ウソに塗り固められた 復興庁パンフ『放射線のホント』ミニパンフ版 渡辺悦司

2018年06月


ウソに塗り固められた

復興庁パンフ『放射線のホント』

ミニパンフ版



市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
2018年6月20日



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ウソに塗り固められた復興庁パンフ『放射線のホント』ミニパンフ版(pdf,9ページ,1308KB)


 政府は、放射線被曝についての子供・生徒向けのパンフレットを公表している。復興庁パンフ『放射線のホント』だ。マンガも交えて主張されているのは次の10項目。全て偽りである。


パンフレットの表紙


   「子供だまし」の10項目、嘘は子供にもにもわかるはず

 1.「放射線はふだんから身の回りにあり、ゼロにはできない」(復興庁)――だからといって追加して被曝しても「安全」という結論にはならない。
 2.「放射線は移らない」(復興庁)――放射性物質、放射性微粒子は、見えない細菌やウイルスと同じように、呼吸や皮膚から、食べた食品から「移ってくる」。
 3.「放射線の影響は遺伝しない」(復興庁)――嘘。政府が依拠している国連科学委員会の報告や国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告でさえ、遺伝的影響が「ある」あるいは「ある可能性が高い」ことを認めている。
 4.「放射線の健康への影響はある・なしでなく量が問題」(復興庁)――問題のすり替え。被曝すれば影響や被害は「ある」のが国際的コンセンサス。
 5.「100〜200ミリシーベルトの被曝での発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取り過ぎと同じくらい」(復興庁)――詐欺的なトリックである。以下に検討する。
 6.「福島原発事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていない」(復興庁)――本来健康影響の「証明」は数十年間・数世代観察したデータに基づいてのみ可能である。今から「証明されていない」と断定することははっきりデマである。
 7.「国連科学委員会の報告書では東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はないと評価されている」(復興庁)――国連の権威を持ち出そうと嘘は嘘である。事故当時の吉田昌郎所長はがんにより「亡くなった」。「脱毛」は現実に多くの子どもに現れた。体験済みのことだ。福島における子どもの「甲状腺がん」の多発は疫学的に証明されている。
 8.「福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1/7。また、避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体の中に取り込まれた量もずっと少なかった」(復興庁)――嘘。放出量は国際基準INESによればほとんど変わらない。また、もし1/7としても、1/7の被害は当然想定される。1/7からは被害が「ゼロ」は出てこない。
 9.「福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになった」(復興庁)――嘘。モニタリングポストの表示値は人為的に半分程度に操作されている可能性があるが、それでも福島県各都市の線量が今だに高いことは明らかである。また低下したとしても、過去に被曝した人体影響は消すことができない。

復興庁パンフに掲載された福島の空間線量




文部科学省による福島原発事故前の全国各地の空間線量(現在ネットから削除されている)


 10.「日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっている」(復興庁)――嘘。日本では主食のコメは100ベクレル/kgだがウクライナのパンは20ベクレル/kg。日本は飲料水が10ベクレル/kgだが、ウクライナは2ベクレル/kg。日本の基準は高すぎるのである。


  100〜200mSvの被曝は野菜不足程度ってホント?

 この比較にはトリックがある。比較するリスクの期間が5倍も違うのである。元となった国立がん研究センターの表では、野菜不足や塩分の取り過ぎは「10年間」継続した場合のリスクと明記されている。放射線は1回の被曝量による生涯期間「50年間」のがん発生・致死リスクである。




[元の表:生活習慣因子は10年間に対するリスクと下の注で明記されている]


 野菜不足のリスクを放射線被曝リスクと同じ50年に換算(5倍)した場合、そのリスクは最大で1Sv(=Gy)相当となり「致死量」に達する(表参照)。数ヵ月以内の10%未満致死量の下限値だ。喫煙や大量飲酒では、2ヵ月以内の半数致死量に達し、両方する人は2週間以内の全員致死量になってしまう。つまり、比較の枠組み自体、辻褄が合わない。反対に放射線リスクの恐るべき深刻さが示されているのだ。




  復興庁パンフの主張が実現したら何が起こるか?

 復興庁パンフの意味は、その意図するところが実現し、日本の生徒たちも大人たちも皆この復興庁パンフを信じ、放射線に被曝しても「安全安心」と考え、被曝を恐れなくなったとしたら、いったい何が起こるかを考えれば明らかだ。 
 この問題には重要な意味がある。復興庁パンフは、①大規模再稼働などにより起こることが想定されている「次の」原発重大事故に向けての準備であり、②放射能で汚染された除染残土や廃炉廃棄物の再利用を全国で進めるための宣伝であり、①アメリカと一体となった「使える核兵器」による核戦争に向けての準備だからだ。
 原子力規制委員会の更田豊志委員長は、一般住民の年間1mSv基準を、現行の空間線量に換算して毎時0.23?Svから、毎時1?Svに解釈改訂し、4倍に引き上げようとしている。年間被曝量で8.32mSvである。
 この線量なら日本の全人口約1億2600万人が被曝しても容認されるという主張だ。政府・放医研のリスク係数(1万人・Svあたり426〜1460件のがん死)によれば、およそ5万〜15万人の過剰な死者が1年間の被曝に対して生じる想定になる。生涯期間50年間では230万人〜770万人。つまり、日中・太平洋戦争での公式戦没者数240万人に匹敵するか大きく越える想定だ。



 これはがんだけであり、大きな過小評価だが、それでも、自国の住民の見えざる大量殺戮、全般的健康状態の悪化、人口の再生産の破壊という破滅的な結果を十分示唆している。

  避難とチェルノブイリ法日本版の制定へ

 国連科学委員会は、米ロ中英仏など核大国グループの下請組織であり、元来核実験の被害を過小評価するために設立された核開発・原発推進のための機関である。チェルノブイリ事故の際も「被害は全くない」と勧告し、当時のソ連政府に住民防護対策を取らないよてうに促し、被曝被害の拡大を促した。社会主義の崩壊を健康・人口面から促進した。いま、同じ工作を競争相手としての日本に対して行っている。チェルノブイリ事故の当事国はそれに気づき、住民運動の圧力の下、住民を防護するための「チェルノブイリ法」を制定した。事故から5年後だ。日本政府は、愚かにも国連科学委員会に追従し、住民の汚染地域への帰還や全国への被曝被害の拡散を意図的に推進している。避難とチェルノブイリ法日本版の制定以外に生き残る道はない。


注記:これは山田耕作氏との共著「ウソで塗り固めた復興庁パンフ『放射線のホント』」をベースとして、渡辺悦司が要約したものである。原論文について、ぜひ以下も参照されたい。
http://blog.torikaesu.net/?eid=74
http://nukecheck.namaste.jp/pdf/180524yamada&watanabe.pdf

ウソで塗り固めた復興庁パンフ『放射線のホント』 山田耕作、渡辺悦司

2018年05月

ウソで塗り固めた復興庁パンフ『放射線のホント』

山田耕作、渡辺悦司
2018年5月24日



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ウソで塗り固めた復興庁パンフ『放射線のホント』(pdf,11ページ,561KB)


  はじめに

 安倍政権は最近、放射線被曝に関連して以下の子ども向け・一般向けのパンフレットを公表している。

  A.復興庁パンフ『放射線のホント』
  http://www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2017/senryaku/pdf/0313houshasen_no_honto.pdf
  B.特集『マンガで学ぶ放射線のホントの話』
  https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/fukko_tohoku/index.html

 これらにおいては、ほぼ同じ内容がマンガも交えて提示されている。以下、上の両文書を「復興庁パンフ」と呼び、問題点を順に明らかにする。

 政府の主張は次の10項目であるという。これらの主張は、われわれがすでに批判した3つの文献(日本学術会議「子ども被ばく」報告書、野口邦和ら『しあわせになるための「福島差別論」』、復興庁「風評払拭強化戦略」)の要点を整理し単純化し一面化したものである。偽りに基づき、子供にも「被曝の安全性」を信じこませようとする危険なものである。


  政府の言う「放射線10のポイントと大切なこと」

1.放射線はふだんから身の回りにあり、ゼロにはできません。
2.放射線は移りません。
3.放射線の影響は遺伝しません
4.放射線の健康への影響はある・なしでなく量が問題です。
5.100〜200ミリシーベルトの被曝での発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取り過ぎと同じくらいです。
6.東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていません。
7.原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告書では東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はないと評価されています。
8.福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1/7でした。また、避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体の中に取り込まれた量もずっと少なかったのです。
9.福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになりました。
10.日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっています。


 以下、これらを検討する。
1.放射線はふだんから身の回りにあり、ゼロにはできません
 全ての放射線は危険である。だから被曝をできるだけ避けるというのが正しい態度である。医療のための放射線は、より危険な病気を治療したり、予防するためにやむを得ず使用されている。決して安全でなく、できるだけ被曝量を少なくし、過剰被ばくを避けるべきである。特に医療被曝のCTなどの平均被曝量(政府パンフは3.9mSvという)は危険である。オーストラリアの68万人の調査で平均4.5mSvのCTによる被曝で小児がんが24%増加した。この比率を適用するとCTによる3.9mSvの被曝は小児がんを21%増加させることになる。
 さらに重要で、注意すべきことは「復興庁パンフ」が無視している放射性物質の危険性の質的・量的な違いである。一般的に放射線について述べながら、もっとも危険な内部被曝を無視することは誠実な広報と言えない。
 人工の放射性物質は一層危険である。放射性微粒子を含む内部被曝はとりわけ危険である。しかも福島原発事故が放出した放射性微粒子には、水や酸や脂肪に溶けないガラス状の「不溶性放射性微粒子」が多く含まれ、このような特殊な性質の放射性微粒子が大量に環境中に放出されたのは歴史的に初めての事態である。欧州放射線リスク委員会(ECRR)の2010年勧告によれば、このような形態のセシウム137が体内に取り込まれた場合、外部被曝やカリウム40による内部被曝に比較して400倍〜5万倍も危険であると推定されている。この点で人工の放射性物質による内部被曝を特に回避しなければならない。
2.放射線は移りません
 病気と同じように「移る」ことは「ない」のは当然のことである。ただし、放射性微粒子の拡散による被曝やホット・スポットの存在は注意すべきである。十分に注意し対策をとらなければ、放射性微粒子とくに不溶性微粒子は、靴や履き物、衣服や帽子、頭髪や皮膚から自動車やトラック・バス・鉄道車両に到るまでの様々な移動手段に付着して「移ってくる」。それにより、居住スペースや職場、駅や空港や交通機関、人や車の集まる場所、ビルや公共施設などが再汚染され、家族や同僚、勤労者やドライバー、旅客や通勤通学客、観客や観光客など広範な住民・市民に放射能汚染を「移す」危険がある。
 また、汚染地域を旅行して、外部被曝したり、放射性微粒子とくに水に溶けない不溶性放射性微粒子を肺に吸い込んだりした場合、被爆の影響は、何十年の長期にわたり身体の中に残り、体内で蓄積していく。その意味では、放射能汚染は、見えない菌やウイルスと同じように「見えない敵」として外から「移ってくる」と言える。
3.放射線の影響は遺伝しません
 「遺伝し、後の世代に継承されることが多い」が正しい。「復興庁パンフ」は科学的真実に反する宣言である。国連科学委員会は、2001年報告書において、「被ばく後第1世代」の「全遺伝リスク」を1万人・Svあたり30〜47例としている。つまり、被曝すれば遺伝的影響が「ある」ことを公式に認めているのである。国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告も同じく遺伝的影響をリスクとして認めている(1万人・Svあたり4例)。これらは、もちろん著しい過小評価であるが、国連科学委員会もICRPもはっきり遺伝的影響は「ある」と判断しているわけである。
 さらに言えば、遺伝的影響のような、数世代を経なければ明らかにならない事項を、最初から「ない」と断言することはデマに等しい。事故後32年を経たチェルノブイリでは慢性的な病気が幾世代にもわたって継続することが重大な社会問題となっている。



4.放射線の健康への影響はある・なしでなく量が問題です
 何事も質と量の「両方」が問題である。「量だけ」は科学に反し、この記述は教育の根本を歪めるものである。質的な違いを無視しているため、「復興庁パンフ」は外部被曝に比べて内部被曝が桁違いに危険であることが理解できないのである。
 「復興庁パンフ」はがんのみを被曝による病気としている、しかし、これはチェルノブイリ事故で明らかにされた、「長寿命放射性核種取り込み症候群」という全身に及ぶ多様な病気を考慮していないことになる。それらの病気は内部に取り込まれた微粒子の放射線によって発生した反応性の高い、活性酸素やフリーラジカルによって脂肪膜である細胞膜や細胞内の小器官、ミトコンドリアなどが破壊されることを通じて発生する。そのような病気が世代を超えて継続することがわかってきたのである。
 また、復興庁パンフは、個人個人の放射線に対する影響の受けやすさ(放射線感受性)の大きな違いを無視している。同じ線量で被曝しても、胎児や乳幼児、子どもや青年、女性、がん年齢に達した中高年、DNA修復に関連する遺伝子変異をもつ人々(ECRRでは人口のおよそ6%)などは、平均値に対して被曝リスクが何倍何十倍も高いことがわかっている。またこれらの性質が諸個人で重複する場合(たとえば遺伝子変異を持つ女児など)、さらに感受性の相違の幅は大きくなる。復興庁パンフは、これらの人々を同じ被曝「量」によって扱うことによって、このような放射線高感受性の人々の生きる権利、基本的人権を奪おうとしている。
5.100〜200ミリシーベルトの被曝での発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取り過ぎと同じくらいです
 「政府パンフ」は発がんのリスクを広島・長崎の原爆の被曝調査に基づき、1.08(被曝による発がんリスクが8%増)にしているが、次の問題点がある。
 (1)被曝リスクは広島・長崎の調査よりもっと高いことが明らかになってきた。例えば、医療被曝で10mSvごとにがんが3%増えた。100mSvだと30%、200mSvで60%の増加となる。間をとって45%増としても、8%の増加分が5.6倍になる。オーストラリアのCTによる小児がんでは4.5 mSvの被曝でリスクが24%増えた。
 (2)対照とするリスクの期間が相違している。リスクの比較で「野菜不足や塩分の取り過ぎ」は10年間継続した場合であるが、被曝の影響は生涯にわたるとして、50年や70年間のがんの発生やがん死をとっており、観察期間が異なる。それ故、それらの比較は本来信頼できない。そもそも野菜不足や塩分の取り過ぎの定量的な定義を指定しなければ科学ではない。それもせずに比較することは意図的に誤解を与えるものであり、教育用の教材として不適切である。
 (3)「野菜不足や塩分の取り過ぎ」のリスクを放射線被曝リスクと同じ50年に換算した場合、その比較リスクは1度の被曝での放射線「致死量」に到達する(1Svで数ヵ月以内での10%未満致死量の下限値、3Svで60日以内での半数致死量の下限値)。つまり、「野菜不足や塩分の取り過ぎ」で数ヶ月以内に死んでしまうことになる。このような比較そのものが無意味でありナンセンスなのである。
 (4)そもそもこのような発がん要因を個々に切り離すことは複合的に起こるがんの発生と死を正しく解析していない。子どもたちに誤った理解をさせる。ネオニコチノイドなどの農薬との複合汚染も危険である。
6.東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていません
 本来、事故を起こした加害者である政府や東電は、このような偉そうなことは言えないのである。政府の公式推計によっても福島原発事故の大気中への放出放射能量はセシウム137ベースで広島原爆の168.5発分である。これは大きな過小評価である(実際にはこの3倍以上)が今は置いておこう。うち、日本の陸土に沈着したのは、これまた公式推計でおよそ27%、45発分である。このような大量の放射能が「全く健康影響をもたらさない」という主張は、最初から嘘でありデマであるというほかない。
 チェルノブイリとの比較でも同じである。政府の言う10分の1の放出量であろうが7分の1の放出量であろうが(これもまた著しい過小評価であるが、もしそうだと仮定しても)そこからは10分の1や7分の1の被害が当然想定される。最初から決して影響が「全くない」という論拠にはならない。こんなことは子どもにも明らかであろう。実際には、国際原子力事象尺度(INES)でほぼ同等であり、海水中・汚染水中への放出量を入れれば、最低でも3倍以上である。
 「100mSv以下は影響がない」という論議も同じである。もし政府がそれを真剣に主張するのであれば、政府が現在住民を帰還させようとしている年間20mSv/yの地域には、5年以上居住すると「影響がある」と主張しなければならないであろう。だが政府も政府側専門家もそれについては何も言わない。つまり、不誠実なのである。信義誠実の原則に反しているのである。
 健康に影響が出ていないことを証明することは、時間的・空間的に膨大な調査を要することである。調査が不十分な段階で、このような広報を政府が行うことは、結論を誤る可能性が高い。また事実、誤っている。しかも、国際的な合意である予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがある時には、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置(precautionary measures)がとられなくてはならない」(予防原則に関するウィングスプレッド合意声明より引用、同原則は、環境と開発に関する国連会議、EUマーストリヒト条約、オゾン層に関するモントリオール議定書などにおいて何度も確認されている)に反することである。この原則が一言も触れられないのは被災者の人権を無視するものである。
 しかも、現実に健康に影響が出ているのである。住民・市民の健康を守る立場からは被曝被害を警告し、チェルノブイリのように1mSv/yから避難の権利を認めなければならない。被害が出てからでは遅いのである。
 現実には害が出ていること、被曝調査の検出精度は悪く信頼性に乏しいことは証明済みのことである。
7.原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告書では東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はないと評価されています
 事実に反する評価に基づく記述である。これはすでに発生している福島原発事故での甲状腺がんの報告に反している。放出放射線量による地域差も証明されている。双葉町や丸森町の調査で鼻血をはじめ様々な症状が報告されている。
 子どもの脱毛については、関東からの避難者の証言からも、現実に起こっていたことが証明されている。
 「原発事故で亡くなった人はいない」というが、事故当時の発電所長であった吉田昌郎氏の58歳でのがん死(食道がん)のことは隠しているか忘れているだけである。
 国連科学委員会の予想が外れていたのである。安全宣言をした政府や科学者は被害者に対して責任を取らなければならない。
 本来、国連科学委員会は、世界平和と各国国民を放射線被害から防護するための機関ではない。米国・ロシア・中国など核保有国の強い影響力の下、核兵器保有を正当化し、核実験の被害を過小評価し、核兵器製造・原発・核燃料サイクルの運転や事故による被害を認めないための、核兵器開発・原発推進・原子力利用推進のための世界の核大国(われわれはそれを国際核帝国主義と呼んでいる)の機関である。そのような機関が、福島原発事故被害を公正に科学的に判断することはありえない。日本国民の健康と発展の利益を考えることなどありえない。
 国連科学委員会は、チェルノブイリ事故に対する対応において明らかなように、原発事故被曝の影響は全く「ない」とすることによって、特定の目的、科学「外」の利益を追求していると評価せざるを得ない。それは、原発推進上の利害にとどまらない。〇故を起こした政府が被曝防護策をとることを可能なかぎり妨害し遅らせ、可能なかぎり多くの当該国の国民を、事故を起こした政府自身の手によって被曝させ、事故を起こした国の被曝被害をできるだけ大きくし、それによって、ソ連の場合は社会主義の崩壊を促し、日本の場合は競争相手としての日本の経済力・国力・人口・社会的基盤を可能なかぎり大きく長期的に破壊し毀損し損耗させることである。
 日本の歴史上最も愚かな指導者の一人である安倍首相は、自らこのアメリカを先頭とする国際核帝国主義の手先となり、汚染地域からの住民の・特に子どもや妊婦の避難を組織すべきところ、反対に子どもや妊婦も含めて汚染地域に住民を帰還させ、自国民を可能なかぎり被曝させ、可能なかぎり大量に病気にさせて被曝死させ、さらには危険な原発再稼働により次の原発苛酷事故を引き起こすリスクを自ら追求し、あたかも自ら進んで「自国の」帝国主義的基盤を弱体化させることによって、日本帝国主義に敵対する、核武装した外国帝国主義諸国家の「手先」として振る舞っているかの行動をとっている。おそらく誰もが認めるであろう日本史上最悪の首相の1人である東条英樹でさえ、米軍の都市爆撃による子どもの予想される被害を避けるために数十万人規模の児童生徒と妊婦の疎開を決断した事実を想起しよう。子どもと妊婦への配慮という点で見れば、安倍首相は「東条英機以下」である。安倍首相の下では、自国民に対する「知られざる核戦争」(矢ケ崎克馬氏)が行われているのである。
 日本国内の最も保守的で右翼的なグループに支えられている安倍政権は、被曝と原発の分野において、国連科学委員会の名の下に、右翼が本来主張すべき「愛国主義的」「民族主義的」(すなわち帝国主義的)主張から見てさえも、最も「反民族的」で「売国的」な政策を進めているのである。
8.福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1/7でした。また、避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体の中に取り込まれた量もずっと少なかったのです
 これも間違いであることが示されている。体内に取り込まれた放射能量がチェルノブイリより「ずっと少なかった」ということをいくら主張しても、福島原発事故の放出放射能による健康被害が「全くない」「ゼロだ」という証明にはならないのは、子どもの判断力で十分明らかであろう。くり返すが、仮にこのとおり7分の1と仮定しても、被害はゼロではない。ゼロというのは嘘でありデマである。当然7分の1程度の被害を想定しなければならない。
 実際には、大気中放出量は少なくとも同等程度である。また、早野龍五氏などのホールボディカウンターを用いた内部被曝の測定も検出限界が300Bq/kgであり、精度が悪い。福島の子どもの70%に検出されているという報告のある精度の高い尿中のセシウム137を測定すべきである。
9.福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになりました
 福島市の公式発表値0.15マイクロシーベルト/hは、原発事故以前の0.04マイクロシーベルト/hより依然として高いことを示している。しかも、モニタリングポストの数値が周辺の線量より5から6割の低い値であることが矢ケ崎名誉教授などの「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の調査で報告されている。数値は操作されている可能性が高い。都市から離れた山間部は除染されていない。山林から風や雨で拡散する。人々は主要都市のみで過ごすわけではない。山間部や農地でも過ごすのである。
 また仮に、事故後7年を経て、短寿命の放射性核種が崩壊して、全体としては放射線量が低下した事実があるとしても、すでに今までに被曝した放射線による影響は「レガシー」として人々の体内に残り続け、5年後・10年後・数10年後に影響を現す危険性があるのである。これが放射線被曝影響の本質的特徴である。「線量が下がったら安心安全」ということには決してならない。それも嘘である。
 国際環境団体グリーンピースは、2018年2月に調査結果を発表し、「避難解除地域の放射能は深刻、住民の帰還誘導は人権侵害」と批判した。福島原発から西北西方向に20キロメートル離れた浪江地域の大堀村では、時間当たり11.6マイクロシーベルトに達する放射線量率が測定されもした。これは年間被曝量101ミリシーベルトに該当する。
10.日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっています
 これも安全性を示す根拠ではない。「最も厳しい」というのは嘘である。日本ではコメは100ベクレル/kgであるがウクライナのパンは20ベクレル/kgである。基準を超えなくても安全でないのは基準が緩すぎるのである。しかも加工食品は基準が緩く200ベクレル/kgである。最近のNHKの放送で飯館村の測定器はkgあたり50ベクレルに設定してあるとのことであるが、この基準は高すぎ危険である。日本は飲料水が10ベクレル/kgであるが、ウクライナは2ベクレル/kgである。

  では、子どもたちが皆このパンフを信じ、「安全安心」と思って放射線に被曝をしたら、いったい何が起こるか?

 復興庁パンフの意味は、その意図するところが実現し、日本の子どもたちも大人たちも皆この復興庁パンフを信じ、政府の基準通りの放射線に被曝しても「安全安心」と考え、自ら進んで放射線に被曝する事態が起こったと仮定したら、いったい何が起こるだろうか?を考えてみれば明らかである。 
 この問題には重要な意味がある。復興庁パンフが、‖腟模再稼働などにより起こることが想定されている次の原発重大事故に向けての準備であり、∧射能で汚染された除染残土や廃炉廃棄物の再利用をさらに進めるための宣伝手段であり、さらにはアメリカと一体となった「使える核兵器」による核戦争に向けての準備であることは明らかであるからである。
 原子力規制委員会の更田豊志委員長は、一般住民の1mSv/y基準を、現行の空間線量に換算して0.23μSv/hから、1μSv/hに解釈改訂し、係数操作によって、大幅に(4倍に)引き上げようとしている。これは、バックグラウンドとして0.05μSv/hをとれば、年間被曝量に換算すると8.32mSv/yである。
 このレベルの線量を、日本の全人口約1億2600万人が被曝しても容認されるというわけである。だから、その仮定の下で何が起こるか考えてみよう。その場合の集団線量はおよそ105万人・Svということになる。被曝のリスクは既知の内容であり、放射線医学の教科書に明記されている。日本政府の放射線医学総合研究所の文書によれば、いろいろな国際機関による10万人が0.1Gyの被曝をした場合の(すなわち1万人・Svあたりの)被曝リスクは426〜1460人程度の致死である(以下の表参照。放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響 改訂版』医療科学社[2012年]109〜110ページにある)。


出典:放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響 改訂版』医療科学社(2012年)。
注記:赤線は引用者(渡辺)が付けたもの

 つまり、もしも更田委員長の主張が実現した場合、基準通りの被曝によって、およそ4.5万〜15.3万人の過剰な死者が1年間の被曝に対して生じる可能性があることになる。これは10年間で45万〜153万人、一般に考えられる生涯期間50年間では225万人〜765万人となる。
 子どもで考えてみよう。日本の子ども(15歳以下)の人口は、現在、およそ1556万人である。子どもの放射線感受性がICRPの評価通り平均の3倍として計算してみると(実際には10倍程度だがこの点も置いておこう)、政府の意図する住民被曝基準で被曝した場合、子どもの集団線量は年間でおよそ38.8万人・Sv相当となる。上記の政府の研究機関発表のリスク係数で計算すると、およそ1.7万〜5.7万人の過剰な致死が1年間の被曝に対して想定される。すなわち、10年間で17万〜57万人、その後子どもでなくなって感受性が1に戻ると仮定しても、生涯期間(子どもの場合70年間)では51万〜171万人の過剰死となる。
 政府の実質的な住民の被曝基準は、現在の避難措置解除・帰還基準である20mSv/yである。だが、この20mSv/yは、規制委の新解釈による空間線量では20μSv/hである。年間に換算すると174.8mSv/yである。10万人をこのような汚染地域に帰還させれば、年間の被曝により745〜2252人の生涯期間の過剰死が予想される。50年間では最大値の場合、全員が過剰死となってしまう危険性があることになる。子どもについては、リスク係数が最大値の場合、子どもである20年間に、過剰死のリスクが全員に達して、文字通りの「ジェノサイド」が予想される。
 つまり、政府・復興庁の意図が実現した場合、大きく過小評価された(おそらくゴフマン氏の8分の1からECRRの40分の1まで)政府関係文書記載のリスク係数によっても、日本国民の大量死、全般的健康状態の悪化、労働力の再生産の破壊という結果が十分予想されるのである。それには支配階級も被支配階級もない。社会階級や社会層の違い、社会的経済的格差を超えた国民的危機なのである。「美しい日本の再建と誇りある国づくり」を掲げる「日本会議」の権力とも言える安倍政権が実施しようとしているのは、実際には、日本国土の限りない放射能汚染と国民への放射線被曝の強要による自国民の健康破壊と大量殺戮なのである。

  結論

 以上のように「復興庁パンフ」単なる間違いどころではなく、意識的に真実や科学的真理に反する「被ばく安全論」を展開していることになる。

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参考文献:

(1)学術会議報告(2017年9月1日)「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点
http://blog.torikaesu.net/?eid=67

(2)復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判
――こんな安全宣伝を政府がやって生命の危険にさらしてよいのか
http://blog.torikaesu.net/?eid=71

(3)「しあわせになるための『福島差別』論」批判
http://blog.torikaesu.net/?eid=73 (1/2)
http://blog.torikaesu.net/?eid=72 (2/2)

「しあわせになるための『福島差別』論」批判 1/2 山田耕作、渡辺悦司

2018年03月


「しあわせになるための『福島差別』論」批判

1/2

2018年3月21日 山田耕作、渡辺悦司



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「しあわせになるための『福島差別』論」批判(pdf,56ページ,5652KB)


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本論考は2記事に分割して掲載
「しあわせになるための『福島差別』論」批判 1/2 本記事
「しあわせになるための『福島差別』論」批判 2/2

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   1.序論

 2018年1月初めにかもがわ出版から『しあわせになるための「福島差別」論』が出版された1)。本書は、以前の『放射線被曝の理科・社会』の著者に原発容認派も加えて、その続編を著したものである2)。一見、表現は柔らかであるが恐ろしい内容の本である。

  本書の主な内容

 主な内容は以下の通りである。
 (1)「福島原発事故は、こと放射線被曝についての事実に関しては、健康影響の出ない程度であった」というのが「事実」である(39ページ、以下P39と表記)。――驚くべきことに、放射能放出量、大気中・直接海水中・汚染水中への各放出量、気体・液体・微粒子など放出形態、環境中沈着量、住民被曝量の分析も含めて、何の論拠も挙げられていない。
 (2)「被曝による健康影響はあるのかないのか」という問題に対して「これを判断する基準は『どちらが人々とりわけ被害者のしあわせにつながるか』ということであるべきだ」(P158)。「科学の問題」ではなく「社会的合意の問題」である(同)。「『放射線被曝による健康の影響はこれまでも、またこれからも考えられない』という結論が出るのが、(福島)県民にとって、一番望ましい」(P150)。「被曝の健康影響が限りなくゼロに近かった…と明言すること」に「人々がどれほど安堵するか」こそ「重視」するべきである(P64)。――こうして彼らは、放射線影響の科学から、人々を欺き慰める信仰の領域に後退する。被曝影響が「ない」と信じれば「しあわせになれる」、すなわち放射線によって「しあわせに」病気になり「しあわせに」死んでいけるというのである。
 (3)「放射線の危険性を強調」する見解は「多くの人々の不幸を固定」するものである。そのような人々は「道徳的な意味で」「自己批判」を求められるにとどまらず「本来なら刑法的に」責任を問われるべきである(P44)。――彼らには放射線科学の「専門家」を自称する人が含まれており、当然、被曝被害のリスク、その確率的な「致死」の危険性について十分認識する立場にあった。被曝の影響は一切「ない」として、政府の帰還政策に協力し、国民への被曝の強要政策に協力してきた彼らこそ、生じておりまた今後生じる被曝の健康被害やそれによる致死に対して、政府・行政・東電と共に、共犯として「殺人の罪」に問われなければならない。
 (4)現在の、公衆の被曝量1mSv/yの基準を空間線量(正確には空間線量率であるが一般的に使われているこの用語を使用する)で0.23μSv/hと計算するのは「換算係数」が「4倍程度過大評価」であって、「0.8μSv/h」(つまり約7mSv/y)とすべきである(P135)。さらに、ICRPの空気カーマの係数(約0.6)および平時(事故のない状態)の換算係数(約0.8)を用いて、実際にはこの2倍の1.67μSv/hに設定することが示唆されている。――これだと一般公衆に対する基準である被曝量1mSv/yは、空間線量では最大15mSv/y程度、住民帰還基準の被曝量20mSv/yは、空間線量で最大300mSv/y程度となる。幼児も子どもも妊婦もそこに帰還させようというのである。これは、4年間居住すれば10%未満致死量の下限(1Gy)に、10年間で半数致死量の下限(3Gy)に達し、危険な致死レベルとなる。
 (5)「遺伝子変異」を持つ人々が放射線への「高い感受性」を持つのは認めるが、そのような「個人差」は「わずか」である(P208)。――あたかも無視してよいかのように示唆しているが、しかしそのような人々のリスクは教科書的にさえ平均の2〜3倍とされている。これを「わずか」と決めつけることによって、このような人々の基本的人権を公然と無視し踏みにじっている。また、子どもや妊産婦を含め放射線感受性の個人差の問題全体を無視している。
 (6)「福島の線量は遺伝的影響にはまるで問題にならない」「広島長崎でさえ遺伝の影響はいまだ確認されない」(P63)。「遺伝的な影響」について「『統計的に影響は確認されなかった』というのが広島長崎の被爆者調査の結論になっている」(P158)――これらは放射線医学の教科書的記述にさえ反する虚偽主張である。
 (7)今までに福島において観察されている子どもの甲状腺がんは「過剰診断」によるものであって、放射線との関連はない(P175〜179)。甲状腺がん発症の新しい「高野モデル」で考えるべきである。甲状腺がんには2種類(「根の深いがん」と「根の浅いがん」)があり、子どもが罹患するのは「根の浅いがん」である。それは放置していても自然に増殖が止まるもので悪性化しない、放置してもよいものを見つけて手術しているのであって、本来検査も手術もしなくてよい。「子どもの甲状腺がんの多発という事態が生じない」ことが「確認できる」のだから、ましてや「白血病などその他の病気の心配もまず無用」である(P158)――これらは全て虚偽の論理である。
 (8)2012年では「内部被曝量より外部被曝量の方が数十から数百倍も高」かった、今日においては「百〜千倍高い」(P137)。現在「内部被曝のリスクは無視してよいほど低い」(P103)――内部被曝の危険性は全く無視できると示唆する。また、NHKでさえも報道している、放射性微粒子とくに不溶性の放射性微粒子の特別な危険性は触れられてもいない。ECRRによれば、不溶性放射性微粒子の危険性は、外部被曝あるいはカリウム40による内部被曝の20〜1000倍とされている(ECRR2010年勧告P95)。
 (9)「外部被曝も、現在、人が居住している地域では、世界各地の自然放射能とあまり変わらないレベルまで低下」し「安全に暮らせる状況」である(P103)。――政府・行政発表の計測数値に人為的操作の疑惑があることをここでは置いておくとしても、放射線リスクが「レガシー」として累積していく性質を持っており、遺伝子についても・炎症などの各種の障害についても・変異や影響が「蓄積」していくという側面が無視されている。もし外部被曝量の低下が現在において認められるとしても、事故直後やそれ以後の被曝影響は、被曝した人の体内に残り続け、蓄積し続け、5年、10年、数十年にわたって晩発性疾患のリスクを及ぼすということを無視している。
 (10)即時の原発ゼロを要求する人々に対して、「段階的な原発からの撤退すら容認できない」と批判し、そのような「即時原発ゼロ」の主張こそ「国民的な議論の土俵をどんどん失わせ」てしまう「事実に背を向けた乱暴な議論」であるとする(P77)。――つまり、著者集団の中で「反原発」の立場だと公言する人々も、実際には原発再稼働の容認論なのである。等々。
 これら紹介した論点は一部であって全てではない。また、論者によって多少のニュアンスの違いはあるが、ここでは一系列のまとまった傾向として扱うこととする。以下に詳論する。

  書名について

 最初にその書名について一点、確認しておきたい。本書の内容は、福島原発事故の「健康影響は一切ない」という一方的断定のオンパレードであるが、本書の書名にある「しあわせになるための」という表現そのものが、そのような主張が全くの虚偽であることを自己暴露しているという点である。
 考えていただきたい、「しあわせになるための」が問題になるには、放射線被曝の健康影響に関連する「しあわせ」では「ない」状態が、「不しあわせ」あるいは「不幸」であるという感情や心理が、不安や不幸な意識が、福島や首都圏を含む東日本の広範な住民の間に、日本社会全体の中に、現実の社会情勢として広く存在しているという事実が当然の前提となる。他方、著者たちが主要な攻撃対象にしている、被曝被害が「ある」と主張する論者、科学者、医師、専門家は残念ながら今のところ全くの少数者である。極少数者と言った方がよいかもしれない。本書の著者たちが指摘するような、放射線の健康影響に対する極めて広範囲の人々の根強い不安は、被害が「ある」と主張する極少数の人々の意識や意識的活動によってこれほど広範に形成されることはありえない。それには、客観的な基礎がなければならない。すなわち、住民の「不幸な意識」は、東京電力が引き起こした原発重大事故と政府が進めてきた原発推進政策の結果として生じている現存する客観的な被曝状況、それにより現実に進んでいる福島や東日本の住民の健康危機の結果である。さらには被害の可能性を一切否定し、避難者支援を切り捨てて、住民帰還を進め、住民に被曝を強要する政府の政策の結果なのである。そのことは、誰の目にも明らかである。被曝被害をめぐる「現実の不幸」こそ「不幸な意識」を生みだしている客観的な基礎である。
 だが、彼らは、このような「社会不安」、社会的な「不幸な心理」を科学的に現実の被害から説明するのではなく、放出された放射能の健康影響が「ある」という考え方が人々の「心」を支配しているから、人々が「不しあわせ」な状態に置かれているのだと考える。これは、「不幸な意識」から「不幸な現実」を説明しようとする観念論的な「倒錯」である。この非科学的・非理性的な、半ば宗教的とも言える前提に立って、彼らは被曝被害が「ある」という「観念」「考え方」「見解」あるいはそのような「論者」を「払拭」することに矛先を集中する。彼らは、被害が「ある」という人々が一掃され、被曝被害が「ない」と人々が信じれば、人々は「しあわせになれる」と主張する。
 つまり、彼らの「しあわせになるための」長々と続く説教が自己告白しているのは、被曝被害かも知れないと多くの人々が考えざるをえないような事例や症例や健康障害が非常に多数存在するという事実なのである。多くの人々が放射線関連と感じざるをえないような健康上の問題や異変や障害や疾患や致死が極めて多数生じており、健康影響が、圧倒的に多数の人々やその家族・友人・知人・親しい人・愛する人・近隣住民の実際の事例として、多くの人々の経験や体験のなかに「ある」という現実なのである。つまり、「不幸な心理」「不幸な意識」を裏付ける「不幸な現実」「現実の不健康や病気や死」が広範囲に極めて多数しかも幾度となく反復して生じているという事実なのである。
 本書の主張は、政府・復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」3)というデマ宣伝に科学者や文化人その他の知識人が積極的に下から呼応して協力するものである。政府や学術会議報告と一致して、「福島原発事故による人的被害は一切ない」「年間20ミリシーベルト以下の汚染地に子どもを含めて帰還しても安全である」とするものである。
 本書はそれ以上に、偽りの個人線量調査に基づき、現在の4倍に被曝基準を引き上げてよいとするいっそう危険なものである。福島に帰還してその復興に協力するのが「幸せ」であり、被曝の科学的な議論は意味がないというのである。
 私はこの本を読むと、たとえ放射線を浴びて死ぬことがあっても、あれこれ被曝を避けようとして苦労するより幸せではないかと誘われるような気がした。ふと、事故直後に原発推進勢力の異常心理を特徴づけた精神科医久邇晃子医師の「集団自殺願望」という言葉(『文藝春秋』2011年12月号)が思い起こされ、「集団自殺に誘う人」はこのようにふるまうのではないかという気がして、恐ろしい本であると思うのである。
 その本質は福島原発事故の被害者を犠牲にして「加害者が幸せになるための『福島差別』論」である。だが、被曝による健康被害は「加害者」自身とその家族・近親者・友人・知人も、彼らが親愛を寄せる人々をもまた、例外なく襲う。だから「集団自殺」を感じさせるのである。

  抜け落ちている福島原発事故の放射能放出量の視点

 本書の特徴の1つは、事故による放射能放出量の問題の検討が、すっぽりと抜け落ちていることである。とくに、事故の長期的な影響を評価する際の基本的指標となるセシウム137の放出量の検討が、全く見当たらない。つまり健康影響を評価していく際の客観的基礎となるデータを怠ったまま、健康影響の有無を評価しているのである。この点で本書は彼らの前著『放射線被曝の理科・社会』以下である。議論の前提となるので、われわれの論文からセシウム137とヨウ素131についての総括表を再録しておこう。


http://blog.acsir.org/?eid=29

 主として短寿命の種々の核種による初期被曝の指標とされるヨウ素131の放出量については、著者たちも触れており、チェルノブイリ事故のおよそ10分の1としている(P180)。その比率を仮定すると、福島事故についてチェルノブイリ事故の10分の1程度の被害は当然予想されることになるのだが、著者たちの結論は福島事故では被害「ゼロ」である。つまり、放射能放出量と放射線被害の関連性そのものが全否定されるのである。後で検討するので先回りになるが、ヨウ素131放出量についても総括表だけ引用しておこう。


http://blog.acsir.org/?eid=35

 われわれは、放出量をチェルノブイリと比較するのみならず、広島原爆が放出した放射能量と比較することが特別に重要な意義があるという点を強調したい。
 われわれの採用した推計で計算すれば、福島原発事故の放射能放出量は、セシウム137ベースで、大気中放出で広島原発の約600発分、大気中・直接海水中で約1000発分、汚染水まで入れると約4000発分である。ヨウ素131ベースでとっても、大気中放出量で広島原爆の42発分程度である。
 日本政府の放出量推計は、過小評価であるが、それでもセシウム137ベースで、広島原爆の168.5発分である。ヨウ素131ベースでも2.5発分程度である(原子力安全・保安院の2011年8月26日発表「東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び広島に投下された原子爆弾から放出された放射性物質に関する試算値について」http://www.enecho.meti.go.jp/about/faq/009/pdf/45.pdf)。
 つまり、福島原発事故が放出したこれほど大量の放射能による健康被害が「一切ない」「ゼロである」というようなことは、ありえない。広島原爆1発分であったとしても、被害がないという想定はありえない。つまり、健康影響が「出ない」「予想できない」「考えにくい」などというような主張は、最初から嘘であり、虚偽であり、デマであることは、議論の余地はない。これはハナから明らかなのである。「裸の王様」の寓話と同じく、多くの人々は、権力に恐れをなすか権力に媚びて、それが「嘘だ」と言わないだけのことなのである。

  前著『放射線被曝の理科・社会』からのさらなる後退――放射線による健康影響のメカニズムについて全く触れていない

 『しあわせになるための「福島差別」論』には、放射線被曝の問題を扱った書籍として致命的欠陥がある。本書は、放射線による健康影響のメカニズムについて、現代の科学とくに分子放射線医学・分子生物学・分子腫瘍学・分子病態学などが解明してきた内容が全く抜け落ちている。これは驚くべきことである。この点で、本書は、同じ野口氏らの前著『放射線被曝の理科・社会』(かもがわ出版 2014年)の立場から見てさえ、大きく後退している。
 前著では、福島で「将来、被曝による病気が生じない可能性がある」(6ページ)という著者たちの結論は、以下の諸点に言及があった上で、導き出されていた。つまりそれと「自己矛盾」する形で「動揺的」に提起されていた。いくつか列挙してみよう。
 ①放射線被曝した細胞における破壊作用には「直接作用」と「間接作用」があり、とくに放射線が生みだす活性酸素・フリーラジカルによる損傷・破壊である後者の作用が、放射線による直接の損傷・破壊である前者の3倍も大きい(47〜48ページ)。
 ②ガンマ線による被曝は、ガンマ線と生体物質との相互作用によって光電子や二次電子が生じ、それらがさらなる電離や励起をくり返すことによって生じる(39〜40ページ)。
 ③放射線によりDNAの塩基損傷、塩基の遊離、DNA鎖(一本鎖および二本鎖)の切断、DNA架橋など種々のDNAの損傷が生じる(52ページ)。
 ④生物はDNA損傷の修復系を持っているが、修復しきれなかったDNAの傷も残る。「がんは、体細胞のDNAが損傷したことを引き金として、正常細胞がいくつかの遺伝子の変異をへてがん細胞に変わり、増殖していって発症する病気である」(55ページ)。
 ⑤2Svという放射線を被曝すると、リンパ球減少、好中球減少、血小板減少が生じ、鼻血を含む全身の出血状態、重篤な感染症が生じる(63ページ)。
 ⑥7〜10Svという大量被曝は、腸管の粘膜脱落と消化管出血による致死を引き起こす。JCO事故では16〜20Svの被曝をした作業員が被曝後26日目から下痢で83日後死亡、6〜9Svの被曝をした作業員は被曝後145日後がら消化管出血で211日後に死亡(67〜68ページ)。
 ⑦LNTについて、「しきい値があるという考えに基づいて放射線防護を行ってしまうと、実際はしきい値がなかった場合に安全上で重大な問題を引き起こしてしまうため、しきい値なし直線(LNT)モデルに基づいて放射線防護を行うことがコンセンサスとなっている」(69ページ)。
 言っておくが、これらは、野口氏ら自身が前著で述べていたことなのである。
 もちろん、これらの視点は、不十分で断片的な形での指摘にとどまり、体系的で徹底した形では提起されてはいなかった。たとえば、①からは、活性酸素・フリーラジカルが生みだす極めて広範囲の病気や健康障害が、放射線被曝によって生みだされる可能性が容易に示唆されるが、この点は無視されていた。また、②からは重金属汚染など他の環境汚染と事故放出放射能との複合影響の危険性が、③④からは有害化学物質・農薬・食品汚染・大気汚染などとの複合影響の危険性が考えられるが、これらの点も考慮されていなかった。⑤⑥からは、生涯期間(成人で50年、子どもで70年)では致死量に達する被曝の危険性(とくに乳幼児や子どもや修復遺伝子変異のある人々など放射線高感受性の人口集団について)が、⑦からは放射線防護における「予防原則」の意義が、導かれる「はず」であるが、そうはなっていなかった。
 だが、今回の本書は本質的に違う。前書には存在したこれらの指摘は、すべて削除されている。つまり、本書は、前著には存在した、健康被害「ある」論と「ない」論の間のこのような「動揺」を、無理矢理「ない」論で塗りつぶすという形で貫かれている。「曖昧なことを言うとかえって不安を煽る」とする復興庁「風評払拭強化戦略」など政府の路線に迎合したものだと考えられても仕方がない。もちろん、結果から見れば、前回存在した上記のような指摘は、人々を惑わせ混乱させるためであったといわれても仕方がないであろう。しかしそれでも、今回の本書の本質を示す証拠として、あえて指摘しておく価値はあると思う。

  アメリカの「使える核兵器」戦略の中での健康被害ゼロ論の新しい意味

 それだけではない。いまアメリカは、新しい核戦略に基づいて「使える核兵器」の開発を進めている。広島原爆かその数分の1程度の爆発力をもつ小型の核兵器を、各種のミサイルや爆弾や砲弾として多数配備し、北朝鮮やイランなど弱小の発展途上諸国に対してのみならず、ロシアや中国に対しても、実際に使用する計画である。ロシアや中国もまた、これに対抗して、核兵器を現実に使用することを前提とした核軍拡を進めている。世界は、新たな核軍拡競争と核戦争の脅威にさらされている。日本もまた米日帝国主義軍事同盟の下で、この新たな脅威の重要な構成要素となっている。
 福島事故の健康影響全否定論もまた、このような新しい情勢の中で、評価されなければならない。つまりそれは、帝国主義の核戦争計画の中で、新しい危険な側面を表に出そうとしている。福島原発事故は、過小評価された日本政府の推計によっても、広島原爆168発分の「死の灰」(セシウム137ベース)を放出した(実際にはもっと多いが今は置いておく)が、その健康影響が全て否定されようとしている。すなわち、小型核兵器では500発程度が使用されたとしても、戦場での直接の破壊以外の住民への影響、核爆発による放出放射能や放射性降下物(「死の灰」)がもたらす人間や環境への破壊的影響の全体もまた、全て否定されようとしている。もし本書の著者たちが言うとおりだとすると、核兵器と通常兵器の本質的区別は消え去ることになる。原爆投下後の米軍ファーレル准将の公然たる虚偽の発言――「広島・長崎では、死ぬべき者は死んでしまい、(1945年)9月上旬現在において、原爆放射能のために苦しんでいる者(原爆症患者)は皆無」である――という線まで戻ろうというわけである。しかも、今回は、核兵器を現実に「使える」ものに変えるためにである。
 福島事故の健康影響全否定論は、その裏面として、論理上は必然的に、「使える核兵器」や核兵器使用の容認論、結局のところ、帝国主義が準備している核戦争の肯定論へと進んで行かざるをえない内容を萌芽的に含んでいる。事態は、そのような危険な論理を、核兵器に反対すべく組織されてきた、日本の原水爆禁止運動の指導部のトップの一人(野口邦和・原水爆禁止世界大会実行委員会運営委員会共同代表)が中心になって主張するに到っている。
 このような文字通り「恐ろしい」異常事態が進んでいる。われわれは、健康被害ゼロリスク論がもつこのような危険、「使える核兵器」戦略に対する理論的な武装解除としての側面、行き着く先は核戦争容認論としての側面、そのような恐ろしい危険性を決して見逃してはならない。健康被害全否定論との闘いが、迫り来る核戦争を阻止するための闘いの一環でもあるという、新たな覚悟と決意を持って事に当たらなければならないと思う。

   2.本書「はじめに」の検討 著者:清水修二

 以下、四角の枠内は「しあわせになるための『福島差別』論」からの引用である。

はじめに
P1 「どっちの味方なのか」
P6 今度は帰る・帰らないの選択をめぐる対立です。帰りたい人が帰れるようにすることについては大方の人は肯定的ですが、帰りたくない人への支援をどうやって、どこまで続けるか激しい議論を呼んでいます。そこにいわゆる自主避難者の問題が加わり、事態はいっそう複雑化しているともいえます。
P7 お前はどっちの味方だ」と問う人があるかもしれません。これに対し、私たちは『どちらの味方でもない』とは言いません。そのような問い方そのものを、私たちは是としないのです。

 清水氏は自主避難者を支援すべきであるとなぜはっきり言わないのだろうか。自主避難者を救済すべきであるという気持ちがないようである。チェルノブイリで認められている1mSv以上の汚染地からの避難の権利についても一言も言及しない。複雑化が問題のように言っている。自主避難者は、政府・東電が不当な差別的な線引きをしたことや、放射線に対する個々人の感受性の違いを無視したことによって生じた、同じ原発災害被害者である。他の弱者に対する排他的な姿勢で、「福島差別」だけを強調するのは「平等」という民主主義の原則に反することではないだろうか。
 「どっちの味方なのか」――これに対する答えは、加害者側か、被害者側か、2つに1つしかない。清水氏のように、このような問題提起そのものを否定することは、加害者と被害者という区別そのもの、両者の間の基本的対立関係そのものを否定することである。つまり、加害者(事故に対し責任のある国・東電)と被害者(事故や被曝により種々の損害を被った住民)の基本的対立関係という問題を提起してはならないと主張しているわけである。すなわち、加害者を批判しないこと、加害者と対立しないこと、加害者の責任を追及しないことを、被害者である住民に要求しているのである。
 さらに清水氏は、「被害がある」として加害者を批判し追求することそのことを、あたかも「福島を差別する」加害行為と規定し、そのような加害行為を追及する人々を「被害者同士の分断や対立」を煽る被害住民の「敵」として描こうとしている。加害者の責任を追及する人々こそが、被害を「ある」ということによって、被害住民の「主敵」とされているのである。このような論理は、清水氏らが、被害者でなく、加害者の側に、政府・東電の側に、公然と移行したことを自ら宣言していることに等しい。その意味で、本書冒頭でのこの発言は、本書が清水・野口・児玉氏らの加害者側への公然たる「転向宣言」と言っても何ら過言でないことを象徴的に示している。

P7 「差別といじめ」
福島県民、あるいは原発事故の時に福島県に居住していた人たちの身に、いま容易ならざる災厄が降りかかっています。それは「福島県民である(あった)ことを知られないようにして生きたい」と語る人がいる事実に、象徴的に表されています。

 冒頭から現実から離れた記述で驚く。題名の「福島差別」とは福島原発事故被害のことと考えていたが、「県民」の差別であるという。この本でも冒頭からそれを主張している。これは根本的な認識上の間違いに基づいている。福島原発事故の被害は世界中におよぶ。事故数週間後にはアメリカ西海岸で死産の増加が報告された。後に議論するが、例えば周産期死亡率は事故後10か月後から、福島県とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で15.6%(3年間で165人)、被曝が中間的な高さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった4)。この事実一つでも福島県のみを被災地として区別するのは間違いであることがわかる。
 この様な誤解は、元々、政府が事実をゆがめ、被害者の声を無視して、被害を福島県の一部に狭く限定したことによる。清水氏はじめ本書の著者たちは被曝の事実を正しく認識していない。「福島差別」を言う前に、何の補償もされていない、少なくとも十数県に及ぶ広範な被災者にも目を向けるべきではないか。また、後述するが子どもをはじめ、先天的に放射線に弱い、過敏な人があり、全国に被災者・被害者がいることを忘れてはならない。また、トモダチ作戦で被曝し、死亡したり、健康被害で苦しむ人がアメリカにもいるのである5)

「はじめに」での清水氏批判のまとめ
 清水氏はじめ著者たちは「被ばくによる健康被害がない」としてしまったので、被曝被害の範囲を決めることができない。被害は「福島県差別」の風評被害だけとせざるをえない。そのため、現実に被曝被害で苦しむ広範な人たちへの支援・協力・連帯もなくなる。こうして子どもの甲状腺がんを含め、現実に多様な病気でやむを得ず関東・東北から避難している人たちのことを全く無視している。これでは福島が自ら孤立することになってしまう。広い視野で、原発事故の被曝被害を冷静に考察すべきである。


   3.本書第1章「福島原発事故はどんな被害をもたらしたか」

清水修二
P16 放射性セシウムは体内に取り込まれると全身に分布しますし、同じ原子核からは二度と放射線は出ませんので、一つの体細胞が繰り返し放射線を被曝するわけではありません。さらに人の体内には数千ベクレルの放射能がいつも存在することを知っている人と知らない人では、想像される被害の光景が随分違うでしょう。
P17 バナナは1キログラム当たり130ベクレル、乾燥ワカメだと1500ベクレルくらいの放射能(カリウム40)を含んでいる

 清水氏はいつも使われる人をだます論法を用いている。ヨウ素131やセシウム137の様な人工の放射性物質とカリウム40という自然に存在する放射性元素を区別せず、放射線は同じだというのである。しかし、これはムラサキツユクサで放射線被ばくの研究をした国際的に著名な市川定夫氏が伊方原発裁判以来、生涯をかけて警告された事実に反することである。生物は進化の過程でカリウムチャンネルという通路を持ち、それを通じて、全身のカリウム濃度を調節する。カリウムにおよそ1万分の1強の割合で含まれるカリウム40はこのカリウムチャンネルを通して全身を容易に移動する。それ故、カリウム40による被曝は全身にほぼ一様に起こる。しかし、人工の放射性物質は臓器に取り込まれ、蓄積し、偏在するのである6)。特に福島原発事故では放射性物質が微粒子となって飛散し、微粒子の半分は不溶性で体内に残るのである。清水氏の記述と異なり、継続的に集中的な細胞の被曝となるのである。チェルノブイリ膀胱がんと呼ばれるがんは1リットルの尿当たり数ベクレルのセシウム137で発生し、50ベクレル尿中に存在するカリウム40には依存しない7)8)。臓器への取り込まれ方が異なれば被害が異なるのは当然である。政府や清水氏、安斎氏達が繰り返し、「人工の放射性物質と天然のカリウム40は同じ」という間違った宣伝をするのはなぜだろうか。
 清水氏は同じページで「一般にリスクについてはその『有無』よりも『大小』の方に大きな意味があります」といって量が少なければよいという。しかし、放射性微粒子はホット・パーティクルとして肺やその他の内臓に取り込まれる危険性が指摘され怖れられてきたものである。日本の原子力委員会(当時)も1962年にその危険性を警告している8)。アルファ(α)線やベータ(β)線は飛程距離が短く、狭い領域を集中的に破壊するのでガンマ(γ)線に比べ危険であるが、その上微粒子となればいっそう集中的な被曝となる。プルトニウムはα線を放出し危険である。セシウム137もβ線とγ線を放出し、局所的・集中的・継続的な被曝を与えるのである。

  福島原発事故における重要な放出形態としての放射性微粒子(特に不溶性微粒子)

 本書の著者たちは、内部被曝をカリウム40による被曝に還元し、放射性微粒子とくに不溶性の微粒子のもつ特別な危険性について一貫して避けている。福島事故で放出された放射性微粒子の特殊性とその特別の危険性についてここで触れておこう。
 まず、福島原発事故が放出した放射性微粒子には、いろいろな種類があるという点が重要である。今まで確認されているだけでも、以下の種類がある。
 1)粒径2μm程度の放射性セシウム含有球形ガラス状合金、あるいは「セシウムボール」(この名前はセシウムだけが含まれるのではないので不正確だが)。気象研の足立光司氏が発見したので足立粒子とも呼ばれる。またこの程度の粒径だと沈降しにくく、浮遊性が高く、吸入した場合に、肺の奥深く肺胞まで達して沈着する)。

図1

出典 Kouji Adachi, et al; Emission of spherical cesium-bearing
particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident
http://www.nature.com/articles/srep02554

 2)放射性セシウムなどが大気中エアロゾルに付着した粒子(これは可溶性で水に溶ける)。
 3)ナノサイズの微粒子(これも足立氏によって存在が指摘されており、数的に最も多く、危険性も高いと思われるが、未解明の部分が多く、マスコミでもあまり強調されていない)。

図2



図3


 4)土壌沈着後に再浮遊する5μm以上の粒子(土埃の粒子に付着したものと考えられている)。
 5)最近多く発見されている不定形の大型の粒子(100μmサイズで、おそらくこれは鼻血の重要な原因物質であると思われる)。

図4

TBSニュース「"目に見える"放射性物質の粒、福島の川で確認」2018年3月7日
針先程度の大きさで目に見えるという。100リットルの川の水に1粒程度見つかる
とTBSニュースは報じている。
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3309836.html


図5

小野貴大ほか『分析化学』2017年第4号論文より
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/66/4/66_251/_pdf


 6)いわゆる「黒い物質」(生物[藻類など]由来のものとバルク沈着[大気中で塊を形成して沈着]との両方があると考えられている)。

図6


 7)胞子・花粉など生物濃縮された再飛散微粒子(表面に脂肪膜があるので付着しやすい)。
などである。
 これらのうち1)3)5)などがガラス状の不溶性微粒子で、危険度が特に高いと考えられる。NHKなどは、これを福島原発事故に固有な現象としている(「原発事故から6年 未知の放射性粒子に迫る」2017年6月6日 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3986/)。チェルノブイリ事故などについてこの見解を検証する必要があるが、もしその通りだとすると、大量に放出された不溶性放射性微粒子は、福島事故放出放射能の「特別な」危険性を体現していることになる。
 ガラス状というのは、溶融核燃料が、格納容器底部のセメントと反応したか、断熱材に使われていたガラス繊維を溶かし込んで、ケイ素(シリコン)を多く含むまま(恐らくは沸点を超える)高熱に熱せられ、爆発によって大気中に放出されたことを示唆する。
 福島原発事故放出微粒子のもう一つの重要な含有元素は「鉄」である。これは、核燃料と共に溶融した原子炉の鉄成分が多く含まれていることを示している。生体は、常に鉄を取り込もうとする傾向があり、微粒子に鉄分があると、身体の器官(肺胞、呼吸器、消化管、粘膜、角膜、皮膚など)に付着しやすく、またいったん付着すると取れにくくなる。また、鉄と同じように、6)や7)のような生物由来の放射性微粒子は、表面に細胞の脂肪膜が残っているので、これもまた、付着しやすく、取れにくくなる。
 福島原発事故では、セシウム137放出量の大部分およそ8〜9割がガラス状微粒子形態であり、同沈着量のおよそ半分が水だけでなく強酸や有機溶媒にも不溶性の微粒子であったと考えられている。(「8〜9割」というのは九州大学の宇都宮聡准教授の研究についての朝日新聞の2016年6月27日の報道。原サイトはすでに削除されているようだが、以下のサイトで読むことができる。
https://www.eurekalert.org/pub_releases_ml/2016-06/gc-5062616.php
http://d.hatena.ne.jp/scanner/20160627/1467027535
 「およそ半分」というのは 筑波大学の佐藤志彦特別研究員[発表当時のポスト]の日本地球
惑星科学連合2016大会での報告。サイトは以下にある。
https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2016/subject/MAG24-P01/detail
 欧州放射線防護委員会(ECRR)によれば、不溶性放射性微粒子の生物学的な危険度(生物物理学的損害加重係数)はカリウム40の20〜1000倍に上るとされる。さらにECRRは、セシウム137のように二段階で原子壊変する核種の危険度を20〜50倍と規定している(2010年勧告P95)。つまり、不溶性微粒子形態で体内に存在するセシウム137は、カリウム40に比較して、最低でも400倍危険であり、最大の場合5万倍も危険性が高い可能性があるという結論が出てくる。

表3

出典:ECRR2010勧告日本語版95ページ

 カリウム40は、平均して体内に4000Bq、年間被曝量で0.17mSv/yといわれるが、これが不溶性のセシウム含有微粒子であった場合には、体内にわずか0.08〜10Bq程度あっただけで、このカリウム40による4000Bq、0.17mSv/yの被曝量に相当することになる。
 これで、不溶性セシウム含有微粒子がいかに危険性が高いかご理解いただけると思う。

P18  たしかに事故の加害者責任を追及し、医療費の負担などを政府や地方自治体に求めるのは患者の立場に立った行動です。しかし、そのような主張が患者の親御さんたちを心理的にかえって追い詰め、苦しめることになるということに気付いている人がどれだけいるか大変疑問です。

 清水氏は「患者の親御さん」を「追い詰める」から、加害責任を追及するなといっているのか。しかし、加害責任のある政府が医療費を負担するのは当然であり、チェルノブイリでも認められている。一般の交通事故でも加害者が医療費を負担するのは当然である。政府負担で、経済的な心配なしに十分な治療ができれば、子供の病気を心配する親にとっても望ましいことではないのか。清水氏は、親御さんに、医療費の公的負担が当然補償されるべき社会的な権利であること、これは1人その子供だけのことではなく、現在及び将来の人々が幸せに生きるための社会的な権利の確立のための正義の行動であることを話すべきである。

 (2)沈殿した状態で消えない放射能不安  P19  
P25 福島原発事故に関連して反原発リベラル陣営が一部で激しい反感を買っている最大の理由は「脱原発のために福島の被害は大きくなければならない」と彼らが考えているように見えることです。被ばくの影響を楽観視する国連の報告書などをことさら敵視する人々の言動は、福島県民の目には「我々が不幸になることを望んでいる」かのように映るのです。

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書に関しては後にも議論するが、ここでも清水氏の誤りを正すため説明する。永年、世界保健機関WHOで活動してきた フィンランド大学のキース・ベーヴァーストック(Keith Baverstock)氏は「福島原発事故に関する『UNSCEAR2013年報告書』に対する批判的検証」(『科学』岩波書店2014年11月号)において「報告書は科学的に公平なものとは到底言えず、さらには真の意味で科学的でさえない」と結論している。その一端は「UNSCEARに専門家を派遣しているのは、ほとんどが原子力を利用している国である。いわば、密猟者と猟場番人が同一人物という形なのである」ということにあるという。清水氏は、反原発の人たちが、政府やUNSCEARが被曝を過小評価していることを批判していることを異常行動のように言うが、良識ある科学者やジャーナリストが同じ批判をUNSCEARや日本政府に対して展開しているのである。同様の批判は環境ジャーナリストの川崎陽子氏によってもなされている。「放射線被ばくの知見を生かすために国際機関依存症からの脱却を――小児甲状腺がん多発の例から考える」、川崎陽子(『科学』岩波書店2018年2月号)を参照されたい。

P26 現実的に見て、福島原発事故の被害の最も大きな部分は被曝による健康影響以外のところで生じていると考えられる。

 震災関連死者の中に健康被害を受けた人はいなかっただろうか。どうして健康被害以外と分かるのだろうか。日本の人口統計において、福島原発事故後75歳以上の老人の死亡が増加したが、放射線被曝が体力の低下した老人の死を早めたと考えられる。

P31 「放射能を拡散させるな」という主張は、裏を返せば「放射能は(福島に)封じ込めろ」という主張です。「東京電力の敷地に」といっても福島県内であることに違いはありませんから同じことです。封じ込められる側にいる側にいる者の立場で見ればこれほどひどい地域差別はない。

 「放射能を拡散させるな」は放射能に限らず、危険物を閉じ込めて隔離することが公害問題の普遍的な原則なのである7)。例えば薄めて川や海に流すことが禁止されるのもこの原則に基づいている。福島に限った差別ではない。人口の多いところに拡散すればより多くの人が被曝するからである。それ故、高レベル廃棄物の処分の議論でもわかるようにできるだけ人から遠ざける努力がされているのである。一方、福島に限らず、チェルノブイリのように汚染した地域からの避難も住民の健康のために必要である。移住できるよう政府と東電の責任で経済的保障をすべきなのである。放射性廃棄物の処理はその方法が見つかるまで発生者の責任で管理するしかない。これも公害問題の原則である。これらの原則は公平さを社会的に維持するために長い歴史の中で合意されてきたものである。清水氏は全国に拡散し、平等に被曝しろという意見なのだろうか。私は汚染物の隔離と避難で、人間と放射性廃棄物を切り離すことによって、誰も被曝しないようにするのが正しい社会的処置だと考える。

P32 現場の汚染水のトリチウムを海洋放出で希釈処理するのは十分に安全なのか。これらを冷静に測定し、調査し、検証するしか手はありません。政府・行政がそういう方法で住民や事業者を説得しようとするのを、「放射能を拡散させるな」という大雑把なスローガンで拒絶するのは、問題をいたずらにこじらせ人々の対立をあおるばかりだと思います。

 清水氏はトリチウムの危険性について科学的な知識がないか、あるとすれば意図的に嘘を言っているかである。トリチウムは化学的には水素と区別ができず、体内に取り込まれ、遺伝子を含め分子と結合する。特に有機物として体内に取り込まれると排出が困難で、危険である。また、トリチウムは、DNAの内部にまで入り込んで、内部から遺伝情報を破壊・攪乱するという特別に危険な性質を持つ数少ない核種の一つである。トリチウムのこのような特別の危険性はすでに1960年代から知られていた。ECRRはトリチウムの危険度の加重係数を外部被曝およびカリウム40の10倍としている。



 東電による実測では、タンク貯蔵水のトリチウム濃度は、100〜500万Bq/リットルとされている(東電「福島第一原子力発電所のトリチウムについて」2013年2月28日)。現在溜まっている汚染水量は100万トンと推計されているので、海洋放出されるトリチウム量はおよそ1〜5PBq(ペタBqすなわち10の15乗Bq)ということになる。
 日本経済新聞によれば、事故前5年間の日本の全原発が出した平均の年間トリチウム水放出量は0.38PBq(380兆Bq)という(「汚染処理水 迫る決断の時」2018年2月23日付)。つまり、日本の全原発の約3年分〜13年分を短期間にまとめて集中的に海洋廃棄してしまおうとしているわけである。
 放出されたトリチウム水は、海水で薄めたとしても、海水よりも比重が軽いため、海水面に広く拡散し、波により海岸に打ちつけられ、飛沫となって海岸地帯を広範囲に汚染するであろう。蒸発したり、低気圧や竜巻によって吸い上げられれば、雨となって、日本と太平洋岸各国に広範囲に降り注ぐであろう。単に日本の近海だけでなく、アメリカ・カナダを含む太平洋の全域が汚染される危険がある。トリチウムは、光合成を行うプランクトンやあらゆる植物によって有機結合型トリチウムとして固定される。いったんトリチウムが生物循環の中に定着すれば、食物連鎖を通じて濃縮され、魚や動物、さらにその頂点にある人間に内部被曝をもたらす。これらのことは、誰の目にも明らかなことである。
 これらにより、「風評被害」どころか「現実の健康被害」が予想される。その被害の規模も極めて大きく深刻で集中的なものになるであろう。
 絶対に希釈廃棄してはならない。すでに玄海原発周辺で通常運転により放出されたトリチウムによる白血病が発生している可能性が指摘されている(下図)。

図7



表5


 その他、核燃料再処理工場でもトリチウムの危険性が指摘されている。ECRRによれば、原子力発電所の周辺で被曝リスクが、ICRPモデルの200〜1000倍も高くなっていることが確認されている(表6)。これもトリチウムの影響と考えられている。

表6


 清水氏は「被ばく被害」よりも「人々の対立をあおらない」ことの方が大切なのだろうか。更田原子力規制委員長は「海洋放出」に積極的な発言を続けており、もしもその公然たる動きに「対立」しなければ、海洋放出は実施されてしまうだろう。この点でも、清水氏は事実上は「海洋放出」を「する」方の味方といわれても仕方がない。

「『である』論を侵襲する『べき』観―放射線被曝をめぐる混乱の源泉」―一之瀬正樹
P38 福島での放射性物質拡散については、不幸中の幸いというべきか、今では健康に影響するほどの量ではなかったことが事実として、つまり「である」として決着しています。多くの方々の現地での真摯な調査のおかげです。福島に住み続けることで受けるであろう被曝線量は、外部被曝・内部被曝両方において、健康影響が出る量ではありません。…他地域の産物よりも安全なくらいです。

 一之瀬氏は全て安全と保証するがその根拠は「現地の真摯な調査」というだけでその内容がない。先に述べたように周産期死亡率は統計的に有意に増加し、被害の存在を証明している。放射性物質の放出は明らかに健康に影響する量であったのである。このように同氏の記述「健康影響が出る量ではありません」は全く根拠がない。子どもの甲状腺がんも過剰診断説をとっているが、指摘している韓国は診断の基準もあいまいで過剰診断である可能性も否定できないにしても、福島県では厳密に診断されたようであり、過剰診断にはあたらない。手術の責任者の鈴木真一教授は「過剰診断」説に同意していないし、公表された基準は「甲状腺腫瘍診察ガイドライン」に基づく妥当なものである。福島県の場合、罹患率と汚染度との関連から見ても明らかに被曝による発症である。

「しあわせになるための『福島差別』論」批判 2/2 山田耕作、渡辺悦司

2018年03月


「しあわせになるための『福島差別』論」批判

2/2

2018年3月21日 山田耕作、渡辺悦司



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「しあわせになるための『福島差別』論」批判(pdf,56ページ,5652KB)


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本論考は2記事に分割して掲載
「しあわせになるための『福島差別』論」批判 1/2 
「しあわせになるための『福島差別』論」批判 2/2
 本記事
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  6.本書第4章 「被曝による健康被害はあるのかないのか」の検討

 清水修二、児玉一八 P149
 P152 県民健康調査では、原発事故から4か月間の個人被曝線量を推定する「基本調査」が行われています。その結果を見ると99.8%の人が5mSv 未満です。被害の大きかった相双地域で平均値が0.8mSv,最大値で25mSvです。そこで、県立医科大学がまとめ検討委員会に提出される報告書においては「これまでの疫学調査により、100mSv 以下での明らかな健康への影響は確認されていないことから、4か月間の外部被曝線量値であるが、「放射線による健康影響があるとは考えにくいと評価される」と記述されます。

 ここで「100mSv 以下での健康影響が確認されていない」は明らかに誤りである。例えば
 ①最近、J・H・Lubinほかの論文で子どもの甲状腺がんに関する解析で閾値がほぼゼロであることが示された25)
 「結論:今回の解析により、小児における低線量放射線被ばくと甲状腺がんリスクについては、閾値のない線形関係であることが最も妥当な推定であり、『可能な限り低い線量の被ばく』を追求する必要がある事が再確認された」。
 「閾値のない線量関係」が「最も妥当な推計」であることが「再確認された」ことはすなわち100mSv以下でも健康影響が「確認できる」ことを意味する。
 ②Tronko MD氏らの論文では、ウクライナの小児甲状腺がん患者(手術時14歳以下)345例の甲状腺被ばく線量の分布をみると、100mGy以下が51.3%と半分以上を占めており、低線量被ばくでがんが発生していることがわかる26)
Tronko MD, et al. Cancer, 1999; 86: 149-156.
 これも同じように、100mSv以下についても影響が「確認できる」ことを意味する。
 つまり、上記①、②の記述でわかるように100mSv 以下で健康への影響は確認されているのである。清水氏はこの事実を知らないはずがない。にも拘らず繰り返すのはなぜだろう。
 被曝線量の評価に関しても多くの疑問や批判が提出されている27)。例えば次の論文がある。
「放射線の人体影響―低線量被ばくは大丈夫か」本行忠志、生産と技術、第66巻 第4号(2014) 68.

P158 (遺伝的影響について)疫学調査の結果、統計的に影響が確認されなかったというのが広島・長崎の被曝者調査の結論になっています。

 この点でインゲ・シュミッツ・フォイエウハーケ氏らの論文が注目される21)。彼らは低線量放射線被曝の遺伝的影響の文献を調べた。広島・長崎の原爆被爆者を調べたABCCの遺伝的影響の調査は信頼性がないと結論している。その理由は、「線量応答が線形である」はずであるという仮定の下に、線形応答に合致しないという理由で、統計的に有意でないと断定する間違いや、内部被曝の取り扱いの誤りなど4点を指摘している。そしてチェルノブイリの被曝データから新しい先天性奇形に対する相対過剰リスクERRはギリシャなど積算1mSvの低被曝地においては1mSv当たり0.5で、10mSvの高い被曝地では 1mSv当たりERRが0.1に下がるという結果である。おおまかには全ての先天異常を含めて積算線量10mSvにつき相対過剰リスクが1という結論である。積算10mSvで先天異常が2倍になるというのは大変なことである。

P158 これを判断する基準は「どちらが人々のしあわせにつながるか」ということであるべきだと私は思います「ここまでは科学の問題、ここからは社会的合意の問題」という一線がひかれなければならない局面があると思うわけです。

 清水氏は何を言いたいのか。科学の問題よりも幸せになれるなら、被曝しても幸せになれるなら、社会的合意があるなら良いではないかというのである。これは集団自殺への誘導のような言葉である。遺伝的影響や被曝の影響を考慮するとき、科学に優先させて、どちらが幸せかを基準として判断するというのである。人間はいつも理性に基づいて、科学的に判断すべきである。科学に基づいて理性的に判断して、危険なものは避け、子どもたちの未来を守らなければならない。それが同時に幸せにつながるのである。清水氏は理性を放棄し、科学を捨て、幸せという感性を優先させるのである。人間の健康と命は無条件で尊重されるべき人権であり、科学を無視することは人権尊重の精神に真っ向対立するものである。

 「甲状腺検査の概要と論点」 P158
 P160 いずれにせよ先行検査ではがんでなかったのに2年後にはがんと診断された子供が結構いることが分ったといえます。甲状腺がんは進行が非常にゆっくりであると言われながら意外に成長が早いのではないか、やはり放射線被ばくが影響しているのではないかとの疑念が生まれる根拠の一つがこれです。

 2年後の本格検査でがん及びその疑いの子どもの大部分は先行検査で異常なしであった(51名中47人が先行検査でA1、A2判定の異常なしであった)。さらに先行検査より、2年後の本格検査の方が、発症率(罹患率)が發なった。これは、最短潜伏期間は2年より短いこと、そしてスクリーニング効果を否定するものである。

 P161 環境省が長崎市と甲府市と弘前市で約4500人の子供の検査をした結果、福島とほぼ同じ割合の数字が出たと報告されています。

 これは3県で4365人の子どもを調査して1人甲状腺がんが発見されたもので統計精度が低い。その一人についても詳細が明らかにされていない。それをあたかも精度のよいデータのように引用している。一方、チェルノブイリ事故16年後の2002年に、ベラルーシのゴメリにおいて、14歳以下の約2.5万人を調査しても甲状腺がんはゼロであった。他の地域を合わせ約7万人の調査で甲状腺がんは1人であった。このことは、事故後、ヨウ素131を吸引しなかった世代には甲状腺がんは極めてまれでスクリーニング効果は小さいことを示している。福島県県民健康検討委員会はやっと本格検査の地域差を認め報告した28)

 P161 甲状腺がんの罹患統計などから推計される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている。…これまでに発見された甲状腺がんについては、被曝線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくい。

 当時5歳以下の発見がないことが放射線被ばくを原因とすることを否定する1つの根拠にされ、清水氏もそれに賛成したはずである。ところが「本格検査で当時5歳の患者1人(さらに4歳1人)見つかったので根拠が崩れたと主張する人がいます。しかし、高年齢ほど患者が多くなるのは自然だと考えれば理の当然で、そうならないのがむしろおかしいのです」と清水氏は言う。現在では4歳、5歳で患者がでたから出て当然のように言うが5歳以下がいないことをチェルノブイリと違う理由としていたはずである。清水氏は自分たちの判断間違いをごまかしているのである。被曝量が小さいという根拠もないし、地域差も最近では福島県立医大でも認めている。それ故、放射線の影響ではないという根拠は全て否定されているのである。

 (2)「甲状腺がんについて知っておきたいこと」  P162 児玉一八
 (3)「被曝の影響は出ているのか」       P180
 P180 福島第一原発事故によるヨウ素131の放出量は、チェルノブイリ原発事故1800ペタベクレル(PBq)のおよそ10分の気任△辰燭班床舛気譴討い泙后

 ヨウ素131の放出量に関しては日本政府が160PBq、東電が500PBq大気中に放出されたとしている。過小評価でも東電の値の方が現実に近いと思われる。児玉氏はなぜか日本政府の値を採用したと思われる。
 放出量に関しては国際的に信頼性の高いノルウエー気象研究所のストール氏らは福島原発事故によるセシウム137の大気中放出量は20.1〜53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。一方、日本政府のセシウム137放出量は15PBqと小さい。ヨウ素131の放出量はセシウム137の50倍(東京電力の事故原発での実測値)を採用すると、福島原発事故のヨウ素131放出量は日本政府の値で750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これは児玉一八氏の言うチェルノブイリ原発事故のヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。それ故、両事故でのヨウ素131放出量は少なくとも同程度であり、児玉氏の1/10は過小評価で誤りと考えられる。
 ただし、UNSCEARによるチェルノブイリ事故のヨウ素131放出量推計は、最大値を採っており、ストールの最大値を採用して計算すると、福島原発事故のヨウ素131放出量は、チェルノブイリのおよそ1.5倍となる(以下の表参照)。

表10

出典:山田耕作・渡辺悦司「福島原発事故によるヨウ素131放出量の推計について――チェルノブイリの1.5倍に上る可能性」
http://blog.acsir.org/?eid=35

 元WHO放射線・公衆衛生顧問、キース・ベーヴァーストック氏は、文部科学省が事故直後(2011年3月25日)にヨウ素131の飯館村地区の地表沈着量を発表したが、その数値が「チェルノブイリ後のベラルーシでの最大沈着量の3〜5倍に達しており、セシウム137の数値がチェルノブイリの0.5〜1倍になって」いたと報告している(『科学』岩波書店 2014年11月号)9)。この事実もまた、福島原発事故におけるヨウ素131放出量が、実際にはチェルノブイリよりも、さらに大きかったのではないかというわれわれの推測を裏付けるものである。

 P183 このように福島第一原発事故とチェルノブイリ原発事故では、甲状腺等価線量はおよそ2ケタの違いがあります。甲状腺がんについて考える上で、この違いを踏まえることが重要です。

 この点に関して大阪大学の本行忠志教授の意見は重要である。長いが引用する。「甲状腺等価線量の分布」(下の表)は福島の1080人の子供とチェルノブイリの2.5万人の子供を比較したものであるが、福島では99%以上が0〜30mSv に、チェルノブイリでは99%以上が100〜上限5000mSv以上の範囲に入るという。この表を見ると被曝量が桁違いに見える。しかし、これは以下のトリックによるものである。
 【甲状腺被ばく計測について】
 ウクライナでは約13万人の子供が甲状腺の直接測定を受けているのに対して、福島で実際に子供の甲状腺被ばく線量測定が行われたのは、1080人(飯館村、川俣町、いわき市、(放射線医学総合研究所))と8人(浪江町、津島地区、南相馬市、(弘前大学))の計1088人のみであった。しかも、放医研が行った1080人に対する検査は空間線量率測定用の簡易サーベイメータ(ウクライナや弘前大学の8人の測定には核種分析できるスペクトロメータが使用された)であり、バックグランドの方が甲状腺の実測値より高いところで計測している例もあるので正確とは程遠いと考えられる。
 【平均値のトリックについて】
 チェルノブイリの同程度の汚染地域であっても甲状腺の内部被ばくの蓄積線量は都会と郊外で大きく異なる。郊外では家庭菜園が一般的で原発事故後もその収穫物を食べ続けたため、桁違いの被ばくをしている例があり、この場合、平均値がかなり上がるため、福島の平均値と大差があるように見えるかもしれない。
 実際、Tronko MD氏らの論文では、ウクライナの小児甲状腺がん患者(手術時14歳以下)345例の甲状腺被ばく線量の分布をみると、100mGy以下が51.3%と半分以上を占めており、低線量被ばくでがんが発生していることがわかる。もう一つ、Cardis 氏らの論文では、ロシアの子供(がん患者+非がん者)の被ばく線量は92.3%が200mGy未満で、桁違いに多い被ばくでないことが示されている。従って、「福島での被ばく量はチェルノブイリに比べはるかに低いので甲状腺がんの発生は考えられない」という論法は成り立たないと考えられる。
 【放射線感受性の個人差について】
 ICRPでも確定的影響の閾値(しきい値)に関しては、すでに1%の人が発生している値を取っており、これは、放射線感受性が非常に高い人が少数存在することを示しており、わずかな放射線でも影響を受ける人がいることを本書「幸せになるための『福島差別』論」は完全に無視していることになる(1%は、30万人だと3,000人となる)。
 以上が本行教授による批判である。

表11



 「チェルノブイリ原発事故後、福島第一原発事故後の甲状腺がんの年齢分布」 P184
P184 チェルノブイリ原発事故後の年齢分布を見ると、事故時の年齢が低いほど甲状腺がんが多く見つかっており、年齢が上がるにしたがって低下していることが分かります。福島第一原発事故語の年齢分布はチェルノブイリと全く異なり、5歳以下では甲状腺がんは見つかっておらず、10歳前後から年齢の上昇とともに甲状腺がんが増えていきます。

 児玉氏の図4.12を見るとどちらも事故後3年間の集計のように見えるが、引用論文によるとチェルノブイリでは4年間は観測されず、事故後約20年間のデータである。ウクライナの事故後4年間の発症の年齢分布を見ると福島の3年間の年齢分布と極めてよく一致する8)。鈴木真一教授たちもstriking similarity (顕著な類似性)があると言っている。それなのに児玉氏はわざわざ一致しない観測年数が異なる論文を引用するのである。松崎道幸氏の説明によるとゼロ歳で被曝した子どもの甲状腺のがん発症のピークはおよそ7年後であり、チェルノブイリの様な年齢分布になるには10年以上の年数が必要なのである。下図参照(松崎道幸氏作成)。

図15



 「2つの正反対の論文」  P185
 P185 福島県立医大の大平らと岡山大の津田らはそれぞれ、こうした研究を行っていますが、結論は正反対のものになっています(Ohira.T.et al,Medicine (Batimore),Aug;95 (35):e-4472(2016);Tsuda,T..et al.Epidemiology,vol.27,No.3May(2016) ).大平らは外部被曝線量と甲状腺がん有病率の間に有意な関連はみられなかったとし、一方で津田らは福島県における甲状腺がん罹患率は全国の罹患率と比較すると超過であって、スクリーニング効果では説明できない。

 児玉氏は大平論文の方が正しく津田論文が正しくないという説明をしている。しかし、後述するようにこの評価は間違っていて津田論文が正しい。なぜなら、県立医大でも地域差が見出されたのである28)

 P188 外部被曝線量と甲状腺がん有病率の間には関連が見られなかった

大平論文を児玉氏は支持しているが、189ページの表4.8,4.9を見ると線量によって3地域に分割している。ところが線量が高い地域は調査人数が4192人しかおらず、甲状腺がんと診断された人は2人だけである。他の線量の低い2地域が約15万人ずつの調査であることを考えると偏った分類となっている。これでは地域差が出ないのもやむを得ない。
 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い、「3地域の罹患率の比較」を行った。「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。特に本格検査を見ると汚染の高い地域において罹患率も高くなっている29)



 これと同様であるが汚染度の代わりに原発からの距離と罹患率の関係が山本英彦医師らによって導かれた。原発に近い地点ほど罹患率が高いことが分かる。これも原発が原因であることを示すものである。

図16



図17


 以上の結果は津田氏の解析が正しく、大平論文が間違いであり、児玉氏は間違った解説をしていることになる。

 P191 津田らの「外的比較」は現実とかけ離れた仮定を前提にしている 

 平均有病期間のことを細かく問題にしているのであるが、津田氏は罹患率の数値自体に主たる関心はなく、有病期間を4年や8年に仮定していることを取り上げて児玉氏や菊池誠氏が騒いでいるのである。津田氏は有病期間の値を長く取っても罹患率が異常に高く多発であることは揺るぎのない結果であることを証明した。津田氏は多発であることの証明に主眼があるのである。それは緊急の被害者救済の対応を要請するものであるからである。有病期間を正しく考慮したものは宗川氏の解析があり、それを参照すればよいのである29)。地域差は福島県立医大の調査でも本格検査に対して見出されており、結果として津田氏の結果を支持している。

 P198 国連科学委員会、「津田らの調査は重大な異議であるとはみなしていない」 

 国連科学委員会は先述のように原子力の推進グループとしてその客観性・中立性が疑われている(早野氏批判の部分を参照)。児玉氏も自分で判断すべきである。異議とみなさないとは自分達の間違いに気付かないということであるから、UNSCEARの見識が疑われる。その間違った見解を重要なことのように引用するのは学者としての判断力が問われる。判断が間違うのは内容を理解せず、UNSCEARの権威にすがるからである。

 P199 「今後の甲状腺検査」
 中年になるまで新たな甲状腺がんの発生はないので、2巡目以降で見つかる甲状腺がんの症例数は激減し…

 このような激減はチェルノブイリでも福島でも起こっておらず、年齢とともに増加している。児玉氏は小児甲状腺がんを正しく理解していない。現実のがんを高野説は説明していない。
 高野説によれば、子どもの甲状腺がんは「根の浅いがん」であって、本来悪性化することはなく、放置しても何の問題もないというのであるが、チェルノブイリでは過小評価が疑われるUNSCEAR2008年報告においても6000人以上の発症のうち15例の死亡が確認されている(P64)。つまり、高野説のように、子どもの甲状腺がんの全てが「根の浅いがん」とは決して言えないのである。最初は「根の浅いがん」であっても「根の深いがん」に移行するか、あるいは子どもであっても最初から「根の深いがん」が発症することがありうると当然考えるべきである。このように高野説は、単なる「仮説」に過ぎず、現実の甲状腺がんの臨床記録によって明らかに論駁されているのである。
 「3.11甲状腺がん子ども基金」によると福島県内の甲状腺がん手術を受けた84人中8人ががんの再発や転移で1年から4年4か月の間に再手術を受けたという。114人(福島県内84人、県外30人)のうち、県外の子どもらに重症化の傾向があることを明らかにした。甲状腺の摘出手術後、再発の危険性が高いとして放射性ヨードを服用する「アイソトープ治療」を受けたのは福島県内2人(2%)に対し、県外11人(37%)だった。このことは福島県内のように健康調査がなされておれば重症化が避けられたかもしれないことを示している。
 2018年3月9日の週刊金曜日に明石昇二郎氏が甲状腺がんが「ほぼ倍増」として2011年以降大人を含めて増加していることを証明している。この場合、25歳以上は超音波の検査を受けずに発見されているからスクリーニング効果は寄与しない。

表15 甲状腺がん 福島県



 P201「福島で見つかっている甲状腺がんは、放射線よる「多発」でなくて、好感度の悉皆検査に伴う「多発見」であることが分かっています。

 児玉氏は根拠もなく放射線による多発でないといっている。それは津田論文をはじめ正しい論文を素直に理解していないことが原因である。放射線による「多発」でなければ、原発に近いほど罹患率が高いこと、放射性物質による汚染度が高いほど罹患率が高いことを説明できない。また、25歳以上の大人の増加は一律の超音波検査なしに発見されたものである。
 先述の週刊金曜日では胃がんの報告もある。以下に見るように統計的に有意である。さらに悪性リンパ腫、白血病の増加が報告されている。甲状腺がんだけの問題ではなく,放射線被曝全体の問題として真摯な検討が必要である。




 P201 「検診の縮小化手術例の大幅な絞り込みが必要だという高野の主張には傾聴すべきものがあります。」

 高野論文は現実の子どもの甲状腺がんの被ばく発症を説明せず、その主張に根拠はない。万一、たとえそうだとしてもきちんと子どもの病気の経緯を診察し、病変に応じて適切な治療を継続する必要がある。検診や手術を大幅に絞り込めという高野説は医者の責任を放棄するものである。ヤブロコフの報告によるとチェルノブイリでは一人の甲状腺がんが発見されると周辺に甲状腺疾患が千人の割合で見つかったという14)

 「甲状腺がんの遺伝子変異について」 児玉一八氏
 P202 チェルノブイリ事故後と福島で見つかった甲状腺がんの遺伝子変異を調べたところ、両者で全く違った傾向があることが分かりました。

 児玉氏は、チェルノブイリでの子供の甲状腺がんでは、RET/PTC遺伝子再編成が多く見つかり、福島ではBRAF点突然変異が多く見つかっているという光武氏らの研究を紹介する。ナンバーリングはわれわれによるものである。

 P206 ①チェルノブイリ事故後に見つかった子どもの甲状腺がんの遺伝子変異と、放射性ヨウ素による甲状腺被曝量の関係についての研究によると、RET/PTCなどの遺伝子再編成が見つかった群は被曝線量が高く、BRAFなどの点突然変異が見つかった群は被曝線量が低いという優位な違いが見つかりました。
 ②原爆被爆者の方々の甲状腺がんの遺伝子変異についての研究では、…BRAF点変異は被曝量が少ないほど多く、逆にRET/PTC再編成は被曝線量が多いほど多いという関係が認められました。
 ③これら2つの研究は、甲状腺がんでの点突然変異が負の線量反応関係を示すという共通した結果をしめしており(そのまま以下に続く)、
 ④チェルノブイリ原発事故に比べて福島第一原発事故後の子どもたちの被曝量が低かったこと、福島での遺伝子変異はBRAF点突然変異が多く、RET/PTC再編成は少なかったことと整合しています。

 われわれは、この研究を検証する手段を持たないので、いま仮に、児玉氏の言うとおり①〜④の通りだと仮定しよう。もし、そうだとすると、児玉氏は①チェルノブイリの子どもたち、②原爆被爆者、④福島の子どもたちに現れた甲状腺がんの「線量反応関係」を問題にしているのであるから、これらが全て、福島の子どもたちの甲状腺がんを含めて、放射線影響によるものであることを前提に議論していることになる。そうでなければ「線量反応関係」などは最初から問題にならないからである。
 つまり、これらの指摘のいずれからも、福島で多発している子どもの甲状腺がんが放射線に起因あるいは関連するものでは「ない」という結論は出てこない。むしろ反対である。チェルノブイリ事故後および原爆被爆者の場合と同様、放射線被曝と「線量反応関係」にある、すなわち因果関係があるという結論が出てくる。この児玉氏の議論では、被曝量の大きさは、甲状腺がんの発症と被曝との関連を否定しないばかりか、議論の前提としているからである。
 ところが、児玉氏は、次のように結論する。

 P206 これらのことから(光武氏を引用して)福島で見つかっている甲状腺がんは、放射線被曝によるものではないと考えられる。

 ここでは、今までの議論の展開は、甲状腺がんの遺伝子変異の特質が放射線影響でありその線量に依存すると言うことを前提としていた。ところが、結論の段階では、この前提に対する公然たる否定が、議論の外から突然導入される。この結論のためには、今までの議論は全て無駄であり、不必要である。
 「100mSv以下の被曝では健康影響がない」という議論をしながら、年間20mSv/yの地域に5年以上居住しても「何の問題もない」という専門家たちと同じように、児玉氏らも、「科学者としての良心」はもちろん、信義に基づいて誠実に議論するという公人としての最低限の原則も捨て去っているように思われてならない。
 付け加えると、子どもの甲状腺がんについては、放射線影響であることは、疫学調査によってもはや議論の余地はないのである。
 さらに、現在の医療の現場では、各疾患について各学会と厚生省によって、いわゆる『診療ガイドライン』というものが確立されている。基本的には、現場の医師は、それにしたがって、診察も治療も行うことになっている。甲状腺がんについても『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』があり、公表されている。そこでは(2010年版)、19歳以下で放射線被爆歴があった場合、放射線被曝が「危険因子」あるいは「悪性腫瘍の可能性を高める病歴」の第一位「推奨グレードA」となっている(10、30ページ)。つまり、被曝影響である可能性が高いことは、議論以前に、当然の前提であるのである。
 また、ICRPのリスクモデルから計算しても、現在の多発は、明らかに、ICRPリスクモデルから想定される
  注:渡辺悦司「福島原発事故・健康被害ゼロ論の欺瞞――子供の甲状腺がん発生は本当に放射線影響とは「考えにくい」のか?
    ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測してみる
    (2016年)http://blog.torikaesu.net/?eid=55

 したがって、政府・福島県は、被曝影響だと「分かっている」ことを、権力を盾にいろいろ理由を付けて認めないだけなのである。森友文書などの場合と同じである。
 権力側の意図にしたがって、「忖度」するものか「指示」されたものかはわからないが、権力主義者・出世主義の専門家が、人々を混乱させる目的で、いろいろな「新」研究を発表している。光武氏については知らないが、少なくとも、児玉氏は、その一つの役割を担いたいと思っているようである。だがそれは、『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』違反であり、ICRP違反である。それだけでなく、氏の議論そのものが氏の議論の誠実さそのものを根底から疑わしくさせるものなのである。

P207 放射線感受性のことを…少し述べます。
P208 DNA修復系ですが、(DNAの)傷を治す能力がわずかに低下している人がいることが分かってきています。つまり、放射線感受性にわずかながら個人差があるということです。放射線感受性の個人差の遺伝的要因として、DNA修復系の遺伝子の変異や一塩基多型が有力な候補と考えられています。しかし、放射線感受性の個人差については不明な点が多いのが現状です。

 これもまた、本書の著者たちに特徴的な「否定」の仕方である。彼らは、自分たちが「放射線の専門家」だとそこここで自慢し自賛しているが、実際には放射線に関する教科書的な知識にも欠けているか、それとも知って故意に隠蔽あるいはねつ造しようとしているか、要するに虚偽を人々に広めようとしていることを、到るところで自己暴露している。ここもその一例である。
 児玉氏は、「放射線感受性の個人差」の存在を認めている。ところが、それは「わずか」であるという評価が、何の根拠も典拠も引用もなく現れ、あたかも当然であるかに主張されている。E・J・ホールらによる国際的によく使われている教科書『放射線医のための放射線生物学』(英文)を見てみよう。同書は、このような遺伝子変異による放射線感受性の個人差を量的に推計しているが、それは2〜3倍である(47〜48ページ)。これを「わずか」とは決して言えないであろう。もしこれを「わずか」というなら、同じく2〜3倍とされる幼児や子どもの感受性も「わずか」として、無視ないし軽視してもよいと言うことになるであろう。
 ホールらの教科書は、この根拠として、実験によって得られた、放射線照射に対するAT遺伝子に異常のある細胞と異常のない各臓器の細胞の生存率をグラフとして上げているので、以下に引用しておく(P317)。

図18




   7. 本書「まとめに代えて」の検討

 P241 清水修二氏
 浜通りの6号国道の清掃を中高生と一緒に行ったボランティア活動に対し、『殺人行為』などと罵る声が多数浴びせられる事件がありました。現在では避難指示の解除が行われて6号線沿いのかなりの地域で住民の居住が許される状況になっています。清掃どころか子どもが居住する段階になっているのです。これをしも『大量殺人』等と罵るのでしょうか。

 矢ヶ崎克馬氏は、福島原発事故による現在の被曝状況を「知られざる核戦争」と規定している。全くその通りであると思う。現実の国際政治において、核事故とくに原発重大事故は、実際にそのように捉えられて、世界の帝国主義的支配・覇権をめぐる、世界の勢力圏分割をめぐる帝国主義的抗争の手段の一つとなってきた。
 IAEAやUNSCEARなどによる、原発事故の「健康影響は予想されない」とする国際的な動きには、単に原発推進の目的のために事故被害を「ない」ことにする「以上」の深刻な意味があると考えるべきである。
 チェルノブイリ事故の翌年に出されたUNSCEAR1988年報告書は、同事故が60万人・Svの集団実効線量をもたらしたと認めた。つまり、UNSCEARのリスクモデルによればおよそ6万人の被害が想定されるはずだったが、実際の叙述は直接の死亡者以外の健康影響は全く認めないという極めて不自然なものだった。
 チェルノブイリ事故の際のIAEAやUNSCEARなど国際機関のこの極めて不可解な動きの背景には、当時社会主義体制下にあったソ連さらには東欧諸国を、事故の影響を利用して可能なかぎり弱体化させ、可能なら崩壊を促すという目的が隠れていたと考えるべきである。つまり、「被害がない」ということを勧告して、ソ連や各国政府が避難や放射線防護などの対策を「とらない」ことを促し、それによって当該国政府に自国民の追加的な被曝を強制するように導くことができれば、結果的に可能なかぎり多くの住民の健康状態を悪化させ、可能なかぎり多くの病気を作り出し、可能なかぎり多くの死者を生みだし、将来の育ちゆく未来の世代の活力や健康を可能なかぎり削ぎ、それらの国々の国力を根底から弱体化することができると企図したとしか考えられない。帝国主義は、チェルノブイリ事故から学び、ソ連・東欧社会主義の崩壊という成功体験から学んだということを忘れてはならない。
 つまり、現実に戦争を行って数万数十万数百万もの損害を特定の国に与えることは、大きな困難とそれに対応する大きなリスクを伴なうが、原発事故を利用すれば、その程度の損害を与えることは困難ではない。事実、チェルノブイリ事故後、社会主義崩壊による経済的社会的混乱の影響も加わって、ロシア・東欧諸国の人口は2200万人も減少した。
 二度の帝国主義世界戦争の大惨事を引き起こし、朝鮮戦争からベトナム戦争、イラク侵攻から長く続く中東での戦争等などを強行して、世界中の幾億の人民を途方もない規模の大量殺戮と惨劇に陥れてきた帝国主義の本質は現在も何ら変わっていない。
 今回の福島原発事故に対する国際諸機関の対応についても同じことが言える。アメリカを先頭としロシア・中国も含む国際核帝国主義は、まず特定の国家を核開発・原発開発の道に進ませ、法外で維持不可能な経済的財政的負担を負わせるだけでなく、ある意味で原発事故を誘発させようとし、さらに事故が起こった場合には、その事故対応を可能なかぎり遅らせるか行わせないようにし、可能なかぎり多くの該当国民を被曝させ、被曝被害を大きくし、その国の人口と国力を長い将来にわたり可能なかぎり弱体化する――このように原発事故と放出放射能への住民被曝は、国際核帝国主義が、帝国主義間の抗争あるいは帝国主義と新興諸国との抗争において使用する「核戦争の一種の代替物」になっていると考えるべきである。つまり、政府発表でも広島原爆168発分、実際には数千発分の「死の灰」をバラ撒いた福島原発事故は、矢ヶ崎氏の指摘している、主に自国民に対する、結果的には世界の人々に対する、見えざる、隠された、知られざる一種の「核戦争」なのである。
 その一環として、IAEAやUNSCEARなど国際原子力機関が主導して、「被曝の健康影響はまったくない」というデマによるマインドコントロールを、各国民はもちろん各国の政治指導者にも広げることがある。それによって、各国の政治指導者が自国民を殲滅するという愚かな役割を自ら担ってくれるというのである。
 現在の、核災害を起こした日本に対するUNSCEARの動向も同じことである。日本政府・復興庁や日本学術会議が「科学的基準」として持ち上げ、本書もまた「福島県民の願い」を表現しているかに称揚するUNSCEAR報告の本質とは、それ自体帝国主義であるが衰退しつつある競争相手としての日本を、事故放射能への国民の被曝を利用して、さらに弱体化し、帝国主義としての基礎を可能なかぎり堀り崩し、自滅的な道に誘導すること、これである。それこそ、UNSCEARの対日勧告の主目的の一つである。国民を被曝させれば被曝させただけ被害が出る。これが放射線科学の原則である。事故直後に、安倍側近の財界人は、年間5000人の死者が被害想定されていることを示唆していたし、皇族筋に近い精神科医は、事故にかかわらず原発を強行推進する心理を「集団自殺願望」だと特徴づけていた。だがその後、なぜ、日本の支配層の誰も、特にそのような問題に敏感な日本の右翼とナショナリストも、誰の目にも十分に明かなこの事実に目を向けなくなったのだろうか。日本の反帝勢力もまた、なぜ、この帝国主義の残虐性と非人道性――現在のシリアや中東での帝国主義の住民に対する大量虐殺を見ればあまりにも明らかである――に対して批判的な眼を曇らせてしまったのであろうか。
 付け加えると、通常運転による放出放射能汚染を利用すれば、日本や韓国のような人口密度の高い国では、ECRRによって計算すると毎年の被曝により数万の損害を与えることができるが、この面は今は置いておこう。
 ベラルーシ・ウクライナ・ロシアでは、およそチェルノブイリ事故後5年で、事故処理作業員(リクビダートル)や被害住民の強力な大衆的な運動の圧力の下、支配層は、この国際核帝国主義による事故放出放射能を使った自国民の自滅誘導政策の危険性を認識した。事故による被害が全く「ない」とする路線と明確に一線を画するチェルノブイリ法の体系が制定されたのは、このためである。
 だが、日本の安倍政権は、愚かなのか意図的になのか分からないが、事故後7年を経てもなお、アメリカと国際核帝国主義に無批判に追随・従属して、自民族・自国民(ここでは支配・被支配を区別しない国境で区別された大きな社会集団という社会学的意味で使っている)に対して、自ら進んで自滅的な政策をとっている。自らの民族と国民をことさらに事故放出放射能に曝し、それによる「大量殺人」を実行している。
 政府のとっている帰還政策を見るだけでも、このことは明らかである。すでに表7で引用した政府・放医研の掲げている被曝リスク表を見れば、避難者10万人を20mSv/yの汚染地域に帰還させ5年間居住させれば、400人〜1,500人程度のがん死が、生涯期間では4,000人〜1万5,000人程度のがん死が生じる危険性があることは容易に理解できる。ECRRやゴフマン氏による過小評価分を補正すれば、実際にはこの10〜40倍程度になる可能性があるが、今ここで重要なのは、政府の基本的見解によっても「大量殺人」は、十分「予測可能」であり、言い換えれば「予定されている」事態であることである。
 つまり、安倍政権は、自国民だけでなく、自国の帝国主義の客観的利害をさえ踏みにじっているのである。安倍のような帝国主義者が、自国の帝国主義的利害を裏切っているという倒錯した現実こそ現在の異常事態の基礎である。原発や被曝に反対する人々に対する攻撃として使われることの多い右翼的用語でいえば、文字通り、安倍と自民党・公明党政権こそ自国民を滅ぼす「売国奴」「非国民」と呼ぶべきなのである。
 清水氏による、政府の進める帰還政策を「『大量殺人』と罵るのか」というまるで泣き言のような帰還政策の弁護論は、現実の帝国主義的国際・国内政治の冷酷非情で徹頭徹尾非人道的な現実に対するナイーブで子供じみた無知によるものなのかもしれないが、客観的には国際原子力帝国主義と安倍政権が行なっているそのような「大量殺人」こそ「しあわせになる」途であるとしてそれに意図的に協力する役割を果たす以外にない。


   8.おわりに

 以上の検討をまとめると次のようになる。本書の著者共通の間違いとして以下の5点が指摘できる。
 1.「福島原発事故被曝被害」を「福島県差別」としていること。原発事故被害はもっと広範で世界中、日本全国、関東・東北に及ぶ。
 2.「人的被ばく被害は全くない」という現実に反するデマ宣伝をしている。そのため被曝被害の領域を決めることができない。その結果、「福島県差別」の風評被害を煽っている。
 3.内部被曝をほとんど無視できるという誤った認識と誤った評価方法で被曝の科学的評価を不可能にしている。
 4.人工の放射性物質セシウム134、137やヨウ素131、ストロンチウムなどと天然の放射性物質カリウム40とを意図的に混同、同一視をして、放射性物質の体内蓄積効果の危険性を無視している。
 5.本書は、ガラスバッジによる個人線量の過小評価を演出し、それによって、住民に実質100mSv/年を超える 高い被曝を強要する危険極まりないものである。

 最後に現実の被害で苦しむ人たちの悲鳴や訴えをぜひ聞いていただきたい。以下の文献を紹介しておく。ここにも「国や県の不作為により子供の被ばくを回避してやれなかった親たちの後悔の念と、憤り、そして、子の将来を案ずる愛情が詰まっている」30)31)32)

  謝辞

 この批判文を検討するにあたり、多くの方に議論いただきました。大和田幸嗣、遠藤順子、児玉順一、矢ケ崎克馬,上野益徳、石津望の皆さんに感謝します。



  参考文献

1.池田香代子・開沼博・児玉一八・ 清水修二・野口邦和・松本春野・安斎育郎・一ノ瀬正樹・大森真・越智小枝・小波秀雄・早野龍五・番場さち子・前田正治『しあわせになるための「福島差別」論』(2018年1月、かもがわ出版)
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/sa/0939.html
2.児玉一八、清水修二、野口邦和、『放射線被曝の理科・社会』かもがわ出版、2014年
3.復興庁「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」
平成29年12月12日
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/fuhyou/20171212_01_kyoukasenryaku.pdf#search=%27%E5%BE%A9%E8%88%88%E5%BA%81+kyoukasenryaku%27
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5.田井中雅人 ,? エイミー・ツジモト;『漂流するアメリカ被ばく裁判』朝日新聞出版、2018年
6.市川定夫;『新・環境学 III』藤原書店、2008年、p172
7、大和田幸嗣、橋本眞佐男、山田耕作、渡辺悦司;『原発問題の争点』緑風出版、2012年
8.渡辺悦司、遠藤順子、山田耕作;『放射線被曝の争点』緑風出版、2016年
9.キース・ベーヴァーストック(Keith Baverstock);「福島原発事故に関する『UNSCEAR2013年報告書』に対する批判的検証」、岩波書店、『科学』Nov.2014.vol.8 4.No.11。
10.『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響−チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ』− ユーリ・I・バンダジェフスキー著 久保田護訳 合同出版2011年
11.国連科学委員会Report 2001
http://www.unscear.org/docs/publications/2001/UNSCEAR_2001_Report.pdf#search=%27UNSCARE+2001%27
12.リッピンコット『放射線医のための放射線生物学』
13.宮崎・早野論文については以下のサイトを参照のこと。
http://blog.torikaesu.net/?eid=65
記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関して
http://blog.torikaesu.net/?eid=63
14.『チェルノブイリ被害の全貌』ヤブロコフ他著、星川淳他訳、2,013年
15.K. Morimura et al. Possible distinct molecular carcinogenic pathways for bladder canser in Uklaine, before and after the Chernobyldisaster. Oncol.Pep.11.881-886(2004)
16.A. Romanenko et al. Urinary bladder carcinogenesis induced by chronic exposure to persistent low-dose radiation after Chernobyl accident.
Carcinogenesis 30,1821-1831(2009)
17.明石昇二郎;「福島県で急増する『死の病』の正体を追う」『宝島』2014年10月号
18.斉藤さちこ、山内知也;神戸大学海事科学研究科紀要第14号23−30,2017
19.Tsuda T. et al. ;Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima Japan 2011 to 2014,Epidemiology 2016 May, 27(3)316-22.
20.川崎陽子;『放射線被ばくの知見を生かすために国際機関依存症からの脱却を――小児甲状腺がん多発の例から考える』、岩波書店『科学』2018年 2月号。
21.Inge Schmitz-Feuerhake, Christopher Busby, Sebastian Pflugbeil,
Genetic radiation risks: a neglected topic in the low dose debate.
Environmental Health and Toxiology,vol.31,Article ID e2016001
http://dx.doi.org/10.5620/eht.e2016001
22.低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査
―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―
http://www.saflan.jp/wpcontent/uploads/47617c7eef782d8bf8b74f48f6c53acb.pdf
23.山田耕作;週刊金曜日6月30日号 記事より http://blog.torikaesu.net/?cid=8
24.山田耕作;宮崎・早野論文について http://blog.torikaesu.net/?eid=65
25..Lubin JH et al, Thyroid Cancer Following Childhood Low-Dose Radiation Exposure: A Pooled Analysis of Nine Cohorts. J Clin Endocrinol Metab. 2017 Jul 1;102(7):2575-2583.
https://academic.oup.com/jcem/article/102/7/2575/3063794
26.Tronko MD, et al. Cancer, 1999; 86: 149-156.
27.本行忠志;「放射線の人体影響―低線量被ばくは大丈夫か」、生産と技術、第66巻 第4号(2014) 68.
28.2017年11月30日「福島県民健康調査検討委員会資料」
29.宗川吉汪;『福島甲状腺がんの被ばく発症』文理閣 2017年
30.『私達の決断 あの日を境に…』原発賠償京都訴訟原告団編 耕文社 2017年9月
31.『3.11避難者の声』東日本大震災避難者の会 2017年3月 
32.『子ども脱被ばく裁判意見陳述集I』(子ども脱被ばく裁判の会編、ママレポ出版局、2017年)

復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判   山田耕作、渡辺悦司

2018年02月


復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判
――こんな安全宣伝を政府がやって生命の危険にさらしてよいのか

山田耕作、渡辺悦司 2018年2月12日




〖ここからダウンロードできます〗
復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判(pdf,44ページ,1466KB)


 はじめに

 復興庁「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」による「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」とそれに基づく「復興大臣からの指示事項」が、昨年末(2017年12月12日)に公表された。主な内容は、①福島原発事故の放射線量では外部被曝・内部被曝とも「健康に影響の及ぶ数値ではない」、②放射線被曝により「遺伝性影響が出ることはない」、③100〜200mSvの被曝は「野菜不足や高塩分食品摂取」程度のリスクにすぎない、④福島県内の放射線量(空間線量率)は「大幅に低下」して「全国の主要都市とほぼ同水準」であるので、福島への修学旅行・教育旅行を広く実施するよう文科省・教師・旅行業者に要請、⑤福島県産の食品は「安全性が確保」されており、学校給食で使うよう要請する方針を示唆、⑥空間線量に乗算している現行の家屋遮蔽係数0.6は「3倍過大」であり0.2に引き下げるべき、⑦「健康影響は未だ結論が出ていない」というような「曖昧な表現」は「いたずらに不安を煽る」ので「シンプルに発信する」(要するに影響は「ない」とだけたたき込む放射線教育を実施する)、等々である。
 われわれは、かねてより、福島原発事故をめぐって放射能による健康被害が「ある」か「ない」かが、政府・専門家との論争の基本的な対決点であるという点を強調してきた(『放射線被曝の争点』緑風出版[2016年])。また、時間の経過と共に放射線による広範な健康被害が表面化し、避難者や被害者の闘争が進むにつれて、ますますこの根本問題が前面に出てくるであろうと主張してきた。
 2013年9月7日の安倍首相の発言(「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くない」)から始まり、2014年12月22日の「中間取りまとめ」によって公式に政府方針として決定された福島原発事故による健康被害の全否定論あるいは被曝ゼロリスク論は、最近、一段の露骨化と暴論化を遂げている。
 昨年2017年9月1日に発表された日本学術会議の『子ども放射線被ばくの影響と今後の課題』報告書は、子どもの放射線感受性が2〜3倍高いことを認めた上で、それでもなお、子どもも含めて健康影響は一切「ない」と強弁し、さらには、年間20mSvの基準を、全国に拡大して子どもや妊婦を含めて適用しても何の問題もないという方向性を提起した。
 昨年12月12日、ここで検討する復興庁の「風評払拭」文書が出され、政府のやり方はさらに露骨になった。「確認されていない」「結論が出ていない」というような「曖昧な表現」はかえって「不安を煽る」、だからはっきりと「ない」と断言し、影響が「ある」という見解は全て「風評」であると決めつけるようにという方針が、政府文書および大臣指示として、すべての関係省庁に対して指示された。
 健康被害ゼロ論には、元々、2つの要素――①安倍首相のような確信犯的断定論と②「分からない」「確認できない」「証明できない」という不可知論――が混在していたが、今や②を排して①で徹底しようというわけである。②については、国連決議やEU条約など国際的に、「予防原則」によって「防護」の方向で対処するべきであると方向付けられているからである。
 しかも、政府は、その際、福島への修学旅行・教育旅行を全国的規模で組織することや、全国の学校給食に福島県産農林水産物・食品を広範囲に利用することなど、子どもを利用して、つまり子どもを被曝の犠牲にして、放射能「安全・安心」宣伝を行おうとしている。
 では、なぜ政府はこのような正気とも思われない主張をするのであろうか?それは単純である。政府が窮地に立たされているということである。
 まず、表向きには、東京オリンピックを前にして、日本政府には、国内的にも国際的にも、福島事故放射能の影響は何の問題も「ない」ように取り繕わなければならない事情がある。オリンピックまでに避難区域を全て解消して、復興を演出しなければならない。
 経済財政的には、健康被害が「ある」ということになると、政府と事故を起こした東電は、巨額の(100兆円ともいわれる)賠償を長期にわたって負担しなければならなくなる。
 それだけではない。仮に放射能による健康被害が「ある」ということになれば、被害の程度や範囲や規模が問題になり、チェルノブイリ事故や核実験の人的被害との比較において、それが極めて大きく数十から数百万人規模ということにならざるをえない(付論参照)。福島級事故の再発をいわば前提とした原発の大規模再稼働やましてや原発輸出などは、極めて困難か不可能に近くなるであろう。詰まるところ政府は、原発を止めないために、国民と子どもたちを被曝の犠牲に供さなければならなくなっているわけである。
 さらに、アメリカは朝鮮半島やその他の諸地域において核戦争を準備しているが、そのような計画への日本の協力にも障害となるであろう。日本の独自核武装の野望にも影響が出ることも避けられない。
 だが、最大の要因は、健康危機が現実に顕在化する中で、政府自体が陥っている深刻な動揺と考えるべきであろう。復興庁文書の一種の異常性が示すのは、政府・政府側専門家・原発推進勢力の自信ではなく危機感・焦燥感である。同文書自体が「国民一般に対して放射線に関する正しい知識」が「十分に周知されていなかった」と「反省」しているように、国民の多くは政府や専門家の唱える放射線被害ゼロ論を信じてはいない。近年になって、多くの人々が、福島だけでなく東京・関東圏から、自分や子どもや家族に現実に生じている健康被害に直面して、放射線影響を疑い、それを避けるために関西圏や中国地方・九州・北海道などに、さらには台湾やオーストラリア・ニュージーランドなど海外に、新たに避難している。放射線影響は、多くの被支配・被搾取人民だけではなく、支配し搾取しそれらの成果を日々享受し満たされた生活をしている支配階級もまた無差別に襲っている。多くの有名人たちの早死が目立っているだけではない。元の復興副大臣や環境政務官など福島事故・復興関連の政府高官の立て続けの早死は、あまりにも示唆的である。
 これらの事情から、露骨な虚偽であろうが嘘であろうが、何としても健康被害の「一切」を「ない」ことにし、影響が「ある」という見解に主要な攻撃の矛先を向け、多くの場合「確率的」に生じるであろう被害者には、放射線影響では「ない」と信じさせて静かに従容として病気と死へと導くという政府の対応が出て来ているのである。
 われわれのささやかな論考が、国民を欺し愚弄し、結果として次々と高い線量を被曝させ、人々にそれによる体調不良や病気や死を強要していくという「集団自殺的」な政府の政策方針について警告し批判し反対していく上で、一助となればと考える。


復興大臣からの指示事項(要旨)
平成29年(2017年)12月12日
復興庁

http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/fuhyou/20171212_03_daijin-siji.pdf

これまで国民一般に対して、放射線に関する正しい知識や食品中の放射性物質に関する検査結果等が必ずしも十分に周知されていなかったとの反省に立ち、「知ってもらう」、「食べてもらう」、「来てもらう」の観点から、伝えるべき対象、伝えるべき内容、発信の工夫について、具体的に示した「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を取りまとめた。(中略)
以下、主な施策について、指示する。
1.知ってもらう
(1)放射線の基本的事項や健康影響、食品及び飲料水の安全性等について、本戦略に基づいて、パンフレット、放射線副読本等の見直しを行う(中略)
(2)特に放射線教育については、副読本の作成にとどまらず、実際に児童生徒や教師、保護者等にも伝わる「仕組み」作りを併せて行うこと。
2.食べてもらう(中略)
3.来てもらう(以下省略)。


1.要旨批判
 上の指示要旨を見ると「国民一般に対して、放射線に関する正しい知識や食品中の放射性物質に関する検査結果等が必ずしも十分に周知されていなかったとの反省に立ち、知ってもらう、食べてもらう、来てもらう」ための戦略であることが分かる。つまり、放射線に関する「正しい」知識と検査結果を周知させるための戦略であるという。ところがここで根本問題は「正しい」知識と検査結果の内容である。安倍首相をはじめ政府は被曝による一切の人的被害を認めていない。人的被害が「ある」という見解は全て「風評」であるという立場である。それに対して、被害の訴えや様々な疑問や批判が現実にあるのだから、政府はそれらを「風評」とする科学的根拠を明確にする責任がある。
 しかし、この「強化戦略」は科学的判断を註に回して、恣意的な引用が多く、小児甲状腺がんの発症率や周産期死亡率の増加など明らかな事実さえ否定している。福島原発事故から7年近く経った現在、依然として事故は収束せず、放射性物質の大気と海中への放出が続いている。政府は国民を被曝の危険から守らなければならない。にもかかわらず、福島原発事故による放射線被曝の危険性を警告もせず、隠蔽し、安全を口先で説くことによって解決しようとしている。そのため、政府が先頭に立ってデマ宣伝をしていることになっている。このことによって政府は国民を被曝による健康破壊と生命の危機にさらしている。絶対に考慮すべきことは放射線に対する感受性の個人差である。人権に基づいて放射線感受性の高いすなわち放射線に弱い人々(胎児・乳幼児・子ども、若者、女性、DNA修復遺伝子変異を持つ人々など)を含めて全ての人の生命と健康を放射線被曝から守らなければならない。
 「強化戦略」のもう一つの特徴は、子どもを使った卑劣とも言わざるを得ないやり方である。①児童生徒に対する、被曝被害は一切「ない」とする放射線教育、②福島県への修学旅行の奨励、③福島県産の農水産物や食品の給食での利用などが目玉である。こうして、2017年9月の日本学術会議の子ども被ばく報告書の示す路線――子どもは放射線感受性が平均の2〜3倍は高いが、それでも年間20ミリシーベルトの基準を適用しても何の問題も被害もない――を行政的に実行に移し、児童生徒の広範囲の放射線被曝を進めていこうとしている。しかも、政府のいう被曝量は、家屋遮蔽係数の0.6が掛けられた数値なので、年間20ミリシーベルトは事実上はおよそ年間33ミリシーベルトである。国民の将来を担う子どもたちを被曝から護るのではなく、被曝しても安全というマインドコントロールを行い、「復興」という名目で被曝を推奨し、児童生徒に対する被曝行為を行政的に組織することは、この点だけから言っても、極めて危険な、いわば日本国民全体を放射線で衰微させ民族滅亡に向かって進めるに等しい自滅的な政策である。
 以上が要旨の批判であるが次に本文を検討する。

2.復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判
 本文は以下にある1)
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/fuhyou/20171212_01_kyoukasenryaku.pdf

はじめに

 復興庁が中心になって2017年12月12日に「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を発表した(「強化戦略」と略記)。この「強化戦略」は、科学的粉飾による嘘とごまかしと歪曲で持って、100~200ミリシーベルトの被曝の発がんリスクの増加は、野菜不足や高塩分摂取による発がんリスクの増加に相当するものとして、再度安全神話を作り上げ強制帰還政策を正当化しようとするものである。これを国内外に向けて発信し、2020年東京オリンピックは安全であるとする意図が隠されているようである。日本国民のみならず世界を騙そうとする戦略である。参考文献なども自分に都合のいいものだけを引用し、科学的根拠を示そうとしている。結論が誤っているのであるから、根拠という文献も信頼性のないものである。「強化戦略」とは、被曝の危険性の指摘を風評と決めつけ、コミュニケーションという情報操作で科学的に安全でないものを「安全」と偽るための戦略である。
 原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォースによる文書を太字として枠内に引用する。以下、本文を検討する(括弧内は「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」本文ページ)。

風評の払拭については、これまでの取組により一定の成果を上げているものの、福島県産農林水産物の全国平均価格との乖離や教育旅行をはじめとした観光業の不振など、今もなお風評被害が根強く残っている。(1ページ)

 「農林産物の価格が全国平均より低いこと」「観光の不振」を全て風評被害としているが、これらは科学的根拠のない風評の結果なのか。この文書の異様なところは科学的結論が註で述べられ、コミュニケーションの戦略技術のみを論じるところにある。本質的な問題は註にある科学的結論が信頼できないことであり、それが間違っていることである。そのため、よく知らない人には危険性の指摘が「風評」に見えるかもしれない。しかし、「風評」は、政府が現実の被害や被曝に関する科学的な結論を否定するために恣意的に用いる言葉であり、明確な根拠がない。現実に被害のリスクがあるのであるから、全てを根拠のない「風評」とするのが間違いである。それ故、原因である事実に反する結論を訂正することなしには、いくら宣伝費を使っても解決できない。さらに教育にまで広めようというのであるから、子どもたちにも誤った放射線の知識を教えることになる。そもそも根本的な科学的な問題を註で述べることも政府が科学的検討を軽視し、頭から被害がないと決めつけている結果の反映と思われる。
 例えば、日本政府は通常の食品を1kg当たり100ベクレル(100Bq/kg)の基準で安全とし、この基準が満たされていることを強調すべきであるという。しかし、この基準そのものが問題である。この基準100Bq/kgは、福島原発事故前の放射性廃棄物の処分の基準値であった。いくら非常時といっても高すぎる。この基準以下でも被曝被害の危険があるなら、価値が低下し「平均価格との乖離」があってもやむを得ない。むしろ、被曝の危険のある汚染した農産物・海産物等の食品は日本政府が買い取り、市場から排除することが必要である。政府は食品基準を定めただけでその基準以下であれば安全であることを科学的に証明していない。
 ICRP(国際放射線防護委員会)に基づく内部被曝の評価はファントムというモデルで死んだ抽象的物体として生体の被曝を計算するもので、信頼できない。最近の科学は内部被曝の危険性を明確に示しており、1Bq/kg以下の食品でも体内に放射性セシウムなどが蓄積するので危険であることを証明している2,3)。例えば、チェルノブイリ事故によって広く見られる「長寿命放射性核種取り込み症候群」は内部被曝の危険性として重要である。福島県はじめ東北・関東の汚染地にはホットスポットがあり、空中に放射性微粒子が飛散・浮遊していることが報告されている。肺から放射性微粒子を吸引したり、食品から取り込む危険性がある。それ故、汚染地への旅行・訪問をできれば避けようとするのは賢明な判断である。復興庁の「強化戦略」は科学的な根拠もなく、全てを「風評」と決めつけ、「言われのない偏見や差別」というのである。
 汚染した住宅・農地での被ばくに対する避難者や被災者の苦しみの叫びがある4,5)。また、トモダチ作戦による米兵の被曝など単なる風評とは言えない明白な事実の証言がある。
 さらに『子ども脱被ばく裁判意見陳述集I』(子ども脱被ばく裁判の会編、ママレポ出版局、2017年)にも「国や県の不作為により子供の被ばくを回避してやれなかった親たちの後悔の念と、憤り、そして、子の将来を案ずる愛情が詰まっている」。




このような科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、福島県の現状についての認識が不足してきていることに加え、放射線に関する正しい知識や福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことに主たる原因があると考えられる。このことを国は真摯に反省し、関係府省庁が連携して統一的に周知する必要がある。その際、被災者とのリスクコミュニケーションに加え、この経験を活かしながら、国民一般を対象としたリスクコミュニケーションにも重点を置くこととする。(1ページ)

 「 強化戦略」は放射線被曝の危険性を全て「風評」と決めつけているが、その現状認識が科学的に間違っており、正しく被曝を評価すれば健康破壊の危険があり、現実に人々は被曝被害を訴えているのである4,5)。小児甲状腺がんの罹患率や周産期死亡率は統計的に有意で増加している6,7)。その現実を無視して風評と言い切ることはできない。これではリスクコミュニケーションはリスクではなくデマを伝えることになってしまう。真実は「放射線被曝は危険で被害が出ており、汚染地から避難する」ことが健康被害を防ぐ正しい道なのである。政府は「トモダチ作戦」による米兵の9人の死と延べ400人の被害の訴えも風評と考えるのだろうか。

 国は被災者の思いや置かれた状況を忘れず、「知ってもらい」、「食べてもらい」、「来てもらう」ことによって、国民一人ひとりにその思いを共感してもらうべく、全力を尽くすことが必要である。(1ページ)

 「強化戦略」は汚染した被曝地を「訪問する」、そこで「食べる」ことを奨励する。しかし、それが危険で無謀な行為であることは明らかである。そのことで病気や遺伝的障害が出たとき、復興庁や政府は責任が取れるだろうか。「思いを共感する」だけではなく、「避難を勧め、避難を支援する」ことで人命と健康を守ることこそ政府がなすべき緊急の課題なのである。政府の不当な指示や勧告、援助・賠償の削減という圧力・強制によって、汚染地に帰還させられたり、被災地にとどまり被曝被害を受けた人が現実に多数健康破壊を訴えている4、5)。ぜひ避難者の声を聞いていただきたい。

この際、健康影響への評価については、①放射線はその有無ではなく、量的に考える必要があること、②現在、福島県では放射線の安全性が確保されていること、③世界で最も厳しい水準の放射性物質に関する基準の設定や検査の徹底により、福島県産食品及び飲料水の安全は確保されていること等を発信し、個々人の安心感の醸成にしっかりとつなげていくことに留意する必要がある。(1ページ)

 ①の主張は、放射線に被曝しても量が少なければよい。福島では被曝量が少ないといいたいのである。物事を評価するとき「量と質」を対立させて上記①の主張がされている。正しい思考方法は質的にも量的にも安全でなければならないということである。いくら全量検査といっても設定した基準値の安全性が質・量的に示されなければ意味がない。政府は放射性微粒子を含む内部被曝の定量的な危険性を明示していない。それ故、100Bq /kgの食品基準がどんなに危険かを理解することも、説明することもできないのである。
 「世界で最も厳しい」という主張も嘘だとしか言いようがない。もちろん、食生活が異なるので摂取量を考慮しないと比較できない。だが、例えば「飲料水の安全は確保されている」というが日本の基準は10Bq/kgだが, ウクライナは2Bq/kgである。ウクライナではチェルノブイリ事故以後出生率の低下が止まらず、やっとこのレベルまで水の基準値を下げて止まった。人は2リットルの水を1日に飲むということだが水だけで日本の基準は20Bq/dayのセシウム137の摂取を容認していることになる。これは1年位の長期間ではICRPの計算でも3000Bqが蓄積し、60kgの体重の人なら、体重1kgあたりのセシウム137の蓄積量が50Bq/kgとなり、これは小児の90%に心電図の異常が出る量である。決して安全とは言えない2)。
 ②の「福島県では放射線の安全が確保されている」とはどのような根拠で何を言っているのだろうか。溶融燃料の処理もできず、絶えず放射性物質が大気中や海水中に放出されている。山林は除染されていない。汚染した土壌から放射性微粒子が舞い上がる。小児甲状腺がんは増加しているが原因と対策は明らかになったのか。疑問に答えることをせず、「放射線の安全性が確保されている」と宣言するだけでは住民が納得できないのは当然である。小児甲状腺がんの増加が放射線被曝によるものであることは、発症率に汚染度によって地域差があることからも明確である。やっと福島県県民調査検討委員会も発症率の地域差を報告した7,8)
 質的な面で重要なことは、年齢・性・遺伝子変異などにより、体質的に放射線に弱い人がいることである。復興庁文書はこの事実を全く無視している。
 子どもについては、ICRPでさえも平均の3倍の感受性があること、つまり放射線影響を3倍受けやすく、同一の被曝量でも3倍のリスクとなることを認めている。
 放射線の影響を受けやすい遺伝子変異を持つ人々についていえば、ICRP(国際放射線防護委員会)は人口の1%、ECRR(欧州放射線リスク委員会)は6%の割合と言う。それ故、弱者への配慮もなく、一律に防護基準を決め、「安全」と断定し、「風評」と決めつけることは放射線に過敏な人たちの人権を無視することになる。
 この個人間の放射性感受性の相違は、決してわずかな幅ではない。たとえば、よく使われているエリック・ホール氏らの放射線生物学教科書によれば、ATM遺伝子に変異がある人の放射線感受性は通常の場合の2〜3倍とされている9)。大阪大学医学部の本行忠志氏によれば、個人間の放射線感受性の差は極めて大きく、セシウム137の生物学的半減期で見ると、個人間の差は最大で100倍あるとされている10)

このような問題意識を踏まえ、復興大臣のリーダーシップの下、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」が設置した「風評払拭・リスコミ強化戦略策定プロジェクトチーム」を構成する関係府省庁が、これまでのリスクコミュニケーション対策の総点検を行った上で、有識者の意見を聴取し、専門家の間で共通している最新の科学的知見等を踏まえ、「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を以下のとおりとりまとめた。(2ページ)

 「専門家の間で共通している最新の科学的知見」というが、先の「学術会議2017年9月1日報告:子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」のような間違った報告を利用し、政府は最近の正しい科学的知見を引用していない11,12)。このように「風評払拭強化戦略」は科学的な考察を抜きにして、被害の一切を無視し、政府主導によるリスクコミュ二ケーションという名のデマ的宣伝によって福島原発事故の被害を切り捨て、事故の収束を宣言しようという戦略なのである。これは核武装のためには原発を廃棄できず、危険でも原発を維持し、再稼動をあきらめない原発政策と一体のものである。

供ザ化内容
1.知ってもらう(放射線に関する正しい知識の理解と誤解の払拭)
(2)伝えるべき内容
①放射線の基本的事項及び健康影響
(a)人の身の回りには日常的に放射線が存在し、日常生活において放射線被ばくをゼロにすることはできない。
※人工の放射線と自然の放射線とでは、人体への影響に違いはない。(3ページ)

 人工の放射線と自然の放射線では、放射線としては、違いはないかもしれないが、放射性物質が体に取り込まれたときの危険性が全く異なる。セシウム137など人工の放射性元素は体内に取り込まれると臓器に蓄積する。一方、自然の放射性元素カリウム40はカリウムチャネルを通じて全身を容易に移動し、臓器に蓄積しない。特に人工の元素セシウム137などは放射性微粒子として体内に蓄積し、偏在し、集中的に継続的に放射線を照射し、人体にとって格段に危険である。
 復興庁は1kg当たり、100ベクレルを食品の安全基準としているが臓器への蓄積、放射線に対する感受性の個人差を考慮し、さらに毎日摂取することを考えるとこの基準がとても高いことが分かる。「世界一厳しい」基準というが虚偽の主張である。すでに述べたように、ウクライナでは飲料水は1リットル当たり2ベクレル以下である。日本は10ベクレルである。ウクライナでは主食のパンはキログラム当たり20ベクレルで、日本では主食のコメは100ベクレルである。体重60kgの人が毎日1kgの食品を食べ、100ベクレルを取り込んだとしよう。ICRPの計算に従うと1年位で1万5000ベクレルが蓄積する。これは体重1kg当たり、250ベクレルとなり、バンダジェフスキー博士の研究ではセシウムを臓器に取り込み死亡したベラルーシの人の汚染レベルである2,3)。だから100Bq/kgで安全とは決して言えないのである。
 「日常生活において放射線被ばくをゼロにすることはできない」というのは被曝してもやむを得ないと住民が諦めるようにするためとしか考えられない。人道的で子どもの未来を考える正常な考えなら、日常的に被曝の危険があるのだからいっそう被曝しないよう、汚染の少ない場所や食品による生活を薦めるはずである。 住民や子供の健康を守るべき日本政府が「ゼロにはできない」ことをことさら強調して「被曝やむなし」の世論を広めることは国民の健康を損なう自殺行為ではないのか。避けられない被曝もあるからいっそう人為的事故による被曝を避けるべきなのである。

(c)放射線被ばくをした場合、子供への遺伝性影響が出ることはない。
※原爆での事例を含め多くの調査においても、放射線被ばくに起因するヒトへの遺伝性影響を示す根拠は報告されていない。(3ページ)

 ここでも放射線被ばくの「ヒト」への遺伝的影響を示す根拠はないとしている。しかし、国連科学委員会の2001年報告は、上の文章の後に結論として次のように結んでいる13)。「しかし、植物や動物での実証研究で、放射線は遺伝性影響を誘発することが明確に示されている。ヒトがこの点で例外であることはなさそうである」(『放射線の遺伝的影響』)
http://www.unscear.org/docs/publications/2001/UNSCEAR_2001_Report.pdf#search=%27UNSCARE+2001%27
 「強化戦略」は上記の「しかし(However)」以下を無視して誤解させる結論を導いている。国連科学委員会は人間だけが遺伝的影響を受けないということは非現実的であるといっているのである。
 この点でInge Schmitz-Feuerhake氏らの論文が注目される14)。彼らは低線量放射線被曝の遺伝的影響の文献をしらべた。広島・長崎の原爆被爆者を調べたABCCの遺伝的影響の調査は信頼性がないと結論している。その理由として、線量応答が線形であるという仮定の間違いや、内部被曝の取り扱いの誤りなど4点を指摘している。そしてチェルノブイリの被曝データから新しい先天性奇形に対する相対過剰リスクERRはギリシャなど積算1mSvの低被曝地においては1mSvあたり0.5で、10mSvの高い被曝地では 1mSvあたりERRが0.1に下がるという結果である。おおまかには全ての先天異常を含めて積算線量10mSvにつき相対過剰リスクが1という結論である。積算10mSvで先天異常が2倍になるというのは大変なことである14)。ちなみに、ICRPやUNSCEARなどは、この先天異常が2倍となる線量(「倍加線量」)を1Gy(ほぼ1Sv=1000mSv)としてきた。放射線が先天異常を生じさせるリスクは旧来考えられてきたよりも100倍も高い可能性が出てきたのである。このことだけから言っても、日本政府が年間20mSv地域への避難住民の帰還を進めていることがいかに危険で非人道的な行為であるかは明かである。
 復興庁文書の「放射線被ばくに起因するヒトへの遺伝性影響を示す根拠は報告されていない」というのは虚偽の主張である。前述の学術会議報告自体が、遺伝性影響が「ない」と断言したすぐ後に、それに全く反する形で「臓器の奇形発生」「生後の精神発達遅滞」「小頭症」を遺伝性影響の具体的形態として挙げている(3ページ)。
 欧米で一般的に使われている大学の教科書、リッピンコット『放射線医のための放射線生物学』(英文)を見てみよう。それによれば、広島・長崎の原爆投下の際に母胎内で被爆して出生した被爆者の調査は、小頭症と知的障害(精神発達遅滞)について、放射線影響を明確に認めている。それだけでなく、小頭症についてはしきい値がない(低線量でも発症が被曝量に比例する)可能性が高いことを指摘している(179〜182ページ)。
 同書は、医療被曝した患者の事後研究によって、上の2例に加えて、さらに二分脊椎、両側内反足(足の奇形)、頭蓋骨の形成異常、上肢(腕)奇形、水頭症、頭皮脱毛症、斜視、先天性失明など、放射線影響による多くの先天性異常が報告されていると明確に記載している。

(d)放射線による健康影響は、放射線の「有無」ではなく「量」が問題となる。
※放射線は五感で感じられないが、容易に測定することができる。(3ページ)

 内部被曝を無視しているので「容易に測定できる」と誤解しているのである。先述のように福島原発事故のヨウ素131による被曝もほとんど測定されていない。「容易に測定できる」というがα線やβ線は測定が困難でほとんど測定されていない。

(e)放射線による発がんリスクの増加は、100〜200ミリシーベルトの被ばくをした場合であっても、野菜不足や高塩分食品摂取による発がんリスクの増加に相当する程度である。(4ページ)

 国立がんセンターの報告を引用している。冒頭で質より量が大切といいながら、野菜不足や高塩分というが定量的な議論がなされていない。また、がんセンターの表はおおざっぱで、放射線による発がん率が最近の報告よりかなり低く設定されている。100から200mSvの被曝で 全がんの発症率が8%増であるという。文部科学省による日本の原子力施設の労働者20万人の調査ではがん死が平均13.3mSv の被曝で、全がんで4%増(10mSvで3%増)、肝がん13%増、肺がん8%増である。比率の低い全がん死で見ても100〜200mSvでは30%から60%増である15)。がんセンターの発がんリスクは広島・長崎の瞬間的な被曝によるというが8%の増加であり、かなり低いようである。このようなものと野菜や塩分の過不足を同等に扱うのは乱暴である。
 もし仮に内部被曝と外部被曝が同じとして、ICRPに従って、食品による内部被曝を計算して100mSvになったとして、逆にベクレルに戻してみる。口からの摂取として実効線量係数を用いて計算すると、セシウム137であれば770万ベクレルの被曝になる。後に述べるようにこれは死に至るとんでもない値である。「強化戦略」はこのような致死量と野菜不足や塩分の取り過ぎは同じリスクというのである。
 さらに野菜不足や塩分の取り過ぎは放射線被曝と合わさって複合的に、おそらくは相乗的に発がんリスクを高める。政府の「強化戦略」のように相対比較して、どちらも軽視するのではなく、複合的にがんの発生を高めることを警告し、ともに避けるべきなのである。
 さらに問題がある。この比較は、生活習慣については10年間に対するリスクであり、放射線リスクは生涯期間(成人50年、子ども70年)に対するリスクである。そのまま比較すれば、放射線リスクの大きな過小評価(5分の1以上の過小評価)となるのは、自ずと明らかである。今回の文書では、註で、リスク期間がすぐには分からない文献を挙げるという手の込んだ操作がなされている。だが、政府が関係各省庁共同で発行している『放射線リスクに関する基礎的情報』では、同じリスク比較の表(2017年版14ページ)の下に記されている注意書きに、はっきりと生活習慣の方は「10年間」に対するリスクであることが明記されている16)。重要な点であるので、下に引用しておく。



 10年間の生活習慣リスクを50年間の放射線リスクと比較しても、喫煙や大量飲酒は、放射線の致死量(1〜2Svで10%未満致死量:放医研・UNSCEAR)に達しており、大量飲酒する喫煙者なら半数致死量(3〜5Sv:ICRP)に達し、比較自体が意味をなさなくなっている。
 仮にこのようなリスク比較がありうるとしても、比較のためには、食品や喫煙・飲酒などのリスクもまた、放射線リスクと同様に50年間に換算して、5倍しなければならないはずである。そうすると、野菜不足や塩分の取り過ぎという相対的に控えめなリスクでも、野菜不足でおよそ1.3となり放射線リスクでおよそ500〜1000mSv、高塩分食で1.6〜1.8となりおよそ1〜2Svの被曝に相当することになる。つまり、10%未満致死量とされている被曝量に達し、比較自体が成り立たなくなる。
 放射線の主要なリスクをがん「だけ」だと考えて比較しているのでこのような「不条理」が生じるのである。放射線は、とくに高線量では、骨髄(造血系)損傷、胃腸管損傷、肺炎、腎臓炎、その他の多臓器の炎症を引き起こし、さらには中枢神経を含む神経系や心臓血管系を損傷して、がん発症に到る以前に、人の致死を引き起こす。数百mSv/年では数年〜10年も経てば、数十mSv/年でも数十年も経てば、積算で、このような致死量とされる被曝に相当するレベルに等しくなる。日本政府は、屋内遮蔽係数0.6を掛けた状態で20mSv/年の(すなわち事実上33mSv/yの)汚染地域に、ICRPでさえも放射線感受性が3倍高いと認める(実際には10倍以上の)子どもやさらには妊婦をも含めて長期に居住させようとする「帰還政策」を進めている。だが、事実上33mSv/年の汚染地帯では、子どもの場合、3倍の感受性を考慮に入れてリスク比較をすれば、10年住めば、10%未満致死量相当量に到達する。大人の場合でさえ、30年も住めば、10%未満致死量相当量に到達する。
 生活習慣因子の放射線リスク比較論は、他面では、高線量放射線のもつ深刻な致死リスクを隠し、人々が忘れるようにする「印象操作」というほかない。

※ヒトの集団を対象としたこれまでの種々の調査では、100ミリシーベルトを超える線量の被ばくで、がんによって死亡するリスクが上昇することがわかっている。(4ページ)

 100ミリシーベルト以下ではがん死のリスクが上昇することが示されていないかのような誤解を与える記述である。最近、J・H・Lubinほかの論文で子どもの甲状腺がんに関する解析で閾値がほぼゼロであることが示された17)
 「結論:今回の解析により、小児における低線量放射線被ばくと甲状腺がんリスクについては、閾値のない線形関係であることが最も妥当な推定であり、『可能な限り低い線量の被ばく』を追求する必要がある事が再確認された」。
 また、政府の主張する上記のような100mSvしきい値論は、信義誠実の原則に反する欺瞞である。もしこの見解が信義に基づき誠実に提起されているのであれば、復興庁は、20mSv/年の汚染地域に帰還して5年以上の長期に居住するのは、被曝により「がんによって死亡するリスクが上昇」するので「避けるように」と警告しなければならないはずである。同じように、10mSv/年の地域では10年以上の、5mSv/年の地域でも20年以上の長期居住は、被曝によるがん死リスク上昇が「ある」、だから「推奨されない」と然るべきリスクコミュニケーションを行わなければならないはずである。帰還政策は即時取りやめなければならないはずである。だが現実には政府は正反対の行動を取っている。
 復興庁文書は、政府が、福島の汚染地域に住民を帰還させる政策を、「がんによって死亡するリスクが上昇する」と「わかって」行っていること、「故意に」がん死リスクの上昇を帰還住民に押しつけていることを自己暴露しているのである。
 政府は、100mSv云々の議論で人々を煙に巻こうとしているが、被曝によるがん死リスクの上昇が「ある」ということをはっきり認識しているのである。この事実は、政府傘下の放射線医学総合研究所が発行している文書の中で、それが明記されていることからも明らかである。以下に、証拠として引用しておこう(放医研編『低線量放射線と健康影響 改訂版』162ページ)。



 ここでは、10万人が0.1Gy(すなわち100mSv)被曝した場合、どの機関の推計によっても増加すること、その推計値は白血病とそれ以外のがんの合計で426〜1460人の幅の中に入ることが確認されている。被曝した場合のリスクは決してゼロでは「ない」のである。

※日本人が自然放射線により日常的に受ける年間の被ばく線量は、平均2.1ミリシーベルトである。(4ページ)
※日本人が医療行為(レントゲンやCTスキャン等)で受ける年間の被ばく線量は、平均3.9ミリシーベルトである。(4ページ)

 CTなどによる医療被曝もできるだけ低くする必要がある。「強化戦略」は医療被曝や自然放射線を無害と考えていないのであるから、それに加えて福島原発事故による被曝量を増やさないよう、警告すべきであるにもかかわらず、全ての被曝が無視してよいかのような誤解を与える記述である。イギリスでは自然放射線による被曝で小児白血病が5mGy(=5mSv)以下の低線量まで増加していることがG. M. Kendall たちによって報告されている18)。1ミリシーベルト当たりの相対過剰リスクは12%であった。日本人の受ける自然放射線が決して安全とは言えないのである。


図 ケンダル氏らによる小児白血病の相対リスク

出典:Kendal, GM et al., A record-based case-control study of natural background radiation and the incidence of childhood leukaemia and other cancers in Great Britain during 1980-2006.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784

※1圓△燭100ベクレルのセシウム137を含んだ食品を食べて1ミリシーベルトの被ばくをするためには、約770圓凌品を食べなければならない(成人の場合)。(4ページ)

 この記述は内部被曝による線量当量の計算が正しくなく、著しく内部被ばくを過小評価しているので、770kgも食べなければならない計算になった。不適切な計算を根拠にしており、自らの無知を証明している。これは政府文書としてとんでもない記述である。たとえ、1日1kgの食量でも100ベクレルのセシウム137を毎日1年間とり続ければICRPによれば15000ベクレルが臓器など体内に蓄積し、体重60kgの人で体重1kg当たり、250ベクレルになる。チェルノブイリで見られた「長寿命放射性核種取り込み症候群」で死に至る量にもなる2,3)
 電離放射線によって発生する活性酸素・フリーラジカルは大変危険で内部被曝によるほとんどすべての病気をもたらすのである19)。活性酸素・フリーラジカルとそれによって生じる酸化ストレスがいかに広範囲の健康影響をもたらすかは、酸化ストレスが及ぼす医学的影響に関する専門書『酸化ストレスの医学』の目次を見ただけで明らかである。



 このような効果を考慮しないでDNAへの直接被曝のみを議論することは科学的ではない。これはチェルノブイリ事故でえられた重要な医学的結論である。つまり、1mSvの被曝のためには770kgも食べなければならないのはICRP の内部被曝の計算が科学的でないためであり、真実は100ベクレル/kgを770kgも食べると1mSvの被曝どころか死に至るのである。計算方法が悪いのに、被曝被害が少ない証明であると政府が誤解しているのである。官庁の誰も誤りに気が付かなかったのであろうか。

※現在、国際放射線防護委員会(ICRP)は、平時における公衆の追加被ばく線量を年間1ミリシーベルトを超えないことを勧告しているが、ヒトの集団を対象とした研究では、1ミリシーベルトを少しでも超える線量の被ばくが、がんのリスクを増加させるという知見はない。(4ページ)

 オーストラリアの小児がんのCTによる増加の疫学調査では1回のCTで平均4.5ミリシーベルトの被曝があり、がんが1.24倍に増加した。



 出典:John D Mathews, et. al.;Cancer risk in 680?000 people exposed to computed tomography scans in childhood or adolescence:data linkage study of 11 million Australians;BMJ 2013; 346
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360

 先に述べたように日本の原子力施設の労働者の被曝調査では10mSvの被曝で3%がん死が増加した15)
 知見はある。閾値がないというのが国際的にも認められているのに「強化戦略」はなぜリスクの増加の知見がないというのか。

※空間線量率から推定される被ばく線量は、住民の行動様式や家屋の遮へい率を一律に仮定(365日毎日、屋外に8時間、屋内に16時間滞在し、家屋による放射線の遮へい率を60%と仮定)していることなどの要因により、個人線量計等を用いて直接実測された個々人の被ばく線量(個人線量)の測定結果とは異なることが知られている。この仮定では、例えば空間線量率が毎時0.23マイクロシーベルトであった場合に、年間の追加被ばく線量は1ミリシーベルトに相当することになる。しかしながら、平成24年の南相馬市での調査では、個人線量計を用いた個人被ばく線量の実測値は、空間線量率から推定される計算値と比べて平均で3分の1に留まったことが報告されている。(4ページ)

 ガラスバッジを用いた個人測定は信頼できない。ガラスバッジは前面からのガンマ線のみしか計測しない。また、自然放射線の寄与などを差し引くコントロールの値が信頼できない。以上の測定の不備から空間線量より小さい値となることを否定できない20)。ガラスバッジのメーカー自身の担当者をはじめ多くの証言がある。
 宮崎・早野論文は伊達市の市民に持たせたガラスバッジで測定した外部被ばく線量と、航空機モニタリング調査で測定した空間線量は比例関係にあり、その係数は0.15倍で国が示していた0.6倍よりも住民の被曝量は4倍少ないと主張している。しかし、黒川氏は「論文中に書かれている『この研究は個人の線量は周辺の線量に0.15±0.03をかけ合わせたものであることを示す』という宮崎・早野氏の主張は明白な誤りです。私が検証したところ、70%の住民の被曝線量はこの範囲外にあります。分析が十分に行われていない論文の結論として出された0.15倍という数字が独り歩きし、大きな被曝をしている人が切り捨てられることを憂慮しています」と述べている。ガラスバッジを公衆に持たせるという無理な測定による信頼性のないものである。本来、 ガラスバッジは放射線管理区域で使用するものでバックグラウンドの値をコントロールバ ッジで測っている。しかし、伊達市の測定は根拠もなく、平均でバックグラウンドとして 年間 0.54 ミリシーベルト(mSv)をひくことになっており、被曝ゼロの人が多く出ている 地域もあり、バックグラウンドの引きすぎを強く示唆する。また、宮崎・早野論文は個人個人のガラスバッジの示す線量とその居住地域の空間線量との比を住民について平均している。数学では重みを無視して比率を平均することは基本的な誤りであり、平均値0.15は意味がない量である。引用のブログを参照のこと20)。家屋による遮蔽について言えば、実際には木造家屋では放射線の遮蔽効果はほとんどない。事故前は遮蔽率はせいぜい1割程度と考えられていた。コンクリートの建物でさえも、時間経過と共に、放射性微粒子の壁面・床面・天井などへの付着により汚染されて、空間線量とそれほど変わらなくなるか、かえって高くなる場合さえもある。
 事故後、政府は突然、家屋による6割の遮蔽率(屋内では屋外の4割となる)、8時間の戸外活動と16時間の屋内生活で、合計の屋内遮蔽係数を空間線量×0.6と規定した。復興庁文書のような空間線量に0.6を掛けるという係数操作は、個人の被曝量を人為的に低く操作するというもの以外の何物でもない。復興庁は、このすでに人為的に引き下げた数値でさえ、被曝線量の実測値が「3分の1に留まった」とする。現行の数値が「3倍の過大評価」であるという復興庁の主張は、すなわちこの係数0.6を今後さらに0.2に引き下げるという措置を示唆するものである。
 現行の帰還居住基準20mSv/年(事実上は33mSv/年)は、事実上100mSv/年(実際には133mSv/年)にまで引き上げられることになる。その場合に、どのような事態が予想されるかは後に検討する。

※1ミリシーベルトの外部被ばくと、1ミリシーベルトの内部被ばくは、健康への影響の大きさは同等とみなせる。(4ページ)

 ICRPに基づく「内部被曝の1ミリシーベルト」という評価が不正確なのである。内部被曝の評価においてベクレルから実効線量係数を用いて求めた1ミリシーベルトが過小な値になっている。体内の放射線の被曝被害は体内の臓器や諸器官の構造や機能によるのであり、簡単に外部被曝と同等として評価できない。内部被曝の被害は単純に外部被曝線量に換算して議論することができない多様な健康破壊の効果がある。外部被曝と内部被曝を同等とするところに食品基準など全ての誤りが生じているのである。放射線は体内の放射性原子や微粒子から放射され、活性酸素やフリーラジカルを発生する。この活性酸素やフリーラジカルが様々な病気を引き起こす。それゆえ、単純に外部被曝とみなし遺伝子DNAの損傷のみの被害とみなすことは大きな間違いである。ヤブロコフ氏達の報告では1人の甲状腺がんが見つかると約1000件の甲状腺疾患が見つかるという19)
 外部被曝と内部被ばくとの比較では、放射性物質たとえば放射性セシウムが、不溶性の放射性微粒子(福島事故では炉心のメルトダウンと爆発により大量に生じた)として体内に侵入してきた場合、危険性は外部被曝に比して極めて高いと考えなければならない。福島原発事故による放出放射能では、セシウム137の約半分はこのような不溶性の微粒子、残り半分は可溶性あるいはイオンと考えられる23)
 このような不溶性微粒子は、周辺の細胞に放射線を長期にわたり集中的に照射するので、被曝量は桁違いに大きくなる。しかも排出されにくく、生物学的半減期に従って減少することはなく、長期にわたり体内に留まる。欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、このような不溶性微粒子による内部被曝の危険性(生物物理学的損害係数)を、外部被曝およびカリウム40による内部被曝の20〜1000倍と評価している(ECRR2010勧告日本語版95ページ)。さらにECRRは、セシウム137が2段階壊変しベータ線とガンマ線を照射するので、危険度をさらに20〜50倍と評価している。つまり、危険度は400〜5万倍と考えるべきだとしている。


出典:ECRR2010勧告日本語版95ページ


 セシウム137は、可溶性微粒子あるいは直接イオンとして体内に侵入し、体液に溶解した場合でも、カリウムよりイオン径が少し大きく、カリウム・チャンネルを通過するが、その通過速度が極めて遅く、それによって濃縮され、心臓や腎臓その他の特定の臓器に蓄積され、集中的に細胞を被曝させる。
 さらに、セシウム137は、放射線を出してバリウムに変わるが、バリウムには細胞のカリウム・チャンネルの機能を阻害する働きがあり、毒性がある。とくに、カリウム・チャンネルが重要な役割を果たしている心臓や神経系などの情報伝達に、機能障害を生じさせる可能性がある。
 これらから明らかなように「1mSvの外部被ばくと、1mSvの内部被ばくは、健康への影響の大きさは同等とみなせる」というのは虚偽の見解であり、実際には1mSvの内部被曝は、セシウム137が不溶性粒子形態を取っているような場合、400mSvから50Svに相当する可能性があるのである。

)福島県は、内部被ばく検査を行った結果、健康に影響が及ぶ数値ではないと評価している。
※福島県が平成23年6月から平成29年9月までに実施したホールボディ・カウンタ(WBC)を用いた内部被ばく検査での預託実効線量は、99.99%が1ミリシーベルト未満と推計している。(5ページ)

 ホールボディカウンターの測定は引用文献によると2011年6月27日から2017年9月30日までであり、ヨウ素131の半減期が約8日だということを考えると6月末の測定ではヨウ素131は減衰しており、意味がない。WBCの検出下限が300ベクレルであり、測定値も信頼できない。内部被曝の解析の方法も信頼性がない。その例を示そう。実効線量係数(mSv/Bq)を用いると1ミリシーベルトはCs134で5万2000ベクレル、Cs137で7万7000ベクレルとなる。福島県の文書も、WBCの測定値について、Cs134とCs137の合計で5万1000ベクレルを1mSvと換算している21)
 ベクレルで見るとこんな高い値まで1mSv未満であるのは当然であり、被曝量が少ないように言うのは誤魔化しである。それでも1mSvを超えた人がいる。ベラルーシで死亡した人のセシウム137の蓄積量は臓器1kg当たり200〜1200ベクレルであった2)。体重60kgとして計算すると全身で1万2000から7万2000ベクレルほどである。つまりWBCで1mSvというレベルは致死量相当なのである。
 これまで政府は学術会議の2017年9月1日の「報告」と同様UNSCEARの報告を根拠にしてきたが、この測定も大部分(1080/1088)がホールボディカウンターを用いたものでなく、空間線量測定用の簡易サーベイメーターを用いた不正確なものであった。チェルノブイリの方がヴァシリー・B・ネステレンコ氏達による精密なWBCを用いて測定している。
 ユーリー・バンダジェフスキー氏のラットを使った実験では、1kgあたり991Bq程度のセシウム137の濃度を与えると、多臓器不全により40%が死んでしまったことが報告されている22)。半数致死量の比(ラット6.75Gy/ヒト4Gy)から人間のリスクに換算してみると、およそ590Bq/kg程度である。人間の標準体重60kgで3万5000Bq程度である。したがって、この実験結果からも、政府・福島県の言う「内部被曝1mSv」は、人間の場合、半数致死量となる可能性がある。すなわち、復興庁文書が引用している福島県のWBCのデータそのものが、復興庁文書の評価とは正反対に、恐るべき致死的な被曝事実を示しているといわなければならない。

)事故当時胎児であった子供において、先天異常の発生率の上昇は認められていない。
)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、
・事故による被ばくによる死亡や身体的機能への重大な影響等(急性放射線症候群、脱毛等)は確認されていない、
・今後、がんの発生率に識別できるような変化はなく、被ばくによるがんが増加することも予想されない(5ページ)

 統計的に信頼性の高い周産期死亡率や自然死産率のデータを無視して不十分な調査で、人的被害がないとしている。その点で、周産期死産率の増加は統計的に有意を持って証明されている。周産期死亡(妊娠22週から生後1週までの死亡)率が、放射線被曝量が高い福島とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(3年間で165人)も増加し、被曝が中間的な高さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった6)
 福島原発事故後10か月後に急増した周産期死亡率の増加は事故による母親の卵胞・卵子の被曝による結果が考えられ、胎児の発育にとって重大な危険があったことを示している。この周産期死亡率の増加は東北、関東に被曝被害が広まっていることを示すものである。




・福島県でチェルノブイリ原発事故の時のように放射線による多数の甲状腺がんの発生を考える必要はない、と結論付けている。
※福島県以外の3県(青森県、山梨県、長崎県)における甲状腺結節性疾患有所見率等調査(平成24年度環境省実施)と、福島県による甲状腺検査は、ほぼ同様の結果と評価されている。(5ページ)

 3県で4365人を調査して1人が甲状腺がんであった。詳細は公表されていない。確かに同様の発見率であるが一人では統計的に信頼性がない。一方、ベラルーシではチェルノブイリ事故16年後の2002年にゴメリでは14歳以下の約2.5万人を調査しても甲状腺がんはゼロであった。他の地域を合わせ約7万人の調査で甲状腺がんは1人であった。このことは、事故後、ヨウ素131を吸引しなかった世代には甲状腺がんは極めてまれでスクリーニング効果は小さいことを示している。福島県県民健康検討委員会はやっと本格検査の地域差を認め報告した8)
 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い、「3地域の罹患率の比較」を行った。「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。特に本格検査を見ると汚染の高い地域において罹患率も高くなっている。

表1 3地域の罹患率 10万人・年当たり ( )内は95%信頼区間の下限値と上限値


表2 3地域の罹患率の比較( )内は95%信頼区間の下限値と上限値

 最近、県民健康調査検討委員会も小児甲状腺がんの罹患率の地域差を報告した。表3上段が発見率、下段が比率である。この違いは汚染度の違いに対応している。

表3 悪性ないし悪性疑い発見率:10万人年対及びその比 福島県立医大による

地域分割は表1とは異なる。

 これと同様であるが汚染度の代わりに原発からの距離と罹患率の関係が山本英彦医師らによって導かれた。原発に近い地点ほど罹患率が高いことが分かる。これも原発が原因であることを示すものである。




※東日本大震災における震災関連死のうち、福島県における避難所等への移動やそこでの生活に係る肉体・精神的疲労が原因と考えられる死者数は約4割となっており、事故に伴う避難等による影響が大きいと考えられる。(5ページ)

 このことは原発事故の際の社会的弱者の緊急避難の困難さを示すものである。原発は再稼動してはならないし、新たに作ってはならない。また、この震災関連死の中に放射線被曝による影響が含まれている可能性について、当然考えられるにもかかわらず、全く考察されていない。「肉体・精神的疲労が原因」とされる4割以外の6割の死者について、原因を明確にし、公開して分析する必要がある。

(g)事故とチェルノブイリ原子力発電所事故とは異なる。
)チェルノブイリに比べ放出された放射性物質の量は7分の1である。(5ページ)

 復興庁文書は、明らかに、福島原発事故による放射能放出の「総量」に関して論じていると思われる。放射能放出総量については、基本的に政府側に立っていると考えられる中島映至ほか編『原発事故環境汚染―福島原発事故の地球科学的側面』東京大学出版会(2014年)が、チェルノブイリと福島についてほとんど変わらないというデータを引用していることをまず指摘しておきたい(チェルノブイリ1万3200ペタベクレル、福島1万1300ペタベクレル[ペタベクレルPBqは10の15乗ベクレル]、表1.3、29ページ)
 放出量に関しては国際的に信頼性の高いノルウエー気象研究所のストール氏らは福島原発事故によるセシウム137の大気中放出量は20.1〜53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。一方、日本政府のセシウム137放出量は15PBqと小さい。
 ヨウ素131の放出量はセシウム137の50倍(東京電力の値)を採用するとチェルノブイリでヨウ素131は日本政府で750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これはチェルノブイリのヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。あるいはストールの上限をとって(チェルノブイリの値が上限をとっているから)2655PBqとすると、福島のヨウ素131の放出量がチェルノブイリの1.5倍と推計できる。それ故、INES(国際原子力事象評価尺度)で計算しても大気中放出量でほぼ同等であり、チェルノブイリではなかったとされる海中への直接放出量と汚染水中への放出量を加えると福島原発事故の放射能放出量はチェルノブイリの約4倍と考えるべきである。「強化戦略」の1/7は明確な過小評価と考えられる。
 たとえもしこの復興庁文書の通りの比率と仮定しても、政府は、チェルノブイリの7分の1の健康被害が出ることは当然予測されると認めなければならないことになる。学術会議報告書は、チェルノブイリでの子どもの甲状腺がんの発症による手術数を6000人、うち死亡数を15と明記している。それなら、福島や周辺諸県でも、大まかに言って、その7分の1の860人の手術を要する甲状腺がん患者、うち2人程度の死者が、十分に予測されると言わなければならない。
 現実に子どもの甲状腺がんなど被害が出ている7)。米軍兵士の「トモダチ作戦」による死者は9人になり、400人が被曝の被害を訴えている。「風評」という説明は根拠がない。
 福島事故の間に放出された放射能の量については、広島原爆との比較で考えれば、被害が「ない」あるいは被害は「風評」であるという主張がまったくの嘘でありデマであることは明らかである。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的な健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量である。
 日本政府は、福島事故で、広島原爆のおよそ168発分のCs137が放出されたことを認めている(原子力安全・保安院の2011年8月26日の発表)。もちろんこれは過小評価で、実際には400〜600発分だがこの点は今は置いておこう。事故で放出されたCs137のおよそ20%、すなわち広島原爆34発分が、日本の国土に降下・沈着した。そのうち、除染作業により回収できたのは、政府発表データで計算すると、広島原爆のおよそ5発分である。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっている。言い換えれば、広島原爆およそ30発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、拡散して残っていることを意味する。
 広島原爆30発分の「死の灰」が何の健康被害も及ぼさ「ない」という政府見解は、広島・長崎の被爆者の健康調査からだけ見てもありえない。そのような見解は、広島・長崎の原爆被爆者の悲劇を、被爆者調査の結果を全否定するものであり、被爆者とその悲劇を愚弄するものであるというほかない。さらには、政府の主張では、北朝鮮が日本近海で広島原爆168発分の核実験を実施しても「何の健康被害も生じない」ということになる。さらには、アメリカが第二次朝鮮戦争を引き起こし、そこで核爆弾か多数使用され、そのうち放射性セシウム137換算でおよそ30発分程度の「死の灰」が日本に降下しても「何の健康被害も生じない」ということになる。露骨な核実験・核戦争容認論に等しい。
 復興庁・政府は、住民の被曝を正当化しているだけではない。現在、この回収された広島原爆5発分について、日本中の公共事業で8,000Bq/kg未満の除染残土を再利用する計画を立てている。これは、自国民を滅ぼすような自滅的計画であるというほかない。それは、現在、「風評損害を避ける」という口実の下で、再利用される場所などを住民に知らせることなく、なし崩しに始まっている。このプロジェクトは、およそセシウム137換算で広島原爆5発分の「死の灰」に相当する放射性物質を、日本全国に拡散することに等しい。日本政府は、危険な核物質を住民に対してバラ撒くという文字通りの核テロリストとして行動していると言われても仕方ない。

)避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、放射性物質が住民の体内に取り込まれた量は非常に少ない。(5ページ)

 福島原発事故では極めて大量の放射性微粒子が放出されており、呼吸や飲食によって体内に取り込まれる可能性が高い。現実に小児甲状腺がん、周産期死亡率の増加や心筋梗塞による死亡者の増加は内部被曝の寄与が大きいこと、つまり、放射性物質が体内に取り込まれたことを示している。「放射性物質が住民の体内に取り込まれた量は非常に少ない」とする政府の推測は誤りである。実際の病気の増加がこの記述を否定している。また、放射性微粒子はたとえ少量でも集中的局所的継続的被曝となるので被害を放射性物質の量のみで考えてはならない。

(h)福島県内の空間線量率は事故後6年で大幅に低下しており、全国や海外主要都市とほぼ同水準となっている。(5ページ)

 これは、政府・行政側の測定値(過小評価が疑われる)に基づいたとしても、はっきり嘘あるいはデマである。例えば、県庁所在地である福島市の数値(福島県『ふくしま復興の歩み』最新版では0.15?Sv/h程度)で見ても、他県や世界の主要都市と比較して明らかに高いことは誰が見ても分かる。これを「全国の主要都市とほぼ同水準」だと強弁して権力主義的に「放射線教育」し「リスクコミュニケーション」して、国民とくに児童生徒をマインドコントロールするというのが今回の文書の主眼である。
 しかも、各都市ごとに自然放射能によるバックグラウンドの線量には本来的な相違があり、比較は福島原発事故前の平均空間線量(福島県は0.038?Sv/h)との間で行なうべきである。事故前のレベルを基準としなければ比較は無意味である。
 事故以前の放射線量と事故後の放射線量を比較してみよう。文部科学省は、福島原発事故以前の全国の空間線量(地上1メートル)の数値を、ホームページから注意深く削除しているが、それは以下のサイトで見ることができる。
http://www.las.u-toyama.ac.jp/physics/gendai/t.pdf)。
 それを現在の数値と比較すれば、全国の主要都市について以下の通りである。あわせて集団線量も計算しておこう。


事故前・事故後の空間線量の上昇      単位:μSv/h(地上1メートル)/人・Sv

事故前は1990年〜1998年の平均値、現線量は2016年3月1日時点の数値(日本経済新聞2016年3月2日より)。ただ、大阪、愛知、福岡などとの比較で明らかなように、関東の数字には明かな過小評価があると思われる。家屋による遮蔽係数は使っていない。各都道府県の人口は2015年の国勢調査による数字。

 だがこのような方法で比較可能なデータも2016年度までである。政府は、空間線量の発表値自体を露骨に操作する方策を取り始めていることが疑われるからである。東京の線量の2017年間の大幅な低下を見ていただきたい。これは他の諸都市と比較して異常に大きく明らかに不自然である。これにより、東京の空間線量の数値は、他の諸都市がすべて事故前よりも高いにもかかわらず、事故前の水準に戻ってしまっている。


数値の操作が疑われる東京の空間線量の急速な減衰   単位:μSv/h(地上1メートル)

出典:原子力規制委員会「放射線モニタリング情報」


 もう1点付け加えると、空間線量の低下は、現時点での被曝の主要な危険の一つである、再飛散し空中を浮遊している放射性微粒子の危険を十分には表していない。復興庁文書は、内部被曝を食品についてだけ取り扱い、微粒子とくに不溶性微粒子が呼吸の際、吸入によって侵入し沈着することによる内部被曝の危険性を無視している。
 市民が運営する放射能測定所による多くの計測結果はこの危険を証明している。たとえば、いわき市(福島県)において2015年10月〜12月に電気掃除機の使用済み紙パックの放射線量の測定で、4,800〜5万3,900Bq/kgの放射性セシウムが観測されている。最大で5万4,000Bq/kgが吸引される室内を、行政の権力をバックに「放射線の安全性が確保されている」と断定することは、デマゴギー以外の何物でもない。下記のウェブサイトを参照のこと。
http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf
 チェルノブイリでは 1ミリシーベルト以上は避難の権利があり、5ミリシーベルト以上の地点は移住義務地域であり住むことができない。日本では20ミリ以下の地域にも帰還を認めている。これでは世界と同水準とは言えない。しかも、チェルノブイリでは内部被曝の寄与を外部被曝の2/3としてそれを加えて避難・移住の基準としている。日本の基準で言えばチェルノブイリの5ミリシーベルトは日本では3ミリシーベルトの外部被曝に相当する。この地域での居住を禁止しているのである。日本ではその6倍以上の汚染地にまで帰還させている。

※東京電力福島第一原子力発電所から半径80匏内の航空機モニタリングによる地表面から1mの高さの空間線量率は、約71%の減少となっている(平成23年11月と平成28年10月で比較)。(5ページ)

 政府・文科省のモニタリングポストの値は実際の周辺の線量の5から6割しか表示せず、過小な値を表示していることが示されている24)(矢ケ崎克馬『日本の科学者』2018年2月号)。



 アニー・ガンダーセン氏も同様の指摘をしている。

※日々の生活の場における面的除染はほぼ完了(平成29年3月末時点)。また、除染が実施された地域では、空間線量率が大幅に低減している。(5ページ)

 まわりの山林の除染がなされていないので風雨で除染した土地も汚染される。
 復興庁文書は空間線量が経過したことを強調しているが、いったん被曝した線量はいわゆる「レガシー」として、細胞炎症や長寿命有機ラジカルなどのいろいろな形態で、数年から10年、数十年という極めて長期間、結局のところ一生涯、住民の健康リスクとして体内に留まり続けることも指摘しておかなければならない。

※世界では、自然放射線による被ばく線量が年間5ミリシーベルトを超える地域に1000万人以上が居住している。(6ページ)

 このことは安全性を証明しない。復興庁は5ミリシーベルトを超える放射性管理区域相当の汚染地に住んでも被曝影響はないといいたいのかも知れないが自然放射線によって被害が生じている。15)。 5.2ミリシーベルトの被曝労働で発生した白血病が労働災害として認められている。
 ECRRは、世界の自然バックグラウンド放射線の高い諸地域において、がんや染色体欠損の割合が明らかに高くなっているというデータを引用している(2010年報告180ページ)。


出典:ECRR2010勧告日本語版180ページ

 自然放射線の高さが健康に影響を及ぼさないという見解は、根本的な間違いであるといわざるをえない。

②食品及び飲料水の安全を守る仕組みと放射性物質の基準
(a)福島県産の食品及び飲料水は、放射性物質に関する検査の徹底により、安全が確保されている。
(b)日本の食品及び飲料水の放射性物質の基準は、世界で最も厳しい水準となっている。
※安全側の仮定に立って、一般食品では100ベクレル/kg、飲料水では10ベクレル/kgなどの非常に厳しい基準を設定している。
(c)福島県において、現在、基準値を超える食品及び飲料水はほとんどない。特に、福島県産米については、平成27年産米以降、基準値を超過したものはなく、畜産物は平成24年12月以降、海産魚介類は平成27年4月以降、基準値以内である。なお、検査により基準値超過が確認された場合は、市場に流通しないよう必要な措置がとられている。
※福島県内で生産管理された農林水産物においては、平成27、28年度で基準値を超過するものはなかった(検査年度ではなく生産年度の場合)。
※野生のきのこ・山菜類、野生鳥獣肉、河川・湖沼の魚類では基準値を超過したものも見られるが、検査により基準値超過が確認された場合は、市場に流通しないよう必要な措置がとられている。
※飲料水については、平成24年4月以降、基準値を超過したものはない。(6ページ)

 以上のように「強化戦略」は基準値を満たしていることを強調するが、肝心の基準値の高さを議論していない。日本の食品基準が高すぎ、摂取者の健康を守る値ではないことが問題である2,3)。内部被曝の危険性や放射性微粒子の危険性を考慮すると1Bq/kgの食品でも安全でない。基準値100Bq/kgが内部被曝を正しく評価すると、高すぎるのでいくら基準値以下を確認しても安全とはいえない。しかも高い基準でさえ超過することがあり、土地が汚染していることを示している。超過した食品が混ぜて基準以下にされる危険性もある。汚染食品は政府が買いとり、完全に市場から排除する必要がある。

④東京電力福島第一原子力発電所等に関する情報
東京電力福島第一原子力発電所の現状について正確な情報が伝わっていないことによって、福島県の現状等に対する不安が拭えない場合もある。そのため、廃炉・汚染水対策については、世界の叡智・技術を結集しつつ、国が前面に立って安全かつ着実に進めていることについて、関係府省庁における発信媒体の性質などを踏まえ、必要に応じて簡潔に分かりやすい情報発信を行う。(6ページ)

 廃炉・汚染水対策については、世界の叡智・技術を結集しつつ、国が前面に立って安全かつ着実に進めている」ということであるが 凍土壁によって地下水の流入を制御できずいっそう見通しが暗くなった。この失敗を見ても着実に廃炉・汚染水対策が進んでいるとは言えない。また、トリチウムを含む汚染水の海洋への投棄が原子力規制委員会で検討されている。トリチウムの投棄は大変危険である。

台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて 日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している  渡辺悦司

2018年1月


台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて
日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している――福島と周辺地域の放射能汚染は決して安全・安心な状況にはない

著者:香港核能輻射研究會(質問)・渡辺悦司(回答)
連絡調整:福島からの避難者K


 
〖ここからダウンロードできます〗
台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて 日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している(pdf,12ページ,270KB)
 
 
 以下は、福島からの避難者K氏に対する香港核能輻射研究會(Hong Kong Society for the Study of Nuclear Radiation、HKSSNR)と台湾のフリージャーナリスト宋瑞文氏の質問に、K氏に代わり渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会会員)が回答したものである。発表にあたり多少加筆訂正を行った(2018年1月18日)。その内容は、台湾の媽媽監督核電聯盟(原発監視母親連盟)などの以下のサイトに中国語(繁体字)で掲載されている。
  https://tinyurl.com/yc2glrk5
  https://tinyurl.com/y82dkelp
  http://e-info.org.tw/node/208883


香港核能輻射研究會・宋瑞文[香港・台湾]質問1:
 福島県は、中国語での観光紹介ホームページを作成し、放射能についての説明も掲載しています。
  http://www.tif.ne.jp/lang/tc/data/fukushima_tc.pdf
 そこでは、人工放射線と自然放射線があるということを説明し、私達は元々放射線に囲まれた中で生活していたとでも思わせるような説明があります。また、国際基準では1ミリシーベルトであるが、それは一回のCT検査で直ぐに超えてしまう数値である等の説明もあり、放射線をそんなに心配する必要がないように思わせるような記載です。ホームページには「現在福島県の居住スペースにおける放射線量は相当限られており、空気中には放射性物質セシウムは存在しない。だから、呼吸して放射性物質を吸い込むことはない」ともあります。これは、福島はもう安全であるということでしょうか?


渡辺悦司[日本]回答:
 福島および周辺諸地域における放射線被曝状況に関して、福島からの避難者であるK氏あてにご質問いただき感謝いたします。お返事を代筆させていただいておりますのは、日本の放射線被曝に反対する市民・科学者グループ、市民と科学者の内部被曝問題研究会(ACSIR)の会員であります、渡辺悦司です。どうかよろしくお願いいたします。
 まず第一に、日本の多くの反核活動家と、福島や関東などの汚染地域からの避難者たちは、世界中の人々に、日本政府が、放射線一般について、また2011年3月11日の東日本大震災・津波に引き続いた福島第一原子力発電所の核災害(以下福島事故と表記)が引き起こした放射線の健康影響について、述べている言説を決して「信用しない」よう警告してきました。
 安倍晋三首相を先頭に日本政府と福島県などは一体となって、はっきりと何度もくり返し断言し強調してきました――「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くない」(安倍首相の記者会見での外国人記者への発言)と。この発言、下記の日本の政府ウェブサイトにありますのでご参照ください。
  http://japan.kantei.go.jp/96_abe/statement/201309/07argentine_naigai_e.html
 このような主張は完全な嘘でありデマです。日本政府のこれらの主張は、歴史的に蓄積されてきた数多くの放射線科学と疫学の研究成果を公然と否定し踏みにじるものです。このような行動によって、日本政府は国内的にも国際的にも世論を組織的に欺瞞しているのです。
 福島事故の間に放出された放射能の量について考えれば、これが嘘であることはおのずと明らかです。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量です。日本政府は、福島事故が、広島原爆が放出したCs137の168発分を放出したというデータを公表しています(これは過小評価ですが)。これが何の健康影響をもたらさないというのが日本政府の見解です。
 この福島事故による放出量は、アメリカがネバダ核実験場で行った全大気中核爆発による放出量とほとんど同じ規模です。核実験が行われたネバダ砂漠は、居住が推奨される住宅地域に指定されてはいません。日本政府はこれと正反対の立場をとっています。事故原発周辺から避難した住民に対して、最高20mSv/年の放射線レベルの地域に帰還して住むことを勧めています。勧めるだけではありません。日本政府は、今まで行われてきた避難者への経済的な援助を切り捨てることによって、これらの地域から避難した多くの人々が、ネバダ核実験場同様の汚染地域に帰還して居住するほかないようにしています。
 われわれの推計によれば、福島事故では、広島原爆のおよそ400〜600倍のCs137が放出されました。事故で放出されたCs137のおよそ20%、すなわち広島原爆80〜120発分が、日本に降下・沈着しました。そのうち、除染作業により回収できたのは、広島原爆のおよそ5発分だけです。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっています。言い換えれば、広島原爆75-115発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、残っていることを意味します。
 そのうえ、日本政府は、現在、この広島原爆5発分についても、日本中の公共事業で8,000Bq/kg未満の除染残土を再利用する計画を立てています。これは、自国民を滅ぼすような集団自殺的計画ですが、現在、「風評損害を避ける」という口実の下で、再利用される場所を住民に知らせることなく、なし崩しに始まっています。このプロジェクトは、およそ広島原爆5発分の「死の灰」に相当するCs137を、日本全国に拡散することに等しいのです。日本政府は、危険な核物質を住民に対してバラ撒くという文字通りの核テロリストとして行動していると言われても仕方ありません。これが日本政府のやり方なのです。
 そもそも、ネバダ核実験場のように汚染された福島県と周囲地域が、本当に、住民が永久に居住・生活し外国人観光客が観光に訪れるのに安全な場所であると考えられますか?たとえば、日本政府の帰還の基準は年間20mSv(以下20mSv/年と表記)ですが、全住民が毎年4-5回もCTスキャンを受けることなど考えられますか?しかも、最近の疫学調査では、CTスキャン1回(およそ4.5mSv照射)ごとに、子供たちのガンの危険性が24%増すこと明らかに示されています。以下のウェブサイトを参照してください。
  http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360 
 また日本政府が無視しているのは、「ホット・パーティクル」の特別な危険性です。すなわち粒径がミクロン・サイズあるいはナノ・サイズの放射性微粒子が吸入され人体に吸収される場合、がんや心不全を含む多くの種類の病気をもたらす長期におよぶ危険性です。放射性微粒子とくに不溶性微粒子による内部被曝は、外部被曝よりもおよそ20〜1,000倍も危険であると考えなければなりません。それは、放射性微粒子は、極めて近傍から、あるいは細胞そのものの内部で、放射線を照射することによって、DNAその他ミトコンドリアのような細胞器官に集中的な損傷を引き起こすからです。
 日本政府がしばしば、「低線量被曝の安全」を宣伝するために使う主要な方法の1つは、人工放射能を自然放射能と比較することです。しかし、この論理は、人々をだますトリックです。
 明かなことは、自然放射能による被曝も固有の健康リスクがあるということです。がんは、人工放射能が使われるずっと前から人間の死因の一つでした。自然放射能にも放射能に固有の健康リスクがあるのです。人工放射能に起因するリスクは、自然放射能のリスクに対比・比較されて終わりにはなりません。それは、自然放射能によるリスクの上に付け加えられなければなりません。それらの両方が被曝リスクの蓄積につながるからです。
 たとえば、カリウム40(K40)は、典型的な自然に存在する放射性核種です。日本政府によると、K40からの成人の平均の内部被曝量は、およそ4,000Bqまたは0.17mSv/年です。下記の日本政府のウェブサイトを参照してください。
  http://www.kantei.go.jp/saigai/pdf/g31_siryou5.pdf
 国際放射線防護委員会(ICRP)リスク・モデル(2007年勧告)を使えば、K40によってもたらされるリスクを大まかにですが推定することができます。計算すれば、K40が日本で毎年およそ4,000例のがんの発症と1,000人のがん死をもたらしていることが示されます。人工放射線源によって、これと同一の放射線量が人体で加えられるならば、がんの発症とがん死は2倍になり、1年につき8,000例と2,000人となるでしょう。欧州放射線リスク委員会ECRR(2010年勧告)のモデルは、ICRPモデルを40分の1という大きな過小評価であるとして批判しています。ECRRに依拠すれば、これらの予測は、それぞれ40を掛けて、32万例と8万人に達することになります。
 引用されておられる福島県ウェブサイトは「福島では、屋内の放射線量は現在非常に低くなっており、放射性セシウムは空気中には存在せず、放射性微粒子は呼吸によっては体内に侵入することはない」と述べています。完全なフェイク・ニュースです。
 市民が運営する放射能測定所の多くの測定結果はこの主張を論駁しています。たとえば、いわき市(福島県)において2015年10月〜12月に電気掃除機の使用済み紙パックの放射線量の測定で、4,800〜5万3,900Bq/kgの放射性セシウムが観測されています。最大で5万4,000Bq/kgが吸引される室内を、行政の権力をバックに「放射性セシウムは空気中には存在せず」「放射性微粒子が呼吸によって体内に侵入することはない」と表現することは、デマゴギー以外の何物でもありません。下記のウェブサイトを参照してください。
  http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf
 遺憾ながら、居住者と観光客にとって、福島の状況は決して安全では「ない」と結論しなければなりません。

質問2:
 引き続きこの福島県のホームページと記載内容に関連することです。「日本は事故発生後、放射性物質ヨウ素とセシウムの暫定基準値を定めました。更に福島県は、基準値を超えた商品に対して厳しく流通と摂取の制限をしています。現在、新しく設定された基準は暫定基準値に比べて更に厳しい基準値となっています。この新基準値を超えた食品は、引き続き流通と摂取の制限を受けているため、市場に出回っている食品はすべて安心して食すことができます。実際に、福島県では今まで約17万人の市民に対し内部被曝の検査を行ってきたのですが、セシウムが検出された人はほとんどおりません。」と記載されています。これは、私たちは安心して福島の食べ物を味わっていいということでしょうか?福島の方々は、内部被曝していないのでしょうか?

回答:
 これは、日本政府によるデマ宣伝の典型的事例の一つです。曖昧な表現で、具体的なデータなしに、明確な説明もせず、「安全で安心だ」と決めつけるのです。実際、日本政府は、住民の重大な被曝を示しているデータは一切公表していません。たとえば、指摘されておられる、福島の住民17万人のホール・ボディー・カウンター(WBC)検査によって放射性Csが検出されたケースが極めて少ないとされている福島県のウェブサイトの内容ですが、日本語版で調べてみました。
  http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-wbc-kensa-kekka.html
 2017年11月までに約33万人がWBC検査を受けています。ところが、福島県による検査結果は、ベクレル(Bq)ではなくミリシーベルト(mSv)の単位で公表されており、しかも最低が1mSvで切られています。1mSvを超えたのはわずか26人とされていますので、これが「セシウムが検出された人はほとんどいない」という評価になっていると考えられます。
 では、WBCの測定値1mSvはBqに換算するとどうなるかというと、福島県の文書(下記7ページ)でこっそりと触れられており、セシウム137・134合計で5万1,000Bqです。
  http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/6497.pdf
 ですから、何と5万Bq超のセシウムが体内に検出されなければ、すべて1mSv未満として、事実上不検出扱いとなる公表形式に最初からなっているのです。
 福島県のデータで3mSv以上被曝した人が2人いますが、これは15万Bq超の被曝量です。2〜3mSvすなわち平均およそ13万Bqの被曝量の人は10人、1〜2mSvすなわち平均およそ8万Bqの被曝量の人は14人いるということです。
 ユーリー・バンダジェフスキー氏のラットを使った実験では、1kgあたり991Bq程度のセシウム137の濃度を与えると、多臓器不全により40%が死んでしまいます(『放射性セシウムが人口学的病理学的影響』合同出版72ページ)。人間のリスクに換算してみますとおよそ600Bq/kg程度です。ですから、人間の標準体重60kgで3万6000Bq程度です。ですから、政府・福島県の言う「内部被曝1mSv」は、半数致死量となる可能性があるのです。
 ですから、福島県のホームページのデータそのものが、県当局の評価とは正反対に、恐るべき被曝事実を示しているといわなければなりません。
 日本政府は、食品の放射能汚染に関して真実を隠蔽しようとしてきました。なによりもまず、日本政府が定めている現行の食品の放射線基準(100Bq/kg)は高すぎ(つまり緩すぎ)、人間の健康にとって、とくに胎児、幼児、子供たちと妊婦にとって、危険なものです。事故から6年半が経って頻度は下がっていますが、日本中の多くの市民放射能測定所だけでなく、日本の農林水産省でさえ、多くの食品の放射能汚染の事例を報告しています。以下のウェブサイトを参照してください。
  http://en.minnanods.net/
 日本政府は、内部被曝の危険性を一貫して過小評価しています。この場合、われわれは2つの重要な要因を考慮しなければなりません。
 第1に、個人の放射線感受性の違いが極めて大きいことです。本行忠志教授(大阪大学医学部)によると、Cs137の生物学的半減期をベースに評価した場合の放射線感受性の個人差は100倍にもなります。
 第2に、体内に入った放射性物質は、いわゆる生物学的半減期による指数関数カーブに従って減少するとされてきましたが、実際にはこれを否定する新しい研究が存在することです。新しく提起されているモデルによると、汚染した食品を日々摂取すると、放射能濃度が時間経過と共に蓄積していく可能性が示唆されています。食物の摂取によって1日1Bqの内部被曝が毎日積み重なっていけば、人間の健康にとって決して安全ではありえません(詳細は以下に述べます)。
 われわれは、海外の皆さまが、福島および周囲地域産の食品・農産物に対して、たとえ汚染レベルが今は一般的に減少したと言われているとしても、細心の注意を払われ、性急にもそれらの食品全体が完全に安全で安心して食べられるというような結論を導くことのないようにお勧めいたしたいと存じます。

質問3:
 福島県以外に、近隣県について伺いたいです。台湾の公共テレビは、以前「近隣県である栃木は、原子力発電所から遠く離れているだけでなく、5年間様々な関連対策がなされてきたため、栃木県の安全性に対して、日本国内における疑心は既に存在しない。栃木、群馬において、放射能の影響を心配する声は殆ど無い。」と報道しました。福島第一原子力発電所から距離がある都道府県は、安全であり、リスクは無いということでしょうか?

回答:
 福島周辺諸県の放射能汚染に関しては、以下のウェブサイトをご参照ください。
  http://www.gowest-comewest.net/statement/20170825english.html
 この記事は、首都東京圏の汚染を検討したものです。しかし、栃木または東京以北の県でも、状況はほぼ同じであるか、事故を起こした福島第1原発に近いのでより深刻であるかです。
 
質問4:
 台湾の公共テレビをはじめ、一部の香港・台湾メディアは、福島県と近隣県の農家の放射能除去の取組を紹介しました。
  http://ourisland.pts.org.tw/content/%E6%A0%B8%E9%A3%9F%E8%83%BD%E5%AE%89ii#sthash.JmkvSxYu.dpbs
 「土壌表面の放射線量を測定し、農園の放射線地図を作成する。高圧洗浄機で樹木表面を一本一本洗浄し、放射性物質を流す」というものでした。また、これらの農家の努力は、科学的にも成果を得ているが、消費者が不安と感じる為に、売れないという話しをしていました。日本の放射能汚染された食べ物につきまして、これは消費者が信じるか信じないかだけの問題なのでしょうか?


回答:
 政府による除染作業にもかかわらず、山岳や山林や山間地に降下・沈着した大量の放射性物質が手つかずのままであるという問題があります。事故原発からの放出も止まっていません。現在、それらの放射性物質は、風、自動車、列車、川水、花粉、胞子、焼却炉排出物を通じて、とりわけ放射性の塵や微粒子の形態で、福島や周辺諸県の広い範囲の地域に、再飛散・再降下しています。例えば、以下のウェブサイトを参照してください。
  http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/M-AG38_all_e.pdf
 したがって、言及されておられるこれらの農家の努力は非常に貴重で立派なものではありますが、食品からの放射線被曝の危険性を完全に取り除くことはできません。問題は、土壌、藻類、植物、家屋、建物、森林、動物と人体の中に沈着した核物質として客観的に存在します。消費者の感情や心理や考え方の中に主観的な形で存在しているのではありません。

質問5:
 質問4と関連してですが、一部の台湾メディアでは、カリウムを含む肥料を用いてセシウムを除去する栽培方法を紹介しました。石井秀樹、五十嵐泰正という日本の学者が推薦していました。聞いたことありますでしょうか?それは、効果があるものなのでしょうか?どこか疑わしい部分は無いでしょうか?カリウムの肥料を使いセシウムを除去したとしても(研究によると、減少させることのみ可能で、完全に除去は不可能となっている。)、ストロンチウムの汚染があるはずです。日本政府が台湾に対して行ってきた福島原発関連の宣伝において、私たちはストロンチウムについての情報を聞いたことがありません。ストロンチウムの汚染に関連する情報をお持ちでしたら、ご教示いただけないでしょうか?

回答:
 言及されておられる日本の専門家たちの名前は知りませんでした。おそらく一般公衆のなかにある「ゼロ被曝リスク」志向こそが福島復興に対する障害であると批判してきた専門家たちのグループに属する人たちだと思われます。
 ご承知の通り、セシウム(Cs)は化学的にカリウム(K)に似た特質があります。ですから、カリウム肥料の使用量を増やせば、それに応じて植物が放射性セシウムを吸収するのを抑えることができます。耕作地の汚染度を大きく下げることができなくても、農産物中のセシウム濃度を減らすことができます。こうして、カリウム肥料の通例を超える多用によって農産物の放射能汚染度を100Bq/kgという政府の基準値未満に引き下げることが可能です。
 しかし、問題は残ります。つまり、この方法では:
 ①土壌セシウムの植物への移行を完全に防止することはできず、部分的に妨げることができるだけです。
 ②農産物中のカリウム濃度を上昇させますので、人間がそれを摂取すると、体内のカリウム濃度の維持とホメオタシス(恒常性)に貢献している腎臓や心臓や神経系のような一連の臓器の負担を高めます。すなわち、高カリウムという新たな健康リスクを引き起こす可能性があります。
 ③体内のカリウム濃度が高くなれば、放射性のK40の濃度も比例して高まります。ですから、放射性セシウムの危険性は減少しますが、K40による内部被曝の危険性は、リスクの相違(セシウムより小さい)はありますが、その結果として増加します。
 残念ながら、お求めのストロンチウムに関する情報は非常に限られています。それを探し出すことはわれわれにとっても困難な課題です。日本政府と政府傘下の研究機関は、ストロンチウム汚染について、非常に限られたデータしか報告していません。しかし、日本政府が福島事故原発から80km以内のストロンチウム汚染の事実を認めていることは、重要です。以下のウェブサイトを参照してください。
  http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5048/24/5600_110930_rev130701.pdf
日本の土壌のストロンチウム汚染に関しては米国エネルギー省のデータがあるのをご存知でしたでしょうか?これにはデータを可視化したウェブサイトもあります。以下をご覧下さい。
  https://energy.gov/downloads/us-doennsa-response-2011-fukushima-incident-data-and-documentation
https://news.whitefood.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%81%A8%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%86%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/1861/


質問6:
 放射線量についての質問です。日本の学者五十嵐泰正は、「日本政府は、100ミリシーベルト(mSv/年)以下の放射線が体に与える影響は確認されていない。」と話し、彼が協力している農家では、日本政府が定めた100ベクレル/キロ基準よりも遥かに低い20ベクレル/キロ基準を設定しているそうです。
  http://e-info.org.tw/node/205442
 これは、100ミリシーベルト以下及び20ベクレル/キロ以下は、安心できる数値であるということでしょうか?


回答:
 ご指摘のように、日本政府は、100mSv以下の被曝が人間への健康影響を及ぼすことは、いかなる科学的研究によっても確認されていないと主張しており、100mSv未満の被曝は危険がないと示唆しています。
 しかし、これは虚偽の主張です。政府当局は情報をねつ造していると言うほかありません。
 実際には、すでに非常に多くの科学的研究が、100mSv未満の被曝によって生じる健康影響を確認し証明しています。たとえば、以下のウェブサイトを参照してください。
   https://ehp.niehs.nih.gov/1408548/
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24198200
   http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3050947/
   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2696975/
 しかも日本政府は、「100mSv」という語を、意図的にあいまいな形で、人々を混乱させる仕方で用いています。100mSvという表現には3つの意味を持たせることが可能です:①一回の被曝量、②累積被曝量、③年間被曝量です。ご指摘の「100mSv」は、括弧内で言及しておられる「100mSv/年」とは同一物ではありませんし、等しくもありません。100mSv/年は、累積被曝量では、10年間で1Sv(人間の10%未満致死量相当)に、40年間で4Sv(同50%致死量相当)に達します。
 現在政府が避難者を帰還させる基準としている20mSv/年は、△領濱冏鑁量で言えば、そこに5年間居住すれば日本政府がはっきり健康リスクがあると認めている100mSvに達することになります。日本政府は、この点に沈黙しています。
 一部の農家の個人的な食品基準としての20Bq/kgに関して言えば、体組織からのセシウムの排出過程に注意を払うことが決定的に重要です。体内に入ったセシウムの濃度の減少は、一般に想定されている生物学的半減期による指数関数カーブに従わない可能性があるのです。カナダ在住の著名な無機生物化学者落合栄一郎氏は、何度も来日して講演されていますが、自著Hiroshima to Fukushima, Biohazards of Radiation (2014)の中で、前述のレゲット・モデルに基づいて、一度に体組織の中に入ったセシウムの濃度が、大部分の組織について、およそ10日間は比較的速く減少するが、その後、減少過程は減速し、停滞する傾向があると指摘しています(83ページ)。これは、Csの連続的な摂取が、たとえ非常に低い量でさえ、体内でCsの持続的蓄積という結果になることを意味しています。(ちなみに、落合氏の本は、無料で以下のウェブサイトからダウンロードすることができます。)
  https://archive.org/details/HiroshimaToFukushima
 レゲット・モデルに関しては下記のウェブサイトを参照してください。
  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14630424
 チェルノブイリ事故による健康影響を詳細に分析したユーリー・バンダジェフスキー氏は、体内での放射性セシウム濃度が10Bq/kg以上になると安全ではないとしています。この低いレベルさえ、乳幼児に心電図異常を引き起こし、代謝性障害や高血圧や白内障その他を引き起こすことがありうるからです(同氏による2012年3月18日の日本での医師向けセミナーの資料による。大和田幸嗣「内部被曝の危険性」『原発問題の争点』緑風出版)。
 したがって、われわれは、政府の言う100mSv未満の被曝も、農家が独自に設定した20Bq/kgの食品基準も、安全・安心では「ない」と明解に結論することができます。
 ご質問と台湾・香港の状況をお知らせいただき、本当にありがとうございます。核のない世界を実現するための皆さまのご尽力・闘争に連帯の挨拶を捧げたいと存じます。


追加質問1:
 カリウム40やセシウム137は、異なる放射性物質ですが、人への影響に関しまして、同じリスクモデル計算を使用することができるのでしょうか?

回答:
 基本的にはできません。ですが、実際には、つまり実務的には、同じモデルを使って、その後、セシウム137の場合のリスクの大きな過小評価を補正するほかありません。
 ご指摘の通り、ICRPリスクモデルを使う場合には、カリウム40もセシウム137も、線量に応じて同じリスクとして評価されます。しかし実際には、同じように内部被曝であっても、リスクは同じではありません。
 カリウム40は、水溶性で、体内にかなり一様に拡散しますので、被曝もかなり均一になり、外部被曝に近くなります。他方、セシウム137は、とくに不溶性の放射性微粒子(炉心のメルトダウンと爆発により大量に生じました)として体内に侵入してきた場合、危険性は極めて高いと考えなければなりません。福島原発事故では、セシウム137の放射能量の約半分は、このような不溶性の微粒子、残り半分はイオンと考えてよいでしょう(佐藤志彦氏ら、地球惑星科学連合大会2016での報告)。
  https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2016/subject/MAG24-P01/detail
 このような不溶性微粒子は、周辺の細胞に放射線を長期にわたり集中的に照射するので、被曝量は桁違いに大きくなります。しかも排出されにくく、長期に体内に留まります。ECRRは、このような不溶性微粒子による内部被曝の危険性(生物物理学的損害係数)を、カリウム40による内部被曝の20〜1000倍と評価しています(ECRR勧告日本語版95ページ)。さらにECRRは、セシウム137が2段階壊変しベータ線とガンマ線を照射するので、危険度をさらに20〜50倍としています。つまり400〜5万倍と考えるべきでしょう。
 セシウム137は、体液に溶解した場合でも、カリウムよりイオン径が少し大きく、カリウム・チャンネルを通過するのですが、その通過速度が極めて遅く、それによって濃縮され、心臓や腎臓その他の特定の臓器に蓄積されます。
 もう一つは、壊変後の毒性の違いです。カリウム40もセシウム137も、放射線を放出して他の元素に変わりますが、その壊変後の元素の毒性の違いも、リスクの大きさに加わります。
 つまり、カリウム40は、ほとんどが体内に多くあるカルシウムに、1割程度が不活性なアルゴンに変わりますが、両方とも毒性はほとんどありません。
 他方、セシウム137は、放射線を出してバリウムに変わりますが、バリウムには細胞のカリウム・チャンネルの機能を阻害する働きがあり、毒性があります。とくに、カリウム・チャンネルが重要な役割を果たしている心臓や神経系などの情報伝達に、機能障害を生じさせる可能性があります。
 このように、化学的には性質の似ているカリウム40とセシウム137は、その放射線学的危険性において大きく異なり、セシウムの方が桁違いにリスクが大きいのです。


追加質問2:
 私達は、ICRPは広島の原爆の数値を元に定められ、人工放射線のみに限るものと存じております。カリウム40は自然放射性核種です。
 しかし、カリウム40は体内に存在するカリウムチャネルによって処理され、一定の濃度以下に保たれます。人工放射性核種セシウム137の体内での状況とは異なります。この2つの異なる核種を、同じ放射線リスクモデルで換算し、語ることは可能なのでしょうか。
 香港と台灣では、天然放射線は大した問題ではないという宣伝が満ち溢れています。そのうえ、カリウムは人類にとって必要なものであり、多く摂取しても問題ないという見解が存在します。カリウム40のリスクに関する研究をご存じでしたら、ご教示いただければと存じます。


回答:
 ご質問の点、以下のように考えております。
 (1)ご指摘の「K40は、体内に存在するカリウムチャネルによって処理され、一定の濃度以下に保たれます」という点、その通りです。ですから、K40による被曝は、体内でほぼ一様になり、外部被曝の場合に近くなります(同じではありませんが)。つまり、ICRPがリスクモデルの前提としている外部被曝と同一のモデルを適用しても、それほど現実とかけ離れないと考えられます。以上が、私が自然放射線のリスクを推計するために、ICRPモデルを適用可能と考え、その補正によって現実の被曝リスクに接近できると判断した理由です。
 (2)もちろん、K40には、体内で、(a)がんをもたらす遺伝子変異の蓄積や細胞老化の促進などネガティブな作用と共に、(b)一様に活性酸素を産生し、体内の異物や毒素の分解を促すというようなポジティブな作用も、同時に果たしている可能性も否定できません。
 生物進化の結果、このようなK40をめぐるプラスとマイナスの微妙なバランスが、生体内で成立している可能性は、否定できません。ただ、この場合でも、K40のネガティブな(a)の作用は必然的に生じるので、K40が「心配ない」「問題ない」ということにはなりません。まして、K40と同程度(4000Bq、年間0.17mSv)までのCs137/134の体内への摂取は「安全」「心配ない」というようなことには、決してなりません。
 Csの場合には、被曝の様式が異なりますので、前に書きましたように桁違いのリスク(ECRRによればK40の20〜1000倍)になります。
 (3)「カリウム40のリスクに関する研究」はないかとのご質問ですが、私のK40や自然放射線についての議論は、ジョン・W・ゴフマン氏の『人間と放射能』(日本語版)、原著John W Gofman; Radiation and Human Health 1981に基づいています。その第18章第1節が、自然放射能によるがん死数推計に充てられています(日本語版)。K40のリスクについても含まれています(481〜483ページ)。
 ゴフマン氏は、自然放射線それ自体の危険性をはっきりと指摘し、自分のリスクモデルを自然放射線にも適用し、「地球起源の放射線による被曝とがん死数」を、全米で年間4万7500件ほどと推計しています。うち、K40は、地球起源の放射線による被曝量全体の33.7%を占めているとしています。
 ここからは、私の計算ですが、K40による被曝がもたらしているがん死数は、全米で年間約1万6000件程度になります。現在の日本の人口を当時のアメリカの半分くらいとすると、日本についてはおよそ年間8000件ほどとなります。ですから、ICRPリスクモデルが自然放射能にも適用できると「仮定」(もちろん私が行った仮定ですが)して計算した、年間約1000件というリスクは、過小評価ではあっても、決して法外な推計やリスクの過大評価ではありません。
 (4)これには、他のやり方もあります。ここでは詳論できませんが、日本における住民の平均被曝量5.97mSv/年(政府が発表している自然放射線プラス医療用など人工放射線)と、年間のがん死総数(事故直前年)35万3500人から、仮にがん死がすべて放射線によるものであったと仮定した場合のリスク係数が計算できます(約4700/1万人・Sv)。
 ICRPのがん死のリスク係数(450/1万人・Sv)は、ちょうど10分の1程度です。ですから、現に起こっているがん死の1割程度が放射線関連、さらにその3分の1(3%程度)が自然放射線関連だということになります。
 これによっても、ICRPモデルを使用することに、不自然さはありません。もちろん、ICRPのやり方で計算すると、どうしても放射線によるがん死者数などは過小評価になってしまいますが。台湾の統計に基づいてもやってみてください。

謝辞:この文章を作成するにあたってご協力いただいた、台湾のフリージャーナリスト宋瑞文氏、GoWest-
ComeWestの会の皆さま、とりわけK氏と石津望氏に、また事前に内容をチェックいただいた山田耕作・遠藤順子両氏に、深く感謝いたします。

The Japanese Government Is Lying to the International Community: the Radiological Situation in and around Fukushima is NOT Safe Etsuji WATANABE

Nov. 2017
 

The Japanese Government Is Lying to the International Community: the Radiological Situation in and around Fukushima is NOT Safe

Appeal from a Japanese Anti-nuclear Activist
Etsuji Watanabe
Nov.29 2017 Revised (Oct.12 2017)


 
〖Please download the following link.〗
The Japanese Government Is Lying to the International Community: the Radiological Situation in and around Fukushima is NOT Safe(pdf,15pages,2250KB)
 

Etsuji Watanabe: Member of the Japanese anti-radiation citizen-scientist group ACSIR (Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures)
Special thanks to Mrs Yuko Kato, Mr Ruiwen Song, Ms Nozomi Ishizu, Mrs Kurly Burch, Ms Jennifer Alpern, and Mark Bennett
Yuko Kato: Evacuee from Fukushima, member of the Kansai plaintiff group for compensation against TEPCO and government
Ruiwen Song: Taiwanese freelance journalist


The Japanese government has created foreign language websites which provide the information about radiology in general and the radiological situation in Fukushima. Journalists around the world, our friends and acquaintances living abroad are continually asking us whether the information that these Japanese central and local government websites present to the international community is correct or not. The following is our answer.

[Question 1]
The stories uploaded on these websites give people the impression that worrying about radiation is unnecessary. As for this impression, has Fukushima now really become a safe place to live or visit?


[Answer]
First of all, Japanese anti-nuclear activists and evacuees from contaminated areas in Fukushima and Kanto, have been warning people all over the world NEVER to trust what the Japanese government is saying about both radiology in general and the specific radiological health effects caused by the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant disaster (hereafter Fukushima accident) following the Great East Japan Earthquake and Tsunami on March 11th, 2011.

Prime-minister Shinzo Abe and the Japanese government as a whole including Fukushima prefectural government have repeatedly declared that "with regard to health-related problems (of the Fukushima accident), I (Abe) will state in the most emphatic and unequivocal terms that there have been no problems until now, nor are there any at present, nor will there be in the future." (Abe's statement at a news conference). See the Japanese government website below.
http://japan.kantei.go.jp/96_abe/statement/201309/07argentine_naigai_e.html

This claim is completely fabricated and false. In making these claims, the Japanese government is blatantly ignoring the vast number of studies in radiological sciences and epidemiology that have been accumulating historically. By engaging in this behavior, the Japanese government has been systematically deceiving the public, both nationally and internationally.

Just think of the amount of radioactivity released during the Fukushima accident. As you know, one of the standards used to assess the extent of radioactive releases and longtime human health effects is the levels of cesium 137 (Cs137) released into the environment. Based on the Japanese government data (which is an underestimate), the Fukushima accident released 168 times the Cs137 discharged by the atomic bomb dropped on Hiroshima. This amount is almost the equivalent to the total atmospheric nuclear explosions conducted by the United States on the Nevada test ground. The Nevada desert is not designated as a residential area, but the Japanese government has recommended evacuated residents return to live in areas with radiation levels of up to 20 mSv/year. By removing economic support for evacuees, the Japanese government has forced many people who had evacuated from these areas to return.

We estimate that in the Fukushima accident approximately 400-600 times the Cs137 were released into the atmosphere by the atomic bomb blast in Hiroshima. Roughly 20% of the Cs137, or 80-120 Hiroshima-equivalents, were deposited on Japan. Of this, the decontamination efforts have only been able to retrieve five Hiroshima-equivalents. The waste from decontamination efforts is typically stored all over Fukushima mostly in mountainous heaps of large plastic bags. This means that 75-115 Hiroshima-equivalents of Cs137 still remain in Fukushima, surrounding prefectures, and all over Japan.









In addition, the Japanese government is now planning to reuse the retrieved contaminated soil under 8000Bq/kg in public works projects all over Japan. This self-destructive program has now been partially started without any announcements as to where the contaminated soil are and will be reused, under the pretext of "avoiding damage caused by harmful rumors". This project is tantamount to scattering lethal fallout of Cs137 equivalent to about 5 times that of Hiroshima bomb all over Japan. The Japanese government is literally behaving like a nuclear terrorist.

Do you really imagine that Fukushima prefecture and surrounding areas, contaminated as they are to levels similar to the Nevada test site, is really a safe place for people to permanently live, or for foreign tourists to visit and go sightseeing?

Regrettably, we must conclude that it is not, for either residents or tourists the situation in Fukushima is not safe.


[Question 2]
These websites also point out that the international annual dose limit for the public is at 1mSv, but this level is easily exceeded by only one CT-scan, insinuating that this 1mSv standard is set too low and thus not a useful indicator.


[Answer]
CT-Scans are often cited as if they had no radiation risks, But this is not true. A recent study clearly shows that every CT-scan (about 4.5mSv irradiation) increases the risk of cancers in children by 24%. See the website below.
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
In Fukushima the allowable level of radiation per year for residents is now 20mSv. Can you imagine having 4-5 CT-scans every year?


[Question 3]
One of the websites states: "In Fukushima, the indoor radiation doses are now so reduced that no radioactive cesium can be found in the air. Therefore, no radioactive particles can invade the human body during breathing." What do you think of this statement?


[Answer]
The Japanese government also ignores the long term peril caused by "hot particles" ――micron-and- nano-sized radioactive particulates――which, if inhaled or absorbed into the human body, may lead to many kinds of cancers and other diseases including cardiac failure. We should consider internal irradiation to the cells near the radiation sources to be 500 times more dangerous than external irradiation because particles inside the body radiates very near or even inside cells, causing intensive damage to DNAs and other cell organs such as mitochondria.


[Question 4]
These websites explain that there exists not only artificial but also natural radioactivity, thus people are living in an environment surrounded by radiation all the time in everyday life.


[Answer]
One of the main tactics that the Japanese government often uses to propagate the "safety of low level irradiation" is to compare artificial radioactivity with natural radioactivity. But this logic is a methodological sleight of hand. It is crystal-clear that even exposure to natural radioactivity has its own health risks. Cancers sickened and killed people long before artificial radioactivity was used. For example, Seishu Hanaoka, one of the founders of Japan's medicine, carried out 152 breast cancer surgeries from 1804 to 1836.

Both kinds of radioactivity have their own health risks. Risks caused by artificial radioactivity should not be compared but be added to the natural radioactivity risks as they both lead to the accumulation of exposure.

For example, potassium 40 (K40) is a typical natural radioactive nuclide. According to the Japanese government, the average internal exposure dose for adults from K40 is about 4,000Bq/year or 0.17mSv/year. See the website below (in Japanese).
http://www.kantei.go.jp/saigai/pdf/g31_siryou5.pdf

The ICRP risk model (2007) allows us to estimate the approximate risk posed by K40. The calculation shows that K40 is responsible for approximately 4,000 cancer cases and 1,000 deaths every year. If the same amount of radiation was added to that of K40 in the human body by artificial sources, the cancers and mortalities would be doubled to 8,000 and 2,000 a year, respectively. Based on the ECRR (2010) model, which criticizes the ICRP risk model as a severe underestimate, these figures should be multiplied by 40, reaching 320,000 and 80,000, respectively.

The extract you cite from the Fukushima government website is completely fake: "In Fukushima, the indoor radiation doses are now so reduced that no radioactive cesium can be found in the air. Therefore, no radioactive particles can invade the human body during respiration". Reports from civic radiation measurement stations refute this claim. For example, dust collecting paper packs of vacuum cleaners used in Iwaki City, Fukushima prefecture, are radiologically measured and 4,800-53,900Bq/kg radioactive cesium was detected in Oct-Dec 2015. See the website below (in Japanese).
http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf


[Question 5]
One of the websites says that the Fukushima prefecture has conducted whole-body counter screenings of the 170,000 local population so far but cesium was rarely detected." Does this mean that we can safely consume food from Fukushima, and Fukushima residents are no longer being exposed internally to radiation?

[Answer]
This is a typical example of demagogy by the Japanese government: vague expressions lacking specific data, using the words "safe and secure" without clear explanation. In reality, the government has not publicized any data indicating serious irradiation of the population. For example, you mentioned the Fukushima prefectural government website saying that whole-body counter screenings of 170,000 members of the local population have found radioactive Cs only in very few cases. However, the fact that no specific number is given makes the statement suspicious.

These statistics, more than likely, exclude many firefighters or other municipal employees who, at the time of accident, helped local residents evacuate from a lot of contaminated areas surrounding the defunct Fukushima plant. These people were subjected to serious radiation doses.

Civic groups' efforts for the disclosure of information has recently prompted city officials near the defunct plant to disclose the fact that it conducted whole-body counter check-ups on about 180 firefighters, nurses and municipal employees. According to Koichi Ohyama, a member of the municipal assembly of Minami Soma, the screening conducted in July, 2011, showed almost all of these people tested positive in Cs. The maximum Cs137 dose among the firefighters was as high as 140,000 Bq. This data reveals a part of the reality of irradiation but it is only a tiny part.


[Question 6]
The government websites suggest that no health effects from irradiation have been reported in Fukushima. Is this true? Or have any symptoms appeared that indicate an increase in radiation-induced diseases in Fukushima?


[Answer]
One example is the outbreak of child thyroid cancer, but the Japanese government has been denying the relationship with irradiation from radioactive iodine released from the Fukushima disaster.

Japan's population statistics reflect the health effects from the Fukushima disaster radioactivity. The following data clearly show that diseases increasing in Fukushima are highly likely to have been radiation-induced.













[Question 7]
The Fukushima prefecture website says, "After the Fukushima accident, the Japanese government has introduced the provisional standards for radioactive iodine and cesium. The Fukushima prefectural government subsequently strictly regulated distribution and consumption of food with levels of radioactivity exceeding the provisional standards. Now we have had this new much stricter standard. The distribution and consumption of food exceeding this new standard has been continuously regulated; therefore any food on the market is safe to consume." Is it true?


[Answer]
As for food contamination, the Japanese government has also tried to cover up the real picture. First, the current government standard for radioactivity in food, 100Bq/kg, is dangerously high for human health, especially for fetuses, infants, children and pregnant women. Even six and a half years after the accident, the Agriculture Ministry of Japan as well as many civic radioactivity measurement stations all over the country have reported many food contamination cases, although the frequency is evidently reduced. See the website below.
http://en.minnanods.net/

The Japanese government has underestimated the danger presented by internal irradiation. But, we must consider two important factors. (1) The wide range of difference in personal radio-sensitivity. According to Professor Tadashi Hongyo (Osaka University Medical Faculty), the maximum difference is as wide as 100 times in terms of biological half-life of Cs137. (2) Recent studies denying that the so-called biological half-life decrease curve actually exists. According to the new model, daily food contamination can cause concentrations to accumulate as time passes. Even a daily 1Bq internal radiation dose from food cannot be safe for human health (details below).

Our recommendation is to be cautious of food or produce from Fukushima and the surrounding areas, and, even if contamination levels are said to have now generally decreased, to avoid jumping to the conclusion that all the food is fit to eat.


[Question 8]
We would like to ask about the situations in prefectures surrounding Fukushima. A television program once reported, "As for the safety of Tochigi and Gunma prefectures, few people are raising concern about health effects of radiation." Is it true that the prefectures somewhat distant from the Fukushima Daiichi plant are now safe with no human risk?


[Answer]
Regarding the radioactive contamination in prefectures surrounding Fukushima, you can refer to the following website.
http://www.gowest-comewest.net/statement/20170825english.html
This article examines the contamination in the Tokyo metropolitan area, but conditions are the same or more serious in Tochigi or other prefectures north of Tokyo, nearer to the defunct Fukushima Daiichi plant.

Another example is the statistics of stillbirth and neonatal mortality in Fukushima and the surrounding five prefectures (Tochigi, Gunma, Ibaragi, Miyagi, Iwate) shown below.


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5044925/

Perinatal mortality in not only Fukushima prefecture but also neighboring prefectures rose 15.6% just 10 months after the accidents. This clearly indicates the existence of some kind of human health damage from radiation.


[Question 9]
We would like to ask about the decontamination efforts by famers living in Fukushima and neighboring prefectures. Should we think highly of the farmers measuring the amount of radiation deposited on the surface of soil to create radiation maps for farms, or washing the radiation from the surface of every single tree off the radiation with high-pressure washers? The farmers said that while these methods have been shown to be radiologically effective, their produce did not sell well, because consumers are still feeling anxious about health risks. Does the problem of radioactive food contamination in Japan just end up in whether each consumer personally believes it safe or not?


[Answer]
We must raise a question that, despite the government's decontamination efforts, a huge amount of radioactive materials deposited in mountainous areas remain untouched. Now they are re-dispersing and re-depositing over wide areas of Fukushima and surrounding prefectures via winds, cars, trains, river water, pollen, spores, emissions from incinerators, in the form of radioactive dusts and particulates, among many others. For an example, see the following website.
http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/M-AG38_all_e.pdf

So I regret to say that, although these farmers' endeavors you mentioned are very precious and respectable, they are not sufficient to completely eliminate the risk of radiation exposure from food. The problem exists objectively in the nuclear materials deposited on and in soil, algae, plants, houses, buildings, forests, animal and human bodies, not subjectively in the consumers' sentiment or psychology.


[Question 10]
Japanese experts have recently pitched a cultivation method that can remove cesium by intensive use of potassium fertilizer. Is this method effective at all? Do you have any doubt about their claims?


[Answer]
They seem to be among those experts who have been criticizing the general public's tendency to demand "zero irradiation risk" as an obstacle to Fukushima reconstruction.

As you know, cesium (Cs) has chemically similar characteristics to potassium (K). So it is true that higher levels of application of potassium fertilizer lowers the plant's absorption, and therefore concentration, of radioactive Cs, decreasing Cs137/134 concentrations in produce, often to below the government standard of 100Bq/kg. But the following problems remain: (1) This procedure can prevent Cs transfer from the soil to produce only partly, not completely; (2) This process raises the potassium concentration in the produce and therefore heightens the burdens on certain human organs such as kidneys, the heart and the nervous system, causing new health risks; (3) Heightened concentration of potassium also leads to the heightened concentration of radioactive K40, so the reduced risk of radioactive Cs lead to an increased risk of internal irradiation by K40.


[Question 11]
Even if cesium concentration was reduced by applying more potassium fertilizer than usual, strontium contamination would remain. In Japanese government's international press campaign as to the Fukushima accident, almost nothing has been said about strontium. If you have any information on strontium contamination, let us know.


[Answer]
We regret that the information about strontium that you are asking for is very limited and searching for it is also a challenge for us. The Japanese government and research institutes under the government have reported very limited data regarding strontium contamination. But it is important that the Japanese government admits the fact of strontium contamination within 80km from the defunct Fukushima plant. See the website below.
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5048/24/5600_110930_rev130701.pdf

Did you know that the US Department of Energy data on the strontium contamination of soil in Japan and its visualization (in Japanese) can be seen on the websites below?
https://energy.gov/downloads/us-doennsa-response-2011-fukushima-incident-data-and-documentation
https://news.whitefood.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%81%A8%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%86%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/1861/


[Question 12]
Some Japanese experts say, "the Japanese government has declared that no health effects from irradiation below 100mSv (or 100mSv/year) have been confirmed." Some farmers have established a private food standard of 20Bq/kg, much lower than the Japanese government standard of 100Bq/kg. Do you think that doses under 100mSv or under 20Bq/kg are safe and secure?


[Answer]
As you mentioned, the Japanese government claims that no scientific studies verify that irradiation of 100mSv or less poses a threat to human health, suggesting that irradiation under 100mSv has no risk. This, however, is false. The government is fabricating this information. In fact, very many scientific studies have already confirmed and proven health effects induced by irradiation under 100mSv. For example, see the websites below.
https://ehp.niehs.nih.gov/1408548/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24198200
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3050947/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2696975/

The Japanese government is using the term "100mSv" in a deliberately ambiguous and confusing manner. The expression 100mSv can have three meanings: (1) a one-time irradiation dose, (2) cumulative irradiation doses, or (3) annual irradiation doses. So 100mSv is not the same as, nor equal to the 100mSv/year that you mentioned in parenthesis. The latter amounts to a 1Sv in cumulative dose over 10 years (which is an up to 10% lethal dose), and 5Sv over 50 years (which is a 50% lethal dose). The present government standard for evacuees to return, 20mSv/year, means that living there for 5 years leads to a cumulative dose of 100mSv, at which the Japanese government admits clear health risks.

Regarding 20Bq/kg as some farmers' private food standard, it is critical to pay serious attention to the extraction process of Cs from tissues. Japanese-Canadian non-organic biochemist Eiichiro Ochiai points out in his book "Hiroshima to Fukushima, Biohazards of Radiation" (2014) that, based on the Leggett model, the Cs concentration injected in tissues at one time diminishes relatively quickly for about 10 days in most tissues. After that, processes slow down, tending to become steady. He writes: the decrease of the overall Cs level in the body does not follow an exponential decay curve (p.83). This means that consecutive intake of Cs, even in very low levels, results in the accumulation of Cs in the body. (Incidentally, Ochiai's book can be downloaded for free from the website below.)
https://archive.org/details/HiroshimaToFukushima
Regarding the Leggett model, see the website below.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14630424

Yuri Bandazhevsky considers over 10Bq/kg of radioactive Cs concentrations in the body to be unsafe because even this low level can possibly cause abnormal electrocardiographic pattern in babies, metabolic disorders, high blood pressure, cataracts, and so on.

Therefore, we can conclude unequivocally that neither the irradiation under 100mSv nor the privately set 20Bq/kg food standard are safe and secure.

日本学術会議「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」報告書 全体の欺瞞的性格と現存被曝状況に対する科学者の責任について 渡辺悦司

2017年10月


日本学術会議「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」報告書
全体の欺瞞的性格と現存被曝状況に対する科学者の責任について

――批判シリーズ その1――


市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
2017年10月9日改訂



 
〖ここからダウンロードできます〗
日本学術会議「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」報告書全体の欺瞞的性格と現存被曝状況に対する科学者の責任について(pdf,13ページ,550KB)
 
 
 はじめに:現存の被曝状況に対する科学者と学術会議の責任について

 9月1日、「日本の科学者コミュニティの代表機関」を憲章に掲げる日本学術会議が、「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題―現在の科学的知見を福島で生かすために―」と題する報告書を発表した。それは読むものを唖然とさせる。
 そもそも、学術会議報告が問題にしている「放射線被ばく」とは何だろうか。学術会議は、1949年の発足以来一貫して原発推進政策を先頭に立って進めてきた。その原発推進の結果が、福島第一原発での重大事故と放射能汚染であり、福島とその周辺諸県の住民、東京・関東圏の住民ひいては日本国民全体を覆っている現在の被曝状況である。その放射線源は、過小評価された日本政府の発表でも、長期的影響を評価する際の指標とされるセシウム137ベースで、広島原爆168発分、そのうち日本の国土に降下したそのおよそ2割、広島原発約34発分である。つまり、学術会議報告が問題にしている「放射線被ばく」とは、いわば、学術会議自身が、原発推進に協力することによって、自分でつくりだした結果なのである。
 注:これは明かな過小評価であり、実際には大気中放出で400〜600発分程度、海水中・汚染水中への放出を入れれば4000発程度であろうが、今はこれらの点は置いておく。
 学術会議報告は、「健康影響に関する科学的根拠」として「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」「国際放射線防護委員会(ICRP)」などの国際機関の見解に依拠するとしている。だが、これら国際機関のリスクモデルが示しているのは、極めて多数の成人と子どもの病気と死が現在までおよび今後の被曝により生じるという予測である(後述)。いわば「静かに進む住民のとくに子どもの大量健康破壊と大量死」というのが現在の被曝状況なのである。
 本来、原発推進に一貫して協力してきた学術会議は、事故を引き起こし国土を放射能で汚染し人々に莫大な損害と健康被害を与えたことに対して有責であり、主犯である東電・日本政府と共に、共犯者として責任を問われ、また然るべき罰を受け、償いをしなければならない。つまり、学術会議報告が扱っている「被ばく」とは、学術会議自身の過ちが引き起こした、それに対し本来ならば訴追を受けるべき学術会議自身の犯罪のことなのである。
 ところが、驚くべきことに、学術会議報告には、この、原発事故とその結果生じた「被ばく」状況に対する科学者の責任、その「代表」としての学術会議の責任について、何の言及も、何の反省の弁も、被害者への何のお詫びの言葉もない。何もない。正反対である。
 学術会議報告は、事実上、自分が重要な役割を果たした重大過誤の結果として生じている「子ども」の放射線被曝による健康被害の全てを、「科学」の名において「予測されない」と全否定する。事故による被曝のリスクは、100mSv以下の健康影響のない「わずかなリスク」だからは「社会的に受忍しなければならない」と主張する。「ゼロリスク」を求める住民に対して矛先を向け、「科学的知見」と称するもの(福島事故健康被害ゼロ論)を伝達する「放射線リスク教育」の実施を求めている。自分の犯罪の結果として生じている被曝状況と、それによる子どもと住民の大量健康破壊と大量死とを、恥知らずにも、「科学」の名の下に全否定し、国民に「受容」を要求し、「教育」という名の洗脳を実施し、自己の犯罪を正当化しようと試みているのである。
 犯罪者が、自分の犯した過ちの重大な結果について、何の反省もなく、責任も取らず、「科学によれば何の被害も予測されない」と主張したとしても、誰がその言説を真摯なものと受け取るであろうか。本来なら責任追及と訴追を受けるべき日本の科学者の「代表」が、破廉恥にも居直って、広島原爆168発分の放射能が日本と世界に降り注いでも「何の健康被害ももたらさない」と公然かつ堂々と主張するのであれば、それは「科学」の仮面をかぶったデマ以外の何物でもない。
 日本の科学者の「代表」たる学術会議は、単なるデマ集団に堕してしまったのだろうか。子供たちが、住民が、放射線影響による「確率的」な死に瀕しているだけではない。日本の科学の基本精神が、科学者の良心が、死に瀕している。今回の学術会議報告は、いわば、「死臭ふんぷんたる」最悪の文書なのである。

 学術会議報告の主要な論点

 学術会議報告は、日本政府がこれまでから主張してきた、事故放出放射能による健康被害全否定論(ゼロリスク論)を、「子ども」の被曝と健康影響に押し広げ、さらには「子ども」への放射線診断・治療の被曝影響にまで拡大することを主眼としている。同報告の主要な論点は以下のように要約できる。

①子ども(学術会議は0〜18歳を子どもと定義)の放射線感受性は成人の2〜3倍、甲状腺の場合乳児で8〜9倍(最大29倍)であることを認めた上で(2、4ページ)、「標準人の実効線量の推定値として求められた実用量」(被曝基準のこと)が「子どもにとっても十分安全側の推定値となっている」(つまり「年20mSvで帰還」というような基準をそのまま子どもに適用すればよいという主張)(5ページ)。
②子どもについて、生涯のがん発症リスクは成人の「3倍」であるが、それでも「事故による放射線被ばくに起因し得るがん」が被曝した子どもの間で「増加するとは予測されない」(ii、2、3ページ)。
③事故による死産、早産、低出生時体重、先天性異常、遺伝性影響は「みられないことが証明された」(9ページ、14ページ)。
④福島の子どもの甲状腺がんが、放射線関連である「理論上のリスクはある」が、実際には「放射線誘発がん発生の可能性は考慮しなくてもよい」(ii)。
⑤しきい値なし直線モデル(LNT、低線量でも被曝量に比例してリスクがあるというモデル、UNSCEAR、ICRPなどの国際機関のリスクモデルの基礎となっている)は「科学的妥当性の検証」を行わなければならない(つまり、低線量ではリスクがゼロとなる「100mSv しきい値」モデルを採用すべきだと示唆)(iiiページ、16ページ)。
⑥放射性セシウムについて「内部被ばくに比べ外部被曝の方が(被曝量が)はるかに大きい」(内部被曝とくに放射性微粒子の危険性の無視・軽視)(12ページ)。「食品中の放射性セシウムから人が受ける放射線量」は「極めて低い」、「学校給食の検査には被曝低減の効果はほとんどない」(廃止を示唆)(13ページ)。
⑦福島県県民健康調査の検査結果は、子どもの「心に傷を負わせる」ので、「知らない権利」を尊重し、公表のあり方について「議論を深める」べきである(非公開の方向で検討すべきと示唆)(iii、18ページ)。
⑧いろいろな「動植物の奇形」の報告は「流言飛語レベルの情報」である(10ページ)。
⑨「子どもへの放射線診断・治療の(高線量を含めての)適用が広がる傾向」があるが、これを推進するように、規制上も検討すべきである(放射線防護原則を1950年代のアリス・スチュアートの調査以前に戻すことを示唆)(7〜9ページ)。
⑩「科学的知見を一般社会に正しく伝達するリスクコミュニケーションと放射線リスク教育」を行う方向で検討すべき(12ページ)、等々。

 これに対して、私の知っているだけでも、すでに科学者や医師の中から、「学術会議の権威のもとウソを国民に信じ込ませるもの」「憤りを通り越して笑えてしまう」「インチキなだけでなく日本民族の滅亡に導く」という鋭い批判が上がり始めている。それは当然である。日本のすべての科学者と医師・医療従事者、さらには国民全体に、この報告を認めるか拒否するか、歓迎・推進・迎合・屈服するのか批判・闘争するのかが、文字通り「迫られている」のである。

 「予防原則」が欠落した極めて危険な文書

 最大の問題は、学術会議報告には、放射線防護における「予防原則」の基本精神が全く欠如していることである。つまり、子どもを「放射線被曝から防護する」という基本的観点に欠け、子どもを「被曝させても影響がない」という方向性を、「科学」的外観の下に、欺瞞的にしかし露骨に、主張していることである。
 被曝の健康被害についての学術会議報告のキーワードは、「因果関係は判断できない」「確認されていない」「証明されていない」「証拠がない」「検証できない」「有意でない」等である。いま、仮にそうだと仮定しよう。その場合でも2つの選択が可能である。①予防原則に従って、「確認されていない」が「ある」可能性のあるリスクを回避し、被害を「予防」する方向で判断し、防護策を講じるか、②「確認されていない」リスクは「ない」ものと判断し、「被曝しても影響はない」と評価して、リスクの回避も防護手段も採る必要はないという方向をとるかである。これはまさに決定的な分岐点である。
 学術会議報告では、放射線防護研究者の多数の見解として以下の主張がなされている。「被ばく線量が少ない場合(チェルノブイリと比較しての福島原発事故の場合が示唆されている)、わずかなリスクの増加があったとしても、日常生活における被ばく量や他のリスクに比べて十分小さいのであれば、社会的に容認できる=これ以上の防護方策を講じる緊急性は乏しい、と考える」(15ページ)と。
 学術会議報告は、2つの選択の中で、「未確認」リスクを無視する方向を選択し、子供たちの生命と健康を被曝リスクに曝し、子どもの基本的人権を踏みにじり、さらには科学者としての最低の良心、社会生活において最低限守られるべき信義・誠実の原則にさえ悖(もと)る主張を展開する道に進んだ。

 不誠実で欺瞞的な文書

 同じく深刻な問題は、文書が極めて不誠実で欺瞞的である点である。その例は多数挙げることができる。
 学術会議報告は、端的に言って「国際権威主義」である。UNSCEARやICRPなどの報告書が「健康影響に関する科学的根拠」である(iiページ、2ページ)として、真理の基準を、科学や科学研究それ自体ではなく、外的な権威に求めている。これは、科学のもつ客観性を頭からの否定するものだが、この点の検討の前に、学術会議報告が、UNSCEARなどの報告書でさえ、不正確どころか極めて不誠実に引用している事実を指摘しなければならない。
 例を挙げよう。放射線の遺伝性影響が人間について「ある」か「ない」かという根本問題において、学術会議報告は、UNSCEAR 2001年報告に依拠して次のように述べている。「原爆被爆者二世をはじめとして、多くの調査があるが、放射線被ばくに起因するヒトの遺伝性影響を示す証拠は報告されていない」(3ページ)と。これだけ見ると、UNSCEARは遺伝性影響が「ない」かのように示唆していると思われても仕方がない。
 ところが、元のUNSCEARの報告書の方は、たしかに学術会議報告が引用した内容を述べているが、それにすぐ続けて、結論として次のように結んでいる。「しかし、植物や動物での実証研究で、放射線は遺伝性影響を誘発することが明確に示されている。ヒトがこの点で例外であることはなさそうである」(『放射線の遺伝的影響』9ページ、100ページ)と。つまり、UNSCEAR報告は、放射線の遺伝性影響は、動植物の場合と同様に、人間についても「証拠は報告されてない」が「ある」可能性が高いというのである。人間の遺伝性影響は「ない」を強く示唆する学術会議報告は、UNSCEARと全く反対の評価をしているのである。

 遺伝性影響の存在は実証されている

 しかも、この「放射線被ばくに起因するヒトの遺伝性影響を示す証拠は報告されていない」という評価は、明らかに誤りである。
 学術会議報告自体が、この評価を述べたすぐ後に、それに全く反する形で「臓器の奇形発生」「生後の精神発達遅滞」「小頭症」を遺伝性影響の具体的形態として挙げている(3ページ)。
 欧米で一般的に使われている大学の教科書、リッピンコット『放射線医・技師のための放射線生物学』(英文)を見てみよう。それによれば、母胎内で被爆して出生した被爆者の調査は、小頭症と知的障害(精神発達遅滞)について、放射線影響を明確に認めているだけでなく、小頭症についてはしきい値がない(低線量でも発症が被曝量に比例する)可能性が高いことを指摘している(179〜182ページ)。
 同書は、医療被曝した患者の事後研究によって、上の2例に加えて、さらに二分脊椎、両側内反足(足の奇形)、頭蓋骨の形成異常、上肢(腕)奇形、水頭症、頭皮脱毛症、斜視、先天性失明など、多くの先天性異常が報告されていると明確に記載している。

 UNSCEAR、ICRPは人間の遺伝性影響を認めている

 国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告は、放射線の遺伝性影響の存在を「明確に」(これは同勧告自体の言葉)認めている。同勧告は、遺伝性のリスクを1万人・Svあたり20例、うち致死性を16例、非致死性(つまり生児出産)を4例と推計し明記している(143ページ、表としては139ページなど、またこれは線量線量率係数DDREF=2の下でのことなので、低線量に関する評価である)。だが、学術会議報告はこの点を無視している。
 さらに、UNSCEARやICRPは、遺伝性影響について、倍加線量(DD)という基本概念を提起しているが、学術会議報告はこれも無視している。これら国際機関によれば、倍加線量は1Gyと推計され(UNSCEAR推計の中央値は0.82Gy)、この量の被曝により、自然的に発生する突然変異発生数と同数の突然変異が誘発されると考えられている(UNSCEAR前掲書101ページ、ICRP175ページ)。
 現在の日本の年間出生数はおよそ100万人なので、UNSCEARの先天異常の自然発生確率6%(前掲書100ページ)を採用すると、自然発生的な「先天異常」の生産児は年間約6万人となる。DD=1Svを用いると、政府がそれ以下では放射線影響が「ない」と言う100mSvを被曝したと仮定とすると、上の10分の1の約6000人に先天異常の過剰発生が予想される。政府の帰還基準の年間20mSvとして年1200人、公衆の被曝基準の年間1mSvとしても年60人に先天異常の過剰発生が想定される。国際機関によれば、先天性異常の発生が「ない」とは決してならないのである。
 UNSCEARは、いろいろな遺伝性の「慢性疾患」を持つ自然発生の生児出産数を、生児出生全体の65%と推計している。日本での年間出生数100万人あたりおよそ65万人である。したがってこの場合も、LNTを前提すれば、100mSv被曝で約6.5万人(合計で72.5万人)、年間20mSvで年約1.3万人、年間1mSvでさえ年650人の過剰発生となる。
 もちろん、UNSCEARは、この場合にも、この予測される数値に、さらに「突然変異成分」と「潜在的改修能補正係数」を掛けて係数操作し、先天異常について上記の4.5〜9%に、慢性疾患については0.04〜0.18%にしている。しかし、それでも、親の被曝1Gyに対して100万人あたり合計で3000〜4700人の遺伝性影響が「ある」と推計している(94〜95ページ)。被曝量100mSvではこの10分の1であるので、300〜470人、年間20mSvの場合はこの50分の1であるので、年間の被曝に対して60〜94人である。
 このように、国際機関の評価によれば、遺伝性影響のリスクは決して「ゼロではない」。かなりの数である。学術会議報告が試みている「ヒトでは遺伝性影響がない」「胎児影響はないことが証明されている」という議論の方向付けは、明らかに、学術会議報告が「科学的根拠」と称する国際機関の見解にさえ真っ向から反する、明確な嘘であるといわざるをえない。
 もちろん、これら国際機関のリスクモデルには大きな過小評価がある。欧州放射線リスク委員会(ECRR)によれば、遺伝性影響の分野ではとくに大きく、2000分の1から700分の1程度の過小評価があるとされる(『2010年勧告』221ページ)。また、学術会議報告が無視している問題として、放射線被曝による精子・卵子への影響とくに精子数の低下、受胎数・妊娠数の減少、流産・死産の増加、それらの結果としての出生数の低下などの被曝影響がある。だが、今は遺伝性影響が「ある」か「ない」かが問題であり、これらの点の検討は置いておく。

 現実に「ある」周産期死亡率の上昇を「ない」と決めつける

 文書の不誠実さと欺瞞性を表すもうひとつの事例を見てみよう。
 厚労省が毎月発表している人口動態統計にある「周産期死亡」(妊娠満 22週[154日]以後の死産と,生後 1週未満の早期新生児死亡を合わせたもの)の動向において、汚染度が高い福島と周辺諸県の周産期死亡率が、事故10ヵ月後から15.6%上昇したことが、ドイツのハーゲン・シェルブ氏や日本の森国悦・林敬次医師らによって報告され、ドイツやアメリカの複数の国際的医学雑誌に掲載されている。周産期死亡率にはっきりと事故の影響が見られることは、いまや証明された科学的事実である。
   注:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5044925/
 だが、学術会議報告は、「死産、早産、低出生時体重および先天性異常の発生率に事故の影響が見られないことが証明された」(9ページ)と一方的に決めつけている。しかもこの結論は、上記の国際機関以外のわずか2本の論文を参照して導き出されており、異論の存在さえ指摘されていない。

 LNT(しきい値なし直線モデル)否定の方向を示唆

 学術会議報告が、「科学的根拠」とするという国際機関の見解に真っ向から反しているもう1つの事例は、LNT(しきい値なし直線モデル)の評価である。
 学術会議報告は、LNTについて「LNTモデルが科学的に実証された根拠として認めるかどうかには、専門家の間で見解の相違がある」「LNTモデルの科学的妥当性の検証は極めて重要な論点になる」として、LNT見直しの方向を示唆している。だが、この場合には、なぜか「科学的根拠」としてのUNSCEAR報告は引用していない。
 しきい値(閾値、しきい線量ともいう)が存在するかどうかに関する議論について、UNSCEAR2006年報告書は、たしかに「疫学だけでは放射線リスクにしきい線量が存在するかどうかについての問題を解決することはできないだろう」と書いている。だが、それを述べた後、UNSCEARは「生物学的機構のより良い理解が不可欠である。とくに、極めて低い線量におけるリスク上昇を疫学的方法によって検出できないことは、がんリスクが上昇していないことを意味しているのではない」とわざわざ警告している(2006年報告5ページ)。UNSCEARは、学術会議報告の示唆する方向を、リスク軽視として批判しているのである。UNSCEARはまた「DNA修復の研究および放射線腫瘍形成の細胞・分子的過程は、腫瘍の誘発一般に対して低線量しきい値があるであろうと仮定する良い(有効な)理由を提供しない」(2000年報告[原書]10ページ、訳文はICRP211ページより)とも指摘している。
 ICRPも同じである。「約100mSvを下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん・遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうと仮定する」のが「科学的にもっともらしい」としている(17ページ)。さらに、「直線しきい値なし(LNT)モデルが、放射線被ばくのリスクを管理する最も良い実用的なアプローチであり、『予防原則』(UNESCO、2005)にふさわしい」としている(9ページ)。
 学術会議報告が「科学的妥当性の検証を行わなければならない」としているLNTは、それが「科学的基準」とする国際機関においては「科学的に妥当」であると認められているのである。この点でも、学術会議報告は、自分にとって都合の悪い国際機関の見解には沈黙し、それに真っ向から違反する見解を、あたかもUNSCEARが主張しているかのような書き方をしている。その文書の不誠実で欺瞞的な本質は明らかである。
 現実には、このLNTモデルでさえも、極低線量の放射線リスクの大きな過小評価なのであり、直線ではなく上方に膨れたカーブ、あるいは2回上昇型のカーブとなる可能性が高いのだが、この点もここでは置いておこう。

 集団線量とICRPリスクモデルを無視

 LNTの問題にはもう一つの側面がある。LNTに従って、特定の人々が集団として被曝した場合のリスクが、「集団線量」あるいは「集団実効線量」としてモデル化されている。これら国際機関の被曝リスクモデルは、広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査に基づいて推計され、その後の各種の疫学研究に従って補正されている。これらは、大雑把で、不確実性が大きいが、しかし被曝リスクが「ゼロではない」ことを示している。学術会議報告が「科学的根拠」とするUNSCEARもICRPもすべて、このリスクモデルを提起している。学術会議報告の著者集団に2名を送り込んでいる放射線医学総合研究所も、同研究所編の著作『低線量放射線と健康影響』(最新版は2012年刊)において、このモデルを認めている(162〜163ページ、下表)。


出所:放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響』医療科学社(2012年)162ページ

 同書によれば、UNSCEARの2つの報告書が推計している10万人が100mGy(100mSvとほぼ同じ)被曝した場合のがん死リスク(白血病および固形がん)の最小・最大値は、462〜1460人(生涯期間すなわち成人50年間、子ども70年間に生じる過剰死)である。つまり、特定の人口集団が放射線に被曝した場合、どの国際機関のモデルによっても、決して被害ゼロとはならないことを放医研は自著において公然と認めているのである。
 学術会議報告は、この集団線量と被曝リスクモデルを無視することによって、自分が「科学的根拠」とするUNSCEARやICRPだけでなく放医研の著作さえも裏切っているのである。

 年間20mSv地域への住民帰還で何が起こるか

 たとえ政府の言う「100mSvしきい値論」に立つとしても、避難者10万人が年間20mSv地域に帰還して5年間居住すれば、放医研作成の表の「10万人が100mGy(mSv)被曝した場合」に相当することになる。上記のUNSCEARのモデルによれば、その場合、5年間の被曝により、帰還者のうちがんで亡くなる人が(生涯期間で)およそ460〜1500人増えるということになる。20年経てばその4倍の1800〜5800人、50年で10倍の4600〜1万5000人が過剰死する想定になる。
 子どもの放射線感受性は、学術会議報告自身が最大で3倍と認めている(これも過小評価であり10〜15倍と考えるべきだが、今はこの点も置いておこう)。そうだとすればリスクも上記の3倍と考えなければならない。大まかな計算だが、帰還する子どもの数を(福島県の平均と同じとして)約1.9万人とすると、5年間の被曝で約260〜830人、20年間で約1000〜3300人、70年で約3600〜1万2000人ほどの子供たちが(生涯期間に)過剰に亡くなるという想定になる。
 これらは、UNSCEARやICRPモデルを熟知している学術会議の「専門家」には周知のことであろう。すなわち、彼らが行っていることは、知ってやっているのであり、意図的であり、その結果に対する責任関係では「傷害致死」ではなく「殺人」である。現に生じている事態は、放射線被曝による住民の「大量殺人」を、とくに子供たちの集中的な「大量殺人」を、意味していないだろうか。
 もちろん、ICRPが認めるように、これは「不確実性の大きな」推計であろう。だが、国際機関の見解を「科学的根拠」とするのなら、この集団線量リスクについて、はっきりと指摘するのは、学術会議の最低限の義務である。リスクモデルを批判するのであれば、引用し紹介してから、行えばよいだけである。それを怠れば、国際機関が指摘している集団に対する被曝リスクを、意図的に見過ごし、こっそりと国民の目から隠蔽しようとするものであると批判されても当然である。
 この点でも指摘しておかなければならないのは、これらのリスクが、大きな過小評価である点である。ECRRによれば、上記の数字は20倍されなければならない(179ページ)。またUNSCEARやICRPなどが無視している、がん以外の疾患による被害も加えなければならない。つまり年間20mSvという高汚染地域に住民を帰還させて長期に居住させれば、全員が早死するという、「皆殺し(ジェノサイド)」に等しい状況が生じると示唆されているのである。だがこの点の検討もまたここでは置いておこう。

 国連科学委員会(UNSCEAR)の本質

 ここまで、学術会議報告が、被曝リスクを評価する上で、自分の「科学的根拠」とするUNSCEAR報告やICRP勧告を不正確どころか不誠実に引用し内容を著しく歪めて再現していること、学術会議報告がこれら国際機関の報告「以下」であることを述べてきた。だが、このことは、決して、UNSCEAR報告が科学的に正しく、放射線被曝の危険性を正確に記述していることを意味するのではない。
 UNSCEARは、公式ホームページで書かれているように、核実験による放射能の健康被害に対する世界世論の懸念の高まりに対応して、「放射性降下物(死の灰)などによる被曝の懸念から核爆発の即時停止を求める提案をそらす(deflect)目的で」「放射線の程度(levels)と影響(effects)に関する情報の収集と評価を行うための委員会」として、1955年に当時の核保有国4ヵ国や日本を含む15ヵ国を構成員として設立された。このことからも分かるとおり、UNSCEARは、歴史的に、核兵器保有国の影響力が強く、核保有国の核軍拡の利害、さらには日本など原発を推進する諸国の核開発の利害を強く反映してきた。だが、この利害は、UNSCEARの規定された目的と業務に全く矛盾する。つまり、UNSCEARはどうしようもない二面性と自家撞着を内部に抱えているのである。

 UNSCEARの集団線量リスクモデルの意義と限界

 いままでUNSCEARは、集団線量1万人・Svがもたらす各種がん発症数とがん死者数について、被曝被害が「ある」ことを前提に、リスクモデルの改良を何度となく行ない、世界のいろいろな被曝事象について集団線量を推計してきた。たとえばUNSCEAR1993報告は、その当時までの、核兵器開発、ウラン採掘、原発運転、再処理と核燃料サイクルなどすべての人工放射線源による集団線量を、従ってその被曝被害を、歴史的に、世界の全体像として評価しようと試みた(210ページ、この努力に敬意を表し付表に掲げることとする)。それによれば、総計の集団線量は2350万人・Svとされ、放医研の挙げているUNSCEARのリスク係数462〜1460人/万人・Svのがん死で計算すると、被害想定は約109〜343万人となる。
 原発事故について、UNSCEARの推計によれば、集団線量は、チェルノブイリ事故が全世界で38万人・Sv(2008年報告)、福島事故が4.8万人・Sv(2013年報告)である(これらもまた著しい過小評価であるが、その点の検討も置いておく)。UNSCEARのリスク係数は、前述の通りであるので、ここからは、チェルノブイリ事故で約1.8〜5.5万人、福島事故で約2200〜7000人の人的被害が予測されると言うべきはずである。UNSCEARの集団線量推計では、福島原発事故についても被害は「ある」ことになっている。
 ついでに言えば、学術会議報告は、チェルノブイリで子どもとして被曝した人々の中から6000人が甲状腺がんを発症して手術を受け、うち15人が死亡したと書いている(4ページ)。UNSCEARに従うのであれば、集団線量に比例して、日本では約760人の甲状腺がんの手術例と、うち約2人の死亡が予測されることを当然想定しなければならない。だが、学術会議報告はこの点にも全く沈黙している。

 UNSCEARの方向転換(リスク過小評価からリスクゼロへ)とその矛盾

 UNSCEARは、実際に原発重大事故の被曝被害が問題になるや否や、大きく方向転換を行った。「予測上の容認できない不確かさのため、本委員会は、チェルノブイリ事故による低線量放射線に被曝した集団における影響の絶対数を予測するモデルを使用しないことを決定した」と(2008年報告日本語版第2巻64ページ)。
 だが、リスク係数の数値の「不確かさ」とリスクモデルを「使用する」かどうかは、全く関係のない別次元の問題であるはずである。だが、UNSCEARは、自分の放射線被曝リスクモデルを自分で否定することによって、放射線被曝があり集団線量は推計されてもリスクは「不確か」という論理から、集団線量があっても被曝被害が「ない」を示唆するという、リスクの存在そのものの否定につながる道に進んだ。
 2008年報告では、チェルノブイリでは134人の作業員の被害以外には人的被害は取り扱われず、白血病、甲状腺がん、白内障など一部のがん・疾病以外は事実上「ない」ことにされている。同2013年報告での福島原発事故の場合、最初から人的被害はゼロ、すべてのがん・疾患について全く「ない」ことにされている。
 UNSCEARは、放射線被曝の程度と健康影響を「収集し評価」するという本来的立場と、核保有国、国際原子力複合体、日本など原発推進国が求める、露骨な被曝被害ゼロ論との間で、いわば完全な股裂き状態、完全な腐敗と破綻に陥っている。その中で、UNSCEARは、「被曝安全安心論」を声高に叫ぶ国際的デマ宣伝機関に転化する道を進んでいる。つまり、今までは、リスクが「ある」ことを前提にリスクを「過小評価」するのが役割であったとすれば、チェルノブイリ以後とりわけ福島以後は、原発事故に際してリスクを「ゼロ」と評価し住民の放射線被害をもみ消す役割を国際的担おうとしている。
 学術会議報告を書いたいわゆる専門家たちがUNSCEARのこの転落を内外から促進しているのは疑いの余地がない。また彼らが被害ゼロ論の「科学的根拠」としてUNSCEARの「権威」を利用しようとしていることも間違いない。だが、UNSCEAR報告の内容は決して被害ゼロ論を展開しているわけではない。だから、学術会議報告はUNSCEAR報告を「科学的根拠」としていると称して、内容的には反対に自分の被害ゼロ論をUNSCEAR報告全体に押しつけようと試みているのである。

 子どもへの被曝影響の集中、「民族の死」をも導きかねない亡国の報告書

 ある文書がどのような危険性をはらんでいるかを判断する最良の方法の一つは、その文書が主張する内容が全て実現したと仮定した場合何が生じるかを考えてみることである。学術会議報告の主旨は、福島原発事故級の苛酷事故が起こっても、子どもも含めて何の健康被害もない、診断・治療において胎児や子どもを被曝させても「問題ない」と主張することである。それを「日本の科学者の代表」としての学術会議の権威を借り、全ての科学者に、さらには広範な国民に信じ込ませ「洗脳」することである。いまそれが実現したと仮定しよう。何が起こるだろうか?
 福島原発級の重大事故が起こっても「何も健康被害がない」ことにされれば、当然、政府にとっても電力会社にとっても「事故を起こしてもよい」と科学者がお墨付きを与えたことになり、重大事故再発に向かってのモラルハザードとなる。再稼働される原発で、第二第三第四の福島級事故が起こる危険性は著しく高まるであろう。また、来たるべき事故の際、「知らない権利」に基づいて、甲状腺も含めて何の調査も行われないであろう。つまり、全国の原発は、福島と「平等に」、重大事故を起こして使えなくなるまで60年、次は80年と稼働され、事故による一切の健康被害は、隠蔽され、何の補償もなされないであろう。
 国民全体が被曝するだけではない。子どもの放射線高感受性を「無視してよい」ということになれば、未来を担う子供たちこそが被曝影響に「集中的に」曝されることになる。そうなれば、事態は、決して誇張ではなく「日本民族の滅亡」の危機に向かって進んで行くことになるであろう。
 ジェイ・マーティン・グールド氏が自著のタイトルを『エネミー・インサイド(体内の敵・国内の敵)』(邦題『低線量内部被曝の脅威』)としたことは、意味深長である。つまり、日本国民、日本民族を滅ぼそうとしているのは、トランプや安倍政権の喧伝するような「北朝鮮」ではなく、日本が事実上の仮想敵国としている中国やロシアでもなく、民族の未来を担う子どもたちに集中的に放射線被曝を強要しようとする、学術会議報告を書いた「似非」専門家たちの集団であり、それを裏で操っている安倍政権と原発推進勢力、ABCCから脈々と続くUNSCEARやIAEA、ICRPなど国際原子力マフィアなのである。彼らこそ、また彼らに支配された日本学術会議こそ、日本の、実際には世界の、「子どもの敵」である。犯罪者には、誰の目にも分かるように「子どもの大量虐殺者」という囚人票を貼り付けなければならない。
 


付表 UNSCEARによる歴史的に放出された人為的環境放射線源からの集団実効線量推定 http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010507/01.gif

原著203ページ。原注のaは右上部「集団実効線量」に付いており、この表のeは誤植と思われる。
注記:ECRRによればこの数字には全体で50分の1程の大きな過小評価がある。だがここではそのことが問題ではない。UNSCEARが全種類の線源についてリスクが「ある」と認めている点こそ重要である。

学術会議報告(2017年9月1日)「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点 山田耕作

2017年10月


学術会議報告(2017年9月1日)
「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点

山田耕作 (2017年10月4日)



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学術会議報告(2017年9月1日)「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点(pdf,32ページ,3575KB)


要約
 日本学術会議は2017年7月28日の学術会議幹事会で、臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会による上記の報告(以下「報告」と呼ぶ)を承認し、9月1日に発表した[1]。その内容は福島原発事故に対して、国連科学委員会に従い「将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない、また先天性異常や遺伝性影響はみられない」。そして「甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上そのリスクが増加する可能性があるが、チェルノブイリ事故後のような放射線誘発甲状腺がん発生の可能性を考慮しなくともよい」というものである。
 このように「報告」は子どもの甲状腺がんの多発や福島近県における周産期死亡率の増加、心臓突然死の増加等現実に確認されている被害を全て無視するものである。
 放射性微粒子による内部被曝の現実的危険性が警告されている現在なお、「報告」はファントムという模型に基づく内部被曝の実効線量の議論を展開している。人体は、細胞からなり、細胞膜やエネルギーを司るミトコンドリアなどが有機的に活動している生きた活動体である。特に胎児を含む子どもは生殖系、ホルモン系、免疫系など放射線に脆弱な機構が存在し、被曝は、遺伝子の損傷のみならず、遺伝子の発現機構を攪乱し、細胞や臓器を損傷し、それらの損傷を蓄積する。それが後に、子どもの成長期・思春期や未来の世代に様々な健康破壊をもたらす。子どもたちは明るく駆け回らず、暗い顔で座り込む。これらはチェルノブイリ事故を経て認識された厳しい科学的な結論である。
 学術会議報告は科学者の総意を正しく反映し、人類に正しい選択をもたらすものでなければならない。今回の「報告」は福島の汚染の現実と被曝の危険性を全く無視するものである。これは単なる過ちではなく、被災者を切り捨て、未来を担う子どもたちの健康と命を奪うことになる。科学者の理性を代表する学術会議はこの「報告」を直ちに撤回し、避難の権利の保障、汚染した関東・東北一体の健康調査と医療援助の拡大を主張するべきである。さらに被曝に感受性の高い人など被災者により沿い、被災者との協議に基づいて被災者支援の具体策を誠実に実行するよう政府に強く勧告するべきである。


1.科学者の社会的責任―私の基本的立場


 最初に「科学者の社会における責任」について私の基本的な考えを述べます。

人類の歴史と平等の原則
 人間は社会的な動物であり、他人と比較することによってはじめて自己を認識できます。人間は集団で協力することによって、過酷な生存競争に生き残り、厳しい自然に適応して、進化してきました。社会的な集団として有機的に活動するために、言葉や文字を持ち、相互に意志を通わせる通信手段を発展させてきました。このことを考えますと、人間の本質は個々の人間としてではなく、集団としての生活や労働にその本質が存在すると考えられます。人間の歴史としての進歩は集団としての人類の進歩です。
 そのような社会における構成員個々人の間の関係はどうあるべきでしようか。その根本的な基礎は各構成員間の平等の原則です。世界の子供一人一人はそれぞれ異なる環境の下で生まれますが、お互いに人間としての本質的な違いはありません。平等以外に公平な原則はありえません。この平等で、対等な個人個人の自発的な協力こそ社会を発展させる基礎であり、原動力です。

民主主義は「平等」を意味する
 世界中の全ての人間は平等であり、生まれながらにして、尊敬され、人間らしく生きる権利を持っています。思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由、居住・移動の自由、働く権利、健康で文化的に生きる権利。これらは基本的人権(人格権)と呼ばれ、他の全ての権利に優先して尊重されるべき権利です。この原則を世界の全ての人々がお互いに尊重することは、人類全体の利益となり、人類の発展につながるのです。
 しかし、現実の歴史は富の蓄積とともに、社会は階級に分裂し、支配階級の権力機関として国家が誕生しました。奴隷制社会や封建制社会では人間は神の前でのみ平等でした。更に近代の資本主義社会では法の前では平等とされました。しかし、経済的格差が存在し、社会的に生産された富を私有化し、富を独占するものが絶大な権力を持っています。民主主義は経済的平等にまで拡大されなければなりません。
 一方、そのような進化の歴史の中で、人類は火を使い、手を発達させ、脳の発達を通じて、科学と技術を発達させることによって、生産力を発展させてきました。このような科学と技術の進歩は、人類の長い歴史の中で様々な迷信、偏見に対する必死の戦いの中で獲得され、先人から受け継がれ発展させられてきたものです。今日、科学は地球環境を変える巨大な力を持ち、地球の温暖化や生物多様性の破壊などの環境危機が進行しています。人類は科学的な認識に基づいて、自然との一体性を回復し、豊かな緑の地球を回復・発展させなければなりません。

人間の使命と道徳(倫理)の基礎
 人類の進歩は科学と民主主義の発展によって担われます。個人の喜びや幸せはこの人類の進歩を担う事業に参加・協力することによって得られます。人間の倫理の基礎は、科学と民主主義の拡大・発展を求める公的な感情や憤りにあります。これは類的存在としての人間の本性に基づくものです。
 科学者の使命も同様に科学の進歩と民主主義の拡大にあります。そこにおいても、民主主義・人権はあらゆる権利に優先して尊重されるべき原則です。それ故、科学者は何よりも科学の進歩が人権を擁護し、人類に幸福をもたらすように厳しく監視する責任があります。まして軍事研究に協力することは一切許されません。福島原発事故に際しての科学者の現実はどうでしょうか。

原発の運転は被曝を避けられず、緊急避難を要する原発は社会的弱者の敵
 先に述べたように、平和に安心して健康に生きることは世界の全ての人に平等に保障された基本的な権利です。その権利を現在および未来の人類に保障するために現在生きている全ての人は核兵器と原発の廃止に努める責任があります。生命・健康を犠牲にし、緊急避難を必要とする原発は子ども・老人・障がい者などの弱者を含む現実の社会では存在を許されないものです。
 特に科学者は人権を護るため、自らの知識と能力を用いて原発の危険性を警告し、人々の協力を得て、原発を廃棄する義務があります。それは原発が次のような解決できない危険性を持つからです。

原子力発電の地震に対する安全性を保証することができない
 100万キロワット級の原発1基で、広島型原発千発分の死の灰を内蔵する原発事故は核爆弾以上の放射性物質による汚染をもたらす恐れがあります。これを厳密に閉じ込め、長期に事故もなく運転することは技術的に不可能です。特に、日本は地殻のプレート境界上にあり、大地震や火山爆発が避けられません。地震は複雑な破壊現象であり、原発の耐震設計は信頼性がありません。更に核廃棄物の管理を幾十万年にもわたって後世に押し付けることになります。

原子力の平和利用を推進した科学者の責任
 日本学術会議は創設以来、核の平和利用と称して、「平和利用三原則、自主・民主・公開」のもとに、原子力発電の推進に協力してきました。安全性を保障できないものを推進した誤りの結果が福島原発事故でした。私達科学者の事故被害者に対する加害者としての責任は重いと思います。学術会議をはじめとする科学者が原発を提案し、それに協力していなければ福島原発事故はなかったのです。私達は責任を自覚し、人的被害が顕在化しているいまこそ、被害者の健康と生活をまもり、子どもたちを含む未来の世代の健康と幸福を守る責任を果たさなければなりません。


2.学術会議報告の問題点


 以下学術会議報告に沿って議論する。太字が「報告」の引用文である。

要 旨
1.作成の背景
2.報告の内容
「(1)子供の放射線被曝による健康影響に関する科学的根拠
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: 以下、UNSCEAR)は、福島原発事故を受けて、放射線の人体影響の科学的知見や事故後の被ばく線量の推定値から、『将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない、また先天性異常や遺伝性影響はみられない』と言う見解を発表している。一方、甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上そのリスクが増加する可能性があるが、チェルノブイリ事故後のような放射線誘発甲状腺がん発生の可能性を考慮しなくともよい、と指摘している」。(pii)

 学術会議もまたUNSCEARに従って福島原発事故に於ける被害は「将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因しうる有意な変化が見られるとは予測されない」としている。これは現実に存在する子どもの甲状がんの増加や周産期死産率の上昇、心筋梗塞による死亡の増加という事実に明かに矛盾している。このように被害の議論の最初から、統計的に有意であると示された疫学的な事実の否定から始まるのである。これは科学的態度とは無縁の虚偽に等しいことである。その矛盾の原因は「報告」が科学的根拠としてあげている被曝線量が科学的真実に基づいていないことにある。

「(3) 福島原発事故による子どもの健康影響に関する社会の認識
福島原発事故による公衆への健康リスクは極めて小さいといった予測結果や、影響が見られなかったことの実証例(胎児や妊娠への影響)について、国や地方自治体、国内外の専門家は積極的に情報発信している。しかし、子どもの健康影響に関する不安は根強い。これは線量推定やリスク予測の不確かさから専門家間の見解に相違があることにも関係している。事故後の数年間で、影響の有無に関する実証データや個人ベースの線量データが蓄積されるとともに、リスクベースの考え方が浸透し、不安解消に向けて進んでいる事例もある。しかし小児甲状腺がんについては、福島県「県民健康調査」の集計結果の解釈の違いとともに、検査の在り方などが問題となっている」。(piii)

 自然死産率の上昇、周産期死亡率の上昇、急性心筋梗塞の増加が実証されている。「報告」は、健康リスクは極めて小さいという「予測」や「影響が見られなかった実証例」を挙げている。しかし、実証例は被害がないことを証明しない。観測は有限だから、ないことを証明するには長期にわたる広範囲の観測による高い精度が必要である。その点で、周産期死産率の増加は統計的に有意を持って証明されている。周産期死亡(妊娠22週から生後1週までの死亡)率が、放射線被曝が強い福島とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(3年間で165人)も増加し、被曝が中間的な強さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった[2]。
 小児甲状腺がんについても同様で、先行検査(1巡目)より、約2年後の本格検査(2巡目)の方が、発症率が高くスクリーニング効果は否定される[3]。「4年の潜伏期間」も福島県の検査自体が否定している。一巡目で異常なしのA判定の人に約2年後の本格検査でがんが発見されているからである。「報告」は都合のよい実証例を挙げるだけで、論理的で科学的な議論をしていない。そして、市民の疑問に正面から答えていないのである。これでは積極的に情報を発信しても「不安が根強い」のは当然である。「報告」は自分の結論が間違っているという科学上の問題を「専門家の間の意見の違い」の問題にすり替えている。専門家間の意見の違いは結果であって、根本原因は「報告」と真実との不一致なのである。

1.はじめに
「避難した住民の帰還を妨げている大きな原因の一つは、子どもへの影響に対する不安と怖れなど、放射線リスクの理解の難しさである。未来社会の発展を支える子どもの健康を守ることは、親は勿論、社会の重要な任務である。そのためには放射線リスクの阻止・低減のみならず、放射線に対する不安に起因する健康への悪影響を防ぐ視点も重要である」。(p1)

 「報告」は不安の除去の重要性を強調している。しかし、現実に放射線被ばくの危険性があるので避難すべきなのである。ところが、加害者である国と東電が責任ある対応をしないために、その避難が困難であることが人々を不安にしているのである。国や東電の非人道的な事故被害の救済策に不安の原因がある。不安を除去するには事故の責任者がその責任を率直に認め、被害者に言葉だけでなく本当の意味で「被害者に寄り添った」すなわち被害者の健康被害を認め、被害者の生命と健康、生活再建の利益に立った救済を約束し、実行することが不可欠である。そして加害者は誠意を持って、被害者の不安の原因である汚染と被曝をなくさなければならない。被曝が避けられないときは避難のための物質的保障、生活の保障をしなければならない。これは事故の加害者として当然のことである。
 「放射線に対する不安に起因する健康への悪影響」と「報告」は根拠のない不安のように言うが、逆に「放射線被ばくの健康への悪影響」が現実に存在し、体験を通じて住民が健康に対する不安におびえているのである[4]。以下の津田敏秀氏ら岡山大、熊本学園大、広島大による調査報告を参照。
 『低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査』
  ―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―
 http://www.saflan.jp/wp-content/uploads/47617c7eef782d8bf8b74f48f6c53acb.pdf



図1.滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比、病名は左から表題の順、図は児玉順一氏作成

2.子どもの放射線被ばくによる影響
(1) 子どもの放射線被ばくによる健康影響に関する科学的根拠
 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: 以下、UNSCEAR)は2013年報告書の中で福島原発事故の線量の推定値を提示するとともに、UNSCEARが収集したデータ及び情報を使用し、健康との関連を含めて議論している。被ばく線量推定は年齢別に行っており、例えば計画避難区域住民の事故後最初の1年間の実効線量(外部被ばくと内部被ばく)については、成人4.8-9.3ミリシーベルト(mSv)、10歳児5.4-10mSv、一歳児7.1-13mSv、同集団の甲状腺の等価線量については、成人16-35mSv、10歳児27-58mSv、一歳児47-83mSvと推定している。こうした線量推定結果を基に、UNSCEARは、将来のがん統計において事故による放射線被ばくに起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない、また先天性異常や遺伝性影響はみられない、としている。一方、甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上ではあるが、そのリスクが増加する可能性があるとしている」。(p2)

 放射線被ばくによる被害が予測されないという根拠は「事故後の被ばく線量の推定値」ということであるが、「報告」も認めるように事故直後の放射性ヨウ素の被曝量の推定値などが正確には求められないのである。例えば放射性ヨウ素の放出量に関しては国の発表より、東京電力発表の方が3倍大きい(ヨウ素131は東電500PBq=500x1015Bq、国は160PBqで約1/3である[5])。それ故、「放射線の影響によるがんや先天性異常や遺伝的影響は見られない」というがその根拠がない。逆にこの推定が事実に反することは子供の甲状腺がんの増加や自然死産率の増加、周産期死亡率の増加が示していることである。それ故、UNSCEARの推測は間違っている可能性が高い。それを学術会議はなぜ間違ったUNSCEARの報告を「科学的根拠」とするのか。学術会議は自分で当否を判断したのだろうか。
 放射性物質の放出量を過小に評価したのだから、当然被曝線量に関しても「報告」は正しくない。大阪大学の本行忠志教授は次の問題点を指摘している[6]。

表1 甲状腺等価線量の分布

東京電力福島第一原子力発電所事故後2週間の時点で行われたスクリーニング調査の結果から推定された甲状腺等価線量(左カラム)、チェルノブイリ原発事故での避難者の甲状腺等価線量(右カラム)を示す。集団の99%が分布する線量域を太字で示す。(「報告」は間違っていてチェルノブイリは正しくは93%)




 「報告」の21ページの表3「甲状腺等価線量の分布」(上の表1)は福島の1080人の子供とチェルノブイリの2.5万人の子供を比較したものであるが、福島では99%以上が0〜30mSv に、チェルノブイリでは99%以上が100〜上限5000mSv以上の範囲に入るという。この表を見ると被曝量が桁違いに見える。しかし、これは以下のトリックによるものである。
【甲状腺被ばく計測について】
 ウクライナでは約13万人の子供が甲状腺の直接測定を受けているのに対して[7]、福島で実際に子供の甲状腺被ばく線量測定が行われたのは、1080人(飯館村、川俣町、いわき市、(放射線医学総合研究所))と8人(浪江町、津島地区、南相馬市、(弘前大学))の計1088人のみであった。しかも、放医研が行った1080人に対する検査は空間線量率測定用の簡易サーベイメータ(ウクライナや弘前大学の8人の測定には核種分析できるスペクトロメータが使用された)であり、バックグランドの方が甲状腺の実測値より高いところで計測している例もあるので正確とは程遠いと考えられる。
【平均値のトリックについて】
 チェルノブイリの同程度の汚染地域であっても甲状腺の内部被ばくの蓄積線量は都会と郊外で大きく異なる。郊外では家庭菜園が一般的で原発事故後もその収穫物を食べ続けたため、桁違いの被ばくをしている例があり、この場合、平均値がかなり上がるため、福島の平均値と大差があるように見えるかもしれない。
 実際、Tronko MD氏らの論文では、ウクライナの小児甲状腺がん患者(手術時14歳以下)345例の甲状腺被ばく線量の分布をみると、100mGy以下が51.3%と半分以上を占めており、低線量被ばくでがんが発生していることがわかる[8]。もう一つ、Cardis 氏らの論文では、ロシアの子供(がん患者+非がん者)の被ばく線量は92.3%が200mGy未満で、桁違いに多い被ばくでないことが示されている[9]。従って、「福島での被ばく量はチェルノブイリに比べはるかに低いので甲状腺がんの発生は考えられない」という論法は成り立たないと考えられる。
【放射線感受性の個人差について】
 この「報告」では、個人差について全く触れていない。ICRPでも確定的影響のしきい値に関しては、すでに1%の人が発生している値を取っており、これは、放射線感受性が非常に高い人が少数存在することを示しており、わずかな放射線でも影響を受ける人がいることをこの報告書は完全に無視していることになる(1%は、30万人だと3,000人となる)。
以上が本行教授による批判である。
 被曝線量に関する批判は医療問題研究会の山本英彦氏によってもおこなわれている[10]。UNSCEARが引用する放射線医学研究所が調査し、広島大学の田代教授らが簡易線量計を用いて測定したデータの問題点が詳しく述べられている。例えば0.02μSv未満が検出限界とみられるが1080人の中、1033人が検出限界以下となり、ほとんど信頼できないデータになってしまう。さらに弘前大学床波教授のデータも批判されている。上記弘前大学の8名であるが19歳以下は6名しかないが内部被曝だけで最大40〜50mSv となっている。小児は大人の2倍の吸収率なので実際は最大80〜100mSv になるという。また、WHOの2012年の被曝線量評価によると女性の甲状腺被曝線量は浪江町、飯館村、福島市の場合、1歳で被曝した場合、それぞれ122,74,46mSvと推定している。学術会議「報告」はなぜかこのような都合の悪いデータは無視している。
 低線量の被曝が危険であることは以下のウクライナの報告からも見ることができる。「報告」の福島の計画避難区域住民の1年間の実効線量値約5から10mSvに対して、年平均0.25mSvでもウクライナでは後述の様々な健康破壊が発生している。
 『低線量汚染地域からの報告−チェルノブイリ26年後の健康被害−』 (馬場朝子、山内太郎著 NHK出版 2012年 )[11]を引用する。
 ウクライナでは年間5ミリシーベルトを基準として、それ以上の線量の地域を住んではいけない場所(移住勧告地域)、それ以下の地域を住んでよい場所としている。コロステンがあるジトミール州の住民は、事故が起きた1986年から2011年までの25年間に、平均で、移住勧告地域では25.8ミリシーベルト、放射線管理区域では14.9ミリシーベルトの低線量被曝をしている。コロステンのあるジトミール州全体の被曝等価線量について、ウクライナ政府報告書に詳しいデータがある。子どもの被曝が等価線量にすると大きくなるなどの年齢ごとの重みづけを行った被曝等価線量のデータだ。事故の年の1986年には1.96ミリシーベルト、その後の10年間に2.91ミリシーベルト、さらにその後1997年から2011年までの間に1.32ミリシーベルト。事故発生以後、25年間の全ての積算で6.19ミリシーベルトとなっている。年平均にすれば0.25ミリシーベルト。福島県浜通りの汚染と比べれば、かなり低い数値だと思われる。

「イ 発がん(確率的影響):100ミリグレイ(mGy)以下の低線量あるいは低線量率被ばくでは有害な組織反応が発生するほどの細胞死・変性は起こらないが、発がんの原因となる突然変異は起こりうる。UNSCEAR2006年報告書では、幼少期に放射線被ばくした人々の生涯発がんリスク推定は不確かであるが、あらゆる年齢で被ばくした人々の発がんリスクに比べて2〜3倍高いかもしれないと記述している」。(p3)

「報告」は子どもの発がんリスクが全年齢にわたるそのリスクよりも2〜3倍大きいことを認めている。『低線量放射線と健康影響』放医研、医療科学社、2012年によると「妊娠中に医療被曝した子どもの小児白血病リスクの調査では、過剰相対リスクが1Sv当たり50と極めて高い」という(p152)[12]。さらに重要な指摘をしている。「近年、放射線による発がんに関し、感受性の高い個人や家系の存在と、その原因遺伝子が明らかにされてきた。そのような高発がん原因遺伝子は、DNA情報の安定性を維持する機構や細胞周期やアポトーシスに関連している。最も有名なのはATMである。ATM遺伝子欠損をホモに持つヒト(血管拡張性運動失調症)は、放射線に極めて感受性で、白血病になりやすい」。その他にも放射性発がん原因遺伝子は多くある。ICRPは1%と言うが欧州放射線リスク委員会ECRRは6%放射線高感受性の人が存在するという。
 「報告」はがんについては一定の子どもの感受性の高さを認めているが、放射線によって生じた活性酸素を介する被曝の間接的効果による病気が無視されている。この問題は被曝の被害としては決定的に重要である。この効果を無視している結果として、学術会議報告は内部被曝が外部被曝に比べ無視できるほど小さいという根本的な過ちを犯している。後に議論する。
 大阪大学本行忠志教授は子どもの感受性について次のように述べている。
「甲状腺の子供と大人の放射線感受性の違いに関しては、よく引用されるグラフがRadiology for the Radiologistのp140に載っています。頭頸部の疾患に対して行われたX線治療によって発生した甲状腺がんの過剰相対リスクを15歳未満と15歳以上に分けており、グラフの傾きからリスクは15歳未満の方が10倍以上高いことがわかります。平均で10倍以上ですから、非常に若い人では何10倍にもなることが容易に予想されます。これは甲状腺の外部被ばくの例ですが、内部被ばくでも同程度子供の方が起こりやすいと考えて良いのではないでしょうか」。

「ウ 遺伝性影響:UNSCEARは平成13(2001)年に放射線の遺伝性影響についての報告書を発表している。原爆被爆者二世をはじめとして、多くの調査があるが、放射線被ばくに起因するヒトの遺伝性影響を示す証拠は報告されていない」。(p3)

 国連科学委員会UNSCEARの2001年報告書は、このことを述べた後、すぐに次のように結んでいる。「しかし、植物や動物での実証研究で、放射線は遺伝性影響を誘発することが明確に示されている。ヒトがこの点で例外であることはなさそうである」(『放射線の遺伝的影響』1ページの要約の6)。
遺伝性影響について『低線量放射線と健康影響』(放医研、医療科学社、2012年)はBEIR-VIIによる評価を載せている(p168)[12]。100万人あたり、Gy当たりで低線量または緩性照射放射線の持続被ばくによる遺伝的リスクの推定によると、第一世代が3000〜4700症例(100万人当たり738000症例の自然疾患頻度に対する% 0.41〜0.61%)第2世代が3950〜6700症例(0.53〜0.91%)である。
 この点でInge Schmitz-Feuerhake氏らの論文が注目される[28]。彼らは低線量放射線被曝の遺伝的影響の文献をしらべた。広島・長崎の原爆被爆者を調べたABCCの遺伝的影響の調査は信頼性がないと結論している。その理由は線量応答が線形であるという仮定の間違いや、内部被曝の取り扱いの誤りなど4点を指摘している。そしてチェルノブイリの被曝データから新しい先天性奇形に対する相対過剰リスクERRはギリシャなど積算1mSvの低被曝地においては1mSvあたり0.5で、10mSvの高い被曝地では 1mSvあたりERRが0.1に下がるという結果である。おおまかには全ての先天異常を含めて積算線量10mSvにつき相対過剰リスクが1という結論である。積算10mSvで先天異常が2倍になるというのは大変なことである。

エ 子宮内被ばくの影響
「(ア) International Commission on Radiological Protection, ICRP)では着床以前の放射線被ばくによる胚の死亡は100mGy以下の被ばくでは極めて稀であると結論している。主要な臓器形成期には奇形発生のリスクが最大になる;妊娠8〜15週の時期に胎児が被ばくすると、生後の重篤な精神発達遅滞が起こる可能性がある。そのしきい線量は低くても300mGy、1GyあたりのIQの低下が25と推定されている。広島・長崎の原爆被爆者の調査では、被爆妊婦の子どもに小頭症がみられたことが報告されている」。(p3)

「報告」はICRPを引用して子宮内被ばくの危険性を指摘しているが100mSv 以下では被害が無視できるかのような記述である。しかし、30年経ったチェルノブイリ事故の被害は貴重な教訓を与えており、現地の医師との交流の記録や報告書で知ることができる[11,13-19]。その中から重要と思われるものを紹介しよう。
低線量内部被曝は遺伝子を破壊するだけでなく、ホルモン作用を攪乱する
このホルモン作用の攪乱は環境ホルモンと同様に遺伝子の発現を攪乱し、胎児の発達にとって重大な障害をもたらす。環境ホルモンに代わって放射線が「胎児―母親系」のホルモン作用を攪乱し、正常な発達を妨害する。結果として子供たちは病弱となったり、生殖系に損傷を受け、それが次世代に引き継がれる。チェルノブイリ事故を受けたベラルーシ、ウクライナ、ロシアでは「胎児期起源」の健康破壊は成長後の健康破壊の原因として重大な問題となっている[11,13-19] 。
さらに放射線の影響として重要なのは思春期における被曝の影響である。生殖器官の発達にとって重要な時期である思春期に被曝するとホルモン作用が攪乱され生殖器官が正常に発達せず、健康が破壊され、その後の世代にも引き継がれるようである。
 『低線量汚染地域からの報告−チェルノブイリ26年後の健康被害−』[11]によると次の通りである。 
 コロステンの線量は毎時0.22マイクロシーベルト(年間で約2mSv)と、いつもと変わらない線量であるが、重大問題となっていたのが事故後に汚染地で生まれ育った第2世代31万9322人の健康悪化である。「慢性疾患」を持つ第2世代は、1992年の21.1パーセントから、2008年の78.2パーセントに増加している。例えば、内分泌系疾患11.61倍、筋骨系疾患5.34倍、消化器系5.00倍、精神および行動の異常3.83倍、循環器系疾患3.75倍、泌尿器系疾患3.60倍である。およそ8割の子どもたちが病気を持っているということなどありえるだろうか。しかし、これはベラルーシ、ウクライナ、ロシアで汚染度に応じて共通に見られる現象なのである[18]。


図2 被ばくした親から生まれた慢性疾患のある子どもと健康な子どもの割合

 現在では放射線によるがん以外の多くの病気が報告されている。学術会議「報告」はUNSCEAR やICRPの主張に従い、内部被曝によるがん以外の病気を無視しているが、内部被曝の方が外部被曝より、重大な被害を及ぼすのである。この点で「報告」は根本的な欠陥がある。特に近年、活性酸素が病気の発生に果たす役割が明らかになってきた。放射線の電離作用はそのイオン化を通じて大量の活性酸素を発生する。過剰に発生した活性酸素は細胞膜、ミトコンドリア、核膜を連鎖的に破壊する。
 「報告」もIQの低下等色々障害を認めている。胎児の被曝については福島近県での周産期死亡率の上昇で証明されている。ベラルーシやウクライナでも胎児期の被曝について、その被害についての多くの報告がある[13、14]。

「(イ) 発がん:胎児の生涯がんリスクは乳幼児と同程度、すなわち全人口についての放射線誘発がんリスクは最大でも3倍程度である」(p3)
「イ 内部被ばく:内部被ばくによる個人線量の推定は、吸入により、もしくは経口・経皮的に体内に取りこまれた放射性核種の摂取量を推定し、預託線量として評価される。その際、人の体格的特性や人体での放射性核種の代謝が考慮され、臓器での吸収線量が計算される。子どもでは内臓器官も小さいので一つの臓器に強く集積した放射性物質から隣接する他の臓器が被ばくを受ける可能性が高くなる。また、年齢に応じて、代謝や生理機能、食事や呼吸量、身体活動が変化するので、年齢による差や個人差が大きい」。(p4)

 「報告」はICRPなどと同様内部被曝を過小評価している。ICRPは歴史的にも、内部被曝を外部被曝に換算して実効線量として被曝の被害を評価してきた。後述するように、人体内部の微細な構造を捨象した「ファントム」という死んだ物体で評価するという非科学的な方法である。このようなモデルで安全性や危険性を評価することができない。もはや、科学ではない。人体は多くの臓器や筋肉さらにそれらは幾兆もの細胞からなり、細胞は細胞膜やミトコンドリア、細胞核等からなる有機的な活動体である。特に胎児を含む子供は生殖系、免疫系、内分泌系など脆弱なシステムを持ち、放射線で直接に、より多くは放射線で生じた活性酸素・フリーラジカルによって攪乱され、破壊され、傷つけられ、それが蓄積する。例えば遺伝子の発現時に放射性原子核が崩壊して放射線を出すと多数の活性酸素が発生し、ホルモン作用が攪乱され、遺伝子が正常に発現できなくなる。チェルノブイリでは体力や免疫力の弱い子どもが多い。周産期死亡率の増加は胎児の正常な発育が妨げられたことを示している[2]。
 活性酸素やフリーラジカルは脂肪膜を連鎖的に破壊する。そのため細胞膜やミトコンドリア、核膜が破壊され、細胞が破壊され、臓器や筋肉が損傷される。それ故、この放射線によって発生した活性酸素・フリーラジカルによる間接的な放射線の効果はあらゆる病気に関係する。エネルギー産生にとって不可欠のミトコンドリアの損傷は体力、免疫力を弱める。細胞や筋肉の損傷は心血管系の損傷となり、高血圧・心電図異常や心臓死をもたらす。神経系や脳の損傷をもたらす。
 馬場・山内の『低線量汚染地域からの報告』は次のように書いている。ウクライナ政府報告書によれば、慢性疾患の中でも圧倒的に多いのが循環器系の病気だ。その中でも「心筋梗塞」や「狭心症」を取り上げることが多いがこの心臓や血管の病気が、がん以外の慢性疾患による死因の実に89パーセントを占めるという。
 さらに問題は、被曝した人から生まれた子どもや孫の世代の健康だという。次の証言がある。「私にも孫がいます。妻はコロステンの出身です。孫は生まれつき弱くて、目も悪く、左右の生育が違います。免疫力がなく、すぐ風邪をひきます。」「チェルノブイリの被曝者は早く年をとってしまうんですよ。寿命も短いのです。…病気の5点セットと言われる目と心臓と神経と呼吸器と胃腸障害、それらすべての病気です。」

「放射性核種のうち、子どもと成人の差が大きいものとして、ヨウ素131がある。乳児の単位摂取量当たりの甲状腺の吸収線量は成人の場合よりも8〜9倍大きくなる可能性がある。一方、セシウム137は子どもの生物学的半減期が成人より短いことが観察されており、単位摂取量当たりの臓器吸収線量は摂取時の年齢によってほとんど変わらない。同様に、ヨウ素131の単位摂取量当たりの実効線量も、セシウム137に比べ、年齢依存性が顕著である。
チェルノブイリ原発事故後に小児甲状腺がんが増加し、6,000人が手術を受け、15人が死亡したと報告されている。これは、先述の通り子どもにおいて甲状腺の単位線量当たりのリスクが成人より高いことや単位摂取量当たりの甲状腺の吸収線量が高いことに加えて、汚染したミルクの飲用により、子どもがヨウ素131を多量に摂取したことによる内部被ばくが大きく関与している。例えば、チェルノブイリ事故後48時間以内に避難したプリピャチの居住者の場合、成人の甲状腺吸収線量が0.07Gyと推定されているのに対し、乳児は2Gyと推定されている」。(p4)

この報告どおりとしても乳児の被曝は成人の30倍近いことになる。「報告」はセシウムの生物学的半減期が短く、すべて排泄されるように記述している。しかし、生物学的半減期は仮定であって正しくない。バンダジェフスキー氏らの研究によるとセシウム137が臓器に取り込まれ、蓄積し、様々な病気を引き起こすことが示された。『長寿命放射性核種取り込み症候群』と呼ばれている[13,14]。これはヤブロコフ氏たちの報告で、多くの国に見られる重大な病気で臓器に取り込まれたセシウムが蓄積し、偏在することによって起こる。

「イ 実効線量の子どもへの適用:防護に用いる線量の中核をなすのは実効線量である。実効線量の計算には、標準人として身長176cm,体重73kgの標準男性と163cm 60kgの標準女性の35歳の白人の解剖学的計算モデルを用いている。これに呼吸器、消化器などの生理学的モデルを適用して得られた臓器等価線量を男女平均した上で、臓器ごとに組織加重係数を乗じ、全臓器分を加算して求める 。実測はできないので、外部被ばく管理にあたっては国際放射線単位測定委員会(International Commission on Radiation Units and Measurements, ICRU)が提案する人体ファントムを用いて算定する実用量を線量計に目盛ったエリアモニターと個人モニターが用いられている。こうして計測される実効線量当量μSv/時は、標準人の実効線量の安全側(大き目)の推定値(近似値)である。
標準人の実効線量の推定値として求められた実用量は、体格の小さい子どもにとっても十分安全側の推定値となっていることが多い。Petoussi-Hensらは年齢の異なる子どものファントムを用いて環境放射線からの被ばくを検討し、「体が小さい程線量は大きくなるが、サーベイメータで測定する周辺線量当量はすべての年齢で実効線量を過大評価した」と報告している」。(p5)

 内部被ばくに関してICRPは時代錯誤の理論と方法を用いている。これは創設以来一貫して内部被曝を無視してきたからである。それは無視できる根拠があってではない。むしろ、被曝の危険性を隠蔽し、核の軍事・平和利用を進めるためである。今や現実の被害のもとで正しく内部被曝を評価しなければならない。放射性微粒子の存在も証明されている。
 内部被曝を主な原因とする被曝による健康被害はヤブロコフたちの報告『チェルノブイリ被害の全貌』に詳しく報告されている[18]。同報告は住民の健康への影響として罹病率の増加、平均寿命の短縮、老化の進行、新生児の体重の低下を紹介している。さらにがん以外の疾患の増加として、血液・リンパ系の疾患、遺伝的変化、内分泌系疾患、免疫系疾患、呼吸器系の疾患、泌尿生殖系の疾患、骨と筋肉の疾病、神経系と感覚器の疾患、消化器系疾患とその他の内臓疾患、皮膚と皮下組織の疾患、感染症及び寄生虫症、先天性奇形、その他の疾患を報告している。さらに次の章で腫瘍性疾患を取り上げ詳しく議論している。最後に事故後の死亡率の増加を報告している。
 この報告によれば、各国共通に全体的な健康破壊が汚染度に応じてみられる。私たちはこの全体像を理解し、説明しなければならないのである。その点で、死んだ物体である「ファントム」などを用いた実効線量の解析は決定的に不十分である。この点で、ICRPによって無視されてきた活性酸素を介する間接的な被曝効果、ペトカウ効果が重要な鍵を握っていると考えられる[20]。
 
「① 次世代への影響に関する社会の受け止め方
胎児影響は、福島原発事故による健康影響の有無がデータにより実証されている唯一の例である。福島原発事故に起因し得ると考えられる胚や胎児の吸収線量は、胎児影響の発生のしきい値よりはるかに低いことから、事故当初から日本産科婦人科学会等が「胎児への影響は心配ない」と言うメッセージを発信した。これはチェルノブイリ事故直後、ギリシャなど欧州の国々で相当数の中絶が行われたことによる。福島原発事故から一年後には、福島県の県民健康調査の結果が取りまとめられ、福島県の妊婦の流産や中絶は福島第1原発事故の前後で増減していないことが確認された。そして死産、早産、低出生時体重及び先天性異常の発生率に事故の影響が見られないことが証明された。
専門家間では組織反応(確定的影響)である「胎児影響」と生殖細胞の確率的影響である「遺伝性影響 (経世代影響)」は区別して考えられており、「胎児影響」に関しては、上記のような実証的結果を得て、科学的には決着がついたと認識されている。」(p9)

 「報告」に反して、福島原発事故においても、低体重児[21 ]、自然死産率、周産期死亡率の増加、急性心筋梗塞などの増加が報告されている。特に周産期死亡率に関しては津波による影響を区別して検出されており、放射線被曝によるものと判断される(図3参照)。「報告」が実証されたという「福島原発事故に起因し得ると考えられる胚や胎児の吸収線量は、胎児影響の発生のしきい値よりはるかに低い」という判断が誤っていたのである。



図3 周産期死亡率 強汚染県(福島、群馬、茨城、岩手、宮城、栃木)

福島原発事故から10ヵ月経った2012年1月に周産期死産率が15.6%増加した。オッズ比1.156(1.061,1.259)

「そこで福島県は事故時に18歳以下であった全県民を対象に甲状腺超音波検査を実施している。チェルノブイリ事故後の知見によると小児甲状腺がんの潜伏期間は4〜5年と比較的短く、この影響の有無に関して(暫定的であれ)結論を得るには10年程度が必要である」。(p10)

ここでは科学者としての論理的な思考力が問われる。潜伏期間が4から5年は間違いである。子どものがんの最短潜伏期間は米国疾病予防管理センターCDC も1年としている。最近の科学ではがんの進行の各段階で、放射線はがんの進行を早める。すでに発生したがんの抑制遺伝子を弱めることによっても小児甲状腺がんは発生させられる。チェルノブイリでも高年齢の方が被曝からがん発生までの期間が短い。福島県民健康調査の結果は第1巡目から約2年後の2巡目検査で小児甲状腺がんが発見されている。2年間以内に発症したことを示している。
 小児甲状腺がんの発症はどのくらいの期間で起こるのか。以下の図4は松崎道幸医師がチェルノブイリ事故によるベラルーシの子供の甲状腺がんについて作られた図である。高年齢の子どもたちに被曝後早くがんが発生し、0歳で被曝した子は約7年後に最も多く小児甲状腺がんが発生している。10歳近くで被曝した高年齢の子どもの方に被曝後がんが早く発生するのはがんの発生の機構が関係しているようである。この点は後に詳しく説明する。がんが0歳時に発生してがんと認められるのに7年かかるとしても10歳で被曝した子はすでに小さながんがあり、がんを抑制する免疫等のシステムが放射線で壊されたり、放射線でがんの成長が促進されたりするとがんが発症するようである。この時、がんの潜伏期間や有病期間をどう定義するかということが問題となる。
 最近の分子生物学では、がんの発生から進展の全体像が明らかになりつつあるということである。
ICRP2007年勧告も指摘しているが、がんの発生と進展の多段階性が主張されている。
(1)イニシエーション(前腫瘍状態)
(2)プロモーション(前腫瘍状態の細胞の増殖と発達)
(3)悪性転化(がん化)
(4)プログレッション(進行の加速と浸潤性の獲得)
最近の研究の重要なポイントは遺伝子及びエピゲノム及び染色体の変異・欠失が蓄積していく点、この蓄積は前がん病変段階でも、がん化でも、がん悪性化でも同じである。そして放射線は直接、あるいは活性酸素を通じて間接的に各段階でがん化を促進する。
 以上の考察から言えることは、放射線の影響があるかないかの二者択一の問題の捉え方は一面的であることである。甲状腺がんの発生・成長の各段階で放射線ががんの発症を促進すると考えるべきである。それ故、福島県をはじめとして子どもの甲状腺がんが著しく多発したのである。


図4 被曝時年齢と甲状腺がん発見期間  (松崎道幸氏による)
10歳の子供だと平均潜伏期間は7年位、がんが発生してから認定されてから手術までの期間4年位でしょうか。

 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い罹患率の計算を行った。そして「3地域の罹患率の比較」を行った[22]。

表2 3地域の罹患率の比較
               ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値



「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。

「実施中の甲状腺超音波検査は、これまで世界に例のない無徴候の健常児を対象とした大規模で精度管理された詳細調査である。平成27(2015)年6月末までに、震災時福島県に居住の概ね18歳以下の県民約30万人が受診(受診率81.7%)した。治療の必要のない極めて軽微な異常(嚢胞や微小結節所見)が多く発見されたが、同じ福島方式で甲状腺検査が実施された他の地方自治体(弘前市、甲府市、長崎市)と有所見率の差は認められなかった。ただし、検査対象数が1000人規模と少なく、同じ精度の結果ではないとの批判がある。しかしながら、我が国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い小児甲状腺がんが発見されている。これは一方が健常児の全数調査(悉皆調査)、他方は病気の徴候が出現して診断を受けたがん登録という異なる方法でのそれぞれ異なる結果であり、本来比較されるべき数字ではない。韓国では、超音波による広範な検診を行ったところ、甲状腺がん発見率が英国の15倍、米国の5〜6倍と、明らかに大幅な上昇を経験した。また、12か国における1988年〜2007年の間の調査結果から甲状腺の超音波検査により47万人の女性と9万人の男性が過剰診断されたと推定 した報告がある。(p10)

「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い小児甲状腺がんが発見されている」というのである。3県の調査の環境省の発表ではがんが確かに1人見つかっている[23]。環境省の記者発表の表によると、3県合計4365人の調査で1人見つかっている。福島県と同じ発症率とすると1人くらい見つかってもよい人数であるが、年齢等詳しい報告がなく、1人では見つかっても統計的に精度がなく、数十倍のオーダーという定量的議論はできない。「報告」の誠実さが疑われる。
韓国や米国の例は明らかにスクリーニング効果によるものである。がんの判定基準が緩いのである。しかし、福島県の場合は鈴木真一教授の言うように、過剰診断でもなく従来の基準にのっとり手術の必要ながんが手術されたと思われる。最近の報道でも、詳しいデータも福島医大で秘密に管理されていた。

「県民健康調査委員会は小児甲状腺がんの潜伏期間を考慮すると、事故後3年以内の先行検査の結果は、放射線の影響とは考えられず、今後、同じ方法で得られた結果と順次比較するためのベースラインと位置づけているが、これに対する異論もあり、後述する」。(p11)

 先に述べたように、アメリカ疾病予防管理センターCDCによると、最短潜伏期間は子どものがんに対しては1年である。「先行検査」のA判定で異常なしから約2年後の「本格検査」でがんが発生した。最小潜伏期間4年ではこの事実が説明できない。

「平成28(2016)年12月末日までに185人が甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定され、このうち146人が手術を受けたという数値が発表されている。こうした数値の解釈をめぐりさまざまな意見が報道され、そのたびに社会の不安を増幅した。福島県県民健康調査検討委員会は、中間とりまとめにおいて、これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、放射線の影響とは考えにくいと評価した。(p11)

「線量が低い」ことは先に述べたように誤りである。ヨウ素131の放出量ではチェルノブイリ事故と福島原発事故ではほぼ同規模と思われる。「事故当時5歳以下からの発見がない」ということも、事故時4歳の子にがんが見つかり、「5歳以下にがんは発生していない」は否定された。それを知っているはずの佐々木氏や山下氏が上の誤った記述をしたのは不誠実である。こうして、彼らの、推論も否定される。根拠にならないことを根拠としていたのであるから訂正するか、少なくとも事実を付言すべきである。
 地域別の発見率に関するOhira氏たちの論文は、福島県の地域の分割が3つと少なく、差が出にくくなっている。しかも汚染度の最も高い地域の調査対象人数が4192人、甲状腺がん患者数は2人と少なく統計誤差が大きくなる分割となっている。しかも、汚染度の低い地域が遅く調査され発見率の差を相殺する方向に働く。これでは、正しい結果は出ないのも納得できる。

原発が甲状腺がん増加の原因であることの証拠
図5は医療問題研究会の山本英彦医師による福島原発からの距離と先行検査の小児がん発生率の関係を示している(危険率p=0.002)。原発に近いほど発症率が高く、小児甲状腺がんの原因が福島原発事故にあることを明確に示している。


図5 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)



「③放射性セシウムと発がんに関する社会の受け止め方
UNSCEARは福島原発事故による外部被ばくや内部被ばくを評価して、主には放射性セシウムによる低線量・低線量率の被ばくでは、将来のがん統計に有意な変化はみられないだろうと予測した。この予測結果を実証するには、がんの潜伏期間を考えると、数十年の時間を要することになる」(p11)

 この予測の「数十年」もかからず発生したのだから、予測したUNSCEARの潜伏期間が間違いであり、放出放射性物質量や微粒子のことを考慮して事実を説明すべきである。数十年も待って被害が拡大した時、責任を取れるだろうか。放射線被曝の研究の目的は事故の被害から住民の健康と生命を守ることである。それ故、予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがあるときは、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置がとられなければならない」が公害問題に対する国際的な合意となっている。なぜ、ここで「予防原則」を適用しないのか。

「ア 外部被ばく由来:事故由来の放射性セシウムによる被ばく量で言うと、内部被ばくに比べ外部被ばくの方がはるかに大きい。そこで避難や生活空間の除染などの対策が講じられた。特に子どもへの配慮としては、校庭の除染や屋外活動の制限などが行われた。福島県の市町村では、子ども・妊婦を中心として個人線量計による被ばく線量の把握が行われ、概して空間線量率から推計された追加線量よりも個人線量計での計測値が少ないことが確認された」。(P12)

「内部被曝に比べ外部被曝の方がはるかに大きい」は根拠がなく誤りである。内部被曝を理解していないのにどうして外部被曝と比較ができたのだろうか。ガラスバッジによる個人線量の測定には疑問が多く信用できない。ガラスバッジでは前方からくるガンマ線だけを検出する。それ故、全方向からくる放射線の測定には適さない。その結果を用いて住民が受ける線量が空間線量より低いとは言えない(宮崎・早野論文は15%と言う)。その報告論文である宮崎・早野論文は間違いや不正確な部分があることが黒川眞一氏によって指摘されている[24 ]。詳細は以下のブログを参照されたい。
http://blog.torikaesu.net/?eid=65
http://blog.torikaesu.net/?eid=63

「イ 内部被ばく由来:平成23(2011)年に福島県内で実施されたホールボディカウンターやバイオアッセイによる体内放射能の調査、あるいは厚生労働省が流通食品を収集して行った食品中の放射能の調査では、放射性セシウムの数値はどれも小さく、また経時的にデータを比較すると、食品中の放射性セシウム量の減少傾向が認められた。しかし内部被ばくを危険視する声は大きく、平成24(2012)年4月には食品の基準値が引き下げられ、特に乳児が食べる「乳児用食品」と子どもの摂取量が特に多い「牛乳」には、他に類を見ないほど低い数値が設定された。これにより全国規模での内部被ばくへの不安は鎮静化した感があったが、今もなお完全には払しょくされていない。」 (p12)

日本の食品基準は緩すぎる。100Bq/kg(牛乳、乳児食品50Bq/kg)は少なくとも測定限界(約1Bq/kg)以下にすべきである。ウクライナではその飲料水の基準を2Bq/kgにしてはじめて出生率の減少が止まった。ここで大切なことは体内に取り込まれた放射性核種の排出の困難さである。決して生物学的半減期と呼ばれるように指数関数的な減衰とはならないことである。血流に乗って体内をめぐるうちに、ある臓器に滞留したり、体内の化合物に結合したりして排出が遅くなる。こうして臓器に蓄積するのである。まして、放射性微粒子となれば半永久的に蓄積される[25]。それゆえ、1日1ベクレル摂取でも危険である。

「 チェルノブイリ事故との比較:チェルノブイリ事故では、放射性物質の総放出量(ヨウ素換算)は5.2×1018ベクレル(Bq)、ヨウ素131の放出量は1.8×1018と推定されている。福島原発事故における放出量はそれぞれ約1/7と1/11に相当する。一方、キセノン133の放出量は6.5×1018と福島原発事故の方が1.7倍と多い。これは発電所の出力規模(福島第一:合計約200万kW、チェルノブイリ:100万kW)の差によるものである。 (p13)

 放出量に関しては国際的に信頼性の高いノルウエー気象研究所のストール氏らは福島原発事故によるセシウム137の大気中放出量は20.1〜53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。一方、学術会議が引用する日本政府のセシウム137放出量は15PBqと小さい。ヨウ素131の放出量はセシウム137の50倍(東京電力の値)を採用するとチェルノブイリでヨウ素131は日本政府750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これは「報告」の言うチェルノブイリのヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。渡辺悦司氏はストールの上限をとって(チェルノブイリの値が上限をとっているから2655PBqとし)福島のヨウ素131の放出量がチェルノブイリの1.5倍と推計している。それ故、「報告」の1/7や1/11は過小評価と考えられる。
 たとえもしこの通りの比率と仮定すれば、報告書は、チェルノブイリの11分の1から7分の1の健康被害が出ることは当然予測されると認めなければならないことになる。報告書は、チェルノブイリでの子どもの甲状腺がんの発症による手術数を6000人、うち死亡数を15と明記している。それなら、福島や周辺諸県でも、大まかに言って、その11分の1から7分の1、550人から860人の手術を要する甲状腺がん患者、うち1〜2人程度の死者が、十分に予測されると言わなければならない。

「福島県の県民健康調査によると、比較的被ばく線量が高いと予測された川俣町(山木屋地区)、浪江町、飯舘村住民(放射線業務従事経験者を除く)の調査結果では、合計9747人の約95%、9歳以下の748人の99%が5mSv未満であった。ベラルーシやウクライナの避難者集団の平均被ばく線量と比べるとはるかに低い」。(p13)

 年間5mSv以上はチェルノブイリでは住むことが許されない移住地域である。しかもチェルノブイリでは2/3の内部被曝を加えるので、外部被曝だけであれば3mSvが移住地域である。年間1mSv以上は避難の権利が保証される。それ故、5mSv未満でもチェルノブイリの避難者集団の平均被曝線量より、「はるかに低い」とは言えない。放射性微粒子による内部被曝のことも考えると福島はいっそう危険である。
 また、福島県内148か所のモニタリングポストの値が住民の受けている空気吸収線量率の示すべき値の46 %〜 52 %の小さい値であることが矢ケ崎克馬氏によって検証されている。

(4) 放射線影響をめぐる様々な見解
「(3)節では、事故後数年の間に行われた健康影響の検証状況と社会での認識についてまとめた。胎児影響のように事故の影響が見られないことが立証された健康影響はごく一部である。そのため、事故による発がんリスクの評価に関しては、UNSCEARの見解とは異なる見解を示す研究者もいる」(p15)

 胎児影響は事故の影響が見られないとしているが自然死産率の上昇、周産期死産率の上昇が証明され論文として発表されている[2]。UNSCEARが周産期死亡率の論文を無視して間違った記述をしているのであるから異なる見解が出て当然である。

「例えばセシウム137の子どもの臓器別セシウムの体内分布について、甲状腺や心筋において、成人の3倍、他の臓器で2倍となると報告した論文などである。また膀胱における前癌病変が低濃度セシウム汚染地域住民で増加しており、低濃度セシウム内部被ばくは膀胱癌の発生を増加させると報告した論文も発表されている。文献73では、膀胱尿中の40Bq/時と放射性セシウムよりも圧倒的に高く含まれる天然放射性核種であるカリウム40由来の放射線のことを議論していない(放射性セシウムとカリウム40はともにβ線とγ線を出す)のは、問題であることが指摘されている。しかし、いずれの論文もヒトを対象とした研究であるため、単独の論文だけでセシウムと発がんの因果推論を行うには限界があるが、学術コミュニティに対しより詳細な研究の必要性を喚起する契機とはなった」。(P15)

「報告」は膀胱がんの論文[26,27] に対して異議を唱えているのである。「膀胱尿中の40Bq/時(40Bq/kgの誤りと思われる)と数Bq /kgの放射性セシウムよりも圧倒的に多く含まれる天然放射性核種であるカリウム40由来の放射線のことを議論していない」として批判している。ともにβ線を出すカリウム40とセシウム137はベクレル数だけでは発がん作用が決まらないのである。セシウムは微粒子ともなり、体内で局所的に偏在する。カリウム40はカリウムチャンネルを通じて体内を自由に移動し、偏在しない。このことが同じベータ崩壊であっても異なる被害をもたらすのである。局所的に偏在するセシウム137は集中的、継続的な被曝を臓器の一部分に与え、カリウム40よりいっそう危険なのである。いつも線量ばかりを問題にし、活性酸素を介しての被曝の効果つまりペトカウ効果を無視しているから、論文に説明があっても、「報告」者にはセシウム137とカリウム40の違いが理解できないのである。ファントムに放射線が当たっても活性酸素は発生しないし、細胞膜を破壊しないからである。

③ LNTモデルをめぐる議論
「放射線防護の目的は、平常時には確定的影響を防止し、確率的影響を容認可能なレベルまで低減することにある。しかし容認可能なレベルがどこかと言う点において、多くの放射線防護研究者のロジックと一般社会でのリスク認知にはギャップが存在する。UNSCEARを中心に、科学的な放射線健康リスク評価を定期的に行なっている国際機関と、これら科学的根拠を基に、政策立案に資する放射線防護の考え方を勧告しているICRPや米国放射線防護審議会(National Council on Radiation Protection and Measurements, NCRP)などの予防原則に沿った国際的なコンセンサスづくりを理解し、その上で国際原子力機関(International Atomic Energy Agency, IAEA)のBSS(Basic Safety Standards)シリーズや世界保健機関(World Health Organization ,WHO)などの健康リスク管理を理解する必要がある」。(p15)

 これらIAEA, ICRPは国際的には一体となって核の軍事的・平和的利用を推進してきた機関である。WHOさえ、安全保障理事会のもとにあるIAEAの支配下にあり、WHOはIAEAの許可なしに核や被曝に関する情報を公開できないのである。 
世界保健機関(WHO)は、1959年5月28日、国際原子力機関(IAEA)との間に協定「WHA12-40」を締結した。
この協定の主な内容は「国際原子力機関と世界保健機関は、提供された情報の守秘性を保つために、ある種の制限措置を取らざるを得ない場合があることを認める」としている。この協定の締結後、WHOは放射線防護に関する目標を遵守するための独立性や自主性を全く示していない。WHOは、チェルノブイリ原発事故から5年経過後に、やっと高濃度汚染地域を訪れた。WHOは被害を受けた人々に避難命令も出さず、汚染されていない食料の供給も行わなかった。WHOは、特に1995年から2001年までの会議の議事録を公開しないことにより、この大事故の公衆衛生的な影響を隠蔽してきた。WHOは、チェルノブイリ事故による死者数を常に約50人以下と見積もっており、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアの人々の健康上の問題を放射能への恐怖心によるものとみなしている。WHOは、チェルノブイリ事故による死者数を100万人近くと推測する、ニューヨーク科学アカデミーが2009年に発表した研究結果の有効性を認めていない[18]。世界の市民運動はIAEAから独立したWHOを求めている。
http://independentwho.org/jp/who%E3%81%A8iaea%E3%81%A8%E3%81%AE%E5%8D%94%E5%AE%9A/#top

「しかし一般社会においては、計画被ばくによるリスクと事故による被ばくリスクの容認の基準は必ずしも同じではない。前者はリスクを上回る便益が伴うのに対し、後者にはリスクをいくら最小化してもそれを上回る便益が発生することはない。そのためリスクがゼロでなければ容認できないと考える人も多い。
リスクをゼロにするには労力・経済・心理面などいろいろなコストがかかり、別の健康リスクを増加させる場合もある。特に減らすべきリスクが小さければ、トレードオフの関係にある経済コストや別の健康リスクの方がより社会に害をなすであろう。またリスクゼロの人間社会はあり得ないことも事実である。この場合、むしろ、追加リスクをゼロにする防護方策の実施を、他のリスクとのバランスから論理的に考える根拠として、LNTモデルの科学的妥当性の検証は極めて重要な論点となる。実際の健康影響量としての線量評価ではなく、防護量としてLNTモデルから如何にこのリスク・ベネフィットの総合的な判断を下すのかという厳しい状況を、どのように説明、あるいは回避できるかが重要な課題である」。 (P16)

 一般社会では原発推進が便益をもたらすように学術会議「報告」は言うが社会的に見ても必ずしも全ての人に原発による便益があるわけではない。まして、福島原発事故の損失はほとんど一般住民の犠牲に転化されている。原発推進を提唱し、推進に加担してきた学術会議が被害の責任と救済に触れないのは許せないことである。それにもかかわらず、リスクはゼロにはできないからとその受忍を迫っているのである。「特に減らすべきリスクが小さければ、トレードオフの関係にある経済コストや別の健康リスクの方がより社会に害をなすであろう。またリスクゼロの人間社会はあり得ないことも事実である」。これが福島原発事故の加害者責任を問われる学術会議の言う言葉だろうか。
 「報告」はリスク・ベネフィット論を展開しているが福島原発事故被害者は農地や牧場、漁場を失い、健康や命まで失ったのである。原発による利益は東電のものであり、住民にとって、利益、ベネフィットはゼロである。「報告」は被曝を減らすための除染、移住・避難をすることは経済性からほどほどにすべきであるといっているのである。これはまさに原子力推進勢力の意見であり、住民の健康を守る立場の発言ではない。科学者といえども人間である限り、人間の命と健康を第一にすべきである。それなのに経済性を優先させる核エネルギー利用勢力の一端を科学者の代表機関である「学術会議」が担っているのである。人権を無視して原子力を推進してきた責任を学術会議として深く反省しなければならない。

「最近では、100mSv以下の被ばくによる有意な健康影響を示したとする疫学調査の結果が原発労働者や医療被ばくなどの積算線量との関係から報告されているが、こうした研究をLNTモデルが科学的に実証された根拠として認めるかどうかには、専門家間での見解の相違がある」(p16)

 上の議論は100mSv以下では被曝被害は無い、または証明されていないといってきた佐々木氏達がここではLNTモデルの議論にすり替えている。最近の医療におけるCTを用いた低線量被曝の疫学調査では数ミリシーベルトまで直線的にがんが発生することが示された。原発労働者の被曝調査でも同様である。まず、100mSv以下でも被害があることを認めるべきである。LNTモデルの証明に一般市民は主たる関心はなく、むしろ健康被害があるかどうかである。ペトカウ効果を考慮すると低線量で被曝の効果がより強まることもあるのである。

「一方、福島原発事故による追加被ばくに関しては、科学的事実が蓄積され、実際の被ばく線量が明らかにされつつあるものの、子どもへの健康影響に関する不安がなかなか解消されない。そこで、被ばく低減効果の大小にかかわらず、社会から強く要望があった場合は、防護方策を強化する方向で対応してきた(2章(3)節)。その結果、社会全体に関して言えば、健康不安は鎮静化の方向に向かっているが、その分、自主避難者、大規模な甲状腺超音波検査で甲状腺がんが見つかった子どもや家族など、特定の集団の不安が孤立化、先鋭化してきている。また放射線防護の原則に従うと、容認されうると判断される程度の検出限度以下の放射線リスクが、必ずしも被災者にとって理解・容認されてはいない現状も明らかになってきた(2章(4)節)」。  (p17)

 特定の集団の不安などと自主避難者を特別扱いにする態度が見られるが、不安は日本中や世界に広範囲に存在する。誠意のある救済がなされず、移染された汚染物は破れたり、火災の発生しやすいフレコンバッグに詰め込まれたままである。科学者なら不安の原因を明らかにすべきなのに、被災者が放射線リスクを容認しないのが悪いかのような記述である。国は100Bq/kgを食品の基準としているが、これは福島原発事故前の放射性廃棄物の処分基準である。この食品基準に不安を感じるのは当然である。食品基準を検出限界と思われる1Bq/kgにとったとしても、胎児被曝や放射線感受性の高い人を考えると、この値でも「容認できる」とは言えないのが科学的判断である。まして放射性微粒子として内部被曝の危険性がある。科学者として学術会議は原発推進に責任があり、子どもや被災者の健康を守り加害責任を果すべきなのである。

「ICRPも被ばくに関連する可能性のある人の望ましい活動を過度に制限することなく、放射線被ばくの有害な影響に対する人と環境の適切なレベルでの防護を目指すように「すべての被ばくは、経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保たなければならない「ALARA原則」としており、子ども目線でのALARA原則の適用を検討する必要がある」。(p18)

「報告」は「経済的・社会的要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く」という「ALARA」原則の適用を主張している。その原則の下で社会的に推進されてきた核の平和利用の結果が今回の福島原発事故である。被曝による健康破壊や失われた命と経済的利益が比較できるものではないことは今や明らかである。また、事故後の被曝に関しては、ここで言う経済的及び社会的要因というのは国や東電の負担が多くかからないようにということである。学術会議は誰を代表しているのか。誰の利害を擁護しているのか。これはすでに「報告」の分科会委員長の佐々木康人氏自身が国と東電のために、賠償裁判において連名意見書を提出し、「ALARA」を盾に被告を擁護する証言をしていることからも明らかである。子どもたちを被曝被害から守り、健康に育てようという視点が失われている。

「(4) 原発事故後の甲状腺検査の在り方
福島原発事故後、初期放射線被ばくによる甲状腺等価線量が不明であり、県民健康調査事業が開始されている。その詳細調査の一部として、平成23(2011)年10月から事故当時0歳からおおよそ18歳までの子どもを対象として約37万人の甲状腺超音波検査が開始されている。その結果、事故後3年間の先行調査を受診した30万人のデータが解析報告され、多くの甲状腺異常所見(嚢胞や結節)が明らかにされ、特に、甲状腺がんが113例(約0.037%)の頻度で検出されている。これらに地域差や外部被ばく線量の違いによる発見頻度に有意差は無く、今まで検査が施行されたことがない対象者・地域に、初めて精度管理された超音波画像診断が導入されたことによるいわゆる"スクリーニング効果"であると考えられている。事実、UNSCEARやIAEAの福島報告書からも被ばく線量の低さから、放射線の影響は想定されていない」(p19)。

 これは先に述べたように、存在し、証明されている健康破壊や周産期死亡という事実に反する虚偽の文章である。小児甲状腺がんでは1巡目より2巡目の方が発症率が高く、スクリーニング効果は否定されている。すでに放射線被曝の影響は明確に出ているのである。大量の犠牲者が出ているのに全くそれを無視し、デマで住民を騙して被曝を強制していることになる。これは大量の人的被害を学術会議の名において容認することになる。学術会議は大量の犠牲に対し責任を取らねばならない。

「しかし、甲状腺検査結果に対する現場の混乱、とりわけ発見された甲状腺がんに対する患者家族の不安は大きく、検査の妥当性、丁寧な現場説明の必要性、そして何よりも「放射線影響の本態と甲状腺がんの自然史」と「発見された甲状腺がんの治療の在り方」、「繰返される長期間にわたる検査の在り方」について広く専門家による国際的なコンセンサスやガイドラインの策定、そして関係者を入れた共通認識と協議の場の必要性が、第5回福島国際専門家会議(平成28年9月26-27日、福島市開催)でも提唱されている」(p19)。

 チェルノブイリと同様被曝被害の拡大が危惧される現状において、健康調査を地域的にも、大人を含めて年齢的にも拡大すべきである。増加する可能性の高い健康破壊に対して、検査を縮小することは許されない。尿や血液検査も含めて検査内容を拡大し、継続し、公表すべきである。検査や治療は、住民や避難者、被災者と協議してその意見に基づいて、健康調査費用は国が責任を持って行うべきである。

原発賠償訴訟における「佐々木外連名意見書」の問題点 山田耕作

2017年9月


原発賠償訴訟における「佐々木外連名意見書」の問題点

山田耕作
2017年3月3日
2017年9月1日改定



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原発賠償訴訟における「佐々木外連名意見書」の問題点(pdf,21ページ,625KB)


まえがき
 福島原発事故に対して、避難者はじめ被災者から、東京電力と国の責任を追及し、被害の賠償を求めて、全国各地で裁判が行われている。裁判においては各裁判所で被告(東電と国)側からと原告(被災者・被害者)側から、それぞれを代表する科学者から意見書が提出され、裁判で論議されている。特に被曝の被害をめぐっては、原告を代表する意見書は崎山比早子氏による意見書であり、それは国と東電の被曝をめぐる科学上の過ちを指摘し、厳しくその責任を追及している。一方、被告を代表する意見書は佐々木外16名の連名意見書である(「連名意見書」と呼ぶ)。2014年2月「放射線リスクに関する基礎的情報」を、56名の学識経験者の協力を得て政府が発表しているが、連名意見書の基本的な内容はこの「基礎的情報」と同じである。そしてその主張は旬報社発行の『福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り』1)ですでに批判されている。特に同書の松崎道幸氏による第1章「日本政府の4つの誤り」、および山田による第3章「『放射線リスクに関する基礎的情報』の問題点」において詳しく議論されていることである。参照されたい。
 また、この連名意見書に対しては崎山比早子氏が裁判において的確に反論されている(甲D共162意見書4/連名意見書への反論)。そこで、私のこの小論の目的は裁判を少し離れて、純粋に科学的な立場から連名意見書の内容を見たとき、どのような問題点があるかを明らかにすることである。この小論が、被災者やそれを支援して奮闘されている皆さんを力づけ、被災者の何かの役に立つことがあれば幸いである。以下、連名意見書の目次に沿って議論する。

はじめに
 連名意見書は冒頭の「はじめに」において、崎山意見書には、連名者たち「専門家」の「常識的認識」と異なる見解が多く含まれているという結論を述べている。その「不適切な」主張は次の5点であるという。
1)最近の論文によってLNT モデルが低線量域で科学的証拠により証明されており、統計的に有意な発がんリスクの増加が認められる、
2)年間1 ミリシーベルト超の住民の被ばくは原発事故後の福島県を含めて容認できない、
3)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: UNSCEAR)から放射線誘発非がん疾患の疫学的評価に関する報告書がでているので速やかに法規制に取り入れるべきである、
4)福島県で小児甲状腺がんの多発がみとめられるのは放射線被ばくが原因である、
5)年間20 ミリシーベルトを基準とする住民の帰還政策が科学的見地から非合理的である。(p1)

 私は連名意見書が「不適切」という、崎山意見書の以上の5点は極めて正しい適切な指摘であると考える。そして、反対に、ここで言う連名者である「専門家」は一面的な考え方に捕らわれ、最近の科学的な進歩に反する「非常識」な意見を述べていると思わざるを得ない。以下に検討する。

1章.科学的常識の成立
 連名意見書は言う。
新たな知見が科学的真理として受け入れられるためには、多くの追試などを通じてその再現性が検証され、学会等の専門家集団で定説となる必要がある。国の規制に取り入れるのは、その確かさを十分検証された科学的知見であるべきであって、論文が発表されたからといって、そこで報告された結果を速やかに規制に取り入れるべきとの崎山氏の要求は適切でない。(p1−2)
 連名意見書は論文に掲載されても、「科学的常識」として、「専門家集団」の「定説」となる必要があるという。ところが、この「専門家集団」が問題なのである。この「専門家集団」の定説が批判され、放射線被曝のリスクが国際的な論争として永年にわたって継続されている現実を考える必要がある。これまで真剣に被曝の問題に取り組んだ人たちは、国際的な深刻な対立が原子力推進派と被害者救済派の間に存在することを知っているからである。例えば中川保雄氏の古典的名著『放射線被曝の歴史』2)は次のように述べている。「今日の放射線被曝防護の基準とは、核・原子力を開発するためにヒバクを強制する側が、それを強制される側に被曝をやむを得ないもので、我慢して受忍すべきものと思わせるために、科学的装いを凝らして作った社会的基準であり、原子力開発の推進策を政治的・経済的に支える行政的な手段なのである」。

1.1 被曝被害をめぐる深刻な国際的対立
 また、アレクセイ・V・ヤブロコフ氏たちが2009年に出版した「チェルノブイリ被害の全貌」3)の前書きでウクライナ国立放射線防護委員会委員長のディミトロ・M・グロジンスキー教授は次のように述べている。
 「立場が両極端に分かれてしまったために、低線量被曝が引き起こす放射線学・放射線生物学的現象について客観的かつ包括的な研究を系統立てて行い、それによって起こりうる悪影響を予感し、その悪影響から可能な限り住民を護るための適切な対策をとる代わりに、原子力推進派は実際の放射性物質の放出量や放出線量、被害を受けた人々の罹患率のデータを統制し始めた。放射線に関連する疾患が明らかに増加して隠し切れなくなると国を挙げて怖がった結果こうなったと説明して片付けようとした。…(中略)…この二極化は、チェルノブイリのメルトダウンから20年を迎えた2006年に頂点に達した。このころには、何百万人もの人々の健康が悪化し、生活の質も低下していた。2006年4月、ウクライナのキエフで2つの国際会議があまり離れていない会場で開催された。一方の主催者は原子力推進派、もう一方の主催者は、チェルノブイリ大惨事の被害者が現実にどのような健康状態にあるかに危機感をつのらせる多くの国際組織であった。前者の会議は、その恐ろしく楽観的な立場に当時者であるウクライナが異を唱え、今日まで公式な成果文書の作成に至っていない」。

1.2 連名意見書は被曝被害の救済という目的を忘れ、科学的真理を無視している
 さて、連名意見書の言う「国際機関で合意されている科学的常識」とはなんであろうか。どの国際機関で決められた「科学的常識」なのかが問題である。ここにおいて上記の原子力推進派と被害者救済派の対立を考慮すると連名意見書の立場が明確になる。
 つまり、連名意見書提出者はその連名意見書を見ればわかるように「国際機関で合意されている科学的常識」として、自分たちが代表する従来のICRP(国際放射線防護委員会)、IAEA(国際原子力機関), UNSCEAR(国連科学委員会) の一連の見解を「科学的常識」として維持し、適用している。そのため、対立する被害者救済側の最近の進歩である低線量被曝の大規模な疫学調査データやチェルノブイリ事故で発見された「長寿命放射性核種体内取り込み症候群」を一切無視している4−11)
 放射線被曝の研究の目的は事故の被害から住民の健康と生命を守ることである。それ故、予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがあるときは、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置がとられなければならない」が公害問題に対する国際的な合意となっている。連名意見書にはこの「予防原則」という言葉が一切なく、根本的な原則である基本的人権として、人類の命と健康、生活を守るという姿勢が全くない。頭から福島原発事故被害は一切ないと決めつけているのである。
 科学においては、新しい真理が発見されれば古い「常識」は誤りであるということである。現在では5ミリシーベルト程度の低線量までリスクが評価されている。それにもかかわらず、連名意見書は時代遅れの誤った「100ミリシーベルト以下の被曝では被害は証明されていない」という、1950年代にアリス・スチュアートによって批判され覆された古い見解に固執しているのである。これは真理より「古い常識の維持」を優先させる本末転倒した考え方である。ピアレビュー誌に載っても自分たちに都合が悪ければ異議を唱え、まだ証拠不十分といい続けるのである。放射線被曝がよりいっそう危険なことが分かってきたのだから、できる限り早くその知見を取り入れ、被害を減らすのが人類の安全を守る立場の人の責任である。人命よりも古いリスク論になぜこだわるのか。グロジンスキー教授の言うように「被害を隠し、なかったことにする」ためである。その目的は被害に対する国・東電の責任を逃れ、膨大な被害の賠償を逃れるためである。

1.3 科学的真理は客観的な法則であり、自然によって検証される
 ここで最後に「科学的常識」という言葉について考えたい。通常、科学者は「科学的真理」を基準にする。ここでは放射線被曝に関する真理が問題になっている。連名意見書は「真理」といいながら実は「専門家集団での定説」、つまり常識を基準としている。これがそもそもの間違いである。科学的真理は客観的な自然の法則であり、自然や生物の実験・観察によって検証される。連名意見書の言うように掲載される雑誌や多数意見が真理の基準ではないのである。「地動説」は当時のガリレオ・ガリレイ一人の意見であっても正しく、多数意見でも「天動説」は間違いなのである。

2章.放射線影響科学と放射線防護学(保健物理学)の役割
「放射線影響科学領域ではUNSCEAR で評価され、報告書に引用されることが定説として定着することへの一つの過程であると言える」(p2)
 連名意見書は国連科学委員会(UNSCEAR)だけが「定説」を定める権利があり、その決定がすべてであるというのである。ところが現実はUNSCEARの正当性、公平性、信頼性そのものが問われているのである。UNSCEAR は、チェルノブイリでは甲状腺がん以外の被害を認めず、福島ではあらゆる健康被害を認めていない、集団線量は記載されているが現実の被害は無いことになっている。
 原発事故による被曝被害の拡大や科学者の努力により、被曝被害に関する科学は毎年進歩している。UNSCEARやICRPは国際的合意が達成されない新しい被曝の危険性は見送り、取り入れない立場である。彼らの言う「国際的合意」とは国際的に原子力を推進するグループの同意・承認である。例えば世界保健機関(WHO)でさえ、IAEAの許可なしには核被害の情報を公表できない取り決めがあるのである。この不当な制限の故に放射線被曝被害者を護り治療・介護する医者や科学者、被曝被害者たちと原子力推進派は国際的に鋭く対立しているのである。連名意見書は特に国連科学委員会報告書を権威として「国際的合意」としているが、UNCSEARは原発を推進するICRPとIAEA の影響下にあるのである。良心的な世界の人々はWHOのIAEAからの独立を求めている。
 被曝被害をめぐる対立の実態は次のようなものである。新しい危険性について合意に達しないように、ICRP委員や各国政府関係者の原子力推進派が反対し、合意を妨害して不一致を作り、新しい危険性の採用を妨げるのである。これは日本でもアスベストの規制や水俣病被害者の救済で見られたことである。
 崎山氏がリスクに取り入れを主張する非がん性疾患や低線量被曝の危険性について、なぜ連名意見書はリスクとして取り入れないのであろうか。心電図の異常や心臓死の増加が報告されているのである。ユーリ・I・バンダジェフスキー氏の報告をはじめとしてチェルノブイリ事故で「長寿命放射性核種人体取り込み症候群」として内部被曝の危険性が指摘されている5)。内部被曝は放射性微粒子が飛びかう汚染地への帰還に際して、また、関東、東北に居住する人の健康にとっても重大な問題である10)

3章.2種類の放射線健康影響と防護の目的
 連名意見書は言う。
 放射線防護・管理をあらかじめ計画できる平常状態(ICRP のいう「計画被ばく状況」)では防護・管理の目的は『組織反応(確定的影響)の回避と発がんリスク(確率的影響)の最小化』へと変化した。そして、防護の最適化過程に拘束値(dose constraints)を指標として『社会的、経済的要因を考慮に入れて、合理的に可能な限り(As Low as Reasonably Achievable:ALARA)被ばくを低減する原則が取り入れられた』。
線源や被ばく線量の制御が困難な事故などの非常事態(ICRP のいう緊急被ばく状況)となった場合は、防護・管理の目的を『重篤な組織反応(確定的影響)の回避と発がんリスク(確率的影響)の最小化』へとして、平常時よりも発がんリスクが高まることを容認せざるを得なくなる場合がある。事故などの非常事態が収束し、復旧が始まっても、平常時より環境の放射線量が高く直ちに平常時まで下げることが困難な場合(ICRP のいう現存被ばく状況)にあっても同様である。これらの場合には『線量限度(dose limits)』は適用せず、『参考レベル(reference levels)』を指標として、最適化(ALARA)を実践して、可及的速やかに平常に復帰する努力をする。ICRP は線量限度や、拘束値、参考レベルを危険と安全の境界とはみなしておらず、影響の段階的変化を示すものではないとしている。汚染地域に居住しながら、平常状態を目指して防護の最適化活動を実施することを意図している。事故後の非常時、復興期に平常時の公衆の線量限度である年間1 ミリシーベルトを超える地域に居住すべきでないとする崎山氏の主張には科学的根拠がない。崎山氏は、線量限度の意味を誤解しているものと思われる。(p5−6)
 人間の健康・生命の安全を基準としていないのでこのような議論ができる。しかし、年間1ミリシーベルトは過去の被曝被害の研究から被曝が危険であることから到達した値である。本来、健康のためにはもっと下げるべきであるが「社会的、経済的要因を考慮に入れて」というICRPの基準のために1ミリシーベルトにとどめられているのである。原発で言えば、経済的利益は電力会社にあるが、住民はただ、被曝被害を受けるのみであり、被ばく限度は、本来、0ミリシーベルトであるべきである。それより高い1ミリシーベルト以上のところに住むべきでないのは、人間の放射線に対する耐性が事故で変わらないのであるから科学的な結論である。崎山氏の主張は放射線科学者として当然である。むしろ、経済的利益を人間の健康や人権より上におくICRPのALARA原則は廃棄されるべきである。法令で定めた放射線管理区域(3か月で1.3ミリシーベルト、年間5.2ミリシーベルト、またはアルファ線を放出しない放射性同位元素 に対しては4Bq/cm2)以上の高汚染地域に子供や妊婦まで住まわせて連名者たちは平気なのか。私たちは、彼らの「汚染地域に居住しながら、平常状態を目指して防護の最適化活動を実施することを意図している」という言葉を忘れてはならない。これは連名者自身が、「平常状態」でない汚染地に人々を居住させたり、帰還させていると自覚しており、これから「平常状態」を目指すのであり、連名意見書によっても安全でないと考えているのは明白である。連名意見書は「平常時より環境の放射線量が高く直ちに平常時まで下げることが困難な場合」は現存被ばく状況として20ミリシーベルトの被曝を容認している。人間が住める環境でなければ避難して移住する必要がある。やむを得ず住み続けなければならないのは移住のための損害賠償や生活補償が十分でないからである。
 そもそも、連名意見書の言う「現存被ばく状況」を作ったのは原発を推進してきた東京電力と国である。これらの加害者が被害者に対して、20ミリシーベルトから、徐々に1ミリシーベルトに低減していけばよいといっているのである。一般常識では加害者が被害者に謝罪して、加害者の責任で安全な場所への移住とその生活を保障するのが当然である。

4章.低線量(100 ミリシーベルト以下)影響の不確実性とLNT モデルの意義
 連名意見書は言う。
現時点での国際的なコンセンサスは、100 ミリシーベルト以下の低線量域においては疫学データの不確かさが大きく、放射線によるリスクがあるとしても、放射線以外のリスクの影響に紛れてしまうほど小さいため、統計的に有意な発がん又はがん死亡リスクの増加を認めることができない、というものである。(p6)
 連名意見書は100ミリシーベルト以下の被曝についてのリスクの疫学的、科学的調査結果はないという立場である。国際的な疫学研究の進歩を無視している。次の?章で、あらゆる疫学研究に言いがかりや疑問を投げかけ、その成果を無視している連名意見書の立場は内外の多くの専門の科学者から批判が出ている。国連「健康に生きる権利」特別報告者アナンド・グローバー氏による日本への調査報告書(2012年)は「9.チェルノブイリ事故では甲状腺がんだけが増えたという欠陥の多い調査結果をよりどころにして、日本政府がそれ以外の健康影響が発生するはずがないという立場をとっていることは極めて遺憾である」と勧告している1,12)
 さらに、「48.日本政府は、国連特別報告者に対して、100mSv 未満では発癌の過度のリスクがないため、年間放射線量20mSv以下の居住地域に住むのは安全であると保証した。しかしながら、国際放射能防護委員会(ICRP)でさえ、発癌又は遺伝的疾患の発生が、約100mSv 以下の放射線量の増加に正比例するという科学的可能性を認めている。さらに、低線量放射線による長期被ばくの健康影響に関する疫学研究は、白血病のような非固形癌の過度の放射線リスクに閾値はないと結論付けている。固形癌に関する付加的な放射線リスクは、直線的線量反応関係により一生を通し増加し続ける」と日本政府の過ちを指摘している。

5章.崎山氏が取り上げる最近の論文についての専門家の論評
 この章では論文の信頼性の検討をするのであるが、崎山氏に対する反対尋問でも見られたが論文の構成や性格について連名意見書は誤解しているようである。閲読後掲載されるのは編集委員会が出版する価値があると認めた論文である。通常、論文の末尾になされるDiscussion は今後の検討が望ましい問題点に関することが多い。また、疑問点に答えるためにあえて疑問を提示し回答している。ということであって、肝心なことは疑問の提示は論文自体の結論を否定するものではない点である。以下の個々の論文批判もそうであるが、被告側がDiscussion が論文自体を否定する、ないしは結論が未定のように理解して原告証人を追求しているのは、論文についての無理解から生じる間違いである。私には自分では当否も重要度もわからないまま、何でも原告証人批判に利用するという批判の仕方に見えた。これでは自分たちの無知をさらけ出すのみならず、討論を経て真実を見出そうとする科学論争の裁判にはなじまない。

(1)小笹晃太郎ほか「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14 報(1950−2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要)」
最小の区切りが0−200ミリシーベルトでそれをとおるということは閾値0を示唆する。それ故、論文の要約でも閾値0が最もふさわしいと書いているのである(zero dose was the best estimate of the threshold.)。それに対して、連名意見書は
崎山氏は、LSS 第14 報の要約欄に「全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は0−0.2Gy(引用者注:1Gy=1000mGy(ミリグレイ)であり、0−0.2Gyは0−200mGy に相当。以下同じ。)であり、定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。」との記載があることなどを根拠に、「放射線に安全量はない"しきい値なし直線(LNT)モデル"が最も調査結果にあっている、ということである。」と指摘している。
しかし、崎山氏の指摘・主張は、以下に述べるとおり、明らかに平成26 年5 月20 日に行われた第6 回東京東力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議において、当該論文の執筆者である小笹晃太郎氏が説明しており、崎山氏のような解釈が誤りであると明確に述べている(専門家会議議事録26−31 ページ、同会議における小笹氏の提出資料参照)。
そこで同議事録の小笹氏の発言を見よう13)
「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被ばく放射線量に対して直線の線量反応関係を示し、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、リスクが有意となる線量域は0.20Gy以上であった」というのである。このように小笹氏は閾値ゼロを確認しており、崎山氏の引用と矛盾しない。ただ、リスクの95%信頼区間が有意であるのは200ミリシーベルト(mGy) 以上であるということである。つまり、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、0−200ミリシーベルト領域に延長するリスク直線が有意となる線量域は200mGy以上であったということである。閾値ゼロが最もふさわしいことには変わりがない。Prestonらの結果も100ミリシーベルトが閾値でないことを示している。住民にとって大事なのは線形かどうかではなく、低線量でも危険であるということである。

(2)テチャ川流域住民における放射線被ばくと固形がん死リスク(Krestinina L Y et al.)
確かに50ミリシーベルト付近では線形であるかどうかは不明だが、ここで示された図でも100ミリ以下でも影響があり、がんが被曝により増加していることを示している。低線量被曝の危険性を証明している。線形性のみを批判し、低線量被曝被害の増加を無視している。低線量では発症が遅く、特に長期間の観察が必要である。

(3)原子力産業の放射線作業従事者のがんのリスクに関する15 カ国共同研究:放射線に関連するがんリスクの推定(Cardis E et al.)
 確かにカナダの被曝線量測定に間違いがあったようである。しかし、この点については少し検討を要するかもしれない。AECL(カナダ原子力公社:Atomic Energy of Canada Limited)の被曝データでがんの発生率が異常に高いとされている。AECLはチョークリバー研究所を引き継いでCANDU炉開発を本格化させ、1962年にはオンタリオ州ロルフトンに2万kWのCANDU実証炉NPD(Nuclear Power Demonstration)を完成。1971年には商業用CANDU炉の第1号となるピッカリングA発電所1号機(54.2万kW)が営業運転を開始した(Wikipedia)。この様にAECLは重水炉に関与していた。重水炉はトリチウムの発生量が高いことはよく知られている。ロザリー・バーテル氏はトリチウムによる被曝がカナダに於けるがんの異常発生の原因である可能性を指摘している。
 次に述べる3ヶ国や日本の原子力発電所の労働者の正しい調査でも統計的に有意な被曝リスクが出ている。日本では10ミリシーベルトの被曝でがん死が有意に3%増加した(松崎「日本政府の4つの誤り」p19)1)

(4)仏英米3 カ国の労働者の後ろ向きコホート研究(INWORKS)
 連名意見書は
この論文については、放射線影響協会が2016 年1 月15 日付で見解を公表している
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/20160115_BMJ_inworks_paper.pdf)。そこでは、重要な交絡因子であると考えられる喫煙について当該論文が適切に調整を加えていないことや、INWORKS 調査の対象者に核実験や核兵器製造の業務に関わる者が含まれているために問題となる中性子被ばくの状況が適切に考慮されていない可能性があることへの懸念が示されている。当該論文の示唆する結果について、科学的な評価は定まっているとは言い難い。(p12)
と無視している。この連名意見書にある放射線影響研究所の評価及び原論文を読むと連名意見書の記述は論文を曲解しており、上記コメントは不適切であり、被曝基準としてとりいれることこそ科学者の責任である。
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/20160115_BMJ_inworks_paper.pdf#search=%27%EF%BC%88http%3A%2F%2Fwww.rea.or.jp%2Fire%2Fpdf%2F20160115_BMJ_inworks_paper.pdf%EF%BC%89%27
 同研究所は次のように解説している。
INWORKS論文の要旨と主張(原論文の要旨の和訳)
 「放射線被ばく線量が増えるに応じてがん死亡リスクは直線的に有意に増加することが観測され、白血病を除くがん死亡リスクは1Gy当たり48%の増加(ERR/Gy=0.48)、固形がん死亡リスクは1Gy当たり47%の増加(ERR/Gy=0.47)であった。仏、英、米3カ国間でがん死亡リスクに有意な違いはない。0-100mGyの線量域に限ってがん死亡リスクをみても全体の線量域のリスクと同じ大きさである。
 交絡の可能性のある喫煙や職業上のアスベスト曝露の交絡については、間接的な方法で検討したが、喫煙や職業上のアスベスト曝露による交絡ががん死亡リスクに影響を与えているとは思われない。
 今回の放射線業務従事者を対象とするINWORKS調査によって、慢性低線量被ばくによる固形がん死亡のリスクが直接的に観察でき、本調査から、低線量率被ばくにおいても、高線量率被ばくである原爆被ばく者で観測されるリスクと同じ傾きであることが示された。
 これがINWORKS論文の主たる結論である
」。
この論文は次の図1に示すように低線量まで同じ傾斜で被曝線量にリスクが比例している。調査人数約30万人、精度を含め素晴らしい研究である。この国際的な研究に対して日本の「専門家」は異論があるようである。それは次のようなものである。
 (1)喫煙の交絡について
低線量率放射線被ばくの健康影響をみる上では、放射線以外の要因による交絡を如何に制御できるかが重要である。特に、我々の疫学調査と同様にINWORKS調査も対象の属性をコントロールできない観察研究であることから、放射線被ばくとの関連が見かけ上の関連に陥っていないかに充分注意を払わなくてはいけない。
この点に関しては、INWORKS論文の著者らも注意を払い、考えられる交絡要因を調整しつつ解析を進めている。しかしながら、INWORKS調査においては、どのように交絡要因を調整しようとも、がん死亡リスクに大きな違いを与えていない。また、3カ国別にみても、あるいはその国の中で原子力施設の違いや、社会経済状況である職種や従事期間を調整しても、がん死亡リスクは殆ど同じ値を示し、3カ国を統合したと雖も本対象集団の同質性が強調されている。すなわち、交絡要因の調整は死亡リスクに影響を与えない。
これは、日本の放射線業務従事者における調査とは全く異なっている。
重要な交絡要因であると考えられる喫煙については、INWORKS調査では喫煙情報が個人毎に把握されていないこともあり、がん死亡を説明するモデルの説明変数に喫煙を加えるという直接的な方法ではなく、がん死亡から喫煙に関連するがんを除くという従属変数の操作による間接的な手法で喫煙の交絡を議論している。そこで、喫煙に強く関連する肺がんを除いて解析したとしてもがん死亡リスクに変化はないことから、著者らは、本調査集団に喫煙の交絡はないであろうとしている。
このような間接的方法は、我々も第V期調査の解析で用いたが、日本のケースでは、がん死亡リスクは大きく低下し、かつ、有意ではなくなったことから、喫煙が交絡している可能性を強く示唆している。さらに、喫煙情報を個人毎に把握している一部集団について、喫煙の交絡を直接的な方法で調整すると、がん死亡リスクは大きく変化することが定量的に確認された。
以上から、3ヶ国では「肺がんを除いても死亡リスクに変化がない」が日本の場合は「大きく低下」したという。日本の労働者は喫煙者が多いのではないかと思われる。しかし、この違いにもかかわらず、連名意見書は3ヶ国も交絡と決めつけ、「当該論文の示唆する結果について、科学的な評価は定まっているとは言い難い」と切り捨てるのである。こうして低線量まで被曝リスクを示した調査・証明はないというのである。
 連名意見書は喫煙の交絡の疑問を提示するだけで、それ以上検討していないが松崎道幸氏は彼らの間違いを次のように指摘している。
 文科省が行った日本の原発労働者約30万人の調査で平均10.9年の追跡期間で1人平均13.3mSv 被曝し、がん死リスクが4%増えた。10mSv あたりにすると3%である。日本の調査で100mSv被曝群は10mSv 未満被曝群より30%以上肺がん死が高いが、この差を喫煙率の差では説明できない。100mSv被曝群は喫煙率54%、10mSv 未満群では44%の喫煙率であり、喫煙率の10%の差で30%の肺がん死のリスクの差は説明できない。(以上は松崎道幸氏の考察である)1)
 いずれにせよこの論文は次の図1に示すように低線量まで同じ傾斜で被曝線量にがん死リスクが比例している。また中性子による被曝が10%以上になる労働者は除いている。


図1 3ヶ国の原発労働者の被曝量とがん死の相対リスク


(5)核施設労働者の白血病、リンフォーマによる死亡と放射線被ばく
−国際コホート研究−(INWORKS)(Leuraud K. et al.)

 連名意見書は言う。
更に統計解析での問題点を挙げれば、動物実験結果から、線量率を下げると同じ総線量であっても放射線誘発白血病やがんのリスクは小さくなることが分かっている。この点、当該研究のコホートでは、たとえば、年間平均3mGy で40 年従事した作業員と、年間平均12mGy で10 年間従事した作業員と、1 年間だけ50mGy 被ばくし、その他の35 年間は年間2mGy の被ばくであった作業者がいたとしても、それらはすべて果積線量120mGy として扱われる。実際、累積線量が高い作業員は、核開発初期に従事していた作業員である。生物学的には、これらの異なった被ばく状況は異なる影響を来すと推測されるため、作業者の解析においても、累積総線量だけでなく、線量率を用いた解析をも行う必要があるが、この論文ではそのような解析は行われていない。したがって、この論文をもって、100mSv以下で発がん又はがん死亡リスクの増加があることが実証されたとか、LNT モデルの成立が実証されたとは言い難い。(p13)

論文は3ヶ国核施設労働者の白血病死が被曝量に比例し、500mGy 以下で1Gy当たり2.96倍(90%CI:1.17−5.21)になることを示している。300mGy以下でも、100mGy 以下でもほぼ同じ傾きの直線に載る。ただ、100mGy 以下のデータの誤差の下限が1より小さいことを持って統計精度がよくないことを批判しているのである。むしろ、3直線が一致して低線量まで被曝の危険性を示していることが重要で、崎山氏の指摘のように、100 ミリシーベルト以下でも「死亡リスクが増加した」のである。総被曝量が同じ時、むしろ、低線量で長期の被曝の方が短期間での高線量被曝より危険であることがペトカウ効果と呼ばれて知られている14,15)。ペトカウ効果によれば、放射線によって発生した活性酸素が細胞膜やミトコンドリアを連鎖的に破壊する間接的な放射線の効果の重要性が指摘されている9,10)。このように連名意見書の線量率に関する見解は時代遅れになっている。

(6)イギリス高線量地域における小児白血病(Kendall GM et al.)
自然放射線被曝が5ミリシーベルトを超えると子どもの白血病が1ミリシーベルトごとに12%増加した。この場合5ミリシーベルトでも相対リスクの下限が1を超え、統計的に有意である。連名意見書は仕方がないので、これも細かい揚げ足取りで疑問を投げているだけである。交絡因子や線量の不確定さを挙げている。

(7)バックグラウンド電離放射線と小児がんのリスク:スイスの国勢調査ベースの全国コホート研究(Spycher et al.)
 連名意見書は
このTable2 にあるとおり、全がん、白血病、のハザード比が有意に増加したのは居住地の放射線レベルが200nSv/hr 以上の子ども(1nSv(ナノシーベルト)=100 万分の1 ミリシーベルト=10 億分の1 シーベルト)、また他の腫瘍については150nSv/hr 以上200nSv/hr未満の子どもであった。年間の被ばく線量1mSv は、線量率に換算すると114nSv/hr に対応するから、「この論文で初めて1mSv という低線量でも有意にがんが増加することが疫学調査で示された。」という崎山氏の指摘(京都地裁に対する崎山意見書17 ページ5−7 行)は正しくない。
といっている。つまり、1ミリシーベルトは114nSv/hrに対応するから150nSv/hrや200nSv/hrでは正しくないというのである。このような姿勢なのである。崎山氏が「約」とつけておけばよったかもしれないが調査は100 nSv/hrからされており、1ミリシーベルトのオーダーまで示されたと危険性の精度に感服するのが科学者であろう。このような細かいことを重要視する科学者には決して放射線被曝の全体像は見えないであろう。科学的判断とは総合的な判断であり、危険性を各専門家に分担して考察していては見えないのである。
 また、彼らは自分たちの都合でリスク評価を使い分けている。例えば「低線量被曝リスク管理に関するワーキンググループ報告書」では木造家屋の遮蔽を考慮に入れ、毎時190nSv/hを年間1ミリシーベルトとしている(同報告p14、また「放射線リスクに関する基礎的情報」でも同じ値)。20ミリシーベルト以下として帰還を進める時は空間線量3.8μSv(3,800nSv)/hを20ミリシーベルト/hとしているのである。このような子供じみた口先の議論で本当に国民の安全と健康は守れるのだろうか。

(8)医療放射線被ばくの健康影響
連名意見書はCT検査の結果がんが増加したのを否定するために問題点を挙げている。イギリスのCT検査では素因となる基礎疾患を有する患者ではCT 検査の回数が多く、被ばく線量も多かったためだという。しかし オーストラリアではほとんど大部分80%が1回のCTである。照射した以外の場所にがんが発生したことを問題にしているが人体の免疫や内分泌系のつながりなど人体を有機的な統一物、生体として理解していない。非科学的態度である。オーストラリアの研究はCT検査を受けた68万人と受けなかった1026万人のがん発症率を比較したものである。検査1回の被曝量は推計4.5mSv、発症率は1回当たり1.24倍であった。精度の高い調査である。また、検査部位と発がん部位との関係をさけるため、CTが最も多く取られた(約60%)脳腫瘍を除いたり、CT検査後の潜伏期間として、1年、5年10年を仮定して解析しているが、リスクに関する結果に基本的な変化はなかった。
イギリスのCT検査による白血病の増加について連名意見書は言う。
「崎山意見書には、『白血病罹患率についての過剰相対リスクは0.036/mGy(1mGy被ばくすると白血病罹患率が1.036 倍)であり、脳腫瘍罹患率については、過剰相対リスクは0.023/mGy(1mGy の被ばくで脳腫瘍の罹患率が1.023 倍)であった。』との記述がある。原論文に過剰相対リスクが0.036/mGy などと記載されているのは事実であるが、これは、「LNT モデルを仮定すると白血病罹患率が1mGy 当たり3.6%増加する」という意味である。『1mGy 被ばくすると白血病羅患率が1.036 倍』という記述は、あたかも1mGy という低線量の被ばくで白血病罹患率が増加するかのような印象を与えかねないが、意味が異なる。
意味は異ならない。オーストラリアの調査でCT1回当たり、4.5mGy の被曝でがんが増加した。発がんの機構を考えれば1回当たり1mGyでも罹患率は増加すると考えるのが自然である。

6章.高自然放射線地域住民の疫学調査
 「放射線必須データ32」田中司朗他、創元社 p123によればケララ州の疫学調査のp値が0.5以上であり、関連はないといっている。筆者中村清一氏は「生涯線量の推定には比較的大きな誤差を伴う可能性がある。経済的発展に伴い住民の移動がおおきくなりつつあることを問題点」としている。一方、同書で37ページに松田尚樹氏が「高レベル自然放射線地域住民の染色体異常」を報告し、「高レベルの自然放射線地域(外部線量は2.74から4.44mGy /年)住民では、年齢の増加に伴って、血中リンパ球における二動原体染色体及び環状染色体の存在率が増える傾向にある」。高レベルの自然放射地域ではこの染色体異常と年齢の相関係数が0.74であるが対照地域では0.21であった16)
 市川定夫氏も土地の自然放射能がムラサキツユクサの突然変異を誘発することを確認している4)。放射線の影響がないことを証明するためには被曝の実態を正しく反映できる適切な疫学調査が必要である。後述のOhiraたちの論文の不検出の結果は適切でない分割のためである。ケララ州のがんも地域分割と統計精度の誤差が危惧される。

7章.福島県「県民健康調査」について
(1) 小児甲状腺がん
 連名意見書は
津田論文は、県民健康調査の公表された一部の途中結果のみを利用し、誤って解釈した結果、福島県立医大における外部被ばく線量と甲状腺がんの地域別関連性を精微に解析した最新の論文とは異なる結論を得ている。同論文では甲状腺がんと放射線被ばくの因果関係を示唆する所見は得られていない(Ohira T et al. Medicine,2016)。
として放射線被曝の甲状腺がん発生への寄与を否定している。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5008539/h/articles/PMC5008539/
 この点については津田敏秀氏が岩波の『科学』2017年2月号p0124で外部比較に比べ、違いが小さい内部比較によるOhira論文こそ根拠がないと批判している。私もOhira氏たちの論文を見たが、福島県の地域の分割が3つと少なく、差が出にくくなっている。しかも汚染度の最も高い地域の調査対象人数が4192人、甲状腺がん患者数は2人と少なく統計誤差が大きくなる分割となっている。これでは全体のサンプル数が30万人と多くても、「精微」と言われても、正しい結果は出ないのも納得できる。連名者の一人柴田義貞氏の言う悪い疫学の例である。さらに観測年が低汚染地域ほど遅いので、汚染度と観測期間とが患者発生数の違いを相殺する方向に働いている。大きな差が出ない解析であるように見える。大平氏は津田氏達の内部比較が2.6倍なのに外部被曝が30倍では大きく食い違うという。そもそも大平論文で福島原発事故による被曝量が小さいというのは根本的な誤りである。国際的に信頼性があるストールたちの研究はセシウムの福島の放出量は37ペタベクレル(10の15乗Bq)としており、ヨウ素ではセシウムの50倍の2000ペタベクレル以上の放出と考えられる。
 結果が出ない分割は線量分布など事故の本質を理解しない解析となっているからである。連名意見書がOhira論文を津田論文と同等に扱っていること自体、連名者の見識が問われるものである。疫学「専門家」の柴田氏はどう考えているのだろうか。まさに対象人数を増やしたから正しいとは言えない例であるのに、「精微」な解析という科学者がいるだろうか。それに比べ原告証人崎山氏や津田氏の大平論文に対する批判は謙虚である。
 小児甲状腺がんの発症はどのくらいの期間で起こるのか。以下の図2は松崎道幸医師がチェルノブイリ事故によるベラルーシの子供の甲状腺がんについて作られた図である。高年齢の子どもたちに被曝後早くがんが発生し、0歳で被曝した子は約7年後に最も多く小児甲状腺がんが発生している。10歳近くで被曝した高年齢の子どもの方に被曝後がんが早く発生するのはがんの発生の機構が関係しているようである。この点は後に詳しく説明する。がんが0歳時に発生してがんと認められるのに7年かかるとしても10歳で被曝した子はすでに小さながんがあり、がんを抑制する免疫等のシステムが放射線で壊されたり、放射線でがんの成長が促進されたりするとがんが発症するようである。この時、がんの潜伏期間や有病期間をどう定義するかということが問題となる。
 最近の分子生物学では、がんの発生から進展の全体像が明らかになりつつあるということである。
 ICRP2007年勧告も指摘しているが、がんの発生と進展の多段階性が主張されている。
(1)イニシエーション(前腫瘍状態)
(2)プロモーション(前腫瘍状態の細胞の増殖と発達)
(3)悪性転化(がん化)
(4)プログレッション(進行の加速と浸潤性の獲得)
 最近の研究の重要なポイントは遺伝子及びエピゲノム及び染色体の変異・欠失が蓄積していく点、この蓄積は前がん病変段階でも、がん化でも、がん悪性化でも同じである。そして放射線は直接、あるいは活性酸素を通じて間接的に各段階でがん化を促進する。
 例えば膵臓がんであるが、日常では発見されてから半年位で半分が亡くなる進行・増殖が早いがんと考えられてきたが、実は遺伝子異常の発生から非転移性の原発性膵がん誕生まで11.7年が必要だそうである。
 以上の考察から言えることは、放射線の影響があるかないかの二者択一の問題の捉え方は一面的であることである。甲状腺がんの発生・成長の各段階で放射線ががんの発症を促進すると考えるべきである。それ故、福島県をはじめとして子どもの甲状腺がんが著しく多発したのである。


図2 被曝時年齢と甲状腺がん発見期間
0歳の子供だと平均潜伏期間は7年位、がんが発生してから認定されてから手術までの期間4年位でしょうか。

 福島県の小児甲状腺がんに関して、2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な分析を行い罹患率の計算を行った。そして「3地域の罹患率の比較」を行った17)

3地域の罹患率の比較 ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値


「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。

原発が甲状腺がん増加の原因であることの証拠
 図3は医療問題研究会の山本英彦医師による福島原発からの距離と先行検査の小児がん発生率の関係を示している(危険率p=0.002)18)。原発に近いほど発症率が高く、小児甲状腺がんの原因が福島原発事故にあることを明確に示している。

3地域の罹患率の比較 ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値

図3 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)

ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測
 さらに「子供の甲状腺がんの発生の原因が福島原発の放出放射性物質でない」という連名意見書の誤りを示す議論を追加する。
「ICRP被曝リスクモデルで福島での甲状腺がんの発生数を予測してみる」
市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
http://blog.torikaesu.net/?eid=55
 渡辺氏はICRP被曝リスクモデルを用いて、アメリカ国防総省の甲状腺被曝量の推計等を基に、福島での甲状腺がんの発生数を予測している。その結果によれば事故時に0歳から18歳であった福島県の子供30万人について、甲状腺がんの過剰発生数の予測値は、次のとおりである。最大値には朝日新聞に基づく補正値を採用している。
(1)ICRPリスクモデルで54〜1111人(生涯期間)
(2)ECRR補正後で2160〜4万4440人(生涯期間)
(3)現在までの5年間で123〜2539人
 この渡辺氏のICRPに基づく計算も子どもの甲状腺がんは福島原発事故で多数発生していることを示している

(2) 住民の放射線被ばく線量の現状
 連名意見書は住民の被曝量を推計しているが著しい過小評価がある。①通常の測定ではガンマ線のみでアルファ線,ベータ線が測れない。②ガラスバッジによる個人線量計は面に垂直な特定の方向しか検出しない。そのため数分の1の小さな数値しか出ない。③初期のヨウ素の放出量について正確な値はわからないが、国は過小評価している。④国のモニタリングポストが放射線量を半分近くの値に過小評価する。⑤放射性微粒子による内部被曝が特に危険である。
 ガラスバッジに関してその測定の誤りが指摘されている。連名意見書は次のように言っている。
個人線量計を装着して個人モニターが可能になってからの線量計側では、空間線量と行動から推定する被ばく線量よりも低い傾向が見られた (p20)




 ガラスバッジを用いた被曝線量測定は疑問が出されている。 黒川眞一氏は早野龍五氏達のガラスバッジの精度やバックグラウンドなどのデータ処理について疑問を提出している 19)。 その結果、宮崎・早野論文の信頼性が問われている。
 河野益近氏も「法的に言えば、正しく1cm線量当量を測定できていないのは問題です。私は、個人被ばくうんぬんではなく、法令にのっとっていない測定結果が住民に示
されていることが問題だと思っています。きちんとした1cm線量当量が示されていれば、後日、個人情報(身長など)をもとに実効線量を計算することが可能です」。
 法令で定められた1囘量を測定すべきであるが、ガラスバッジの数値との関係が具体的に説明されておらず、正確な被曝線量が測定できるとは思われない。「オフィシャルには法令に適合した測定結果かどうかだと思いますJIS規格では前方方向からの放射線で校正されているため、業者が測定した人体による遮蔽効果を含んだガラスバッジの結果をもとにするのであれば、 議論が成り立たなくなります。議論、特に裁判での議論では、法令を基にして正しいかどうかが争われるべきだと思います」と述べている。(私信)
 さらに宮崎・早野論文には重大な誤りがある20,21)。同論文の第一式において、個々人の空間線量値に対するガラスバッジの線量値の比を取り、その比率を全市民について平均をとっている。数学では比率を平均することができない。この場合は被曝線量の重みをかけて平均しなければならない。それ故、一連の宮崎・早野論文は出発点から誤っている。正しくはガラスバッジで測った集団線量と空間線量から求めた集団線量を比較しなければならない20)。それ故、連名意見書の主張の根拠がなくなった。ガラスバッジメーカーのアドバイザーである柴田徳思氏はガラスバッジの欠陥や解析の誤りについて知らなかったのだろうか。

8章.福島原発事故における国の避難/帰還基準(年間20 ミリシーベルト)の妥当性
日本では、年間20 ミリシーベルトの低線量被ばくとその健康影響や、20 ミリシーベルトを避難指示の基準とすることの合理性等について、平成23 年11 月から同年12 月にかけて行われた低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループにおいて専門家を交えて議論された。その結果、「国際的な合意に基づく科学的知見」によれば、「放射線による発がんリスクの増加は、100 ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。」「現在の避難指示の基準である年間20 ミリシーベルトの被ばくによる健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。」「年間20 ミリシーベルトという数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切である」。とする見解が報告書にまとめられている。この見解は現在でも正しく、有効である。(p20−21)
 このように連名意見書では根拠を示さず、ワーキンググループの結論をそのまま引用している。崎山氏の疫学調査を用いた「数ミリシーベルトの低線量の被曝も危険である」とする主張に対する反論がほとんどなされていない。5章で見たように低線量被曝の精密な論文に根拠のない疑問を提示しているだけである。全体として低線量被曝が数ミリシーベルトまで危険であることが疫学調査で示されている。これが被曝の科学の大きな流れであることが理解される。如何にこじつけようと科学の進歩を止めることはできない。低線量被曝のデータや低線量被曝の総合報告が発表されている。事故以前の被曝基準が年間1mSvであり、人間が事故後も放射能耐性を持たないのであるから、おなじ1mSv が危険であることには変わりはない。年間20mSv にするのは経済的理由である。事故に責任のない一般住民には被曝被害に見合う経済的利益は皆無である。だからICRPの原則リスク・ベネフィット論からしても一般公衆の基準は本来0mSvであるべきである。それ故、加害者は避難を保障し、賠償をすべきである。
 さらに最近の被曝の科学の進歩に関して付け加えると、遺伝子解析によると被曝によってがんを発生したり、がん抑制機能を失うなど結果としてがんを促進する遺伝子が発見され、それが蓄積することである。このような危険な遺伝子を持つ人が1〜6%存在するといわれ、その人たちにとって安全な線量はないということである。

おわりに
 連名意見書は最後に次のように言う。
福島原発事故以後、我が国では、国際機関で合意されている低線量放射線影響の科学的常識から外れて、低線量放射線健康影響のリスクが大きいとみなすごく一部の「専門家」の影響で、必要以上に被ばくを怖れ、不安にかられている人々が大勢でたことは、今こそ推進すべき福島の復興を阻害する不幸な事態である。『崎山意見書』で主張されている内容の多くは、正に不必要に低線量被ばくを危険視するもので、良識ある専門家には受け入れられないものである。
我が国の訴訟において、国際的に合意の得られている範囲を超えて、低線量放射線の被ばくに健康影響があるとの判断がなされることがあれば、福島の復興が遅れ、コミュニティの再建に大きな影響を及ぼす。これは被災地住民の希望に反することである。加えて、健康影響に関する国民の不安感が益々増大し、患者の診療に不可欠な医療放射線の利用に対してまで不安感が広まり、また、放射線防護・管理その他の規制の根拠が損なわれるなど、社会の多方面にわたり多大な悪影響が及ぼされることになる。低線量被ばくに関する科学的検証に基づく国際的な合意の内容をふまえた、適切な判断がなされるよう望む。(p21)
 この言葉が正当で国民にとって正しい判断であるためには「国際機関で合意されている低線量放射線影響の科学的常識」が正しいことが前提である。しかし、以上みてきたように最近の科学の進歩から大きく取り残された被曝被害を過小に評価する誤った見解である。これが日本の一流の科学者たちの結論であるとすれば科学に対する国民の信頼は全くなくなってしまうであろう。
 特に放射性微粒子による内部被曝とその被曝による活性酸素を通じた様々な健康破壊が増加しているのである。これがチェルノブイリで発見され、福島で不幸にも再現されつつある悲劇の実態である。
 ここで言う「国際機関で合意されている科学的常識」とはなんであろうか。「良識ある科学者とは」誰であろう。起こっている現実の被害を隠蔽し、被害者を見捨てる連名意見書の科学者である。ここでの「低線量被曝に関する国際的合意」とは低線量被曝の切り捨てであり、内部被曝の無視であり、被害者を放置することである。原発を推進して被害を及ぼした加害者が被害者に向かって、「国際的に合意の得られている範囲を超えて、低線量放射線の被ばくに健康影響があるとの判断がなされることがあれば、福島の復興が遅れ」、不安が増すというのである。
 まさに連名意見書は先に引用したグロジンスキー教授の言うとおりの原子力推進派の国際的主張である。確かに被告国側の代理人はヤブロコフたちの本を「絶版だ」と騒いでいた。血のにじむような苦労で集められた被害報告に対するなんという無知であろうか。傲慢さであろうか。ニューヨーク・アカデミーの編集者の報告をネットで見た人は私のように多くいたはずであり、貴重な報告として敬意を払っている。
 連名意見書提出者たちは特定の原子力推進に関係する利害に捕らわれ、時代の進歩に取り残され、客観的な判断力を失った人たちなのである。
 また、実際の裁判を傍聴して感じるのは被害の現状を訴え、その救済を切々として訴える被災者に対する東電や国側の非情な人権無視の態度である。大量殺人にも匹敵する事態を引き起こしながら、誠実な考察や答弁を一切行わない現状は人権としても許すことができない。

謝辞
多くの人に議論していただき、様々な考えがあることを教えていただきました。真剣に議論につきあってくださった方々に感謝します。特に高木伸、黒川眞一、河野益近、渡辺悦司、片岡光男、荻野晃也、宗川吉汪、大見哲巨、遠藤順子、児玉順一の諸氏にお世話になりました。

参考文献
1)『福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り』澤田昭二他、旬報社、2014年
2)『放射線被曝の歴史』中川保雄 技術と人間 1991年、同増補版、明石書店、2011年
3)『チェルノブイリ被害の全貌』ヤボロコフ他著、星川淳他訳、2,013年
4)新・環境学III −有害人工化合物/原子力−市川定夫著 藤原書店2008年
5)放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響−チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ− ユーリ・I・バンダジェフスキー著 久保田護訳 合同出版2011年
6)放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響―チェルノブイリ原発事故その人口「損失」の現実― ユーリ・I・バンダジェフスキー/N・F・ドウボバヤ著 久保田護訳 合同出版 2013年
7)未来世代への「戦争」が始まっている−ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ― 綿貫礼子、吉田由布子著 岩波書店 2005年
8)放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 綿貫礼子編、吉田由布子、二神淑子、リュドミラ・サアキャン著 新評論 2012年
9)原発問題の争点−内部被曝・地震・東電− 大和田幸嗣、橋本眞佐男、山田耕作、渡辺悦司著 緑風出版 2012年
10)放射線被曝の争点−福島原発事故の被害は無いのか― 渡辺悦司、遠藤順子、山田耕作著 緑風出版 2016年 
11)低線量汚染地域からの報告−チェルノブイリ26年後の健康被害− 馬場朝子、山内太郎著 NHK出版 2012年 
12) 国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏・日本への調査 ( 2012年11月15日から26日) に関する調査報告書
http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2015/11/130627-Anand-Grovers-Report-to-the-UNHRC-japanese.pdf
または
http://www.foejapan.org/energy/news/pdf/130703.pdf#search=%27%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%27
13)東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 第6回議事録http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-06b.html
14)ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス著、竹野内真理訳『人間と環境への低レベル放射線の脅威』あけび書房、2,011年
15)ペトカウ効果から学んだ低線量内部被曝の話 児玉順一著 アヒンサ―第6号 2016年
16)『放射線必須データ32』田中司朗他、創元社 
17)『福島甲状腺がんの被ばく発症』宗川吉汪、文理閣 2017年
18)「福島原発からの距離と甲状腺がんの関係」山本英彦、医療問題ニュース No.485 
19) 記事の紹介 A.週刊金曜日6月30日号 B.ガラスバッジに関してhttp://blog.torikaesu.net/?eid=63
20)宮崎・早野論文には単純な数学の誤りがある―比率を平均しているhttp://blog.torikaesu.net/?eid=65
21)宮崎・早野論文
 http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1/pdf

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