に示されている。ヒトがこの点で例外であることはなさそうである」(『放射線の遺伝的影響』1ページの要約の6)。
遺伝性影響について『低線量放射線と健康影響』(放医研、医療科学社、2012年)はBEIR-VIIによる評価を載せている(p168)[12]。100万人あたり、Gy当たりで低線量または緩性照射放射線の持続被ばくによる遺伝的リスクの推定によると、第一世代が3000〜4700症例(100万人当たり738000症例の自然疾患頻度に対する% 0.41〜0.61%)第2世代が3950〜6700症例(0.53〜0.91%)である。
 この点でInge Schmitz-Feuerhake氏らの論文が注目される[28]。彼らは低線量放射線被曝の遺伝的影響の文献をしらべた。広島・長崎の原爆被爆者を調べたABCCの遺伝的影響の調査は信頼性がないと結論している。その理由は線量応答が線形であるという仮定の間違いや、内部被曝の取り扱いの誤りなど4点を指摘している。そしてチェルノブイリの被曝データから新しい先天性奇形に対する相対過剰リスクERRはギリシャなど積算1mSvの低被曝地においては1mSvあたり0.5で、10mSvの高い被曝地では 1mSvあたりERRが0.1に下がるという結果である。おおまかには全ての先天異常を含めて積算線量10mSvにつき相対過剰リスクが1という結論である。積算10mSvで先天異常が2倍になるというのは大変なことである。

エ 子宮内被ばくの影響
「(ア) International Commission on Radiological Protection, ICRP)では着床以前の放射線被ばくによる胚の死亡は100mGy以下の被ばくでは極めて稀であると結論している。主要な臓器形成期には奇形発生のリスクが最大になる;妊娠8〜15週の時期に胎児が被ばくすると、生後の重篤な精神発達遅滞が起こる可能性がある。そのしきい線量は低くても300mGy、1GyあたりのIQの低下が25と推定されている。広島・長崎の原爆被爆者の調査では、被爆妊婦の子どもに小頭症がみられたことが報告されている」。(p3)

「報告」はICRPを引用して子宮内被ばくの危険性を指摘しているが100mSv 以下では被害が無視できるかのような記述である。しかし、30年経ったチェルノブイリ事故の被害は貴重な教訓を与えており、現地の医師との交流の記録や報告書で知ることができる[11,13-19]。その中から重要と思われるものを紹介しよう。
低線量内部被曝は遺伝子を破壊するだけでなく、ホルモン作用を攪乱する
このホルモン作用の攪乱は環境ホルモンと同様に遺伝子の発現を攪乱し、胎児の発達にとって重大な障害をもたらす。環境ホルモンに代わって放射線が「胎児―母親系」のホルモン作用を攪乱し、正常な発達を妨害する。結果として子供たちは病弱となったり、生殖系に損傷を受け、それが次世代に引き継がれる。チェルノブイリ事故を受けたベラルーシ、ウクライナ、ロシアでは「胎児期起源」の健康破壊は成長後の健康破壊の原因として重大な問題となっている[11,13-19] 。
さらに放射線の影響として重要なのは思春期における被曝の影響である。生殖器官の発達にとって重要な時期である思春期に被曝するとホルモン作用が攪乱され生殖器官が正常に発達せず、健康が破壊され、その後の世代にも引き継がれるようである。
 『低線量汚染地域からの報告−チェルノブイリ26年後の健康被害−』[11]によると次の通りである。 
 コロステンの線量は毎時0.22マイクロシーベルト(年間で約2mSv)と、いつもと変わらない線量であるが、重大問題となっていたのが事故後に汚染地で生まれ育った第2世代31万9322人の健康悪化である。「慢性疾患」を持つ第2世代は、1992年の21.1パーセントから、2008年の78.2パーセントに増加している。例えば、内分泌系疾患11.61倍、筋骨系疾患5.34倍、消化器系5.00倍、精神および行動の異常3.83倍、循環器系疾患3.75倍、泌尿器系疾患3.60倍である。およそ8割の子どもたちが病気を持っているということなどありえるだろうか。しかし、これはベラルーシ、ウクライナ、ロシアで汚染度に応じて共通に見られる現象なのである[18]。


図2 被ばくした親から生まれた慢性疾患のある子どもと健康な子どもの割合

 現在では放射線によるがん以外の多くの病気が報告されている。学術会議「報告」はUNSCEAR やICRPの主張に従い、内部被曝によるがん以外の病気を無視しているが、内部被曝の方が外部被曝より、重大な被害を及ぼすのである。この点で「報告」は根本的な欠陥がある。特に近年、活性酸素が病気の発生に果たす役割が明らかになってきた。放射線の電離作用はそのイオン化を通じて大量の活性酸素を発生する。過剰に発生した活性酸素は細胞膜、ミトコンドリア、核膜を連鎖的に破壊する。
 「報告」もIQの低下等色々障害を認めている。胎児の被曝については福島近県での周産期死亡率の上昇で証明されている。ベラルーシやウクライナでも胎児期の被曝について、その被害についての多くの報告がある[13、14]。

「(イ) 発がん:胎児の生涯がんリスクは乳幼児と同程度、すなわち全人口についての放射線誘発がんリスクは最大でも3倍程度である」(p3)
「イ 内部被ばく:内部被ばくによる個人線量の推定は、吸入により、もしくは経口・経皮的に体内に取りこまれた放射性核種の摂取量を推定し、預託線量として評価される。その際、人の体格的特性や人体での放射性核種の代謝が考慮され、臓器での吸収線量が計算される。子どもでは内臓器官も小さいので一つの臓器に強く集積した放射性物質から隣接する他の臓器が被ばくを受ける可能性が高くなる。また、年齢に応じて、代謝や生理機能、食事や呼吸量、身体活動が変化するので、年齢による差や個人差が大きい」。(p4)

 「報告」はICRPなどと同様内部被曝を過小評価している。ICRPは歴史的にも、内部被曝を外部被曝に換算して実効線量として被曝の被害を評価してきた。後述するように、人体内部の微細な構造を捨象した「ファントム」という死んだ物体で評価するという非科学的な方法である。このようなモデルで安全性や危険性を評価することができない。もはや、科学ではない。人体は多くの臓器や筋肉さらにそれらは幾兆もの細胞からなり、細胞は細胞膜やミトコンドリア、細胞核等からなる有機的な活動体である。特に胎児を含む子供は生殖系、免疫系、内分泌系など脆弱なシステムを持ち、放射線で直接に、より多くは放射線で生じた活性酸素・フリーラジカルによって攪乱され、破壊され、傷つけられ、それが蓄積する。例えば遺伝子の発現時に放射性原子核が崩壊して放射線を出すと多数の活性酸素が発生し、ホルモン作用が攪乱され、遺伝子が正常に発現できなくなる。チェルノブイリでは体力や免疫力の弱い子どもが多い。周産期死亡率の増加は胎児の正常な発育が妨げられたことを示している[2]。
 活性酸素やフリーラジカルは脂肪膜を連鎖的に破壊する。そのため細胞膜やミトコンドリア、核膜が破壊され、細胞が破壊され、臓器や筋肉が損傷される。それ故、この放射線によって発生した活性酸素・フリーラジカルによる間接的な放射線の効果はあらゆる病気に関係する。エネルギー産生にとって不可欠のミトコンドリアの損傷は体力、免疫力を弱める。細胞や筋肉の損傷は心血管系の損傷となり、高血圧・心電図異常や心臓死をもたらす。神経系や脳の損傷をもたらす。
 馬場・山内の『低線量汚染地域からの報告』は次のように書いている。ウクライナ政府報告書によれば、慢性疾患の中でも圧倒的に多いのが循環器系の病気だ。その中でも「心筋梗塞」や「狭心症」を取り上げることが多いがこの心臓や血管の病気が、がん以外の慢性疾患による死因の実に89パーセントを占めるという。
 さらに問題は、被曝した人から生まれた子どもや孫の世代の健康だという。次の証言がある。「私にも孫がいます。妻はコロステンの出身です。孫は生まれつき弱くて、目も悪く、左右の生育が違います。免疫力がなく、すぐ風邪をひきます。」「チェルノブイリの被曝者は早く年をとってしまうんですよ。寿命も短いのです。…病気の5点セットと言われる目と心臓と神経と呼吸器と胃腸障害、それらすべての病気です。」

「放射性核種のうち、子どもと成人の差が大きいものとして、ヨウ素131がある。乳児の単位摂取量当たりの甲状腺の吸収線量は成人の場合よりも8〜9倍大きくなる可能性がある。一方、セシウム137は子どもの生物学的半減期が成人より短いことが観察されており、単位摂取量当たりの臓器吸収線量は摂取時の年齢によってほとんど変わらない。同様に、ヨウ素131の単位摂取量当たりの実効線量も、セシウム137に比べ、年齢依存性が顕著である。
チェルノブイリ原発事故後に小児甲状腺がんが増加し、6,000人が手術を受け、15人が死亡したと報告されている。これは、先述の通り子どもにおいて甲状腺の単位線量当たりのリスクが成人より高いことや単位摂取量当たりの甲状腺の吸収線量が高いことに加えて、汚染したミルクの飲用により、子どもがヨウ素131を多量に摂取したことによる内部被ばくが大きく関与している。例えば、チェルノブイリ事故後48時間以内に避難したプリピャチの居住者の場合、成人の甲状腺吸収線量が0.07Gyと推定されているのに対し、乳児は2Gyと推定されている」。(p4)

この報告どおりとしても乳児の被曝は成人の30倍近いことになる。「報告」はセシウムの生物学的半減期が短く、すべて排泄されるように記述している。しかし、生物学的半減期は仮定であって正しくない。バンダジェフスキー氏らの研究によるとセシウム137が臓器に取り込まれ、蓄積し、様々な病気を引き起こすことが示された。『長寿命放射性核種取り込み症候群』と呼ばれている[13,14]。これはヤブロコフ氏たちの報告で、多くの国に見られる重大な病気で臓器に取り込まれたセシウムが蓄積し、偏在することによって起こる。

「イ 実効線量の子どもへの適用:防護に用いる線量の中核をなすのは実効線量である。実効線量の計算には、標準人として身長176cm,体重73kgの標準男性と163cm 60kgの標準女性の35歳の白人の解剖学的計算モデルを用いている。これに呼吸器、消化器などの生理学的モデルを適用して得られた臓器等価線量を男女平均した上で、臓器ごとに組織加重係数を乗じ、全臓器分を加算して求める 。実測はできないので、外部被ばく管理にあたっては国際放射線単位測定委員会(International Commission on Radiation Units and Measurements, ICRU)が提案する人体ファントムを用いて算定する実用量を線量計に目盛ったエリアモニターと個人モニターが用いられている。こうして計測される実効線量当量μSv/時は、標準人の実効線量の安全側(大き目)の推定値(近似値)である。
標準人の実効線量の推定値として求められた実用量は、体格の小さい子どもにとっても十分安全側の推定値となっていることが多い。Petoussi-Hensらは年齢の異なる子どものファントムを用いて環境放射線からの被ばくを検討し、「体が小さい程線量は大きくなるが、サーベイメータで測定する周辺線量当量はすべての年齢で実効線量を過大評価した」と報告している」。(p5)

 内部被ばくに関してICRPは時代錯誤の理論と方法を用いている。これは創設以来一貫して内部被曝を無視してきたからである。それは無視できる根拠があってではない。むしろ、被曝の危険性を隠蔽し、核の軍事・平和利用を進めるためである。今や現実の被害のもとで正しく内部被曝を評価しなければならない。放射性微粒子の存在も証明されている。
 内部被曝を主な原因とする被曝による健康被害はヤブロコフたちの報告『チェルノブイリ被害の全貌』に詳しく報告されている[18]。同報告は住民の健康への影響として罹病率の増加、平均寿命の短縮、老化の進行、新生児の体重の低下を紹介している。さらにがん以外の疾患の増加として、血液・リンパ系の疾患、遺伝的変化、内分泌系疾患、免疫系疾患、呼吸器系の疾患、泌尿生殖系の疾患、骨と筋肉の疾病、神経系と感覚器の疾患、消化器系疾患とその他の内臓疾患、皮膚と皮下組織の疾患、感染症及び寄生虫症、先天性奇形、その他の疾患を報告している。さらに次の章で腫瘍性疾患を取り上げ詳しく議論している。最後に事故後の死亡率の増加を報告している。
 この報告によれば、各国共通に全体的な健康破壊が汚染度に応じてみられる。私たちはこの全体像を理解し、説明しなければならないのである。その点で、死んだ物体である「ファントム」などを用いた実効線量の解析は決定的に不十分である。この点で、ICRPによって無視されてきた活性酸素を介する間接的な被曝効果、ペトカウ効果が重要な鍵を握っていると考えられる[20]。
 
「① 次世代への影響に関する社会の受け止め方
胎児影響は、福島原発事故による健康影響の有無がデータにより実証されている唯一の例である。福島原発事故に起因し得ると考えられる胚や胎児の吸収線量は、胎児影響の発生のしきい値よりはるかに低いことから、事故当初から日本産科婦人科学会等が「胎児への影響は心配ない」と言うメッセージを発信した。これはチェルノブイリ事故直後、ギリシャなど欧州の国々で相当数の中絶が行われたことによる。福島原発事故から一年後には、福島県の県民健康調査の結果が取りまとめられ、福島県の妊婦の流産や中絶は福島第1原発事故の前後で増減していないことが確認された。そして死産、早産、低出生時体重及び先天性異常の発生率に事故の影響が見られないことが証明された。
専門家間では組織反応(確定的影響)である「胎児影響」と生殖細胞の確率的影響である「遺伝性影響 (経世代影響)」は区別して考えられており、「胎児影響」に関しては、上記のような実証的結果を得て、科学的には決着がついたと認識されている。」(p9)

 「報告」に反して、福島原発事故においても、低体重児[21 ]、自然死産率、周産期死亡率の増加、急性心筋梗塞などの増加が報告されている。特に周産期死亡率に関しては津波による影響を区別して検出されており、放射線被曝によるものと判断される(図3参照)。「報告」が実証されたという「福島原発事故に起因し得ると考えられる胚や胎児の吸収線量は、胎児影響の発生のしきい値よりはるかに低い」という判断が誤っていたのである。



図3 周産期死亡率 強汚染県(福島、群馬、茨城、岩手、宮城、栃木)

福島原発事故から10ヵ月経った2012年1月に周産期死産率が15.6%増加した。オッズ比1.156(1.061,1.259)

「そこで福島県は事故時に18歳以下であった全県民を対象に甲状腺超音波検査を実施している。チェルノブイリ事故後の知見によると小児甲状腺がんの潜伏期間は4〜5年と比較的短く、この影響の有無に関して(暫定的であれ)結論を得るには10年程度が必要である」。(p10)

ここでは科学者としての論理的な思考力が問われる。潜伏期間が4から5年は間違いである。子どものがんの最短潜伏期間は米国疾病予防管理センターCDC も1年としている。最近の科学ではがんの進行の各段階で、放射線はがんの進行を早める。すでに発生したがんの抑制遺伝子を弱めることによっても小児甲状腺がんは発生させられる。チェルノブイリでも高年齢の方が被曝からがん発生までの期間が短い。福島県民健康調査の結果は第1巡目から約2年後の2巡目検査で小児甲状腺がんが発見されている。2年間以内に発症したことを示している。
 小児甲状腺がんの発症はどのくらいの期間で起こるのか。以下の図4は松崎道幸医師がチェルノブイリ事故によるベラルーシの子供の甲状腺がんについて作られた図である。高年齢の子どもたちに被曝後早くがんが発生し、0歳で被曝した子は約7年後に最も多く小児甲状腺がんが発生している。10歳近くで被曝した高年齢の子どもの方に被曝後がんが早く発生するのはがんの発生の機構が関係しているようである。この点は後に詳しく説明する。がんが0歳時に発生してがんと認められるのに7年かかるとしても10歳で被曝した子はすでに小さながんがあり、がんを抑制する免疫等のシステムが放射線で壊されたり、放射線でがんの成長が促進されたりするとがんが発症するようである。この時、がんの潜伏期間や有病期間をどう定義するかということが問題となる。
 最近の分子生物学では、がんの発生から進展の全体像が明らかになりつつあるということである。
ICRP2007年勧告も指摘しているが、がんの発生と進展の多段階性が主張されている。
(1)イニシエーション(前腫瘍状態)
(2)プロモーション(前腫瘍状態の細胞の増殖と発達)
(3)悪性転化(がん化)
(4)プログレッション(進行の加速と浸潤性の獲得)
最近の研究の重要なポイントは遺伝子及びエピゲノム及び染色体の変異・欠失が蓄積していく点、この蓄積は前がん病変段階でも、がん化でも、がん悪性化でも同じである。そして放射線は直接、あるいは活性酸素を通じて間接的に各段階でがん化を促進する。
 以上の考察から言えることは、放射線の影響があるかないかの二者択一の問題の捉え方は一面的であることである。甲状腺がんの発生・成長の各段階で放射線ががんの発症を促進すると考えるべきである。それ故、福島県をはじめとして子どもの甲状腺がんが著しく多発したのである。


図4 被曝時年齢と甲状腺がん発見期間  (松崎道幸氏による)
10歳の子供だと平均潜伏期間は7年位、がんが発生してから認定されてから手術までの期間4年位でしょうか。

 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い罹患率の計算を行った。そして「3地域の罹患率の比較」を行った[22]。

表2 3地域の罹患率の比較
               ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値



「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。

「実施中の甲状腺超音波検査は、これまで世界に例のない無徴候の健常児を対象とした大規模で精度管理された詳細調査である。平成27(2015)年6月末までに、震災時福島県に居住の概ね18歳以下の県民約30万人が受診(受診率81.7%)した。治療の必要のない極めて軽微な異常(嚢胞や微小結節所見)が多く発見されたが、同じ福島方式で甲状腺検査が実施された他の地方自治体(弘前市、甲府市、長崎市)と有所見率の差は認められなかった。ただし、検査対象数が1000人規模と少なく、同じ精度の結果ではないとの批判がある。しかしながら、我が国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い小児甲状腺がんが発見されている。これは一方が健常児の全数調査(悉皆調査)、他方は病気の徴候が出現して診断を受けたがん登録という異なる方法でのそれぞれ異なる結果であり、本来比較されるべき数字ではない。韓国では、超音波による広範な検診を行ったところ、甲状腺がん発見率が英国の15倍、米国の5〜6倍と、明らかに大幅な上昇を経験した。また、12か国における1988年〜2007年の間の調査結果から甲状腺の超音波検査により47万人の女性と9万人の男性が過剰診断されたと推定 した報告がある。(p10)

「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い小児甲状腺がんが発見されている」というのである。3県の調査の環境省の発表ではがんが確かに1人見つかっている[23]。環境省の記者発表の表によると、3県合計4365人の調査で1人見つかっている。福島県と同じ発症率とすると1人くらい見つかってもよい人数であるが、年齢等詳しい報告がなく、1人では見つかっても統計的に精度がなく、数十倍のオーダーという定量的議論はできない。「報告」の誠実さが疑われる。
韓国や米国の例は明らかにスクリーニング効果によるものである。がんの判定基準が緩いのである。しかし、福島県の場合は鈴木真一教授の言うように、過剰診断でもなく従来の基準にのっとり手術の必要ながんが手術されたと思われる。最近の報道でも、詳しいデータも福島医大で秘密に管理されていた。

「県民健康調査委員会は小児甲状腺がんの潜伏期間を考慮すると、事故後3年以内の先行検査の結果は、放射線の影響とは考えられず、今後、同じ方法で得られた結果と順次比較するためのベースラインと位置づけているが、これに対する異論もあり、後述する」。(p11)

 先に述べたように、アメリカ疾病予防管理センターCDCによると、最短潜伏期間は子どものがんに対しては1年である。「先行検査」のA判定で異常なしから約2年後の「本格検査」でがんが発生した。最小潜伏期間4年ではこの事実が説明できない。

「平成28(2016)年12月末日までに185人が甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定され、このうち146人が手術を受けたという数値が発表されている。こうした数値の解釈をめぐりさまざまな意見が報道され、そのたびに社会の不安を増幅した。福島県県民健康調査検討委員会は、中間とりまとめにおいて、これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、放射線の影響とは考えにくいと評価した。(p11)

「線量が低い」ことは先に述べたように誤りである。ヨウ素131の放出量ではチェルノブイリ事故と福島原発事故ではほぼ同規模と思われる。「事故当時5歳以下からの発見がない」ということも、事故時4歳の子にがんが見つかり、「5歳以下にがんは発生していない」は否定された。それを知っているはずの佐々木氏や山下氏が上の誤った記述をしたのは不誠実である。こうして、彼らの、推論も否定される。根拠にならないことを根拠としていたのであるから訂正するか、少なくとも事実を付言すべきである。
 地域別の発見率に関するOhira氏たちの論文は、福島県の地域の分割が3つと少なく、差が出にくくなっている。しかも汚染度の最も高い地域の調査対象人数が4192人、甲状腺がん患者数は2人と少なく統計誤差が大きくなる分割となっている。しかも、汚染度の低い地域が遅く調査され発見率の差を相殺する方向に働く。これでは、正しい結果は出ないのも納得できる。

原発が甲状腺がん増加の原因であることの証拠
図5は医療問題研究会の山本英彦医師による福島原発からの距離と先行検査の小児がん発生率の関係を示している(危険率p=0.002)。原発に近いほど発症率が高く、小児甲状腺がんの原因が福島原発事故にあることを明確に示している。


図5 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)



「③放射性セシウムと発がんに関する社会の受け止め方
UNSCEARは福島原発事故による外部被ばくや内部被ばくを評価して、主には放射性セシウムによる低線量・低線量率の被ばくでは、将来のがん統計に有意な変化はみられないだろうと予測した。この予測結果を実証するには、がんの潜伏期間を考えると、数十年の時間を要することになる」(p11)

 この予測の「数十年」もかからず発生したのだから、予測したUNSCEARの潜伏期間が間違いであり、放出放射性物質量や微粒子のことを考慮して事実を説明すべきである。数十年も待って被害が拡大した時、責任を取れるだろうか。放射線被曝の研究の目的は事故の被害から住民の健康と生命を守ることである。それ故、予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがあるときは、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置がとられなければならない」が公害問題に対する国際的な合意となっている。なぜ、ここで「予防原則」を適用しないのか。

「ア 外部被ばく由来:事故由来の放射性セシウムによる被ばく量で言うと、内部被ばくに比べ外部被ばくの方がはるかに大きい。そこで避難や生活空間の除染などの対策が講じられた。特に子どもへの配慮としては、校庭の除染や屋外活動の制限などが行われた。福島県の市町村では、子ども・妊婦を中心として個人線量計による被ばく線量の把握が行われ、概して空間線量率から推計された追加線量よりも個人線量計での計測値が少ないことが確認された」。(P12)

「内部被曝に比べ外部被曝の方がはるかに大きい」は根拠がなく誤りである。内部被曝を理解していないのにどうして外部被曝と比較ができたのだろうか。ガラスバッジによる個人線量の測定には疑問が多く信用できない。ガラスバッジでは前方からくるガンマ線だけを検出する。それ故、全方向からくる放射線の測定には適さない。その結果を用いて住民が受ける線量が空間線量より低いとは言えない(宮崎・早野論文は15%と言う)。その報告論文である宮崎・早野論文は間違いや不正確な部分があることが黒川眞一氏によって指摘されている[24 ]。詳細は以下のブログを参照されたい。
http://blog.torikaesu.net/?eid=65
http://blog.torikaesu.net/?eid=63

「イ 内部被ばく由来:平成23(2011)年に福島県内で実施されたホールボディカウンターやバイオアッセイによる体内放射能の調査、あるいは厚生労働省が流通食品を収集して行った食品中の放射能の調査では、放射性セシウムの数値はどれも小さく、また経時的にデータを比較すると、食品中の放射性セシウム量の減少傾向が認められた。しかし内部被ばくを危険視する声は大きく、平成24(2012)年4月には食品の基準値が引き下げられ、特に乳児が食べる「乳児用食品」と子どもの摂取量が特に多い「牛乳」には、他に類を見ないほど低い数値が設定された。これにより全国規模での内部被ばくへの不安は鎮静化した感があったが、今もなお完全には払しょくされていない。」 (p12)

日本の食品基準は緩すぎる。100Bq/kg(牛乳、乳児食品50Bq/kg)は少なくとも測定限界(約1Bq/kg)以下にすべきである。ウクライナではその飲料水の基準を2Bq/kgにしてはじめて出生率の減少が止まった。ここで大切なことは体内に取り込まれた放射性核種の排出の困難さである。決して生物学的半減期と呼ばれるように指数関数的な減衰とはならないことである。血流に乗って体内をめぐるうちに、ある臓器に滞留したり、体内の化合物に結合したりして排出が遅くなる。こうして臓器に蓄積するのである。まして、放射性微粒子となれば半永久的に蓄積される[25]。それゆえ、1日1ベクレル摂取でも危険である。

「 チェルノブイリ事故との比較:チェルノブイリ事故では、放射性物質の総放出量(ヨウ素換算)は5.2×1018ベクレル(Bq)、ヨウ素131の放出量は1.8×1018と推定されている。福島原発事故における放出量はそれぞれ約1/7と1/11に相当する。一方、キセノン133の放出量は6.5×1018と福島原発事故の方が1.7倍と多い。これは発電所の出力規模(福島第一:合計約200万kW、チェルノブイリ:100万kW)の差によるものである。 (p13)

 放出量に関しては国際的に信頼性の高いノルウエー気象研究所のストール氏らは福島原発事故によるセシウム137の大気中放出量は20.1〜53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。一方、学術会議が引用する日本政府のセシウム137放出量は15PBqと小さい。ヨウ素131の放出量はセシウム137の50倍(東京電力の値)を採用するとチェルノブイリでヨウ素131は日本政府750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これは「報告」の言うチェルノブイリのヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。渡辺悦司氏はストールの上限をとって(チェルノブイリの値が上限をとっているから2655PBqとし)福島のヨウ素131の放出量がチェルノブイリの1.5倍と推計している。それ故、「報告」の1/7や1/11は過小評価と考えられる。
 たとえもしこの通りの比率と仮定すれば、報告書は、チェルノブイリの11分の1から7分の1の健康被害が出ることは当然予測されると認めなければならないことになる。報告書は、チェルノブイリでの子どもの甲状腺がんの発症による手術数を6000人、うち死亡数を15と明記している。それなら、福島や周辺諸県でも、大まかに言って、その11分の1から7分の1、550人から860人の手術を要する甲状腺がん患者、うち1〜2人程度の死者が、十分に予測されると言わなければならない。

「福島県の県民健康調査によると、比較的被ばく線量が高いと予測された川俣町(山木屋地区)、浪江町、飯舘村住民(放射線業務従事経験者を除く)の調査結果では、合計9747人の約95%、9歳以下の748人の99%が5mSv未満であった。ベラルーシやウクライナの避難者集団の平均被ばく線量と比べるとはるかに低い」。(p13)

 年間5mSv以上はチェルノブイリでは住むことが許されない移住地域である。しかもチェルノブイリでは2/3の内部被曝を加えるので、外部被曝だけであれば3mSvが移住地域である。年間1mSv以上は避難の権利が保証される。それ故、5mSv未満でもチェルノブイリの避難者集団の平均被曝線量より、「はるかに低い」とは言えない。放射性微粒子による内部被曝のことも考えると福島はいっそう危険である。
 また、福島県内148か所のモニタリングポストの値が住民の受けている空気吸収線量率の示すべき値の46 %〜 52 %の小さい値であることが矢ケ崎克馬氏によって検証されている。

(4) 放射線影響をめぐる様々な見解
「(3)節では、事故後数年の間に行われた健康影響の検証状況と社会での認識についてまとめた。胎児影響のように事故の影響が見られないことが立証された健康影響はごく一部である。そのため、事故による発がんリスクの評価に関しては、UNSCEARの見解とは異なる見解を示す研究者もいる」(p15)

 胎児影響は事故の影響が見られないとしているが自然死産率の上昇、周産期死産率の上昇が証明され論文として発表されている[2]。UNSCEARが周産期死亡率の論文を無視して間違った記述をしているのであるから異なる見解が出て当然である。

「例えばセシウム137の子どもの臓器別セシウムの体内分布について、甲状腺や心筋において、成人の3倍、他の臓器で2倍となると報告した論文などである。また膀胱における前癌病変が低濃度セシウム汚染地域住民で増加しており、低濃度セシウム内部被ばくは膀胱癌の発生を増加させると報告した論文も発表されている。文献73では、膀胱尿中の40Bq/時と放射性セシウムよりも圧倒的に高く含まれる天然放射性核種であるカリウム40由来の放射線のことを議論していない(放射性セシウムとカリウム40はともにβ線とγ線を出す)のは、問題であることが指摘されている。しかし、いずれの論文もヒトを対象とした研究であるため、単独の論文だけでセシウムと発がんの因果推論を行うには限界があるが、学術コミュニティに対しより詳細な研究の必要性を喚起する契機とはなった」。(P15)

「報告」は膀胱がんの論文[26,27] に対して異議を唱えているのである。「膀胱尿中の40Bq/時(40Bq/kgの誤りと思われる)と数Bq /kgの放射性セシウムよりも圧倒的に多く含まれる天然放射性核種であるカリウム40由来の放射線のことを議論していない」として批判している。ともにβ線を出すカリウム40とセシウム137はベクレル数だけでは発がん作用が決まらないのである。セシウムは微粒子ともなり、体内で局所的に偏在する。カリウム40はカリウムチャンネルを通じて体内を自由に移動し、偏在しない。このことが同じベータ崩壊であっても異なる被害をもたらすのである。局所的に偏在するセシウム137は集中的、継続的な被曝を臓器の一部分に与え、カリウム40よりいっそう危険なのである。いつも線量ばかりを問題にし、活性酸素を介しての被曝の効果つまりペトカウ効果を無視しているから、論文に説明があっても、「報告」者にはセシウム137とカリウム40の違いが理解できないのである。ファントムに放射線が当たっても活性酸素は発生しないし、細胞膜を破壊しないからである。

③ LNTモデルをめぐる議論
「放射線防護の目的は、平常時には確定的影響を防止し、確率的影響を容認可能なレベルまで低減することにある。しかし容認可能なレベルがどこかと言う点において、多くの放射線防護研究者のロジックと一般社会でのリスク認知にはギャップが存在する。UNSCEARを中心に、科学的な放射線健康リスク評価を定期的に行なっている国際機関と、これら科学的根拠を基に、政策立案に資する放射線防護の考え方を勧告しているICRPや米国放射線防護審議会(National Council on Radiation Protection and Measurements, NCRP)などの予防原則に沿った国際的なコンセンサスづくりを理解し、その上で国際原子力機関(International Atomic Energy Agency, IAEA)のBSS(Basic Safety Standards)シリーズや世界保健機関(World Health Organization ,WHO)などの健康リスク管理を理解する必要がある」。(p15)

 これらIAEA, ICRPは国際的には一体となって核の軍事的・平和的利用を推進してきた機関である。WHOさえ、安全保障理事会のもとにあるIAEAの支配下にあり、WHOはIAEAの許可なしに核や被曝に関する情報を公開できないのである。 
世界保健機関(WHO)は、1959年5月28日、国際原子力機関(IAEA)との間に協定「WHA12-40」を締結した。
この協定の主な内容は「国際原子力機関と世界保健機関は、提供された情報の守秘性を保つために、ある種の制限措置を取らざるを得ない場合があることを認める」としている。この協定の締結後、WHOは放射線防護に関する目標を遵守するための独立性や自主性を全く示していない。WHOは、チェルノブイリ原発事故から5年経過後に、やっと高濃度汚染地域を訪れた。WHOは被害を受けた人々に避難命令も出さず、汚染されていない食料の供給も行わなかった。WHOは、特に1995年から2001年までの会議の議事録を公開しないことにより、この大事故の公衆衛生的な影響を隠蔽してきた。WHOは、チェルノブイリ事故による死者数を常に約50人以下と見積もっており、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアの人々の健康上の問題を放射能への恐怖心によるものとみなしている。WHOは、チェルノブイリ事故による死者数を100万人近くと推測する、ニューヨーク科学アカデミーが2009年に発表した研究結果の有効性を認めていない[18]。世界の市民運動はIAEAから独立したWHOを求めている。
http://independentwho.org/jp/who%E3%81%A8iaea%E3%81%A8%E3%81%AE%E5%8D%94%E5%AE%9A/#top

「しかし一般社会においては、計画被ばくによるリスクと事故による被ばくリスクの容認の基準は必ずしも同じではない。前者はリスクを上回る便益が伴うのに対し、後者にはリスクをいくら最小化してもそれを上回る便益が発生することはない。そのためリスクがゼロでなければ容認できないと考える人も多い。
リスクをゼロにするには労力・経済・心理面などいろいろなコストがかかり、別の健康リスクを増加させる場合もある。特に減らすべきリスクが小さければ、トレードオフの関係にある経済コストや別の健康リスクの方がより社会に害をなすであろう。またリスクゼロの人間社会はあり得ないことも事実である。この場合、むしろ、追加リスクをゼロにする防護方策の実施を、他のリスクとのバランスから論理的に考える根拠として、LNTモデルの科学的妥当性の検証は極めて重要な論点となる。実際の健康影響量としての線量評価ではなく、防護量としてLNTモデルから如何にこのリスク・ベネフィットの総合的な判断を下すのかという厳しい状況を、どのように説明、あるいは回避できるかが重要な課題である」。 (P16)

 一般社会では原発推進が便益をもたらすように学術会議「報告」は言うが社会的に見ても必ずしも全ての人に原発による便益があるわけではない。まして、福島原発事故の損失はほとんど一般住民の犠牲に転化されている。原発推進を提唱し、推進に加担してきた学術会議が被害の責任と救済に触れないのは許せないことである。それにもかかわらず、リスクはゼロにはできないからとその受忍を迫っているのである。「特に減らすべきリスクが小さければ、トレードオフの関係にある経済コストや別の健康リスクの方がより社会に害をなすであろう。またリスクゼロの人間社会はあり得ないことも事実である」。これが福島原発事故の加害者責任を問われる学術会議の言う言葉だろうか。
 「報告」はリスク・ベネフィット論を展開しているが福島原発事故被害者は農地や牧場、漁場を失い、健康や命まで失ったのである。原発による利益は東電のものであり、住民にとって、利益、ベネフィットはゼロである。「報告」は被曝を減らすための除染、移住・避難をすることは経済性からほどほどにすべきであるといっているのである。これはまさに原子力推進勢力の意見であり、住民の健康を守る立場の発言ではない。科学者といえども人間である限り、人間の命と健康を第一にすべきである。それなのに経済性を優先させる核エネルギー利用勢力の一端を科学者の代表機関である「学術会議」が担っているのである。人権を無視して原子力を推進してきた責任を学術会議として深く反省しなければならない。

「最近では、100mSv以下の被ばくによる有意な健康影響を示したとする疫学調査の結果が原発労働者や医療被ばくなどの積算線量との関係から報告されているが、こうした研究をLNTモデルが科学的に実証された根拠として認めるかどうかには、専門家間での見解の相違がある」(p16)

 上の議論は100mSv以下では被曝被害は無い、または証明されていないといってきた佐々木氏達がここではLNTモデルの議論にすり替えている。最近の医療におけるCTを用いた低線量被曝の疫学調査では数ミリシーベルトまで直線的にがんが発生することが示された。原発労働者の被曝調査でも同様である。まず、100mSv以下でも被害があることを認めるべきである。LNTモデルの証明に一般市民は主たる関心はなく、むしろ健康被害があるかどうかである。ペトカウ効果を考慮すると低線量で被曝の効果がより強まることもあるのである。

「一方、福島原発事故による追加被ばくに関しては、科学的事実が蓄積され、実際の被ばく線量が明らかにされつつあるものの、子どもへの健康影響に関する不安がなかなか解消されない。そこで、被ばく低減効果の大小にかかわらず、社会から強く要望があった場合は、防護方策を強化する方向で対応してきた(2章(3)節)。その結果、社会全体に関して言えば、健康不安は鎮静化の方向に向かっているが、その分、自主避難者、大規模な甲状腺超音波検査で甲状腺がんが見つかった子どもや家族など、特定の集団の不安が孤立化、先鋭化してきている。また放射線防護の原則に従うと、容認されうると判断される程度の検出限度以下の放射線リスクが、必ずしも被災者にとって理解・容認されてはいない現状も明らかになってきた(2章(4)節)」。  (p17)

 特定の集団の不安などと自主避難者を特別扱いにする態度が見られるが、不安は日本中や世界に広範囲に存在する。誠意のある救済がなされず、移染された汚染物は破れたり、火災の発生しやすいフレコンバッグに詰め込まれたままである。科学者なら不安の原因を明らかにすべきなのに、被災者が放射線リスクを容認しないのが悪いかのような記述である。国は100Bq/kgを食品の基準としているが、これは福島原発事故前の放射性廃棄物の処分基準である。この食品基準に不安を感じるのは当然である。食品基準を検出限界と思われる1Bq/kgにとったとしても、胎児被曝や放射線感受性の高い人を考えると、この値でも「容認できる」とは言えないのが科学的判断である。まして放射性微粒子として内部被曝の危険性がある。科学者として学術会議は原発推進に責任があり、子どもや被災者の健康を守り加害責任を果すべきなのである。

「ICRPも被ばくに関連する可能性のある人の望ましい活動を過度に制限することなく、放射線被ばくの有害な影響に対する人と環境の適切なレベルでの防護を目指すように「すべての被ばくは、経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保たなければならない「ALARA原則」としており、子ども目線でのALARA原則の適用を検討する必要がある」。(p18)

「報告」は「経済的・社会的要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く」という「ALARA」原則の適用を主張している。その原則の下で社会的に推進されてきた核の平和利用の結果が今回の福島原発事故である。被曝による健康破壊や失われた命と経済的利益が比較できるものではないことは今や明らかである。また、事故後の被曝に関しては、ここで言う経済的及び社会的要因というのは国や東電の負担が多くかからないようにということである。学術会議は誰を代表しているのか。誰の利害を擁護しているのか。これはすでに「報告」の分科会委員長の佐々木康人氏自身が国と東電のために、賠償裁判において連名意見書を提出し、「ALARA」を盾に被告を擁護する証言をしていることからも明らかである。子どもたちを被曝被害から守り、健康に育てようという視点が失われている。

「(4) 原発事故後の甲状腺検査の在り方
福島原発事故後、初期放射線被ばくによる甲状腺等価線量が不明であり、県民健康調査事業が開始されている。その詳細調査の一部として、平成23(2011)年10月から事故当時0歳からおおよそ18歳までの子どもを対象として約37万人の甲状腺超音波検査が開始されている。その結果、事故後3年間の先行調査を受診した30万人のデータが解析報告され、多くの甲状腺異常所見(嚢胞や結節)が明らかにされ、特に、甲状腺がんが113例(約0.037%)の頻度で検出されている。これらに地域差や外部被ばく線量の違いによる発見頻度に有意差は無く、今まで検査が施行されたことがない対象者・地域に、初めて精度管理された超音波画像診断が導入されたことによるいわゆる"スクリーニング効果"であると考えられている。事実、UNSCEARやIAEAの福島報告書からも被ばく線量の低さから、放射線の影響は想定されていない」(p19)。

 これは先に述べたように、存在し、証明されている健康破壊や周産期死亡という事実に反する虚偽の文章である。小児甲状腺がんでは1巡目より2巡目の方が発症率が高く、スクリーニング効果は否定されている。すでに放射線被曝の影響は明確に出ているのである。大量の犠牲者が出ているのに全くそれを無視し、デマで住民を騙して被曝を強制していることになる。これは大量の人的被害を学術会議の名において容認することになる。学術会議は大量の犠牲に対し責任を取らねばならない。

「しかし、甲状腺検査結果に対する現場の混乱、とりわけ発見された甲状腺がんに対する患者家族の不安は大きく、検査の妥当性、丁寧な現場説明の必要性、そして何よりも「放射線影響の本態と甲状腺がんの自然史」と「発見された甲状腺がんの治療の在り方」、「繰返される長期間にわたる検査の在り方」について広く専門家による国際的なコンセンサスやガイドラインの策定、そして関係者を入れた共通認識と協議の場の必要性が、第5回福島国際専門家会議(平成28年9月26-27日、福島市開催)でも提唱されている」(p19)。

 チェルノブイリと同様被曝被害の拡大が危惧される現状において、健康調査を地域的にも、大人を含めて年齢的にも拡大すべきである。増加する可能性の高い健康破壊に対して、検査を縮小することは許されない。尿や血液検査も含めて検査内容を拡大し、継続し、公表すべきである。検査や治療は、住民や避難者、被災者と協議してその意見に基づいて、健康調査費用は国が責任を持って行うべきである。

原発賠償訴訟における「佐々木外連名意見書」の問題点 山田耕作

2017年9月


原発賠償訴訟における「佐々木外連名意見書」の問題点

山田耕作
2017年3月3日
2017年9月1日改定



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原発賠償訴訟における「佐々木外連名意見書」の問題点(pdf,21ページ,625KB)


まえがき
 福島原発事故に対して、避難者はじめ被災者から、東京電力と国の責任を追及し、被害の賠償を求めて、全国各地で裁判が行われている。裁判においては各裁判所で被告(東電と国)側からと原告(被災者・被害者)側から、それぞれを代表する科学者から意見書が提出され、裁判で論議されている。特に被曝の被害をめぐっては、原告を代表する意見書は崎山比早子氏による意見書であり、それは国と東電の被曝をめぐる科学上の過ちを指摘し、厳しくその責任を追及している。一方、被告を代表する意見書は佐々木外16名の連名意見書である(「連名意見書」と呼ぶ)。2014年2月「放射線リスクに関する基礎的情報」を、56名の学識経験者の協力を得て政府が発表しているが、連名意見書の基本的な内容はこの「基礎的情報」と同じである。そしてその主張は旬報社発行の『福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り』1)ですでに批判されている。特に同書の松崎道幸氏による第1章「日本政府の4つの誤り」、および山田による第3章「『放射線リスクに関する基礎的情報』の問題点」において詳しく議論されていることである。参照されたい。
 また、この連名意見書に対しては崎山比早子氏が裁判において的確に反論されている(甲D共162意見書4/連名意見書への反論)。そこで、私のこの小論の目的は裁判を少し離れて、純粋に科学的な立場から連名意見書の内容を見たとき、どのような問題点があるかを明らかにすることである。この小論が、被災者やそれを支援して奮闘されている皆さんを力づけ、被災者の何かの役に立つことがあれば幸いである。以下、連名意見書の目次に沿って議論する。

はじめに
 連名意見書は冒頭の「はじめに」において、崎山意見書には、連名者たち「専門家」の「常識的認識」と異なる見解が多く含まれているという結論を述べている。その「不適切な」主張は次の5点であるという。
1)最近の論文によってLNT モデルが低線量域で科学的証拠により証明されており、統計的に有意な発がんリスクの増加が認められる、
2)年間1 ミリシーベルト超の住民の被ばくは原発事故後の福島県を含めて容認できない、
3)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: UNSCEAR)から放射線誘発非がん疾患の疫学的評価に関する報告書がでているので速やかに法規制に取り入れるべきである、
4)福島県で小児甲状腺がんの多発がみとめられるのは放射線被ばくが原因である、
5)年間20 ミリシーベルトを基準とする住民の帰還政策が科学的見地から非合理的である。(p1)

 私は連名意見書が「不適切」という、崎山意見書の以上の5点は極めて正しい適切な指摘であると考える。そして、反対に、ここで言う連名者である「専門家」は一面的な考え方に捕らわれ、最近の科学的な進歩に反する「非常識」な意見を述べていると思わざるを得ない。以下に検討する。

1章.科学的常識の成立
 連名意見書は言う。
新たな知見が科学的真理として受け入れられるためには、多くの追試などを通じてその再現性が検証され、学会等の専門家集団で定説となる必要がある。国の規制に取り入れるのは、その確かさを十分検証された科学的知見であるべきであって、論文が発表されたからといって、そこで報告された結果を速やかに規制に取り入れるべきとの崎山氏の要求は適切でない。(p1−2)
 連名意見書は論文に掲載されても、「科学的常識」として、「専門家集団」の「定説」となる必要があるという。ところが、この「専門家集団」が問題なのである。この「専門家集団」の定説が批判され、放射線被曝のリスクが国際的な論争として永年にわたって継続されている現実を考える必要がある。これまで真剣に被曝の問題に取り組んだ人たちは、国際的な深刻な対立が原子力推進派と被害者救済派の間に存在することを知っているからである。例えば中川保雄氏の古典的名著『放射線被曝の歴史』2)は次のように述べている。「今日の放射線被曝防護の基準とは、核・原子力を開発するためにヒバクを強制する側が、それを強制される側に被曝をやむを得ないもので、我慢して受忍すべきものと思わせるために、科学的装いを凝らして作った社会的基準であり、原子力開発の推進策を政治的・経済的に支える行政的な手段なのである」。

1.1 被曝被害をめぐる深刻な国際的対立
 また、アレクセイ・V・ヤブロコフ氏たちが2009年に出版した「チェルノブイリ被害の全貌」3)の前書きでウクライナ国立放射線防護委員会委員長のディミトロ・M・グロジンスキー教授は次のように述べている。
 「立場が両極端に分かれてしまったために、低線量被曝が引き起こす放射線学・放射線生物学的現象について客観的かつ包括的な研究を系統立てて行い、それによって起こりうる悪影響を予感し、その悪影響から可能な限り住民を護るための適切な対策をとる代わりに、原子力推進派は実際の放射性物質の放出量や放出線量、被害を受けた人々の罹患率のデータを統制し始めた。放射線に関連する疾患が明らかに増加して隠し切れなくなると国を挙げて怖がった結果こうなったと説明して片付けようとした。…(中略)…この二極化は、チェルノブイリのメルトダウンから20年を迎えた2006年に頂点に達した。このころには、何百万人もの人々の健康が悪化し、生活の質も低下していた。2006年4月、ウクライナのキエフで2つの国際会議があまり離れていない会場で開催された。一方の主催者は原子力推進派、もう一方の主催者は、チェルノブイリ大惨事の被害者が現実にどのような健康状態にあるかに危機感をつのらせる多くの国際組織であった。前者の会議は、その恐ろしく楽観的な立場に当時者であるウクライナが異を唱え、今日まで公式な成果文書の作成に至っていない」。

1.2 連名意見書は被曝被害の救済という目的を忘れ、科学的真理を無視している
 さて、連名意見書の言う「国際機関で合意されている科学的常識」とはなんであろうか。どの国際機関で決められた「科学的常識」なのかが問題である。ここにおいて上記の原子力推進派と被害者救済派の対立を考慮すると連名意見書の立場が明確になる。
 つまり、連名意見書提出者はその連名意見書を見ればわかるように「国際機関で合意されている科学的常識」として、自分たちが代表する従来のICRP(国際放射線防護委員会)、IAEA(国際原子力機関), UNSCEAR(国連科学委員会) の一連の見解を「科学的常識」として維持し、適用している。そのため、対立する被害者救済側の最近の進歩である低線量被曝の大規模な疫学調査データやチェルノブイリ事故で発見された「長寿命放射性核種体内取り込み症候群」を一切無視している4−11)
 放射線被曝の研究の目的は事故の被害から住民の健康と生命を守ることである。それ故、予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがあるときは、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置がとられなければならない」が公害問題に対する国際的な合意となっている。連名意見書にはこの「予防原則」という言葉が一切なく、根本的な原則である基本的人権として、人類の命と健康、生活を守るという姿勢が全くない。頭から福島原発事故被害は一切ないと決めつけているのである。
 科学においては、新しい真理が発見されれば古い「常識」は誤りであるということである。現在では5ミリシーベルト程度の低線量までリスクが評価されている。それにもかかわらず、連名意見書は時代遅れの誤った「100ミリシーベルト以下の被曝では被害は証明されていない」という、1950年代にアリス・スチュアートによって批判され覆された古い見解に固執しているのである。これは真理より「古い常識の維持」を優先させる本末転倒した考え方である。ピアレビュー誌に載っても自分たちに都合が悪ければ異議を唱え、まだ証拠不十分といい続けるのである。放射線被曝がよりいっそう危険なことが分かってきたのだから、できる限り早くその知見を取り入れ、被害を減らすのが人類の安全を守る立場の人の責任である。人命よりも古いリスク論になぜこだわるのか。グロジンスキー教授の言うように「被害を隠し、なかったことにする」ためである。その目的は被害に対する国・東電の責任を逃れ、膨大な被害の賠償を逃れるためである。

1.3 科学的真理は客観的な法則であり、自然によって検証される
 ここで最後に「科学的常識」という言葉について考えたい。通常、科学者は「科学的真理」を基準にする。ここでは放射線被曝に関する真理が問題になっている。連名意見書は「真理」といいながら実は「専門家集団での定説」、つまり常識を基準としている。これがそもそもの間違いである。科学的真理は客観的な自然の法則であり、自然や生物の実験・観察によって検証される。連名意見書の言うように掲載される雑誌や多数意見が真理の基準ではないのである。「地動説」は当時のガリレオ・ガリレイ一人の意見であっても正しく、多数意見でも「天動説」は間違いなのである。

2章.放射線影響科学と放射線防護学(保健物理学)の役割
「放射線影響科学領域ではUNSCEAR で評価され、報告書に引用されることが定説として定着することへの一つの過程であると言える」(p2)
 連名意見書は国連科学委員会(UNSCEAR)だけが「定説」を定める権利があり、その決定がすべてであるというのである。ところが現実はUNSCEARの正当性、公平性、信頼性そのものが問われているのである。UNSCEAR は、チェルノブイリでは甲状腺がん以外の被害を認めず、福島ではあらゆる健康被害を認めていない、集団線量は記載されているが現実の被害は無いことになっている。
 原発事故による被曝被害の拡大や科学者の努力により、被曝被害に関する科学は毎年進歩している。UNSCEARやICRPは国際的合意が達成されない新しい被曝の危険性は見送り、取り入れない立場である。彼らの言う「国際的合意」とは国際的に原子力を推進するグループの同意・承認である。例えば世界保健機関(WHO)でさえ、IAEAの許可なしには核被害の情報を公表できない取り決めがあるのである。この不当な制限の故に放射線被曝被害者を護り治療・介護する医者や科学者、被曝被害者たちと原子力推進派は国際的に鋭く対立しているのである。連名意見書は特に国連科学委員会報告書を権威として「国際的合意」としているが、UNCSEARは原発を推進するICRPとIAEA の影響下にあるのである。良心的な世界の人々はWHOのIAEAからの独立を求めている。
 被曝被害をめぐる対立の実態は次のようなものである。新しい危険性について合意に達しないように、ICRP委員や各国政府関係者の原子力推進派が反対し、合意を妨害して不一致を作り、新しい危険性の採用を妨げるのである。これは日本でもアスベストの規制や水俣病被害者の救済で見られたことである。
 崎山氏がリスクに取り入れを主張する非がん性疾患や低線量被曝の危険性について、なぜ連名意見書はリスクとして取り入れないのであろうか。心電図の異常や心臓死の増加が報告されているのである。ユーリ・I・バンダジェフスキー氏の報告をはじめとしてチェルノブイリ事故で「長寿命放射性核種人体取り込み症候群」として内部被曝の危険性が指摘されている5)。内部被曝は放射性微粒子が飛びかう汚染地への帰還に際して、また、関東、東北に居住する人の健康にとっても重大な問題である10)

3章.2種類の放射線健康影響と防護の目的
 連名意見書は言う。
 放射線防護・管理をあらかじめ計画できる平常状態(ICRP のいう「計画被ばく状況」)では防護・管理の目的は『組織反応(確定的影響)の回避と発がんリスク(確率的影響)の最小化』へと変化した。そして、防護の最適化過程に拘束値(dose constraints)を指標として『社会的、経済的要因を考慮に入れて、合理的に可能な限り(As Low as Reasonably Achievable:ALARA)被ばくを低減する原則が取り入れられた』。
線源や被ばく線量の制御が困難な事故などの非常事態(ICRP のいう緊急被ばく状況)となった場合は、防護・管理の目的を『重篤な組織反応(確定的影響)の回避と発がんリスク(確率的影響)の最小化』へとして、平常時よりも発がんリスクが高まることを容認せざるを得なくなる場合がある。事故などの非常事態が収束し、復旧が始まっても、平常時より環境の放射線量が高く直ちに平常時まで下げることが困難な場合(ICRP のいう現存被ばく状況)にあっても同様である。これらの場合には『線量限度(dose limits)』は適用せず、『参考レベル(reference levels)』を指標として、最適化(ALARA)を実践して、可及的速やかに平常に復帰する努力をする。ICRP は線量限度や、拘束値、参考レベルを危険と安全の境界とはみなしておらず、影響の段階的変化を示すものではないとしている。汚染地域に居住しながら、平常状態を目指して防護の最適化活動を実施することを意図している。事故後の非常時、復興期に平常時の公衆の線量限度である年間1 ミリシーベルトを超える地域に居住すべきでないとする崎山氏の主張には科学的根拠がない。崎山氏は、線量限度の意味を誤解しているものと思われる。(p5−6)
 人間の健康・生命の安全を基準としていないのでこのような議論ができる。しかし、年間1ミリシーベルトは過去の被曝被害の研究から被曝が危険であることから到達した値である。本来、健康のためにはもっと下げるべきであるが「社会的、経済的要因を考慮に入れて」というICRPの基準のために1ミリシーベルトにとどめられているのである。原発で言えば、経済的利益は電力会社にあるが、住民はただ、被曝被害を受けるのみであり、被ばく限度は、本来、0ミリシーベルトであるべきである。それより高い1ミリシーベルト以上のところに住むべきでないのは、人間の放射線に対する耐性が事故で変わらないのであるから科学的な結論である。崎山氏の主張は放射線科学者として当然である。むしろ、経済的利益を人間の健康や人権より上におくICRPのALARA原則は廃棄されるべきである。法令で定めた放射線管理区域(3か月で1.3ミリシーベルト、年間5.2ミリシーベルト、またはアルファ線を放出しない放射性同位元素 に対しては4Bq/cm2)以上の高汚染地域に子供や妊婦まで住まわせて連名者たちは平気なのか。私たちは、彼らの「汚染地域に居住しながら、平常状態を目指して防護の最適化活動を実施することを意図している」という言葉を忘れてはならない。これは連名者自身が、「平常状態」でない汚染地に人々を居住させたり、帰還させていると自覚しており、これから「平常状態」を目指すのであり、連名意見書によっても安全でないと考えているのは明白である。連名意見書は「平常時より環境の放射線量が高く直ちに平常時まで下げることが困難な場合」は現存被ばく状況として20ミリシーベルトの被曝を容認している。人間が住める環境でなければ避難して移住する必要がある。やむを得ず住み続けなければならないのは移住のための損害賠償や生活補償が十分でないからである。
 そもそも、連名意見書の言う「現存被ばく状況」を作ったのは原発を推進してきた東京電力と国である。これらの加害者が被害者に対して、20ミリシーベルトから、徐々に1ミリシーベルトに低減していけばよいといっているのである。一般常識では加害者が被害者に謝罪して、加害者の責任で安全な場所への移住とその生活を保障するのが当然である。

4章.低線量(100 ミリシーベルト以下)影響の不確実性とLNT モデルの意義
 連名意見書は言う。
現時点での国際的なコンセンサスは、100 ミリシーベルト以下の低線量域においては疫学データの不確かさが大きく、放射線によるリスクがあるとしても、放射線以外のリスクの影響に紛れてしまうほど小さいため、統計的に有意な発がん又はがん死亡リスクの増加を認めることができない、というものである。(p6)
 連名意見書は100ミリシーベルト以下の被曝についてのリスクの疫学的、科学的調査結果はないという立場である。国際的な疫学研究の進歩を無視している。次の?章で、あらゆる疫学研究に言いがかりや疑問を投げかけ、その成果を無視している連名意見書の立場は内外の多くの専門の科学者から批判が出ている。国連「健康に生きる権利」特別報告者アナンド・グローバー氏による日本への調査報告書(2012年)は「9.チェルノブイリ事故では甲状腺がんだけが増えたという欠陥の多い調査結果をよりどころにして、日本政府がそれ以外の健康影響が発生するはずがないという立場をとっていることは極めて遺憾である」と勧告している1,12)
 さらに、「48.日本政府は、国連特別報告者に対して、100mSv 未満では発癌の過度のリスクがないため、年間放射線量20mSv以下の居住地域に住むのは安全であると保証した。しかしながら、国際放射能防護委員会(ICRP)でさえ、発癌又は遺伝的疾患の発生が、約100mSv 以下の放射線量の増加に正比例するという科学的可能性を認めている。さらに、低線量放射線による長期被ばくの健康影響に関する疫学研究は、白血病のような非固形癌の過度の放射線リスクに閾値はないと結論付けている。固形癌に関する付加的な放射線リスクは、直線的線量反応関係により一生を通し増加し続ける」と日本政府の過ちを指摘している。

5章.崎山氏が取り上げる最近の論文についての専門家の論評
 この章では論文の信頼性の検討をするのであるが、崎山氏に対する反対尋問でも見られたが論文の構成や性格について連名意見書は誤解しているようである。閲読後掲載されるのは編集委員会が出版する価値があると認めた論文である。通常、論文の末尾になされるDiscussion は今後の検討が望ましい問題点に関することが多い。また、疑問点に答えるためにあえて疑問を提示し回答している。ということであって、肝心なことは疑問の提示は論文自体の結論を否定するものではない点である。以下の個々の論文批判もそうであるが、被告側がDiscussion が論文自体を否定する、ないしは結論が未定のように理解して原告証人を追求しているのは、論文についての無理解から生じる間違いである。私には自分では当否も重要度もわからないまま、何でも原告証人批判に利用するという批判の仕方に見えた。これでは自分たちの無知をさらけ出すのみならず、討論を経て真実を見出そうとする科学論争の裁判にはなじまない。

(1)小笹晃太郎ほか「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14 報(1950−2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要)」
最小の区切りが0−200ミリシーベルトでそれをとおるということは閾値0を示唆する。それ故、論文の要約でも閾値0が最もふさわしいと書いているのである(zero dose was the best estimate of the threshold.)。それに対して、連名意見書は
崎山氏は、LSS 第14 報の要約欄に「全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は0−0.2Gy(引用者注:1Gy=1000mGy(ミリグレイ)であり、0−0.2Gyは0−200mGy に相当。以下同じ。)であり、定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。」との記載があることなどを根拠に、「放射線に安全量はない"しきい値なし直線(LNT)モデル"が最も調査結果にあっている、ということである。」と指摘している。
しかし、崎山氏の指摘・主張は、以下に述べるとおり、明らかに平成26 年5 月20 日に行われた第6 回東京東力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議において、当該論文の執筆者である小笹晃太郎氏が説明しており、崎山氏のような解釈が誤りであると明確に述べている(専門家会議議事録26−31 ページ、同会議における小笹氏の提出資料参照)。
そこで同議事録の小笹氏の発言を見よう13)
「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被ばく放射線量に対して直線の線量反応関係を示し、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、リスクが有意となる線量域は0.20Gy以上であった」というのである。このように小笹氏は閾値ゼロを確認しており、崎山氏の引用と矛盾しない。ただ、リスクの95%信頼区間が有意であるのは200ミリシーベルト(mGy) 以上であるということである。つまり、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、0−200ミリシーベルト領域に延長するリスク直線が有意となる線量域は200mGy以上であったということである。閾値ゼロが最もふさわしいことには変わりがない。Prestonらの結果も100ミリシーベルトが閾値でないことを示している。住民にとって大事なのは線形かどうかではなく、低線量でも危険であるということである。

(2)テチャ川流域住民における放射線被ばくと固形がん死リスク(Krestinina L Y et al.)
確かに50ミリシーベルト付近では線形であるかどうかは不明だが、ここで示された図でも100ミリ以下でも影響があり、がんが被曝により増加していることを示している。低線量被曝の危険性を証明している。線形性のみを批判し、低線量被曝被害の増加を無視している。低線量では発症が遅く、特に長期間の観察が必要である。

(3)原子力産業の放射線作業従事者のがんのリスクに関する15 カ国共同研究:放射線に関連するがんリスクの推定(Cardis E et al.)
 確かにカナダの被曝線量測定に間違いがあったようである。しかし、この点については少し検討を要するかもしれない。AECL(カナダ原子力公社:Atomic Energy of Canada Limited)の被曝データでがんの発生率が異常に高いとされている。AECLはチョークリバー研究所を引き継いでCANDU炉開発を本格化させ、1962年にはオンタリオ州ロルフトンに2万kWのCANDU実証炉NPD(Nuclear Power Demonstration)を完成。1971年には商業用CANDU炉の第1号となるピッカリングA発電所1号機(54.2万kW)が営業運転を開始した(Wikipedia)。この様にAECLは重水炉に関与していた。重水炉はトリチウムの発生量が高いことはよく知られている。ロザリー・バーテル氏はトリチウムによる被曝がカナダに於けるがんの異常発生の原因である可能性を指摘している。
 次に述べる3ヶ国や日本の原子力発電所の労働者の正しい調査でも統計的に有意な被曝リスクが出ている。日本では10ミリシーベルトの被曝でがん死が有意に3%増加した(松崎「日本政府の4つの誤り」p19)1)

(4)仏英米3 カ国の労働者の後ろ向きコホート研究(INWORKS)
 連名意見書は
この論文については、放射線影響協会が2016 年1 月15 日付で見解を公表している
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/20160115_BMJ_inworks_paper.pdf)。そこでは、重要な交絡因子であると考えられる喫煙について当該論文が適切に調整を加えていないことや、INWORKS 調査の対象者に核実験や核兵器製造の業務に関わる者が含まれているために問題となる中性子被ばくの状況が適切に考慮されていない可能性があることへの懸念が示されている。当該論文の示唆する結果について、科学的な評価は定まっているとは言い難い。(p12)
と無視している。この連名意見書にある放射線影響研究所の評価及び原論文を読むと連名意見書の記述は論文を曲解しており、上記コメントは不適切であり、被曝基準としてとりいれることこそ科学者の責任である。
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/20160115_BMJ_inworks_paper.pdf#search=%27%EF%BC%88http%3A%2F%2Fwww.rea.or.jp%2Fire%2Fpdf%2F20160115_BMJ_inworks_paper.pdf%EF%BC%89%27
 同研究所は次のように解説している。
INWORKS論文の要旨と主張(原論文の要旨の和訳)
 「放射線被ばく線量が増えるに応じてがん死亡リスクは直線的に有意に増加することが観測され、白血病を除くがん死亡リスクは1Gy当たり48%の増加(ERR/Gy=0.48)、固形がん死亡リスクは1Gy当たり47%の増加(ERR/Gy=0.47)であった。仏、英、米3カ国間でがん死亡リスクに有意な違いはない。0-100mGyの線量域に限ってがん死亡リスクをみても全体の線量域のリスクと同じ大きさである。
 交絡の可能性のある喫煙や職業上のアスベスト曝露の交絡については、間接的な方法で検討したが、喫煙や職業上のアスベスト曝露による交絡ががん死亡リスクに影響を与えているとは思われない。
 今回の放射線業務従事者を対象とするINWORKS調査によって、慢性低線量被ばくによる固形がん死亡のリスクが直接的に観察でき、本調査から、低線量率被ばくにおいても、高線量率被ばくである原爆被ばく者で観測されるリスクと同じ傾きであることが示された。
 これがINWORKS論文の主たる結論である
」。
この論文は次の図1に示すように低線量まで同じ傾斜で被曝線量にリスクが比例している。調査人数約30万人、精度を含め素晴らしい研究である。この国際的な研究に対して日本の「専門家」は異論があるようである。それは次のようなものである。
 (1)喫煙の交絡について
低線量率放射線被ばくの健康影響をみる上では、放射線以外の要因による交絡を如何に制御できるかが重要である。特に、我々の疫学調査と同様にINWORKS調査も対象の属性をコントロールできない観察研究であることから、放射線被ばくとの関連が見かけ上の関連に陥っていないかに充分注意を払わなくてはいけない。
この点に関しては、INWORKS論文の著者らも注意を払い、考えられる交絡要因を調整しつつ解析を進めている。しかしながら、INWORKS調査においては、どのように交絡要因を調整しようとも、がん死亡リスクに大きな違いを与えていない。また、3カ国別にみても、あるいはその国の中で原子力施設の違いや、社会経済状況である職種や従事期間を調整しても、がん死亡リスクは殆ど同じ値を示し、3カ国を統合したと雖も本対象集団の同質性が強調されている。すなわち、交絡要因の調整は死亡リスクに影響を与えない。
これは、日本の放射線業務従事者における調査とは全く異なっている。
重要な交絡要因であると考えられる喫煙については、INWORKS調査では喫煙情報が個人毎に把握されていないこともあり、がん死亡を説明するモデルの説明変数に喫煙を加えるという直接的な方法ではなく、がん死亡から喫煙に関連するがんを除くという従属変数の操作による間接的な手法で喫煙の交絡を議論している。そこで、喫煙に強く関連する肺がんを除いて解析したとしてもがん死亡リスクに変化はないことから、著者らは、本調査集団に喫煙の交絡はないであろうとしている。
このような間接的方法は、我々も第V期調査の解析で用いたが、日本のケースでは、がん死亡リスクは大きく低下し、かつ、有意ではなくなったことから、喫煙が交絡している可能性を強く示唆している。さらに、喫煙情報を個人毎に把握している一部集団について、喫煙の交絡を直接的な方法で調整すると、がん死亡リスクは大きく変化することが定量的に確認された。
以上から、3ヶ国では「肺がんを除いても死亡リスクに変化がない」が日本の場合は「大きく低下」したという。日本の労働者は喫煙者が多いのではないかと思われる。しかし、この違いにもかかわらず、連名意見書は3ヶ国も交絡と決めつけ、「当該論文の示唆する結果について、科学的な評価は定まっているとは言い難い」と切り捨てるのである。こうして低線量まで被曝リスクを示した調査・証明はないというのである。
 連名意見書は喫煙の交絡の疑問を提示するだけで、それ以上検討していないが松崎道幸氏は彼らの間違いを次のように指摘している。
 文科省が行った日本の原発労働者約30万人の調査で平均10.9年の追跡期間で1人平均13.3mSv 被曝し、がん死リスクが4%増えた。10mSv あたりにすると3%である。日本の調査で100mSv被曝群は10mSv 未満被曝群より30%以上肺がん死が高いが、この差を喫煙率の差では説明できない。100mSv被曝群は喫煙率54%、10mSv 未満群では44%の喫煙率であり、喫煙率の10%の差で30%の肺がん死のリスクの差は説明できない。(以上は松崎道幸氏の考察である)1)
 いずれにせよこの論文は次の図1に示すように低線量まで同じ傾斜で被曝線量にがん死リスクが比例している。また中性子による被曝が10%以上になる労働者は除いている。


図1 3ヶ国の原発労働者の被曝量とがん死の相対リスク


(5)核施設労働者の白血病、リンフォーマによる死亡と放射線被ばく
−国際コホート研究−(INWORKS)(Leuraud K. et al.)

 連名意見書は言う。
更に統計解析での問題点を挙げれば、動物実験結果から、線量率を下げると同じ総線量であっても放射線誘発白血病やがんのリスクは小さくなることが分かっている。この点、当該研究のコホートでは、たとえば、年間平均3mGy で40 年従事した作業員と、年間平均12mGy で10 年間従事した作業員と、1 年間だけ50mGy 被ばくし、その他の35 年間は年間2mGy の被ばくであった作業者がいたとしても、それらはすべて果積線量120mGy として扱われる。実際、累積線量が高い作業員は、核開発初期に従事していた作業員である。生物学的には、これらの異なった被ばく状況は異なる影響を来すと推測されるため、作業者の解析においても、累積総線量だけでなく、線量率を用いた解析をも行う必要があるが、この論文ではそのような解析は行われていない。したがって、この論文をもって、100mSv以下で発がん又はがん死亡リスクの増加があることが実証されたとか、LNT モデルの成立が実証されたとは言い難い。(p13)

論文は3ヶ国核施設労働者の白血病死が被曝量に比例し、500mGy 以下で1Gy当たり2.96倍(90%CI:1.17−5.21)になることを示している。300mGy以下でも、100mGy 以下でもほぼ同じ傾きの直線に載る。ただ、100mGy 以下のデータの誤差の下限が1より小さいことを持って統計精度がよくないことを批判しているのである。むしろ、3直線が一致して低線量まで被曝の危険性を示していることが重要で、崎山氏の指摘のように、100 ミリシーベルト以下でも「死亡リスクが増加した」のである。総被曝量が同じ時、むしろ、低線量で長期の被曝の方が短期間での高線量被曝より危険であることがペトカウ効果と呼ばれて知られている14,15)。ペトカウ効果によれば、放射線によって発生した活性酸素が細胞膜やミトコンドリアを連鎖的に破壊する間接的な放射線の効果の重要性が指摘されている9,10)。このように連名意見書の線量率に関する見解は時代遅れになっている。

(6)イギリス高線量地域における小児白血病(Kendall GM et al.)
自然放射線被曝が5ミリシーベルトを超えると子どもの白血病が1ミリシーベルトごとに12%増加した。この場合5ミリシーベルトでも相対リスクの下限が1を超え、統計的に有意である。連名意見書は仕方がないので、これも細かい揚げ足取りで疑問を投げているだけである。交絡因子や線量の不確定さを挙げている。

(7)バックグラウンド電離放射線と小児がんのリスク:スイスの国勢調査ベースの全国コホート研究(Spycher et al.)
 連名意見書は
このTable2 にあるとおり、全がん、白血病、のハザード比が有意に増加したのは居住地の放射線レベルが200nSv/hr 以上の子ども(1nSv(ナノシーベルト)=100 万分の1 ミリシーベルト=10 億分の1 シーベルト)、また他の腫瘍については150nSv/hr 以上200nSv/hr未満の子どもであった。年間の被ばく線量1mSv は、線量率に換算すると114nSv/hr に対応するから、「この論文で初めて1mSv という低線量でも有意にがんが増加することが疫学調査で示された。」という崎山氏の指摘(京都地裁に対する崎山意見書17 ページ5−7 行)は正しくない。
といっている。つまり、1ミリシーベルトは114nSv/hrに対応するから150nSv/hrや200nSv/hrでは正しくないというのである。このような姿勢なのである。崎山氏が「約」とつけておけばよったかもしれないが調査は100 nSv/hrからされており、1ミリシーベルトのオーダーまで示されたと危険性の精度に感服するのが科学者であろう。このような細かいことを重要視する科学者には決して放射線被曝の全体像は見えないであろう。科学的判断とは総合的な判断であり、危険性を各専門家に分担して考察していては見えないのである。
 また、彼らは自分たちの都合でリスク評価を使い分けている。例えば「低線量被曝リスク管理に関するワーキンググループ報告書」では木造家屋の遮蔽を考慮に入れ、毎時190nSv/hを年間1ミリシーベルトとしている(同報告p14、また「放射線リスクに関する基礎的情報」でも同じ値)。20ミリシーベルト以下として帰還を進める時は空間線量3.8μSv(3,800nSv)/hを20ミリシーベルト/hとしているのである。このような子供じみた口先の議論で本当に国民の安全と健康は守れるのだろうか。

(8)医療放射線被ばくの健康影響
連名意見書はCT検査の結果がんが増加したのを否定するために問題点を挙げている。イギリスのCT検査では素因となる基礎疾患を有する患者ではCT 検査の回数が多く、被ばく線量も多かったためだという。しかし オーストラリアではほとんど大部分80%が1回のCTである。照射した以外の場所にがんが発生したことを問題にしているが人体の免疫や内分泌系のつながりなど人体を有機的な統一物、生体として理解していない。非科学的態度である。オーストラリアの研究はCT検査を受けた68万人と受けなかった1026万人のがん発症率を比較したものである。検査1回の被曝量は推計4.5mSv、発症率は1回当たり1.24倍であった。精度の高い調査である。また、検査部位と発がん部位との関係をさけるため、CTが最も多く取られた(約60%)脳腫瘍を除いたり、CT検査後の潜伏期間として、1年、5年10年を仮定して解析しているが、リスクに関する結果に基本的な変化はなかった。
イギリスのCT検査による白血病の増加について連名意見書は言う。
「崎山意見書には、『白血病罹患率についての過剰相対リスクは0.036/mGy(1mGy被ばくすると白血病罹患率が1.036 倍)であり、脳腫瘍罹患率については、過剰相対リスクは0.023/mGy(1mGy の被ばくで脳腫瘍の罹患率が1.023 倍)であった。』との記述がある。原論文に過剰相対リスクが0.036/mGy などと記載されているのは事実であるが、これは、「LNT モデルを仮定すると白血病罹患率が1mGy 当たり3.6%増加する」という意味である。『1mGy 被ばくすると白血病羅患率が1.036 倍』という記述は、あたかも1mGy という低線量の被ばくで白血病罹患率が増加するかのような印象を与えかねないが、意味が異なる。
意味は異ならない。オーストラリアの調査でCT1回当たり、4.5mGy の被曝でがんが増加した。発がんの機構を考えれば1回当たり1mGyでも罹患率は増加すると考えるのが自然である。

6章.高自然放射線地域住民の疫学調査
 「放射線必須データ32」田中司朗他、創元社 p123によればケララ州の疫学調査のp値が0.5以上であり、関連はないといっている。筆者中村清一氏は「生涯線量の推定には比較的大きな誤差を伴う可能性がある。経済的発展に伴い住民の移動がおおきくなりつつあることを問題点」としている。一方、同書で37ページに松田尚樹氏が「高レベル自然放射線地域住民の染色体異常」を報告し、「高レベルの自然放射線地域(外部線量は2.74から4.44mGy /年)住民では、年齢の増加に伴って、血中リンパ球における二動原体染色体及び環状染色体の存在率が増える傾向にある」。高レベルの自然放射地域ではこの染色体異常と年齢の相関係数が0.74であるが対照地域では0.21であった16)
 市川定夫氏も土地の自然放射能がムラサキツユクサの突然変異を誘発することを確認している4)。放射線の影響がないことを証明するためには被曝の実態を正しく反映できる適切な疫学調査が必要である。後述のOhiraたちの論文の不検出の結果は適切でない分割のためである。ケララ州のがんも地域分割と統計精度の誤差が危惧される。

7章.福島県「県民健康調査」について
(1) 小児甲状腺がん
 連名意見書は
津田論文は、県民健康調査の公表された一部の途中結果のみを利用し、誤って解釈した結果、福島県立医大における外部被ばく線量と甲状腺がんの地域別関連性を精微に解析した最新の論文とは異なる結論を得ている。同論文では甲状腺がんと放射線被ばくの因果関係を示唆する所見は得られていない(Ohira T et al. Medicine,2016)。
として放射線被曝の甲状腺がん発生への寄与を否定している。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5008539/h/articles/PMC5008539/
 この点については津田敏秀氏が岩波の『科学』2017年2月号p0124で外部比較に比べ、違いが小さい内部比較によるOhira論文こそ根拠がないと批判している。私もOhira氏たちの論文を見たが、福島県の地域の分割が3つと少なく、差が出にくくなっている。しかも汚染度の最も高い地域の調査対象人数が4192人、甲状腺がん患者数は2人と少なく統計誤差が大きくなる分割となっている。これでは全体のサンプル数が30万人と多くても、「精微」と言われても、正しい結果は出ないのも納得できる。連名者の一人柴田義貞氏の言う悪い疫学の例である。さらに観測年が低汚染地域ほど遅いので、汚染度と観測期間とが患者発生数の違いを相殺する方向に働いている。大きな差が出ない解析であるように見える。大平氏は津田氏達の内部比較が2.6倍なのに外部被曝が30倍では大きく食い違うという。そもそも大平論文で福島原発事故による被曝量が小さいというのは根本的な誤りである。国際的に信頼性があるストールたちの研究はセシウムの福島の放出量は37ペタベクレル(10の15乗Bq)としており、ヨウ素ではセシウムの50倍の2000ペタベクレル以上の放出と考えられる。
 結果が出ない分割は線量分布など事故の本質を理解しない解析となっているからである。連名意見書がOhira論文を津田論文と同等に扱っていること自体、連名者の見識が問われるものである。疫学「専門家」の柴田氏はどう考えているのだろうか。まさに対象人数を増やしたから正しいとは言えない例であるのに、「精微」な解析という科学者がいるだろうか。それに比べ原告証人崎山氏や津田氏の大平論文に対する批判は謙虚である。
 小児甲状腺がんの発症はどのくらいの期間で起こるのか。以下の図2は松崎道幸医師がチェルノブイリ事故によるベラルーシの子供の甲状腺がんについて作られた図である。高年齢の子どもたちに被曝後早くがんが発生し、0歳で被曝した子は約7年後に最も多く小児甲状腺がんが発生している。10歳近くで被曝した高年齢の子どもの方に被曝後がんが早く発生するのはがんの発生の機構が関係しているようである。この点は後に詳しく説明する。がんが0歳時に発生してがんと認められるのに7年かかるとしても10歳で被曝した子はすでに小さながんがあり、がんを抑制する免疫等のシステムが放射線で壊されたり、放射線でがんの成長が促進されたりするとがんが発症するようである。この時、がんの潜伏期間や有病期間をどう定義するかということが問題となる。
 最近の分子生物学では、がんの発生から進展の全体像が明らかになりつつあるということである。
 ICRP2007年勧告も指摘しているが、がんの発生と進展の多段階性が主張されている。
(1)イニシエーション(前腫瘍状態)
(2)プロモーション(前腫瘍状態の細胞の増殖と発達)
(3)悪性転化(がん化)
(4)プログレッション(進行の加速と浸潤性の獲得)
 最近の研究の重要なポイントは遺伝子及びエピゲノム及び染色体の変異・欠失が蓄積していく点、この蓄積は前がん病変段階でも、がん化でも、がん悪性化でも同じである。そして放射線は直接、あるいは活性酸素を通じて間接的に各段階でがん化を促進する。
 例えば膵臓がんであるが、日常では発見されてから半年位で半分が亡くなる進行・増殖が早いがんと考えられてきたが、実は遺伝子異常の発生から非転移性の原発性膵がん誕生まで11.7年が必要だそうである。
 以上の考察から言えることは、放射線の影響があるかないかの二者択一の問題の捉え方は一面的であることである。甲状腺がんの発生・成長の各段階で放射線ががんの発症を促進すると考えるべきである。それ故、福島県をはじめとして子どもの甲状腺がんが著しく多発したのである。


図2 被曝時年齢と甲状腺がん発見期間
0歳の子供だと平均潜伏期間は7年位、がんが発生してから認定されてから手術までの期間4年位でしょうか。

 福島県の小児甲状腺がんに関して、2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い罹患率の計算を行った。そして「3地域の罹患率の比較」を行った17)

3地域の罹患率の比較 ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値


「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。

原発が甲状腺がん増加の原因であることの証拠
 図3は医療問題研究会の山本英彦医師による福島原発からの距離と先行検査の小児がん発生率の関係を示している(危険率p=0.002)18)。原発に近いほど発症率が高く、小児甲状腺がんの原因が福島原発事故にあることを明確に示している。

3地域の罹患率の比較 ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値

図3 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)

ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測
 さらに「子供の甲状腺がんの発生の原因が福島原発の放出放射性物質でない」という連名意見書の誤りを示す議論を追加する。
「ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測してみる」
市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
http://blog.torikaesu.net/?eid=55
 渡辺氏はICRP被曝リスクモデルを用いて、アメリカ国防総省の甲状腺被曝量の推計等を基に、福島での甲状腺がんの発生数を予測している。その結果によれば事故時に0歳から18歳であった福島県の子供30万人について、甲状腺がんの過剰発生数の予測値は、次のとおりである。最大値には朝日新聞に基づく補正値を採用している。
(1)ICRPリスクモデルで54〜1111人(生涯期間)
(2)ECRR補正後で2160〜4万4440人(生涯期間)
(3)現在までの5年間で123〜2539人
 この渡辺氏のICRPに基づく計算も子どもの甲状腺がんは福島原発事故で多数発生していることを示している

(2) 住民の放射線被ばく線量の現状
 連名意見書は住民の被曝量を推計しているが著しい過小評価がある。①通常の測定ではガンマ線のみでアルファ線,ベータ線が測れない。②ガラスバッジによる個人線量計は面に垂直な特定の方向しか検出しない。そのため数分の1の小さな数値しか出ない。③初期のヨウ素の放出量について正確な値はわからないが、国は過小評価している。④国のモニタリングポストが放射線量を半分近くの値に過小評価する。⑤放射性微粒子による内部被曝が特に危険である。
 ガラスバッジに関してその測定の誤りが指摘されている。連名意見書は次のように言っている。
個人線量計を装着して個人モニターが可能になってからの線量計側では、空間線量と行動から推定する被ばく線量よりも低い傾向が見られた (p20)




 ガラスバッジを用いた被曝線量測定は疑問が出されている。 黒川眞一氏は早野龍五氏達のガラスバッジの精度やバックグラウンドなどのデータ処理について疑問を提出している 19)。 その結果、宮崎・早野論文の信頼性が問われている。
 河野益近氏も「法的に言えば、正しく1cm線量当量を測定できていないのは問題です。私は、個人被ばくうんぬんではなく、法令にのっとっていない測定結果が住民に示
されていることが問題だと思っています。きちんとした1cm線量当量が示されていれば、後日、個人情報(身長など)をもとに実効線量を計算することが可能です」。
 法令で定められた1囘量を測定すべきであるが、ガラスバッジの数値との関係が具体的に説明されておらず、正確な被曝線量が測定できるとは思われない。「オフィシャルには法令に適合した測定結果かどうかだと思いますJIS規格では前方方向からの放射線で校正されているため、業者が測定した人体による遮蔽効果を含んだガラスバッジの結果をもとにするのであれば、 議論が成り立たなくなります。議論、特に裁判での議論では、法令を基にして正しいかどうかが争われるべきだと思います」と述べている。(私信)
 さらに宮崎・早野論文には重大な誤りがある20,21)。同論文の第一式において、個々人の空間線量値に対するガラスバッジの線量値の比を取り、その比率を全市民について平均をとっている。数学では比率を平均することができない。この場合は被曝線量の重みをかけて平均しなければならない。それ故、一連の宮崎・早野論文は出発点から誤っている。正しくはガラスバッジで測った集団線量と空間線量から求めた集団線量を比較しなければならない20)。それ故、連名意見書の主張の根拠がなくなった。ガラスバッジメーカーのアドバイザーである柴田徳思氏はガラスバッジの欠陥や解析の誤りについて知らなかったのだろうか。

8章.福島原発事故における国の避難/帰還基準(年間20 ミリシーベルト)の妥当性
日本では、年間20 ミリシーベルトの低線量被ばくとその健康影響や、20 ミリシーベルトを避難指示の基準とすることの合理性等について、平成23 年11 月から同年12 月にかけて行われた低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループにおいて専門家を交えて議論された。その結果、「国際的な合意に基づく科学的知見」によれば、「放射線による発がんリスクの増加は、100 ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。」「現在の避難指示の基準である年間20 ミリシーベルトの被ばくによる健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。」「年間20 ミリシーベルトという数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切である」。とする見解が報告書にまとめられている。この見解は現在でも正しく、有効である。(p20−21)
 このように連名意見書では根拠を示さず、ワーキンググループの結論をそのまま引用している。崎山氏の疫学調査を用いた「数ミリシーベルトの低線量の被曝も危険である」とする主張に対する反論がほとんどなされていない。5章で見たように低線量被曝の精密な論文に根拠のない疑問を提示しているだけである。全体として低線量被曝が数ミリシーベルトまで危険であることが疫学調査で示されている。これが被曝の科学の大きな流れであることが理解される。如何にこじつけようと科学の進歩を止めることはできない。低線量被曝のデータや低線量被曝の総合報告が発表されている。事故以前の被曝基準が年間1mSvであり、人間が事故後も放射能耐性を持たないのであるから、おなじ1mSv が危険であることには変わりはない。年間20mSv にするのは経済的理由である。事故に責任のない一般住民には被曝被害に見合う経済的利益は皆無である。だからICRPの原則リスク・ベネフィット論からしても一般公衆の基準は本来0mSvであるべきである。それ故、加害者は避難を保障し、賠償をすべきである。
 さらに最近の被曝の科学の進歩に関して付け加えると、遺伝子解析によると被曝によってがんを発生したり、がん抑制機能を失うなど結果としてがんを促進する遺伝子が発見され、それが蓄積することである。このような危険な遺伝子を持つ人が1〜6%存在するといわれ、その人たちにとって安全な線量はないということである。

おわりに
 連名意見書は最後に次のように言う。
福島原発事故以後、我が国では、国際機関で合意されている低線量放射線影響の科学的常識から外れて、低線量放射線健康影響のリスクが大きいとみなすごく一部の「専門家」の影響で、必要以上に被ばくを怖れ、不安にかられている人々が大勢でたことは、今こそ推進すべき福島の復興を阻害する不幸な事態である。『崎山意見書』で主張されている内容の多くは、正に不必要に低線量被ばくを危険視するもので、良識ある専門家には受け入れられないものである。
我が国の訴訟において、国際的に合意の得られている範囲を超えて、低線量放射線の被ばくに健康影響があるとの判断がなされることがあれば、福島の復興が遅れ、コミュニティの再建に大きな影響を及ぼす。これは被災地住民の希望に反することである。加えて、健康影響に関する国民の不安感が益々増大し、患者の診療に不可欠な医療放射線の利用に対してまで不安感が広まり、また、放射線防護・管理その他の規制の根拠が損なわれるなど、社会の多方面にわたり多大な悪影響が及ぼされることになる。低線量被ばくに関する科学的検証に基づく国際的な合意の内容をふまえた、適切な判断がなされるよう望む。(p21)
 この言葉が正当で国民にとって正しい判断であるためには「国際機関で合意されている低線量放射線影響の科学的常識」が正しいことが前提である。しかし、以上みてきたように最近の科学の進歩から大きく取り残された被曝被害を過小に評価する誤った見解である。これが日本の一流の科学者たちの結論であるとすれば科学に対する国民の信頼は全くなくなってしまうであろう。
 特に放射性微粒子による内部被曝とその被曝による活性酸素を通じた様々な健康破壊が増加しているのである。これがチェルノブイリで発見され、福島で不幸にも再現されつつある悲劇の実態である。
 ここで言う「国際機関で合意されている科学的常識」とはなんであろうか。「良識ある科学者とは」誰であろう。起こっている現実の被害を隠蔽し、被害者を見捨てる連名意見書の科学者である。ここでの「低線量被曝に関する国際的合意」とは低線量被曝の切り捨てであり、内部被曝の無視であり、被害者を放置することである。原発を推進して被害を及ぼした加害者が被害者に向かって、「国際的に合意の得られている範囲を超えて、低線量放射線の被ばくに健康影響があるとの判断がなされることがあれば、福島の復興が遅れ」、不安が増すというのである。
 まさに連名意見書は先に引用したグロジンスキー教授の言うとおりの原子力推進派の国際的主張である。確かに被告国側の代理人はヤブロコフたちの本を「絶版だ」と騒いでいた。血のにじむような苦労で集められた被害報告に対するなんという無知であろうか。傲慢さであろうか。ニューヨーク・アカデミーの編集者の報告をネットで見た人は私のように多くいたはずであり、貴重な報告として敬意を払っている。
 連名意見書提出者たちは特定の原子力推進に関係する利害に捕らわれ、時代の進歩に取り残され、客観的な判断力を失った人たちなのである。
 また、実際の裁判を傍聴して感じるのは被害の現状を訴え、その救済を切々として訴える被災者に対する東電や国側の非情な人権無視の態度である。大量殺人にも匹敵する事態を引き起こしながら、誠実な考察や答弁を一切行わない現状は人権としても許すことができない。

謝辞
多くの人に議論していただき、様々な考えがあることを教えていただきました。真剣に議論につきあってくださった方々に感謝します。特に高木伸、黒川眞一、河野益近、渡辺悦司、片岡光男、荻野晃也、宗川吉汪、大見哲巨、遠藤順子、児玉順一の諸氏にお世話になりました。

参考文献
1)『福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り』澤田昭二他、旬報社、2014年
2)『放射線被曝の歴史』中川保雄 技術と人間 1991年、同増補版、明石書店、2011年
3)『チェルノブイリ被害の全貌』ヤボロコフ他著、星川淳他訳、2,013年
4)新・環境学III −有害人工化合物/原子力−市川定夫著 藤原書店2008年
5)放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響−チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ− ユーリ・I・バンダジェフスキー著 久保田護訳 合同出版2011年
6)放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響―チェルノブイリ原発事故その人口「損失」の現実― ユーリ・I・バンダジェフスキー/N・F・ドウボバヤ著 久保田護訳 合同出版 2013年
7)未来世代への「戦争」が始まっている−ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ― 綿貫礼子、吉田由布子著 岩波書店 2005年
8)放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 綿貫礼子編、吉田由布子、二神淑子、リュドミラ・サアキャン著 新評論 2012年
9)原発問題の争点−内部被曝・地震・東電− 大和田幸嗣、橋本眞佐男、山田耕作、渡辺悦司著 緑風出版 2012年
10)放射線被曝の争点−福島原発事故の被害は無いのか― 渡辺悦司、遠藤順子、山田耕作著 緑風出版 2016年 
11)低線量汚染地域からの報告−チェルノブイリ26年後の健康被害− 馬場朝子、山内太郎著 NHK出版 2012年 
12) 国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏・日本への調査 ( 2012年11月15日から26日) に関する調査報告書
http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2015/11/130627-Anand-Grovers-Report-to-the-UNHRC-japanese.pdf
または
http://www.foejapan.org/energy/news/pdf/130703.pdf#search=%27%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%27
13)東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 第6回議事録http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-06b.html
14)ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス著、竹野内真理訳『人間と環境への低レベル放射線の脅威』あけび書房、2,011年
15)ペトカウ効果から学んだ低線量内部被曝の話 児玉順一著 アヒンサ―第6号 2016年
16)『放射線必須データ32』田中司朗他、創元社 
17)『福島甲状腺がんの被ばく発症』宗川吉汪、文理閣 2017年
18)「福島原発からの距離と甲状腺がんの関係」山本英彦、医療問題ニュース No.485 
19) 記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関してhttp://blog.torikaesu.net/?eid=63
20)宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均しているhttp://blog.torikaesu.net/?eid=65
21)宮崎・早野論文
 http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1/pdf

宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している 山田耕作

2017年8月


宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している

2017年8月13日改定
山田耕作



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宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均している>(pdf,5ページ,136KB)

1.はじめに
 2016年末から宮崎真・早野龍五両氏による3編の論文が投稿され話題になっている。ガラスバッジを用いての線量測定によると市民は空間線量の15%しか被曝していないという。政府は遮蔽が効いて60%という説であるが4倍低いという結果であるという。
 すでに第一論文に関しては黒川眞一氏より疑義が提出され、6月30日の週刊金曜日に発表された。この黒川氏の早野氏達の論文に対する批判や意見は以下のブログで紹介した。
 記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関して
http://blog.torikaesu.net/?eid=63
 ファイルは以下
http://www.torikaesu.net/data/20170716_yamada.pdf
 われわれは黒川氏の批判を確認し支持するとともに第一論文を検討した。その結果、第一論文の第一式に数学的に単純な誤りがあると判断した。著者の一人の早野氏にも率のみを平均する誤りについても連絡したが、集団線量への影響と重要性など相互理解が十分深まらなかった。そこで、私は2人で論争を続けるよりも広く内容を知らせ、みなさまの検討をお願いすることにした。もちろん、早野氏を含め皆さんから反論、批判等意見が寄せられることを期待する。とりわけ物理学会誌での議論に苦労した私にとっては、公開で議論がなされ正しい理解が広まることは喜ばしいことである。

2.比率の平均を取る誤り
 問題になっているのは次の論文である。
 Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5-51 months after the Fukushima NPP Accident (series): I Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys
 (2016 J. Radiat. Prot. 37 1)
 Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano
 http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1/pdf

 その第一式が次の式である。
The mean coefficient c , the average ratio of the individual dose rate to the grid dose rate was
<c>=<individual dose rate/ grid dose rate> =<ci> … (1)
ここで最後の等式は山田の理解に基づくもので
ci = individual dose rate/grid dose rate for the i-th person and the i-th grid.
これが論文の中心となる式である。つまり、個々のガラスバッジの被曝量のその地域の空間線量に対する比が ci である。(1)式はその ci の平均を取ることを表している。そして論文の結論は <c>=0.15±0.03 であったというのである。
 なぜ、個人のバッジの線量のそれぞれの住む地域の空閑線量に対する割合、ci の平均をとることが問題なのか。
 比率はそのままでは加えることができない量だからである。本来、平均はガラスバッジ線量の全員の和(またはその平均)を空間線量の個々人の位置の線量の値の和(またはその平均)で割らなければならない。つまり、ガラスバッジ線量の平均値と空間線量の平均値との比は、全員のバッジで求めた集団線量の、個々人の位置における空間線量から求めた集団線量に対する比である。この2つの集団線量は2つの測定方法による被害の推定の割合に直結する。
 後述するように、単純に比率を加えるのが誤りであるのは線量に応じた重みを無視して、比率の和をとっているからである。各人の ci のデータだけでは、集団線量の比は求まらないのである。こうして(1)式の値 <c>=0.15±0.03, (1)は意味のない量であることが分かった。
 あえて意味づけると線量に応じた重みが一様(均質)の仮想的な場合にだけ意味のある平均値である。論文にもあるように空間線量は地域によって異なり、一様な空間線量分布は現実の分布ではない。

3.一般論  率を平均すること
例1 食塩水の混合
 異なる濃度の食塩水を混ぜ、その食塩水の食塩濃度を求める問題を考えよう。この時それぞれの食塩水の濃度だけでは混ぜた後の濃度はわからない。それぞれの濃度の食塩水の量が問題である。等量の食塩水同士を混ぜれば濃度の平均も可能である。一般に食塩水の総量で食塩の総量を割って混合した食塩水の食塩の濃度を求める。食塩水の容器 1〜n があり、その溶液の塩の量を Bi、食塩水の量を Ai としよう。混ぜたのちの濃度 c は
 c= ΣBi/ΣAi = B/A
である。ただし、Σ は i に関して総和をとることを意味する。
ただし、
A=ΣAi、B=ΣBi, ci = Bi/Ai
と置く。
c= B/A =Σ{ (Ai/A)・(Bi/Ai)} =Σ{ (Ai/A)・ci } … (2)
である。この様に混合液の正しい濃度を得るにはそれぞれの濃度の溶液の量が必要である。単に濃度を加えて平均を取ることができない。各容器の重み Ai/A をかけて加える必要がある。 

4.主題 MH論文
 宮崎・早野論文(MH論文)の場合の c の平均は番号 1,2…i,…n の n個 のガラスバッジに対して 
c=<ci> =Σci/n と単純平均していると考えよう。複雑なc の分布を他の方法で平均する場合も議論の本質は変わらない。この時、ci はi番目のガラスバッジの線量 Bi のその場所の空間線量 Ai に対する割合である。ci を足し合わせバッジの総数 n で割ると ci の平均値が出る。
 上記、(2)式における食塩水の重み Aj/A が 1/n になっている。それ故、食塩水の例を考えても間違いであることは明らかである。主題の論文の場合を説明しよう。
 ガラスバッジとグリッド空間線量の場合は Ai/A は全空間線量 A に対して i の人が住む区域(グリッド)の空間線量 Ai の割合である。これを一律に 1/n とすることは低線量の Ai/A <1/n に対しては過大に、Ai/A >1/n に対しては過小に ci の重みを評価することになる。それ故、正しい集団線量の比 B/A を与えない。
 こうして率だけを平均した式(1)の結果は重みを無視した平均値で意味の不明な平均値である。ただし、伊達市が一様な汚染度の場合のみ平均値は意味がある。

5.まとめと議論
 問題点は、宮崎・早野論文の(1)式は数学ではよく知られた誤りであるということである。その率の全体に占める重みを無視して、率を平均しているからである。それぞれの個人のバッジの線量の空間線量に対する比は和をとって平均することができない量だからである。バッジの線量の市民にわたる平均値を空間線量の市民にわたる平均値で割ったものが正しいバッジの線量と空間線量の平均値の比である。それを宮崎・早野論文では個々のガラスバッジの数値の個々の空間線量に対する比率 ci の和を平均している。この時、ci の和は意味を持たない。正しくは個々人のバッジの線量の和を個々人の空間線量の和で割らなければならない。
 正しい結果はガラスバッジでえられた集団線量を空間線量から得られた集団線量で割っていることになる。これは集団線量の比であるから、線形の被害リスクを仮定する限り、がん死なり、がん罹患率など発生する現実の被害の比率を表しており、実体を伴うものである。
 一方、宮崎・早野論文の(1)式が与える平均値は個々人のガラスバッジの空間線量に対する比率 ci の平均であるが実体がなく意味のない比率 である。特にガラスバッジの下限が報告されているように、0.1mSv であるとすると低い空間線量のところではガラスバッジではゼロが多くなり、平均値を小さくする可能性がある。本当は線量の小さいところの集団線量への寄与はもともと小さく、測定手段によるずれがあっても大きく影響しないはずである。ところが(1)式によると比率の和をとるので線量の高い所と低いところが同等に寄与してしまう。これが宮崎・早野論文が小さい平均値、0.15 を与える原因のひとつかもしれない。
 
 
付録
わかりやすく説明すると、率を足してはいけない例は次のように理解できる。

例2
 野球のチーム打率を求める時、各選手の打率を平均するのは誤りである。各選手の打数が異なるので打率の和は意味がない。正しくはチームの全安打数をチームの全打数で割らなければならない。ガラスバッジが空間線量の中で、検知する割合を打率と考えればガラスバッジによる集団線量(安打数)を空間線量による集団線量(打数)で割って全体の比率(チーム打率)を求めるべきことが理解できる。

比率の和の精度について
 出された比率 ci の精度を考えよう。 ci の値を決める時の線量が不明なのでこの比の精度も不明である。そして精度の異なる比率を加えることになる。比率の精度は一般的には低い線量の方が良くないので精度は結局、最も線量の低い時の比率が決める。打者なら打数の少ない人になる。
 
 
誤りをわかりやすくするために次の例で示す。
例3 極端な場合 ホット・スポット

モデル 低線量地にホット・スポットがある
空間線量 0.001mSv が 999人、その個々人のガラスバッジが全て 0mSv とする。(ガラスバッジの測定下限値は
0.1mSv )。
空間線量 2mSv が1人、そのバッジが 1mSv とする。

 宮崎・早野では ci=0 が999人 ci=1/2 が1人, 平均は 1/2÷1000 で c の平均は0.0005
 一方、空間線量による集団被曝線量は 0.001mSvが999人で 0.999mSv・人、これに2mSv・人を足して空間線量による集団線量の合計は 2.999mSv・人、ガラスバッジの集団線量の合計は 1mSv・人なので、ガラスバッジの集団線量の空間集団線量に対する比 c は 1÷2.999=0.333 となる。
 この極端な例では 0.333÷0.0005=666.., つまり、早野論文の(1)式で単純に平均すると ガラスバッジは正しい平均に比べ 1/666 に過小な値になる。
もし、MH論文の方法で c の小さい値から順に50%、つまり500番目を見ると 0 である。


謝辞
 多くの方々に議論していただきました。感謝します。ただし、内容に関しては山田の責任です。特に高木伸、荻野晃也、片岡光男、長沢卓、小柴信子、渡辺悦司、遠藤順子、児玉順一、吉田敬一の各氏にお世話になりました。

ミトコンドリア障害と心筋症、アルツハイマー病、 パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症の関連について 遠藤順子

2017年7月


ミトコンドリア障害と心筋症、アルツハイマー病、
パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症の関連について

遠藤順子
2017年7月22日



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ミトコンドリア障害と心筋症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症の関連について(pdf,20ページ,3539KB)


はじめに
 ミトコンドリア病というのは、ミトコンドリア機能障害によってもたらされる病気で、主に病因としては、ミトコンドリアDNA異常によるものと、ミトコンドリアの生合成やミトコンドリアDNA複製などに関係する核DNAの異常によるものとがある。ミトコンドリアは、ほぼすべての器官でエネルギー産生を担っているため、その臨床症状は多様であるが、特に多くのエネルギーを必要とする組織などで臨床症状が出やすい。福島原発事故後に、もともとミトコンドリア病であった方の症状の悪化という話を聞いた。そこで、ミトコンドリア病の発症機序などを調べている中で、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患とミトコンドリア損傷の関連が気になった。遠坂俊一氏の統計によると、3・11後の福島県において、アルツハイマー病、パーキンソン病、脊髄性筋委縮症及びその関連疾患などによる死亡率の急激な上昇を示している。
 福島原発事故以来、大気中には放射性微粒子が様々な形態で再浮遊している。それらは、私たちの体内で放射線を出し続けると共に過剰な活性酸素を産生し、核DNAばかりではなく、ミトコンドリアも、細胞膜も、そして細胞質内の様々な酵素や分子をも傷つけているのではないのか。
 ミトコンドリア障害と神経変性疾患や心筋症の関連を考察することにより、現在、日本で生じているこれらの疾患による死亡率増加を解明する一助になればと思う。
 現在、がんやがん以外の多くの疾患について、その発症と進行に関する分子生物学的知見、新たに「分子病態学」と呼ばれるようになった分野で、文字通り革命が起こっている。以下に書いた内容も、現在私たちが知ることのできた情報に基づく暫定的な総括であり、今後の科学的発展に応じて、常に書きかえていかなければならないと考える。だが、放射線の健康影響を考えていくためには、このような、がんやがん以外の疾患に関する科学的知見の発展と深化に、最大限の注意を払い、その成果を常に取り入れていかなければならないという点は、決して変わることのない確信である。今回の論考が、ささやかではあるが、それに向けての一歩となればと思っている。

ミトコンドリアの構造と機能、ミトコンドリアDNA(mtDNA)
 ミトコンドリアは、内膜と外膜からなる二重膜構造をもつ細胞小器官であり、酸化的リン酸化によるATP(アデノシン三リン酸)合成をはじめ、ヘム、鉄、ステロイドホルモン、脂質などの代謝に加えて、アポトーシス(細胞死)やCa2+応答などの細胞内応答の制御にも関与している。外膜には膜透過装置であるTOM複合体(translocase of the outer membrane)が存在し、細胞質ゾルで合成された前駆タンパク質などを選択的に取り込む。外膜と内膜で挟まれた膜間腔には、アポトーシスに重要な役割を果たすシトクロムCというタンパク質や酵素などが存在する。内膜には、電子伝達系を構成するタンパク質複合体やATP合成酵素複合体が存在し、ATPを産生している。マトリックスという内膜に囲まれた部分には、TCA回路(クエン酸回路とも云う)や脂肪酸β酸化系の酵素をはじめ、数百種類の酵素タンパク質が存在し、また、ミトコンドリアDNAやその複製、転写、翻訳に関与する分子も存在する(図1-1および図1-2)。


図1-1 細胞質とミトコンドリア内におけるエネルギー代謝
細胞内で合成されるATPのほとんどがミトコンドリア内において合成されることが分かる

出典:『サイエンスビュー 生物総合資料』実教出版


図1-2 ミトコンドリアの構造とエネルギー代謝
出典:ミトコンドリア―Wikipedia 
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/ミトコンドリア

 細胞の種類や組織によってミトコンドリアの形態は大きく異なっており、細胞内でミトコンドリアは活発に動き、分裂と融合を繰り返している。また、ミトコンドリアの膜とミトコンドリアDNAは動的にかつ協調的に制御されていることが明らかになってきている。
 前述のように、ミトコンドリアは独自のゲノム、ミトコンドリアDNA(mtDNA)を持っている。ヒトのmtDNAは16569塩基対、一周5μmほどの環状二本鎖であり、TFAM(mitochondrial transcription factor A)というDNAタンパク質などと結合し"核様体"と呼ばれる構造を形成している(図2)。1つのミトコンドリア内には2〜10個ほどのmtDNAが存在する。従って、通常1細胞内には、およそ数百から数千コピーのmtDNAが存在することになるが、細胞ごとにmtDNAの変異の有無や変異の比率が異なることもmtDNAの特徴のひとつである。また、mtDNAの複製は卵母細胞を通じてのみ子孫に伝えられ、遺伝子の組換えが起こらない。そのため、mtDNA変異は、その母系家系づたいに経時的に蓄積されていくことになる。新たにミトコンドリア変異が生じたとき、細胞内には、変異タイプと正常タイプの両方のDNA配列を持つミトコンドリアが混在する(この状態をヘテロプラスミーという)。このため、致死的な変異でも存在し続けることになる。細胞分裂の時、ミトコンドリアが娘細胞に分配されるが、それぞれのタイプのミトコンドリアは平等には分配されず、その比率に偏りが生じる。そのため、変異したミトコンドリアと正常なミトコンドリアの割合が次世代でどうなるかは不確実である。変異したミトコンドリアの比率があるレベルまで上昇した段階ではじめてミトコンドリア病の症状が現れる。これを閾値効果という。この閾値は、個体、器管、組織によって異なる。それぞれの組織や器官でエネルギーの需要と供給のバランスが微妙に異なるためである。


図2 ミトコンドリアDNAと核様体形成
出典:医学のあゆみvol.260 No.1 p.22

 後述するが、心筋症やパーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症などの神経変性疾患など、エネルギー需要の高い臓器である脳や心筋の障害をきたす疾患において、ミトコンドリア機能障害及び酸化ストレスの関与が示唆されてきた。

ミトコンドリア機能異常の背景
 ミトコンドリア機能の変化による発病の原因は、主に三つあると言われている。①mtDNA変異が酸化的リン酸化を障害した場合、ATP産生が低下する。②反応性の高い活性酸素である過酸化水素(H2O2)やヒドロキシラジカル(OH)などが産生され、DNAや蛋白、脂質を損傷する。③ミトコンドリアがアポトーシス促進因子などを放出し、アポトーシス経路が進行する。上記①〜③について以下に説明する。
①mtDNA変異によるATP産生低下
 mtDNAにはイントロン(DNA塩基配列中のアミノ酸配列には翻訳されない部分)がないため、ランダムに生じた突然変異は蛋白をコードするDNA配列を直撃する。また、DNAを保護するヒストンがなく、DNA修復も不完全である。さらに酸化的リン酸化の過程で生じる酸素ラジカルにも曝露されている。このような理由で、mtDNAは核DNAに比べ、突然変異の発生速度が10倍速いと見積もられている。酸化的リン酸化に重篤で致死的な障害を起こすようなmtDNA変異(例えば大きな欠失)は、ヘテロプラスミー(細胞内に変異したミトコンドリアと正常なミトコンドリアが混在した状態)の場合にのみ、生存可能である。一方、蛋白をコードするmtDNA遺伝子の軽度なミスセンス突然変異(点突然変異の一種で、一塩基置換によって異なるアミノ酸に変わったもの)は、ホモプラスミー(変異したミトコンドリアだけ、もしくは正常のミトコンドリアだけが存在する状態、この場合は前者を指す)であることが多い。ミトコンドリア遺伝子変異が体細胞レベルで(遺伝とは関係なく)組織特異的に蓄積していくことが、アルツハイマー病やパーキンソン病のような遅発性退行疾患の発症と関係がある可能性が考えられてきた。例えば、有糸分裂終了後の大脳基底核や大脳皮質のような組織には、mtDNAの変異が加齢に伴い蓄積することがわかっている。mtDNAは、変異率が高い上に修復機能が十分備わっておらず、有糸分裂終了後の組織や細胞の入れ替わりが遅い組織にmtDNAの変異が蓄積する原因となっている。このmtDNAの質的および量的障害により、様々な病態が関連してくる。mtDNAの突然変異の蓄積が慢性疾患の病態に関与している可能性が示唆されている。
②活性酸素による損傷
 ミトコンドリアにおける代謝活動などが低下すると、活性酸素種(ROS)の発生による酸化的傷害を招くことが知られている。解糖系などから得られた電子(NADH)はミトコンドリア呼吸鎖で受け渡され、最終的に酸素分子に捕獲されるが、呼吸鎖機能に障害があると、電子が過剰に滞留し、酸素分子との不均衡が生ずるためである。実際、電子伝達系から電子が2〜3%漏れると、この電子は酸素と反応してスーパーオキシド(O・−)になり、これがもとでチェーンリアクション的にROSが発生する。年齢に応じて蓄積したミトコンドリアの機能異常は、かなりの部分mtDNAやその他のミトコンドリア内の高分子化合物への酸化的障害に由来しているが、これが老化の大きな要因にもなっている可能性がある。
③アポトーシスの促進
 ミトコンドリアから産生されるROSがアポトーシスに関連することが知られている。ミトコンドリアから産生されるROSによりアポトーシスが誘導されるメカニズムは、Ca2+の上昇、膜電位の低下、細胞内脂質過酸化、シトクロムC(ミトコンドリア内膜に弱く結合しているヘムタンパク質)の放出をはじめ、カスパターゼ-3の活性化などが関与している(図3)。後述するが、実際、心不全発症誘因の一つに心筋細胞のアポトーシスの関与が示唆されている。


図3 アポトーシスの経路
出典:「酸化ストレスの医学」改訂第二版(診断と治療社)P.97


放射線による酸化ストレスとミトコンドリア障害
 近年、マイクロビームを用いた細胞質への放射線照射による生物影響が報告され、核DNAを標的としない放射線生物作用が存在することが明らかとなってきた。この核DNAを標的としない放射線生物作用において、細胞から生成されるフリーラジカル(活性酸素種ROS、活性窒素種RNS)並びにそれにより引き起こされる酸化ストレスが重要な役割を果たしている。すなわち、生体への放射線照射によって生成されるROSのうち、O2・−およびH2O2は比較的安定であり 10および100秒ほど存在が持続する。これらは、その近傍に存在するすべての生体高分子と反応し損傷を与える可能性がある。このROSと生体高分子との相互作用により有機ラジカルが形成されるが、有機ラジカルは急速に酸素と反応し、ペルオキシラジカル(ROO)となる。ROOは、もとの有機ラジカルよりもはるかに強い酸化剤であり、近傍の有機分子の水素を引き抜くことで過酸化物として安定する一方、さらに別の有機ラジカルを生成する。この連鎖反応は、放射線によって引き起こされる脂質過酸化反応に深く関与しており、細胞並びに細胞小器官の膜に対して放射線障害をもたらす原因となると考えられている。
 また、放射線照射直後に起きる細胞内の様々なイベントにおいて、細胞内レドックス(酸化還元)環境が放射線照射後持続的に変化することが、照射数か月以降に現れる放射線障害の原因となることも示唆されている。すなわち、放射線照射後、一定時間経過後に起こるROS、RNSの生成は、それが組織や臓器において酸化ストレスの蓄積を引き起こし、照射後かなりの時間がたってからの酸化障害を引き起こす可能性がある。もし放射線による酸化障害がミトコンドリア電子伝達系(ETC)の機能維持に必要な遺伝子の変異を引き起こすのであれば、この酸化ストレス状態は放射線照射を直接受けた細胞だけでなく、その娘細胞にも受け継がれることになる。それゆえ、長期にわたる放射線によるゲノム不安定性の原因となる。このような放射線照射の結果生じる短期及び長期の酸化ストレスと生物学的影響の関係を示す知見が積み上げられてきている。(図4)


図4 放射線により引き起こされる酸化ストレス
出典:酸化ストレスの医学 改訂第2版p.189

 また、細胞にアポトーシスを引き起こすメカニズムとして、ミトコンドリアからのシグナルにより活性化される内因性経路と細胞膜に存在する細胞死受容体からの外因性経路が存在するが(図3及び図12参照)、放射線照射はこのうち内因性経路の活性化を引き起こす。このアポトーシスシグナル活性化に、放射線照射後に産生されるROSが関係していることを示唆する所見が多数報告されている注*

核DNA上の遺伝子異常とミトコンドリア病
 「はじめに」で少し触れたように ミトコンドリア病の原因となるのは 一つはミトコンドリアDNAの変異であるが、もうひとつは、核DNA上の遺伝子異常である。この核DNA上のミトコンドリア病の原因遺伝子はすでに200種類以上報告され、遺伝子解析技術の進歩により増加の一途をたどっている。これらの遺伝子の機能は、エネルギー代謝に直接かかわるもの、ミトコンドリアDNAの複製と発現にかかわるもの、ミトコンドリア自体の生合成にかかわるもの、ミトコンドリアへの輸送に関わるもの、蛋白質の品質管理に関わるもの、など多彩である(図5)。つまり、このことは、放射線による核DNAの損傷によっても、ミトコンドリア機能障害が導かれることを意味している。(但し、放射線による核DNAの損傷に関しては、この論考の範疇ではないので触れないこととする)


図5 ミトコンドリア病の病因
出典:医学のあゆみVol.260 No.1 2017/1/7 p.64


パーキンソン病病態へのミトコンドリアの関与
 パーキンソン病(PD)は、中脳黒質のドパミン含有神経細胞が障害され、ドパミン(中枢神経系に存在する神経伝達物質)が欠乏することにより、「手足の震え、筋肉のこわばり、歩行障害」などの運動障害にて発症する進行性の神経変性疾患である。神経変性疾患の中でアルツハイマー病に次いで多く、本邦で約14万人の患者がおり、今後も患者数の増大が予想されている。
 PDの90%は原因不明の孤発性PDに分類され、様々な遺伝子や環境因子など多くの要因により引き起こされると考えられる。一方、残りの約10%は、特定の遺伝子異常が関与し、メンデル遺伝する家族性PDに分類される。
 PDは、病理学的には神経封入体(Lewy小体)を伴う黒質(中脳の一部を占める神経核)や青斑核(橋の背側に位置する神経核)(図6)の神経細胞脱落が特徴である。パーキンソニズム症状は、黒質ドパミン神経脱落による脳内ドパミン不足により引き起こされる。PDの発症機序において、ミトコンドリアの関与の可能性は、ミトコンドリア毒物へのドパミン神経の脆弱性から注目されたが、PD患者の脳の病変部位においてミトコンドリア内膜上の呼吸鎖複合体気旅攸燃萓の低下が顕著であることが明らかにされたことで確認された。また、さらに黒質ドパミン神経において、ミトコンドリアDNAの欠失や置換が高頻度でみられることも報告されている。これは、黒質ドパミン神経における定期的なCa2+の流入というエネルギー代謝的な負荷が多く、他の神経に比べてミトコンドリアからのROS産生が多いからと考えられる。慢性的な酸化ストレスはミトコンドリアを傷害し、傷害を受けたミトコンドリアは活性酸素種(ROS)を発生する。ROSはさらに酸化ストレスを惹起し、負のスパイラルが形成される。


図6 脳の構造 (脳幹部は、中脳、橋、延髄)
出典:認知科学N08
http://milan.elec.ryukoku.ac.jp/~kobori/resume/cog/OLD/cog08

 家族性PDについては現在10数種類の原因遺伝子が同定されている。そのうち、家族性の若年性PDの原因遺伝子PINK1およびParkinの分子レベルの研究から、これらの遺伝子がミトコンドリアの品質管理に関わること、その障害がドパミン神経変性を導くことが明らかになった。すなわち、健全な細胞内では、異常なミトコンドリアの分解機構が備わっているが、PINK1やParkinの病的変異による機能障害では、その仕組みが破綻し、その結果、損傷ミトコンドリアが蓄積し、細胞毒性が高まると推測される。また、優性遺伝性PD家系から見つかったCHCHD2変異患者の病理解析から、ミトコンドリアの機能異常が異常蛋白質の形成・蓄積に関与することが示唆されている。
 いずれにしても 遺伝性PDのみならず、孤発性PDにおいても、ミトコンドリア機能異常とそれによる酸化ストレスが主要な病因であると考えられるが(図7)、何らかの遺伝的素因をもつ人が、環境因子の影響の蓄積によって発病すると推測されている。


図7 ドパミン神経ミトコンドリアの脆弱性仮説
PDで変性する黒質ドパミン神経の特徴として、
L型Caチャンネルによる自律的神経活動、鉄の沈着、ドパミン産生があげられる。
これらはドパミン神経の高酸化ストレス環境の要因となる。
出典:医学のあゆみVol.260 No.1 p.86


アルツハイマー病とミトコンドリアの関与
 アルツハイマー病(AD)は、進行性の認知機能低下を臨床学的特徴とする神経変性疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力も失われる病気である。ADのほとんどは60歳以降に初めて症状が現れ、高齢者の認知症の最も一般的な原因となっている。
 ADの病理学的特徴としては、新皮質、海馬及び他の皮質下領域(図6参照)など記憶に関わる脳部位での老人斑(βアミロイド[Aβ]の蓄積)や神経原線維変化などの異常構造物の出現がある。アルツハイマー病では、蓄積したタンパク質(Aβ斑と異常リン酸化タウ蛋白)が神経細胞にダメージを与え、細胞死(アポトーシス)を引き起こす。すなわち、βアミロイド前駆体蛋白(APP)が細胞膜外と細胞膜内で切断されてβアミロイド(Aβ)が産生される。細胞内の可溶性Aβが増加するとタウ蛋白(神経軸索内の微小管結合蛋白)の異常リン酸化が誘導され、微小管から可溶性のリン酸化タウ蛋白が遊離し、神経細胞の軸索から樹状突起に移動し、結果としてシナプス変性、神経原線維変化、神経細胞死へと導かれると考えられている(図8)。さらに、タウ蛋白の異常リン酸化が神経軸索内におけるミトコンドリアの輸送を特異的に阻害することもわかっている。


図8 アミロイドカスケード仮説
出典:日本内科学会雑誌Vol.100 No.8 August 10,2011 p.2096

 また、脳組織では、ニューロンだけでなくグリア細胞(アストロサイト、オリデントロサイト、ミクログリアなど)が血中のグルコースを取り込み、乳酸に変換後、ニューロンにエネルギー源として供給している。ニューロンの軸索や樹状突起のシナプス近傍に局在するミトコンドリアはグリア細胞から供給される乳酸をTCA回路で代謝し、効率よくエネルギーを産生することで神経機能を維持している(図9)。また、細胞分裂をしないニューロンにおいては、核DNAは複製されないが、ミトコンドリアはニューロンの機能維持に不可欠なエネルギーを供給するためにmtDNAを常に複製し、新しいミトコンドリアをシナプスなどに供給している。ROSなどの酸化ストレスによりmtDNAに変異が生じると、変質したmtDNAが分解し、ATPが枯渇する。その結果、ミトコンドリア膜電位が維持されなくなり、細胞質に放出されたCa2+イオンによって活性化されたカルパイン(細胞内のプロテアーゼ)に依存した神経細胞死が誘導される。


図9 脳組織におけるエネルギー供給体制
(神経軸索内でもミトコンドリア輸送)

出典:酸化ストレスの医学 改訂第2版(診断と治療社)p.221

 AD患者の脳では、インシュリンシグナルが破綻しており、それによってニューロンのミトコンドリアの機能不全がもたらされ、さらにそれにより神経細胞のエネルギーの枯渇と酸化ストレスが亢進して、核酸の酸化を通じて神経変性が引き起こされていることが分かっている。
 最近、凝集性Aβ(老人斑)が可溶性Aβに比較して毒性が小さいことが明らかになり、「Aβの凝集体は、神経毒性が極めて高い可溶性のAβに比較して、危険度が低く、一般的な考え方とは違って、神経細胞の保護に働いている」との説が提起されている。しかもこのAβの凝縮を小胞体とミトコンドリアの接触場(MAM)が制御している可能性が指摘されている。
 これらの研究は、ADとミトコンドリア傷害との直接および間接の関連を示すものとして注目される。

筋委縮性側索硬化症へのミトコンドリアの関与
 筋委縮性側索硬化症(ALS)は、上位・下位運動神経が特異的に障害される進行性の神経変性疾患である。厚生労働省の統計では、脊髄性筋委縮症及びその関連症候群に分類されている。主に壮年期に発症し、筋委縮が徐々に全身に広がり、歩行困難、言語障害、嚥下障害、呼吸障害に及び、気管切開・人工呼吸器装着などを施さなければ発症後1~5年で死に至るという、極めて重篤な症状を示す。 
 ALSはその多くが孤発性ALSであるが、約10%の症例が家族性である。最近までに様々な家族性ALS(FALS)関連遺伝子が報告されている。家族性のALSの約20%がスーパーオキシドムターゼ1遺伝子(SOD1)に変異を有する。この変異型SOD1タンパク質は、凝集性が高く神経細胞内に蓄積し、特にミトコンドリア外膜や膜間腔に集積する。この変異型SOD1が発現したグリア細胞(アストロサイトやミクログリアなど)が運動神経細胞死に重要な役割を果たしていることがわかっている。NADPHオキシダーゼ(Nox)は生体内でROSを産生する酵素群だが、SOD1とRac1(タンパク質の一種)とが作用してNox活性を制御している。変異型SOD1では、この制御機構が効かないため、持続的にROSが産生され、運動神経細胞毒性を発揮している(図10)。ALSの病態解明はまだ途上であるが、家族性のみでなく、孤発性ALSにおいても酸化ストレスマーカーの増加が報告されている。


図10 グリア細胞の変異型SOD1によるROSを介した運動神経細胞毒性発揮機構
出典:実験医学 Vol.30 No.7(増刊)2012 p.181


心筋症とミトコンドリアの関与
 心筋細胞は、その個体が生命として活動しているかぎり休むことなく弛緩と収縮を繰り返し、常に多くのATPを必要とするため、ミトコンドリアを多く含んでいる。近年、心不全においても、その病態形成、進展に、スーパーオキシド(O2・-)やヒドロキシラジカル(OH)などの酸素ラジカルによるミトコンドリア機能不全が関与していることが、明らかとなり、さらに病態形成においてmtDNAが重要な役割を果たしていると考えられている。そしてまた、様々な基礎研究から不全心筋ではROSが増大し、心不全の増悪機転に酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。不全心筋のミトコンドリアで産生された活性酸素種(ROS)は、ミトコンドリア内膜およびmtDNAをも傷つける。このmtDNAの質的および量的障害に様々な病態が関連している。
 質的な変化としては、いわゆる突然変異型のmtDNAの蓄積によるミトコンドリア病が知られている(図11)。このミトコンドリア遺伝子疾患の発症は、mtDNAの突然変異の蓄積によるもので、心筋症を含め、脳症や家族性糖尿病など多彩な病態を示す。現時点では後天性の心不全における突然変異型mtDNAの蓄積に関する検討は報告されていないが、老化個体や一部の糖尿病でごく少量の突然変異型mtDNAの検出がなされたことから、ミトコンドリア遺伝子疾患としての心筋症以外にも、mtDNAの突然変異の蓄積が慢性疾患の病態に関与している可能性も示唆されている。


図11 アメリカ心臓協会(AHA)による定義と分類
出典:循環器病の診断と治療に関するガイドライン2011 p.6

 また、mtDNAは個々のミトコンドリア内に複数存在するが、不全心筋のmtDNAコピー数は減少し、さらにmtDNAでコードされている電子伝達系複合体サブユニットのメッセンジャーRNA(mRNA)の低下および複合体酵素活性の低下を認める。ミトコンドリア電子伝達系の複合体酵素の活性低下は電子の伝達障害を来たし、さらなるROSの発生という悪循環を形成し、ROSによる心不全の病態形成の機序の一つと考えられている。このことは、ROSの産生による生体内の反応は常に抗酸化能とのバランスで成り立つことを示している。
 心不全をきたす要因のひとつに、心筋細胞死がある。心筋細胞のアポトーシスを引き起こす細胞内シグナル伝達系は大きく3つに分けられる。デスリガンドが受容体に結合しデスドメインを介する経路(外因性経路)、ミトコンドリアを介する経路(内因性経路)、小胞体を介する経路である。このうち、ミトコンドリアを介する経路は、DNA損傷、酸化ストレスなど様々な要因により活性化され、ミトコンドリアからシトクロム?をはじめとするアポトーシス誘導因子が放出される。3つの経路ともに最終的にタンパク分解酵素であるカスパターゼ3を活性化することにより、アポトーシスを誘導する(図12)。


図12 アポトーシス誘導経路
出典:日本内科学会雑誌 Vol.101 No.2 2012 p.315

 また、ミトコンドリア由来のROS増加はmtDNAの損傷を引き起こし、結果として電子伝達系を悪化させる。それにより多量のROSを産生し、タンパク質やリン脂質の過酸化をも引き起こし、これに連鎖して多くの酸化ストレスが生じ、それに続く細胞死も病態の一つとして報告されてきている。

チェルノブイリ事故後の循環器疾患と神経疾患に関する報告
 チェルノブイリ事故後に増加した様々な疾患に関する病理学的研究は、主にベラルーシ・ゴメリ医科大学のユーリ・バンダジェフスキー博士によって行われていた。博士は、心血管系に関して、心電図異常と体内放射性元素濃度の相関を認めており、「心筋の酸化還元反応の混乱による異常と心筋内伝導障害」を指摘している。さらに、突然死した患者の剖検標本では、「びまん性の心筋異常=心筋細胞のジストロフィー病変と壊死による組織間浮腫や筋線維分裂」が認められたと報告している(図13)。また、ラットを使った動物実験においては、放射性セシウムを投与したグループでは、「心筋に組織溶解を伴わない萎縮性病変。筋小胞体網の細管拡張、ミトコンドリアの膨隆、巣状の筋小胞体の浮腫」が認められたことを報告している(図14)。また 神経系においては、動物実験で大脳における神経伝達物質の不均衡の出現を指摘している。


図13 突然死した40代男性の心筋細胞
出典:ユーリ・バンダジェフスキー「放射性セシウムが与える人口学的病理学的影響」


図14 白ラットの心筋細胞(体内セシウム45Bq/圈縫潺肇灰鵐疋螢△領未叛K,料大
出典:日本内科学会雑誌 Vol.101 No.2 2012 p.315

 アレクセイ・V・ヤブロコフ氏らによるチェルノブイリ調査報告書(いわゆるヤブロコフ報告書)によると、心血管系に関しては、「ベラルーシにおいて、心血管系疾患がチェルノブイリ事故前に比べて事故後10年間に全国で3〜4倍に増加し、汚染度の高い地域ほど増加幅が大きかった」、「ウクライナにおいて、汚染地域における1996年の循環器疾患罹患率は、ウクライナの他の地域に比べて1.5倍高かった」「ロシアにおいては、リクビタートルの循環器系疾患罹患率が、1986年以降1994年までに、23倍に増加した」など多数の記述がある。また、神経疾患に関しては、「ベラルーシ人リクビタートルの神経系及び感覚器における疾患の発生率が、1991年から2000年にかけて2.2倍上昇した」「ウクライナにおいて、1995年から1998年にかけて認知面への影響調査が行われ、被曝群(特にリクビタートル)における認知課題遂行能力の有意な低下があった」「ロシアで『チェルノブイリ認知症』という現象の事例の増加が見られた。『チェルノブイリ認知症』は成人の脳細胞が破壊されることによって引き起こされ、記憶や書記行動の障害、けいれん、拍動性の頭痛などの症状がある」など多数の報告がされている。さらに老化に関しては、「老化の早まりはリクビタートルに見られる典型的な特徴であり、その多くは平均的な一般集団より10年から15年早く疾患を発症した」「脳内血管を含む血管における老化の早まり(40歳前後で始まる老人性の脳障害)、老人に特徴的な高次の精神機能障害、老人性の抗酸化機能の低下」なども多数報告されている。

福島原発事故後の人口動態統計から
 遠坂俊一氏が人口動態統計により、各県ごとの死亡率推移と死因別死亡率を明らかにしている。そのグラフを見ると、福島県における死亡率は、2011年以前から全国平均に比して高めに推移していたが、2011年以降その差が明らかに拡大している。また、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄性筋委縮症及びその関連症候群、血管性及び不明の認知症、老化、インフルエンザなどにおいて、2011年以降 顕著に死亡率が上昇している(図15)。また、小柴信子氏による統計では、急性心筋梗塞による死亡率上昇が福島県において顕著である(図16)。


図15 死亡率の推移{a}と死因別死亡率{b}〜{h} 全国と福島県の比較(遠坂俊一氏作成資料より)



図16 急性心筋梗塞による県別死亡率の推移(2017/6/3渡辺悦司氏の講演資料スライドより抜粋)

 インフルエンザや老衰による死亡率の増加の原因は、免疫力低下を示唆している。免疫系細胞内のミトコンドリアの障害があるなら、免疫力は低下するし、感染症も増え重篤化するだろう。老化もミトコンドリア機能低下の一つの現れとして説明できる。被曝した全ての人々のミトコンドリア障害の可能性を考えると、今後、日本の人口減少、死亡率の増加はますます顕著になっていくことが予想される。
 バンダジェフスキー博士が見た「ジストロフィーと壊死の形態をとる瀰漫性の心筋細胞異常」は、ミトコンドリア障害によりアポトーシスが促進された心筋細胞ではなかったのか。ロシアで見られた「チェルノブイリ認知症」は、福島で増えているアルツハイマー病や血管性認知症及び詳細不明の認知症と同様の機序ではないのか。被爆者に見られたブラブラ病はミトコンドリア障害だったのではないのか。放射線によるミトコンドリア障害によって様々な症状が引き起こされている可能性がある。

おわりに
 直接の放射線の照射によるゲノム・エピゲノム、細胞膜、イオンチャンネルなど細胞組織の損傷、放射線が生みだす活性酸素・フリーラジカルによる「酸化ストレス」による広範囲の細胞組織の損傷、それらががんやがん以外の広範囲の疾患を引き起こすことは、すでに指摘されてきた。老化や免疫力低下とミトコンドリア活性の低下との関連、原爆被爆者や原発労働者の「ブラブラ病」とミトコンドリア活性の低下との関連なども指摘されてきた。さらに福島原発事故後、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、側索硬化症ALSなど)やミトコンドリア病などの「難病」の多発傾向がはっきり現れている。本論文の問題意識は、これら一連の現象が、放射線による「ミトコンドリア機能損傷」という中心概念によって一系列のメカニズムに総括することができるのではないかという点にある。放射線の直接・間接の作用による核とミトコンドリアのDNAの損傷から始まり、ミトコンドリアでのエネルギー代謝の障害、損傷ミトコンドリアからのさらなる活性酸素の産生、細胞死(アポトーシス)の誘導へと、そしてほとんど細胞分裂をしない重要組織である神経細胞や心筋細胞などの細胞死による重大な損傷へと進む道筋が見えてきたのではないかと考える。
 原爆、核実験、原発・核燃サイクル運転、原発・核事故などにより放射能は多かれ少なかれ、日本中、世界中に降り注いだ。放射能の影響は個人差もあり、放射線に敏感な人ほど早く影響は出るが、「被曝したあらゆる人に 必然的に 多かれ少なかれ漏れなく 何らかの影響が出る」と言わざるを得ず、それは、現在生きている人間のみではなく、子々孫々に影響する。今後、人類がこの地球上で生き残っていくうえで、損傷したミトコンドリアDNAが組換えられることなく母性遺伝され続け、変異が蓄積していくとしたら、人類全体の健康に、人類の種としての生存能力そのものに影響を及ぼさざるを得ないだろう。
 遺伝的影響を苦慮する生物学者や遺伝学者を排除して、物理学者たちが作り上げてきたICRP理論は、ただのまやかしだ。あらゆる生物の細胞やDNAを分子生物学的に追及すれば、放射能汚染によって傷つく細胞を、個人差も細胞内小器官における差もすべて無視して換算係数であらわすことなどできるはずがない。分子レベルの病態が明らかになりつつある現在、ICRP理論は時代遅れの理論であるとともに、一つの係数で被曝影響を換算することは科学を無視した根拠のない虚構であると言わざるを得ない。内部被曝を軽視するICRP理論はひとえに核産業擁護のためだけにあると断言して間違いない。
 そしてまた、このICRP以上の「放射能安全論」を繰り広げている日本政府とそれを支える御用学者たちは、生命科学を無視し、被ばく被害全体を隠蔽しようとしている。絶対に許すわけにはいかない。

 この論考を書くにあたり、遠坂俊一氏と渡辺悦司氏、小柴信子氏に多くのデータや知見を頂いた。この場をお借りして心より感謝申し上げたい。


注)
*「酸化ストレスの医学 改訂第2版」p.96 犬童寛子(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科腫瘍講座)ほか
 「酸化ストレスの医学 改訂第2版」p.194 山盛徹(北海道大学大学院獣医学研究科環境獣医科学講座)ほか
 Inanami O,Takahashi K,Kuwabara M:Attenuation of caspase-3-dependent apotosis by Trolox post-treatment ofX-irradiated MOLT-4 cells.Int J Radiat Biol 1999;75:155-163
 Ogura A,Oowada S,Kon Y,et al.:Redox regulation in radiation-induced cytochrome c release from mitochondria of human lung carcinoma A549 cells.Cancer Lett 2009;277:64-71

引用文献・参考文献
▫A・V・ヤブロコフほか「調査報告 チェルノブイリ被害の全貌」岩波書店2013
▫週刊 医学のあゆみ vol.260 No.1 2017 1/7号 vol.257 No.5 2016 4/30号 医歯薬出版
▫実験医学 増刊 vol.30 No.17 2012 羊土社
▫日本内科学会雑誌 August 10,2011 社団法人 日本内科学会
▫日本内科学会雑誌 February 10,2012 社団法人 日本内科学会 
▫日本内科学会雑誌 August 10,2015 社団法人 日本内科学会
▫吉川敏一監修「酸化ストレスの医学」改訂第2版 診断と治療社 2014
▫ユーリ・I・バンダジェフスキー「放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響」合同出版2011
▫ユーリ・I・バンダジェフスキー「放射性セシウムが与える人口学的病理学的影響」合同出版2015
▫米川博通「生と死を握るミトコンドリアの謎」技術評論社2015
▫ハリソン内科学 第1版 メディカルサイエンスインターナショナル2003
▫田熊一敝ほか「ミトコンドリア障害と神経系のアポトーシス-アルツハイマー病解明へのアプローチ-」日薬理誌134,180-183 
▫永井真貴子ほか「筋委縮性側索硬化症も病態解明と治療戦略」北里医学2012;42:85-93
▫拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン2011
▫高橋良輔編「神経変性疾患のサイエンス」(南山堂)2007
▫一瀬白帝、鈴木宏治編著「図説 分子病態学」(中外医学社)1995 

記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関して 山田耕作

2017年7月


記事の紹介
A.週刊金曜日6月30日号で「福島・放射能汚染で早野論文に重大な疑義」
B.ガラスバッジに関してに関してはこれまでも以下の批判があった

山田耕作
2017年7月5日
(改定2017年7月16日)



〖ここからダウンロードできます〗
記事の紹介[A.週刊金曜日6月30日号][B.ガラスバッジに関して](pdf,4ページ,145KB)

記事の紹介
    
A.週刊金曜日6月30日号で
「福島・放射能汚染で早野論文に重大な疑義」


ということで黒川眞一氏に対するインタビューがp31に出ています。
黒川氏は高エネルギー加速器研究機構名誉教授で早野龍五東大名誉教授の先輩だそうです。早野氏は東大物理学教室で宮下精二氏とも親しく、私が日本物理学会誌の「会員の声」欄に福島原発による放射線被曝について投稿した時は、早野氏達の論文を参照するよう当時の宮下物理学会誌編集長からコメントがありました。
 早野氏の福島事故関連の放射線測定に関しては以前から矢ケ崎克馬氏が批判されていました。
 今回問題になっている論文は以下です。
 Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5-51 months after the Fukushima NPP Accident (series): I Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys
 (2016 J. Radiat. Prot. 37 1)
 Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1/pdf

週刊金曜日では黒川氏は早野氏に関して次の点を批判しています。
1.気象研究所の敷地内の1957年から2011年までの(原発事故までの)セシウム137の降下量は全部合わせても7000ベクレル/平方メートル(m2)ほどで事故直前は2000ベクレル/m2まで減衰した。福島原発事故が起きた2011年3月には一気に2万3000ベクレル/m2に増えた。それなのに早野氏は「心配するレベルではない」といっている。
 (この点に関して、以下の「環境における人工放射能の研究」を参照していただきたい。
http://www.mri-jma.go.jp/Dep/ap/ap4lab/recent/ge_report/2015Artifi_Radio_report/2015Artifi_Radio_report.pdf
特に表紙の図を見れば黒川氏の批判が当然であると理解されよう。)

2.福島原発事故後の2011年の福島県産のコメの放射能汚染度について土の汚染度と比例関係がないといっているが、対数表示のグラフにすると土の汚染度が高いとコメの汚染度も高い関係がはっきり見られる。

3.宮崎・早野論文は伊達市の市民に持たせたガラスバッジで測定した外部被ばく線量と、航空機モニタリング調査で測定した空間線量は比例関係にあり、その係数は0.15倍で国が示していた0.6倍よりも住民の被曝量は4倍少ないと主張している。しかし、黒川氏は「論文中に書かれている『この研究は個人の線量は周辺の線量に0.15±0.03をかけ合わせたものであることを示す』という宮崎・早野氏の主張は明白な誤りです。私が検証したところ、70%の住民の被曝線量はこの範囲外にあります。分析が十分に行われていない論文の結論として出された0.15倍という数字が独り歩きし、大きな被曝をしている人が切り捨てられることを憂慮しています」と述べている。
 ガラスバッジを公衆に持たせるという無理な測定による信頼性のないものである。本来、ガラスバッジは放射線管理区域で使用するものでバックグラウンドの値をコントロールバッジで測っている。しかし、伊達市の測定は根拠もなく、平均でバックグラウンドとして年間0.54ミリシーベルト(mSv)をひくことになっており、被曝ゼロの人が多く出ている地域もあり、バックグラウンドの引きすぎを強く示唆する。(山田の意見として、空間線量はバックグラウンドとして0.04マイクロシーベルト(μSv)/h=0.35mSv/yを引いているようである。これは0.06μSv/h=0.53 mSv/yより低い。 この操作は空間線量より住民の被曝線量が低くなるように作用する。)

4.線源が決まっている管理区域は「前方照射条件」が該当するが、汚染地での一般での測定は照射の方向が決まらず「回転照射条件」となる。しかし、個人線量計の校正は「前方照射条件」でなされる。

5.例えば、論文では空間線量が毎時0.45マイクロシーベルトの区間では、その区間に属する1700人の99%以上の人が被曝線量ゼロとなっている。この点に考察を加えていないのは科学論文としてずさんと言わざるを得ない。

6.安全のためには平均で議論するのではなく、もっとも多く被曝する人を守らなければならない。

7.国は遮蔽を考慮したとして、住民の被曝線量は空間線量の0.6倍としているが、本来、安全性の点からも外部空間線量そのままを取り1とすべきものである。

以上のように宮崎・早野論文は残念ながら科学的でない。

 それ以前の2017年5月29日に黒川眞一氏は朝日新聞のWeb Ronza
http://webronza.asahi.com/science/articles/2017051000005.html)にも
「被災地の被曝線量を過小評価してはならない」を寄稿して、早野氏達を批判している。

 
 
B.ガラスバッジに関してはこれまでも以下の批判があった

1.『福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り』(旬報社2014年)の第1章で松崎道幸氏が個人線量計:内部被曝測れず、外部被曝も大幅割引
P32 「ガラスバッジでは、体が受けている放射線量のおそらく10%程度しか測れないと考えられます」と警告している。まさに宮崎・早野論文は過小評価になる値を15%であることを示した例に相当すると思われる。つまり、明らかに機器の欠陥から過小に測定されたガラスバッジの値をあたかも住民の現実の外部被曝量として、被曝被害が少ないことを証明した科学論文とするところが問題である。

2.『放射線被ばくの争点』(緑風出版、2016年)渡辺・遠藤・山田著
P195 「福島で個人線量を測定するために広く使われているガラスバッジが、前方からの照射を前提としているため、福島におけるような全方向照射という条件下では線量を3〜4割低めに検出する。この事実はガラスバッジの製造業者である(株)千代田テクノルが伊達市議会の議員研修会で公式に説明した」。
宮崎・早野両氏も同社のガラスバッジを使用し、同社のある茨城県の大洗町で測った値0.54mSvを一律にバックグラウンドとしているのである。本当のバックグラウンドの値はそれぞれの位置・時期で異なる。

3.福島市に住む長沢卓氏からの報告
「ガラスバッジによる被曝線量の評価については、2通りの立場がある。(A)ガラスバッジによる測定値は「実測値」、これが正しい・実際の値である。避難場所からの帰還にあたっては、この値を参考にすべきである。(B)ガラスバッジは、放射線(ガンマ線)の感知にあたって指向性があり、必ずしも全方向からのそれを受け取っているのではない。従って、被曝線量を小さく測定してしまう」。この問題意識で、屋外で携帯したガラスバッジと屋内で定置したそれとで線量を測定した。
「結果は予想に反して、「携帯の測定値」<「屋内の測定値」だった。何故?
一般的に屋外の空間線量は、屋内のそれに比べ、高い。だから屋外に持ち出す「携帯」の測定値の方が大きくなると思った。しかし、結果は逆。その理由は、携帯の場合は測定器を首から胸前に下げるので、身体による遮蔽のため測定器が受ける放射線が小さくなるためだろう(B見解)。屋内外の空間線量の差と遮蔽量の大小を定量的に確かめてはいないが」。
この証言はガラスバッジによる測定の指向性と信頼できる測定の困難さをよく示している。

4.山田の批判
 先ず第一の問題点は、宮崎・早野論文の(1)式は統計学ではよく知られた誤りであるということである。率を平均しているからである。それぞれの個人のバッジの線量の空間線量に対する比は和をとって平均することができない量だからである。バッジの平均値を空間線量の平均値で割ったものが正しいバッジの線量と空間線量の平均値の比である。それを宮崎・早野論文では個々のガラスバッジの数値の個々の空間線量に対する比率ciを平均している。この時、ciの和は意味を持たない。正しくは個々人のバッジの線量の和を個々人の空間線量の和で割らなければならない。
誤りをわかりやすくするために次の例で示す。

空間線量0.001mSvが999人、その個々人のガラスバッジが全て0とする。(ガラスバッジの測定下限は0.1mSv)
空間線量1mSvが1人、そのバッジが1mSvとする。
宮崎・早野ではciが0が999人、1が1人,平均は1÷1000でcの平均は0.001
 一方、空間線量による集団被曝線量は0.001mSvが999人で0.999mSv・人、これに1mSv・人を足して空間線量による集団線量の合計は1.999mSv・人、ガラスバッジの集団線量の合計は1mSv・人なので1÷1.999=0.5となる。平均の、「ガラスバッジ線量の空間線量に対する比」cは0.5となる。
 この極端な例では0.5÷0.001=500。つまり、宮崎・早野論文の(1)式で計算すると ガラスバッジは正しい平均に比べ500倍過小評価になる。


謝辞
多くの方々に議論していただきました。感謝します。特に高木伸、荻野晃也、片岡光男、長沢卓、小柴信子、渡辺悦司の各氏にお世話になりました。

国連科学委員会報告書から原発の通常運転の生みだす健康被害を推計する 渡辺悦司

2017年7月


国連科学委員会(UNSCEAR)報告書から
原発の通常運転(事故のない状態での稼働)の生みだす健康被害を推計する

――100万kW級原発1基の再稼働により年間で最大で発がんが約1000人・がん死が250人、現在の5基年間稼働により最大で発がんが約4000人・がん死が1000人増加する可能性(すべて生涯期間)が明らかになる

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
2017年7月8日




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国連科学委員会報告書から原発の通常運転の生みだす健康被害を推計する(pdf,28ページ,3714KB)

 九州電力の川内1・2号機、四国電力の伊方3号機に続いて、関西電力は高浜3・4号機の再稼働を行った。裁判所もまた、住民の安全やリスクを全く無視する福島事故以前の「原発安全神話」の無批判な追認姿勢に戻ってしまった。情勢は、あたかも、第二第三の福島原発事故を引き起こす事態に向かって自殺的に突き進んでいるかのようである。
 だがここで問題が生じる。事故を起こさなければ、原発は健康被害をもたらさないのだろうか?――それに答えるのにさほど困難はない。作業員の被曝労働による健康被害リスク、通常運転によって放出される放射性物質による周辺住民の健康被害のリスクは、①国連科学委員会(UNSCEAR)の放射性物質の放出量とそれによる集団線量の推計注1、②国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線被曝リスクモデル注2によって、すでに数量的に明らかにされている。これらを基礎に、③欧州放射線リスク委員会(ECRR)によるICRPモデルの過小評価の比率注3で補正するという方法で、不確実性の大きい概数ではあるが、原発の通常運転(事故を起こさない状態での稼働)による大まかな健康被害は容易に推計することができる。以下、その結果を示すが、出力1ギガワット(GW)すなわち100万キロワット(kW)級原発1基の年間稼働による健康被害リスクは、最大で、過剰な発がん1000人・がん死250人(いずれも生涯期間)という驚くべき規模になる。現在の5基運転(総出力425万kW)で、過剰な発がん4000人・がん死1000人程度となる。なお、文中の数字は、桁にかかわらず、すべて非常に大まかな概数である(T[テラ]は10の12乗で日本語の兆に等しく、P[ペタ]は10の15乗を表す)。



  目 次

1.総量規制なしに捨てられている放射性トリチウム・炭素14・希ガスなど ・・・・・・・ 2ページ
2.トリチウムの放出量の推計から大まかな被害推計を試みる  ・・・・・・・・・・・・・ 6ページ
3.UNSCEAR2008年報告による明らかなリスクの過小評価 ・・・・・・・・・・・・・・ 7ページ
4.「スパイク」放出仮説を採用してUNSCEARの放出量過小評価を補正する ・・・・・・ 10ページ
5.トリチウムと炭素14の特別の分子生化学的危険性からのリスクの補正 ・・・・・・・・ 12ページ
6.原発周辺地域での白血病死亡率の急上昇:玄海原発の事例 ・・・・・・・・・・・・・ 15ページ
7.トリチウムと炭素14の特別な危険性を考慮したモデル ・・・・・・・・・・・・・・・ 17ページ
8.総括   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20ページ
9.結論   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22ページ
謝辞   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22ページ
注記   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23ページ
付論 当初想起したトリチウム放出量からの通常運転リスクの推計方法 ・・・・・・・・・ 26ページ




  1.総量規制なしに捨てられている放射性トリチウム・炭素14・希ガスなど

 原発の通常運転によって放出されている放射性物質の主な核種は、トリチウム(放射性三重水素)、放射性希ガス、放射性炭素(C14)などである注1。これらは、放射性物質であるにもかかわらず、自然界にも存在するので危険性が少ないなどとして、総量規制なしに無際限に環境中に廃棄されている。
 問題なのは、原発の定期検査と燃料棒の交換の際に、原子炉を減圧し上蓋を開けるのだが、それと同時に莫大な量の放射性の気体放出物、トリチウム(水蒸気および気体)や希ガスや炭素14(ほとんどは放射性二酸化炭素)などが、一挙に、「スパイク」として、通常時の500倍以上も環境中に放出されていることである(図1参照)。しかも、この放出は、運転中ではないので、放出量統計に十分に反映されていないのではないかという疑惑が、イアン・フェアリー氏により指摘されている(「スパイク放出仮説」)注4。日本政府は、大気中への元素気体および水蒸気でのトリチウムの放出量を公表しておらず、国連にも報告していない。さらに、1次冷却水が交換される際にも、トリチウム水が大量に排出される注5

図1 定期検査・燃料交換時の大気中へのスパイク的放射能放出

 UNSCEAR2008年報告の付属書Bの表18注1には、通常運転による放射性物質の放出による「局地的・地域的」な集団線量が掲載されている(下の表1)。UNSCEARのモデル原発サイトは、原発周辺50kmの人口密度が1平方kmあたり400人、周辺2000kmが20人である注1。つまり集団の人口は、周辺50km圏で314万人、2000km圏で2億5120万人程度である。したがって、大まかに、日本全国についての集団線量と考えて差し支えないであろう(もちろん韓国・中国の一部の人口に対する日本の原発による集団線量も入るが、韓国・中国の原発による日本人の集団線量と相殺されると考えて、慮外に置くこととする)。



 さらに、これを基に、ICRPのリスクモデル(集団線量1万人・Svあたり1800人の発がんと450人のがん死)を使って、通常運転による健康被害想定を大まかに計算することが可能である(表2-1のB、C)。



 もちろん、これは、UNSCEARによる集団線量とICRPによるリスク係数という二重に過小評価された数値である。だが、今は、概数の予測が「可能である」という点が重要なのである。つまり、政府や推進側専門家たちは、一定の被害が出るのを「知っている」ことが十分想定されるわけだ。
 過小評価されたものとしても、出力100万kW(1GW)の原発を1年間運転すれば、約0.4人の過剰な発がんと、およそ0.1人の過剰ながん死が国際的に公式に認められているのである(生涯期間について)。
 2017年6月21日現在、日本では総出力425万kWの5基の原発が稼働中である。それによる1年間の過剰発がんと過剰がん死のリスクは、UNSCEARとICRPから計算しても、およそ1.6人と0.4人となり、決して無視できない数である。2年間におよそ3人の人を重大な病気に罹患させ、およそ1人の人を殺めるなら、しかもその犯行がその後も続き、その犯行の可能性が公的に認められるなら、そのような人は「連続殺人犯」と断定されるであろう。では、原発再稼働を行う電力会社は、なぜ「殺人企業」と断定されないのであろうか?



 ECRRは、ドイツの環境省と連邦放射線防護庁が行った「運転されている原子力発電所周辺5km圏内で小児白血病、小児がんがそれぞれ2.2倍、1.6倍の高率で発症している」という内容の調査研究(KiKK研究)をベースに(×1000)、他の4原発での調査を含めて、原発の稼働に対し、核実験の被害などより大きな過小評価補正係数を採っている(×200〜×1000)注6。ここでは、ECRR2010年勧告の表にある幅のある数字として考えるが、同勧告は本文では×1000の方を採るべきことを示唆している。
 さらに、周知のようにICRPはがん以外のリスクをほとんど認めていないが、ECRRは、がん以外の健康影響として、心臓病死のリスクを認めて、がん死の2分の1としている注6。これもここで計算しておこう。
 ECRRの過小評価補正後では、5基稼働により約350〜1800人の発がんと約90〜340人程度のがん死、およそ45人〜170人の心臓病死が引き起こされている可能性が指摘できる(表2-2のF、G)。


  2.トリチウムの放出量の推計から大まかな被害推計を試みる

 いま、トリチウム以外の核種の放出量はトリチウムの放出量に比例すると仮定すると、トリチウムの放出量から、概数ではあるが、原発通常運転による健康被害の推計が可能である。つまり、PWR100万kW級原発の液体トリチウム放出量1TBqに対して0.1144人・Svと計算すればよい。
 関西電力が福島原発事故以前の10年間に運転した原発によって放出された液体トリチウム総量によるリスクは、以下のように計算できる。



 少し先回りになるが、後で検討する、九州電力玄海原子力発電所が、事故前11年間に放出した液体トリチウム826TBqに対する発がん・がん死リスクも以下の通り計算できる。



 これらの数字は、原発通常運転によって極めて多数の健康障害と犠牲者がでた可能性を示している。すでに、福島原発事故の以前に、日本の発がん率、がん死亡率は顕著に上昇した。その重要な要因の一つが原発の通常運転であった可能性がきわめて高いことは、この数字からも明らかである。


  3.UNSCEAR2008年報告による1993年報告に比してのリスクの明確な過小評価

 しかし、上記のUNSCEAR/ICRPベースの通常運転リスクの評価は、相当なレベルではあるが、ほとんどが作業員の被ばくによるもの(9割以上)であり、明らかに住民のリスクを過小評価したものであることは明らかである。
 しかも、UNSCEAR2008年報告は、同1993年報告に比較して、原子炉運転で放出される各放射性核種について、単位放出量あたりの集団線量推計値を大幅に引き下げている。とくに、近年その危険性が強調されてきている大気中放出のトリチウム、炭素14、微粒子の単位放出量あたりの集団線量をとくに大きく引き下げている(それぞれ5.2分の1、6.7分の1、2.8分の1に)。その理由の説明は見当たらないが、UNSCEARがすでに福島原発事故以前から、悪名高き2013年報告書で採用したような、原発事故の放出放射能によっては健康被害が全く出ないという放射線健康被害「ゼロ論」に向かって準備を進めていたのではないかという、深刻な疑念を生じさせる引き下げと言わざるを得ない。



 そこで、UNSCEAR1993年報告をベースにして、別の方法で原発通常運転によるリスクの推計を試みてみよう。放出量には、原子力安全委員会(当時)「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の線量当量評価について」(1989年)より引用しよう。同文書は出力110万kW級のモデル原発についてのデータであるので、100万kWに換算した。PWRの液体トリチウム放出量は67TBq/100万kWであるが、これは『原子力施設運転管理年報』の実績値やUNSCEARのデータの3倍以上となる。これがほぼ政府が想定しているリスクの最大値と考えるべきであろう。
 大気中への炭素14とトリチウムの放出量は、原子力安全委員会の文書には言及がないので、UNSCEAR1993年報告AnnexB表38にあるPWRの1GW(すなわち100万kW)あたりの単位放出量データ1970〜89年の合計の比より、筆者が推計した。すなわち、PWRのトリチウム液体放出量の合計101(TBq/100万kW、ただし5年分の数字)に対して、大気中へのトリチウム放出量合計21.9(同)、C14放出量合計0.91(同)である。ここから、大気中へのトリチウムおよび炭素14の放出量は、それぞれトリチウム液体放出量の4.61分の1および111分の1と推計した。



 このデータによれば、住民と作業員の健康被害リスクの比は、1対1.5となり、2008年報告書のデータよりは現実に近いものと思われるが、それでもまだ住民健康影響について大きな過小評価があると考えるべきであろう。
 各項目についていえば、「放射性ヨウ素」の危険性についてはいうまでもないが、「希ガス」についても、小さいものの決してゼロとはしていないことに注意すべきである。「放射性微粒子」について、UNSCEARは具体的に核種を特定していないが、原子力委員会(当時)のデータは、以下の核種が挙っている。クロム51、マンガン54、鉄59、コバルト58と60、亜鉛65、ジルコニウム95、ニオブ95、ストロンチウム89と90、アンチモン124、セシウム134と136と137、バリウム140、ランタン140、セリウム141など。「トリチウム以外の液体廃棄物」には、クロム51、マンガン54、鉄59、コバルト58と60、ストロンチウム89と90、ヨウ素131、セシウム134と137が挙がっている。注目すべなのは、「トリチウム以外の液体廃棄物」の集団線量については2008年報告で大きく引き上げられており、ここでは引き上げられた方の推計を採った。
 UNSCEAR2008年報告によれば、長期的傾向として、フィルターの改良や燃料棒のピンホールを防止し封止性を高める技術改良などにより、①微粒子放出量がPWRで減少したが、BWRでは減少しなかった、②希ガス、ヨウ素およびトリチウム以外の液体放出量はPWR、BWRともに減少した、③トリチウムと炭素14の放出量はPWR、BWRともに減少していない、とされている注7。もちろん、減少した場合にも使用済み燃料棒の中に残っている量が増えているだけなので、使用後の貯蔵・保管・輸送、再処理工程での放出量を増加させるだけである。
 表6のデータに基づいてリスクを計算すると以下の通りとなる。




  4.「スパイク」放出仮説を採用してUNSCEARの放出量過小評価を補正する

 イアン・フェアリー氏は前掲論文注4において、原発の定期検査および燃料棒交換時に、通常運転時の500倍に上るスパイク的放出があり、その放出量は年間推計放出量の約半分になると指摘している。そのようなスパイク的放出による被曝の放出単位あたり集団線量は、通常運転時より遙かに高く、20〜100倍に上ると書いている。また、このようなスパイク放出が原子炉運転による放出量の中に十分に含まれていないのではないかという疑念も提出している。これらの点、的を射た指摘であると考える。
 そこで、いまトリチウム放出量の半分が、通常時の100倍の単位放出量あたりの集団線量を与えると仮定しよう(つまり放出量全体については約50倍の集団線量)。つまり、原子炉運転による大気中放出量については、前に計算した日本政府原子力安全委員会のモデル放出量とUNSCEAR1993年報告の放出量データを採り、同報告の単位放出量あたり集団線量を用い、大気放出による集団線量分を50倍して、住民の集団線量の計算を試みてみよう(作業員被曝量は同じと仮定する)。



 これにより、被害想定を計算すると、以下の表9の通りとなる。ECRRの補正以前でもすなわちUNSCEAR/ ICRPの段階ですでに被害予測が、1年間で100万kW稼働時で発がん13人・がん死3人と、かなり大きな数字になることが分かる。住民の被曝量(集団線量)は作業員の約36倍となる。



 ただし、この「50倍」という数字は、仮説的な性格のもので、実態を反映していないのではないかという批判があるかもしれない。そこで、現実の分子生物学的過程と数少ないが存在するトリチウム大気中放出量の実測値を反映しうる別な推計法を試みよう。


  5.トリチウムと炭素14の特別の分子生化学的危険性からのリスクの補正

 トリチウムは、放射性の水素の同位体であり、化学的には水素と同じ働きをし、ベータ線(電子)を出して、化学的に不活性なヘリウムに変わる。

図2 トリチウムとは何か


 現在政府が再稼働を進めようとしている加圧水型(PWR)原発は、核反応の制御にホウ素(ボロン)とリチウムを使用するので、トリチウムの発生量が沸騰水型(BWR)原発に比較して、桁違いに大きい。核燃料の「三体核分裂」によるトリチウムの生成は、BWR、PWRともに共通であるが、この反応により生成されたトリチウムの大部分は、燃料棒内にとどまり、炉内・冷却水中への漏洩は少ないと言われている(燃料棒の損傷率は1%程度とされている)。再処理工場では、この燃料棒を細断するので、トリチウム放出量は極端に多くなる。



 水素と同じ性質をもつトリチウムは、水(トリチウム水)として、また有機化合物と結合して、生体のどこにでも入り込む。とくに、細胞分裂時のDNA複製の際に、その材料となる有機物質に組み込まれると、DNAの中心構造である水素結合にまで侵入し、DNAを中枢から破壊することになる。その際、水素として機能してきたトリチウムは不活性なヘリウムに壊変するので、そこで水素結合が切断され、その箇所でDNA2本鎖が共有結合により架橋したり、メチル基やアルキル基、アミノ基など他の化合物とランダムに結合して非常に複雑な、修復の難度の高いDNA損傷が起きる。つまり、トリチウムの崩壊は、ベータ線照射による直接の破壊とそれにより生成される活性酸素種による間接的な破壊に加えて、水素結合の切断というさらに追加的な破壊を伴う。つまりトリチウムは何倍にも倍加された危険性をもつ。

図3


 森永徹氏は、トリチウムの特別な危険性は、住民が直接に吸入や摂取するだけでなく、環境中で、トリチウム水から植物の光合成によって有機結合トリチウムが生成され、さらにはその植物や植物性プランクトンを食べる動物や魚貝類が有機トリチウムに汚染され、さらに生物濃縮され、それらを住民が食べるなどにより、その地域の生態系全体がトリチウム汚染されてしまうことだと警告している注9
 炭素の放射性核種である炭素14も、化学的には炭素として振る舞うので、トリチウムと同じように倍加された危険性を持つと考えるべきであるが、自然界にも広く存在するとして無視されている。炭素14は、窒素と中性子の反応から生じ、ベータ線(電子)を出して崩壊し、窒素に変わる。半減期は5730年。炭素14も多くは放射性二酸化炭素として放出され、光合成により固定化され、生態系全体を汚染する。トリチウムと同じく生体を構成する基本的な元素であるので、身体のどこにでも、DNAの内部にも深く侵入して、放射線を照射する。
 ECRRは、トリチウムと炭素14の危険性の度合い(「生化学的強調係数」)を、それぞれ10〜30、5〜20としている注6。核実験の放射能被害の評価の際は、ECRRは「荷重係数」としてこれらの下限値の方を採っている注8ので、われわれもそれに習い、ここでは、トリチウムの加重係数を10、C14を加重係数を5として推計しよう。


  6.原発周辺地域での白血病死亡率の急上昇:玄海原発の事例

 このようなトリチウムの特別な危険性は、森永徹氏の玄海原発に関する分析により明らかにされている。それによれば、1975年後半に営業運転を開始した玄海原発(佐賀県玄海町)の稼働前と稼働後で、周辺自治体における白血病による死亡率が急上昇したことが、人口動態調査からはっきり読み取れる。

図4 玄海原発稼働前(上)・稼働後(下)における周辺市町村における白血病死亡率の変化


注記:上図が稼働前(1969〜1976年)、下図が稼働後(2001〜2011年)の白血病による死亡率。グラフから原発稼働から四半世紀後に、玄海町で約4倍、唐津市で約2.6倍、伊万里市で約3倍、多久市で約2.5倍、武雄市で3.5倍程度などに急上昇しているのが読み取れる。
出典:森永徹「玄海原発と白血病」第32回日本科学者会議九州沖縄シンポジウムでの発表(2015年12月5日)。原資料は佐賀県人口動態調査。

 森永氏は、もう一つ興味深い比較を行っている。沸騰水型BWRと加圧水型PWRの原発所在地の自治体における白血病や循環器系疾患の死亡率の比較である。これによっても、とくに白血病において、トリチウムとの連関がはっきり現れている。このように、原発の通常運転と定期検査・燃料交換時のトリチウムなどの放射性物質の大量放出によって、周辺住民の健康被害がはっきり現れていることが見て取れる。

表10 主なPWRとBWRのトリチウム放出量(2002〜2012年)と原発立地自治体住民の死因別死亡率(対10万人)

注記:同じ原発立地自治体でもトリチウム放出量の多い加圧水型の原発がある自治体は、白血病などの死亡率が明らかに高率であることが分かる。
出典:森永徹「玄海原発と白血病」第32回日本科学者会議九州沖縄シンポジウムでの発表(2015年12月5日)。原資料は原子力施設運転管理年報、人口動態調査。

 すでに引用したように、玄海原発から2002〜2012年の11年間に放出された826TBq(0.826PBq)のトリチウム放出量からの被害想定は、UNSCEAR/ICRPによる推計をベースにして可能である(表4)。前述の液体トリチウム1TBqあたり0.1144人・Svを使って、発がん約17人とがん死約4人(うち白血病は約1割として約0.4人)となる。これでも大変重大な数字であるが、これが過小評価であることはあきらかである。ECRR補正を行うと発がん3400〜1万100人とがん死850〜4300人(うち白血病85〜430人)、心臓病死425〜2150人程度と予想される。これは、上記の森永氏のデータから見て、蓋然性のある数字と思われる。


  7.トリチウムと炭素14の特別な危険性を考慮したモデル

 カナダでの1原発サイト(ダーリントン原発)については元素気体放出量のデータがある。さらにカナダの他の4原発サイトについては水蒸気放出量が公表されている。前者で計算すると大気中トリチウム放出量は液体放出量の4.5倍であり、後者も入れて計算すると2.5倍である。これにあわせて、大気中トリチウム放出量を液体トリチウム放出量の約2.5〜4.2倍と仮定することができる。つまり、スパイク放出を考慮した大気中放出量は、原子力安全委員会の液体放出量67TBqから167.5〜281.4TBqとなり、UNSCEAR1993ベースで計算された(67÷4.61)トリチウム気体放出量14.5TBqの約12〜19倍ということになる注10
さらに、これに加えて、ECRRの生物学的強調(荷重)係数(トリチウムで10倍・炭素14で5倍)を考慮に入れたモデルを考えてみよう。
さらに、まずICRPのリスク係数を採って後でECRR過小評価補正係数を掛けるのではなく、ICRPのリスクモデルの基礎にあるLSSでの20分の1の過小評価とDDREF=2による人為的な2分の1への過小評価を補正したわれわれのリスク係数(1万人・Svあたり発がん7.2万人、がん死1.8万人、非がん死1.8万人、うち心臓病死9000人)により計算しよう。なお非がん死をがん死とほぼ同数とする推計は、ヤブロコフ『チェルノブイリ被害の全貌』に引用されているマルコの推計を踏襲した注11


 


 これにより、PWRの1年間の稼働により、およそ発がん1000人・がん死250人・非がん死1000人(その約半分が心臓病死)、現在の5基稼働により、発がん4000人・がん死1000人(その半分が心臓病死)という推計が明らかになる。


  8.総括

 ここまで、種々の方法で、原発の通常運転による放出放射能の健康被害について推計する方法について論じてきた。以下の表に総括している。



 もちろん、このような推計には、放射線による健康被害の量的な側面だけを取り上げており、その質的な側面を全く捨象しており、本質的な限界があることは、指摘しておかなければならない。ここでは、詳しく触れることはできないが、本予測を議論する際に留保すべき点の概略を以下に列挙しておこう。
 ――平均化原則により個人間の放射線感受性の相違を無視している点である。とりわけ、胎児や胎芽、乳幼児、子供、妊婦、遺伝子変異(損傷を受けたDNAの修復機能やアポトーシスに関連する遺伝子、ATM、TP53、BRCA1、NBS1などに変異)をもつ人々(ECRR2010第4章4.5節では人口の約6%)の著しく高い放射線による傷つきやすさを無視している。放射線の「確率的」影響というのは、悪質なユーフェミズム(婉曲表現)であって、実際には、「放射線感受性の高い人たちの集中的な健康破壊と大量殺人」なのである。
 ――放射線影響はがん以外(さらには心臓疾患以外)の極めて広範囲の疾患や健康障害と関連があることを無視している点である。放射線の間接的作用、活性酸素・フリーラジカルによる酸化ストレスの重要性を軽視している。とりわけ、神経系・代謝系・免疫系やミトコンドリア病などの難病等の疾患を捨象している。
 ――遺伝的な障害、とりわけ遺伝子変異の個体および世代間での蓄積(がんおよび非がん疾患について)の重要性を見ていない点である。
 ――放射線は、スターングラス氏やグールド氏の指摘するように、子供の発育や知能の発展、さらには成人の精神活動にまで影響する点である。
 だが、これらの留保すべき諸点にもかかわらず、UNSCEAR・ICRPをベースとする被害想定によって、原発通常運転が、決して軽視すべきではないどころか、極めで重大な健康被害をもたらすリスク、その可能性は、十分に確認することができる。この点こそが重要であると考える。


  9.結論

 国連科学委員会の推計モデルは、モデル原発サイト周辺の人口密度が50km圏と2000km圏しか公表されていないようであるが、日本の現状と大きくはかけ離れていない。しかし、水源の状況などは考慮していないと思われる。とくに若狭湾など、原発が集中立地し、関西圏から名古屋圏まで周辺の人口密度が極めて高く(双方が150km圏内に入る)、しかも原発に近い琵琶湖水系や原発近傍を源流とする河川を広範な住民の上水道として使用しているなどの条件を考慮すれば、被害想定はさらに大きくなる可能性が高い。
 ここでの議論すべてから判断して、原発の通常運転は、事故がなくても、住民と国民全体の大量発がんと大量死を生みだしている可能性が示される。福島の汚染地域への帰還政策に加えて、原発再稼働に走る電力会社や政府は、重大事故が再び起こるリスクだけでなく通常運転がもたらす放出放射能による健康被害リスクの点からも、「放射線高感受性の人たちの大量殺人を行っている」と断罪されるべきなのである。

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  謝辞

 いつもながら市民と科学者の内部被曝問題研究会の皆さま、とりわけ山田耕作氏、遠藤順子氏、田中一郎氏、小柴信子氏にお世話になった。森永徹氏には学会で関西に来られた折、直接お目にかかって議論することができ、重要な資料もいただいた。島安治氏には、トリチウムに関して詳しいコメントをいただいた。論考の作成にご協力いただいた皆さまに深く感謝したい。もちろん、文責はすべて筆者にあることはいうまでもない。


  注記

注1 国連科学委員会(UNSCEAR)2008年報告付属書B「種々の線源からの公衆と作業者の被ばく」『放射線の線源と影響 UNSCEAR2008年報告書[日本語版]』放射線医学総合研究所監訳(2011年刊)
インターネットでは、英語版が以下のサイトからダウンロードできる。
http://www.unscear.org/docs/publications/2008/UNSCEAR_2008_Annex-B-CORR.pdf
UNSCEARが通常運転の際の集団線量推計の際に使ったモデル原発サイトについては、1993ReportAnnexBの109ページに簡単な説明がある。
http://www.unscear.org/docs/publications/1993/UNSCEAR_1993_Annex-B.pdf

注2 国際放射線防護委員会(ICRP)『国際放射線防護委員会の2007年勧告』日本アイソトープ協会(2009年刊)。リスクモデルの表は138〜139ページにある。

注3 欧州放射線リスク委員会(ECRR)編・山内知也監訳『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価 欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告』明石書店(2011年刊)
インターネットでは以下のサイトで読むことができる。
http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_dl.htm

注4 イアン・フェアリー「原子力発電所近辺での小児がんを説明する仮説」日本語訳は以下のサイトで読むことができる。
http://fukushimavoice2.blogspot.jp/2014/12/blog-post.html

注5 原子力安全委員会(当時)「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の線量当量評価について」(1989年)では、110万kW級原発について年間の液体トリチウムの放出量を次のとおり想定している:
 加圧水型PWR:7.4×10の13乗Bq=74テラ(兆)Bq/年
 沸騰水型BWR:3.7×10の12乗Bq=3.7テラBq/年
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19890327001/t19890327001.html
 この文書は、最近も政府文書が再確認して引用されており、現在も有効と見なされていると考えられる(経済産業省トリチウム水タスクフォース「トリチウムに係わる規制基準」2014年)。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/140115/140115_01h.pdf
 この日本政府の想定は、UNSCEAR2008での推計(PWRで20TBq/100万kW年)を4倍近く上回るレベルである。ここでは、原子力施設運転管理年報の数値に近いUNSCEAR2008の推計と両方を採ることにするが、もし、この日本政府推計に依拠すれば、通常運転による住民のリスクは2008年報告による推計のおよそ3.7倍になる。

注6 ICRPモデルによる通常運転リスクの過小評価については、前掲『ECRR2010年勧告』194ページ、表11.1。心臓病死のリスクについては、同書123ページ。

注7 日本におけるこれらの放出量の長期的変化については、原子力安全研究協会実務テキスト編集委員会『軽水炉発電所のあらまし』原子力安全研究協会(2008年)においても検討されており(第6章第8節)、UNSCEARと同様の傾向が確認されている。

注8 前掲『ECRR2010年勧告』96ページ、表6.3。同267ページ、表14.1。

注9 森永徹「玄海原発と白血病」第32回日本科学者会議九州沖縄シンポジウムでの発表スライド(2015年12月5日)

注10 UNSCEAR2008は、元素気体および水蒸気でのトリチウム放出量と液体トリチウムの放出量との比をおよそ1対10と推計しているが、イアン・フェアリー「トリチウム危険報告:カナダの核施設からの環境汚染と放射線リスク 2007年6月」によれば、少なくともカナダの原発(トリチウム生成量の多い重水炉であるが)でのこの比率は、反対に、大気中放出量の方が液体放出量よりも2.5〜5対1の割合で大きいという。同論文は、以下のサイトで紹介されている。
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/genpatsu/what_is_tritium_01.html
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/genpatsu/what_is_tritium_02.html
 原題は、Ian Fairlie, "Tritium Hazard Report: Pollution and Radiation Risk from Canadian Nuclear Facilities"
http://www.greenpeace.org/canada/en/campaigns/Energy/end-the-nuclear-threat/Resources/Reports/tritium-hazard-report-pollu/
 われわれは、この液体放出量と大気中放出量との比率は、他の、例えば日本の原発でも大きくは変わらないと考える。
 上記日本語の紹介サイトから、カナダの原発からのトリチウム放出量を以下に引用しておく。カナダでも、トリチウムガス(エレメンタル・トリチウム)のデータは、ダーリントン原発1箇所についてしか公表されていないようである。







注11 ヤブロコフ編・星川淳監訳『チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店(2013年)178ページ、7-10表。





付論 当初想起したトリチウム放出量からの通常運転リスクの推計方法


 筆者が原発の通常運転による放出放射能からの健康被害の計算方法を最初に思いついたのは、国連科学委員会UNSCEAR1993年報告が掲げていた表を見たときであった。そこには、通常運転によって放出されている放射性物質の主な核種が列挙され、それらによる集団線量が記載されていた。下表に、該当の部分だけを切り取って引用してある。
 原子炉運転による放射性物質の放出量はトリチウムで140PBq、放出放射能による局地的・地域的な集団線量は0.37万人・Svである。これはPWR、BWR、HWR(重水炉)などを合わせた平均の数字であるが、世界の原発の半数以上(発電量の約6割)はPWRであり、大まかな平均値としてこの比率を使うことができる。つまり、各核種がほぼ同じ割合で平均的に放出されたと仮定すると、トリチウム放出量から集団線量を概算することができる。さらに、ICRPのリスクモデル(1万人・Svあたり1800人の発がんと450人のがん死)を使って、通常運転による健康被害想定を大まかにではあるが計算することが可能であると考えた。



 詳しい説明は省略するが、計算過程は下表の通りである。日本ではトリチウムの気体および水蒸気の放出量の統計が公表されておらず、大気中放出量を含めた総放出量は、イアン・フェアリー氏の論文にあるカナダのデータから、液体放出量の2.5〜5倍とした。本文では5.2倍としたが、当初は、四捨五入して5倍としたので、そのまま5倍とする。



 ECRR補正以前でも、つまり政府の認めているデータだけでも、通常運転による健康被害は決してゼロとはならない(G)。5基稼働している現在、UNSCEAR・ICRPだけからでも、毎年の稼働で生涯期間で3〜7人程度の発がんと1〜2人程度の追加的ながん死が予測される。
 ECRRの過小評価補正係数(H)×200〜×1000を採ると、過小評価補正後では、100万kW級原発1基の運転により、約160人〜1600人の発がんと約40〜400人のがん死、5基稼働により約680〜6800人の発がんと約170〜1700人のがん死が引き起こされている可能性が指摘できる(I、J)。
 関西電力の3原発サイトが、福島原発事故以前の10年間に放出したトリチウム量から計算すると(K)、およそ3500〜3万5000人の発がんと約870〜8700人のがん死がこの10年の被曝により生じる可能性が明らかになる。
 本文で示したとおり、この当初の方法での推計は、その後改良した推計方法による補正後の数値と、それほど大きな違いはないことが分かる。

  謝辞

 上記の方法に基づいた原発通常運転時の放出放射能による健康被害の推計を『人民新聞』に掲載していただいた(2017年6月25日号)。そちらの方もぜひご参照いただきたい。協力いただいた同紙編集部の園良太氏に感謝申し上げる。私の論考は以下のサイトにアップロードされている。

「国連科学委員会のデータから5基の年間稼働で最大7000件の発がん・1700人のがん死の可能性――原発の通常運転が生み出す健康被害を推計する〜放出される放射性トリチウムの危険性」
http://jimmin.com/2017/06/27/post-3511/


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